ヤンデレ・ザ・ワールド   作:トマトルテ

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4話:蛇島コマチ

 

 皆様は耳なし芳一という話をご存じだろうか?

 簡単に説明すると、悪霊に見つからないために体中にお経を書いていたのだが、耳だけお経を書き忘れた結果、悪霊に耳をもがれるという話だ。

 

 そして、現在の俺こと、山田イッテツは耳なし芳一状態になっている。

 ただし、体に書かれているのはお経ではなく――

 

「あの……蛇島(へびしま)先輩? どうして、俺の身体に名前を書いているのでしょうか?」

「あら? あなた自分の持ち物に名前を書かないタイプ? いけないわよ、もし落とした時に誰のものか分からなくなるわ」

「俺は俺だけのものだよ!」

 

 名前だ。

 蛇島コマチという先輩の名前がビッチリと、しかも達筆で俺の体中に書かれている。

 

「そんなこと言わないで。あなたの命はあなたのお父様やお母様、そして私のものでもあるのだから、大切にしないとダメよ」

「両親は別にいいですけど、蛇島先輩は1ミクロも関係ないですよね?」

 

 墨だらけになった顔でツッコむが、先輩はうふふと笑うだけだ。

 因みに俺以外の書道部員はいつもの事なので視線すら寄越さない。

 仲の良い後輩の佐藤に直接助けを求めるが、ワザとらしくせき込んで聞こえないフリをされる。

 お前ら、俺の仲間だよね? 泣くぞ。

 

「というか、引退した先輩と違って俺は現役なので、普通に練習させてもらえませんか」

「失礼ね。私だって可愛い後輩に書道の指導しに来たのよ」

「ほぉ、俺の身体を尻尾でグルグル巻きにして、肝心の両手を使えなくしているのにですか?」

「山田君。最近は理論が重視されてるけど、時には体で覚えることも重要なのよ」

「体で覚えるって、体をメモ代わりにすることじゃないですからね?」

 

 ラミアである蛇島先輩は、俺の書道部の先輩である。

 3年生なので、引退して受験勉強に勤しんでいるが、たまにこうやって俺にちょっかいをかけてくる。物理的に。

 

「あなたは昔から生意気な後輩よね。美少女の先輩が手取り足取り指導してあげているのに、何が不満なのかしら?」

「毎度、手と足をもぎ取られそうになれば捻くれもします」

 

 手取り足取りとは丁寧に教えることであって、尻尾で締め付けられて手足をもぎ取られることでは断じてない。

 

「大丈夫よ。私はお気に入りの人形を壊して保管する趣味はないわ………あ、ごめんなさい。人形じゃなくて、お気に入りの後輩ね」

「最後まで言い切ってから訂正する人、初めて見ましたよ」

「あら、私が初めての人だなんて照れるわね」

「ついでに、ここまで頭がハッピーな人も始めて見ました」

 

 ツッコミを入れ続けるが、蛇島先輩は笑うばかりで俺を解放してくれない。

 おかしいな? いつもなら、流石に解放してくれる頃合いなんだが。

 そう言えば、今日はいつもより少しテンションが無理に高い気が。

 

「……蛇島先輩、なんか嫌なことでもあったんですか?」

「! ふふふ……あなたって、そういう所は鋭いわよね。好きよ、あなたのそういう所」

 

 若干驚いたような顔をしてから、蛇島先輩が柔らかく微笑む。

 そんな表情で好きと言われたものだから、思わずドキリとしてしまう。

 

「好きなら、早く解放してくれません?」

 

 ということはなく、俺は憮然とした表情のまま解放を願う。

 正直、骨がミシミシと鳴って呼吸が苦しくなっているので、それどころではないのだ。

 

「好きだから束縛するのよ。まだまだ、子供ね」

「相手の同意を得ずに絞め殺しに来る人にだけは、言われたくありません」

「本当、生意気な子。まあ、そこが可愛いのだけど」

 

 少し機嫌が直ったのか、ようやく俺を解放してくれる先輩。

 俺はフェニックスの力でヒビの入った骨を直しつつ、教室のガラスで自分の姿を確認する。

 ……うん、完全に耳なし芳一だ。

 しかも、耳には何も書いていないので、明らかに先輩も狙ってやってる。。

 

 て、おい! 佐藤! お前なに俺の姿見て爆笑してんだよ!

 ごまかしたって無駄だ。ガラスに映ってたからな!

 

「ふふふ……本当、楽しいわね」

「先輩?」

 

 俺の姿を見て爆笑していた、後輩の佐藤をしめようとしていると、蛇島先輩がポツリとこぼす。

 やはり、何かあったのには間違いがない。

 少し心配なので、ちゃんと理由を聞いてみる。

 

「悩みなら聞きますよ、先輩」

「ああ、ごめんなさいね、心配させちゃって。悩みって言っても、受験勉強の息抜きがしたかっただけよ」

「ああ、それで……」

 

 先輩が少し気まずそうに、理由を話してくれる。

 その、余りにも普通の理由に思わず拍子抜けてしまうが、変な理由よりはマシだろうと気を入れ直す。

 

「息抜きなら付き合い……待ってください。ウキウキした目で、俺に首輪と手錠と足枷と目隠しをかけようとしないでください」

「じゃあ、私とデートでもしてくれるかしら? もちろん私の部屋で」

「翌日の朝刊に行方不明者として載りそうなので、お断りさせてもらいます」

 

 隙あらば俺を拘束しようとする人間の部屋に行ったら、どうなるかは想像に難くない。

 不死=無敵ではないのだ。

 フェニックスでも拘束されたらどうしようもない。

 というか、ほぼ不死な分余計に辛い。

 

「もう、つれないわね……」

「普通のデートならお付き合い……あ、待ってください。なんか、凄い寒気がしたので別のことでお願いします」

 

 黒髪美人の先輩なのだ。

 普通のデートなら喜んでと言おうとしたが、凄まじい寒気がしてすぐに撤回する。

 

「あら、残念」

「すいません。何だか、犬と猫に色々とかじり取られそうで……物理的に」

「ふふふ、モテモテね。流石は私のペットね、少し妬けるわ……あ、ペットじゃなくて後輩ね。字面(じづら)が似てるからつい間違えちゃったわ」

「1文字たりとも合ってねえよ!」

「そう、似たようなものでしょ?」

 

 思わず叫んでしまった俺は責められないと思う。

 先輩の中ではペットと後輩は同じジャンルに並んでいるのかもしれないが、俺は認めない。

 広辞苑にだってそう書いてある。

 

「それにしても、相変わらずキレのあるツッコミね。そのキレの良さを筆に乗せると、もっといい文字が書けるわよ」

「唐突に真面目な指導しないでくれます?」

 

 さっきまでの温度差で風邪をひきそうだ。

 

「しょうがないでしょ。今日の目的は気晴らし9割、指導1割なんだから」

「せめて、3割ぐらいは指導に割いてもらえませんかね?」

「因みに、気晴らしのうちの10割は山田君を弄ることよ」

「あ、じゃあ、もう目的達成してますね。お疲れさまでした。お帰りはあちらからどうぞ」

「少し見ない間に、逞しくなったわね。最初の頃はもっと慌てたのに」

 

 そりゃあ、目の前の先輩の相手を2年もやっていれば耐性ぐらいつく。

 俺は昔を思い出して、溜息をはく。

 最初の頃は黒髪ロングの巨乳な先輩にドギマギしていたが、今はそれもない。

 

 人間は顔じゃない心だ。

 そんな言葉を強く噛みしめられるようになったのも、この世界に転生したおかげだろう。

 全くもって、嬉しくないが。

 

「どこかの()()()先輩に鍛えられましたからね」

「あら、褒めても何も出ないわよ」

 

 そのことに皮肉を込めて言ってみるが、先輩には効かない。

 この先輩はいつもこうだ。こちらを振り回すだけ振り回して自分は平然としている。

 前世も合わせたら人生経験はこっちの方が上のはずなのに、勝てる気がしない。

 

「で……俺を弄って気分は晴れましたか?」

「そうね、大分スッキリしたわ。おかげでまた勉強を頑張れるわ」

「そうですか、それは何よりです。では、お帰りなさいませ、先輩」

「お帰りなさいませって、帰れって意味じゃないわよ」

 

 まあ、何はともあれ悩みが解決したのならそれでいい。

 これで先輩も帰るだろうから、落ち着いて練習できる。

 

「ただ、余り長居するのも迷惑ね。それじゃあ、またね。他の皆も頑張って頂戴」

「はい、ありがとうございます」

 

 ヒラヒラと手を振り、長い黒髪と巨乳を揺らしながら帰る先輩。

 だが、ふと何かを思い出したのか、廊下に出たところで尻尾の動きを止めて俺を手招きする。

 ……そこはかとなく、嫌な予感が。

 

「一ヵ所名前を書くのを忘れていたわ」

「え、耳ですか? 狙って耳なし芳一にしたんじゃないんですか?」

 

 思わず、それじゃあ耳なし芳一にならないだろうと反論する。

 これじゃあ、耳なし芳一じゃなくてパーフェクト芳一だ。

 

「あら、じゃあ耳を千切って持って帰ってもいいのかしら? ホルマリンの用意は出来てるわよ」

「どうぞ、お書きください」

 

 俺は即座に先輩いる廊下に出て行き、耳を差し出す。

 さらばだ、耳なし芳一。

 俺は今からパーフェクト芳一になる。

 

「て、あれ? 先輩、筆がないじゃないですか」

「大丈夫よ、すぐに終わるからジッとしていなさい」

 

 そう言って先輩は俺が逃げられないように、尻尾で拘束する。

 そして、ゆっくりと俺の耳に顔を近づけてきて――

 

 

「―――今日はありがとうね」

 

 

 ―――俺の耳に優しくキスをする。

 

「それじゃあ、頑張ってね。期待しているわよ、()()可愛い山田君」

 

 そう言い残して、先輩は俺の拘束を解いて上機嫌で帰っていくのだった。

 呆然と立ち尽くす俺を、人の往来の激しい廊下に1人残して。

 そして何より――

 

「……ねぇ、イッテツ君。誰? あの女」

「イッテツさん。あなたは(わたくし)というものがありながら……」

「待て、チヒロに猫林。話せばわかる」

「「問答無用!」」

 

 自らが生み出した修羅場を残して帰ってくのだった。

 

 

 




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悪の怪人に転生したので美少女戦隊に投降しますhttps://syosetu.org/novel/361587/

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