愛の調整は難しい   作:粗茶Returnees

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第15話

 

 四宮かぐやは生徒会メンバーが好きである。特に会長の白銀御行には、無自覚の恋心を抱いている。彼のためならどんな手段でも使えてしまうぐらいに。同級生の藤原千花は、四宮が合格を出した数少ない友人。中等部時代から話す仲であり、何度もお泊り会をしている。1つ後輩の石上優にはある程度の好感度があり、かわいい後輩だと思っている。

 

 四宮かぐやは彼らと過ごす時間が好きだ。彼らと思い出を作りたい。

 

 だから、花火大会に行けないと知った時には、ベッドのシーツを涙で濡らした。いつもならあらゆる手段を講じてでも突破しただろうに、ショックの大きさに弱ってしまってその手段を取れていない。

 

 そんな彼女がツイッターに投稿したのが『みんなと花火が見たい』である。果たしてこれは彼女が投稿したのか。それとも彼女のことを想った()()()投稿したのか。

 その真相はなんであれ、投稿は白銀御行に無事に捕捉された。それを受けて協力者を呼び、その人物の指示の下、万全の態勢で四宮を迎える準備が整っていた。

 

「あとはこれで……よしっと」

「あの。私たちは……私はどうしたらいいですか?」

 

 その人物こと光上と一緒にいる白銀圭は、これからどうしたらいいのかと指示を仰ぐ。憧れである四宮かぐやのために、何かできることをしたい。その決意が彼女の瞳に灯っていた。自分はどうしたらいいのかと聞いているのも、光上はこれから個人で動くのだろうと予想したからだ。

 その予想は見事に的中していた。光上はこれから()()()()()を達成するために行動しようとしているのだから。 

 

 ただ、圭が読み切れていなかったものも1つある。

 それは、光上が圭を絶対に危険な目に遭わせたくないと考えていることだ。最終目標達成のためには、圭を同行させるわけにもいかない。かと言って、この場で彼女を1人きりにさせることもできない。もちろん。彼女がまずそれを納得しないというのもあるのだが。

 

「ひとまずは移動しようか。白銀さんを安全な場所に連れて行かないといけない」

「……私には何もさせてくれないのですか? 私だって四宮副会長のお力になりたいんです!」

「うん。わかってる。わかってるけど、俺たちがそこに出る幕はないんだ」

 

 申し訳なさそうに目を伏せながら言う。彼の中ではすでに配役が決まっていた。生徒会メンバーは3年生の2人を除いたあの4人で花火を見てもらう。四宮も圭のことを気に入っていて、目元や横顔が御行と似ていることもあって好感度が高い。サプライズでその場に混ざれば大喜びするだろう。

 

 だが、それはもっと余裕がある時に。かぐやが四宮家に囚われずに動けるようになってから。圭はまだしも、光上がいるなら余計に動きに制限がかかる。いっそのこと、生徒会の誰かに圭を預ければ、四宮との合流もできただろう。しかし、その場合光上と花火を見ることができない。

 

 圭と一緒に花火を見たい。口にこそ出していないが、光上のプランからはその意図が見え隠れしている。いや、本人すら自覚のない彼の小さなわがままだ。

 それに気づいてない圭はどうにも納得ができなかった。自分だけ何もすることがない。自分だけは、全てが解決するまで待つだけ。そんな役割を「わかりました」と言って受け入れるわけがない。しかしそれは彼女の早合点。

 

「白銀さんには頼みたいことがある」

「何もするな、とかじゃなければいいですよ」

「あはは、そうじゃないから安心して。移動が終わったら白銀さんの役割が始まるよ」

 

 パッと彼女の表情が明るくなった。彼も言い方が悪い。あれでは何もすることがないと受け止めてしまうだけだ。「そこに出る幕はない」というのは、()()()()()()()()()()()ということ。裏を返せば、違う場所でやることがあるということになる。

 圭の手を繋ぎながら人の波を移動。はぐれないように気をつけながら、人の移動が少ない場所に出てそこから急ぎ足。

 

「きゃっ!」

「白銀さん! 大丈夫?」

「すみません。まだ早くは歩けなくて……」

「こっちの方こそごめん。そこを考慮してなかった」

 

 浴衣で歩くことには慣れたものの、急いで移動することに慣れたかと言えば話が別だ。まだそこまでできるようにはなっていない。

 圭の速度に合わせていては時間が足りなくなる。それは何としても避けたい。御行たちは指示通りに動いてくれている。こちらがその足を引っ張ってはいけない。

 

「白銀さん。掴まっててね」

「どういう……。っ!? え、あのっ!」

「本当にごめん。今は急いでる」

 

 彼女に合わせていては間に合わない。ならば、彼女を抱えて移動すればいい。

 大都会のど真ん中で。花火当日ということもあって人の多くなった場所で。浴衣姿の少女をお姫様だっこ。周りから注目されないわけがない。

 集まる視線に圭は耐えられず、強く目を瞑って光上の胸に顔を埋める。

 

「すみません! 急いでるんで退いてください!」

 

 彼女にこの羞恥を耐えさせ続けるのも忍びない。光上は走りながら声を張って道を開けてもらう。圭の移動速度という問題だけでなく、注目を利用して道を開けてもらうことで移動時間も短縮。実に一石二鳥の手段だった。

 欠点は、めちゃくちゃ恥ずかしいという点のみ。

 

 視線から逃げるように足を早めた。光上もまた耳が赤くなっているのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 四宮かぐやの侍従たる早坂愛は、主人のことが好きだ。姉妹同然に育ってきており、彼女のことを妹のように思っている。それでいて少し友達にも近い感覚。なんとも言えない距離感が、この2人にとって自然なものだった。

 かぐやのことが好きだから、かぐやの恋愛を応援したいと思っている。自分の苦労も減るから早よくっつけとか思っていたりもする。淡々としているだけで早坂だって人間。溜まるものもあるのだ。

 

 それはさておき、彼女の今日のミッションは『四宮かぐやに生徒会メンバーと花火を見てもらうこと』である。これはかぐやから指示されたものじゃない。1人で着々と計画し、準備を整えていることだ。あとは絶賛ネガティブ思考中のかぐやに本調子へと戻ってもらうだけ。

 そんなわけで主人の部屋へと入り、浴衣のままベッドに突っ伏しているかぐやとご対面。

 

「何一つとしてうまくいかなかったもの! 今から抜け出したってどうせ無意味よ! もう皆と一生会えないんだわ!」

「いえ学校が始まったら嫌でも顔合わせますから」

 

 弱り目に祟り目。一度調子が悪くなるととことん弱ってしまうかぐや。しかしそんなもの何回だって見てきた。四宮かぐやに関することで、早坂愛の右に出る者はいない。

 どう誘導すれば調子を取り戻せるか把握している。何よりも、これまでと違ってかぐやは御行に恋をしている。ここが一番のポイント。そこを突けば、これまでよりも簡単に調子を取り戻させることができる。

 

「今だって会長はかぐや様と同じ気持ち。会えない日が続いてる中、運命的にも出会うことができれば! 今まで蓄積されていた欲望が?」

「一気に解放される……?」

「そうですよ。いい感じに調子が戻ってきましたね」

 

 この人ここまでチョロくなかったのにな。という本音は心の中に仕舞い込む。調子が戻れば後は行動あるのみ。

 しかしかぐやは少し躊躇った。今この屋敷の中に本家の人間が2人もいる。1人は超優秀でつよい。もう1人は何だか知らんけどこわい。これが最大の障害。

 

(光上さんが協力してくれたら、スムーズに行けたんでしょうけど)

 

 早坂はここまで準備する前に一回迷った。冷戦みたくなってるとはいえ、光上家はあくまで中立の立場。今もそれは変わっておらず、どの勢力も不干渉を決めている。そこに協力を仰げば、穏便にかぐやを花火大会に行かせられたかもしれない。

 

 そう思ったものの、早坂はそうはしなかった。本家の考えが直接下りているのかは知らないが、そこから来た使用人の意見はNO。かぐやを花火大会には行かせないと決めている。それを知った上で頼んでしまえば、それは四宮家に意見してるも同然。対立構造ができてしまう。

 早坂はそんなことにはさせたくなかった。だから1人でここを乗り切る。

 

「準備なら整えております」

「え?」

 

 やることは簡単。早坂がかぐやに変装し、テラスに出て花火を見ておく。使用人には後ろ姿だけ見せ、声も作ってしまえばまずバレない。かぐやは早坂がすでに仕掛けたロープを辿って屋敷の外へ。タクシーの手配も完了している。今頃運転手は一休みでもしてるだろう。

 

「ありがとう早坂」

「後のことはお任せを」

 

 ロープはかぐやの部屋から屋敷の塀の側に植えられた木まで続いている。そこを早坂お手製の滑車を使って移動。持ち運び可能で滑車の移動中は収納されてるロープを掴めばいい。現代の忍と言ってもいいのではないだろうか。

 まさかそんな所から来るとは思っておらず、タバコで一休みしていた運転手は驚愕。急いでタバコを処理してかぐやをタクシーの中へ案内。

 

「四宮かぐやさんでお間違いないですね?」

「え、そうですけどなぜ私の名前を?」

「あなたをここで待つように指示されていてね」

「なっ!!」

 

 一気にかぐやの顔が青ざめる。本家の人間のほうが上手。せっかくの手段さえも確実に潰しにかかってきた。

 

(やっぱり……何をやっても駄目なのね……)

 

「花火を見に行きたいと聞いてるんだけど、合ってるかい?」

「……ぇ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お忍びってワクワクするよね!」

「あの……本家の人に言われたんじゃ……」

「本家? いやいや。私が頼まれたのは四宮家じゃないですよ。ひとまずここを離れましょう。合流地点を目指します」

 

 かぐやの頭はパニックに陥った。タクシーは早坂が用意したものだと見抜けたが、彼女が主人の名前を出すとも思えない。だからこの運転手のバックにいるのは早坂ではなく本家。そう考えるのが自然だった。

 しかし実際はどうだ。この運転手は本家の人間が回した人物ではないのだと言う。全くの別口。混乱しているかぐやにはそれが分からなかった。

 

「こういうの一般人のおじさんからすると興奮してしまってね。曲かけてもいいかな?」

「え、ええ。安全運転でお願いしますね」

 

 興奮してしまっては視野が狭まる。運転中にそれでは事故に繋がりかねない。曲をかけることで、その興奮を抑えるのだろう。かぐやはまだ死にたくないので、運転手の要望に了承した。

 

 

──『Mission Impossible』

 

 車内に流れたのはバリバリテンション上がる曲だった。

 

(ええぇぇぇ!! なんで!? なんでこんな激しい曲を!?)

 

 このメガネ運転手大丈夫だろうか。かぐやの中では「花火間に合うかな」という不安と「事故に遭わないかな」という不安が同列で並んだ。とりあえずシートベルトを付けることにし、その両手でがっしりとシートベルトを掴む。

 

 そうして怯えること10分ほど。目標地点に到達したらしく、車内からそこを見たかぐやは笑顔を咲かせた。

 そこには御行と藤原と石上。会いたかった3人がいたのだから。

 

「ご迷惑をおかけしてすみません」

「構わない。それよりも先を急ごう。四宮になんとしてでも花火を見せるぞ!」

「お~! かぐやさん! 一緒に楽しみましょうね!」

「えっ、このタクシーなんでミッションインポッシブル流してるんすか」

 

 石上が助手席へ。後部座席に2年生組。全員が乗り込んだのを確認したら運転手がミラー越しに御行を見て尋ねる。

 

「この後はどこを目指すのかな? 生憎とおじさんは君たちとの合流までしか聞いてなくてね。あとは君たちから場所を聞くことになってるんだ」

「そうだったんですか?」

「会長。浜松町の方は混んでましたし、どうしますか?」

 

 この場所に来るまでの間に、石上はしっかりと交通状況を把握していた。今から向かっても間に合わない可能性が高い。最悪の場合花火を見られない。

 不安にかられたかぐやと藤原も御行に視線を向ける。この子両手に花じゃん羨ましいという嫉妬の視線を運転手が向ける。

 御行に迷いなどなかった。セカンドプランはすでにある。彼も御行がそれを知ってると見越して黙っていただけ。

 

「アクアラインだ! 木更津は20時30分までやっている! 光上のおかげで残り時間も多い! 最低でも30分以上は見れるはずだ!」

「任せなさい。あ、飛ばすのは会社に内緒で頼むよ」

「この運転手なんで無駄にかっこいいんすか……」

「藤原さん。会長。シートベルトを着用することをオススメしますよ」

「なぜそこまで怯えている!?」

「あ、だからかぐやさんシートベルトつけてたんですね!」

 

 死んだ目で震えながらそう言ったかぐやに、藤原と御行は驚愕しながら急いでシートベルトを付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り。場所は四宮家別邸。長女四宮かぐやの部屋にあるテラスにて、彼女の変装している早坂は、ワイヤレスイヤホンから聞こえてくる主人の声を聞いていた。運転手がかぐやの名前を言ったときには焦ったものの、本家とは関わりがないと聞いて一安心。では誰が仕掛けたのか。

 

(まさか彼が? ……あまり考えられませんが)

 

 一番に浮上してくるのは光上。だが彼がここまでするとは考えられない。一歩間違えれば対立構造になる。そんなリスクを犯すのだろうか。

 テラスから真っ直ぐ見つめていたら、ビルの隙間から小さくだが花火を見ることができるだろう。かぐやは毎年ここから花火を見ていた。その小さな背中を見ながら、早坂はそれよりも後ろで見ていた。あまりにも小さい。テレビで見たほうが大きく見れる。

 

 かぐやが羨ましがってるのは知っていた。だから、御行たちとの交流で、今日という日に花火を見ると決まった時、かぐやは心底喜んでいた。遠足前の子どものようにはしゃいでいた。

 早坂も嬉しかった。それだけの笑顔を見られたことが。それほど楽しみにできることが。それだけ楽しくいられることが。早坂は羨ましかった。

 

「私も……誰かと見たいものですね」

 

 ぽつりと呟く。誰からの返答もない。

 本家の使用人が入ってきた。食事の準備ができたという。

 早坂はかぐやの時間稼ぎのために、部屋から花火を見ると伝えた。それぐらいなら許される。だから疑われない。

 

 今頃主人は花火を見られてるだろうか。ワイヤレスイヤホンから聞こえてくる会話は聞こえなくなった。改造したものなのに、それでも電波が届かなくなったようだ。そっと外し、1人でじーっと花火を見つめる。

 

 花火が始まった。

 遠くで、小さく光る。色鮮やかな光。近くで見たらどれほど大きいのだろう。

 数秒遅れて音が聞こえてくる。腹の底に響く音。近くで聞いたらどれほど迫力があるのだろう。

 

 それを見ていて気づかなかった。部屋の中に誰かがいることを。

 

「っ! 誰ですか!」

「危ないなー」

 

 振り返ると同時に手刀を放つ。そこにいた人物は体をのけ反ってそれを躱し、姿勢を戻して早坂に手を振った。その人物を見て早坂は驚愕する。こんな場所にいるだなんて信じられない。

 

「!? なんで……ここに?」

「俺はちゃんと堂々と正面から入ったぞ? 気づけないとは、さてはだいぶ(ひた)ってたな?」

「……、何しに来たんですか? 圭と花火を見るって聞きましたよ?」

「そうだな。その予定だったんだけど、そこに早坂を追加することにした」

 

 何を言っている。こんな都合のいいことがあってたまるか。

 これは自分の弱さが見せる幻覚か夢で。本当はもう今日が終わってるんじゃないか。

 

「なにしてんの?」

「頬を抓ってます。こんなものが現実なわけありません」

「酷いやつ。まぁいいけど、とりあえずその似合わないウィッグは外そうぜ。つけてても風で飛ぶだろうし」

「どれだけの風を想定してるんですか……。あなたにバレてる時点で、もうこれに用はないですけど」

 

 ウィッグを外し、適当に机の上に投げる。ウィッグがパサッと広がる。特に何か落ちた様子もなかった。

 

「今からどうするつもりですか? 間に合うとは思えませんよ」

「特等席があるんだよ。しっかり掴まってろよ」

「なにを──」

 

 早坂が聞くよりも先に光上の左手が腰に回される。そのまま引き寄せられて焦った。何をしてるのか問い質したいのに、気になる(非日常的な)音が近づいてきてそれどころじゃない。首をひねって()()()()。ヘリが高度を調整しながら近づいてきた。

 

「まさか……!」

「そういうこと。チャンスは一度だ。俺を信じろ」

「ですが私がここに残らねば!」

()()()()()()()()()。帰ってくるまでにここの使用人達にその話が来る。何も心配はいらないさ」

 

 早坂の中で全てが繋がった。リスクを犯すわけがない光上が、タクシーに手を回しておくわけがない。逆に言えば、リスクがなければいくらでも手を打てる。

 光上は真っ先に四宮家の本家に話をつけ、交渉の結果今回のことを黙認させることに成功したというわけだ。にわかに信じ難い話だが、現実はそうなっていた。

 

「安い買い物みたいなもんだ」

「絶対安くないですよ、それ」

 

 これが案外安い買い物。四宮家当主との交渉の末「四宮かぐやの学園生活の様子を写真で定期的に送る」という条件で許可を取ったのだから。

 かぐや相手に写真をこっそり撮れるかは話が別だが。これを内密にすることも条件に盛り込まれていたりする。

 

 ヘリが近づいてきた。ヘリの下には長いロープが垂れ下がっており、これからそれを掴んで移動する。本当にチャンスは一度だけ。

 

「怖がる相手がいないんだ。欲に従おうぜ?」

「……」

 

 まだ早坂は迷った。迷ったけど、小さく頷いた。頷いてしまった。

 自分でもすぐ後にハッとしたが、考え直すのもやめた。そんな時間はなく、それを言い訳にして行動に移す。

 両腕を光上の首周りに回し、しっかりとしがみつく。

 

 数秒後には早坂を抱えた光上がテラスから跳び、ロープを右手で掴む。掴んだ瞬間にロープが展開。機械仕掛けのそれは、すぐさま2人の足場を形成。

 足場と言っても板が出たわけじゃない。足を引っ掛けられる棒が出現し、それを早坂と片足ずつ乗せて体を安定させる程度。落ちたらひとたまりもない。

 2人が無事に掴まったことを確認し、ヘリの方で操作が行われる。ロープが自動で巻き上げられ、それによって2人もヘリに乗れるという流れだ。

 

「あなたは馬鹿です」

「そうか。自覚なかったわ」

 

 四宮家と話をつけた。そこまでしたのは、どう考えても()()()()()。早坂の変装により、本家から連絡が来るまでの間別邸では「かぐやが連れ去られた」と騒ぎになる。それを承知の上で行った行動。

 早坂を放っておけば、タクシーに手を回すだけで終わったのに。いや、そうしなくても目的は達成できていた。これは明らかに余計なことだ。たかが使用人1人の為にここまでのことをするなんて。

 

「なぜこんなことを?」

「早坂がそれを望んだんだろ」

「なんの話ですか」

「気づかないとでも思ったか? 四宮さんのあのアカウント。誰もフォローしてなくて、誰にもフォローされてない公開アカウント。あんな場所に四宮さんが心中を吐露するわけがない」

 

 遠くで花火が上がる。そちらを見ることなく、腕の中に抱えている早坂を見ながら言葉を続けた。早坂の表情は見えないが。

 

「白銀を動かすためのツイート。だが、それなら直接連絡すればいい。連絡先を交換してなくても、俺を経由すればいい話だ。わざわざツイートにしたのは、早坂も花火を見たかったからだろ?」

「……さぁ。どうなんでしょうね」

 

 風で靡く髪を気にしながら、もぞりと光上の腕の中で動く。顔を光上の首に埋めるように。絶対に顔を見られないように。

 彼との密着を強めたのを。

 

 夜風のせいにして。

 

「俺たちって()()()()()()()()? けど、俺は早坂ほど強くないから。だから早坂の苦悩は分かることはできない。それでも、力を貸すから」

「そうですか。……考えておきます」

「前向きに検討してくれ。早坂の頼みなら断らない」

「っ!!」

 

 身体が強張る。この人が何をどこまで知っているのかわからない。わからないけれど、本気で言ってることはわかる。頼めば、四宮家でも相手取るだろう。

 だけど、これ以上は駄目だ。今回だけにさせないと。でなければ確実に彼は先がなくなる。

 

「独りの限界が来たら頼ってくれ。早坂の思いに応えるから」

 

 それに返事をすることはできなかった。  

 この甘い人間に何を期待しようというのか。何を背負わせようと言うのか。

 たかが使用人1人のことで。

 

 ロープの巻き上げが終わり、ヘリの中へと入る。2人が入るとヘリのドアもようやく閉められ。シートベルトをしていた圭が、それを外して2人に駆け寄った。

 

「愛さんお久しぶりです! 浴衣姿すごいお綺麗です!」

「久しぶり~。圭も綺麗だよ! それにしてもヘリなんて驚きだし!」

「そうですよね。私もびっくりしました。光上さんってこういう事もやっちゃう人なんですね」

「意外とね~。ウチも忘れてたし。光上くんって身体が弱いけど、運動神経とか身体能力が悪いわけじゃないってのも忘れてた~」

「カッコよかったですけどね。光上さん、無理しないって言いませんでしたっけ?」

 

 そこで話題を振られた光上は、無理と無茶は別だと主張。分かっててやるならどのみちアウトだと圭に叱られた。そんな2人に苦笑しながらヘリの外を見る。

 

 大きな花火が見えた。

 とても鮮やかで、大きな花火が。地上のどこからでも見ることができない。(ここ)からしか見ることができない景色。

 

 早坂と圭が食い入るようにそれを見つめ。光上も横から花火を眺める。普通の花火鑑賞とは程遠いが、これも悪くないだろう。

 開始時間にこそ間に合わなかったが、お釣りが来る光景。

 

 それを見て楽しむ彼の手をそっと握った。

 

 




 光上の仕事「四宮パッパに賄賂で迫る」
 圭ちゃんの仕事「光上の代わりに各方面にお願い」

 

修学旅行編について

  • 漫画出るまで修学旅行編待機
  • 18巻の内容までならOK
  • ネタバレ気にしないから更新続行
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