愛の調整は難しい   作:粗茶Returnees

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第21話

 

 秀知院学園では数多くの部活動が存在する。日本で主流の部活動はもちろんのことながら、マイナーとされているものもあれば、TG部のように他では見ない部活も存在する。

 その多様な部活動のうちの1つ、マスメディア部。おもしろ情報からゴシップまで何でもござれ。この部活動の対象となるネタは「書きたいと思ったこと」である。対処など不可能。彼女たちのパパラッチ力は学園随一。他にパパラッチなどいないから。

 

 パパラッチとは言ったものの、彼女たちは礼節を弁えている。昨今すっかりと聞き馴染みある言葉となってしまった残念なマスメディアこと「マスゴミ」。仕事ではなく趣味でやっている分、彼女たちのフットワークは軽く、物腰も柔らかい。無理のない範囲での取材を心がけ、相手と心地よいやり取りで終わらせるようにしている。

 

 そんな彼女が今回行ったのは事前調査。調査内容はもちろん生徒会選挙。立候補者は3名であり、現段階での支持率を割り出すもの。

 アンケート調査であり、回答を断る人も当然いる。ふざけて2人以上の名前を出す人もいたため、有効回答は絞られた。

 

 その有効回答率は驚愕の11%!! 高等部の3学年合わせての11%である! その数は87名。3桁にもいかない悲しい結果。もう少し答えてほしいものだ。それでいいのか秀知院学園高等部。しかしこれが実状でもあるわけで、選挙への関心の薄さも表れている。

 

「先輩ぶっちぎりじゃないですか」

「御行くんすごい人気ですね~」

 

 回答率こそ悲しいものの、この予測速報は情勢の参考にはなる。立候補者の1人である御行の支持率は脅威の50%超え。他2人を圧倒している結果である。選挙活動しなくても勝てるんじゃなかろうか。そう思える程の数値。

 

「いやあくまで予測だ。他の候補者の活動次第で大きく変わるだろう。油断はできない」

(いやこれ完全に勝ったろ!)

 

 相変わらず面の皮が厚い御行だった。内心では勝利を確信している。

 

「潜在票が全部他に流れたら逆転負けだしな」

「怖いこと言うなよ!」

「光上くんこんにちは~」

「どうも、ご無沙汰してます」

「2人とも久しぶり。で、白銀はこれ見て油断してたと」

「油断なんてしてないって」

 

 あくまで冷静なフリをする御行。彼の前にそんなもの無意味だと理解しているが、他2人相手だと話が別だ。その体裁を保つため、見栄を張り続けた。光上もその意図を汲んで話を合わせる。

 

「去年の予測速報を覆したのが白銀だもんな。そりゃあ油断なんてしないか」

「そんなこともあったな。あの時は必死で予測速報なんて見ていなかったが」

 

 めっちゃ見てた。劣勢であることを知り、焦りに焦った。どうすれば票を集められるか考え、支持率の高かった過去の政治家たちの手法を調べ、短期間で身につけて実践。大立ち回りをすることにはなったが、それによって辛くも勝利を掴んだ。

 それが去年の生徒会選挙のこと。四宮も四宮で、それに合わせて裏で動いていたわけだが、彼女にとっても苦い記憶である。

 

「当然ですけど、去年のみゅー先輩のことは知らないんで。そういう話新鮮で面白いっすわ」

「俺たちはそういう話をするタイプでもないからな」

「そういや前生徒会メンバーはそのタイプばかりか。藤原さんは怪しいけど」

「私だって話していいことと駄目なことの区別はつきますよ」

「他人の恋話は?」

「聞きますけど言いふらしません! そうする人のモラルを疑います」

「その場を爆撃する人がよく言えますね」

 

 失礼ですねと腕を組んだところで石上からの横槍。その言葉は柔らかなボディに突き刺さった。可愛らしく頬を膨らませた藤原が石上に詰め寄り、石上は戸惑いながら後退していく。そのまま壁に追突し、藤原が壁ドンしているような状態に。石上、乙女顔になる。

 

「何を見させられてるんだ?」

「気にすることじゃない。考えたら負けの部類だ」

「慣れてるなぁ。生徒会って本当に仕事してた?」

「常に忙しいわけでもないんでな」

 

 仕事はしてた。忙しい時はその業務量に飲み込まれそうになりながら。

 それはそれとして、忙しくない時期も存在するわけで、そういう時は息抜きもするわけだ。遊んでいたということに関しては否定しない。

 

「さて、他の候補者……本郷は同学年だし、さすがに多少は知ってるが。もう1人は1年生なのか」

「あ、僕に聞かれても答えられないですからね」

「なんの予防線だ?」

「ええっと、1年生の子は~。伊井野ミコちゃんですね」

「伊井野!?」

「知ってんじゃん」

 

 先程の予防線とはなんだったのか。他者との交流が、全くと言っていいほどなさそうな石上。そんな彼でもこの名前は知っている。伊井野ミコとは1年生の間では有名人なのだから。

 

「伊井野は成績で1位を取り続けてる奴ですよ。まぁ、有名なのは別の要因もあるんですけど」

「あの子も悪い子じゃないんだけどね」

「光上も知ってるのか」

「何度か話したことある仲だし」

「ちょうどそこでビラ配ってます。僕が説明するより会ったほうがすぐ分かりますよ」

「ふむ……」

 

 そんなわけで、御行たちはビラ配りをしている伊井野に声をかけに行った。敵情視察である。これは相手を知るために重要な行動。自分の競争相手がどういう人物なのか。それがわかっているのとわかっていないのとでは、明確な競争心も出てこない。知らなければ、恐れるか過小評価するかだ。

 

「こんにちは伊井野さん。頑張ってるね」

「光上先輩。はい、選挙活動は大切な期間ですから」

「政治家の娘より政治家っぽいね」

「あはは光上くん。それは誰のことですか~?」

 

 藤原の指が光上の背中をグリグリと押し付けられる。この2人こういう仲だったっけなと首を傾げつつ、御行は伊井野に声をかけた。何やら上から目線なような気がしなくもない。

 

「え、この人1年生に対抗心抱いてる?」

「そんな引き気味に言ってやるな。実はちっちゃい男って見えてしまうじゃないか」

「光上先輩それはやめたげてください」

「お前たちは俺の後ろで何を言っている!?」

 

 御行でもこれは聞き流せなかったらしい。

 片や地道に活動する候補者。片や珍道中を繰り広げる候補者。これは客観的に見たら後者の方が分が悪い。御行たちのことだった。

 

「ビラ配りか。たしかに政策を伝えるのに適してるね」

「やはり光上先輩はわかってくれるのですね!」

「光上くんの好感度高くないですか?」

「ふ、藤原先輩!?」

「私のことも知ってくれてるんだ~」

「気づくのおっそ」

 

 さっきから変なことをしていた者の1人なのに、伊井野の目には映っていなかったらしい。都合のいい視界だなとか石上は思った。

 

「あの……もしよろしければ……。私が生徒会長になった暁には、藤原先輩が副会長になっていただけませんか!」

「えぇーー!!」

 

 これには言われた藤原自身もびっくり。そのおかしな瞬間を目の当たりにした御行と石上も驚愕し、光上ですら驚いた。まさか、まさかの人事である。藤原の普段の様子を知っている人であれば、正気の沙汰とは思えない人事だ。

 

「なんでよりによって藤原を選ぶんだ!」

「この人のことを知ってたら絶対出てこないセリフですよそれ!」

「失礼って言葉知ってますか2人とも?」

「いやいや藤原を副会長にするよりかは光上に交渉したほうがまだまともだぞ!」

「おっと、これは俺もまとも枠から外されてないか?」

 

 歩く起爆装置と同じ部類に入れられたことに、光上は不服そうな顔をした。どちらかと言えば、御行の方がその部類に入るんじゃないかと言ってやりたい。話が逸れるから言わないでいるけども。

 それよりも、仲間ですねと()()()()を向けてくる藤原に対応した。断じて同じ部類ではない。これほど不名誉なことがあってたまるかと主張する。

 

「光上先輩には庶務をお願いしてるので」

「そうなんですか光上先輩!? 説明責任を果たしてください!」

「総理以外ではなかなかに聞かないセリフを言われたな」

「話を逸らさないで!」

「逸らすつもりもないし。伊井野さんが言った通りだよ」

「光上だしなぁ」

「みゆき君いきなり何納得してるんですか?」

「なに。俺は事前に聞いていたのでな」

 

 元生徒会メンバーが、2期連続の会長を目指す御行に協力するのは自然なこと。会長を目指している伊井野の友人である大仏が、伊井野陣営にいるのも自然なこと。しかし、光上はいわば無所属だ。どこにも属さず、誰の敵にも味方にもならない。だからこそ、()()()()()()()()()()()、自分の所属を決める必要もない。

 誰が会長になろうとも生徒会に入れる。これまでの積み重ねと人柄によって成立する手段。もちろん伊井野はそれを承諾済み。駄目元での勧誘だった。欲を言えば味方になってほしいものの、新生徒会に入ってもらえるなら十分な見返りだ。

 

「光上くんもなかなかな手段取りますね~」

「勧誘されたから応えただけ。来るもの拒まずだよ」

「くぅぅ! 光上先輩じゃなかったらプレイボーイとか言ってやるのに!」

「口に出てるぞ石上」

「まったく。貴方方は失礼なことばかり。そういう所にしか目が行かないんですか?」

「今言われるとグっとくるな……!」

 

 伊井野は尊敬する先輩たちの評価が低いことに憤慨した。そこで、伊井野は最も尊敬する藤原千花のプレゼンを開始。彼女は優れた先輩なのだと御行と石上に改めさせる。

 伊井野曰く、藤原は過去のピアノコンテストで全国大会金賞の実績があり、3カ国語を話せるトリリンガル。それでいてレベルの高いこの秀知院学園で普通の成績を取る秀才。最後だけ褒めてないことには、伊井野本人の自覚がないようだ。

 

「藤原先輩は私が足元にも及ばない天才なんです!」

「会長……知ってました?」

「まぁ、噂程度には」

「僕と同じ空っぽの人間だと思ってたのに……」

「私の人事はおかしくなんかありません! ねぇ光上先輩!」

「え? ……まぁ………………うん。そう、だね」

「あれ!? すっごい溜められた!?」

 

 破天荒ぶりに目が行ってしまい、それでマイナス評価がついてしまうものの。藤原は仕事をする時にはちゃんとこなせる。伊井野と藤原は、それはそれでバランスが取れるのではないかと考え、そういう生徒会もありだなと結論付ける。

 しかし、一抹の不安が残るのも事実で、それがこの微妙な返しの原因となっていた。藤原千花の素は制御不能なのだから。

 

「と、とりあえずですね。予測速報ではあの票で劣勢ですが、理念は引けを取りません。今後の活動で覆してみせます。藤原先輩を取り入れるためにも!」

「絶対に負けません!」

「ナチュラルに寝返るなよ」

「藤原さんは尻軽だなぁ」

「あ……」

 

 裏切り。それは光上が嫌う行為である。藤原はノリで過ごしてる部分もあるため、これで完全に裏切ったとは言えない。しかし、それはそれで光上のセンサーに引っかかるわけで。藤原は伊井野から貰ったビラを片手に一目散に逃げ、光上も伊井野からビラを受け取ってから追いかけるのだった。

 

「お二人が新生徒会に入っていただけたら……」

「ミコちゃんまずは地道な活動から頑張らないと」

 

 伊井野が想像の世界に旅立つのを大仏がすぐさま止める。

 それを見た御行は微妙な顔をするしかなかった。どうやら彼女は憧れる相手を過大評価してしまうようだ。

 

 

 

「僕としては、光上先輩が生徒会に入ることを決めてるのが意外ですね。あの人、どこかに所属するのを避けるじゃないですか」

「そうだな。生徒会は名目上中立ではあるが、生徒会という組織に所属することになるのも事実。光上が断る理由の半分がそこだ」

「半分?」

 

 伊井野たちと別れ、御行と石上は廊下を歩きながら光上のことを話していた。石上が知ったのもつい先程のこと。さっきは驚きの連続で聞くタイミングを逃したため、今こうして話題に出している。

 

「もう半分は、光上曰く向いてないって話らしい」

「? 向いてないことはないと思いますけどね」

「誰もがそう思うさ。俺もそう思った。光上を知るまではな」

「勿体ぶりますね。まぁ、本人がいないところで踏み込んだ話をするのも気が引けますし。今は聞かないでおきますけど」

「そうしてくれると助かる」

 

 石上は地雷を避けられるタイプだ。他の人よりも敏感にそれを察知できる。もっとも、相手が自覚していない地雷にはしっかりと踏み抜くこともある。今回は察知できる地雷。石上はそれを避けることにした。

 

「光上が勧誘を受けてくれた理由は、納得できるシンプルな話だったな。あいつ、誰の味方もしないようにしてるけど、好き嫌いはあるし」

 

 ロボットなんかじゃない。他の人と同じように感性だって存在する。こういう人間が好きで、こういう人間が嫌い。こういう人とはウマが合う。

 誰にだってそれはあって、光上にも当然それがある。

 

「光上は、ひたむきに努力する人が好きなんだよ」

「あー。なるほど」

 

 そう言って思い返す。光上を新生徒会メンバーとして勧誘した時のことを。

 

「去年断られておいてなんだが、無謀を承知で今回も来た。俺が会長になったら生徒会に入ってくれ!」

「いいぞ」

「簡単には承諾して…………え? 今なんて?」

「だから、生徒会の勧誘を受けるって」

「…………マジで!? 去年は頑なに拒んでたのに!? なんで!?」

 

 目を丸くする御行から視線を逸らし、頬を掻いてから意を固めたように向き直る。

 

一歩も引けない事情ができてな(あの子の涙には勝てないからな)

 

 その顔は、御行がよく知る覚悟を決めた顔だった。

 

 

 

修学旅行編について

  • 漫画出るまで修学旅行編待機
  • 18巻の内容までならOK
  • ネタバレ気にしないから更新続行
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