19巻を読み抜くメンタルはないです。巻末の圭ちゃんかわいい。
この話はifの世界観です。早坂と付き合ってる前提です。あまり調子が奮わなかったですが、ご了承ください。
早坂愛プレゼンツ「横浜デート」~理想と現実の狭間で~
新年が明けて某日。冷気だけは立派に仕事をする東京の冬。雪が降ってるのは八王子。23区では降ってない。降ったとしてもすぐに溶けていく。東京23区で雪が積もることがあれば、それはきっと天気の子の仕業だろう。
厚着をするも電車の中は暖房が強くてサウナ状態。その極端な寒暖差にお腹を壊す人もいるだろう。毎日壊していたらご愁傷さまである。そうならなくても、汗をかいてしまう人も多い。電車の中では上着を脱いで、降りてから着直すなんてこともザラになる。すし詰め状態なら不可能だ。地獄は地の底ではなく首都圏にあった。
そんな地獄も時間帯によっては味わうことがないわけで、光上は酔いに耐えながら車窓から外を眺めて桜木町駅に到着する。集合時間の30分前。改札の外で待ち合わせなのだが、改札を通る前にばったりと早坂と合流してしまう。
「同じ電車だったのか」
「そんな気はしてたけどね」
顔を見合わせてはふわりと笑い合い、揃って改札を通る。デートの集合時でのドキドキ感は特になかった。
光上がこの時間に来たのは、酔いを冷ますためであることと、早坂より後には来たくないという意地だ。それに打って変わって、早坂は我慢ができなかったからである。光上より後に来て「ごめん待った?」とかやろうと妄想していたのだが、待ち切れずに別邸から出てきたのである。
早坂はおもむろに手袋を外し、それを汲み取った光上の方から手を伸ばす。冷えた空気の中、たしかな温度が手から伝わってくる。それを手放さないように指を絡め合い、肩が触れ合うほどに近づく。
「愛から誘ってくれて嬉しいよ」
「ぅぁっ……」
「……まだ慣れないか」
「う、嬉しいんだよ? でも、恥ずかしい……」
「かわいいやつ」
「もう!」
意地悪く笑われ、早坂は手を繋いでない方の手で光上の肩を叩く。けれどその頬は緩んでいて、早坂の気持ちが顔に出ていた。
早坂のことを知っている人からすれば、今の彼女を見て「誰!?」とか言うだろう。辛うじてかぐやだけが認識できるぐらいか。
早坂愛は、好きな人の前ではとことん甘くなる。マザコンである彼女が、母親と会えるだけで幼児化するのがその証拠だ。そして今は横浜市にいる。秀知院生などいない。彼女のことを知っているのは、今隣りにいる光上だけ。早坂は理性が半分消えている。
「慣れないなら呼び方戻すけど」
「それは駄目! 慣れるように、これからも呼んで」
「うん。わかった」
手を繋ぎながら早坂の選んだ道を通る。今日のデートは早坂のセッティングだ。いつも忙しくしている彼女のため、出かける時はいつも光上の方がセッティングするのだが、今回は早坂の方がしている。いつも任せていることへの申し訳無さもあるが、それだけじゃない。もう一つの理由の方が、どちらかと言えば大きい理由だ。
「だって、かぐやが妄想呼ばわりしてきたから」
「横浜デートを俺の方から言えてたらよかったんだけどな」
「ううん。それは気遣ってくれてたからでしょ? 私は十分それが嬉しいよ」
「そう言ってもらえると俺も気持ちが楽だが」
毎日の激務。それをこなしている早坂のことを考え、出かける時は近場にしている。都内から出ることもなく、片道も40分以内の範囲にしている。時には家で一緒に過ごすだけ、という日も作っているぐらいだ。
それが裏目に出たのかと光上は考えたが、早坂はそうじゃないと否定する。一緒にいられるだけでいい。かぐやとの話はまた別だ。
横浜デートをするならこうしたい。そんなプランニングをして、早坂は脳内シチュなら完璧である横浜デートを作成。それをかぐやに話したら、何を持って完璧だと言っているんだと引かれたのが事の発端である。そんな話になったのは、石上のデートの話からの派生だ。
「愛のプランが完璧だと証明するためか」
「ん。変な理由挟んでごめんね」
「謝ることじゃないだろ。愛が考えてくれてたって思うと普通に嬉しいし」
「よかった」
安堵したように一瞬だけ頭を光上の肩に押し当てる。名前で呼ばれることに慣れるのはもう少し先か。照れ隠しも込めて押し当てたようだ。
2人が付き合い始めたのは最近のこと。けれど互いの思いはずっと前から通い合っていた。光上と早坂は付き合っているという話は中学時代から存在し、間違った認識が広まっていることをどうしようかと悩んだが放置していた。2人はそれが事実になればいいと思っていたから。
早坂の仕える四宮家と光上家の関係からして、2人が付き合うわけにはいかなかった。現代版ロミオとジュリエットに近い状態。
そんな状況が変わったのが最近のことである。早坂に送られた「四宮かぐやのお付きの解任」が、2人の間にあった壁を全て吹き飛ばした。2人の関係の情報が学外に出ないように徹底封鎖したのが功を奏した。
「お付きの任務から外れた? じゃあ正式に付き合おう」
話を聞いた直後の光上の反応はこんなところである。早坂もそのメールが来たとき、寂しさと同時に喜びを感じた。障害が勝手に消えたから。
早坂の解任。こうなると早坂の身柄も危なくなる。控えている修学旅行は場所が京都。本家がある場所であり、本家に顔を出すことが決まっている。光上は同行する気満々だが。早坂のためなら本気で全てを敵に回せるような男だから。
そんな物騒な話はさておき、そういう流れで2人は付き合えるようになったのだ。光上は早坂のことを下の名前で呼ぶようになり、早坂は呼ばれる度にむず痒さを感じる。恥ずかしさよりも幸福度が勝っているようだが。
そして早坂もまた、光上のことを下の名前で呼ぶようになったのだが、こちらもまだ慣れていない。
「今日のデートプランはどこまで考えてる?」
「夜まで」
「ははっ、完璧主義だな」
「長い?」
「いや。愛といると時間は忘れるからすぐだろ」
「すぐそうやって煽てる」
「そのつもりもないけど」
海に面している汽車道を通る。冬の空は雲が多いが、今は日が差し込んでいて心地よい。海風は塩気を帯び、冷気も帯びているがこの2人の前では無力。その冷たさが2人の熱を程よく冷まし、デートの手伝いをしている状態。
「愛って雰囲気を重視するよな」
「冷静に分析しないで……!」
御行程ではないにしても、早坂もまたロマンチストな面がある。臆病さを垣間見させる彼女が、自分の考えたプランを出してきた。それは理想を出しているのと同じ。その小さな勇気もまた、光上は可愛らしいものだと思う。
辺りは人気がほとんどなく、散歩している老人くらい。若者の姿はない。それもそのはずで、今日は平日だ。本当なら2人も学校にいないといけない。つまりおさぼりデートである。
光上が学校をサボった。信じ難い話だが、現実はこの有り様だ。もちろん学校が休みの日にしようと提案はした。週末に控える修学旅行が終わってからにしようと。
それを早坂が拒んだのだ。速やかに立証したかったから。
「汽車道を抜けたらどこに行く?」
「ハンマーヘッド。ハングリータイガーでご飯食べよ」
「まだ昼には早いけど……シェアして食べればいいか」
「元から量多いし、それがいいと思う」
人気のスポットと言えど、平日ともなれば人が少ない。少し寂しい気もするが、2人で思う存分満喫できるならそれでもいいかと光上は自分を納得させる。早坂のプランの詳細は聞いていないが、かぐやに馬鹿にされたとなると、相当理想を詰め込んだプランであると見抜いているのだ。
目的の店へと入り、店員に案内してもらって窓側の席に座る。港町ということもあり、ここもまた海に面している場所だ。海を眺められるこの景観は人気の理由の1つに挙げられる。
「どれ食べる?」
「ここはあきらに選んでほしいかな」
「愛がそう言うならそうするけど、愛の意見も聞かせてほしいな」
「うん。いいよ」
向かい合って座っており、光上はメニューを早坂に見えやすいように置いた。最終的な判断が任されるのなら、参考意見として早坂にいくつか選んでもらいたいのだ。
早坂がページをめくっていく。どこを見てもガッツリとしか肉料理だ。主にステーキ。サイドメニューにサラダやスープ、ドリンクもあるがそちらはおまけ程度。光上は反対から見ながら、各料理の食べ物の量に苦笑した。これは分けないと食べ切れない。早坂も光上もそこまで多く食べられるわけじゃないから。
「その限定にするか」
「……バレた?」
「今の愛は分かりやすいよ」
「それは気を付けとかないといけないね」
「フォローし切れない部分はあるしな」
早坂が四宮かぐやの使用人であるということとか。学校内で伏せている部分のフォローは、光上でもできない範囲だ。今は2人きりだから問題ないのだが、他の場所でも今のような調子なら困りものだ。
店員を呼んで注文を済まし、待っている間に今後の予定を聞いておく。予定を把握している方が動きやすい。
「この後はワールドポーターズで映画見て、コスモワールドで遊んで、カップヌードルミュージアムでオリジナルカップヌードル作って、人力車で中華街に移動。ディナーはそこで済ませて、クルージングして、赤レンガでスケートして、最後は丘公園」
「ごめん。これは擁護しきれない」
「なんで!? 完璧なプランでしょ!?」
「平日でも全部満喫するのは厳しいぞ。時間配分考えてないでしょ」
「そんなことないし……。ちゃんとシミュレーションしたもん!」
まさかの恋人からのダメ出しに、早坂は拗ねてそっぽを向く。光上は困ったように苦笑し、妥協案を考えてから早坂の頬に手を伸ばした。視線を合わせさせ、今後の予定をすり合わせる。
「2回に分けよう」
「2回?」
「そう。今日行くところと次回行くところを決めよう。修学旅行の後の休日にまた来よう」
「……でも……」
「今日しか来れないわけじゃないんだから。1つ1つの場所で時間かけて、それぞれで思い出をいっぱい作ろう。そういうのじゃ駄目かな?」
「……駄目じゃないけど……」
それをするということは、自分のプランが駄目だったと認めることになる。かぐやには「やっぱり完璧じゃなかったじゃない」と言われるだろう。百歩、いや一万歩譲ってそれは耐えるとしよう。けれど早坂のこのプランに口を出している人物はもう1人いる。
「かぐやはこれ会計くんにも話してるから」
「石上に? あー、子安先輩とのデートプランを四宮さんに相談してこの流れになったのか」
「夢詰め込み過ぎって言ってた」
「実際そんな感じはするな」
「晶のばか」
光上は笑って流し、運ばれてきた料理を見て頭を悩ませる。この店限定のバーガーなのだが、なかなかに大きく高さもある。どうやって食べるのが正解かわからない。
「けどさ愛」
「なに?」
一旦バーガーのことは頭から外し、拗ねた早坂への対応を優先する。早坂もバーガーをどう食べようか悩んでいたようで、素直に返事をしてくれた。
「愛の夢以上のものを叶えさせる自信が俺にはあるよ」
「ぇ」
「夢心地気分を味わせ続けてみせる。だから、四宮さんへの意地よりも、俺と過ごすことを選んでほしい」
「あ……。ごめん」
早坂は言われたことを理解し反省した。今は光上とのデート中。けれど頭の中では、かぐやと石上に自分のプランは完璧だと証明することを考えていた。恋人にデート中に他のことを考えられるのは、誰であれ面白くないだろう。立場が逆なら、早坂も一言言わせてもらっていた。
「愛のプランを完全に崩す気もないんだ。1日で横浜を満喫できるのって楽しいだろうし」
「うん……」
「だから、今日と次回は下見ってことにしよ」
「下見? ってことは」
「そういう事。下見して、修正箇所を見つけ出して、3回目で実現させる」
早坂のプランを諦めさせる気は光上になかった。せっかく考えたものなら、より精度を高めて叶えればいい。そのために時間を費やすことも惜しまない。光上もまた、早坂のプランにケチつけられたことに思うところがあるのだ。
光上の考えに賛同できた早坂は、今日のデートプランの変更を決めた。話が済んだところで、早めの昼食であるハンバーガーに手を付ける。ナイフとフォークも運ばれており、明らかに切って食べるものだとわかる。ナイフとフォークは2人分用意されており、それぞれ反対側から食べていくことが可能だ。
「アメリカンサイズってやつかな」
「ほんと大っきいよね~」
「必要だったら俺が半分以上は食べるから」
「ん。ありがとう」
早坂だって乙女の少女。カロリーも気にしている。綺麗な景観を見られるからと選んだ店だが、メニューを見ていてそのカロリーに絶句していた。
ハンバーガー以外にも、申し訳程度に添えられている野菜類。ポテトだけは量が多い。
「食べるのは大変だけど美味しいな」
「そう言ってもらえて安心した」
早坂が選んだ店だ。元より味に対しての疑いなどない。信頼による味の期待値。それを十分に満たしたということである。
メニュー次第では、食べさせようかと早坂は思っていたのだが、このハンバーガーではそれもできそうにない。ちょっぴり残念だが、美味しそうに食べてくれる恋人の顔を見られるだけでも満足だ。
昼食を済ませたらワールドポーターズへと移動。今日の予定は、映画鑑賞をし、コスモワールドで遊び、クルージングに行って終了だ。中華街やカップヌードルミュージアム、赤レンガでのスケートは次回に持ち越しである。
平日の昼間だとやはり人は少ない。見たい映画を何の気兼ねもなく見られる状況。今上映してる作品は何かを見ながら、どれを見るか相談する。
「愛は観たい作品ある?」
「これとか観たいかな」
「ゾンビ好きだっけ?」
「かぐやみたいにすぐ惚気ける人物が真っ先に殺されそうじゃん?」
「理由が酷いな……。四宮さんに言いたいこととかあるんだろうけどさ」
「そりゃあもちろんいっぱいあるよ。10年分」
「それを話せる場は用意する。それまで待ってて」
「うん」
修学旅行中か、あるいはその後か。早坂が解任の件を打ち明ければ、かぐやはどう動くのか。その辺りを頭の片隅に留めておき、今に思考のすべてを向ける。
光上が見たい映画は特になく、理由が理由だが早坂の選んだゾンビ映画を見ることに。30分後に上映が開始されるようで、それまでの間にグッズコーナーを見たり、公開予定の作品を見たり。時間が近づけば飲み物とポップコーンを買って入場する。
「そういえば、会長とかぐやも2人で映画に行ったことあったんだっけ」
「へー。あれだけ駆け引きしてたのに行けた日があったのか」
「うん。席は斜め会長の斜め後ろだったらしいけど」
「どうしてそうなった」
「チケットを別々に買ったらしくて」
「あー……なるほど」
その光景が簡単に想像できた。いかにもその2人らしい展開だ。光上と早坂はそんな事にはならず、ちゃんと隣に並んで座る。ポップコーンは早坂が抱え、光上に口を開けさせて食べさせる。さっきできなかったから今やるのだ。
「映画始まったらさすがに自分で食べるからな?」
「もちろんわかってるよ」
「ならいいや。それじゃ、愛もあーん」
「ぅぇっ!? う、あーん」
小鳥のように小さくを開け、今度は光上がポップコーンを食べさせる。早坂の口の開け方が小さかったため、食べさせるときに指先が唇に触れた。
「やっぱ……今から自分で食べよ……」
「ははっ、そうするか」
唇に触れられたことで、早坂の頬が赤くなる。光上も照れ臭そうにしているが、早坂が俯いているため気づかれることはない。
2人が作り出す空気に、少し離れた席に座っていた老夫婦が微笑む。懐かしさと初々しさのコントラストがいいようだ。お年なのだから、映画の途中で心臓が止まらないように気をつけてほしいものだ。
映画が始まればそれまでの空気も徐々に霧散されていき、段々と映画の世界に引き込まれていく。それでもポップコーンを食べる手だけは止まらない。早坂の予想通り、かぐやに近いキャラ性の登場人物も素早くゾンビになっていた。前情報か何かで知っていて選んだのではと光上は訝しんだ。
そんな映画鑑賞も終われば、何やらスッキリした様子の早坂と一緒にコスモワールドへと移動。何やら修学旅行生っぽい集団もいるが、遊び放題と言えるような状況。
「前にテーマパーク行った時は生徒会のメンバーもいたけど、今は2人だし自由だな」
「どこから行く?」
「ひとまずは、アレ乗ってから決めよ」
「いいね」
どこから行くか悩むぐらいなら、とりあえず見えているものから乗ればいい。そんな気楽な考えのもと、ジェットコースターへと乗り込む。乗り物に壊滅的に弱い光上だが、車内特有の匂いもないこれなら乗り物酔いはしない。
「休憩しよ……」
「だと思った」
乗り物酔いはしないし、ジェットコースター自体は楽しめるのだが、最後の停車寸前の振動で調子を崩した。緩急に弱いらしい。自分で走る分には問題ないのに。
人目につかず、けれど日当たりのいい神ベンチを見つけてそこに座る。少し休めば回復すると光上は言っているが、これは次のアトラクションも考える必要がある。とりあえず、コーヒーカップ系の回るものは除外しよう。
「晶。横になった方が楽じゃない?」
「座ってるだけで大丈夫」
「だよね。横になろっか」
「話聞いてた?」
首に腕を回され、強引に体を横にさせられる。頭に感じるのは、柔らかくも質感のある早坂の脚。光上はじーっと早坂を見つめた。
「恥ずかしいならやらなきゃいいのに」
「晶にしかやらないからいいの」
「役得だけどさ……」
「晶だって照れてるじゃん」
「愛のが感染ってるだけ」
頬を染める早坂に釣られて光上も耳を赤くする。これまでは、付き合っていないからと言ってこういうことはしてこなかった。あったとして、行事の時に一時的に手を繋ぐ程度。デートだって、実質的なデートだとしても遊びに行っているだけだと脳内で処理していた。早坂も、四宮家の使用人の体をなしていた。
すべては、本家に気づかれないようにするために。こうして付き合えるようにするために。
だから、恋人という意識を持って、男女の関係だと認識しての恋人らしいことは初めてなのだ。
「晶?」
膝の上で頬を緩めている光上に声をかける。
「いや、長かったなって」
「……そうだね」
出会ったのは10年前。初等部の1年生の時。初めは光上のことを警戒していた。底知れない人物だと。
仲良くなったのは3年生の時。当時の担任の企画で、隣の席の人とプレゼント交換をする事になったのがきっかけ。早坂は図書カードを渡した。担任と光上とかぐやに「渋い」と言われたのを覚えている。光上が早坂に渡したのは髪留め。それはまだ使用していないが、大事に取ってある。
──早坂さんに似合うと思って
無邪気な笑顔と共にそう言われ、早坂は不覚にも心を動かされた。他の女子からの情報により、光上本人が買いに行き、2時間悩んで決めたことだと知った時には後悔した。自分が渡したものは、1分もかけずに部屋にあったものを選んだだけなのだから。
──謝られてもな……。あ、じゃあ今度一緒に本買いに行こう。早坂さんに選んでほしい
それから話す頻度が増えた。体育祭、自然学校、修学旅行。行事の度に同じグループになる。監視のためという名目に助けられた。
好意を伝えられたのは中等部の時。早坂は戸惑い、やがて静かに頷いた。けれど間に壁があるから付き合えない。その状態から5年経って今に至る。
「愛とこうしていられるのが、幸せに思える」
「私も、ずっとこうしてたかった」
「膝枕?」
「違う! わざとでしょ!」
「うん」
調子を戻した光上が体を起こし、立ち上がって早坂に手を差し出す。次のアトラクションに行こうと。早坂は手を重ね、指を絡めてから立ち上がった。こうすれば、離れなくて済む。
その後に回ったアトラクションは、光上曰く優しいもので、調子を崩すことはなかった。日が傾いてくると、夕日を眺めながらコスモワールドを後にする。
夕食を済ませた頃にはすっかり日が沈み、横浜の夜景を見るためにクルーズ船に乗る。展望デッキに上がれば風を感じることができ、光上の酔いも軽減される。
定刻となってクルーズ船が出港。ガイドにより、どこの光がどういうものかわかる。それを楽しむのもいいが、空を見上げれば星も見える。相変わらず雲が多いが、負けじと星の輝きが届いていた。
「星と夜景、どっちの方が好き?」
「難しい質問が来たな」
「深く考えないでいいよ」
「……近くにいる光かな」
「?」
きょとんとする彼女の腰に手を回して引き寄せる。突然のことに驚いた彼女は、思考を働かせて今の発言の意味を理解した。緩みそうな口元を隠すように、トンと頭を彼の胸に押し当てた。
「ズルい答え方」
「深く考えないでいいって言うから」
「そうだけど……まぁいいや。ありがとう」
そう言ってくれたこと。これまでのこと。何よりも、こんな自分を好きになってくれたこと。いろいろな意味を込めての「ありがとう」。
夢のような時間だ。夢かもしれない。夢なら覚めないでほしいし、夢じゃないでほしい。
「解任されたこと……ちょっと怖いんだ」
「うん」
「
「任せろ。必ず守るから、俺の側を離れるなよ」
「よろしくね」
彼の背中に手を回して、ぎゅっと抱き締める。彼の腕の中にいると、守られていることを感じられる。彼の存在を感じられる。
髪をそっと撫でられた。それで伝わる。
顔を上げ、軽く背伸びをする。彼の瞳を瞼に焼き付けるようにそっと目を閉じた。
「今までも、これからも。ずっと好きだ」
その言葉の返事は唇で返した。
修学旅行編について
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漫画出るまで修学旅行編待機
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18巻の内容までならOK
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ネタバレ気にしないから更新続行