ありふれない吸血鬼の王は異世界でも最強   作:fruit侍

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この話は本日投稿された話の二話目になります。一話目をまだ読んでいないという方は先にそちらを読んでいただくようお願いいたします。


新しい家族 後編

恵里は、城のような竜『キャッスルドラン』の内部にお邪魔していた。

 

廊下は西洋の建物といった感じで、ランプにレッドカーペットとなかなかに派手な作りだ。

 

音牙が大きな両開きの扉を開けると、扉の奥には大広間が広がっていた。大広間ではタキシードを着崩した青年、燕尾服を着た青年、セーラー服を着た少年がポーカーをしている最中だ。

 

「あ、帰ってきた!」

 

「どうやら客もいるらしい」

 

「キング、浮気?」

 

三人は音牙と恵里を見ると口々にそう言う。

 

「俺が真深以外の女に惚れるものか。悩みがあるというからここに連れてきてやっただけのことだ」

 

「なんだ、つまんないの。あ、僕はラモンって言うんだ。よろしくね!」

 

セーラー服の少年、ラモンは恵里に近づいて自己紹介する。

 

「次狼、コーヒーでも淹れてやれ」

 

「御意」

 

タキシードを着崩した青年、次狼は部屋を出てコーヒーを淹れに行く。

 

「力、片付けてくれるか」

 

「分かった」

 

燕尾服を着た青年、力はテーブルに散らばったトランプを片付け、椅子を並べる。

 

「とりあえず座れ。立ちっぱなしは辛いだろう」

 

言われた通り、恵里は椅子に座る。少し経つと、次狼がコーヒーの入ったカップをトレイに載せて持って来た。

 

「ご苦労。お前達、下がっていいぞ」

 

次狼はトレイをヒラヒラさせて去っていく。ラモンと力も、次狼に着いていくように去っていった。

 

恵里はテーブルに置かれたコーヒーを少しだけ飲んでみる。すると思ったよりも苦くなく、飲みやすかった。

 

「次狼は大のコーヒー好きでな。自分が気に入ったコーヒーには万札も平気で出すような奴だ」

 

「はっ?」

 

次狼の金銭感覚のバグり具合に驚く恵里。もはやコーヒーに命を賭けていると言ってもいいのではないだろうか。すると、

 

「お帰りなさい、音牙さん」

 

恵里と音牙の横から声が聞こえてくる。そこには黒い衣に身を包んだ少女、真深が立っていた。

 

「そちらの方は?」

 

真深は恵里の方に目を向けると、首を傾げて音牙に聞く。

 

「えっと、中村恵里って言います……」

 

「恵里さん、ですね。私は真深と言います。あ、敬語はなくても構いませんよ。私のは口癖みたいなものなので」

 

真深はそういうと、残された椅子に近づいて座る。

 

「それで音牙さん、わざわざここに連れてきたということは、何か事情があるんですね?」

 

「特に深い理由は無いがな。悩みがあるなら着いてこいと言ったら、ここまで着いてきただけだ」

 

いつの間にか持っていたバイオリンの弦を指で弾いて調整しながら、音牙は答える。

 

「悩み、ですか?」

 

真深は恵里の方に顔を向ける。恵里は真深に見られてビクッと跳ね、ここまで着いてきたものの話すべきか話すまいか迷う。

 

「遠慮はいらん、全て話してみろ」

 

しかしそれも音牙にはお見通しだったようで音牙にそう言われ、話さざるを得ないか、と腹を括る。

 

そして恵里は、自分自身に起きたことを嘘偽りなく全て話した。

 

「「……」」

 

二人は時が止まったかのように黙ったままである。音牙の、先程までバイオリンを調整していた手さえも止まっていた。

 

「……まあ、こんなこと急に話されても困るよね。元々、僕だけの問題なのに。それじゃ僕はこの辺で「待て」え? ……ッ!」

 

恵里は帰ろうとした矢先、音牙に呼び止められた。そして振り返って音牙を見たとき、彼の纏う雰囲気が変わっていることに気づいた。

 

先程まではただの少し偉そうな少年だったのに、今は民を見下ろす冷酷な王のようだ。

 

音牙は立ち上がると、恵里に言う。

 

「奴等のところに連れて行け」

 

「連れて行けって、何するつもりなの? 言っとくけど、あいつはファンガイアの中でもまあまあ高位にいるんだよ。下手に手を出したらこっちが消されちゃう」

 

しかしいくら雰囲気が変わったところで、自分の親には叶わない。恵里の母親には、それほどの後ろ楯がいるのだ。

 

「それなら問題ありません」

 

横から真深が言う。その言葉には先程の親しみやすさは全く含まれておらず、代わりに背筋を凍らせるような冷酷さが含まれていた。その瞳も、突き刺すような鋭い視線を放つ瞳となっており、先程までの優しそうな瞳はどこにもなかった。

 

「私達に歯向かうことは、ファンガイアならば不可能です」

 

真深がそう言うと音牙が真深の隣に立ち、二人は左手の掌を恵里に見せる。音牙の掌にはキングの紋章、真深の掌にはクイーンの紋章が刻まれていた。

 

「そ、それって……!」

 

恵里はテレビや雑誌などを全く見ていなかったため、音牙と真深がどんな人物なのか全く知らなかったが、ファンガイアの血を引いている者なら誰もが知っているその紋章を見せられたことで、ようやく二人がどんな人物なのかを知る。

 

「改めてファンガイアの(キング)、紅音牙だ」

 

「同じく改めましてファンガイアの女王(クイーン)、真深と申します」

 

二人の名前を改めて聞いて、恵里は藁どころかとんでもないものを掴んでしまったな、と思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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あれから少し経ち、恵里は家に帰る途中だった。これには理由がある。

 

恵里はキャッスルドランを去る前に、音牙にこう言われた。

 

「俺達が近くにいると、たとえお前を見つけたとしても二人に逃げられてしまう可能性がある。だからまずはお前に一人で家に向かって、奴等を誘き寄せてほしい。安心しろ、もう痛い目はあわせないと約束する」

 

要は恵里に囮になれということだ。音牙はキングというファンガイアの頂点に立つ存在である以上、冤罪で同族を裁いてしまわないよう細心の注意を払っている。

 

仮にもキングなので逃げられてしまうことは万が一にもないが、包み隠さず囮になれと言うのも聞く方からしたら嫌な話だ。なので建前上は逃げられないようにするため、と恵里に言ってある。

 

そして、恵里は家に着いた。

 

扉を開けようとした直前に、恵里の動きが止まる。今まで二人にされてきたことを体は覚えているので、脳が拒絶しているのだ。ここに来ては行けない、逃げろと。

 

しかし恵里は、今の自分には味方がいると言い聞かせ、扉を開けた。

 

帰ってきた恵里を一番最初に出迎えたのは、聞きたくもない醜い声だった。

 

「よお恵里ちゃぁん、今までどこ行ってたんだぁい? 俺達に何なぁんにも言わねえでよぉ。危うく警察呼んじまうとこだったじゃねぇかよぉ」

 

「全く手間ばっかかけさせんじゃないよこのガキは。ねぇあなた、こんなガキ放っといてどっか行きましょうよ」

 

「おぉう俺もそうしてえところなんだが、こいつぁ俺達にいらねえ心配かけさせやがったからなぁ。ガキの躾も、親の仕事じゃぁねえかぁ?」

 

「それもそうね。私達から逃げようとしたらどうなるか、教えてあげなくちゃ」

 

言い終わる前に、恵里は家から逃げ出した。捕まったら何をされるか分からない。最悪、もう家から出れなくなる。

 

そして逃げ続けて、あの恵里が飛び降りようとした橋の下まで来た。

 

「はぁ……はぁ……」

 

恵里は息も絶え絶えに膝と掌を地面につく。ここまで全力疾走してきた恵里には、もう走れるだけの体力は残っていなかった。

 

しかし二人は思ったよりも早く追い付いてきた。小学生の足の速さと体力では、大人に勝つことは難しい。恵里はもともと運動が得意ではないから、尚更だ。

 

「へへっ、やっと追い付いたぜぇ」

 

「わざわざ自分から人が来ないところに来てくれるなんてね」

 

そう言われて恵里は気づいた。この橋は上を渡る人は多くても、下を通る人はほとんどいない。そうするメリットがないためだ。まれにホームレスや不良などが集まっていることもあるため、人があまり近寄らないというのもある。

 

「これからたぁっぷりとしつけてやるからなぁ。安心しろよぉ、殺しはしねぇからなぁ」

 

二人は下卑た笑みを浮かべながらゆっくりと恵里に近づいてくる。恵里は大丈夫だと自分に言い聞かせ続けているが、それでも先日のことが思い出されて次第に恐怖が勝ってしまう。そして恵里が恐怖に耐えきれなくなり、目を瞑った時だった。

 

「ふごぇ!?」

 

男の間抜けな声が響く。恵里が目を開けると、そこには音牙がいた。

 

「な、何でここに!?」

 

母親の方は音牙の正体に気づいたようで、ヒステリックに叫ぶ。

 

「うごごぉ……んだよぉ……んん?」

 

男が起き上がろうとしたところに真深が現れ、真深は無言で男の顎を蹴り上げる。

 

「んごぉ!?」

 

「あなた!」

 

母親は男に近づいて男が起き上がるのを補助する。

 

「痛ってぇなぁ……ってキングぅ!? んでいんだよぉ!」

 

「クイーンまで! お前、何をした!?」

 

母親の矛先が恵里に向く。恵里は怨嗟に染まった瞳で見られたことで震える。

 

「黙れ」

 

「ヒッ!」

 

視線と言葉で威圧をかけられた母親は情けない悲鳴をあげる。

 

「貴様等の行いには反吐が出る。片方は多くの人間を食い物にし、もう片方は自分の子すら満足に愛することができない。それどころか、愛していた夫が死んだのは子のせいだと? ふざけるのも大概にしろ」

 

実は男もファンガイアで、恵里の母親と会うまでは、自分と知り合った人間を捕食するということを繰り返していたのだ。

 

そして恵里の母親と知り合ってからは、恵里の母親が気に入らなかった人間を誘導して二人で捕食するということを隠れてやっていたのだ。

 

「く、くそぉ! こうなりゃヤケクソだぁ!」

 

男は本来の姿、ライノセラスファンガイアへと変化する。

 

「やっと……平和に過ごせると思ったのに!」

 

母親は本来の姿、モスファンガイアへと変化する。

 

「ふん、平和か。自分の子を虐げながらの平和とは。一度平和の意味を辞書で調べてきたらどうだ?」

 

二人がファンガイアの姿に変わっても、音牙は余裕を崩さない。

 

「もう言うまでもないが、理解力のない貴様等は分かってないかもしれないからな。一応、王の判決を言い渡してやろう」

 

左手の掌にあるキングの紋章を突き付け、音牙は王の判決を言い放つ。

 

「死だ」

 

その言葉でどこからともなくキバットバットⅡ世が飛んできて、音牙の突き出された左手に噛み付く。

 

「ガブリ」

 

音牙の頬にはステンドグラス状の模様が現れ、腰には真っ黒のベルトが出現する。そして音牙は一言だけ呟いた。

 

「変身」

 

その一言が放たれると、キバットバットⅡ世が自らベルトに取り付けられ、音牙は黒い膜に包まれる。その膜が弾けると、そこには闇のキバの鎧を纏った音牙が立っていた。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

ライノセラスファンガイアは自身の武器である突進で攻撃してくる。ライノセラスファンガイアは他のファンガイアに比べて力が強く、その突進は一撃で他のファンガイアを戦闘不能にできるほどの威力を持つ。

 

「その程度、俺が受け止められないとでも?」

 

「な、何ぃ!?」

 

だがそれは並のファンガイアに限った話だ。

 

「はああっ!」

 

後ろからモスファンガイアが襲いかかってくるが、しっかり防御し肘打ちでカウンターを決め、ライノセラスファンガイアをモスファンガイアの方へ投げた上で重い蹴りを叩き込む。

 

「うげぇ……」

 

「ちょっと……退いてよ……!」

 

ライノセラスファンガイアにのしかかられてしまったことで、身動きが取れないモスファンガイア。

 

しかし二人の再起を音牙が待つわけがなかった。

 

「お前は真深に処刑してもらおう」

 

音牙はそう言うと、ライノセラスファンガイアの首の辺りを掴んで、真深の方へ放り投げる。

 

ライノセラスファンガイアが転がって止まった目の前には、真深が立っていた。

 

「今回は私も流石に頭に来ました。子供を自らの性欲の捌け口としようとするなんて、ファンガイアの恥です」

 

「うる……せぇなぁ……! 人間なんて……俺達にとって……ただの餌だろうがぁ……! 例え……ガキだろうとなぁ……!」

 

ライノセラスファンガイアは立ち上がろうとしながらも真深に反論する。

 

「反省の余地なし、ですか」

 

真深はライノセラスファンガイアが反省する気がないと判断すると、左手に着けていた手袋を外す。

 

「あなたの、夜が来る」

 

そう一言呟くと、真深の右耳に着いているイヤリングから赤い光がこぼれ、夜へと変化する。真深の背には、紅い月が浮かんでいる。

 

「何だぁ!? 何で夜になったんだぁ!? さっきまで昼だったのによぉ!」

 

「あなたが知る必要はありません。あなたは、死ぬのですから」

 

いつの間にか近づいていた真深が、ライノセラスファンガイアに向けて左手を突き出す。そこには、クイーンの紋章が刻まれている。

 

本来、掟に背いたファンガイアの処刑は、クイーンが行うものだ。そのためクイーンは、掟に背いたファンガイアを素早く、そして確実に処刑する手段を所有している。

 

それが、クイーンの紋章が放つ赤い光『制裁の雷』である。

 

真深はライノセラスファンガイアに向けて、至近距離で制裁の雷を放った。

 

「っ!? ぐっ、ああ、あああああ!!」

 

当然避けられるはずもなく、ライノセラスファンガイアは一瞬にして散ってしまった。

 

「あなたぁ!! よくもぉ……っ!?」

 

モスファンガイアが男の敵を討とうと、真深の方へ走ろうとするが、自身の足が動かないことに気づく。足元を見ると、キバの紋章があった。

 

「俺を忘れるなよ」

 

音牙はベルトの右側に付いているホルダーから、黒い笛のようなもの『ダークウェイクアップフエッスル』を取り出し、バックルに止まっているキバットバットⅡ世に咥えさせる。

 

「Wake up (one)!」

 

パイプオルガンのような音色が響き渡る。

 

音牙は体を低くし腕を前に組むと、高く跳び上がった。紅い月を背にして音牙は一回転すると右手を大きく突き出し、無防備なファンガイアの胸へと必殺技の一つ、ダークネスヘルクラッシュを叩き込んだ。

 

「うぐあああああああああっ!!」

 

モスファンガイアは大きく吹き飛ばされ、転がる。着地した音牙は、モスファンガイアの方を見る。

 

「私は……ただあの人を愛していただけなのに!!」

 

「人間の寿命はファンガイアより短い。遅かれ早かれ、人間は俺達より先に死ぬ。人間を愛するということは、愛する者が先に死ぬのを見届けなくてはならないということだ。貴様には、その覚悟がなかったのか?」

 

「う、あああああああああああああああッ!!!」

 

モスファンガイアは音牙の問いに答えることなく、ガラスのように砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さて、帰るぞ」

 

「はい」

 

二人の罪深きファンガイアを処刑した音牙と真深の二人は、何事もなかったかのように帰ろうとしていた。

 

「え、ちょっと、僕はどうすれば……」

 

帰ろうとする二人に対して、恵里が問う。

 

「何言ってる。お前も帰るんだよ。俺達のところに〝家族〟としてな」

 

「……え」

 

恵里は一瞬、音牙の言っていることの意味が分からなかった。

 

「それとも、俺達と暮らすのは嫌か? なら何処か別の場所にに行っても構わんが……」

 

その言葉で先程の言葉が聞き間違いでも嘘でもないと確信した恵里は、音牙の方に向かって走り抱き付く。

 

「えぐっ……ありがとう……ひぐっ……ありがとう……!!」

 

恵里の感情の防波堤が遂に決壊する。どんなに母親に虐げられても、男に襲われそうになっても、恵里が泣くことは決してなかった。それは恵里の心が壊れ、感情が欠如しかけていたためであるが、音牙と真深のお陰で恵里の心は修復され、恵里は感情を取り戻すことができたのだ。

 

「それじゃ、帰るぞ」

 

「うん!」

 

音牙の言葉に今は亡き父親の面影を感じながら、恵里は満面の笑みで返し、音牙の右腕に密着しながら帰ったのだった。

 

「……面白くないですね」

 

それを後ろから真深が嫉妬しながら見ていたらしいが、それはまた別の話。




恵里パートが終わったので、次は清水パートにしようかと思いましたが、雫パートと内容被りそうだなと思ったので省略します。

これで年内の更新は最後となります。皆さんよいお年を!

ハジメ君が仮面ライダーになるとしたら?(変身しないという選択肢はなし)

  • キバ
  • イクサ
  • サガ

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