愛の調整は難しい   作:粗茶Returnees

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第49話

 

 生徒会メンバーは昼休みを生徒会室で過ごすことも珍しくない。仕事が山積みになっている時など、放課後だけでは処理が追いつかなくなるからだ。主な理由はそこになるのだが、ただ昼食を取るだけという理由でも生徒会室を使うこともある。今日は後者であり、御行とかぐやは言葉を交わしながら生徒会室に向かう。周囲に隠さないといけないことだが、付き合い始めた2人が一緒に昼食を取りたくなるのも無理はないのだ。

 

「今日くらい早坂と過ごしてもいいんじゃないのか?」

「火ノ口さんや駿河さんの先約がありますから」

 

 髪を切った早坂が今朝四宮家の別邸に姿を現し、かぐやに一緒に学校に行こうと誘った。使用人としてではなく、1人の友達として。それが早坂のしたいことで、かぐやも望んでいた形。かぐやはそれを言わなかったが、気持ちが重なっていたことが心底嬉しかったものだ。

 御行はそこに気を遣ったのだが、かぐやの言うとおり先約がある。早坂の友人である2人は、これから1週間早坂を連れ回して遊ぶつもりだ。かぐやにその気が無くとも、四宮家に仕えることでその機会を今まで奪っていたのも事実。今は手を引くのが筋だと判断した。

 

「あ、かぐやと会長じゃん。お熱いし~!」

「あれぇぇ!? 愛さん!?」

「あははは! めっちゃ驚いてる。チョーおもろーい!」

「四宮先輩と早坂先輩って仲いいんすね」

「修学旅行で距離がグッて縮まったからね~」

 

 生徒会室に入ると何故か居る早坂にかぐやと御行は唖然とした。かぐやは大きく口を開けて驚いている。御行は早坂の隣に座っている光上に視線を送り、説明を求めた。ちなみに石上は早坂と光上の対面に腰掛けている。

 

「昼はこっちで遊びたいんだと」

「なるほど」

 

 シンプルな理由だった。いいリアクションをしているかぐやをケラケラ笑っている早坂にちらりと視線を向け、素で楽しんでいるだけと判断したら御行も石上の隣に移動する。かぐやには声をかけなかった。自分の隣に来るか早坂の隣か。好きにしてもらおうと思ったからだ。自分の隣を選んでもらった時には内心でガッツポーズしている。

 

「愛さんのお弁当は自作ですか?」

「ううん。ママが作ってくれたんだ~。食材は光上家のだけど」

「そうでしたか。奈央さんが…………光上家?」

「え、どゆこと?」

「今は晶の家にいるから」

「この野郎……!」

「待て石上! そのトイレットペーパーをどうする気だ!」

 

 何故瞬時にトイレットペーパーが出てくるのかはわからないが、石上の手にかかれば簡単に召喚されるようだ。荒れる石上を御行が取り押さえ、代わりにかぐやの鋭利な視線が光上に向けられる。向けられた本人はケロッとしているが。

 

「住むとこないらしいし、うちの親が許可出したから」

「意外と事情が深そうな話ですね」

 

 早坂が四宮家に仕えていたことを知らない石上にとっては、結構重たい話が出てきたなという感覚である。あまり触れない方がいいのだろうと思い、追及はやめることにした。ラッキースケベは許さないが。1男子としては、同年代女子と同じ屋根の下なんてそんな美味しいシチュを許す気はサラサラないが。

 お昼を食べつつ、話題は別の話へ。2年生たちが修学旅行に行っている間に、藤原の妨害を警戒して日程を組み立てた石上と子安のデート。それがどうだったかを御行は聞きたいのだが、早坂がいるため話を切り出せない。石上は早坂に事情を知られていることを知らないから。

 

「そういえば光上先輩。誰かに横浜に遊びに行くって誘われませんでした?」

 

 話題を切り出したのは石上。その内容に聞き覚えがあり過ぎる早坂とかぐやは一瞬動きが固まった。それに気づいたのは光上ぐらいか。

 

「誘われてないけど、なんで?」

「あ、いえ。誘われてないなら別に」

「そこで引くのか」

「もし誘われたら、行ってあげてください。その人きっと()()()()()()()()()()()()()だと思うので」

 

 石上は頑張る人のことを人一倍応援する。たとえ報われないのだとしても、その勇気と行動は賞賛されるべきだと思っている。だから、結末が決まっていても、その勇気には応えてほしいと思った。

 横浜のくだりに全く関係ない御行はひとまず静観することに。石上が横浜の件を知ったのは、子安とのデートプランをかぐやに相談したのがきっかけだ。かぐやは早坂に相談し、早坂から提案されたのが横浜デート。早坂の脳内シチュでは完璧なプランである。

 で、そこになぜ光上が絡むのかと言えば、その頃に光上は横浜に行ってみたいと話していたからだ。生徒会の面々は聞いているし、かぐや経由で早坂も知った。つまり、早坂はその時「光上との横浜デートプラン」を作成し、そのままそれを提案。かぐや経由で石上が知り、「その人光上先輩のこと好きなのかな」と察したのである。

 

「まだ俺は何も聞いてないし、そうなんだろうな」

 

 ちらりと隣に視線を向ける。ポーカーフェイスで誤魔化しているが、恥ずかしそうにしているのは見破れた。ここでバラすのも忍びなく、その話は保留に。

 

「ああそうだ。石上にもお土産買ってきたんだった」

「マジっすか!?」  

「無難にお菓子にしちゃったんだけど」

「いやこういうの貰えるの初めてなんで嬉しいっす!」

「はいこれ」

「おお……! お?」

「ユーフォドロップス」

「よく見つけましたねぇ!?」

 

 それを選んだ理由は、お土産にお菓子は無難だから失敗しない。石上相手ということを考慮し、アニメキャラ書かれてたらそれでいいだろという失礼な思考である。見つけ出したのは一緒に行動していた早坂のおかげだったり。

 

「飴玉自体は普通のと変わらないらしいから安心して食えるぞ」

「ありがとうございます」

「光上に先を越されてしまったか」

「え、まさか会長も?」

「もちろんだ。四宮と考えて決めたからな」

「僕こんな幸せ味わっていいんですか? 明日死ぬのかな」

「会計くんネガティブ~」

 

 早坂がすかさず茶化し、苦笑しそうな空気を吹き飛ばす。コミュ力の高さはさすがの一言である。

 

「あれ? 班って男女別ですし、会長と四宮先輩は別クラスですよね?」

「えっ、あっああ。そうなんだが、生徒会の後輩に向けてのお土産だからな。相談して一緒に考えてもらったんだよ」

「藤原さんとも選びたかったんですけどね」

「いやそれで正解ですよ」

「相変わらず藤原への評価酷いな」

 

 ちなみに、藤原も2人と合流したのだが、そのタイミングがお土産を買った後だったために、藤原は個人でお土産を購入している。

 

「光上先輩は圭さんにも買ったんですか?」

「もちろん」

「そういえば今日妹の機嫌が良かったんだが、何かあったのか?」

「いや? 放課後デートに誘ったぐらいだけど?」

「そうか。……デート? まじで?」

「うん」

 

 視線が光上に集まる。何もない日に彼が圭をデートに誘うのは、これが初めてだと言える。圭の誕生日の時は、石上に言われての帰国。二度目の水族館デートは藤原に言われて決まったこと。三度目は自分で誘っているが、文化祭というイベント日。特別な日でもなく、誰に言われたのでもない。自分からデートに誘っている。それは彼の成長とも言えよう。

 

「放課後は来ないけど、問題ないよな?」

「まぁ仕事も特にないからな」

「コイバナしてました?」

「あれいつもより藤原先輩に勢いがない!」

「藤原先輩不調ですか?」

 

 他人の恋話ともなれば勢い良く駆けつけてきそうなのに、今日の藤原は勢いがない。1000ccバイクから原チャに乗り換えてるかのように。一緒に生徒会室に入ってきた伊井野は心配そうだ。

 

「いえだって晶くんの話とか聞いてもねぇ?」

「光上くんに対してはそんななのね」

「純粋に応援して終わりですよ。進展とかは気になりますけど」

「光上がうちの妹を放課後デートに誘ったぐらいだな」

「へ~。事件じゃないですか!!」

「事件か!?」

 

 光上から誘うという時点で事件らしい。驚きポイントなのだそうだ。失礼なことを言われている気もするが、これまでの行いのせいである。光上はそのリアクションを甘んじて受けた。

 

「放課後デートはどこに行かれるのですか?」

「伊井野それ聞くか?」

「ふ、風紀委員としてよ!」

「俺って変なとこ行くとか思われてる?」

「晶だから読めないんだろうね~」

「そういうわけではないですよ! 本当ですよ!」

「単に気になるって言えよ」

「石上うるさい」

 

 藤原よりも伊井野の方が食いついていた。ラブ探偵の助手だろうか。ワトソンならぬミコソンだろうか。ワトソンと違ってポンコツ臭がするのは何故だろう。ミコソンも優秀な人のはずなのに。

 

「まぁまぁミコソンくん。こういうのは直接聞いても駄目ですよ」

「ミコソンって誰だ」

「そうなのですか? 千花ムズ先輩」

「おい伊井野に悪影響出てるぞ」

「彼女の成長が心配になってきますね」

 

 他人の恋話ほど興味深いものはない。しかし昼食を取った後の光上は眠そうに船を漕ぎ始めるもので。藤原はそれに気づいて伊井野を止めておいた。今聞いても碌な情報は手に入らないから。

 それには早坂も気づいていて光上に教室に戻るように誘う。それに大人しく従い、光上は弁当を片付けてソファから立ち上がった。段々と強くなる眠気を感じつつ、早坂と一緒に生徒会室を出る。光上はいつも教室で食べて寝るため、昼休みに生徒会室に来ること自体珍しい。今日は、早坂が誘ったために生徒会室に行ったのである。

 

「圭とデートするんだ」

「ん、まぁね」

「スキがないというより、ちょっと焦ってるね」

「時間がないから」

「どういうこと?」

「……帰ったら愛にも話すよ」

 

 フランスに行くことを早坂にまだ話していない。けれど、それは早坂にも話しておかないといけないことで、それより先に圭に話そうと決めている。そこの優先順位は間違えてはいけない。

 

「それより、横浜のことだけど」

「っ! あ、あれは気にしないでいいの!」

「行こっか」

「ぇっ?」

「せっかく考えてくれてたんでしょ? デートってわけにはいかないけど、一緒に遊びに行くぐらいならね」

「……圭も誘う気?」

「愛の好きにしたらいいよ」

「晶のばーか」

 

 男女で遊びに行けばそれはデートとして周囲に映るのに。一般的にデートと言われる状況を作っても構わないのだという。光上の気持ちは揺らがず、圭にだけ向いているという証。見方によれば残酷な現実を突きつけられているだけ。けれど早坂はそうは受け取らない。その甘さをついて、甘えてやろうと決めた。

 左手につけてあるシュシュを触る。かぐやのお付きになってから日が浅い頃に、かぐやからプレゼントされた大切なシュシュ。前までは髪につけていたけれど、髪を切った今では髪につけられない。けれども大切なものだから、肌身放さず今も持っている。

 

「私をフッたこと、後悔させてあげる」

 

 彼の前に躍り出て、挑戦的な笑みを浮かべて宣言した。

 

 

 

 

 放課後になり、SHRが終わると光上は中等部へと足を運ぶ。生徒会室では石つばか石ミコかでのカップリング論争が始まろうとしていたが、光上の知るところではない。一役買うこともなく静観して終わるものだし、そもそもそんな事が起きてるとか思ってない。石つばはともかく、石ミコ要素あったんだレベルである。最近仲が少し良くなったなとかで全然気づいていない。

 早坂も友人たちと遊びに出かけた。時間に制限こそかけていないものの、夕飯の有無と帰る時間は奈央に伝えるように言ってある。早坂母もちゃっかり住み着いていた。

 中等部に向かっていると、途中で反対側から圭が歩いてきていた。それもそうだろう。圭は光上との関係を隠している。周りに知られたくないのだ。恥ずかしいから。自慢しようとも思わない。恥ずかしさが勝つから。思春期である。

 

「白銀さん、お待たせ?」

「この場合はどうなんでしょう?」

 

 くすくすと笑う様子は子リスのようで愛らしい。光上も釣られて笑みをこぼした。

 

「どこに行くのか決めてなかったですよね」

「白銀さん門限とかある?」

「特に言われてませんが、生徒会で遅くなっても8時には家に着いてます」

「なら目安はそこかな。普通のことしてみたいし、カラオケとかでもいいかな?」

「もちろんです」

 

 これから向かう場所は決まった。ここから近い場所だと、中等部と高等部両方の生徒に知られる可能性が高くなる。圭はその事を懸念し、近くの店はやめておこうと提案。光上はそれを家に近いほうがいいと解釈した。双方の認識にズレはあるが、衝突することなく向かう場所が決まる。

 光上はいつも車で登下校しているが、今日は圭と放課後デートをするため、迎えはいらないと伝えてある。使用人達に新たに追加されている仕事は、早坂愛の護衛だったりするのだが、早坂本人はその事を知らない。

 白銀家は自転車でおよそ1時間の距離。歩いてその付近まで向かうのもおかしな話で、2人は電車を使うことに。秀知院学園の多くは富裕層。徒歩か送迎の車がほとんどであり、電車を利用する生徒は極わずか。案外他の生徒に知られる可能性は低いのだ。

 

「あの、1駅分歩きませんか?」

「え? どうして?」

「その……他の方に見られるとちょっと……」

「そっか。じゃあ歩こうか」

「ありがとうございます」

 

 特に断る理由もないためそれを承諾。他の生徒に見られたくないのならと光上はルートを変更した。秀知院生が通ろうとしない小道。身を守るために大通りを通るのは常識で、だから細々とした道は穴となる。日本は基本的に治安がいいものの、いつ何が起きるかはわからない。周囲をさり気なく警戒しつつ、圭と並んで道を歩く。

 だからといって何が起きるわけでもなく、昼間からの酔っぱらいを見かけたり、電柱にベロチューしてるやばい人がいたぐらいでとても平穏だった。圭には刺激が強いと思い、光上が圭の目を塞いで歩いたためカオス空間が生まれただけだ。とても平和である。マザーなテレサもにっこりだ。

 1つ隣の駅に着き、切符を買って改札を通る。電車に乗る経験の少ない光上は、切符が勢い良く吸い込まれるあの瞬間が苦手だったりする。指まで吸い込まれそうな勢いまじ怖い。生爪とか持って行かれそうだ。

 

「人も多いね」

「いつものことです」

 

 帰宅ラッシュ。放課後の時間であればピークでもないのだが、人の移動が多過ぎる首都東京ではこの時間でも人の数は多めだ。他県によってはまず見られない多さかもしれない。ともあれ、おしくらまんじゅうをするほどの人の数でもなく、ゆとりはある。他の人の邪魔にならないように、ドア付近では留まらず中の方へと進んだ。降りる時は少し大変かもしれんない。

 空いてる席を我先にと座っていく人を眺めるのは、人がゴミのようだと言えるぐらいなんだか上位者になった気分。2人ともそんなことは思わないし、阪神地域のおばちゃんのがめつさにはドン引きだろう。あれまじやばい。

 

「光上さん。大丈夫ですか?」

「たぶん」

 

 人の数に慣れずに気分が悪くなったのかと圭は心配したが、事実は違う。光上は電車酔いしていた。まだ発射して1分なのに。圭は光上が乗り物に弱いことを思い出した。この男、新幹線で酔うほどの雑魚さである。

 途中で降りようかと思ったが、どのみち徒歩以外での移動となると変わらない。頑張ってもらうしかない。圭がいることで、酔いの気持ち悪さは幾分かマシになっているらしい。

 

「……白銀さん」

「なんですか?」

「話があるって今朝に言ったことなんだけど」

「話のタイミングは光上さんに任せますよ。私も前に進みたいですから、受け止めるつもりです」

「……そっか。ありがとう」

 

 先に話しておくべきか、カラオケの後に話すべきなのか。迷ったものの、選択権は……いや選ぶ責任は光上にあるのだ。そこの甘えも許されない。自分の弱さはすぐには直らないなと自嘲し、彼女の強さに救われる。

 まずはカラオケを楽しもう。余韻は壊れてしまうかもしれないけれど、放課後デートを楽しむことを優先したいから。

 それから数分で、目的の駅についた。

 

 

修学旅行編について

  • 漫画出るまで修学旅行編待機
  • 18巻の内容までならOK
  • ネタバレ気にしないから更新続行
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