愛の調整は難しい   作:粗茶Returnees

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 みなさん早坂は好きですよね。早坂の作品が一番多いんじゃないですかね。
 わかります。早坂大好きです。


第1話(裏)

 

 秀知院学園は名門校であり、知名度も高い学校だ。そこの卒業生たちが各業界での中心人物となっていくし、日本の将来を背負っている者たちと言えてしまう。したがって偏差値も非常に高い学校であり、授業のレベルも高い。生徒たちは聞き逃すことなくノートを取るし、そのノートの取り方もそれぞれ個性が出る。

 たとえば、極力授業中に内容を纏めながらシャーペンを走らせる人。または、メモ程度で纏めておいて後からノートを纏める人。極論で言えばこの二通りになるものの、先生の話のどこに重点を置くかは個々人でズレてくる。

 教員もまた、どこが重要かは話さない。その判断は生徒たちに任せられる。これも社会で必要な力を養うためだ。

 

「光上ここを答えてみろ」

 

 そんな授業で居眠りなど自殺行為である。そもそもそんな態度の生徒はこの学園にいないのだが、光上晶はその例外となる。

 机に突っ伏して寝ているわけでもないし、肘をついて寝ているわけでもない。ただ、意識が半分ほど飛んでる状態で授業を受けてしまっているだけだ。

 

「えー、っと……。そこは──」

 

 だから新任の教員にはよく当てられる。そして決まって光上はそれを正しく答える。本人にはその意識がないが、他の生徒に『光上の特技は?』と聞けば『半分寝ながら授業を聞いてること』と答えるだろう。

 彼は望んでその特技を身に着けたわけじゃない。自然といつの間にかそれができるようになっただけだ。尚、彼は意識が半分飛んでるということを認識していない。あくまでも本人は「ちゃんと授業を聞いてる」という意識だ。

 そんな彼の様子に生徒たちは慣れているし、2年目以降の教員は狙って当てるようなこともしない。

 

「あれ? 珍しいじゃん」

「なにが?」

 

 休み時間になったところで、同じクラスである少女が彼に声をかけた。理由は言葉の通り、彼が珍しいことをしているから。周囲の生徒たちも声こそかけなかったが、その少女と同じことを思っていた。

 

「珍しいと言うなら、早坂が休み時間に俺に話しかけてくるのも珍しいと思うけど」

「いや休み時間で光上くんに話しかけるのは誰でも珍しいから。いっつも寝てるし」

「休み時間だからね」

 

 そう。彼は休み時間のほぼすべてを睡眠に費やすのだ。昼食を取るときと教室移動のとき、あとは体育の授業のために着替えるとき。この3パターン以外はすべて寝ている。

 不真面目な生徒というわけでもない。彼からすればこれは必要な措置であり、そうしなければ授業に支障をきたすことなのだ。

 

「体力作りのためにランニングだっけ? そのせいで学校にいる間眠くなるのって本末転倒だと思うけどな~」

「成績に影響は出てないからね。これでも夜も睡眠取ってるし、やっぱり必要なことなんだよ」

「半分頭回ってなくてそれなのズルいわ~」

「いやだから起きてるって」

「焦点がウチに合ってないし!」

「あれ?」

 

 光上は基本的に相手と目を合わせて話す。早坂もまた相手の目から情報を読み取るために相手の目を見て話す。お互いにそういう相手だと非常にやりやすいのだが、時折困る存在だっている。

 早坂が一番相手にしたくないのは、生徒会で書記を務める藤原千花だ。天然娘(モンスター)である彼女の言動は読めず、裏工作を失敗させられることもしばしば。

 次に困る相手がこの状態の光上だ。本人は頑なに認めないが、意識が半分しか覚醒してない彼は目の焦点が合わない。ひと月の間に一度合えばいい方である。

 

(弱ってるかぐや様みたいになってくれたらいいのに)

 

 風邪などで弱った時の四宮は思考という概念が消えて欲のままに言葉を放つ。考えが筒抜けの状態だ。寝ぼけた人だって普通はそれに近くなる。もしくは周りの言葉を素直に聞き入れる。

 それなのに光上はそうならない。ボロを出さない。会話だって噛み合う。誘導なんてできない。非常にやりにくい相手だ。

 

「それで……。えーっと早坂? が俺に話しかけたのってなんでだっけ?」

「ウチの名前に疑問持つなし! いやー、光上くんが休み時間に起きてるのって珍しいから、何かあったのかな~って」

「なるほどね~。……早坂ってそんなに俺のこと観察してんの?」

「は!? してないし! 珍しいから話しかけただけだし! みんなだってそう思ってるし!」

 

 あらぬ誤解が刷り込まれかけた。ギャルモードのテンションに任せての否定は逆に胡散臭さが出てくる。この時ばかりはギャルモードに後悔しかけたものの、「そうだよな~」って光上が聞き入れたことで難を逃れた。

 周囲からも早坂が被害を受けかけた、という認識をしてもらえたことで、クラスの人からも誤解を受けずに済んだ。同情の視線まではいらない。

 

「で、ええっと。起きてる理由は難しくないよ。考え事してるだけだから」

「光上くんって考えることあったの?」

「ひどいなー。これでも考えることはあるんだよ」

「ふーん?」

 

 ここで話を掘り下げるか終わらせるか。早坂に選択肢が生まれる。そもそも話しかけるつもりもなかったのだが、いつも一緒にいるグループでじゃんけんをして負けたから話しかけてる。

 起きてる理由は判明した。じゃんけんに負けたことでやらないといけなかったことは終わった。ここで終わって文句を言われても言いくるめる自信がある。

 

 聞かなくていいやって判断しかけたその時、ぼそりと呟かれたのを早坂は聞き逃さなかった。

 

 まさか光上からそんな内容が飛び出すとは思えず、目が丸く見開かれる。

 

 「愛ってむずかしい」

 

 愛。英語で言うところのLove。彼が言った愛はそれであって自分の名前じゃないことはわかってる。

 

「光上くん好きな子でもできたの!?」

 

 ただ、反応せずにはいられなかった。

 自分の侍従が何をしてるのか意識を傾けていたかぐやもギョッとした。

 なにせあの光上である。人間関係において必ず人と一定の距離を保つ人間だ。秀知院学園の理事長の息子であり、将来はその座に着くことが決まっている。その際に必要になるスキルを現在身につけ、磨いている最中だ。

 

 それはパワーバランスを調整すること。ひいては人間関係のバランス調整だ。

 現在は四大財閥の1つ、四宮家の長女である四宮かぐやが在籍している。それを筆頭に各界の重要ポストの子どもたちが在籍している。

 親世代の発言力はそれぞれ大きい。干渉されることは滅多にないが、過去に何度か干渉しようとしてきた例もある。それでも秀知院学園は学校だ。中立を保たねばならない。それを保つのに必要なのは、全方位にゴマすりするか、全方位を黙らせるほどの人物が君臨するかだ。そして後者だからこそ、秀知院学園の理事長は務まるというもの。

 光上晶はそれを身につけねばならない。

 

 しかし、それは先のために必要なのものではなく、現在も身に着けないといけないものだ。

 学校で築いたコネクションは将来に役立つ。見方を変えれば、ここで潰せば将来の敵が減るということ。

 人の性格はそれぞれ。先の競争を考えない人もいるし、考えた結果潰しにかかる人もいる。

 後者が増えれば学園は荒れるし、存在するだけでも学園生活に陰りが出る。光上はそれを起こさせず、なおかつ相手の反感を買わない方法で今の学園生活を陰ながら保っている。

 

 そんな彼の行動を知っている人は少ないが、知っている者は口にする。彼は調整屋(バランサー)だと。

 もっとも、彼は授業中基本的にオフモードであり、意識がはっきりしている圭と会う早朝と放課後ですらオフモードなのだが。

 

 何はともあれ、そうやって必ず人との距離感を調整する彼がだ。そんな彼が愛について考えている。これはもうニュースなのだ。早坂の声を聞いた人全員が驚愕して光上に視線を集める。

 

「光上に好きな人ができた!?」

「誰だ相手は誰だ!?」

「難しいぃぃ!! 光上くんの人間関係で候補なんて出ないわよ!」

「男路線かしら!?」

「それなら相手は会長!?」

 

「……なんかすごい方向に話が進んでるんだけど、ツッコまなくていいの?」

 

 光上に交友関係と呼べるものがあるかは怪しい。「知り合いというよりかは仲良いけど、友達と呼べるかは微妙」というラインを保つからだ。もちろん相手からは友達と思われてる場合もある。

 そんな中で、彼基準で友達と呼べる相手が生徒会会長の白銀御行なのだ。外部生でたゆまぬ努力を重ねる彼に光上は敬意を評し、初めて友達になりたいと思った経緯がある。そんなこともあり、周囲の人間が男で探して真っ先に浮かぶ相手が御行なのだ。既にカップリング本が極秘裏に作られているのは一部の腐女子しか知らない。

 

 秀知院学園は外部生を除けば幼稚舎からの付き合いの人たちが多い。早坂と光上が知り合ったのは小学生の頃で、以来ずっとクラスが一緒なのだが、それも珍しいことではないために特別な意識も働かない。

 それはそれとして、あらぬ誤解が広がるのは面白いことではない。それなりの付き合いということもあり、止めなくていいのかと投げかける。

 

「そういえば日本ってまだ同性愛駄目なんだっけ」

 

「……」

(え、何言ってんのこの人)

 

 クラスが静まり返った。

 早坂もこれには絶句した。

 かぐやは口から魂が抜けかけるもドブを見る目で睨みつけた。

 

(今日にでも消そうかしら)

 

 そう簡単に消せる相手じゃないことは知っている。それでも殺らねばならぬ。己の恋愛成就のためにも。事件なんて揉み消せるし、証拠が残らない方法を取る。

 

(たしかに会長も石上くん以外でよく話しているのは彼よね。同年代だと圧倒的に。……会長はきっと傷ついてしまう(でも、それを利用して傷心状態の会長を私が癒せば!(駄目よそんな方法! もし会長に知られたら)))

 

 脳内で激しい葛藤が行われている。光上の発言から僅か0.3秒のことである。

 そんなことが行われているとは露知らず、光上本人はきょろきょろと視線を動かす。周りを見て、全員が固まってるのを見て首を傾げる。四宮のドス黒い考えには気づかない。

 

 

「みんなって同性愛認めない派? 俺はアリだと思うけど」

 

 

 

「戻ってくれ光上ィィ!!」

「お前とは修学旅行で女の子について語り合いたいと思ってたのに!!」

「キマシタワーー!!」

「会長が攻めかしら! いえあの人はきっと受けよね!」

「待って光上の誘い受けかもしれないわよ!」

「どっちもありじゃない?」

 

(これはもう……殺るしかないわね)

 

 なんだか盛り上がってるな~って他人事のように笑ってる光上を見る。絶句したものの、四宮家の侍従たる者冷静さを取り戻すのも早い。冷静になって光上をじっと見て気づく。かぐやが相当危ない思考に結論づけていることにも気づく。

 

(今は半分以上意識が飛んでる。かぐや様が動く前に片付けないと)

 

 意識が半分の状態の時は眠そうな状態。今は片目が完全に閉じている。これではまともな思考もできないだろう。

 つまり、結論としては「好きな人」→「会長」→「同性愛」→「同性愛はありかどうか」という流れ。

 

「みんな~! 光上くん寝ぼけてるだけみたいだよ~!」 

 

 それなりの付き合いだ。それに光上はその立場上かぐや周りのことも知ってる。つまり、早坂が正体を隠して通っていることも知ってる。知ってる上で、ギャルモードの早坂と普通に接するし、時には裏工作する早坂を周囲に援助している。

 そのお返しとして、光上につきそうになったあらぬ誤解を解いておいた。

 

「やっぱそうなのか~」

「安心した~」

「ガッデム! タワー崩れた……!」

 

(あらそうだったのね! まったく私ったら早とちりしちゃいました)

 

 反応もそれぞれ。ちょっとした騒動もこれで終わり。珍しく寝ぼけてる状態を晒している光上には、後でお礼をもらうとしよう。覚えてるかはさておき。

 人騒がせな出来事だったが、クラス中がこれを機に恋話を始める。もしくは同性愛がありかどうかの論議が始まる。そのうち後者の話題が増えるだろうなって思いつつ、早坂はぽけ~っとしている光上に話しかける。

 

 なんで光上が愛について悩んでいるのかを聞いていないから。

 

「えっとな~。気になる人がいるんだわー」

 

 寝ぼけているせいで間延びした話し方になっている。休み時間も残り少ないし、早く話してもらいたい。

 

「へ~? 誰だれ? 毎日のランニングで会ってる子?」

 

 早坂は光上がランニングで圭の新聞配達に同行していることを知ってる。元々光上は休み時間でも寝る人ではなかった。しかしある日からそれが必要なこととなり、放課後にそれを聞いた時「以前のコースから変更した」と聞き、その流れで圭の新聞配達に同行していると知ったのだ。

 さすがにこの場でその名を出すのはやめておいた。御行にまで影響が出たら主人に何を言われるかわかりきってる。

 

「いやいや違うよ。さすがに中学生相手はないよー」

 

 圭のあずかり知らぬところで可能性が閉ざされていく。面識がない早坂でもさすがに少し同情した。

 

「そうなの? じゃあ誰? 誰にも言わないから教えてほしいな~」

「うーん、まぁ早坂ならいっかー」

 

 光上の早坂への評価は高い。四宮家の侍従を完璧にこなしていること、必要とあらば何人ものキャラを使い分けること。その他にもいくつかの評価点があり、表立って接さないものの早坂を信用していた。

 早坂が光上の横へと移動し、ちょこんとしゃがみ込んで耳を傾ける。光上が顔を近づけ、周りには聞こえないように小さく囁いた。

 

 くすぐったいなと思った。

 

 何よりも、聞かない方が良かったと思った。

 過去の自分をちょびっと恨んだ。

 

 なにせ、光上が口にした相手は──

 

「ハーサカさん」

 

 自分(別人)だったのだから。

 

 

 





 1話目で色がついてぽかんとしてます。最大限の感謝を。

修学旅行編について

  • 漫画出るまで修学旅行編待機
  • 18巻の内容までならOK
  • ネタバレ気にしないから更新続行
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