病院を抜け出した光上は、秀知院学園の生徒を探しながら藤原に電話する。秀知院学園の生徒で見つけたいのは、マスメディア部の
他にも見つけたい生徒はいる。火ノ口と駿河だ。この2人は早坂の友人であり、基本的に学校ではその3人セットで過ごしている。今回もグループが同じだった。何かしら情報を得られるかもしれない。
『も、もしもし晶くん。どうされたんですか?』
耳に当てていたスマホから藤原の声が聞こえてくる。信号を待つために足を止め、呼吸を整えながらその声の出し方に集中した。動揺を隠そうとしている声。何か知っているのだろう。
『病院にいますよね?』
「抜け出した」
『えぇっ!? なにしてるんですか!? だって倒れたんでしょ!?』
「寝過ぎただけ。それより千花ちゃん。早坂がどこにいるか知らない? もしくは白銀」
『え、そう言われましても……。会長とはグループが違いますし、早坂さんはクラスも違うので。どこにいるかは私もわかりません』
嘘は言っていない。嘘が通じない相手だと藤原もわかっているから、話し方に工夫をしている。しかし、遊びの要素がないこのやり取り、藤原の性格で隠し事を隠し通せるわけでもない。
「じゃあ、2人は何してた?」
『え……』
信号が変わる。秀知院生が回りそうな場所に目星をつけ、そこへと向かう。最終的には早坂の下にたどり着くことができればいい。マス部の協力は必要だが、その前に火ノ口と駿河に会っておきたい。その前段階として、他の生徒たちから情報を集めたいのだ。
電話の向こうで藤原が迷っているのが伝わった。その時点で、早坂が御行と行動していることが推測できる。早坂がハーサカとして接触していた相手。カラオケで御行に事情を話していたのが功を奏している形だ。
そして、
「千花ちゃん」
『は、はい!』
緊張からか、藤原の声が上ずる。それも仕方がないこと。光上は目を覚ました時から完全にキレており、努めてそれを抑えようとはしているものの、漏れ出る怒気が藤原に伝わってしまっているから。耳を近づけて聞いていた彼女の友人たちも、肩を震わせて耳を離している。
「頼まれて黙ってるんだろうし、そこには怒らないよ。代わりに少しだけ協力して」
『協力ですか?』
「マス部の2人と、火ノ口さんと駿河さん。この4人を探すのを手伝って。これなら手伝える範囲だよね?」
『……そうですね。それなら大丈夫です』
「うん。ありがとう」
通話を切り、京都の町中を突っ走る。自由行動が基本なのだが、許されている行動範囲が広い。観光スポットこそ限られてくるものの、それらはたいてい京都の町の外側。生徒たちがバラけやすい。もちろん町中にも観光箇所はあり、光上はまずその場所を目指していた。
「あれ? おーい光上くーん!」
「ん?」
目的地に近づいたところで、横の脇道から声をかけられる。そこにいたのは田沼柏木カップルと、魂が抜けかけている四条眞妃。彼女に救いはないのだろうか。秀知院生を見つけられたことはよかったものの、柏木と四条は求めていなかった。四宮家の案件だから、2人が何か察するのは当たり前。
しかし声をかけてきた田沼を無視するわけにもいかず、どうするかを一瞬悩み、別に知られても隠すだろうと踏んで3人の下に歩み寄る。
「病院に運ばれたって聞いてたんだけど。どうしてここに?」
「抜け出した」
「え!? それ大丈夫なの!?」
「揉み消すからいい」
「あら、光上がそういう手を使うだなんて珍しいわね」
田沼との会話に四条が割って入る。四条が言ったように、光上はこの手のやり方を好まない。そもそも脱走自体やろうとは思わない。つまり、それをしている時点でおかしい事が起きているとわかるわけだ。四条が癖で挑発的なことを言う前に、柏木が先行して光上に話を聞く。
「何かあったんですか?」
「いろいろとね。そういえば、柏木さんと四条さんはマス部の2人と仲良かったよね? どこにいるか知らない?」
「あの2人はたしか……スクープがどうとか言って暴走してるようですよ」
「このツイートね。2人と同じグループの子が写真撮ってツイートしてるわよ」
「じゃあ足跡は辿れるわけか。ありがとう」
マス部の2人に関しては、断然探しやすくなった。これは大きな前進だ。しかし、一向に手がかりがないのは、火ノ口と駿河の情報。これは四条たちも知らないようで、近くにはいないだろうとのこと。
次のポイントに向かおうとする光上を、四条が掴んでズルズルと引っ張る。田沼カップルから離れたところで、四条は光上に問い詰めた。
「愛のことで何かあったのね?」
「……どうしてそう思う?」
「あんたがそこまで行動するのは、あの子の事ぐらいしかないでしょ」
「心外だな。他にもいるぞ」
「そうなの? まぁでも、おば様の様子が露骨におかしかったから、何かあるって気づくのも当たり前よ」
「それもそうか。2人の関係を知ってる人からすればそうなるわけか。でも、四条さんはそのまま気づいてないふりをしてたほうがいい」
四条家と四宮家は一触即発状態。光上家の影響があり、狙い通りの海外での成長こそできていないものの、十分に張り合えるだけの力はつけている。対四宮家との戦争のために光上家と四条家は陰で手を結ぶことにしてある。正式にしてしまえば四宮家が感づくため、あくまで非公式だが。
ともかく、四宮家内部のちょっとした騒動に、四条家の人間が関わるべきではない。光上なりの配慮であり、四条眞妃もそれを理解している。
「あんたはどうするつもりよ」
「過去10年分の精算を済ませる」
「……そう。中身は聞かないでおくけれど、せいぜい男を見せることね」
「ああ、そうする」
四条たちと別れ、次のポイントへと向かう。その最中に藤原から連絡が入り、火ノ口たちとのコンタクトに成功したことを言われた。連絡先が光上に送られ、藤原にお礼を言って通話を切る。今度スイーツでも奢ろうと決め、教えてもらった連絡先に電話。今どこにいるかを聞き、合流地点を決めてそこに移動。
「藤原ちゃんから光上くんが探してるって聞いたんだけど」
「何か用? というか病院は?」
「早坂がどこにいるか知ってる?」
「愛? なんで……はっ!」
「ま、まさか……!」
「おっと? 話が拗れてきたな?」
時間を惜しみ、単刀直入に話を聞いたことがいけなかったのだろうか。しかしこの2人は早坂が四宮家の使用人であることを知らない。何が起きているのかは、目で見てわかっていることしかないのだ。
御行と2人でどこかに消えた早坂。昨晩の密会。早坂はもしかして白銀御行を狙っているのではと考えており、そこに光上の登場なのだ。三角関係だと解釈している。
「悪いことは言わない。諦めたほうがいいよ光上くん」
「そうそう。ケジメをつけたいなら話は別だけど」
「ケジメはつけるつもりだ。というか、2人がどこにいるか知ってんの?」
「2人?」
「白銀といるんだろ?」
「知ってて……!」
「愛を取り合う2人……! あの子モテモテね!」
「面倒だなぁ」
ズレたまま話が進んでいくのは面倒だ。とはいえ修正するのも手間であり、必要な情報だけが欲しかった。特にこの2人からは。
「2人にとって早坂は友達?」
「え、当たり前じゃん」
「だからあの子の情報は売れないよ~」
「それならよかった」
「なにが?」
「いや、早坂にもちゃんと拠り所があったんだなって。本人は臆病だから、気づけてないかもしれないけど」
「……待って。あの子に何か起きてるの?」
光上の雰囲気がいつもと違う。そう感じたようで、駿河は光上に問いかけた。早坂が仲のいい男子は光上くらいだと思っていたこともあり、御行と行動していることにも違和感自体はあった。けれど、そういう事もあるかと受け入れるようにしていた。
そうしていたのに、どうやらそれが間違いだったと気づいた。御行のことが好きで共に行動しているのではなく、
「何があったかは全部早坂の口から聞いたらいい。修学旅行中に聞けるかはわからないけれど、旅行明けには必ずそれを話させるから」
「……信じていいの?」
「好きにしたらいいよ。約束は破らないけど」
「そう。なら勝手に光上くんに愛のことを頼むわ」
「2人がどこにいるかは私たちもわからないの。でも、ウチの子のことをお願い」
「母親か」
「あ、あと1つお願いがあるんだ」
火ノ口の頼みを聞きそれを承諾。
今度はマス部の2人との合流だ。藤原が先に連絡を取り場所を決めた。紀と巨瀬の2人は先にそこに向かっており、光上の方が後から到着した。
「何やら大変そうですね。光上さん」
「いやお前のその状況に言いたいわ」
何があったのかは知らないが、2人の顔は真っ白になっていた。ペンキでも顔面から浴びたのだろうか。トムとジェリー並の体験を京都でしたというのか。
答えはそうでもなく、舞妓体験をしていたらしい。顔だけ変えても意味がないだろうし、その顔のまま移動していたということに驚愕である。
「落とす時間がなかったんです!」
「それはごめん!」
原因は光上にあった。仲介役は藤原であり、どう呼び出したかは不明である。
「緊急の用事って聞いたけど、どうしたの? というか病院は?」
「白銀を探してるんだが、情報持ってないか?」
「会長ですか?」
「病院はスルーかい」
「結構急を要する事でね」
四宮かぐやの名前を出せば一発で協力を得られそうなのだが、早坂とかぐやの関係は伏せないといけないためその手段が取れない。次点で強力な餌となるのが御行なわけで、早坂と行動を共にしているのだから核心部分でもある。
光上の言葉に2人は顔を見合わせた。スクープの匂いを嗅ぎとったからだ。しかしそれと同時に、あまり踏み込んではいけないと脳内センサーが反応している。何も聞かずに協力してもいいが、それは少し虫のいい話でもある。そのため巨瀬は交換条件を提示することにした。
「有益な情報を与えられるかはわからないけれど、見返りはほしいね」
「エリカ? 緊急のことなのですよ?」
「四宮かぐやとの食事会をセッティング。それでどうだ?」
「何なりと命じてください! 巨瀬エリカ協力致します!」
「エリカ! 敬礼してないで鼻血を止めなさい!」
尊死しそうになっている巨瀬の介護を紀が始め、予想以上に簡単に釣れたことに光上は苦笑する。かぐやからすればあまり関係のない話。メリットもない。光上はその会のセッティングには骨が折れると思いつつ、小事だと自分の中で片付けた。
鼻にティッシュを詰め込んだところで、紀がメモ帳を取り出して最近の情報を光上に提示していく。彼女たちの情報網は侮れず、その実態はマス部の人間しか把握していない。
「目撃情報としましては、会長が昨晩A組の早坂さんとお話されていたとか」
「昨晩?」
「はい。女子の入浴の後ですね」
「……他には?」
「今日は朝から早坂さんが会長のいるグループに合流。かぐや様のグループはその尾行をされていました」
「それを紀さんたちが尾行してたと」
「否定はしません。ですが、早坂さんと会長は途中で突然走り出してグループから離れ、かぐや様もお知り合いの方とお話されて、そのままその方と行動されていました」
「特徴は?」
かぐやに話しかけ、その後ともに行動している。そうなれば相手は四宮家の人間。問題はどの位置の人かだ。
その情報を復活した巨瀬から教えてもらい、相手が早坂の母だと特定。それはマス部には伝えず、少しは早坂たちの場所を絞れることに感謝する。あとはどうにかするしかないかと行動に移ろうと考えたところで、紀から更なる追加情報が。
「聞いた話によりますと、会長と早坂さんはバイクで移動されているようです」
「バイク?」
「はい。少し荒いですが、この写真からして間違いないかと。お相手がかぐや様じゃないとか解釈違いにも程がありますが」
「いや早坂もその気はないと思うけども。……ナンバーが見える写真もあるな。ありがとう紀さん、巨瀬さん。これで後を追える」
「ねぇ、これって物騒な案件だったりするわけ?」
巨瀬の少し踏み込んだ質問。紀は取り消させようとしたが、それを光上が止める。巨瀬はこれを探りたいわけじゃないとわかったからだ。巨瀬が知りたいのは、皆が楽しい修学旅行を最後まで送られるかどうか。そこだけだ。
「物騒な案件ではない。面倒なことではあるけどな」
「……知らない事として処理すればいいんだよね?」
「そうしといて」
「わかった。なんか知らんけど頑張れ」
そんな過程があって光上は早坂たちの下にたどり着いた。御行が地元の人から借りたバイクを、京都中の防犯カメラを精査することで捜索。場所を割り出して急行してきたというわけだ。その過程で雲鷹が乗ってきた車にも気づいたりしたが、完全におまけ扱いである。
雲鷹が放った言葉。早坂の父親が、光上の祖父の死因であるという話。そんな話など早坂は聞いていない。全く知らない。しかし、自分が子供だから伏せられていた可能性は十分高い。光上があの日から、違った目の色を放つようになったのも事実。符合するものはある。
光上は無言で雲鷹と早坂の下へと近づいていく。早坂は目を瞑り、草が踏みしめられる音が近づいてくることに震える。彼は怒っているだろうし、彼を裏切ったのも事実で、彼に嫌われているのも当たり前。それでも、その現実は堪えられそうにないほどに恐ろしい。突きつけられたくなかった。
「その手を離せ」
光上は早坂ではなく、早坂の髪を掴んでいる雲鷹に声をかけた。雲鷹が光上の言葉に従う理由もないため、挑発的な笑みを返すだけ。それを受けて光上は、雲鷹の意識の裏をついて距離を無くした。
「聞こえなかったか? 早坂の髪を掴んでるその手を離せと言ったんだ」
「ぐっ……! こいつっ!」
早坂の髪を掴んでいる方の手首を握り締める。感情の爆発というものは、人間の理性を弾き飛ばす。怒りであれば暴力性が増す。相手を傷つけることへの躊躇いが無くなる。それと同時に、いつも以上に力が込められるというもの。
光上は相手の手首を掴んだ。人の骨は基本的に硬いものの、関節は骨がない。そこに指を食い込ませるように力を加え、早坂から手を離させる。
「小僧!」
「うるさいな。女の髪を掴むようなクズめ。立てるか? 早坂」
「……」
「返事くらいはほしいね」
「っ!」
視線を合わせようとしない早坂を引き上げ、逃れられないように右手を彼女の腰に回す。ここが目的地なのだから、逃げる気もないだろうが念の為だった。いや、これはこの後の意思表示にも繋がることか。光上は雲鷹から距離を取るため、早坂を抱えながら数歩距離を取った。
「おいおい何の茶番だ?」
「俺はクズを楽しませるための道化じゃねぇよ」
早坂のでこに一発デコピンを入れ、ぽんぽんと頭を撫でてからスマホを取り出す。雲鷹に投げやりに言葉を返しながら、電話を繋げた先は
「役者は揃ったな」
『それは何よりだ』
「っ! 大兄貴……!?」
「あんたの予測通り、切り離した餌に見事に喰らいついたな。黄光」
電話の相手が黄光であると知った途端、雲鷹は身構え早坂は体を震わせた。今もまだ、あの男の手のひらの上で踊らされているのかと。
『君とは上手くやれそうだな。少年』
「アホ抜かせ。俺がいつからお前と手を組んだ」
『なに?』
「お前と合わせた話は、早坂愛を確保すること」
『そうだな。そしてその主人は──』
「捨てたんだろ? なら早坂に今主人はいない」
彼女の腰に右手に力が入る。それを感じ取り、早坂は困惑しながら光上の顔を見上げた。
嫌な予感がした。彼を四宮家から遠ざけたいという願いが崩れそうだと。
「
『ほう?』
「なっ!?」
「ちょっ! 早坂は私の侍従ですよ!?」
「それも解任されてんじゃん」
「おいおい。吐き気がするほど青臭い話じゃねぇか。祖父を殺した男の娘で、お前を裏切り、お前を騙して四宮家に取り込もうとしてた女を貰う? 一応籠絡の仕事はしてたようだな」
「……」
「どんなことをしてたのかは知らんが、仕事のために情を偽る。汚え溝鼠らしいことでもしてたか?」
「黙れ」
明確な怒気が篭った一言。早坂への言葉に対する明確な怒り。その言葉の重みに一瞬誰もが喉を詰まらせた。電話の向こうにいる黄光だけは、笑っているようだが。
「お前が早坂の何を知っている。顔面ダイナミック違法建築の分際で早坂のことを語るな」
「人の容姿を貶すなと親に習わなかったのか? 倫理観を疑うな」
「四宮の人間にだけは倫理観とか言われたくねぇな!」
どっちもどっちである。倫理観の酷さで言えば、さすがに四宮家の方が軍配が上がるわけだが。
「全部水に流すってのか? 随分めでたい頭してるじゃないか。鬱陶しい光上家もお前の代で終わりだな」
「方針の違いを理解できないのなら、程度が知れるってもんだぞ。それと、俺は別に早坂を怒れる立場じゃないしな。ただし御行テメェは駄目だ!!」
「なんで!?」
突然の巻き込みに御行がビクリと反応する。初めて下の名前で呼ばれたというのもあるが、まさかそれがこんなタイミングだとは思わない。光上のその急な方向転換に、四宮家の人間たちですらぽかんと置いて行かれた。
「早坂と
「えっ……お前が怒ってるのって……」
「お前への私怨が半分だわ!」
「えええぇぇぇぇ!!」
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