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光上晶は恋愛関係に非常に疎い。これは彼がこれまでそういったものに触れなかったことが1つの要因だ。誰とでも一定の距離を保つため、そういった踏み込んだ話に触れる機会が少ない。恋愛をテーマにした作品にあまり触れていないのも要因。さらに言えば、彼の家庭にも要因が潜んでいるのだが、なんにせよ彼は恋愛に疎い。
しかしこれはそのままにしていいことではないと、彼だって以前から思っていた。御行と四宮を参考例として、恋愛を学ぼうと自ら打開策を打ち出している。早坂に言わせれば、参考例が悪いのだが。
さらに課題は別方面からも来た。これまで仲のいい後輩という距離感で接していたと思っていた圭に、女性として見てほしいと言われたのだ。そこまで言われたら彼だって気づく。いくらなんでも察する。察した上で、たしかにそういう見方をしてこなかったことも自覚した。
御行の妹という認識から、白銀圭個人へと認識を改めるまでは非常に早かった。しかし、そこに男女のそれを一切挟んでこなかった。圭には好感を持っている。だが、女性としてどうかと聞かれたらまだ答えられない。光上はその見方をしてこなかったのだから。「仲はいいけど付き合えるかは別」なんてよくある話だ。その次のステップだと、「付き合うけど結婚したいかは別」だったりする。
女性としての圭を見ていく。そう言うのは簡単だが、では実際どうしたらいいのか。それがさっぱり分からない。女性的な魅力とはなんだろう。光上は頭を悩ませた。富裕層である光上と一般人である圭ではそこに認識の差が出るのではないか。圭が見てほしいものは具体的に何なのか。光上は面倒な方向に悩みを深めていっていた。
「彼女のことで相談したいことが」
そんな彼にとって渡りに船だった。柏木の彼氏こと田沼翼が生徒会室に相談に来た。光上は戦力外だが、この場にはラブ探偵を自称する藤原と、絶賛恋愛頭脳戦中の御行、観察力や洞察力に長けた石上がいる。彼らの分析もまた、光上にとって学びとなるのだ。その手にはメモ帳とペンが既に握られている。
「俺……彼女と喧嘩しちゃって……」
「っしゃあザマァみろぉぉ。そのまま振られろ!」
「石上早い。それはもう少し事情を聞いてからの反応だ」
「喧嘩は別れのリーチなのか」
「光上それはメモるな! 喧嘩してすぐに別れに繋がるとは限らん!」
自分の疎い分野について学びたいという光上の決意は、生徒会メンバーも耳にしている。本人の口から語られたためだ。その流れで水族館の件を聞かれたりしたが、恋愛の学習への協力関係を結ぶことで事なきを得ていた。圭は気づいていなかった。
「喧嘩の原因はなんですか?」
「それがわからなくて……。おこなのはわかるんですけど、喋ってくれたかと思えば……」
──私がどうして怒ってるかわかる?
「知らんがな」
「光上お前言われた時に絶対それ言うなよ!」
男が戦慄するワード。しかし恋愛が絡むとポンコツで地雷を踏む光上は、この場でも最悪の答えを呟いてしまった。仮に彼女ができて同じシチュエーションになったら、その瞬間に別れてもおかしくない。
女性は共感力やエピソード記憶が男子より秀でているとされている。共感されたいという気持ちが強いのだ。今の答えは明らかな拒否となる。タブーである。
藤原から受けた解説をメモに書き込んでいく。恋愛に関心を示したまではいいが、今のままでは圭が悲惨な目に遭う。生徒会メンバーは光上の教育を徹底しようと決意を固めた。
「ラインのアイコンを猫に変えたんですよ。そしたら怒ってしまって」
「えっ! なんで!?」
「それがわからなくて……」
猫が嫌いなのかと御行は考えたが、そういうわけでもないらしい。藤原は柏木が束縛の強い女の子なのではと分析したが、無意味に怒るような人ではないとのこと。
「石上。束縛が強いって例えばどんな人がいるわけ?」
「え、まぁよく言われるのは、行動を制限したがる人ですね。他の女子と喋るなとか、SNSのアイコンはこれにしろとか。自分だけを見てほしいって欲が強い人ほどそうなります」
「自分だけを見てほしい……」
「……あっ! 圭さんはそういう人ではないですよ! ね、会長!」
「も、もちろんだ! 勘違いするなよ光上!」
「それぐらいはわかってますけど?」
「腹立つなコイツ!」
「石上俺が許す! 一発殴れ!」
藤原から受け取ったハリセンで光上は一発叩かれた。
相談から脱線したのだが、それの正解を石上がゲームをしながら言い当てる。石上曰く、アイコンを変えたのがいけなかったらしい。前のアイコンは2人のツーショット。ラブラブアイコンだ。「付き合っていることを周りに隠そうとしてるのおこ」となる。
共感は共有することで得られる。ペアルックが嬉しい女子も少なくない。
「光上くん。カバンにつけてるキーホルダーってこの前買ったやつですか?」
「うん。白銀さんと買ったやつ」
「絶対に外しちゃ駄目ですよ」
「そうみたいだな」
付き合う前にそういうことするのか。御行と石上は微妙な顔をしたが、首を突っ込まないことにした。
次の「
「柏木さんって難しい人だなー」
「これは難問だ……」
藤原は浮気説を提唱したが、その時に柏木の母親もいたため、それはないだろうと否定される。御行は妊娠説を提唱したが、翼曰く「ちゃんとしてる」からそれはないとのこと。清い付き合いなのかは各々の判断に任された。
「答えていいですか?」
「えっ、石上くんわかるの?」
答える前の確認作業として、彼女の部屋に入る前に待たされたりしないかと聞かれる。翼はいつも5分ほど待たされると答えると、石上は確信を抱いた。曰く、風邪を引いていてその日は片付ける元気がない。「急な来客は困るおこ」なのだそうだ。
「そうだったのか……。白銀さんに悪いことしてたんだ……」
「急に部屋に上がったことが?」
「前に倒れた時に白銀さんの部屋で看病された」
「シチュがおかしいでしょ! 順番もへったくれもない!」
「そういえばそんなこともあったな。あとは圭ちゃんの誕生日にサプライズ帰国した時か」
それを聞いて石上がドキリと固まる。サプライズ帰国をさせた功労者石上。どうやら失礼なことにも加担してしまっていたようだ。
光上がサプライズ来客はNGだとメモ帳に書き込んだところで、御行が石上に疑問を抱く。
「お前女心わかってるのになんで彼女できないんだよ!」
「わからない方がモテるみたいなんで」
「こ、これあげます」
「いりませんよ。アホだと思われる呪いのアイテムでしょ」
そう言いながら結局石上は、藤原から渡された帽子を被る。律儀というか従順というか。四宮から後輩として可愛がられているだけのことはある。
そして飛び出す次のクエスチョン。柏木がファッション雑誌を読んでいる時に、どの子が好みかを聞かれたのだという。その雑誌に載っているこの中から正直に選んだらおこになったのだそうだ。
「そりゃ柏木さんを選ばなかったからだろ。さてはバカだな」
「光上くんにそんな事を言われる日が来るとは……」
「光上先輩ならちゃんと答えられるんですか?」
「好みのファッションを選んだ上で、この服を着てる君って言う」
「あはは~光上くん。それはキモいですよ~」
「マジか……」
ならばどうすれば正解なのか。落ち込んで大人しくなった光上は、メモ帳を片手に石上に視線を向ける。「もう答え出たやん」と思いはするが、現状では石上の答えが模範解答となっている。言わなければいけないらしい。
「光上先輩が言ったように、柏木先輩を選べば正解です。ただし、言うのはそこまで。余計なことは付け足さないのが身のためです」
「突き刺さるなぁ」
「想像にはなりますが、そこで柏木先輩を選んだとして、冗談だと受け取られかねないでしょう。しかしそこで退いてはいけません。柏木先輩という選択肢以外を選べば怒る巧妙な罠です」
「選んでしまった場合は?」
「それならその女と付き合えばいいじゃんおこが起きます」
「自分から聞いた癖に!?」
「理不尽!」
「そういうもんです」
女性は時として理不尽。新たに光上のメモが書き込まれる。しかしふと首を傾げる。これが圭に当てはまるのかと考えると、そうでもなさそうな気がするのだ。一応参考程度に頭の隅に置いておくとして、光上は思考を切り替える。
「じゃあこれは!?」
つい最近、2人でゲームセンターに行った時のことらしい。ゲームで格好いいところを見せようと思い、対戦ゲームでボッコボコにして勝ったのだそうだ。
「ボッコボコにしたからだろぉが!!」
石上。ついに敬語が外れる。
「怒ってんのもそれが原因じゃねぇの!!」
「言われてみればそうかも……」
「こいつただの馬鹿じゃねぇか!!」
「落ち着け石上! これでも先輩なんだから!」
対戦ゲームをやる時は注意しようとメモを取る。ゲームにもあまり触れない光上が、圭とゲームをする日が来るのかはわからない。来たとして、平和なボードゲームかパーティーゲームだろうか。
圭のプライドの高さからして、負けず嫌いだろうけども手加減されたくないとか思いかねない。そこはまだ光上の知る由もないのだが。
「白銀の家ってゲームあんの?」
「ん? いやないぞ」
「うーん、あの子どういうゲームするんだろ」
「こればかりは俺もわからんな。それに、ゲーム以外でもいろいろと遊べるものはあるだろ」
「それはたしかに」
ついこの間水族館にも行ったのだ。今度は動物園など言ってもいいかもしれない。大きめの場所だとサファリパークもある。以前に生徒会で話題に上がったテーマパーク。そこに2人で行くのも無しではない。ディズニーは駄目。
いくらでもやりようはあるものだなと光上は頷く。しかし、それって付き合う前から行く場所でもないのでは。もちろん人それぞれにはなるのだが。
「男女の関係だと、ABCがありますよね」
「アダルトビッチチェンジ?」
「別れてるじゃないですか! そうじゃないですよ!」
「Aがキス、Bがペッティング、Cがエッチなことです」
「まったくABCではないが?」
「頭文字ではないので」
これは一般的に考えれば付き合ってからのことである。光上がこれを知らないことには誰も驚かない。翼もさっきまでの様子から察していた。彼は今勉強中なのだと。
ちなみに近年では「HIJK」があるらしい。「
「ペッティングがわからないって人も多いですが、Cの前段階です。言葉にしてしまえば、胸を触るとかそんなんですね」
「女子がいる前でそんな話する?」
「えっと……あの……」
「藤原さん退席したほうがいいんじゃない?」
「そ、そうします! 終わったら教えてくださいね光上くん!」
ラブ探偵千花っち。彼女は恋話が好きなのであって、そこから先の踏み込んだHな話が好きなわけではないのだ。父親の検閲もあり、免疫とか無いに等しい。ちなみに光上も免疫とかない。普通に耳が赤くなってる。しかしこれも勉強なのだと思って耐えているだけだ。
ついでに言えば、看病された時に胸に触れてしまっていたことを思い出しているだけだ。あれは自分の意志ではないのだが、B判定なのだろうか。聞くに聞けない内容だ。
「ABCの進み具合もそれぞれですからね。そういうのがあるって程度に把握しとけばいいかと」
「参考例はそこにいるがな」
「え、いやー。さすがにその話はちょっとね」
「言いたくなければ言う必要はないが」
「AからCまでは間2ヶ月くらいかな」
「言うのかよ!」
「というかコイツ認めやがった!」
節度を持って清く正しいお付き合いをしているのではなく、しっかり避妊しているということだったらしい。御行がさっき作った翼への信頼はあっさりと崩れ去った。
「この話はオフレコでよろ」
「清々しく開き直りやがって!」
「ちなみに光上くん。大人のキスはAとBの間、いわばA+だよ」
「おとなのきすってなに?」
「がはっ! 彼はなんて純粋なんだ……!」
「勝手に自滅しやがった! トドメ刺してやろうか!」
「ブレーキ踏め石上!!」
光上の
生徒会室に入ろうとして、小さく扉を開けたところで伊井野ミコは固まっている。まさかこの部屋でそんなディープな話が繰り広げられているとは。彼女もまた純粋な少女であり、免疫などほとんどない。顔を真っ赤にして固まり、それに気づいた光上が近づく。
「ひっ、あ、あの……私は何も聞いてないです……!」
「あ、やっぱりこれってその手の話なのか。1つ聞いてもいいかな?」
「……私に答えられることでしたら」
少し葛藤したものの、尊敬する先輩からの質問。できれば答えたいという思いが、伊井野の逃げ道を塞いだ。
「大人のキスってなに?」
「はぅっ! ごめんなさいお答えできません!」
そう言って伊井野が走り去り、光上は取り残された。彼の後方では未だにカオスが繰り広げられ、困った彼は最後の頼みの綱の場所に移動する。その人物の居場所はわかっているのだ。
いつもと同じ空き教室。そこは中庭にいる四宮を捕捉することも可能で、早坂は窓からその様子を見ていた。
そんな彼女の左右が後ろから伸びてきた手でそれぞれ塞がれた。驚いて振り返ると、そこにいるのは光上だった。彼だとわかった瞬間安心し、ほっと息をつく。光上が生徒会に入ってからというもの、あまり放課後に一緒にいることも少ない。彼の方から来たことが少し嬉しかった。
「どうされたんですか? この手はなんですか?」
「もう頼みが早坂ぐらいしかいなくてな」
「どういうことですか」
あくまでフラットな調子で話す。弾みかける心を冷ます。この心は仕事の進捗の喜びなのか、それとも本心なのか。早坂は自分でもイマイチ掴めていない。いや、理解しないためにわざと目を逸らしている。
彼の真剣な眼差しにたじろぐ。選挙期間の時に見たあの目とは違う。敵対する人を見るあの眼差しとは。真っ直ぐなその目がなんだか眩しい。汚れを知りながらも輝きを失わない目。
「大人のキスを教えてほしい」
「……ぇ、えぇっ!?」
被害は早坂にも及んだのだった。
結局光上は大人のキスが何なのか分からなかった。分からなくてもまぁいいかと光上が割り切ったと知った時、早坂は光上をハリセンで叩いたとか。
修学旅行編について
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漫画出るまで修学旅行編待機
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