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秀知院学園中等部と高等部は歩いて5分程度の距離に位置する。放課後にOB訪問する生徒も珍しくなく、違う敷地にある中高の中では交流が多い部類に入るだろう。その多くは部活動などの課外活動での交流が多く、このテスト1週間前という時期での訪問は珍しい。
その珍しい行動を取っている中等部の生徒は、生徒会長の白銀御行の妹である白銀圭である。彼女がここに訪れる目的はただ一つ。光上に勉強を見てもらうためだ。
勉強を見てもらうという話になった際に、ではそれをどこで行うかという話にもなった。集中して勉強を行える環境が必要だ。そしてこれは人によって条件が異なる。
例えば白銀御行。学年一位を取ってからその座に居続ける彼は、自室での勉強が基本だ。無音であるほどに集中力が増すタイプである。この点が圭にも見て取れるものだった。彼女もまた、静かである方が勉強に集中できる。全くの無音でなくても大丈夫なのだが、極力その状態に近づけたいのが本音。
その理想のポイントはどちらかの家だ。圭は普段の環境で勉強ができるし、光上はどこであれ勉強に支障が出ない。弱点としては乗り物での移動中には勉強ができないタイプというところだろうか。単純に乗り物酔いが酷いだけとも言える。
そんなわけで、理想論は白銀家。ただしこれには多大なリスクがある。
(パパがいつ帰ってくるか分からないのよね)
そう。父親の存在だ。白銀家で勉強するとなると、御行の部屋でも圭の部屋でも勉強できない。それぞれ一人分の机しかないのだから。そうなるとリビングしかないのだが、父親が帰ってきた瞬間その場を目撃される。邪魔はされないだろうが、何か愉しげに見てきそうだから嫌。
ならば光上家ならどうか。勉強する環境は簡単に用意できる。できるのだが、圭が緊張し過ぎて勉強にならない。そんな自分が想像できた彼女は、図書室での勉強を提案した。
秀知院学園に限らず、多くの学校は図書室が自習室としても併用される。しかしその利用率はまちまち。秀知院学園であれば、外部への受験を考えなければ普段のテストだけでいい。それなら自宅で勉強するという生徒が多く。図書室を利用する生徒は極端に少ない。集中できる環境が出来上がり、なおかつ相談もしやすい。
(それに、放課後に学校で光上さんと会える)
この点が彼女の中で大きな理由となっていたりする。ほぼ毎朝会うにしても、自転車での新聞配達をするために動きやすい格好をしている。ぶっちゃけたら圭の中であれは可愛くない姿なのだ。家計を考え、節制しているものの女の子。お洒落はしたい。だから新聞配達の時とは別に、外出用の服がある。本当ならそっちの姿を見てほしい。
しかしこれは中々叶わない。そこで、わりと気に入っている学園の制服だ。本当は無しなのだが、許容範囲でもある。学園内ならどちらも制服。おかしなことはない。
「光上さんの制服も見てみたいし」
それでも、好きな人の制服姿は彼女の中で別の概念と化している。
「なに? 光上探してんの?」
「えっ?」
「声に出てたけど」
「…………ぁぁぁっ!」
顔を手で覆って悶える圭を見て、声をかけた高等部の女子生徒は申し訳無さに包まれる。意図せずして乙女の恋心を暴いてしまったのだ。彼女の好みと自分の好みが合わないからと言ってどうもこうも言わない。ただ同じ女子として同情はする。
「ごめん。お詫びと言っちゃあなんだが、光上を探すの手伝うよ」
「……い、いえ。ここに迎えに来てくれるので大丈夫です。ありがとうございます」
「そうなのか。んー、君どっかで見たことあるような……」
サバサバとしたその生徒は、チラッとだけ見えた圭の顔に引っかかりを感じた。過去のどこかで会ったのか。初めて見た感じがしないのだ。
腕を組んで彼女が考えている間に、圭もなんとか自分の気持ちを鎮めていく。こういう切り替えの早さは彼女の強みだった。何よりいつまでも醜態を晒すのはプライドが許さなかった。
圭が気持ちを落ち着かせたところで、顔を覆っていた手も離れる。それでもう一度女子生徒は圭の顔を見ることができ、記憶と照合していく。
「私たち初対面だと思うんですけど」
羞恥に悶ていても話はしっかり聞いていた。その言葉に女子生徒もコクリと頷く。記憶と照らし合わせた結果、彼女とは会っていない。
「白銀の妹さんかな?」
ただし、彼女とよく似た目をしている人物とはそこそこの付き合いがあった。圭の顔を見て引っかかったのもそのせいだ。
「兄をご存知なんですか?」
「ははは、ご存知も何も、生徒会長のあいつを知らない奴はこの高等部にはいないよ」
「あ、そうですよね」
「ちょっと嬉しそうだな」
「そんな事はありません」
(この子分かりやすい。そういやあいつも妹が反抗期とか言ってたっけ。可愛らしいもんじゃん)
もう少し探ってみたら面白い話も聞けるだろうか。そんなことを思ってみたものの、実際自分がそちら側だったらクソウザいなと思い直し、探りを入れることをやめる。それはそれとして、好感が持てる相手とはもう少し話してみたいものだ。
そう思っていると、驚くことに圭の方から話を切り出してきた。受け身だけじゃないことにも、その女子生徒は好感を抱く。
「私と兄って似てるんですか?」
「否定してほしそうな顔をしながらそれを聞くのか……」
どう答えるのが正解なのかと一瞬頭を悩ませる。しかし女子生徒を見る圭の目は真摯なもので、女子生徒はそれに応えることにした。お世辞なんて言わずにハッキリ言う。このやり方は彼女にとってとてもしっくりくるものだ。
「目元が似てる。目つき悪いとことか」
「……やっぱりそうなんですね」
「目つき悪いって言っておいてなんだが、それでどうこうってわけでもねぇよ。それで判断する奴は外見しか見ない奴だからな。なぁ光上?」
「いきなり話を振られてもな」
揶揄うように笑いながら彼女が振り返ると、そこには圭の待ち人がいた。兄と同じ制服。違いは光上が夏服を着ていること。普段見る兄の姿が見るだけで熱く感じてしまう分、夏服を着ている光上が爽やかに映る。御行の知らぬところでファインプレー。
「実際な話どう? 光上と会うためにわざわざ高等部まで来たこのかわいい後輩のこと」
「会うためって……。私は光上さんに勉強を見てもらうだけです」
「それが口実じゃなくて?」
「違います!」
「ま、いいけど」
「白銀さんはかわいい子だと思ってるよ」
「ぁっ!」
「あ、そいやこいつどストレートなんだった」
光上にかわいいと褒められ胸を抑える。その様子を見ながら、光上がストレートな物言いだったことを思い出した。時に残酷で、時に天国を見せる男。これまた面倒な男に惚れちゃったんだなと圭を若干心配した。
「さっきのって目つきの話だっけ? たしかに人によってはそれで威圧されるかもしれないけど、この子の特徴ってだけでしょ。俺はそこをマイナスだとは思わないな」
「はぁー。ま、そうだろうな。お前はそういう奴だよ」
「ところでなんでこんな話になってるわけ?」
「ただの気まぐれだよ。んじゃ帰るから。その子の勉強ちゃんと見てやれよ」
「分かってる。また明日」
ヒラヒラと手を振りながら帰っていく彼女を見送り、様子が元に戻った圭と一緒に図書室へと向かう。自分の発言が原因だとは分かっているし、ストレート過ぎる物言いも考えものだなと反省。しかし癖となって染み付いてしまってる上に、嘘はつきたくない性分。解決策は今のところ思い浮かばない。
「あまり生徒さんも残ってませんね」
「自宅で勉強する生徒が多いからね。それを見越して図書室に来る人もいるけど、全体のごく僅かだよ」
「そこは中等部と似てますね」
「大半がこの学園でそのまま育ってるからね。こういう時の行動はあまり違いも出なくなるものだよ」
「そういうものですか」
外部の人間が学園内に入る場合は、事前のアポイントメントも必要であり、警備員へ話を通し、校舎内に入る時に事務室の許可を取らないといけない。配達などの例外もあり、同じ秀知院学園の生徒もその例外となる。圭は来客者用の下駄箱に行き、光上は自分の下駄箱へ。靴を履き替えたら合流して移動を再開。
「先程の方とは仲がいいんですか?」
「仲がいいってほどじゃないな。腐れ縁ってやつ。あれくらいの感覚で接する人がほとんどだよ」
「そうですか」
少し素っ気ない気がしたが、彼女の様子を見る限り機嫌が悪いというわけでもない。むしろ何か隠したがっていて、そのために取り繕っている様にも見える。それを暴くようなこともせず、圭を高等部の図書室に案内する。
図書室の中は上履きも脱がないといけない。これも他の学校と同じだろう。分かりやすくするためという理由で、圭は光上が置いた場所のすぐ隣に置いた。
「光上さんは成績が良いと聞いたんですけど、具体的にはどれくらいですか?」
「テストの成績は──」
「テストによってバラバラだよ~。光上くんは50位以内に入ることだけが目標だし」
「光上さん。こちらの方は?」
「早坂愛。同じクラスの子。なんで代わりに答えたのかは知らない」
「そうですか。初めまして早坂さん。中等部2年の白銀圭です」
「白銀……あ、会長の妹さんなんだ。よろしくね!」
早坂の乱入に戸惑ったものの、圭はすぐに挨拶を済ませた。早坂に差し出された手を握り、握手を交わす。
「私、光上さんにお勉強を見てもらうんですけど」
「奇遇だね。ウチもだし」
「え……?」
早く光上との勉強会を始めようとした圭だったものの、その目論見は早坂の言葉によって壊される。二人での勉強のはずが、まさかの三人での勉強である。どういうことなのかと目で光上へと訴えかけた。
「これには理由がありまして」
「ウチがお願いしたんだし。ちょっと前にいろいろあってね」
「いろいろですか」
この人に何かしたのか。そもそもこの人とはどういう関係なのか。この人のことをどう思っているのか。
光上に問い質したい衝動に駆られる。しかしここでそれに身を任せるような彼女じゃない。ここは図書室だ。騒ぐようなことは許されない。何よりここで余裕を見せてこそ女の器を示せる。そこまでを瞬く間に考えた圭は、追及することなく、早速席に着こうと促す。
図書室の席は基本的に1テーブルにつき4人座れる。2人横並びになり、対面も同様。他の利用者は片手で数えられる程度。静かに教え合えば迷惑もかからない。
勉強を見ると言っても、それぞれ勉強ができる人間たちだ。早坂は意図的に同じ順位を取り続けているだけ。光上は50位以内になるように調整してるだけ。この3人の中で、一番真面目に勉強してるのは圭だろう。そのため、圭が分からないとこがあればその都度光上が教えるという流れだ。
「俺が対面の方がいいか」
中等部の圭には教える立場。早坂が意図的に順位を下げてるとはいえ、勉強面は早坂より上。それなら光上が2人と向き合う位置に着くのが合理的だ。
その言葉に圭が僅かに反応し、それに気づいた早坂がフォローを入れる。御行と四宮の様子を見てきた早坂だ。圭の反応からすぐに好意を見破り、それのサポートに回る。自分が本来邪魔者であることは自覚してる。これくらいをお詫びとして支払おう。
「ウチが対面の方でいいよ。元々は妹ちゃんのための時間なんだし」
「早坂がそれでいいなら」
「それじゃお二人さん並んで座っちゃって~」
「なんか楽しげだな」
そう言って圭の横を通る際に、小声で応援していることを伝える。圭が勢いよく振り返るも、早坂は知らぬふりをして勉強会の準備を進めた。
一度始めたら全員が集中する。やはり圭が一番真面目に取り組み、光上は今回何位にするかを考えながら勉強量の調整。早坂は自分の勉強をしているフリをして、そんな2人を観察。
この展開は狙っていたことじゃない。昼休みにたまたま流れで知っただけ。そしてこれも仕事の一環。使えるものは使うのが四宮家。かぐやが御行の外堀から埋めるためにも、妹という立場の圭は重要な要素だ。身内から切り崩せば喉元に刃を突き立てるも同然。俄然かぐやが有利になる。
だがしかし、結局ここでも厄介になるのが光上晶という男。早坂の目からして、圭が光上を好きなのは明らか。先程の反応で確信も抱いた。対して光上は以前に中学生は恋愛対象として見てないと言っていた。つまり、いくら圭が好感を稼いでも、光上を落とすことができない。
手っ取り早いのは、光上の視野を広げさせること。3歳差は、たしかに若いうちは気にするだろう。中学生と高校生。はたまた高校生と大学生。犯罪臭が強い。それなのに、社会に出てしまえば何も珍しくない。芸能人なら祖父と孫ほどの年齢差でも結婚するほど。
(光上さんが将来を想定した場合、3歳差の壁なんてないも同然)
そうすれば圭と結びつくこともできる。そしてかぐやと御行がくっつけば、白銀家を間に挟むこととなり、光上家と四宮家の摩擦も薄れる。損する要素が見当たらない。
一番の懸念事項は、圭のサポートを本格的に始めてしまった場合、光上が気づいてしまうということ。早坂が勝手にしたとしても、圭の印象が悪くなる恐れがある。彼が連鎖的に考えないとしても、リスクがあるのなら控えるべきか。
(妹ちゃんからの相談に乗るとか、それぐらいならバレない)
女子トークとして成立させれば、光上も勘付くわけもない。この路線で行こう。
「光上。ちょっといいか? ここなんだが」
「ん? あーそこね。お前の席で教えるよ」
「悪い。ちょっと借りる」
「どうぞ~」
タイミングよく光上が席から離れた。それを目で追っていた圭も手が止まり、早坂に見られていることに気づいて目を逸らした。
「光上くんが好きなんだ?」
「なんの話ですか。私はただ尊敬してるだけで」
「誰にも話さないし。ウチの知る限り光上くんはフリーで、他に光上くんを狙ってる子もいないよ」
「え、そうなんですか」
圭が気にしていた情報だ。クラスメイトである早坂からの情報。信じていいだろう。
あっさり食いついてしまったことに、圭は遅れて口を手で隠す。まさしく今さらの行動で、早坂はニコニコと楽しそうに笑っていた。知られたことは仕方ないと割り切り、思考をフラットに戻す。
最大の懸念事項があっさりと消滅し、その事にほっと胸を撫で下ろした。そこから考えるのはこの先のこと。半年間進展のない兄の様にはなりたくない。
悩んだ結果。圭は素直に認めることにした。早坂という
(かぐや様もこの子くらいに強かになればいいのに)
「なんで手伝ってくれるんですか? 初対面の私に」
「こっちにも事情はあるんだけど。やっぱし恋は叶ってほしいし。応援したくなるくらい妹ちゃんが純粋ってのも大きいし」
「純粋……ですか」
「悪い意味じゃないよ? それは誰もが持てるような武器じゃない。妹ちゃんの強みだから」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
圭と御行は恋愛面でも考え方が似ていた。好きな人がどちらも格式の高い家。相手から明確に告らせたいと思っている。この点、圭は御行よりやりやすいだろう。光上は素直に言葉にしてくれる。1人の異性として見てもらえば、あとはゴールまでが早い。
冷静になってみれば、自分が光上の言葉を勘違いしてそうな過去がいくつかある。とても曖昧だ。曖昧だからそれらは証拠として使えない。やはりハッキリと彼の口から言ってもらいたい。少なくとも彼から好感を得ていることは確かなのだから。
「あの、妹ちゃんではなく、名前で呼んでください」
「圭ちゃん?」
「圭でお願いします」
「わかった。じゃあウチのことも愛って呼んで欲しいし」
「愛…………さん。ごめんなさい。目上の方を呼び捨てするのは……」
「あはは、だろうね。それで十分だし」
「LOVEな話はここですか!!!!」
「藤原さん図書室では静かに」
話が纏まったタイミングで遅れてラヴ探偵が突入してきた。探偵のコスプレはどこから持ってきたのか。藤原の登場は早坂が警戒していたことであり、早く話を纏めにかかったのも功を奏した。圭の決断の速さも要因として大きい。
生徒会の人間が何してんだと光上が静かに注意するも、藤原はそれどころじゃなかった。今日一日ずっと謝りたいと思っていた相手がようやく見つかったのだから。
「光上くーん!! ごめんなさいぃーー!!」
「だから静かにって危なっ!」
「何で避けるんですか! 男の子なら女の子を受け止めてください!」
「身長差からして帽子のつばが喉に突き刺さるからですけど!? というか藤原さんちょっと外行こうか」
涙を溢しながら何度も謝る藤原を、図書室で騒ぐなと怒るわけにもいかない。光上は彼女の手を引いて図書室の外へと連れ出した。
それを見ていた圭がムスッとする。
「千花姉ぇずるい。私まだ手を握ってもらったことないのに」
「頼めばしてくれると思うけど」
「……恥ずかしいです」
「乙女だね~」
早坂の揶揄いを流した圭は、表情を真面目なものへと切り替える。その速さは早坂から見ても感心するほどだ。
「光上さんと千花姉ぇってそこまで仲良くないんですか?」
「今のでそう見えたの?」
「
この子の観察力は敵に回したら怖い。早坂はそれを正しく理解した。圭はまだ気づいていないようで、むしろ気づかないままのほうが、純粋な彼女にとっても為になるだろうと判断する。見たくないものまで見てしまう。そんな人生は辛いだろうから。
「あの2人は方向性の違いだよ」
「なんですかそのバンドにありそうな理由」
「いや実際そうとしか言えないし。仲が悪くなるほどじゃないけど、絶妙に噛み合わないのがあの2人なんだし」
どちらも嘘を嫌う性格。ただし藤原はゲームなどの遊びであれば嘘を許容する。自分も騙しにかかる。光上は他人のものは見逃すものの、自分はゲームであっても嘘をつかない。そんな些細な違いだけで、2人は微妙なズレのある関係なのだ。
もっとも、その些細な違いだけでそうなってしまう程に、2人は仲良くなっていたという過去があるという話なのだが。早坂はそれを黙っておくことにした。
「圭ちゃんこんにち殺法~」
「こんにち殺法返し~。どうしたの千花姉ぇ?」
「えへへ、私も光上くんに勉強を見てもらうことにしました~」
「え……」
ガチ困惑する圭なのだった。
修学旅行編について
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漫画出るまで修学旅行編待機
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ネタバレ気にしないから更新続行