愛の調整は難しい   作:粗茶Returnees

28 / 53
第27話

 

 光上と圭の関係に生徒会メンバーの注目が集まっている。伊井野は先日の水族館にて2人の状況を知ったし、藤原も確信を抱いた。

 2人の状況は、御行と四宮にとってはいいカモフラージュとして作用していた。それとなく誤魔化すこともあるが、以前よりも恋愛頭脳戦がやりやすい。風通しがいいのだ。

 

「高等部の仕事なんだし手伝わなくても」

「いいんです。私がそうしたいので!」

 

 今も圭は光上の隣りに座り、花のような笑みを浮かべながら彼の仕事を手伝っていた。光上の役職である庶務の仕事は幅広い。簡単に言えば、事務作業を担当する役職だ。言い方を荒くすれば雑務担当になる。あらゆる仕事を一手に引き受ける。

 この生徒会では、会長や副会長とほぼ変わらない仕事内容。会長ならばその立場上、承認が必要なものを優先的に。副会長はそれに集中させるためのサポート。そのために庶務は、どちらかと言えば副会長の仕事に近いと言える。光上の場合、副会長や書記のサポートにまで手を伸ばしているが。

 

 おかげで楽ちんですと藤原は喜び、四宮はそこまでしなくていいと言って極力彼に仕事を回さない。その状態を知った圭により、藤原の仕事量は元に戻されたわけだが。いや、ひょっとしたら、前より多いかもしれない。

 

「けど白銀さん、中等部の仕事もあるでしょ?」

「石上先輩と伊井野先輩のおかげで、だいぶ効率的に終わらせられるようになりましたから。本当にお二人には助けられてます」

「「いやぁそれほどでも~」」

 

 1年生であるため、後輩がいない2人にとっても圭の存在は大きかった。石上はその経歴から、伊井野は真面目過ぎる性格から、親しい後輩が全くいない。伊井野の正義感に憧れている後輩もいるにはいるが、近寄りがたいらしい。

 ともかく、そんな2人にとって、先輩として頼られることはとても心地良いことなのだ。「頼りにされる」ということが魔力を帯び、2人の思考力を低下させる。具体的には、「もっと力になってあげたい」という欲求が生まれる。その結果、圭が持ってくる仕事を教えるついでに手伝ってしまうことも。

 

「圭さんと一緒に過ごせるのは再来年度ですが、その時はぜひ生徒会に入ってください!」

「おいおい伊井野。会長になってる前提かよ」

「当然でしょ」

「その時はぜひ。応援してます!」

「はぁっ! なんて素晴らしい子! 会長この子もらっていいですか!」

「いいわけないだろ! 何言ってるんだ君は!? 狂ったか!?」

 

 生徒会が発足してからの勧誘にはなるが、石上という前例がある。圭の入学を待ち、その席を開けておくことも可能ではあるのだ。受験勉強との両立も、伊井野ならやり切ってみせるだろう。今の彼女の頭の中は、「圭と一緒に生徒会をしたい」の一点に染まっているが。

 さらに圭の純粋な応援でオーバーキル。まとも枠なはずの伊井野がおかしな発言をしだしてしまった。白銀圭、ある意味魔性の女なのかもしれない。中等部で人気が高いのも納得だ。

 

「皆さん、そろそろ一旦お茶にしませんか?」

「ん? あぁ、時間もそれなりに経っていたか」

「ここで一区切りつけるのもいいかもな」

 

 もちろん四宮だって、全員の進捗を見ながら提案している。それぞれがキリのいいタイミングを見計らってのこと。書類が整理され、テーブルの上が片付けられる。四宮が淹れたコーヒーが人数分配られた。

 

「かぐやさんもこっちで座りましょう」

「ではお邪魔しますね」

 

 藤原の誘いに乗り、四宮もソファに腰掛けた。彼女は生徒会室の中で立っていることが多い。後輩である石上と伊井野にとって、その時間はなかなか気まずかったりするのだ。先輩を差し置いて自分たちが座っていることが。しかし四宮相手に座るように勧めるのも難しく、藤原が救世主に感じられた。

 

(……俺1人だけ離れてる)

 

 そんなことをすれば、会長席に座っている御行だけがハブられているような状況が出来上がる。しかし御行がその席にいるのも自然なことで、近しい状況もよくあったこと。違いとしては、四宮が御行の近くにいるか否かである。

 だがここで御行が自らその事を指摘してはどうなるか。ぼっち状態が寂しいと取られるだろうが、少し見方を変えれば「()()()()()()()()()()()()寂しい」となりかねない。藤原という災害は、うまく付き合えば強力な味方となるのだ。

 

(いや、石上か光上が指摘してくれれば!)

 

 抜け道はそれしかない。伊井野は「会長は会長席に座るもの」と思っていて指摘することはない。藤原は絶賛会話を楽しんでいるし、さっき四宮しか誘わなかったことから、御行に声をかける可能性が低い。圭と四宮は絶対にない。消去法で男子しかいないのだ。

 

「萌葉から聞いたんだけど、中等部の生徒会長が圭ちゃんとデートするって話があるとか」

「え、なにそれ」

「おやおや~? 光上くん嫉妬ですか~?」

「そういうのではなく」

 

 圭からそういう話を聞いていなかったから、純粋に驚いただけである。圭からはいろいろと中等部での話を聞いているのに、それについては聞かされていなかった。

 

(あの話題では光上は期待できんか……。というかデートってどういうこと圭ちゃん)

 

 この話題には誰もが食いついた。光上に惚れているはずの圭が、中等部の生徒会長とデートをする。その真相が気にならないわけがない。伊井野と石上はそれぞれ少し異なる反応を示したか。

 その話題を出された圭は見るからに不機嫌になったし、光上に失望されないか不安そうにしていた。つまり地雷である。

 

「私の知らないところで勝手に決まった話だし」

「そうなんだ?」

「生徒会選挙の時に、会長になったら私とデートできるって話がどこからか出て、それをみんな真に受けたみたいで。私はそんな話知らないし、そんな気サラサラないのに……」

「本人の意志なく決まったことなど契約にもなりませんね! そんなものは無効です! もし言い出しにくければ、私が協力しますよ!」

「中等部のことに高等部が首を突っ込むのはどうかと思うぞ」

「うるさいわね薄情者」

「いや俺も許されないことだと思ってるけどな」

 

 男女間で起きるこういう問題は、石上にとっての地雷である。気持ち的には、伊井野と同じで中等部に乗り込んであげたい。しかし、中等部のことに高等部が介入しづらいのも事実。トラブルも人の成長を促す一面があり、それぞれのトラブルはそれぞれで対処することがこの学園の基本方針。

 それを決めている者の息子であるはずの光上は、そこを気に留めたことないが。とはいえ今回の場合、圭に好意を寄せられている光上が動くと火に油を注ぐだけである。この件に関して、光上は何一つ直接的なことができない。彼にできることは、光上に失望されないかと怯えている圭の手を、そっと包んであげるくらいだ。

 

「相手がちゃんと話をわかってくれたらいいね」

「……はい」

「一度できた噂は手強いですけどね」

「石上くん!」

「現実の認識は大切ですよ藤原先輩。ちゃんとわかってないと、余計に痛い目に遭ってしまうのは圭さんなんですから」

「そうですけど……」

 

 話題を出したのは藤原だが、何も遊び半分で言ったわけじゃない。萌葉から話を聞き、いい案が思いつかなかったから、生徒会メンバーに頼ることにしたのだ。

 

「ただ、圭さんであればその噂を弱めていくことも可能なはずです」

「どういうことですか?」

「人望ですよ。圭さんは1人じゃないですし、人気もある。ご友人と一緒に真相を広めていけば、そのデートの話も消せるはずです」

「より効果的なのは、影響力の強い人間を味方につけることですね、いわゆるカースト上位の人間です」

 

 石上の話はもっともなことだろう。悪くない考えだと判断した四宮が、さらにアドバイスを送る。内心では、出処を確かめて()()()()()を取ろうとか思ってる。

 

「みなさん……ありがとうございます」

「困ったことがありましたら、いつでも相談にいらしてください」

 

(私今頼れる先輩になれてるんじゃないかしら!)

 

 すでに好感度は高いのに、まだ欲しがる四宮なのだった。

 

 その話はこれで一旦終わり、違う話題が出てきてその話が盛り上がる。この場所の居心地の良さに、圭は目を細めた。勝手に決まったデートの件があるため、今の中等部の生徒会は少し気疲れしてしまうのだ。

 しかしここはそうならない。何よりも光上がいることが大きい。圭の気持ちを知っているのは、ここの生徒会員と早坂と父親ぐらいのもの。一応周りにはまだ隠せている。隠せているのだが、圭は気持ちを抑える度合いを緩めることにしたし、ここにいる人には知られているから遠慮もしない。

 プライドが高い彼女はもちろん葛藤した。悩みに悩んだ結果、そのプライドのせいで実らない方が後悔すると思ったのだ。だから、多少プライドを捨ててでも彼にアピールする。

 

 光上に握られている右手に視線を落とし、そのことに頬を緩めたら光上との距離をさり気なく縮める。肩と肩が触れ合う程度に寄り、そのまま彼に体を預ける。頭もこつんと彼の肩に当てて。

 

(生徒会室でなにを! ……で、でも、これくらいならまだ……うぅっ!)

 

 それに気づいて葛藤する伊井野。生徒会室を神聖視する彼女にとって、この場でイチャつかれるのは物申したい。異性交友も取り締まるほどの真面目ちゃんだ。しかし、光上と圭が相手という点で伊井野が口を出せないでいた。2人なら清い付き合いをするという信頼もある。……伊井野は2人が付き合っていると思っているようだ。

 

(あれ、いいわね)

 

 斜め前でそれを見ている四宮は、自分も御行とやりたいとか思った。しかしそれを正直に言うこともできず、どうすればいいか頭を悩ませる。ひとまず、コーヒーのおかわりでも御行に淹れに行こう。

 ソファから立ち上がり、コーヒーポットを片手に御行の隣りへ。予想通り飲み干していたようだ。御行からのお礼を貰いつつコーヒーを注ぐ。

 

(私が立ってたらできないじゃない!!)

 

 最近どうにも調子が悪いなと思いながらコーヒーポットを元に戻す。ソファに戻ろうとしたところで御行に声をかけられた。どうやら髪に糸くずがついていたらしい。それを取ってもらった瞬間、四宮は倒れた。

 

「四宮!?」

「かぐやさん!」

「石上は救急車を!」

「はい!」

「伊井野は保険医を呼んでくれ!」

「光上先輩がもう行きました!」

「早いな!?」

 

 廊下は走るものではないが、今は緊急事態だ。光上は保険医を呼びに行きながら、早坂に電話をかけた。

 

『はい』

「状況は見てたろ」

『ええ。病院の指定をお願いしてもいいですか?』

「どの病院だ」

 

 そうして早坂に指定された病院に行くように光上が救急隊員に頼む。かぐやが四宮家の人間だと伝えれば確実にそこに行くし、念の為に光上も救急車に乗り込む。早坂は先にタクシーで病院に到着していた。四宮は検査が行われ、その間に早坂と合流する。

 

「光上さんの体の弱さの印象が強くて忘れがちですけど、かぐや様も丈夫な方ではないんですよね」

「さらっと俺をディスってない?」

「季節の変わり目にはよく体調を崩しますし」

「スルーですか」

 

 生徒会室での様子を、早坂もタブレットで見ていた。見ていたからこそ、あのタイミングで倒れた主人が心配だった。何かの病気じゃないかと考えてしまう。

 

「……これ最近の流行り?」

「いえ。昔からの流行りです」

「昔からの流行りってなんだよ」

 

 生徒会室での様子を思い出し、圭がやっていたことを早坂が真似る。今なら、主人が倒れて心配だという言い訳が使えるから。

 圭が踏み込むようになったのは、良い傾向だと思ってる。早坂はそれを応援したい。その思いとは裏腹に、仕事面で考えれば早坂も同程度のことをする必要がある。いや、本気で取り組むなら、圭より先を歩まないといけない。

 そのことで胸が痛む。圭への裏切りが辛い。そしてそれをまた言い訳にして、光上の腕にしがみつくように腕を絡めた。

 

「早坂」

「いけませんか? 彼女でもできたんですか?」

「いや……いないけど……」

「では問題ないですね。……私もいろいろと疲れてるので」

 

 そう言われては光上は拒むことができない。早坂の苦労を一番気にかけているから。少しでも休んでほしいと思っているから。これが気休めにでもなるのなら。そう思うと何も言えなくなるのだ。

 もちろん早坂はそうなると踏んで行っている。これは仕事なのだと誰かに言い訳しながら。

 そうして待っていると、四宮の検査が終わった。光上と早坂は呼ばれ、四宮がいる診察室へと入る。担当医は医院長の田沼だった。世界でも有数の名医の一人である。

 

「光上くんか。大きくなったね」

「前に会ったのも10年は遡りますからね。その節はお世話になりました」

「思い出話もしたいところだけど、目の前の患者が優先だね」

「先生。私は何の病気なんでしょう?」

「四宮くん。君の病気は──恋の病だ」

「……そういう名前の心臓病があるんですか?」

「いや心臓は健康だよ」

 

 この名医曰く、四宮かぐやはめっちゃドキドキした結果倒れて救急車で搬送されたとのことらしい。断じて恋などではないと言い張る四宮を諭すように、田沼は何度も恋だと断定する。

 

「心臓の病気なんです! ここまで胸が苦しくなったのは人生で初めてなんです!」

「じゃあ初恋なんじゃないかな」

「違うって言ってるでしょ!」

 

 頑なに認めない四宮。最近恋愛に対しての認識を高めつつある光上でも、四宮のそれが恋だと思っている。光上以上に四宮の気持ちがわかっている早坂といえば、羞恥に耐えられない様子だ。真っ赤になった顔を両手で隠している。

 

「大丈夫か早坂」

「大丈夫なんかじゃないですよ……。かぐや様、私外で待っててもいいですか?」

「何よ早坂まで!」

「私だってこの病院使ってるのに……。最悪……どんな顔してこれから来たらいいんですか……」

「ちょっと外出てよっか」

 

 声を震わせながら嘆く早坂の背中を押し、光上が早坂を廊下へと連れ出す。四宮が何か文句を言っているが、聞こえないことにした。

 

「早坂ってほんと苦労してんな」

「ここまでのは初めてですよ……! ぅぅぅ……」

「よしよし。なんだったら俺が行ってる病院紹介するぞ」

「真面目に検討します」

 

 光上の胸に顔を(うず)める早坂の頭を、あやすようにそっと撫でる。絹のように柔らかな髪。優しい匂いが光上の鼻をくすぐる。それに耐えつつ、丁寧に手入れされている髪を崩さないように気をつけながら、彼女の気持ちが落ち着くまで撫で続ける。

 主人の醜態というのは、早坂にとって相当キツイものらしい。あれは恥をばら撒いてるようなものだし、光上でも同情するものだった。少し前までの自分がアレに近かったということは自覚していない。むしろ質の悪さは光上が上だというのに。

 早坂をあやしながらふと思う。早坂は光上や四宮より何倍も一般の感覚に近い。普通というものを演じられるように、積極的に取り入れている。だから、当然恋愛面も知識として把握しているものが多い。それならば──

 

「早坂って誰かを好きになったことある?」

「……え?」

「早坂も恋したりするのかなって。早坂の求める彼氏像ってどんなのか知らないけどさ」

「……」

 

 顔を上げると、純粋な眼差しと視線が交差する。他の意図などなく、早坂はどうなのだろうと聞きたいだけのようだ。

 どう答えようか迷った。冷静さを取り戻していくと同時に、今の状況への恥ずかしさもこみあげて来る。早まる鼓動は何なのか。これは()()()()()()()()()なのだろうか。

 自信なんて持てない。仕事を進めるチャンスでもある。彼の視線を自分に向けさせるチャンス。圭への裏切り。胸が痛む。彼になら癒やされそうだ。それも演技か。仕事のためだ。この感情の根源はなんだ。苦しい。

 思考が纏まらない。

 

「早坂? 大丈夫か?」

 

 今自分はどんな顔をしているのだろう。どう見えているのだろう。彼は何に対して大丈夫かと聞いてきたのか。

 打ち明けたら楽になるのだろうか。そんな事はできない。それをしたら彼はきっとその身を犠牲にする。圭の心が傷つく。誰も幸せにならない。

 きっと1番良い方法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうすれば、被害は一人だけに抑えられるのだから。

 

「……わかりません」

 

 だから、この入り乱れた心のまま、悟られることなく正直に話したらいい。そうしたら、彼は何も気づかないんだから。

 

「人のことはともかく、自分のことって鈍くなるじゃないですか」

「耳が痛い話だ」

「ふふっ。そうですね。好きな人ができたら、光上さんには言うかもしれないです」

「信用されてんのかな? 光栄なことだよ」

「その時は、私を助けてくださいね」

「ああ。早坂のためなら惜しまない」

 

 そう言われると胸が軽くなる。彼がそうすると断言する相手が他に何人いるだろうか。生徒会メンバーでもそうはならない。きっと、他は白銀兄妹くらいだ。

 それでもいい。彼との付き合いは、その2人よりずっと長いんだから。

 

 ガラガラっと音を立てながら診察室の扉が開けられる。反射的に彼から離れて正解だった。中からご立腹な主人が出てきたのだから。

 

「早坂行くわよ!」

「え、どこにですか」

「違う機器で検査してもらうのよ!」

「えっ……」

「こんなの心臓の病気以外あり得ないんだから!」

 

 田沼と助手が先頭を歩き。その後ろを不機嫌な四宮が歩く。さらなる醜態を晒すことになる主人の後ろを、早坂は涙目になりながらついていくしかなかった。

 数十分後、再度光上に泣きつく早坂の姿があったとか。

 

 

修学旅行編について

  • 漫画出るまで修学旅行編待機
  • 18巻の内容までならOK
  • ネタバレ気にしないから更新続行
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。