「ミラハ、辛くなったらいつでも帰ってきていいからな?」
「……お父様、大丈夫です。その話、もう5回目ですよ。セレネムもいるので大丈夫です」
「そうですよ、あなた。ミラハはもう15です。心配しすぎです」
はい。
私ももう15歳になりました。
時が経つのは早いね。
前世を思い出したのが7歳の頃だから、あの時からすでに7~8年が過ぎている。
そんなにも年数が経ったが、その間に私がしていたことは特に変わりが無い。剣や魔法を鍛える日々。いやもうね、訓練が楽しくて仕方なくてね。
私はどうやら魔法の才能が割と有る方らしい。ゲームのミラハもちゃんと訓練とかしていればもっと強いキャラだったんだろうな。決して剣術魔法どちらも成績微妙娘ではなかったはずだ。
魔法に対して剣の才能はあまり無さそうなので、剣の訓練は最近少しサボリ気味。……だって、魔法のほうが楽しいんだもん。前世に魔法なんてなかったからね。別に剣も出来ないわけではないが、10段階評価をするならばおそらく5~6くらいだろう。それに、剣を振り回していると間違って自分を切ってしまいそうで怖いよ。あんまり剣使いたくない。
最初の頃の魔法の訓練は、先生に横についてもらいながら練習して、木や岩に魔法を放ったりという訓練をした。次のステップは魔物を実際に倒す訓練。我がフレイグル家は領地の中にダンジョンを保有しているので練習ははかどりまくりだった。さすがフレイグル家。
まあ、ダンジョンが有ると言っても、ダンジョンの場所がフレイグル家の領地の端っこの方で、かつ道もあまり整備されていないようなところなので、他の人はほとんど見かけたことがない。実質私専用のダンジョンと化していた。
そのダンジョンは闇属性の魔物が多く生息していて、光属性が使えるとかなり攻略が楽なのだが、光属性保有者はかなり希少らしいし、私も使えない。ので、私は得意の闇魔法でゴリ押しした。
このダンジョンは空間が闇属性の魔素で満たされているので、闇属性使いの私もすこぶる調子よく魔法を使うことが出来て爽快感MAXだ。
人より魔力が割と多い私は、魔力に物を言わせて全力ブッパ。
とどのつまり、どこかの大魔王様みたいに「今のはメ○ゾーマではない…… メ○だ」的な感じで魔力に物を言わせたゴリゴリ脳筋戦法だ。
そんな日々を7年間。
当然、私は強くなることが出来た。
まあ、そんなこと言ってても、主人公や攻略対象キャラのように魔王様を倒せるくらい強いわけではないと思うので
それに、他の人達がどの程度のレベルなのか知らないが、結局レベルなんてあくまで目安でしかない。
ポケモ○でもレベル1でレベル100倒すなんて普通にできるし、結局は戦闘経験が物を言う。
まあ、でも……
うん。とりあえずそんなに簡単に死んでしまうこともないだろう。
私の目標は生きること。
別に勇者になるでも、魔王になるでもない。
その点で言えば、断罪イベントや処刑イベント
あとは学園生活を平和に暮らすだけだ。
「ではお父様、お母様、お兄様。行ってまいります」
悪人顔でガチ泣きしているという、父上の極めて
まじで父上はなんであんなにも悪人顔なんですかね……? 兄上はめちゃくちゃ女たらしの甘いマスクなのに。母上も恐ろしい美人さんなだけなのに。……まあ、どちらにしても、父上も兄上も母上も、皆あまりいい噂はされてないらしいけど。
そういえば、今回、ゲームの舞台であるアルタリト学院に入学するのは私だけではない。同い年の侍女セレネムも私と一緒に入学する。
アルタリト学院は王立の学院で、貴族の入学が6,7割くらいを占めるので、生徒一人ひとりにメイドがあてがわれ身の回りの世話をしてもらえる。なので、セレネムが入学するのも、別に私の世話をするためではない。セレネムも普通に学生として入学する。
セレネムは昔から私の遊び相手にもなってくれたりしているので、今回一緒に入学できるのはかなり心強い。なんていうか、セレネムは私の中ではもう家族なので、姉妹と一緒に入学できるみたいでワクワクする。
最近セレネムは父上から色々と仕事を任されていたみたいであまり会う機会がなかったけれど、これから学院生活中は頻繁にあうことができるぞ! やったね。
「セレネム、王都まではどれくらいだったかしら?」
馬車の隣に座る侍女のセレネムにちらっと聞いてみる。
改めてセレネムを見てみると…… 成長したな。お姉さん嬉しいよ。
あんなにも小さかったセレネムも、今じゃ私よりも背が高いし、おっぱいも大きいし、美人だし、おっぱいも大きいし。 ていうか、おっぱい大きくない? 私別に無乳じゃないけれど控えめなんだが? そのおっぱいで侍女は無理があろうと思われます。そのおっぱいにダイブするぞこんちくしょう。
「だいたい2日ほどでございます。安心してください、道中通る町で宿も可能な限り最高級のものを抑えておりますし、道中モンスターが現れても雇った冒険者がたちどころに成敗してくれることでしょう。
もちろん、御者も冒険者もすべて女性です。お嬢様の寝込みを襲うような輩は居りません。
私がお嬢様の身を守るため一緒に寝ることも可能です。いえ、むしろそうしましょう。そのほうが安全です!!!」
「あら、昔みたいに一緒に寝られるのね! ふふ、なんだか子供に戻ったみたい」
うんうん、小さい頃はセレネムと一緒によく寝たなぁ。セレネムは意外と雷が怖いとか、幽霊が怖いとかで私によくよしよしされてましたねぇ。あの頃と違って私より背が高いセレネムだけど、そこらへんはまだ変わってないかもね。
拳をギュッと握りしめ、そんなに鼻息をふんすふんすってさせて、よっぽど護衛に気合が入っているらしい。しばらく見ない間に立派な使用人になってくれた。親戚の子の成長を見るようでお姉さん涙がちょちょ切れそうだよ。
……そういえば今世の私は女なんだよなぁ。
家の中はもちろん安全だし、フレイグル家の領地も安全だったから特に意識したことはなかったけれど、寝込みを襲ってくるような男も世の中にはいるだろう。野盗とかもいると思うし、私もちゃんと意識したほうが良いかもしれない。
さすがに無理やり犯されるとか嫌ですし。
まあ、無理やりじゃなくても男にそういったことされるのは…… どうなんだろう?
うーん、前世は男で今世は女。
だいぶ女の身体に考えもひっぱられているような気はするけれど、恋愛対象はどっちなのか未だに分からんな。まあ、別に恋愛したいわけじゃないし、これから恋愛したくなったら考えればいいや。
「ああ、お嬢様と一緒に寝られる……! これだけでも学院に入学する役得が有るというものです…!」
セレネムはよっぽど一緒に寝られるのが嬉しいらしい。ふっふっふー、セレネムってばそんなに美人で大人っぽくなっても中身はまだまだ子供のままだなぁ? まあ私も前世と今世あわせたら結構な年齢だけど、素直に嬉しいよ。
王都につくまであと2日か。
やっぱりフレイグル家に帰れるのは長期休暇のときくらいなんだろうな。他の貴族も自分の領地からだとこれくらい日数はかかるだろう。だからこそ学院は全寮制なのだが。
のんびり王都につくまで待つとしよう。セレネムとおしゃべりしながら。……もしかしてこれが噂に名高いガールズトークなのか!?!
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フレイグル領を出て1日目の夜。
小さな宿場町でミラハたちは予定通り宿で休む。
出立したときにセレネムと約束したとおり、ミラハとセレネムは同じ部屋で眠ることになった。
ミラハは慣れない旅路で疲れ果ててすぐに眠ってしまったが、そんなミラハをセレネムは愛おしそうに見ていた。
「ああ、お嬢様。可愛い可愛いお嬢様。
お可愛いお顔立ちでやはり寝顔もお可愛い……」
セレネムは眠るミラハの顔を右手で撫で、自分の頬を紅潮させていた。