愛の調整は難しい   作:粗茶Returnees

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 バーが真っ赤に! ありがとうございます!!



第3話

 

 光上晶は常に眠たそうにしている。という印象を多くの人たちに持たれているが、それは2時間目の授業から終業時間までの間だけ、意識が半覚醒だからである。

 これでも朝のHRと1時間目はバッチリと意識があり、その違いはノートを見れば明らかである。

 

「光上くんのノートってどうやったらこうなるの」

「どうって? ()()()ノート取れてるだろ」

「あはははは! これが普通なのは小学生までだし!」

「俺のノート小学生レベル!?」

 

 放課後(今現在)。他に誰もいない空き教室で光上は早坂にノートを見られて笑われていた。

 1時間目に取ったノートは誰が見ても分かりやすく、それだけで授業内容が丸わかり。隙間時間を使ってるのか、短な考察のメモだって書かれている。これは家に帰ってからの復習時に利用され、さらなる理解を深めるのに大変役立っている。

 ここを見れば、早坂の目からしてもさすがの一言に尽きる出来栄えだ。

 

(ここ以外が酷いんですよね)

 

 ペラっとページをめくる。そこに書かれてるのは、本当に同一人物が書いたのかと疑う酷さの暗号たち。文字の原型を保てているものもあれば、草書体ですらない何かが綴られている箇所もある。

 成績は優秀なのに、誰一人として彼にノートを見せてもらおうだなんて考えないのはそのせいだ。

 去年度に知り合った白銀御行は一度だけ頼んだことがある。自分では補いきれていない部分もあるのではと考え、照らし合わせるために協力してもらったのだ。それ以降は一度も頼んでいない。

 

「これノート取ってるって言えないと思うな~」

「いやいや。読めるだろ」

「読めないし! こんなの誰一人読めないし! 解読に時間かかるし!」

「えっ……解読とかする?」

「そのレベルだってば! 草書体までなら百歩譲ってセーフだけど! 何文字かすら分からないのあるし! 数学ですら数字じゃない何かが書かれてるし!」

「酷いこと言うな~。ぶっちゃけ俺が読めたらいいんだよ。誰かに貸すわけでもないわけで」

「そりゃあ誰だってこれは借りたくないと思うな~」

 

 歯に衣着せることなく、思ったことをそのままストレートに伝える。パラパラっと見てたノートも光上に返し、光上の正面の椅子に腰掛ける。鞄からタブレットを取り出し、生徒会室にいる主人の様子を確認。相変わらず藤原に場をかき乱されているようだ。

 本来の仕事を始めるにあたり、ギャルモードも解除する。光上には正体を知られているのだ。隠す必要性が特にない。さっきまでギャルモードだったのは、廊下を誰かが歩いてたせいだ。

 

「予習してていい?」

「始めたらどれくらい取り組む気ですか?」

「気が済むまで。短くても1時間はやるかな」

「では駄目です。帰ってからにしてください」

「やれやれ。仕方ない」

 

 取り出していた教科書類を鞄にしまい、早坂に返されたノートもしまう。手持ち無沙汰になった彼は、チラッと早坂が持つタブレットの画面に視線を送った。隠しカメラがあるのはどうかと思うけど、設備面等々は校長の仕事。ひいては父親の範囲だ。放置してるのなら別に構わないということなんだろう。あって困るものでもない。

 視線をタブレットから早坂へと移す。鮮やかに輝く髪と清らかさを感じる瞳。クォーターなのに、ここまでフィンランドの血が出るのは珍しいんじゃないだろうか。

 その視線に気づいた早坂が、顔を上げて小首を傾げる。

 

「どうかされました?」

「それはこっちのセリフだけどね」

 

 その返事に、そうでしたねと短く返す。光上は部活にも委員会にも所属していない。授業が終われば図書室に行って調べものをするか、帰って自習するかだ。

 今日は帰るつもりだったのだが、そこを早坂に呼び止められた。理由はまだ知らない。壊滅的なノートを見てみたい、なんて言っていたのも、周りを誤魔化すための言い訳だ。

 

()()()()早坂さんは何を探りたいのかな?」

「……」

 

 読まれてることに驚きはしない。お互いに不干渉で過ごしているのに、わざわざ声をかけたのだから気づかれて当たり前。「四宮家の」とつけてきたのも、前置きはいらないと暗に示しているだけだ。

 

「探りたいというよりかは、確かめたいというのが目的ですね」

「? なにを?」

「先日にあなたが言ったことです」

 

 『ハーサカさんが気になる』そう言ったことの真意を早坂は確かめたかった。早坂本人としては、それ自体を流そうとも考えてた。あの時の寝惚け具合からして、ちゃんとした思考をできていたとも思えない。

 しかし、それはあくまで憶測。その時に言われたことを早坂は四宮に報告させられたし、その流れで真意を確かめるように言われたのだ。

 

『私たちは不干渉でいることが暗黙の了解となっていますが、彼から動きがあるのだとしたらその真意を確かめなければなりません。早坂ではなくハーサカと言ったこと。思い過ごしならそれでいいのですが……』

 

 光上本人から聞いたのは早坂だけだ。周りの誰も知らないし、席が離れてる四宮の耳にも届いていない。だから直接聞いた早坂しか接触できないのだ。

 

「先日っていつ? 早坂さんと何か話したっけ?」

「つい最近のことですよ。あなたが珍しく休み時間に起きてた日です」

「休み時間に起きてた日っていうと…………あ、白銀が同性愛者って話のときか!」

「そんな話にはなっていませんでしたよ。……はぁ、やはり記憶が混濁しているようですね」

「なんかごめん」

「まったくです」

 

 ピンとこないものの、早坂に収穫のある話にならなかったことだけは伝わった。彼女の日頃の苦労を知っている光上は、力になれなかったことを気にしてぺこりと頭を下げる。その謝罪は少しズレているのだが。

 早坂はやれやれと首を振って考える。光上晶という人間は嘘をつかない。相手を欺くこと、悪意のある騙し、裏切り、相手をはめること。そういったことを毛嫌いしてる人間だ。周りのことはある程度見逃すものの、本人は優しい嘘すらつくことがない。残酷なことでも現実を口にする。

 

 そういう人間だと知ってるからこそ、彼が何か誤魔化そうとしていたり、隠そうとしている、なんてことは考えられない。

 

(本当に覚えてないんですね。これはこれで厄介なことに)

 

 覚えていなかった。そんな結果報告だけでは主人が納得しない。たとえ本人が覚えていなくとも、「ハーサカさんが気になる」と言ったことに変わりはないのだから。その真意は特定しないといけない。

 骨が折れる調査任務が生まれてしまった。

 

「四宮さんからの仕事なんだろうね」

「……まぁ、そうですね」

 

 隠しても意味がない。だから素直に認める。

 自分の苦労など知らないまま、主人は会長たちと何やら楽しそうに遊んでる。これもいつものことか。

 

「四宮さんが俺に関することで知りたがることなんてないと思うけどな」

「かぐや様が警戒することなんて、多くは自分に害があるかどうかですよ」

「もしくは白銀か。……え、俺が白銀の友達なのが気に食わないとか言う?」

「さすがにそれはないと思いますよ。ただの友情であるなら」

「愛情は挟まらないから。というか、恋愛したことないからその辺りを疑われてもね」

 

 見方によってはその発言も危ないですよ、という忠告は言いかけてやめた。本人にその気がないのだから、穿った見方をする必要なんてない。光上も御行と四宮のことは知っている。そこに介入する気なんてさらさらない。

 

「恋愛が分からない、というのはそれはそれで問題では?」

 

 忠告よりも気になったことを口にした。調整屋(バランサー)として、中学生までならまだ問題ないとしても。思春期真っ只中の高校生相手にそれは本業に支障が出そうだ。社会でも不倫だのなんだので人間関係のゴタゴタがあるというのに。

 早坂のその指摘を受け、光上はポリポリと頬を指で掻きながら視線を逸らす。自分でもそこは思っていたらしい。

 

「さすがに鋭いね早坂は」

「知ってる人間なら誰でも気づくかと」

「そうなのかな。……幸いにもドンパチやっちゃいそうな人たちには俺のことを既に知られてる。抑止力は機能してるんだ。三角関係とか略奪愛とか、それくらいのことなら介入する必要もないし。観察して学習させてもらってるよ」

 

 なおその学習の進捗は悲しいほどによろしくない。

 

「それに、どこでも介入できるほど軽いフットワークでもないから」

 

 自嘲する彼の横顔を見て、案外人間らしい人だと思った。学校に順調に通える程度にはなっているものの、それも疲労と回復が釣り合っているから成り立っているだけ。そのバランスが崩壊すれば一気に体調が崩れてしばらく療養生活になる。

 過去にそれが嵩んだ結果、彼が今もなお悔やむ事件には介入できなかった。その事を思い出すも、すぐに頭から弾き飛ばした。

 

「早坂みたいな生活してたら2日で入院だよ」

「2日も保つんですか?」

「……それくらいには体力ついててほしいな~」

「試してみますか?」

「やめとく。今はもう倒れられない生活だから」

 

 なんのことかはすぐに分かった。彼にそう言わせる相手というのは限られている。片手で数えられる程度だし、毎朝のランニングのことは知ってる。

 

(会長の妹さんは中でも特別扱いですか)

 

 異性にそう言わせられることに、圭へと軽い尊敬の念を抱く。それと同時に、そういうふうに思われてみたいとも思った。光上にではなく、いつか自分が恋できる相手に。

 

「そういえば、早坂ってネイルするんだな」

「ええまぁ。ギャルとして学生生活を送っていますから、これくらいはしますよ」

「なるほどね~。さすがプロ」

「それはどうも。仮にも女子のおしゃれに触れたんですから、可愛いの一言でも言うべきですよ」

「たしかにこれは失礼だった。そのネイル、校則を気にしてるのもあるんだろうけど、控えめにしてて可愛らしいよ。早坂によく似合ってる」

「……ありがとうございます」

 

 本当に言ってきたことに驚き半分、率直な褒め方に思うところが半分。

 

「早坂? どうかした?」

「いえ、まさか本当に言ってくるとは思ってなかっただけです」

「あはは……、なんか安っぽい男みたいになっちゃったか」

 

 それはそれとして、異性に褒めてもらえたことが思いの外嬉しかったりする。そんなチョロい女ではないと自分を律し、光上には悟らせないようにポーカーフェイスで振る舞う。

 

「ところで早坂」

「なんでしょうか?」

「帰ってもいいかな?」

「……そうですね。お止めする用事ももう終わりましたし」

「うん。それじゃあまた明日。何かあったら連絡でもちょうだい」

「はい。また明日」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が事の顛末です。彼の発言と性格からして、特別何かしようってわけでもないと思われます」

「そう、ね。……それならそれで気になる発言なのだけど」

 

 帰宅し、食事も入浴も済ませた後、早坂は主人たるかぐやの部屋で報告をしていた。この話が終わればまた会長との話を聞かされるわけで、今日の夜は長そうだ。

 早坂の報告を受け、かぐやも概ね早坂の考えに賛同する。争いを好まないという性格なのだから、仕掛けてくるとも思えない。

 そのせいで余計に発言が気になってくるわけだが。

 

「真意がわかるまで監視してちょうだい」

「そう言うと思っていました」

「それと、光上くんへの探りは本格的にやる必要もないわ。気がかりではあるけれど、彼の性格はある程度信用できる。警戒程度で」

「それは助かりますね。正直あの人の相手は最低限か本腰入れるかの2択しかないですし」

「そうね。でも彼は下手に刺激する必要もないもの。……前みたいなのはもう遠慮したいし」

「私もそれは遠慮したいですね」

 

 二人揃って渋い顔をする。彼はいつもオフモードだ。看過できない何かが起きた時のみスイッチが入り、発言力のある周囲すら黙らせるほどの才覚を惜しみなく発揮する。

 それを見たことがある生徒はほんの一握り。そしてかぐやは一度それを相手取ったことがある。誰が悪かったかと言うと、けしかけた校長だろう。

 

 フランス校の生徒会副会長ベルトワーズ・ベツィーに白銀御行を口撃するように校長が指示。白銀がフランス語を聞き取れないことが幸いしてダメージ0だったものの、フランス語がわかる且つ白銀御行が大好きな四宮かぐやが介入。今度はベツィーがサンドバッグ状態となり、それに気づいた光上が介入。本気の光上との言葉の応酬が始まった。

 御行が止めに入ったことでそれは終わり、互いに謝罪してその場は収まった。ちなみにその後校長は光上に説教されていた。親族だからこそ許せなかったらしい。

 

「彼のモットーは平和ですからね。そしてそれは自分の視線が届く範囲」

「そうね。会長が信頼するのもわかるわ。彼は生徒会の目が届きにくいところを見ているから」

 

 光上は正義感を持って介入するわけじゃない。それを振りかざすことにもいい顔をしない。根底は誰よりも子どもだ。「みんなが笑える」状態を保ちたいという理想を抱いてるだけ。

 

「それはそうと早坂」

「なんですか?」

「その……ネイルって会長……じゃなくて、他の男の子にも好評かしら……」

「よくそれで誤魔化せてると思ってますね」

 

 昔はこんなにアホじゃなかったのにな。なんてことを何度思ったことか。そんな悪態はさておき、おしゃれなんてしないかぐやが興味を持った。これには食いつかざるを得ない。

 

「まぁ……そうなんじゃないですかね」

 

 男受けしない……とは光上のせいで言い切れない。お世辞とか言わない男が褒めたのだから。

 一般的にはあまり男受けしない。そんな情報をかぐやが持っているわけがなく、おしゃれさせたいという欲求を優先することにした。

 

 

 

 

 

「はぁ。かぐや様も会長もいつまでああするんだか」

 

 自室へと戻り、寝る前にいつも見ている動物動画を再生する。今日はゴリラが動物園の強化ガラスにパンチしてる動画。ヒビを入れる威力は爽快だ。

 それを見ながら思い返す。今後監視していく光上との会話を。

 

 ──恋愛を知らない

 ──学習してる(本人の中では)

 

 そして──ハーサカさんが気になる

 

 

「…………ぇ……」

 

 それはつまりそういうことなのだろうか。

 確証なんて得られない。考えが正しければ、それは無自覚ということになるのだから。

 

 誰かに好きになってもらう。

 

 その事自体には喜びも感じられる。だが、ハーサカは早坂であって早坂じゃない。

 やはり「偽らなければ人に好きになってもらえないんだ」とさらに強く思った。

 

 重ねて言う。確証なんてない。早坂が現時点で持つ情報の中で、その可能性が浮上してきただけだ。

 他人なら可能性の1つとして保留できた。

 それが自分だから処理に戸惑う。

 

 なにせ彼は、嘘が嫌いな人なのだから。

 

「ウチにどうしろっていうの……っ」

 

 愚痴とともに、体をベッドに投げ捨てた。

 

 




 圭ちゃんと早坂の話が交互というわけでもないです。
 比率をある程度は気にしてますが、早坂が連続の時もあれば、圭ちゃんが連続の時もあります。
 

修学旅行編について

  • 漫画出るまで修学旅行編待機
  • 18巻の内容までならOK
  • ネタバレ気にしないから更新続行
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