愛の調整は難しい   作:粗茶Returnees

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 高校の体育祭の思い出はなんですか? 私は「ルールを守らずに貪欲に優勝を狙う3年生」VS「不正をされようが身体能力でねじ伏せにかかる1年生」です。
 


第28話

 

 

 学校行事の中でも人気なものもあれば、賛否が別れるものもある。特に賛否が別れる学校行事は、体育祭ではなかろうか。主に体育会系と文科系の熱量の差が。別の言い方をすれば、陽キャと陰キャで明らかにモチベーションが異なる行事だろう。

 体育祭は他のチームとの競い合い。生徒たちの視点ではそうなる。その分け方は学校によって異なるもので、学年の枠を消して紅白で分けたり。学年の枠を超えた競い合いなどせず、それぞれの学年でクラス対抗にしたり。3学年でのぶつかり合いにしたり。やり方はいくつかある。

 

 秀知院学園では紅白戦が採用されている。学年という枠を超えたわかりやすい分け方。もちろん生徒会でも紅白別れる結果になっている。

 同じクラスである四宮と光上は白組。それ以外が紅組である。御行を応援したい四宮にとって、この別れ方は残酷なものだった。敵チームの応援など謀反に等しい。なんとかならないのかと光上に迫ったりしていた。なんともならなかった。

 

(藤原書記と四宮のおかげでソーラン節もなんとかできたな)

 

 2年生全員によるソーラン節。生徒会長である御行は最前列で行うのだが、ついこの間まで壊滅的なものだった。必死の特訓によりなんとかモノにしており、ガチな体育会系のソーラン節と遜色ないキレを出している。

 

「いいぞ~みゆき~」

 

(なんかいた)

 

 息子の行事に足を運ぶ親の鏡(暇だから来た白銀父)。親であることから、息子の壊滅的なセンスは知っている。それをこの出来にまで仕上げたのだ。相当特訓したのも察しているし、その努力は素直に賞賛できる。

 

『以上! 2年生によるソーラン節でした!』

 

「しっかりしろ光上ぃぃぃ!!」

 

 アナウンスと共に倒れる1名。彼の隣りにいた男子が素早くそれを支え、ガチムチな男が救護テントへと担いで行く。少しざわついたものの、「まぁ光上だしな」ですぐに皆落ち着いていた。

 

「あれ親父いねぇ!?」

 

 そちらに気を取られた間に父親を見失う。御行にとってそれは由々しき事態だ。野放しにして何か面倒なことを起こされても困る。必死に探し出してなんとか見つけた。救護テントに運ばれた光上の下に行っているようだ。父親のその行動を喜んでいいのか迷いつつ、被害が起きないように手を打ちに行く。

 

「ソーラン節で倒れるってなかなかだな晶くん」

「面目ないです」

「圭には黙っておいた方がいいんだろ?」

「そうしてもらえるとありがたいですね」

「青いなぁ。だが、俺の口はともかく手は止まらないようだ」

「ちょっ!?」

「やめてやれよ父さん!」

 

 圭にラインを送りそうになっていたその手を息子の御行が阻止した。父親からスマホを奪い、入力中だった文字を消す。警戒してここに来ておいて正解だったようだ。

 

「なんだ御行来たのか」

「二重で心配したからな。というかなんで来てるの」

「暇だから」

「このっ!」

「そう言うな。写真だって撮ったんだぞ」

「へ、へぇ?」

 

 父親らしいところもあるんだな。そう思い、少し照れくさく思いながら、父親が撮ったという写真を見させてもらう。そこには、活発な様子で精一杯大太鼓を叩いている藤原千花がいた。

 

「おいこら! なんで他人んちの娘撮ってんだ!」

「ま、待ってくれ。彼は私の手伝いをしてくれていただけなんだ」

 

 今度はカメラを奪おうとした御行を1人の男性が止めに入る。その男性こそ藤原姉妹の父親にして政治家の藤原大地だ。御行は藤原父に挨拶し、圭がお世話になっていることにも言及する。圭も御行も礼儀正しいことに、藤原父は好印象なようだ。

 

「いい育て方をされたんですね」

「いえとんでもない」

 

(まったくな!)

 

「最近になってようやく毛が──」

「な、なぁ父さん。うちの購買のコロッケは絶品だぞ」

「ほう? 来る機会も少ないし、食べてみるか」

「親孝行な息子さんで」

「いえいえ」

 

 そうやって話しているところに、白銀父と入れ替わるように千花と四宮がやってきた。四宮が千花に付き添っていると言った方が正しいか。ともあれ、自分の親が同級生と話しているのは、子供からしたら恥ずかしいのだ。2人は光上の様子を見るという目的もあるようだが。

 

「娘さんにはいつもお世話になってます」

「本当ですよ」

 

 御行の特訓にこれまでどれほど苦労したことか。感情の消えた瞳になっていることから、その苦労が伺える。

 そういえばそんな苦労話を聞かされたなぁと、光上は保険医から渡された飲み物を飲みながら千花の話を聞いている。圭がいる時は全くだが、それ以外の日はよく千花が絡むようになったのだ。初等部の頃の距離感に着実に近づいている。光上としては警戒してる点だ。

 

「光上くん大丈夫ですか?」

「少し休めば大丈夫。眠気があるぐらいだから」

「なるほど。いつもなら光上くん、この時間は半分寝ていますからね」

「器用なことしてますね~」

 

 倒れた理由は眠気だった。今日は圭が気遣ってバイトを休みにし、その分光上の睡眠時間も増したのだが、体に染み付いているそれは簡単には治らない。圭と出かける時は抑え込めるようだが、彼女は今いないのでこのざまである。

 

「光上くんと会うのは初等部以来か。懐かしいね」

「お久しぶりです」

「どれ、仕留めよう」

「何言ってるのお父様!?」

「すまない。ついあの頃を思い出してしまって」

 

 何言ってんだこの人という困惑と、その頃に光上は何をしたんだという困惑が御行と四宮の中で生まれる。光上自身まったく身に覚えのないことで、事実としてほとんど一方的な理由である。しかし父親なら生じてしまう気持ちかもしれない。

 

「光上が何かご無礼を?」

「初等部の頃に娘がだね……」

 

 ──おとうさま! わたし大人になったらあきらくんとけっこんする!

 

「なんて言ってたことを思い出してしまって!!」

「い、いつの話してるのお父様!! 恥ずかしいからやめてよ!!」

「藤原さんにもそのような時期が……」

「苦労してたんだな光上……」

「どういうことですか会長!」

 

 千花にそういうふうに言われていたとは光上も初耳である。千花が隠していたのだから誰も知らないのは当たり前なのだが、たった今父親のせいで大暴露されてしまっている。ちなみに小学2年生の時のことである。

 千花のその気持ちが消えたのは、仲が深まった結果絶妙に合わないと気づいたから。

 

「あら? 藤原さん、光上くんのこと下の名前で呼んでいたの?」

「そうですよ~。熟年離婚みたいな形で疎遠になってからは名字で呼んでますけど」

「戻してもいいのでは?」

「それもありですね~」

「私は認めないぞ!!」

「これが藤原家の検閲か」

 

 騒ぎ過ぎたことを保険医に指摘され、御行たちが解散していく。一気に静かになると寂しさもあるのだが、体育祭という熱気がそれを霧散させていく。次の競技を見ている光上の目を、誰かの手が後ろから覆った。

 

「だーれだ?」

「早坂だろ」

「えぇー。せっかく声変えたのに~」

「それぐらいわかるよ。前に手の感触も知ったから」

「それは引くし」

 

 手の感触で当てられるのはシンプルに引いた。そういうことができる人は他にもいるだろうが、いざやられる立場になると気持ち悪いなと思ってしまう。

 光上の隣りに腰掛けた彼女は、他の女子たちと同様に体操着を少し捲りあげて括っていた。お腹が出ている状態である。袖も捲っているため、肩も出していた。可能な限り露出していると言っていい。光上はその姿を一瞥した後、視線をグラウンドに向ける。

 

「その格好はどうかと思う」

「やーらしー」

「目が行っちゃうもんなんだって」

「ウチの肌見て興奮でもしちゃう?」

「うん」

「へ?」

 

 揶揄うつもりがカウンターパンチ。光上にそんな事を言われるとか思っていなかった早坂は、急に恥ずかしくなっていそいそと服装を元に戻していく。

 

「恥ずかしいなら、しなかったらいいのに」

「光上くんのせいだし。欲情されたら困るし」

「欲情はしないけども」

「ばか」

 

 早坂は持ってきたタオルで光上の頭を簀巻にした。何を考えているのやらと思いながら、光上はされるがままにそれを受ける。視界がタオルに覆われると体を倒された。いつぞやと同じように、早坂の脚を枕にして。

 

「なんでまた?」

「眠いんでしょ? 次に出る競技の時に起してあげるし。仮眠取ったらいいよ」

「いやいや、なんとか起きてられるから」

「昼休みに圭が来るのに? その時に写真見せるけど、本調子じゃない様子見せるの?」

「……ずるいやつ」

「お互い様だし」

 

 おとなしくなった光上から、すぐに寝息が聞こえてくる。やはり無理に起きようとしていたようだ。頑張り方がズレてて、頼ることが下手だなと思いながら、彼の髪をくしゃっと撫でる。

 彼を寝させるまではいい。けれども膝枕まではする必要などどこにもない。しかし口実は用意してある。これも仕事のため。少しでも身体的な接触をして、女性として意識してもらう。彼を落とすためにはまずそこが必要な過程になるから。そういう事にして、そうしてあげたかったという本音を塗りつぶしていく。

 この仕事に自分の感情なんて邪魔だ。苦しいだけだから、麻痺させていけばいい。ただでさえ、主人に対しての罪悪感で潰れそうなのだから。こうしないと心がもたない。そうやって難しい調整をしながら、最終的に彼と圭が結ばれるように誘導する。自分は当て馬になればいい。

 

 自分のような人間に、人並みの幸せなんてご褒美はないのだから。

 その考えを再確認し、彼の頭をギュッと抱き締めた。

 

 

 約束通り、光上が次に出る種目の招集の時には起こしてあげた。彼が次に出るのは借り物競争。昼休憩の直前に行われる競技だ。光上を起こした後は自分の席の方へと戻っていく。

 

「愛どこ行ってたのー? 探したよ~」

「ごめんごめん。ちょっちコンビニで涼んでた」

「ずるーい! アイス買ってきてくれたらよかったのに!」

「あはは、それ全然考えてなかったし!」

「えぇ~!」

 

 こうして演じているのも楽しい。これはこれで仕事の一環だけれども、四宮家の人間らしさから離れていられる。ノリだけで駄弁りながら、借り物競争の応援。主人である四宮は、何やら石上を連れてゴールしていた。お題は後輩とかだったのだろう。

 

「次は……、光上くんじゃん!」

「これは貰ったね!」

 

 ほぼ全員から好印象を貰っている光上なら、どんなお題でも問題にならない。適当にお願いして回れば、対象物を持つ誰かしらが協力するだろうし、人物であっても光上なら断られない。さらに身体能力も悪くない。1位でのゴールという予想は固かった。

 早坂もそうなるだろうと思ってた。それとして、どんなお題を引くのかは興味がある。

 ピストルの音と同時に一斉に駆け出した。素人にしては良いスタートで、光上はそこから加速していく。一番乗りでお題箱にたどり着き、すぐにそれを引いたところで動きが止まった。

 

「何引いたんだろ?」

「変なお題だったのかな?」

「カツラとか?」

「それはセンスないっしょ!」

 

 隣りでワイワイと話が盛り上がっている。それを聞き流しながら、光上が何を引いたのか考える。何か困るお題なのだろうか。そう思った矢先に光上は動き出した。条件を満たすための見当でもつけていたのだろう。

 

「悪い早坂。来てくれ」

「え?」

 

 一直線にこっちに来たかと思えばそんなことを言われる。周囲から黄色い声が上がるけど、それは期待外れになるからやめておいてほしい。

 

「なんでウチ? 生徒会の人で書記ちゃんとかいるじゃん」

「早坂じゃないと駄目なんだ」

「きゃぁぁぁ! これはもうワンチャンあるんじゃない?」

「愛行っちゃいなよ!」

「いやいや絶対そんなんじゃないし!」

「とか言って満更でもないんでしょ~?」

「そういうのじゃないって! ああもう!」

 

 この場にいるほうがややこしくなりそうだ。そう判断し、ロープを跨いで彼がいる方に出る。勝負事には真剣だからか、早坂が出たらすぐにその手を取って走り出した。早坂もその手に引かれるようについていく。

 

「2人の逃避行!」

「ラブロマンスよ!!」

 

 そんな声が聞こえてくる。そんなんじゃないのに。周囲からはそう映るのだろうか。もういっそ、ノセられたってことにして、そういう事にしてしまおうか。そう考えると、なかなか悪くない気分だった。気を抜くと口角が上がりそうになる。

 しかしそんな時間はすぐに終わる。シンデレラタイムは馬車の中だけだったようだ。ゴールしてしまえば、協力者は先に戻らないといけないから。

 

「お題はなんだったの?」

「ギャル」

「……面白みがないし」

「早坂は何で選ばれたかったわけ?」

「そんなの言うわけないし!」

 

 光上の頬をグイッと押して強引に視線を逸らさせる。光上が引いたお題の紙を持って、さっさとその場を後にした。

 

 

 

 そんな借り物競争が終わると昼休憩に入る。来ていた保護者は弁当を食べるか、開放されている食堂に行くか。生徒たちも、教室に戻ったり外で食べたりと自由時間になる。

 光上は正門へと向かっていた。待ち合わせがあるからだ。そこで待っていると、白い制服に身を包んだ少女が駆け足でやってくる。

 

「お待たせしてすみません!」

「いやいや! そんなに急がなくてもよかったのに」

 

 高等部へとやってきた少女は、中等部にいるはずの圭だった。秀知院学園は、幼稚舎から中等部までなら体育祭が週末に行われるが、高等部だけ平日に行われている。圭は授業を休んででも光上の応援をしようと思ったが、それこそ光上が困る行為だとわかっている。

 だからこそ、妥協案として昼休みに高等部に来ることにしたのだ。光上は行事で弁当を持ってきたことがない。親と離れていることと、使用人達が作らないように言われていることが原因だ。だからいつも購買のおばちゃんが弁当を用意している。

 それを知った圭が、光上に弁当を作ると宣言した。一度は断ろうとしたものの、彼女の決断は固い。結局光上が折れてお願いすることになったわけだ。

 

「どこで食べましょうか」

「変に注目浴びてもなんだし、生徒会室にしとこうかな」

「わ、私は注目を浴びても構いませんよ?」

「えぇ……」

 

 それで噂されてしまえば、外堀から埋めていくこともできそうだから。注目を浴びることの羞恥を耐える強かさ。積極性を手に入れた恋する乙女は手強い。

 

「噂とか立つのはちょっと、ね」

「光上さんは私との噂が嫌ですか?」

「そういうことじゃなくてだね」

「すみません、揶揄っちゃいました」

 

 嬉しそうに笑われると、光上もどう返していいかわからなくなる。ひとまず、生徒会室へと移動することにした。

 彼の隣りを歩く彼女は、とても嬉しそうに微笑んでいた。先程のやり取りだ。彼は、圭との噂が立つことが嫌だということを否定した。少しは、女性としても受け入れてもらえているということ。それが何よりも嬉しいのだ。

 生徒会室へと入り、圭は光上と並んで座ると、カバンの中から弁当箱を取り出す。光上の分と自分の分。光上の方が大きめの弁当箱だ。

 

「プラスチック容器になってしまってごめんなさい」

「ううん。作ってもらってるだけでもありがたいから」

 

 家庭事情により、余分な弁当箱などない。しかも年頃の男子用ともなればなおさらだった。妥協案として使い捨て前提の弁当箱。しかしその分張り切って作っているし、保冷剤で冷やしてもいる。

 体育祭ということを考慮し、光上の弁当はスタミナがつくようにおかずが配慮されている。そこまで考えてくれていることに、申し訳無さすら感じるのだが、圭はそんな言葉を望んでいない。

 

「やっぱりここにいたし」

「愛さん」

「お邪魔してごめんね~。ウチもいいかな?」

「もちろんです!」

 

 一瞬圭の目が警戒する人のそれになったことに早坂は冷や汗をかいた。完全にノーマークだったが、この子はこの子で恐ろしい子になりうる。早坂の擬態は圭のセンサーに引っかからなかったようだが。

 早坂は2人の対面に座り、母親から受け取った弁当を開けていく。見に来てくれなかったことには怒ったし若干泣きもしたが、お弁当は作ってもらえたので許せるらしい。

 

「圭に何枚か写真送ったけど見た~?」

「はい! ありがとうございます!」

「ソーラン節は2年生全員だから撮れなかったけど」

「そこは父が送ってくれたので大丈夫ですよ」

「それはよかった~」

「……その写真ってもしかして」

「そのまさかです」

「そっかー」

 

 自分の写真が撮られて圭に送られていたようだ。そうでもしないと授業を抜け出していたかもしれないし、そう考えると許容はできた。撮るなとは言わないが、一言言っておいてほしかったりもする。

 

「ところで愛さん。この写真についてお聞きしたいのですが」

「ぁ……」

「ん? げほっ!?」

 

 つい先程の借り物競争の写真だった。どうやらツイッターにアップされていたらしい。ツイート内容は「愛の逃避行」。早坂の下の名前も絡めてのネーミングなのだろう。

 

「こ、これは借り物競争で、お題がギャルだったから」

「そうそう。それで私が頼まれただけで、全然ツイートの意味は当て嵌まらないし」

「そうでしたか。それなら良かったです」

 

 安心した圭は、スマホをポケットに閉まって箸を進める。浮気現場を目撃されたような空気が出来上がりはしたものの、その後は終始良好な空気で食事が終わった。

 

「ごちそうさま」

「お粗末さまです」

「やっぱり白銀さんの味付け好きだな」

「本当ですか? お口にあってよかったです!」

「これは光上くん胃袋を掴まれたんじゃない?」

「否定できないかもな」

 

 光上のその言葉を聞いて圭は小さくガッツポーズした。そこからは圭がどのおかずがどうだったかを1つずつ聞いていく。今後活かすために聞いておきたいのだろう。光上も、作ってもらったお礼として、1つずつ味を思い出しながら答えていく。早坂はそのやり取りを対面から微笑ましく見守っていた。

 高等部は体育祭ということで、昼休憩がいつもより長く取られているが、中等部は通常通りだ。お弁当の話もそこそこに、圭は2人に見送られながら中等部へと戻っていった。昼休みとはいえ、敷地を抜け出している事自体問題な気もするが、そこは光上の方からフォローを入れることになっている。裏技中の裏技だ。

 

「これ、付き合ってるも同然のことしてますからね?」

「……そうなるよな」

「気がないのでしたら、これほど残酷なこともないです。最低な男ですよ」

「わかってる。……自分の中で答えがはっきりと出ないんだ。あの子のことが嫌いじゃないのは確かなんだけど」

「……いくら圭でも、年内には答えがほしいはずです」

「それまでには出すよ。必ず」

 

 早坂は少し意外に思った。答えを出せないままズルズルいきそうだと思っていたから。なし崩し的に決着が着くのかもしれないとすら思ってた。しかし光上の目にはしっかりと力が篭っている。たしかな覚悟がそこにはあった。

 光上のことを見直し、その目に惹かれそうになった心に鎖を縛り付けた。

 

 午後からの競技も順調に進んだ。石上のトラウマが刺激される出来事があったものの、御行が動いたことで石上も前に進むことができた。藤原も、伊井野ですら石上を応援。

 光上は、ただそれを見守るしかできなかった。

 

「何も知らずに幸せそうな女。真相を知ったらどんな顔をするかしら」

「かぐや様」

「わかってるわよ。あれが石上くんの守りたかった笑顔なんだから」

 

 石上にとって巨大地雷であった少女が帰っていくのを、四宮と早坂は離れた場所から見ていた。自分に得のないやり方をする後輩が、不器用なその姿が、四宮にとって可愛らしい後輩として映る。その彼がその身を犠牲にして護ったのだから、自分が壊すわけにはいかない。

 

「光上くんが何もしなかったのは驚きね。彼、石上くんに引け目を感じているのに」

「感じているからこそでしょう。会計くんの一件は、光上さんが入院した直後に起きたことですから」

「中等部にまで影響を及ぼすんだから、彼の存在も大きいわね」

「自覚がある分、余計に責任を感じてたようですよ。事件前に警戒もしてたようですし、退院した時にはすべてが終わってましたから」

「ええ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……かぐや様」

「あら?」

 

 光上が帰ってきたら、生徒会での調査にも協力しただろう。そうしたら必ず裏側にも目を走らせる。違った結末を導き出す。彼は甘いから、制裁も優しくなる。クズなことをした人物相手にそれでは四宮が納得できない。だから、早急に自分よりもエグいことを平然とできる人間たちに情報をリークして終わらせた。

 光上にとっては、これまでで最も悔いている案件である。それを意図的にやったという主人の言葉に、早坂の胸の内がざわついた。それを四宮も感じ取り、口に手を当てながら不敵に笑う。

 

「あらあら。早坂あなた、彼に近づき過ぎたんじゃないかしら?」

「……なにを言って──」

「友人としては応援したいところですけど、やめておきなさい。その身を滅ぼすだけよ」

「っ……! ……そんなの……言われなくてもわかってますよ……」

 

 ──この身はもう、すでに滅びに向かってるんですから

 

 




 お気づきの方もいましたが、タイトルは早坂愛のことでもあります。

修学旅行編について

  • 漫画出るまで修学旅行編待機
  • 18巻の内容までならOK
  • ネタバレ気にしないから更新続行
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