翼を失くした少年   作:ラグーン

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話が進歩しませんが許してください(土下座)次で束さんが登場します……次50話なのでそっちがめでたいなって思いました…ゆるしてぇ!!()


49話 妹たち(シスターズ)

 

「…………帰りたいなぁ」

 

「まだ5分も経っていないというのに……」

 

「あははは……」

 

 うっかりと呟いた本音は、隣にいるラウラの耳に入ったようで呆れた視線を向けられる。

 死んだ魚のような目で空を眺めて現実逃避。休まなかったのを軽く後悔。

 僕らが居るのは旅館ではなく外。合宿二日目の行事に参加するため集合場所のIS試験用のビーチにいる。

 ちなみに今朝の朝食はみんな豪勢な和食だったけど、僕は梅干しが乗ったお粥とお味噌汁だった。

 実は昨夜もそうで、鳥だし卵お粥とお味噌汁をお盆に乗せて山田先生が運んできてくれた。

 たった1人のために消化にいい料理をわざわざ準備してもらって頭が上がらない。

 

「帰りたい理由についてはなんだ? ここまで来て面倒くさいが理由ではなかろう?」

 

 現在の状況から目を背けていると、ビーチに向かう途中で偶然合った箒さんがジト目で睨んでくる。

 

「IS使うのならISスーツに着替えるわけでしょう? その、水着にしか見えないんだよね……」

 

「ああ。目の毒ということか」

 

「その台詞を聞いたら勘違いされそうだな……」

 

 ISスーツが水着みたいで、それが視界に入って情欲に駆られるなんてことはないんだけど数が数。他のクラスから遠巻きに注がれる視線も多い。

 クラスメイトは話しかけてくるが、別クラスの子はタイミングを見極めるように視線が送られる。

 放課後になったら自室やら、整備室やら、生徒会室へ逃げ込むように篭ってたのが仇となってしまった。

 一夏とは違って僕は他のクラスの子と交流は重ねてない。更識さん以外全く話してこなかった。

 なので箒さんと、ラウラの2人が遠回しに牽制してくれているのは有り難かった。

 

「気が滅入ってるところに悪い知らせだが、今日は朝から晩まで装備試験運用らしい。一日この状況だぞ」

 

「……本当に?」

 

「兄さんしおりを読んでいないな?」

 

 箒さんの情報に耳を疑ったけど、ラウラの反応からして冗談や嘘ではないらしい。

 それを知ってたらストライクは世界で誰よりも分かってますと真顔で言って強引に休んでたよ……。

 

「昨日に比べれば少し顔色はいいが、本当に辛いのなら誤魔化さずに休むべきだ」

 

「……気のせいじゃないかな」

 

 善意で気遣ってくれているのは間違いなさそうだけど今朝ラウラに言われたことを思い出す。

 箒さんも千冬さんからの僕の状態を聞いているのは間違いない。僕のことをどんな風に思っているのかと考えて身体が強張ってしまう。

 警戒するように周囲をキョロキョロと見渡して、顔を耳元まで近づけてくる。

 

「内容はともかく精神的に思い詰めていると、千冬さんから直接話は聞いている」

 

「……うん」

 

「人に相談していないということは、おいそれと口外するのができない内容だと察してはいるつもりだ。それを強引に聞き出そうと考えていない」

 

 その言葉を信じるべきかっと疑念を一瞬抱くが、言いたい事があれば実行に移すはず。タッグトーナメントの前日に果たし合いを申し込まれたのがいい例だ。

 このまま彼女を疑うぐらいなら今聞いて明らかにした方が比較的楽だ。

 

「……君は、どう思ってるの? 僕のことを……」

 

「……そうだな。友であり、命の恩人だ」

 

「えっと? えっ……? 箒さんも、その疑うところとかあるんじゃないの……?」

 

 率直に言って驚いた。それは顔にも出てるようで箒さんはちょっと不服そうな顔をしている。 

 

「……納得のする答えを得たと伝えたというのに。いいか? 命の恩人をワケも訊かずに非難するほど落ちぶれているつもりはない」

 

「タッグトーナメントから状況変わったからさ……」

 

「数日前のことか。何かが起きてしまったのは一部の人間の空気で察してはいたが——」

 

「——それ以上掘り返すな。盗み聞きされてもおかしくない。要点だけを伝えろ」

 

 静観していたラウラだったけど、警戒心を隠すことなく不機嫌そうに箒さんを睨んだ。

 シャルロットが誘拐されたことは最低限の人しか知らない。脅されていたとしても亡国機業(ファントム・タスク)への繋がり、一部の情報を流したことには違いない。

 時期が落ち着くまで2つの件は隠した方がいいと、織斑先生と山田先生に楯無さんが進言したらしい。

 裏世界の専門家の意見に、2人は特に反対意見をすることもなく同意して現在に至る。

 勘が鋭い人や、僕らと親しい人たちは何かが起きたとはこんな風に気付いてるんだけどね。

 

「私はこれまで通りにキラに接する、ということだ」

 

「……随分とストレートに伝えてくるんだね」

 

「想いは言葉にしないと伝わらないんだろう? そう教わったからな」

 

 驚いてるのが顔に出てたようで、箒さんは仕返しができたことに両腕を組んで満足そうに頷く。

 恋愛相談に乗った日の言葉が、こうやって自分に返ってくるのは予想してなかったや。

 

「…………ちっ」

 

 彼女の強調されている胸元を見て、舌を鳴らすラウラは見ないフリしよ……。

 

「——きらきら〜!」

 

 お互いのわかだまりが嘘のように消えると、クラスメイトの1人であるのほほんさんと、友達の更識さんが現れる。

 ラウラの威嚇と、箒さんの威圧感、その両方をものともせずに声を掛けてくるの凄いよね。

 

「お話の途中だったよね? 割り込むような形になってごめんね……」

 

「気にするな。ただの雑談だ」

 

「のほほんさんか。そちらは……」

 

 威嚇していたラウラは友達の2人には嘘のように消え、すっかりと向かい入れるモードへと切り替わる。

 箒さんも癒し担当と名高いのほほんさんをあっさりと受け入れるが、隣にいる更識さんに眉を寄せる。

 警戒しているというより、知人に似ている人がいるようなと悩んでいる様子。

 髪色や、瞳の色から生徒会長—-楯無さんを連想しちゃうよね。苗字も一緒なわけだし。

 

「間違っていたら申し訳ないが、生徒会長の血縁者だろうか?」

 

「……うん。更識楯無はお姉ちゃんだよ。わ、私、更識簪。貴女は篠ノ之箒さん、だよね?」

 

「私を知っているのか? ……いや、名前が独り立ちする理由は十二分にあるか」

 

 名前が独り立ちする理由となると一夏と幼馴染のことを指しているはず。

 顔を赤らめて不器用に喜ぶはずなのに——まるで達観したかのように悟った顔で箒さんは笑っていた。

 

「……ごめんなさい」

 

「頭を下げないでくれ。姉妹である以上は避けようがないことだ」

 

「……お姉ちゃんに振り回される苦労は私なりにわかっているつもりだから。だから、ごめんなさい」

 

「互いに姉で苦労しているというわけか。不躾だが親近感が生まれてしまう。私のことは気軽に箒と呼んでくれ」

 

「……うん。私も簪でいい」

 

 親しい友達が仲良くなっているの微笑ましい光景だというのに空気が妙に重く感じてしまう。

 のほほんさんも寂しそうにしているし、ラウラも思うところがあるのか口を閉ざして見守っている。

 

「箒さん、お姉さんいたんだね」

 

 しっかりしてるから、てっきり一人っ子だと勝手に印象を抱いていたからつい口が滑ってしまう。

 一夏も特に話題に出すこともなかったし、彼女からも特に聞いたことなかったんだから驚いたや。

 

「……きらきらは知らないの?」

 

「……キラ君、本気で言ってる?」

 

「後で説明するから、ひとまず兄さんは静かにしていてくれ」

 

 更識さんと、のほほんさんからも信じられないような目を向けられてしまう。

 ラウラも頭を痛そうに抑えているし……みんなの様子を見てると姉がいることは有名のよう。

 

「俄かには信じ難いが……これまでの態度を振り返れば説得力が生まれてしまうな」

 

「そ、そこまで世間離れしてないよ?」

 

「どうだかな。なんにしろ、私の姉が誰なのか近い内にキラも知ることになる。……タイミングがよかったと前向きに考えるべきだな」

 

 近いうちに誰かの手によって明かされるかのように語る彼女はは達観していた。

 箒さんは瞳を閉じる。深く息を吸い呼吸を整える。

 その姿は重要なことを打ち明けると決意を固めるよう。意を決した彼女は顔を強張らせて、ゆっくりと口を開く。

 

「——私の姉は篠ノ之束なんだ。ISを設計し、造り上げた人が私の姉だ」

 

 ——篠ノ之束。この世界でISの産みの親である人と、血の繋がった姉妹なことに驚いた。

 名前が独り歩きしている事に納得した。開発者が実の姉と考えると多くの苦労があったのだろう。

 原因はそれだけでは無いと思うけど、姉妹の仲が良好とは言えないのはさっきまでの雰囲気で窺える。

 

「……そっか。だから苗字が一緒だったんだね」

 

「どうした……?」

 

「ううん。気にしないで。少し驚いただけだよ」

 

「……本当か? い、いや、リアクションを求めているわけでは無いぞ? 驚いたと云う割には反応が薄かったと思ってしまってな……」

 

「箒さんが友達なの変わらないからね」

 

 偏見やレッテルを向けられるのは、いい気分じゃないのはそれなりに知っているつもり。

 箒さんのお姉さんがISの開発者だとしても、僕にとって大切な友達であることに変わらない。

 

「……シャルロットが好意を抱くのも、ラウラが慕うのも充分納得してしまうな」

 

「転校してきたばかりのラウラはピリピリしてたもんねー。おりむーのほっぺたを叩いたりとか」

 

「私のクラスまで評判届いてたよ……1人目の男性操縦者の頬を叩いたり、キラ君と口論をしたって」

 

「弁解はしない。前も言ったが、当初は織斑一夏が嫌いだった。兄さんには一時期憎悪すら抱いていたよ」

 

「……よく和解できたな?」

 

「2人はたっくさんお話を繰り返したんだねー。いっぱい喧嘩して、いっぱい話し合って仲良くなるまで」

 

「うん。喧嘩だね。僕も遠慮なく言っちゃったし」

 

「喧嘩!? 主観的に見ても、あれは八つ当たりでしかなかっただろう!?」

 

「こうやって仲直りできたから。僕らのことは喧嘩でいいんだよ。きっと」

 

 一夏を誘い出すために鈴とセシリアさんを襲った件はちょっと行き過ぎていたけどね。

 それ以外の事はお互いの確執の末に生まれた感情なんだから喧嘩していたがぴったりだ。

 ラウラが頬を膨らませて納得いかないと訴えてくるので不満を鎮めるため頭を撫でる。

 

「……あのね。一つ訊いていいかな。個人的にずっと考えてたことがあって」

 

「どうしたの?」

 

「ラウラはキラ君をすごく嫌っていたでしょ? キラ君もきっといい気持ちは抱いてなかったはず。歩み寄るの凄く難しいはずなのにどうやって仲直りしたのかなって」

 

「差し障りないなら私も知りたい。和解するきっかけは合ったにしろ価値観や思想は大きく離れていたじゃないか。その溝をどうやって埋めていったのか参考にしたいんだ」

 

 会話の流れから察するに2人はお姉さんとの関係に悩んでいるのだろう。

 力にはなってあげたい。元の世界でも今の世界でも妹がいるわけだし。

 問題はラウラと仲直りしたきっかけが特殊過ぎる。

 僕らの存在をぼかしながら話しても2人が望んでいるようなアドバイスにならなさそう。

 ラウラの件より、幼い時にアスランと喧嘩して仲直りした時の方が参考になりそうかなぁ……? 

 

「言いたい事を伝えたらどうだ? 血の繋がった姉なら遠慮は無用だろう。私たちはそうして互いの理解を深めたぞ」

 

「……難しいよ。遠慮しないで言うの。何を考えてるのかよく分からない人なら尚更だよ」

 

「そう、だな……私も似たようなものだ。好き嫌いが激しい分感情は読みやすいが思考が読めない」

 

 箒さんのお姉さんは一度しか話していないし、何も言えないけど楯無さんは立場もあるんだろうな。

 組織を率いる当主として、思考や感情を簡単に見抜かれないように演じてるのも助長してる。

 簪さんの場合は普通の生活をして欲しいって想いがあって悟られないよう意識してるんだろう。

 

(……どうしよう。伝えるべきかな。楯無さんは簪さんのことを大事にしているって)

 

 整備室でお互い本心を明かした時に彼女のためなら頑張れると和やかな声で笑った姿を思い出す。

 直接訊いてないが、もし妹が危険な状況に陥れば迷わず自分の命を捨てる覚悟で助けるだろう。

 この世界でたった1人の大事な妹を不安にさせないよう気丈に振る舞いながら。

 

「分からないから対話をするのだろう? 自分が抱いていた感情を理解してもらい、相手の感情を知る。できている心の隙間を埋める手段として最も平和的で効果があると私は学んだぞ」

 

 2人の言い分に口を開いたのはラウラだった。

 話をすることを恐れている彼女たちを叱りながらも奮い立たせるように背中を押す。

 その言葉に続けようにのほほんさんは穏やかに微笑みながら話を紡ぐ。

 

「そうだね〜! わたしにもお姉ちゃんがいるんだけど、怒られてむっとしちゃって喧嘩しちゃうことあるんだ〜。その度に仲直りしているのです〜!」

 

「虚さんに怒られたのってつまみ食いとか、宿題をギリギリまでしない本音が悪いんじゃ……」

 

「それは昔のお話〜! ともかく〜! かんちゃんとモッピーの伝えたいことを言って、喧嘩することになっても仲直りすればきっと大丈夫だよぉ!」

 

「……仲直りか。姉さんと喧嘩して、仲直りができるのだろうか……」

 

「……自信は、ないかな」

 

「出来るはずだ。胸ぐらを掴もうが、臆病者だと侮辱しようが、存在が不愉快と罵倒してしまっても最後は手を取り合えたぞ」

 

「……昔のラウラってもの凄く過激だったんだね」

 

「……うむ。反省している。過去に戻れるなら修正したいぐらいには。黒歴史というやつだな……」

 

「IS使って喧嘩しなければそれでいいんじゃない?」

 

「あははは。キラキラは大袈裟だよぉ」

 

 のほほんさんは冗談と受け取って笑ってるけどラウラが物凄い顔をして白目を剥いてた。

 あの様子だと、アスランと憎しみあって殺し合ったこと件を思い出してるんだろうね。

 IS使うぐらい憎しみ合ってないのなら最後は丸く収まるだろうし口喧嘩したっていいんじゃない。

 大事まで発展しようとすれば、僕とアスランの時と違って止められる人たちも大勢いるしさ。

 

(それにしてもお姉ちゃんか……僕とカガリはどっちが先に産まれたんだろう?)

 

 お姉ちゃんの話題になると思い出すのは、血の繋がった唯一の家族であるカガリこと。

 どっちが兄か、それとも姉なのか分からないままこの世界に来てしまった。

 カガリの性格を考えると……僕の方が弟だと強く主張しそう。というかそれっぽいこと一度言われたし。

 昔ならそれが発端で兄か、姉か口論を繰り広げただろうが真実を知った後はそんな気分になれない。

 彼女には完璧なコーディネイターなんて呪いを授けられなかったのが唯一の救いかな……。

 

「——貴様らいつまで呑気に喋っている! クラスごとに並べ!」

 

 カガリを思い出していると、時間になったようで織斑先生が声を張り上げて並ぶよう催促する。

 緩んでいた空気が嘘のように引き締まり、会話をしていた生徒たちは行動に移していく。

 

「私は4組だから。みんな、また後で。……キラ君、体調悪くなったら無理しないで休んでね」

 

 更識さんはそう言って自分のクラスに戻っていく。

 どうやら彼女にもバレていたようだ。普段通りしていたつもりだけどそんなに顔色悪いのかな……? 

 気を遣わせたことに申し訳なさを感じながらも、織斑先生に怒られたくないのでみんなと一緒に1組の列に向かうことにした。





もっと早いタイミングで姉に苦労している箒さんと簪さんを合わせたかったなと後悔中。2人を合わせるには自由時間か、このタイミングしか思い浮かばなかったのです……。
一夏君は千冬さんに対する感情はとっくの前に乗り越えて悩んでいないので不在です。それはおいおい、ね?

……この場で一番平和的な姉妹してるの、のほほんさんだなぁ!

前書きにも書きましたが次回束さんが登場します。そしてクロエちゃんも出したいなーと。
次回もストライカーパックはお預けになりそうですね……もうちょっともうちょっと引っ張るんだ……。




ちなみに余談ですが、この回を持ってしばらくギスギス回に入ります。銀の福音戦で一度一夏君がどうなるか、みなさんならおわかりですね!
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