雫パートはこれで終了です。次回は恵理パートを書いていこうと思います。
お気に入り登録100人ありがとうございます。たった3話でお気に入り100人いったことなんてなかったので普通に嬉しいです。
高評価が増えて嬉しいけど、それに続くように増えていく低評価を見るとどこが悪かったのか考えるけど分からない今日この頃。
ありふれの小説を一気買いしたら所持金が……。
翌日。雫は昨日自分がいつの間にか寝ていたことも忘れ、いつものように学校へ行くための支度を始めた。準備が済むと、雫は家を飛び出し、学校へ向かった。雫が家を出たその時間は、いつも光輝と待ち合わせている時間より遅かった。
そして学校に着くと、光輝が真っ先に話しかけてくる。内容は、『遅刻なんて雫には似合わない』とか自分の価値観を押し付けるような聞き方だった。雫は「偉そうに自分を語るな」と顔をしかめかけるが、周りで見ている者も多いので、なんとか面には出さなかった。
それからは普通に授業が始まり、終わる。その繰り返しである。唯一いつもと違ったのは、雫があまり光輝と話そうとしなかったことである。光輝は話そうとしていたが、雫がそれを拒絶した。紅音牙のことを考えると、光輝のことなど最早どうでもよくなる。それほど紅音牙という者は、雫にとって重要だったのである。
雫がそれに気づいたのは、光輝を不意に
放課後。
雫が現在生活する中で最も嫌いな時間である。その理由は言うまでもないだろう。
「今日こそあんたを光輝君から離してやるわ!」
束になって雫に立ちはだかってくるクラスの女子たち。彼女達は、今日雫が何故か光輝に近づこうとしないことに、少なからず疑問を抱いていた。しかしそれは、自分達が雫にやっているいじめが効いているからだという自分に都合のよい、まさに光輝と似たような考えで完結していた。
「それでね、あたし達あんたを光輝君から離すにはどうしたらいいか考えたんだけど、そしたら最高の案が出たから教えてあげる。」
雫は彼女達が考えていることが分からなかった。いつもなら、さっきの言葉を誰かが言った瞬間攻撃してくるはずだが、今日は彼女達の雰囲気も相まって何か変だ。
まるで、ついにこの日を待ちわびた。そう言わんばかりの雰囲気だ。
「それはねぇ……。」
一人の女子がニヤリと笑ったかと思うと、複数の女子の顔にステンドグラスのような模様が現れた。
「あんたを殺しちゃえばいいのよ。」
そして顔に模様が現れた女子達は、自身の姿を異形、ファンガイアへと変えていく。
「あ……ああ……。」
雫は驚きと恐怖のあまり、声も出せなかった。ただ震え、怯えることしか出来なかった。
「アハハ! その顔面白ーい! あんたみたいな奴にお似合いねー!」
「このままライフエナジーを吸い尽くしちゃってもいいけど、それだと面白くないわ。ちょっと遊んであげる。」
そう言うとファンガイアの一人、オクトパスファンガイアが雫の首に触手を伸ばす。
「うぐっ!?」
雫は首を絞められ、苦しそうな声を出した。それでも触手を必死に引き剥がそうとする。
「無駄無駄。あんた人間とファンガイアの力の差分かってんの?」
その声に続くように見ているファンガイア達と女子達から放たれる不快な笑い声。雫は顔をしかめて、触手を引き剥がそうとしていた。しかし全く剥がれない。
そこで雫は、胸ポケットに入っていたシャープペンシルの先をオクトパスファンガイアの顔に向かって投げつけた。
「っ!?」
予想外の反撃に怯み、オクトパスファンガイアは触手を離してしまう。雫はその隙を逃さず、全速力で学校の昇降口に向かった。
「あーあ。逃げちゃった。」
気の抜けたようなしゃべり方をするファンガイア、カメレオンファンガイアは腕を頭の後ろに回し、雫が逃げていった方向を見る。
「逃げ道を塞ぎなさい!」
「はいはい。」
反撃されたことに怒りを隠せないオクトパスファンガイアの命令に、カメレオンファンガイアはスキップしながら昇降口へ先回りする。
―――――――――――――――――――――
「はあ、はあ、はあ。」
目元に涙を浮かべながら、雫は全速力で学校の昇降口に向かう。先程見た光景が忘れられず、今からでも泣き叫んで助けを呼びたい。
しかし、それをしたいと思ってもできない。雫が、『
周りの思う八重樫雫とは、いつでもクールで面倒見がよく、周りを守り、引っ張っていくリーダーのような存在で、何があろうと自分一人で解決してしまうような憧れの存在、といった感じだ。しかし雫本人は、そんなこと一切思っていない。むしろ雫は、
「ばあ~!」
「ひいっ!?」
やっと昇降口に着いたと思えば、カメレオンファンガイアに待ち伏せされていた。雫は思わず尻餅をつくが、すぐに反対方向に逃げ出す。
「あれ、また逃げちゃった。ふふ、バカだよね~。何で自分から追い詰められようとするんだろうね~。」
全速力で走った影響で、雫が少し疲労していることに気づいていたカメレオンファンガイアは、追い詰められていく雫の姿を見て笑う。そして雫が次に向かった方向に待ち伏せしにいくのだった。
―――――――――――――――――――――
「はあ……はあ……。」
雫は廊下の端に倒れ込む。全速力で学校の廊下を往復し続け、カメレオンファンガイアに出会う度に急ブレーキをかけて、進路を無理矢理変更する。持久走において、急ブレーキは非効率な要因の一つである。それを何度か続けた雫は、もう走るどころか歩くことすらできない程に疲労していた。
「やーっと大人しくなったね。」
後ろから複数のファンガイアと女子達が歩いてくる。雫はすぐに体を起こすが、疲労で思ったように動かない。後ろに下がろうとしても、ほとんど下がれなかった。
「アハハ! その顔写真にとって、今すぐインスタにでも載せたいな!」
狂っているようなしゃべり方をするファンガイア、プローンファンガイアは雫の恐怖に怯える顔を見て笑う。
「鬼ごっこはお仕舞いよ。とっとと消えて!」
「あぐっ!!」
再度オクトパスファンガイアに拘束される雫。抵抗しようとするが、もうそんな体力は雫に残っていなかった。自身の肩の上の方に、鋭い棘のようなものが浮いている。吸命牙だ。
「い……や……だ……。」
「えー? 何ー? 聞こえなーい!」
いつにも増して響く不快な笑い声。雫には、それすらも聞こえなかった。
今の雫の脳内には、一人の男が浮かんでいた。それは幼馴染みの天之河光輝ではなく、ファンガイアの王、紅音牙だった。
親友のために怒っていたあの姿。それはまるで、いじめから自分を守ってくれている姿を彷彿とさせた。あれこそが、光輝にして欲しかったこと。一番の理想だったのだ。そして思い出されるのは、彼を初めて見たときに聞いたあの言葉。
彼がファンガイアの王様なら、彼が自分の王子様なら、自分を助けてくれる。そう信じて、雫は一言を絞り出した。
「助……けて……。」
生まれて一度も口にしたことのなかった言葉を呟き、雫は意識を手放そうとする。その時だった。
ズパァン!
「ぐぅっ!?」
雫を拘束していたオクトパスファンガイアの触手が、何者かによって切断された。オクトパスファンガイアだけでなく、他のファンガイアや女子達が触手を切断した者が
「あ……あ……。」
「アハハ……笑えなーい……。」
「そんな……まさか……。」
ファンガイア達が歩いてくる人物を見て、放たれる威圧感に体を震わせる。歩いているだけで、ファンガイア達をも恐怖に陥れる人物。それは、この世界でただ一人。
「……。」
ファンガイアの王、紅音牙だけだ。
(来て……くれた……。)
雫は静かに気絶した。
「お前達は大勢で一人の人間を追い詰め、抵抗できなくした上で殺してきたな。」
音牙は問い詰めるように言う。
「しかもその理由はただ単に『気に入らないから』。ハッ、その程度の理由で掟に背くのか。」
音牙は嘲笑するように言った。その言葉にファンガイア達は返す言葉もあるわけがなく、黙るしかなかった。
「ま、理由がどうであれ、掟に背いたことには変わりない。掟に背いた者に待っているのは、」
音牙は左手を開き、突き出した。
「死だ。」
音牙がそう言うと、音牙の後ろからオクトパスファンガイアの触手を切断した張本人、キバットバットⅡ世が出てくる。
「ガブリ。」
突き出された腕に、キバットバットⅡ世が噛み付いた。音牙の頬にはステンドグラス状の模様が現れ、腰には真っ黒いベルトが巻かれていた。
そのベルトにキバットバットⅡ世が自ら取り付けられ、音牙は黒い膜に包まれる。そしてその膜が弾けると、闇のキバへと変身した音牙が現れる。
「ひいっ、化け物!」
一人の女子の言葉がきっかけになったのか、人間の女子達は一斉に逃げ出す。有名人が自分達に対して威圧してきた上、その有名人が変身でもしたら逃げ出したくもなるだろう。それにつられてファンガイア達も逃げ出すか、と音牙は思ったが、
「いくら相手がキングとはいえ、こっちは仲間がいるわ。」
「アハハ! 私達に勝つなんて無理無理!」
「多勢に無勢とはまさにこのことだよ。キングも運が悪いね~。」
向こうは逃げ出すどころか殺る気満々のようだ。それはおそらく、相手が音牙一人だけだと分かったからだろう。
「相手が複数だろうがやることは変わりない。掟に背いた者に裁きを与える。それだけだ!」
音牙はマントはためかせて言い放った。
「カッコつけてんじゃないわよ!」
オクトパスファンガイアを先頭に、ファンガイア達が突っ込んでくる。しかし音牙はその場から動かない。
「ふんっ!」
間合いに音牙が入った瞬間、オクトパスファンガイアが触手で殴ろうとしてくるが、音牙はその触手を掴む。そしてその触手を思いっきり引っ張りオクトパスファンガイアを引き寄せ、強烈なヤクザキックをオクトパスファンガイアに叩き込んだ。
「ぐふっ!?」
オクトパスファンガイアは、そのヤクザキックをもろに受け、吹き飛ばされる。倒れた仲間には目もくれず、カメレオンファンガイアとプローンファンガイアが襲いかかってくる。
「ていっ!」
「アハッ!」
カメレオンファンガイアは飛び蹴り、プローンファンガイアは斧で攻撃してくる。しかし、圧倒的な力を持つ闇のキバには、その同時攻撃さえも無意味だった。
「ええっ!?」
「ちょっ!?」
音牙はその同時攻撃を両方とも受け止めて見せたのだ。さすがにこれには、二体のファンガイアも驚きを隠せない。
そして音牙はカメレオンファンガイアを地面に叩きつけ、プローンファンガイアが斧を受け止められ動けないところに、強烈な蹴りを叩き込んだ。
「くっ……! じゃあこれはどうかな!」
吹き飛ばされたプローンファンガイアは自身の能力、『エクスプローションバブル』で攻撃してくる。不意討ちに、音牙は咄嗟に腕で顔を防ぐことで対処した。しかしプローンファンガイアは、絶えず泡を発射してくるので、音牙は反撃が出来ない。
「今がチャンスだよ!」
「おっけー!」
周りに擬態して、カメレオンファンガイアが確実に音牙に近づいてくる。音牙はプローンファンガイアの泡を防ぐことで精一杯だった。
「隙ありっ!」
動けない音牙に向かって、カメレオンファンガイアが後ろから攻撃してくる。ファンガイア達は勝ちを確信した。
「かかったな。」
音牙は後ろから攻撃してきたカメレオンファンガイアを、攻撃が当たる直前で避けた。
「うっ! ぐっ! ああっ!」
攻撃を避けられたカメレオンファンガイアに、いくつも泡が当たり、当たった泡が炸裂する。プローンファンガイアは慌てて音牙を狙うが、音牙はカメレオンファンガイアを盾にしながらプローンファンガイアに近づいていく。
そしてカメレオンファンガイアを飛び越え、その光景に驚いたプローンファンガイアに拳を叩き込む。
「終いにしよう。はあああぁぁぁ……。」
音牙は溜め息に近い声を出し、足元に紋章を作り出す。相手の数が多いからか、作り出された紋章は通常のものより一回り大きい。
「ふっ!」
音牙がファンガイア達がいる方向へ指さすと、紋章はその方向へゆっくり向かっていく。そしてファンガイア達の足元に貼り付き、固定した。
「キング! どうか! どうか御慈悲を!」
オクトパスファンガイアが命乞いをしてくる。音牙はそれに冷淡に答えた。
「掟は絶対。それを知っていた上で掟に背いたのだろう? ならばかける慈悲などない!」
音牙はファンガイア達の頭上にもう一つ紋章を出現させ、それで押し潰す。
「「「あああああああああああああ!!!」」」
大きな断末魔と共に、ファンガイア達はガラスが砕けるように散ってしまった。
――――――――――――――――――
「これでよし、と。」
音牙は、気絶した雫を廊下の隅にきつくない体制で寝かせると、何処かへ行ってしまおうとする。すると、
「う……ん……。」
雫が目を覚ました。雫は周りを見渡し、立ち去ろうとする音牙を見るとすぐに引き留めた。
「待って!」
その声に音牙は足を止める。
「あなたの……名前は?」
それは雫が一番知りたいことだった。音牙はテレビや新聞では、ファンガイアの王様という名前でしか出ていないため、名前を知っている人間がとても少ない。雫は、自分の王子様の名前をどうしても知りたかったのだ。
「紅、音牙だ。」
音牙はそう言うと、一枚の紙を投げ渡した。雫はそれを受け止める。そこには、簡単な地図が書かれていた。
「そこが俺の住んでいる場所だ。用があったらいつでも来い。仕事がない時は大抵そこにいる。」
音牙はそれだけを言い残し、去ってしまった。一人残された雫は、地図を見ながら呟く。
「紅、音牙……。」
ずっと知りたかった彼の名前。ネットで調べても、雑誌を読んでも、テレビでも、彼は『ファンガイアの王様』としか呼ばれていない。しかし、今ここでようやく、彼の名前を知ることができた。
(やっと、会えた。私の、本当の王子様。)
その時の雫の表情は、今まで誰も見たことがないほど喜びに満ち溢れていたという。
不明な点があったら感想に書き込んでください。感想で返信した上で、その話の後書きでまとめて説明しようと思います。
早速質問が来たので回答
Q.主人公とクイーンのファンガイアの姿は何?
A.主人公は過去キングと同じくバットファンガイア、クイーンは真夜と同じくパールシェルファンガイアです。パールシェルファンガイアは本編で登場させるつもりですが、バットファンガイアは今後の展開によります。
Q.キャッスルドランはいるの?
A.もちろんいます。この話で出てきた『住んでいる場所』というのは、キャッスルドランのことです。一応、そこにアームズモンスター達もいます。
ハジメ君が仮面ライダーになるとしたら?(変身しないという選択肢はなし)
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キバ
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イクサ
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サガ