風紀委員長の弟にご用心   作:後生さん

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日常編
雲雀裕弥


 風紀委員会は並盛の秩序を守る組織だ。

 その頂点に立つ風紀委員長は、最強にして最恐として誰もが平伏する存在である。…そんな畏れ多い風紀委員長のとある噂にこんなものがある。

 彼には歳下の弟が存在し、たとえ屈強な男達が揃っても適わない実力を秘めている、とか。

 唯一風紀委員長に対等に語り合えるのが弟だけで、弟の言葉は彼も無下には出来ない、とか等々。

 

 そんな噂が飛び交う中でも信じられる事は、彼に弟が実在すること。並盛中に在籍し、風紀委員会に重石している弟だが、何よりも人と関わろうとしないらしく殆どは兄の元で過ごしている様だった。

そこは風紀委員長と同じ血を通わせているだけあり群れる事を自らしないが、やはり何処か謎めいた存在であることは誰もが気になっている事だった。

 

 そんな弟──雲雀裕弥の話をしようと思う。

 

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

 

 

 いつもの様に応接室で並盛の問題書類を読んでいたら、見回りが終わったらしい兄が戻ってきて扉を閉める。そして視界に入った僕を呆れた目で射抜く。

 

 

「ちょっと…裕弥、いくら風紀委員だからといってもいつまでも此処に居座る事は含んでないんだけど?それに、そろそろ教室に戻ったら?今日の残り時間も後僅かだし、クラスメイトに挨拶してきなよ」

 

 

 挨拶、という単語に思わずジト目で見返した。

 

 

「それぞれの教科担当の教師に授業内容を聞いた結果、僕が学べる事はないと思った迄だよ。それと、教室に態々戻ってクラスメイトにまた明日って言えるほど、僕は愛想を振り撒いてない」

 

「…そのひねくれた性格は誰に似たの」

 

 

 全くと肩を竦めながらも結局無理矢理外に出さないのは、どう言っても僕が治さない事を解ってくれている証拠だ。お蔭で僕は甘えてばかりなんだけど。

 兄の許容範囲を越えない様に慎重に行動する事を改めて誓い、そのまま書類を読み続けていたらこの中学校についての騒動が記載されており、それに目を留める。

 どうやら最近騒音が絶えず、尚且つ学校の器材等が破壊されているらしい。それ等の修復及び補充にはかなりの金額を費やしており、学校側からしても、また風紀としても見過ごせない事態となっている…と、その報告書は風紀の威信に関わっているかもしれないと訴えており、僕は目を瞬かせた。

 

 

「兄さん。今年は厄介な事柄が舞い込みそうだね」

 

「…あぁ。それは最近常々思い始めてるよ。ちなみにその報告書の事件の犯人、全部同じ奴等だから」

 

「解剖すればいいのに」

 

「それが出来ればとっくに咬み殺してる」

 

 

 今は様子見で妥協しているという兄さんの台詞に、これは邪魔でもされてるのかと手元の書類を見直した。

 これだけの事をやっているのだ、確かに兄さんが調べない筈がないよね。僕は犯人に匙を投げる。

 

 

「僕には関係ないか。どうせ面白いモノでも見つけたんでしょ?かなり見逃してあげてるじゃん」

 

「まぁね。いくら裕弥でもあげないよ」

 

「要らない。僕は強者に興味ないよ」

 

 

 兄さんの求める強い奴は、はっきり言って僕じゃ適わない。僕が相手に出来るのは兄さんよりワンランク下の雑魚だけ。それに、僕は実力行使より思考戦の方が好きなんだ。相手の出方、相手の能力、相手の弱点…そういう情報の探り合いこそが戦闘での僕の楽しみかた。だからこそ、ただの素人でありなんの情報も得られないクラスメイトは僕にとってガラクタ同然。解剖出来る奴等こそ僕の求めるモノ。

 

 

「ちなみに兄さんの見つけた面白いモノって、かなり頭がキレそうだった?」

 

「教えない。横取りは許さない」

 

 

断固として突っぱねる兄さんに、僕は微笑んだ。

 

 

「──そう。解剖してみたいなぁ」

 

 

 頭脳戦もかなり出来る奴らしい。兄さんが不機嫌そうに眉を寄せるけど、こういう所は兄さんだってそうだし、口出しはして欲しくないものだ。

 それでも噛み殺されるのはごめんだからすぐに笑みを消していつもの様に淡々と無表情で謝る。

 

 

「冗談。言った手前、そんな横領はしないよ」

 

「…一応信じるけど、その時は容赦しないから」

 

「兄さんに僕が適うわけないじゃない」

 

 

 弟ジョーク、と書類を兄さんのデスクに置いて、ひらひらと手を振りながら応接室を後にした。

 

 

「…適うわけない、ね」

 

 

──僕が去った後も兄さんは置かれた書類をじっと見詰めながら、小さく呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …応接室を出てからというもの僕は特にやる事も思いつかなかったが、どうせなら報告書に書いてあった事件の現場に向かってみようと歩いていた。

 兄さんによると同じ奴等…つまり複数人の犯人達の仕業は、僕に思わせると派手な様で少し慌てている感じが見受けられた。普通グラウンドに穴を開けるには何かしらの機具が必要だし、壁を焦がすには爆発物を使うしかない。リスクも考えずに動く馬鹿なら、兄さんが見過ごす道理なんて無い筈なんだ。

 それなのに見過ごし、その出方を様子見で済ませている。つまり、そう誘導している奴が居て、実際に起こしている奴等は間抜けで、尚且つ何処か生真面目な筈。頭が良いとは思えないからテストの点も悪く、手際が良いとも思えないから相当な不良児も混じってるかもね。もしかしたら上手く乗せられた阿呆も居るかも。全部推測の域は越えないけども。

 

 

「──あ。此処かな」

 

 

 綺麗に整備されてるのは流石としか言えないね。

 取り敢えずグラウンドに来てみたものの、やはり当時の状況など微塵も感じさせない為に少しばかり疑心暗鬼となっている。報告によると、これは一日で直したみたいだ。風紀の役員はいずれ過労死するんじゃなかろうか。

 別に僕には関係ないけど。

 

 

「確かグラウンドに巨大な穴が出来ていたのは、今回だけじゃなかった筈…」

 

 

 そう。確か、いつかの数学教師が学歴詐欺で退職させられた時にも見つかったんだよね。実際に僕も現場を見たからさっと思い出せたけど…。

 そういえばその犯人はまだ分かってないんだっけ。

 …今思えば犯人も何も、絶対にその元数学教師にちょっかい掛けられてた奴にしか思えないんだけど。あれ、犯人とか掴まえるの簡単じゃない?

 

 

「…まぁ、捕まえる訳にはいかないんだけど」

 

 

 なんで探偵紛いのことしてるんだろう、と一気に面倒臭くなってきて、僕はグラウンドを後にした。

 時計も見るとそろそろ下校時間に差し掛かるし、兄さんより先に帰っても別に構わないよね。

 

 

「──そういえば、鞄は教室だった」

 

 

 無表情のままコツンと頭を叩く様は、僕からしてもシュールだった。自然になかった事にして僕は教室を目指す。

 因みに僕がクラスに顔を出すのは、午前だけだ。午後は上手い具合に風紀の腕章で誤魔化して応接室で過ごしている。別に教室に居たって構わないんだけど、兄さんが少し幼くなった様な僕の顔じゃ、風紀の存在を徐々に理解してきているクラスメイトには気になるものがあるらしい。毎回見世物とされるこっちとしちゃ、全員を解剖したい位だ。

 

 傍から見れば無表情で、兄さんから見れば不機嫌な表情で僕は教室に着いた。

 どうやら今は挨拶の途中らしいが、そんな事僕には関係ない。そのまま扉を開け放った。

 

 

「!?ヒッ、──ぁ、ああ、雲雀裕弥か…」

 

 

 見ろ。教師がそもそも怯えるからクラスメイトが不安になって僕を凝視してくるんだ。

 全無視して僕の鞄を取りに行く。プリントなんかは机に置いてあるから確認して鞄に入れていく。

 準備はし終わった。そのまま教室から出ようとした所で、またあの教師に呼び止められる。

 

 

「っ、雲雀裕弥!」

 

「──なにか?」

 

 

 フルネームにイライラしながら教師を横目で見る。

 

 

「その、…風紀の仕事で忙しいのは分かるんだがな?そろそろ体育祭も間近だし皆と団結してだな…」

 

「何を言いたいのか非常に分かりませんが。僕は風紀委員として裏方を務める事となっています」

 

 

 はっきりと告げれば教師は沈んだ。

 何を言い出すかと思えば本当に今更な事だった。僕を見る度に勇気なんて物を出してくる教師の居るクラスに、僕がいつまでも下手に出ると思ってるのか。

 まぁ最初の一ヶ月でそんなもの止めたけど。

 

 

「そ、そうか…、いつもご苦労様…」

 

「どうも」

 

 

 というか教師が何故か泣いてからクラスの雰囲気が和やかになったのはどうしてだろう。

 まぁ関係ないなと踵を返し、僕は教室から去った。

 

 

 

 

──…下校途中、僕はチンピラ共に遭遇した。

 

 

「よぉ、風紀委員長さんよぉ〜?」

 

「てめぇ良くもオレ等の仲間病院送りにしてくれやがったなぁ?」

 

「落とし前キッチリつけてもらおうかぁ〜!?」

 

 

 相手は三人。格好から見るに高校生。

 どうやら僕の事を兄さんと間違えてるらしい。

 僕はトンファーなんて装備してないし、学ランだってボタン一つ…まぁ一つは開けてるけどきちんと着てるし。よく見れば似てるだけで違う事は分かるはずなのに、こいつ等は相当なおつむの持ち主だ。

 

 

「──僕、能無しも脳無しも嫌いなんだよね」

 

「あ゛ぁ゛?!」

 

「僕にくれる情報。あるの?って言ってんの」

 

「はぁ〜?何言ってんだこいつ」

 

 

 本当、話の通じない猿はこれだから。

 冷めきった瞳をチンピラ共に向けながら、嵌めていた黒い手袋を外す。そして、その手をくいっと曲げて、舐め腐った態度で挑発してやった。

 

 

「来なよ。“ガラクタ”」

 

 

 思った通りに“ガラクタ”共は顔を真っ赤に染め上げ、単調な動きで特攻してきた。

 三人だからと高を括っているのが丸見えだ。

 全く兄さんてば、確かに潰せば何でもいいんだろうけど、少しは賢い奴に喧嘩吹っ掛ければ良いのに。僕がただただ迷惑被るだけじゃない。

 溜息を吐きながら特攻してくる奴等をひらりと躱し、死角から鳩尾目掛けて拳をめり込ませた。

 角度に気を付けて殴ったから、一人二人と三人諸共吹っ飛び、壁に亀裂を作って倒れ込んだ。

 

 

「…軽いか重い、攻撃として有利なのは重いでしょ?こんなナリしてるけど頑張って鍛えてはいるんだよね。毎日毎日重りを増やしては、慣れるまで本当ダルいワケ。それでも“ガラクタ”なんか相手にする場合、軽く吹っ飛ぶのを見ると清々しくなっちゃって。実は兄さんの気持ちも少し分かるんだよね」

 

 

 聞いてないだろうけど、と手袋を嵌め直す。

 この手袋は5kgの重い素材で作られていて、勿論特注品だ。制服には上半身15kg。下半身15kg。靴に5kg。鞄に15kgの重りを仕込んでる。

 武器を持たない主義としては喧嘩じゃ素手で戦うしかないし、だからといって未だ成長中の身体に間違った鍛え方をさせる訳にもいかない。だけど頭脳戦を得意とする僕には体力は必要だし、突っ掛かってくる“ガラクタ”相手には早々にケリをつけたいし。どうするかと悩んだ時、ピコンと浮かんだんだ。

 

 

《重り仕込んで過ごせばいいんじゃね?》

 

 

 お蔭で体力も着いたし、動きも素早くなった。喧嘩する度に一撃一撃が重くなり、筋肉も発達した。

 

 あの閃きは自画自賛出来るものだと確信したね。

 置いていた鞄を拾って、幾らかストレス発散出来た事に上機嫌になりながら僕は家に帰っていった。

 

 

 

 





重りって体にかなり負荷が掛かるみたいですね。
書き直せないので、ちょっと軽く重量修正しときました。
……いやこれでもやべぇ重量背負ってますよね。まぁ、雲雀さんの弟だからって私も納得するので納得してください。


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