これは、どこかの世界であったかもしれない、1人の侍の話。

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神を斬り、虚空に消えた剣聖殿よ。

 ──────君は、君の世界、きっと取り戻してね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、あの剣聖殿は神を斬ったのか……」

 

 …………うん。

 

「些か信じ難い話ではあるが……マスターの言うことだ、真なのだろうな」

 

 …………でも、武蔵ちゃんが、

 

「虚空に消えた、と。それで?」

 

 それで、って……!

 

「マスター、一つ言わせてもらう。マスターがどう思っておるのかは知らんが、それは彼女が決心をし、行動した結果だ。それを否定するような考えは侮辱に他ならん」

 

 …………小次郎は、何も思わないの?

 

「思うこと、か。まぁ特にはござらんよ。しかし……そうさな、拙者にも心残りが一つある」

 

 心残り?

 

「あぁ、少しばかり前になるが彼女とは手合わせをする話をしていたのだがな…………────

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

『小次郎!って言っても私の知ってる佐々木小次郎じゃないですけど……それはひとまず置いておくとして。小次郎、私と手合わせしてくれないかしら?』

 

『ふむ、こちらとしても剣聖殿と斬り合えるのは願ったりだが、どうにも急な話であるな?』

 

『それに関してはごめんなさい、今ちょっと忙しくてね。手合わせするのもまた後日がいいのだけれど……どうかしら?』

 

『此方としてはいつ頃でも構わんが……なるべく日が昇っている時にして欲しいものだ』

 

『うん、了解。約束だからね、ぜっ〜たいに手合わせしてもらうんだから!じゃあまたね!』

 

『…………嵐のように去っていったな。だがまあ、楽しみが増えたと思えば良い事か』

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ……小次郎?

 

「…ん?あぁ、少しばかり思い耽ってしまっていたようだ。ふむ、それはそうと主殿、酷く疲れてるように見えるぞ。異聞帯から帰ってきたばかりなのだ、今日の所はしっかりと休息を摂るがいい」

 

 

 …………でも

 

 

「休むのも必要なことだぞ?疲労で倒れたとなってはみなが心配するであろうしな」

 

 

 ……そう、だね……そうするよ。おやすみ、小次郎

 

 

「あぁ、しっかり休むといい」

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、どうするものか」

 

 剣聖殿は神を斬った。本来ならば踏み入ることの出来ないであろう領域にその剣を届かせたのだ。

 

「素直に賞賛したい気持ちは山々なのだが……やはり悔しいものよな」

 

 今の私に神が斬れるだろうか?いや、無理だ、まだその領域にまで達していない。今の私では剣聖殿と同じことは出来ない。

 その事実が、今はとても悔しい。

 ならばどうする、英霊として二度目の生を受けたのだ。この機会を使わない選択肢などないだろう。

 

「それにだ、一度手合わせをすると言ったのだから、待つしかあるまいて」

 

 拙者は巌流島の佐々木小次郎ではない、それは剣聖殿も承知だ。拙者は、ただ燕返しが出来るというだけで呼ばれ、佐々木小次郎という名を付けられたただの農民なのだ。

 しかし、それでも、今は佐々木小次郎として存在しているのであるならば。ならば、少しばかりの真似事くらいは許されよう。

 

 

 故に、待とう。神を斬り、虚空に消えた剣聖よ。

 

 いつの日か帰ってくるであろう、誇り高き好敵手よ。

 

 

 

「はてさて、今回はどれほどの遅刻になることかな」



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