風紀委員長の弟にご用心   作:後生さん

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僕と兄さん

 

 黒曜センターはやはりというか、荒れ放題だった。

 こんな所を根城とするなんて僕には理解出来ないけど、確かに隠れ蓑としては有効かもしれない。

 

 

「それにしても…偉く静かだ」

 

 

 もう戦闘は終わったのか。

 はたまた、兄さんが敗れたのか。

 どっちにしろ、兄さんを回収する迄は気が抜けないと溜息を吐いて、施設内を進み出す。

 

 左右に視線を流しながら、慎重に、けれど敵に普通に存在を知らしめる風に歩いた。戦うのは面倒だけど、だからといって僕が隠れる必要なんてないものね。それに、敵が居ればソイツを通して兄さんの場所に辿り着けるし、一石二鳥だと考えられる。

 

 

「…とは思ったけど」

 

「こんにちわ、お兄さん」

 

 

 子供だとは思わなかった。

 恐らく低学年の小学生辺りの男児。

 この場に合わない笑顔を浮かべているけれど、その瞳は光が無く、通常通りでは無い事が簡単に把握出来た。

 僕は淡々と目の前の子供に言葉を突き付けた。

 

 

「君、名前と此処に居る理由を簡潔に述べて。あと、君が敵対するなら僕は容赦しないけど」

 

「…子供にでも普通に手を上げるの?」

 

「子供以前に、僕は誰に対しても頭脳で決めるからね。脳が無い者は利用されるだけの価値しかないんだよ。君が僕の前に現れたのは、そんな上司の命令か、それともただ迷い込んだだけか。どっち?」

 

 

 子供は口を噤むが、そのまま俯くと呟く。

 

 

「…呼んで来なさいって」

 

「そう。上司の命令か。君も難儀だね」

 

「何で僕が従ってるって分かったの?」

 

「少なくとも此処は危険だと見れば分かるのに、君は平然と現れた。こんな所を遊び場にしてる風ではないし、君って常識は携えてる性格でしょ?それに、その瞳を見れば何かしらの理由があると考えるのは当然だ。──というか、君が従っていようが迷子だろうが、僕には関係ないんだけどね。理由がなければ早々に立ち去って放置してたよ」

 

 

 子供は淡々と告げる僕にぱちぱちと目を瞬かせて、悲しそうに眉を下げて見せた。

 

 

「流石は並盛一の頭脳の持ち主で、並盛一の効率主義者でもある雲雀裕弥さんだね」

 

「…なにその称号。というか僕の名前知ってるの」

 

「うん。僕は色んなランキング付けが出来てね、それで知ったんだ。雲雀裕弥さんの他のランキングでは、並盛中の喧嘩の強さランキング2位、家族を大事にしてる人ランキング4位、料理上手な人ランキング2位、怒らせると怖い人ランキング3位──」

 

「もういい。個人情報漏洩し過ぎてるのは解った」

 

 

 子供への評価が少しだけ変わると同時に、僕はこの度の事件には此奴が深く関わっていると認識した。

 

 

「つまり。君のその喧嘩ランキングのせいで、僕等が傍迷惑を被った、であってるよね?」

 

「…ごめんなさい」

 

「気にしてないと言えば嘘になるけど、どうせ大元を潰しに行くんだ。君には最初から興味無いよ」

 

 

 それより案内して欲しい、と唆せば、分かった、と頷き子供はくるりと後ろを向き、僕はその跡を着いていく。

 他に敵は居ないようだけど、もし子供が罠だとしたら面倒だから注意深く警戒はしておいた。

 

 

 

 ──そして、廃墟の中を進んでいくと、ある扉の前に辿り着く。子供が怯えた様に声を震わした。

 

 

「こ、此処だよ…」

 

「案内ご苦労さま。もう用は無いから離れなよ」

 

「う、うん……あの…」

 

「なに?」

 

 

 操られているとは思えない程に僕を心配するその表情に急かさずに待っていると、子供はまた俯いた。

 

 

「ううん…気を付けてね」

 

「言われなくてもそうする気だよ」

 

 

 子供の肩に手を軽く乗せた後、僕は扉を開け放った。子供は少し驚いた顔をしながら、そのまま背を向けて何処かに行ってしまう。気の所為か僅かに笑みを浮かべていたのは、彼の正気の部分なのか。

 

 扉を開けきって中に踏み入れると、そこには一人の男がソファーに優雅に座って待ち侘びていた。

 

 

「──ようこそ雲雀裕弥。彼を通して様子を窺っていましたが、やはり雲雀恭弥に似て無愛想ですね」

 

「開幕早々気色悪い事言わないでくれる?それに、僕は無愛想じゃなくてこれが素なだけだから」

 

 

 頭が南国果実の様で少し笑える。実際笑いはしないけど。

 というか、子供の名前教えて貰ってないけど、様子をどうやって窺っていたんだろうね。

 普通人間越しに人間を確認する事は出来ないのに。

 

 

「あんたに聞く事は山程あるけど、そう口を割らないでしょ?でも取り敢えず兄さんの居場所を吐いてくれると有難いんだけど、言い分としてはどう?」

 

「クフフ、そうですねぇ…雲雀恭弥なら──」

 

 

 ──彼処に。

 

 そう言って壁際に視線を向ける南国果実の後追いをして、僕もゆっくり其方を見つめた。

 

 そこには、血塗れになりながらもか細く息を吐き出す、最強の風紀委員長の姿があった。

 僕は軽く瞬いてから、静かに息を吐き出し、視線を戻す。

 

 

「…そう。敗れたの。ならもう少し待っててよ兄さん。此奴を限界まで弱らせてから渡すから、最期の一撃を当てるまで、死なない様に頑張ってね」

 

 

 僕の言葉に、南国果実は目を見開いた。

 

 

「…冷淡ですね。こんなにも重症だと言うのに、君は急ぐ事もましてや慌てる事もないと言う」

 

 

 その反応に小さな違和感を感じながら、逆に驚いたとばかりに反応を返した。

 

 

「まるでそうして欲しかったみたいな言葉だね。

…兄さんはきちんと僕の意図に気付いていながらもあんたと戦った。そして、敗れた。なら僕のする事は一つ。兄さんが復活する迄の間、持ち堪える事。あんなにも一方的に瀕死な姿は初めて見たけど、その分兄さんは、僕に情報をくれたのだから」

 

「ふむ、情報ですか?」

 

 

 不信な表情から一点、愉快気に歪ませた目元に僕は手袋を外しながら、答えてやった。

 

 

「一つ、兄さんが敗れる程に強力な手があんたにある事。一つ、あんたが並の人間じゃない事。一つ、あんたの目的が兄さんでは無い事。一つ、僕じゃせいぜいあんたの隠し玉を暴く事しか出来ない事」

 

 

 南国果実は僕にプライドがないという事に気付いた様だ。

 少しつまらなさそうに目を細めた。

 

 

「…安易に僕に負けると宣言していますが」

 

「僕は兄さんより弱いからね。あんたにとっては楽しめないだろうけど、付き合って貰うから」

 

「自分の実力を大いに知っている上での挑戦ですか。無謀にも聞こえますが、貴方の場合策力とも言える。…一つ聞きたいのですが、何故僕の目的が雲雀恭弥ではないと断言できたのでしょうか?」

 

 

 上着も脱ぎ、半分本気で迎え撃とうと構える僕は、病院内で出会った栗色の髪色をしている男を思い浮かべて、少しだけブルーになった。

 

 

「恐らく僕の考えているモノとあんたが探している目的は、一致してると思うんだよね。その点で言うけど、今、僕達は何をする関係だと思う?」

 

「…正に交じり合おうとしている関係ですかね」

 

「ファック。殺り合う関係性にあるのに僕があんたに教える義理は無いっていう事だよ。というか、あんたってちょくちょく気持ち悪いんだけど、それが素なら大分兄さんに嫌われてるでしょ」

 

「間違いなく嫌われているでしょうね。僕にはそんな事どうでもいいですが…貴方は違うんですか?」

 

 

 座ったまま動かない南国果実をじっと見据える。

 

 

「初対面の相手を判断する場合、僕は交わす言葉を重宝する。あんたは兄さんにとって邪魔な存在なんだろうけど、僕には特に害は起きてないし、会話も躓かない。マイナスの印象としては兄さんの敵だって所だけだけど、僕は頭が良い奴が好きなんだ。

この事件、本当はあんたと話したくて、兄さんが倒れるこの時を、待ち望んでいた位なんだから」

 

 

 薄く浮かべた微笑みに、南国果実は目を見開いて、面白そうにクスクス笑った。

 

 

「クフフ、貴方が雲雀恭弥の弟である事実を疑いますよ。雲雀裕弥、貴方のその性格は何とも不思議に思えます。外野に埋もれる人間では無い筈なのに、貴方は兄の影として見事に隠れてしまっている。裏の人間だとも疑いましたが、貴方の様な効率主義者は現れてもいなかった。

…雲雀裕弥、教えてくれませんか?本来ならば、雲雀恭弥とは別に居るべき貴方が、そうまでして彼の後を追う理由を」

 

 

 南国果実が意外にも僕の事を買っていたとは思わなかった。そして、そんな理由を聞きたがっている事も。

 僕は暫し沈黙してから、言葉を捻り出した。

 

 

「僕は、別に兄さんを真似してる訳じゃない。兄さんを追い掛けている訳じゃない。兄さんの後ろに隠れている訳じゃない。僕はただ…レールに乗っているだけ。兄さんを支えるルートを僕が補ってるだけ。兄さんの独走に着いていくとね、二着が案外悪くない事を知ったんだ。後出しだからこそ兄さんの全てを知る事が出来る。そして全てを知れば、兄さんに被る事も無く、僕自身を創り出す事が出来るんだ」

 

 

 ──雲雀裕弥。

 その道が生まれた原因は、兄さんだ。

 

 

 

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