それと今回、前の話と似たような表現や、前の話から丸々持ってきた表現が存在します。発想力が乏しい作者をお許しください。
原作との変更点
あの土下座現場を見ていた人物
香織のみ→香織と雫
雫が虐められていた時期
小学校→小学校から中学校まで
いじめの内容
言葉の暴力→それ+α
雫さんには申し訳ないですが、こうしないと話が進められないんです。
少女、白崎香織と八重樫雫は商店街を歩いていた。理由は単純に買い物である。
「香織、買い忘れたものとかない?」
「ううん、大丈夫だよ。頼まれたものも全部揃ってる。」
「そう。じゃあ帰りましょうか。」
その短い会話を交わし、二人は帰路につく。
しかしその途中で、ある騒ぎが起こっていた。
「おいどうしてくれんだ! この服高えんだぞ!」
「おお……お許しください……。」
怒鳴り散らす声と、今にも消え入りそうな声。その声が聞こえた方向では、何人かの不良が、お婆さんを恐喝していた。一人の不良の服には、マヨネーズやソースがべっとりと付いており、お婆さんの近くにいる泣いている男の子の手には、たこ焼きがあった。これだけで、何があったのか察することができる。
大方、男の子が不良とぶつかって、その際にたこ焼きを不良の服につけてしまったのだろう。その結果男の子は泣き、それにキレた不良達は男の子の保護者であろうお婆さんに、恐喝のような真似をしているのだろう。
これを見ていた香織は、固まっていた。不良達の気迫に圧倒されたというのもあるが、目の前で『恐喝』という犯罪が行われていることに、恐怖を感じたのだ。雫は、この場に竹刀があれば、不良達を止めることが出来るのに、と自分の非力さを恨んだ。
(私は雫ちゃんみたいに強くない……誰か助けてあげて……!)
香織はそんなことを思いながら周りを見る。しかし香織のそんな思いとは裏腹に、周りの大人は見てみぬふりし、その場を通りすぎるだけ。電話をして誤魔化す者、音楽を聴いて自分の世界に閉じ籠る者、手帳を開いて予定を確認するふりをし、自分忙しいですよアピールをする者。自分の思いに応えてくれそうな人間は誰一人としていなかった。
香織があの現場の方を見ると、お婆さんがクリーニング代と思われる札を何枚か取り出した瞬間、不良に財布を盗られていた。香織はその光景に怯え、雫は耐えきれなくなり、竹刀がなくても止めてやる、と不良達の方へ向かう。
しかしそれよりも先に、一人の少年が不良達の方へ向かった。その少年は不良達の前に立ちはだかった直後、
「すんまっせーーーーーーーーん!!!」
綺麗な土下座をしたのだ。不良達やお婆さんと男の子、周りの大人達は皆「は?」という顔をしている。
しかし、香織と雫だけは違った。
「雫ちゃん凄いよあの人! あの男の子とお婆さんを助けてる!」
「といっても土下座してるだけだけどね。確かにあの場で躊躇なく土下座を出来るのは凄いと思うわ。」
香織は、例え弱くても立ち向かい、他人を救おうとするハジメの心意気に、雫は、誰も行動しない中、周りの目を気にせず行動を起こしたハジメの勇気に称賛を送っていた。
流石の不良達も、こんな綺麗な土下座をされては、居た堪れなくなるだろう、と思ったが、ここで予想外の事態が発生した。不良の一人がファンガイアへと変身したのだ。
周りの大人達は、それを見た瞬間我先にと逃げ出す。
「香織! 私達も逃げるわよ!」
「で、でも! あの人が!」
香織の視線の先には、不良達のライフエナジーを吸っているファンガイアを、腰を抜かしながら見るハジメがいた。
「と、とにかく見つからないようにしないと!」
「雫ちゃん! あそこ!」
香織が指差したのは、飲食店の横に置いてある看板だった。香織と雫は、ファンガイアに気付かれないように看板の後ろに隠れた。
「どうしよう! あの人が襲われちゃうよ!」
落ち着かない様子で言う香織。
「落ち着いて! ファンガイアの王様は、人間を襲うファンガイアを始末してるって聞いたことがあるわ! もしかしたらだけど……!」
普段テレビや雑誌を見ない雫でも、何度か見たことがあるファンガイアの王。初めて見た時は、同い年くらいのこんな子供が本当にファンガイアの王なのか? と思ったが、テレビ越しで伝わってくる威圧感に、その疑問は愚問だったと思い知らされた。
そして一度だけテレビで聞いたあの言葉。
「ファンガイアには、身に危険を感じた時以外で人間を襲ってはならないという絶対服従の掟が存在します。もしその掟に背いた者がいた場合は、私が責任を持って始末いたします。ですが私は一人しかいないので、その掟に背いた者が複数いた場合、人間を再び襲う前に始末しきれない時もあるでしょう。謝罪だけで済まされる物ではないと分かっておりますが、その時は申し訳ない。
しかしこれだけは言っておきます。絶対に、私は掟に背いた者を許しはしない。決して逃がしません。」
その言葉を聞くと、何故か彼が自分を守ってくれるような気がした。そんなことあるわけないと、分かっているにも関わらず、だ。
……もしかしたらそれは、自分がよほど追い詰められているということを知らせるサインなのかもしれないが。
ふと見れば、ファンガイアは既に最後の不良のライフエナジーを吸い尽くし、ハジメにターゲットを変更していた。徐々に近づいてくるファンガイアに、ハジメは本能的に危機を感じて逃げ出そうとするが、恐怖で体が思ったように動かない。その光景を見て、香織は絶望するが、雫だけは最後まで諦めていなかった。
その時、雫の諦めない姿勢に応えるように、二人の人物が奥の方からやって来る。
「俺の前で人間を襲うとはいい度胸だな。」
一人が口を開くと、ファンガイアとハジメもその人影の方を向いた。そこにはファンガイアの王、紅音牙とファンガイアの女王、真深がいた。
「キ、キング……!?」
「音牙!」
雫は、あの時聞いた言葉が嘘じゃなくて本当によかった、と心から安心した。香織は突然の乱入に、頭が混乱してきている。
「大丈夫ですか!?」
そしてその隣にいた真深がハジメに近づき、無事を確認する。
「ハジメ、遅くなってすまなかった。」
「あ、いや、全然大丈夫!」
「音牙さん、見たところ怪我はありません!」
真深の声を聞いた音牙は、ファンガイアを睨み付ける。
「お前は人間を利用し、数々の人間を襲い殺してきたな?」
雫と香織は、自分達の周りが妙な威圧感に包まれているのを感じた。テレビで感じた威圧感とは、比べ物にもならない。
「あの人……ファンガイアの王様だよね……? いつも見てる時と違って怖いよ……。」
香織も音牙のことは知っているようだが、ファンガイアの王として番組にゲスト出演したりしている時の優しい音牙しか知らない。テレビではいつも、見ている人を和ませるような優しい目をしている音牙だが、今の音牙は、見ている人が恐怖を感じるほどの怒りに染まった目をしていた。
「共存相手を騙し、しかも人間を襲うために利用することは、言うまでもなく重罪だ。だが、それ以前に俺の友達を襲うことは……」
音牙は、キングの紋章が刻まれた掌を見せた。
「種族関係なく死に値する!」
音牙が普段出さないような大声を出すと、空からキバットバットⅡ世が下りてくる。雫と香織は今度は何だ、と突然下りてきたキバットバットⅡ世を見る。
「絶滅タイムだ。喜べ!」
そう言うとキバットバットⅡ世は口を大きく開き、音牙の左手に噛みつく。雫と香織はそれを驚いた表情で見つめる。
「ガブリ!」
噛まれた場所から、ステンドグラスのような模様が音牙の身体中を駆け巡り、その模様はやがて頬にも現れる。腰には既に黒いベルトが巻かれていた。その一瞬の変化に、雫と香織は理解が追い付かない。これから音牙が何をしようとしているのかも分からない。
そんな二人を差し置いて、音牙は一言だけ呟く。
「変身。」
その一言を聞いたキバットバットⅡ世は、自らベルトのバックル部分にくっついた。音牙は黒い膜に包まれたと思えば、その黒い膜は弾ける。そこには、仮面ライダーダークキバとなった音牙が立っていた。
この瞬間から、仮面ライダーダークキバへと姿を変えた音牙による、掟に背いた者の処刑が始まったのだった……。
「ふう……。」
場所は変わって雫の家。雫は自分の部屋のベッドに寝転がり、今日のことを思い返した。
あの蹂躙劇を見ても、香織はハジメのことを自慢気に話していた。香織曰く、『強い人が暴力で解決するのは簡単だが、弱くてああいったことに立ち向かえる人は少ないと思うから』とのことで、雫は道理でハジメを気にかけていたわけだ、と思った。
しかしそれに対して雫はハジメではなく、音牙に興味があった。
雫には一時期、惚れていた男子がいた。名を天之河光輝。八重樫道場という道場を営んでいる自分の家の門下生として、毎日雫と共に剣を振っている男子だ。
光輝との出会いは、雫が剣を初めて少し経った頃だった。
その頃の光輝は、小学生とは思えないほど大人びた雰囲気を纏っており、小学生にも関わらず何人もの女子から告白をされるなどの人気があった。
女子から絶大な人気を誇る光輝だが、ある日突然、八重樫道場に入門してきた。そして初めて雫と会ったとき、こう言ったのだ。
「雫ちゃんも、俺が守ってあげるよ!」
雫は、王子様がやって来たのかと思った。自分を守ってくれて、女の子にしてくれて、甘えさせてくれる。彼こそが未来の自分の旦那さんなんだ、と本気で思っていたのだ。
しかし、そんなものはただの夢に過ぎなかった、と雫は後に嫌というほど思い知らされることとなる。
光輝が門下生になった後の小学校のクラス替えで、光輝と同じクラスに編入された雫は、道場で共に剣を振っていることもあり、学校でもよく話したりと、仲良くしていた。
だが、それを気に食わないと思う者達がいた。光輝と雫のクラスの女子達である。
小学生の時から正義感と優しさに溢れ、何でもこなせるような光輝は、女子達の注目の的だった。故に、女子の癖に竹刀を振り、髪は短く、服装も地味で、女子らしい話題に付いていけない雫が、光輝の傍にいるということが我慢ならなかったのである。
当然、雫は直ぐにいじめの的となった。陰口を叩かれ、面と向かって悪口を言われたこともある。その中で雫が一番ショックだったのは、
「あんた女だったの?」
という言葉だった。
耐えきれなくなった雫は直ぐに光輝に相談した。いじめられる度に。何度も何度も。光輝なら自分を守ってくれる。自分を助けてくれる。そう信じていたからだ。
しかし、そんな期待も全て裏切られる。
いじめのことで相談してきた雫に対して、光輝は決まってこう言うのだった。
「きっと悪気はなかったんだ。みんないい子達なんだ。話せばわかるよ。」
そんなアドバイスにもならないような言葉をかけて、終わり。毎回そうだ。一度本当に話し合いに行っていたが、それでも結果は変わらず、むしろ風当たりが強くなった上光輝にバレないよう巧妙さを増した。いつしか雫は、光輝を信用しなくなった。
小学校の頃は、いじめの内容が悪口だけだったのと、入学してから友人となった香織がいたから、何とか乗り越えることができた。中学校に上がれば、いじめはなくなるだろう。そう思っていた。
しかし中学校に上がっても、いじめがなくなることはなかった。
最初は小学校と似たようないじめだったので、ある程度は耐えることができた。しかし時期が経つに連れていじめの内容はどんどん酷くなっていく。持ち物をとられるのはまだ優しい方で、酷ければ埋められたり、ゴミ箱に捨てられていたりする。そして学年が上がると、暴行を働く者まで出てきた。
容赦のないいじめの嵐をもろに受け続けた結果、あとちょっと衝撃を与えてしまえば粉々になってしまいそうなほど、雫の心は弱っていた。香織や、光輝の親友、坂上龍太郎などの助けによって、雫の心は辛うじて繋ぎ止められていた。
元凶の光輝は何をやってるんだとなるだろうが、この時の光輝は、雫のいじめの件は既に終わったこととして捉えていた。元々いじめの件を重く捉えておらず、自分が話し合ったのだから、もういじめはしないだろう、と本気で思っていた。故に何もしなかったのだ。雫が相談しなかったというのも一因にあげられるが、相談したところで結果は同じだっただろう。
雫は長袖を捲り、自分の腕を見る。その腕は酷く傷ついており、竹刀すらもまともに握れるか分からないほどだった。この傷は、先日のいじめによるものだ。雫から光輝を引き離すために、剣道ができないような体にしまえばよいという考えに至った女子達から受けたものである。相談したくても、周りに心配させたくないし、何よりこれより更に内容を酷くしたら、本当に剣道ができなくなってしまう。ということもあって、雫は夏でも長袖を着るなどして香織や龍太郎、両親や祖父にすらずっと黙っていたのだ。
その次に雫が目をやったのは、自身の机に無造作に開かれている雑誌だった。開かれている雑誌のページには、紅音牙のことが沢山書いてあり、ご丁寧に写真までついている。雫が、普段使わないお小遣いで初めて買った雑誌である。
雫はその雑誌を見て、今日の音牙を思い出した。彼は友人であろうハジメが襲われている現場に現れ、友人のために怒り、そして掟に背いた上に友人を襲った同族に制裁を下した。その姿はまるで、いじめから自分を守ってくれる理想の王子様のようにも見えた。
彼が自分の傍にいたならばどうなっていただろうか? 光輝みたいに表向きにしか助けてくれないのだろうか? 雫の勝手な妄想だが、おそらくそれは違っただろう。
「私のこと……守って……くれないかな……。」
それが現実になることはあり得ないと分かっているが、雫は自分の純粋な思いを願うように口にした。そして今日はいろいろあって疲れていたのか、今日稽古があることも忘れてそのまま眠ってしまった。
学校が始まるので、更新が遅れます。これ以上遅れたらどうなるんだろうか……。
ハジメ君が仮面ライダーになるとしたら?(変身しないという選択肢はなし)
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