少女漫画。それは男子にとっては手を出しにくいジャンル。「友情・努力・勝利」に心を惹かれる男子たちにとって、恋愛を描く作品は手を出しにくい。少女受けを前提として作られている点も理由か。「イラストの雰囲気が」とか男子はよく言って敬遠しがちである。
しかし少女漫画だって数々の名作を打ち出している。その中には男受けもいい作品だって存在するわけで、現在白銀御行が読んで大号泣している作品もその一つである。
「ほら泣いちゃうでしょ!」
「泣いちゃうぅ!!」
「めっちゃ恋愛したくなったでしょ!」
「めっちゃ恋愛したくなっちゃうう!!」
彼がその作品を読んだのは、妹の圭がリビングで読んで大号泣していたからである。彼も「漫画ごときで」なんて言ったのだが、それを聞いてカチンと来た圭に読んでから批評しろとガチギレされた。
たしかに内容を知らずに評価するのもおかしな話。圭がお風呂に行っている間にサクサクと読み進めた御行は、案の定泣き所でボロッボロに泣いたのである。「漫画を馬鹿にしてごめんなさい」とは彼の心からの謝罪だった。
ひとしきり泣いたところで気持ちを整理し、これは使えると判断した。何に使うかと言えばもちろん、四宮かぐやとの恋愛頭脳戦である。これほどの名作だ。彼女にもぜひ読んでもらい、その効果を利用して少女漫画脳に染め上げさせる。その勢いで告白させられれば完璧。それが御行の作戦。
だが今回はそんな簡単に話が進まない。
(あれを光上さんに読んでもらったら……。もっと私を意識してくれるかな?)
お湯に浸かりながら圭も作戦を練っていた。早坂からの情報提供により、もっとアピールしなくてはと圭の積極性が増しているのだ。光上は圭を恋愛対象外にしている。中学生という枠組みがあるせいだ。
しかし3歳差とは珍しいものでもない。大学生で言えば1年生と4年生。ぎりぎり同じ枠組みであり、社会人となればなんの気兼ねもない。つまり、障害となるのは枠組み。それを取り払えるほどに女性として見てもらえたら、もうゴールが近くなる。
そのためにあの漫画を使いたい。自分の行動だけでなく、多角的な刺激を光上に与えるのだ。
(私を見てくれてるけど、1人の女子としては……って感じだよね)
圭は着実に光上の分析を進められていた。早坂という強力な情報提供者だけでなく、四宮による太鼓判という後押し。男子の意見として、極々偶にだけ石上から聞くこともあり、クラスの男子の会話を聞いてみたりしている。気になれば聞いてみたりしているのだが、そのせいで圭は誤解を生んだりしている。
「中等部内で白銀さんの好きな人がいる」という噂が出来上がっていることを圭は知らない。半分だけ当たっていて耳が痛いが、知らないことは時として本人を守るものだ。
お風呂から上がり、寝間着に着替えたらリビングへ。どうやって光上にあの漫画を渡そうかと頭を悩ませていたのだが、その思考も中断させられる。
「あれ?」
テーブルの上に置いてあったはずの漫画がない。さっきまで読んでいたのは御行だ。部屋に入ってみると、御行は勉強していた。邪魔をするのは少し気が引けるがそれどころではない。
「お兄ぃ漫画どこ置いたの」
少し高圧的になっているのはご愛嬌。無音じゃないと集中しきれない御行は、圭に声をかけられたことで手を止めた。
「あーあれな。面白かったからぜひ生徒会のみんなにも勧めようと思って。少しの間貸してくれないか?」
「無理」
「えっ……」
借りられると思って組み立てていた御行の計画が崩れ去る。これでは四宮への仕掛けができない。なんとしても許可を貰わねばならないのだ。
まずは誠意を見せる必要がある。椅子に座った状態で肩越しに頼むのは、人に頼む態度ではなかった。そう思った御行は椅子から立ち上がり、綺麗な斜め45度で頭を下げる。
「四宮たちに勧めたいから貸してください」
「四宮副会長に? …………無理」
「な、なんで!? 理由を教えてくれ圭ちゃん!」
「私も貸したい人いるから。お兄ぃのじゃないんだから、私に優先権があるのは当たり前でしょ」
「うぐっ……! しかしだな……!」
御行はなんとしても明日学校に持って行きたかった。計画をすぐに動かしたいという欲求と、「名作って人に勧めたくなる」という誰にでも発生する欲求があるせいで。白状すれば、勧める時に語りたいという気持ちもあるのだ。
しかしそれを圭に言うわけにもいかず、肝心なところをはぐらかしながら交渉するしかない。それでも圭が簡単に引き下がるわけがないのだ。圭だって自分の作戦のために、この漫画を光上に読んでもらいたい。自分の恋路を邪魔するんじゃないと、敵を見るような目で御行を睨む。
「四宮たちならすぐに読み終わる! 明日一日だけでいいんだ!」
石上は漫画を読み慣れているし、四宮は速読しても頭に入るタイプ。気に入ったものはガッツリ読み込むタイプでもあるのだが、そこは御行の知るところではない。藤原に関しては考えてもわからないからその場で対応するしかない。
「私が貸したい人もすぐ読み終わる人だから! お兄ぃが一日待てばいいでしょ!」
光上も読むのは早い方だ。作者の手法とかを読み解こうとし始めたら長いが、内容だけならすぐに終わる。仮に持ち帰ったとしても、その翌日の早朝に持ってきてもらえばいい。比較的貸し借りがしやすい相手だと言えよう。
「なんでそんな急ぎなんだよ!」
「お兄ぃに言われたくないし!」
反抗期であることも相まって圭がヒートアップする。ガミガミと食らいつく圭に御行も反感を抱き、負の連鎖が始まってしまった。反抗期が進み過ぎて、こうやって兄弟喧嘩になることも珍しい。何分間も言葉をぶつけ合うのは圭が中等部に入学する以来か。
「千鳥足退勤byシラフ」
そんな最中に父親の帰宅。帰ってみれば息子と娘の喧嘩の声が耳に飛び込んでくる。いったい何年ぶりだろうかと思いつつ、面白そうだから話を聞くことにした。
「あっパパ聞いてよ! 私の漫画なのにお兄ぃが生徒会の人に貸そうとしてんの! 私だって貸したい人いるのに!」
「だから! 明日のうちにみんな読み終えるから明日返せるんだって!」
「ふむふむ……。ちなみに圭ちゃんが貸したい人って誰?」
「誰だっていいでしょ!」
父親は悟った。これ、光上に貸したいだけなんじゃないのかと。証拠などないが胸のうちに確信を抱いている。面白センサーがバッチリ反応している。だがこれをどう料理しようか。すぐに答えを出しても面白い反応は見れそうだが、娘の必死の隠蔽を見ていたい気持ちもある。
「間を取って俺が借りよう」
「「ふざけんな!!」」
「息ぴったりだな」
場をかき混ぜても被害しか発生しなさそうだ。藪はつついていて楽しいが、蛇に噛まれたくはない。一方的にコントロールして鑑賞するのが大人の楽しみ方だ。動物園とかそういう思考の行き着いた先だと思っている。
再びいがみ合う2人をよそに、紙袋の中に入れられている少女漫画を手に取る。『今日はあまくちで』というタイトル。今時の子はこういうのがいいのかと、認識のすり合わせのためにパラ読み開始。ついでにこの兄弟喧嘩にも終焉をもたらそう。
「晶くんこういうの読むかぁ?」
「勧めたら読んでくれるもん!」
「父さんいつの間に光上を下の名前で呼ぶようになったんだよ!?」
「御行が月見してる間に。一緒に晩御飯食べたぞ」
「聞いてねぇー!!」
息子と娘がそれぞれ違った反応を示す。御行は知らぬ間に友人と親の仲が深まっていることに戦慄し、圭は光上の人の良さを馬鹿にするなと機嫌を損ねた。機嫌を損ねたのだが、光上に貸すと言っていなかったはずだと遅れて気づいた。
一瞬で血の気が引き、震えながら父親の方に視線を移す。漫画に目を通していた父親と目が合い、ニヤリと笑われる。
「いやっ、ちがっ!!」
「いやぁいいんじゃないかー? こういうのを勧めるのも可愛らしいじゃないか」
「恥ずかしいからやめてぇぇぇ!!」
「ん? ああ。圭ちゃんは光上に勧めたかったのか。それならそう言ってくれたらよかったのに。どのみち生徒会で読ませられるし」
「そう言ってやるな御行。圭だっておとし──」
「うっさいしね!!!」
「ローリンぐっ!?」
「そばっとぉ!?」
羞恥に耐えきれなくなった結果、圭は父と兄にローリングソバットを叩き込んだ。どこで覚えてきたのかは不明だが、2人を沈めこむには十分の威力を発揮していた。
光上は圭のお願いもあり、生徒会役員になった。将来を考えれば必要な経験であったのも事実。それが後押しとなったのである。そんなわけで、御行が四宮に漫画を読ませる過程で、光上にも読ませることは可能だった。御行と圭のどちらにも利点がある作戦だったと言えよう。
しかし乙女の心がそれを許さなかった。好きな人に恋愛漫画を読んでもらいたいなど、結ばれたいという想いが見え見えなのだ。そんな恥ずかしいことを兄に頼めるほど圭は大人じゃない。反抗期ということも然り、身内だからということも然り。
とはいえ、父親のせいで露見してしまった以上、その手を使わない手段はない。御行にひと芝居打たせて、みんなが読む流れを作りさえすれば光上も読んでくれる。漫画の効果は実体験中。光上にも影響があるに違いない。
(もし、うまくいったら……。お、お付き合いとか……っっ!!)
想像が膨らみ胸が苦しくなる。自室に入った圭は布団に包まって悶えた。彼のことを考えれば考えるほど恋しくなる。この気持ちを叶えたい。伝えるだけじゃなくて、叶えたい。
「みつがみさん……」
スマホの画面を操作し、誕生日に彼と撮った写真を表示する。プリクラで撮った写真。知識としては知っていたようだが、彼はプリクラで実際に撮ったことはなかった。それを聞いた圭は一計を案じ、人が映れる範囲は狭いのだと説明した。デコることを前提とするため、その範囲を予め決められているのだと。
彼は嘘に敏感である。普通なら気づかれる。しかし圭に一切の悪意がなかったことと、恋愛が絡むと嘘に鈍感になることが功を奏した。そういうものなのかと光上は納得し、圭と肩を寄せて写真を撮ったのである。
「これが当たり前になってほしい……」
友達と撮る時よりも近い距離での写真。誰もが男女の関係なのだと思う写真。この距離を当たり前にしたい。
スマホを胸に抱えながら。いつの間にか圭は眠りについていた。
そして翌日。放課後に圭は高等部に足を運んでいた。光上に例の漫画を読んでもらうため。翌朝に御行と和睦し、光上にも読ませるという条件で貸し出した。迷うことなく生徒会室へと足を運ぶと、中には伊井野を除いたメンバーが勢揃い。御行の対面に光上が座っており、漫画を速読している。
「あ、圭ちゃんだ~! 遊びに来てくれたの~?」
「うん。漫画読んでるみたいだけど」
「『今日あま』だよ! 圭ちゃんは知ってる?」
「知ってるよ! 兄さんに勧めたの私だし」
「さすが圭ちゃん~!」
最初に気づいたのは藤原で、スキンシップを取りながら話しかける。圭もいつもの調子でそれに反応し、自然さを醸し出す。
(圭にすぐ抱きつくだなんて。なんて下賤な!)
四宮だけ闇の深い目をしているが、その四宮も含めて全員が圭の来客を受け入れている。御行は作戦を知っているし、光上は今朝のうちに高等部に来ることを聞いていた。というか、生徒会選挙前にあのように言われたのだ。どこかしらのタイミング来ることは予想していた。
「皆さんはご存知じゃないようですね」
「僕は先ほど読み終えましたよ。光上先輩はもうじきってとこです」
「四宮副会長は?」
「私は漫画をあまり読んでこなかったので──」
「そうですか……。私のオススメだったんですけど……」
「ですが。この漫画はどうやら好評のようなので、ぜひ読ませてもらおうかと!」
「本当ですか! 読み終えたらぜひ教えてください!」
「ええもちろん!」
ちょろい女であった。御行を前にしては構えて駆け引きを行うというのに、圭が相手だとあっさりと意見を受け入れる。その軽さに御行も石上も驚いた。「あんだけ渋っていたのに」と。
「ふぅ。たしかにこれは面白い作品だな」
「おっ、光上も読み終わったか! どうだった!」
「主人公とヒロインの魅せ方が上手いな。話の展開とか、関係の変化と心情の変化が──」
「そういうことじゃねぇんすよ!! 誰が作り込みの評価を聞いてますか! 感想ですよ感想!! 語彙力崩壊させたらいいんすよ!」
「落ち着け石上! 気持ちはわからなくもないが!」
単純な味の評価を聞いているのに、この肉は何産だとか、どういう調理工程かの話をされてる気分だった。これには石上が反応する。もちろん多少わざとオーバーにしてる。圭がオススメの作品。光上が読み終えた場にその圭がいる。何かしら考えがあるのだと察しているのだ。
だからこそ、いの一番に反応した。鈍感系主人公など求めていないから。
石上はシャウトとは裏腹に、光上の話が他人に勧める時ならもってこいだなと思っていたりする。
「語彙力崩壊したら感想なんて言えないだろ」
「正論腹立つなぁ!」
「エンジンをかけるな石上! 一応先輩が相手だぞ!」
光上はその辺り気にしないタイプだ。毎年フランスに行ってそちら学校との交流もしているため、年齢の上下を気にしていない。日本の上下関係を息苦しく感じているぐらいだ。もちろん敬語は使っているが。
「もっとこう……あるでしょ! 2人の恋愛面とか! ヒロインの心情を想像したらとか!」
「ヒロインの気持ちはヒロインしかわからんぞ?」
「なんでそれで現文の成績が良いんだよ!!」
「ま、まぁ成績の取り方はまた別だしな……。それに、光上の恋愛観が影響してるかもしれんな」
「え、光上さん恋愛観なんて持ってたんですか?」
「四宮さんは俺をなんだと思ってるんだ」
漫画の感想から話は逸れるが、これはこれで圭からすれば収穫のある話。兄のファインプレーに心の中で感謝する。
光上の恋愛観を具体的に聞けるチャンス。あわよくば好みとか聞いておきたい。そうして膨らむ気持ちを抑えつつ、圭は視線を光上に送る。その視線に期待が篭っていることは感じ取り、光上は困ったように苦笑した。
「恋愛観なんて言ってもなぁ。全員で言う流れか?」
「あ! それでしたら心理テストやりましょう! 実は新しいやつが出てて、やりたいと思ってたんですよ~。ミコちゃんも来たことですし、みんなでやると楽しいですよ!」
(藤原書記ぃぃぃ!!)
突然のことについていけずにぽかんとする伊井野と、期待を粉砕されたことにぽかんとする圭。そんな2人をよそに、藤原はいそいそとパソコンを起動する。これには四宮も焦る。自分が把握していない心理テストだと、核心部分を露呈しかねない。
だが止めるわけにもいかない。恋愛が絡んだ話で藤原の相手をするなど、爆弾処理と変わらないのである。いつ起爆するかわからない相手。わざわざ危険を犯すなど愚の骨頂。
「あったあった! それじゃあ読み上げますね~」
『あなたは子供です。今日は親と遊園地に来ています。途中で迷子になってしまいましたが、しばらくして親が見つけてくれました。それはどのアトラクションの近くだったでしょう?』
「選択肢がありますので、その中から選んでくださいね!」
『1、観覧車。2、ジェットコースター。3、お化け屋敷。4、メリーゴーランド』
その選択肢を真剣に考える人が3人。白銀兄妹と四宮である。話の流れからして、この心理テストは恋愛がテーマのもの。心理テストなのだからどれを選んでもいいのだが、3人にとってはどれかが正解なのである。
「遊園地か。行ったことないな」
「そうなんですか? 一通り一般的なものは把握してるってお聞きましたけど」
「知識としてな。初等部に入学した時に親がフランス行ったから」
「そんな時期から!?」
「で、でもお仕事ですし、ご両親は光上先輩を大切に思ってらっしゃると思います!」
「あはは、伊井野さんそんなに気を遣わなくていいよ。親とは定期的に会ってるから」
伊井野の両親も仕事が忙しく、なかなか子供の学校行事を見に行けていない。それでも伊井野は両親に誇りを持っているし、愛されてると自覚している。だから、光上もきっとそうなのだと励まそうとした。
光上はその優しさを受け止めながら朗らかに笑った。親と過ごす時間は一年の中で短いものの、その時間は充実しているものだ。光上もまた、親からの愛をもらっている。
「言われてみれば私も経験が無いですね……」
「そ、そうなのか?」
その話を聞いた四宮が反応し、御行が気まずそうに聞く。財閥のご令嬢。別邸に住んでいることから、察することはできるわけだ。
「でしたら生徒会メンバーで今度出かけません? 都内だとドームシティありますし、千葉に行けばディズニーありますし」
「私が言いたかったのにぃぃ! 石上くんのばかー!」
「えぇ……」
「あんたそういう所が駄目なのよ」
「これは理不尽じゃ……」
心理テストから話が脱線していっている。生真面目な伊井野がそれを指摘して話を戻した。空気を読めているのかどうか怪しいラインだが、光上と藤原からお礼を言われたので伊井野からすれば大成功である。
「みなさん選びました? まだ悩んでる人はこの瞬間に直感で決めてください。そして! 自分の名前が書かれているこのマグネットを! このホワイトボードに貼り付けます!」
「いつの間に用意したんだ!?」
「私の名前まである……!」
ホワイトボードには1から4までの数字が書かれており、ボードの端にそれぞれの名前が書かれたマグネット。圭の名前までちゃっかりと用意されていることに一同驚愕。
そんな面々にそれぞれのマグネットを手渡し、藤原はいの一番に貼り付ける。それに伊井野が続こうとしたところで止められた。
「誰かのを見て決めては心理テストになりませんからね! みなさんには1人ずつ私に言ってもらいます。全員分聞いてから私が貼りますので!」
「なるほど。さすが藤原先輩です!」
「でしょ~」
(くっ! 藤原書記にしては抜かりない!)
(やってくれますね藤原さん!)
光明が見えたと思ったらしっかり塞がれた。今日の藤原は非常に手強い相手のようだ。
伊井野が藤原に言い、そこからは石上、光上、圭、御行、四宮の順番で答えた。全員分を聞いたところでマグネットを貼っていく。記憶違いも起きることなく貼れたあたり、藤原の本気度が垣間見えた。
「この心理テストで分かるのはズバリ! あなたが心惹かれる性格のタイプです!」
「恋愛観からズレてません?」
「恋愛という括りで同じですよ」
「幅広いっすね」
平静を装っているものの、焦っている面子が半数ほど。白銀兄妹と四宮に加え、他の部屋で傍聴している早坂である。暇つぶしに勝手に参加しなければよかったと後悔。しかし結果は気になるのでイヤホンを外せずにいた。
「1番を選んだあなた! 穏やかで誠実な人がタイプでしょう!」
「解説もある。結構しっかりしてるんですねこれ」
テンポよく読み上げられていき、それが4番まで続く。それぞれ表情を取り繕って反応しているが、『今日あま』を読んだほとんどのメンバーはそれどころじゃない。少女漫画脳に染まってしまっているのだ。
心理テストができて満足した藤原はホワイトボードを片付け、各々も職務を始めたり恋愛頭脳戦を始めたり。『今日あま』を読んだ上に心理テストをやった圭は、光上の近くに行けずにいた。そんな彼女を藤原が後ろから抱きしめながら小声で話しかける。
「光上くんのタイプがわかったね~」
「ち、千花姉ぇ……。私は別に……」
「光上くんこういうの絶対正直に答えるからね。圭ちゃん可能性大きいよ!」
「あぅ……」
そう。圭の恋路に気づいている面々は、光上の回答と心理テストの答えを照らし合わせて思ったのだ。光上が回答したタイプって、だいぶ圭に当てはまる性格じゃないかと。藤原は圭の恋に気づいていないが、光上の好みに一番近いのが圭だとわかり、2人がくっつかないかな~と期待しているだけである。
そうだったらいいな。けどもしかしたら思い込みかもしれない。そう思っていた圭にとって、この藤原の発言は大きい。
真っ赤に染まり上がった顔を光上に見られないように、圭は藤原にしがみつくのだった。
(あの女……圭に何をしたの……?)
四宮からドブを見る視線を注がれたのは言うまでもない。
(圭ちゃんかわいいぃぃ~!)
それに藤原が気づかないのも、いつものことだった。
修学旅行編について
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漫画出るまで修学旅行編待機
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ネタバレ気にしないから更新続行