気づいたら竜種に転生していた件   作:シュトレンベルク

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幕間・十二星神

 新月の夜、空には星が満ちていた。その輝きを放つ総てが同じようでいて、まったく違う星の輝きを持っている。それは万古不易たる輝きであり、満天下を照らし出す無謬の光だ。その総てをあるがままに愛さなければならないと、そう思った者がいた。

 そう思うが故に悩みを抱えこまなければならないのだと、理解していても。止める事は決してできない。それを理解しているからこそ、見出された者たちはその想いに応えようと躍起になる。これは見出す者ではなく、見出された者たちの話である。

 

――――人魔統合国家セリオン。リムル擁するテンペスト以外で魔物と人間の共存を成し遂げている国家であり、ヴェルディアスの庇護を受けている者たちの集う国家。

 

 セリオンはヴェルディアスの加護を受けた上位十二名の支配を受ける国である。その事実は多くの者が知るところであり、それ故に権力を求める者たちは何とかその家にへばりつこうとしている。無論、その十二名もその辺りは理解したうえで接しているのだが。

 そんな中で、その十二名のまとめ役たるミュリア・アル・ネリ・セリオンは諜報部のまとめ役であるユリア・ノーティスから報告を受けていた。諜報部は島国であるセリオンの要。それを理解しているにも関わらず、セリオンに滅多に姿を現さないのだ。

 

「それで、こんな早朝から一体どうしたと言うのです?何か火急の要件でも?」

 

『火急というほどではありませんが。お伝えしておいた方が良いかと思いまして』

 

「……余計な言い回しは結構。事実だけを伝えてください」

 

『では、お言葉に甘えて。魔王の誕生を確認しました』

 

「魔王?それは覚醒級の魔王という意味ですか?それとも魔王種を獲得した魔物が現れたという意味ですか?ないとは思いますが、後者であるのなら時間の無駄遣いも甚だしいですね」

 

『もちろん、覚醒魔王の誕生ですよ。今の十大魔王の中でも数少ない覚醒級の魔王です。名前はリムル=テンペスト。種族は魔粘性精神体(デモンスライム)

 

「待ちなさい。……スライム?あなたは今、スライムと言いましたか?」

 

『ええ。彼は間違いなくスライムですよ。魔王となる前から、彼の情報は会得済みですから』

 

伝令之星神(ヘルメス)たるあなたが、無名の魔物時代から?一体、どういう風の吹き回しなのですか?」

 

『それはもちろん――――ヴェルディアス様直々のご命令でしたから』

 

 その言葉を聞いた瞬間、ミュリアは座っていた椅子を蹴飛ばしながら立ち上がった。その顔には信じられない物を見たと言わんばかりの驚愕と、ふざけるなと言わんばかりの嫉妬と憤怒の感情があった。その感情を受けているユリアは無表情を貫いていた。

 

「あなたは……」

 

『……まぁ、あなたの仰りたい事は分かります。ですが、職務を優先させていただいても?』

 

「……良いでしょう。続けてください」

 

『では、遠慮なく。現在、仮称魔王リムルは魔王たちの宴(ワルプルギス)に参加しています。恐らく、そこで魔王クレイマンが落ちます』

 

「魔王クレイマンが敵対行動を取っていた、という事ですか。魔王種を獲得した程度の魔物と覚醒級の魔王との戦い……結果は見えていて当然、というべきですか」

 

『一抹の不安要素はありますが、概ねその通りに進むと思われます』

 

「不安要素、というと?」

 

『数日前、獣王とミリム様が戦われたのはご存じですか?』

 

「ええ。その余波でユーラザニアの首都が焼き払われたとも。確かに、ミリム様の行動は不可解なものではあります。しかし、それにクレイマンが関わっていると思うのですか?」

 

『推測ではありますが。どうもクレイマンは元々カザリームの配下組織「中庸道化連」という組織の一員だったそうです。カザリームの異名は呪術王(カースロード)。そこから何かしらの手引きがあった可能性があります』

 

「ですが、呪術王(カースロード)は魔王レオンに滅ぼされたはずでしょう。いくら、彼が死に縛られぬ妖死族(デスマン)であったとしても、覚醒魔王となったレオンに滅ぼされたのなら、生きられぬ筈でしょう」

 

『確かに、その通りではあります。しかし、確認したところ「中庸道化連」は未だ活動を続けている。という事は、何かしらの要因があってカザリームは存命。或いはカザリームと同等の能力を持つ者がいる、という事の証左でしょう』

 

「ふむ……まぁ、それは構いません。それで、今回その情報を持ってきた理由は何ですか?」

 

『ヴェルディアス様はかの魔王をただの魔物であった頃より、注目されていました。ただの魔物であった時期ならまだ良いかと思いましたが、覚醒魔王に至られた今となっては報告しない訳にはいかないと思った次第です。それに、この国は暴風竜さえも従えているのですから』

 

「ヴェルドラ様を?それほどまでにその魔王は強力な存在なのですか?」

 

 彼女らの崇拝の対象である大地竜。その兄弟であり市勢にその名を知らしめる暴風竜を従える魔王がいるとするならば、それは一種の危険存在でもある。その手の及ぶ可能性が低くとも、可能性があるのならその存在は容認できない。

 ただの一魔王であるうちに潰しておく。覚醒魔王であろうと、セリオンの全戦力を投入して潰す。それだけの用意が彼女にはある。彼女の私兵とも言える英雄戦士団を用いる事を躊躇いはしない。そんな彼女の意志に他の加護を受けた者たちも拒絶はしないだろう。

 

『いえ、力量的にはそこまででしょう。様々な能力を所有し、究極能力(アルティメットスキル)も所有しているようですが、逆に言えばそれだけです。我々のような『星』にも目覚めてはいない。今は敵対するよりも友好的な関係を築いた方が得策かと』

 

「恐るるには値しない、と?」

 

『あなたの英雄戦士団で配下たちを制圧しつつ、我らが抑え込めば完封できる。脅威度としてはそのぐらいでしょう。ギィ・クリムゾンやルドラ・ウル・ナスカには及びません』

 

「あの二人では比較対象にならないでしょうに……まぁ、良いです。現状、敵対するほどの力量差はないという事は分かりました。それであなたは何を物議にあげたいのですか?敵対しないだけであれば、我々が何かをする必要はないでしょう」

 

『ヴェルディアス様のお気に入りですよ?』

 

「ヴェルディアス様が我らの干渉を望んでいるとでも?こと情報収集に関して、あなた以上の存在はそうはいない。ですから、あなたは力を貸すことを願われている。しかし、我々はそうではない。言い方は悪いですが、セリオンは島国です。そのような遠方の地に尽力する必要があるとでも?」

 

『意外ですね。あなたがヴェルディアス様のお気に入りと繋がりを持とうとなさらないとは』

 

「その事で以前、ヴェルディアス様から叱られていますから。私としても、この国としても、別に負担というほどではありませんでしたが、ヴェルディアス様から見れば過分にすぎたのでしょう。それ以来、何かしらの利点がない限りは繋がりを持たないようにしています」

 

『なるほど。しかし、この国には一考の価値がありますよ智慧之星神(アテナ)

 

「ほう……?それは、どのような?」

 

『かの魔王はおそらく転生者であると思われます。別世界の道具や食事を始めとした物を、この国で再現しようとしている。それは一種の財産だ。そして、それが魅力的な代物に見えれば見えるほどに、人は魅了されていくものです。すなわち――――』

 

「――――その国が西方諸国の経済圏の中心になる、と?」

 

『ご慧眼、何よりです。そう、彼の国こそ次代の世界の中心となるでしょう。外貨の獲得と考えれば、良い相手だと思いますが?』

 

「……あなたの言い分は分かりました。確かに、一考の価値はある相手だと認めましょう。しかし、解せない事が一つあります」

 

『なんでしょうか?』

 

「何故、あなたはそこまでその魔王とその国を推すのです?確かに魅力はある。しかし、あなたはそんな国と国のやり取りなど、興味はないでしょう。教えていただきたい、伝令之星神(ヘルメス)。ただ、ヴェルディアス様のために生きると豪語するあなたが何故そこまで?」

 

 ヴェルディアスのために。これは何もユリアに限った話ではない。ミュリアとてそうだし、他の星神と呼ばれる者たちもそう。ヴェルディアスに救われ、その輝きに魅了された者たちは皆そう言うだろう。ヴェルディアスに総てを捧げる狂気。それこそが星神となった者たちの共通点であるが故に。

 

『それは単純ですね。――――私が、個人的に気に入ったからです』

 

「ほう……?あなたらしくもない、根拠もない独善とした答えですね」

 

『気に入りませんか?』

 

「いいえ?実に、実に分かりやすい答えでしたとも。自分が気に入ったから。なるほど。それ以上にシンプルな答えなど存在しないでしょう。気に入りました。テンペストとの国交、私を中核として議題に挙げさせていただきます」

 

『ありがとうございます、智慧之星神(アテナ)

 

「礼など不要です。あなたは情報を集め、それを私に報告した。私はそれを吟味した上で、国交を樹立した方が利益があると判断した。故に、この行動を取った。それだけの話なのですから」

 

『それでも、ですよ。では、礼替わりではありませんが、情報をもう一つ。魔導王朝サリオンも彼の国との繋がりを持とうとしているようですよ』

 

 その言葉に、ミュリアの笑みが深くなる。何故なら、魔導王朝サリオンの皇帝こそ、彼女の実妹エルメシアその人なのだから。何度か話をしようと国交を結ぼうとしたが、拒絶されてきた。しかし、今回の一件で繋がりを持つことが出来れば――――。

 

「ふっ、それは実に良い情報です。感謝しますよ、伝令之星神(ヘルメス)。尚の事、彼の国との国交を議会で成立させてみせましょう」

 

『それは何よりです。では、これにて失礼させていただきます』

 

 通信が切れ、そこにあった鏡には実に良い笑顔を浮かべているミュリアの姿があった。この後は定例議会の時間があり、そこでどうやってこの議題を通そうかと思考加速スキルまで使いながら考えていた。そして、案をまとめると即座に命令して書類制作を行っていた。

 

 そして、定例議会の時間。この議会のために作られた円卓の間に伝令之星神(ヘルメス)ともう一人以外の星神達が集っていた。各々がそれぞれに役割を持っており、この時間に集まる事さえ難儀な者たちもいる。それだけにこの場に全員が集っているのは珍しいともいえる。

 

「やっと来た。私たちも長時間抜けられる訳ではないんですから、もっと早く来てください」

 

 そう言ったのは『愛欲之星神(アプロディーテ)』ネリア・ディエト・ヒューストン。セリオンの花街の管理を任せられ、それ故に国内における様々な情報を一手に管理する者。裏世界の顔役の一人であり、『欲』を司る存在である。

 

「まぁ、そう怒るなよ。美人が台無しだぜ?どうせ、俺もお前も相手なんざそうはいねぇんだからよ」

 

 そう言ったのは『酩酊之星神(ディオニュソス)李流星(リー・リュウシン)。セリオン国内における裏組織の首領をしており、裏組織の治安は彼に任されている。裏組織の顔役の一人であり、『力』を司る存在である。

 

「今日は天気もよさそうだし、さっさと終わらせて釣り行きてぇな……」

 

 窓の外を見て、燦燦と照らす太陽に目を細めながらそう呟いたのが『海洋之星神(ポセイドン)』水上獅童。セリオンと国外の貿易関係、そして海洋の治安維持を主な職務としている。他にもセリオン国内で生産されている海産物は彼の手がかかっている。

 

「おいおい、老後の爺みたいなことを言うなよ。もっと明るく、健康に行こうぜ?なぁ?」

 

 そんな『海洋之星神(ポセイドン)』を諫めるように言うのが、『陽光之星神(アポロン)』天月耀司。セリオン国内の治安維持の一端を任されており、主に被害に遭った者たちの保護役をしている。民たちからは「救い」の『陽光之星神(アポロン)』と称されている。

 

「そういうあなたは少々、女性関係が忙しなさすぎです。もう少し、その辺りはどうにかならないのですか?」

 

「そう言うなって。元気なのは何よりじゃないか?」

 

「何事にも限度がある、という話をしているのですよ」

 

 『陽光之星神(アポロン)』を窘めるのは『月輪之星神(アルテミス)』月代天音。セリオン国内の治安維持の一端を任されており、主に犯罪者たちの捕縛を主眼とした活動をしている。民たちからは「裁き」の『月輪之星神(アルテミス)』と称されている。

 

「『錬鉄之星神(ヘファイストス)』、また後で書類で出すけどよぉ。英雄戦士団の使う武器がそろそろ壊れそうだからよ、追加発注頼むわ」

 

「またか、『戦火之星神(アレス)』。お前らは武器の扱いが荒すぎる。作り直すこちらの身にもなれ」

 

「まぁ、そう怒んなって。つってもよぉ、しょうがねぇだろ?究極能力(アルティメットスキル)に至っている連中も交えての鍛錬だ。生半な武器じゃ簡単に壊れちまう。分かるだろ?」

 

「壊すなら壊すなりに、もっと長持ちさせろと言っているのだ。貴様らが乱雑に扱うばかりに、毎度毎度作り直さなければならん。こちらでも様々な試みをしているのだ。あまり手を煩わせるな」

 

「分かった分かった。できる限り、気を付けるからよ。勘弁してくれや」

 

「お前のその言がどれほど説得力を持つのかは知らんが、要請されれば応えるしかないだろうが」

 

 軽快に語り掛けるのが『戦火之星神(アレス)』ヴァン・ルシウス。それに対して仏頂面で答えているのが『錬鉄之星神(ヘファイストス)』シリウス・ゴードン。ヴァンは国内戦力の教導を役目としており、シリウスは国内の戦士の武器の製作を一手に担っている。

 

「『農耕之星神(デメテル)』は今日は休みなのか?」

 

「ええ。なんでも、今日は大規模な拡大作業があるので手が離せないと。この会議の内容は後程、私がお伝えする事になっています」

 

「ふむ……まぁ、責めはしまい。この島の拡大作業は彼女以外にはできない事だからな」

 

 そんな会話をしているのは『冥府之星神(ハデス)』オルヴァン・ギースと『生死之星神(ペルセポネ)』クラリス・ジェーンである。共に司法を司る両翼であり、基本的に大犯罪を犯した者たちが相手である。場合によっては、それ以外の裁判も行うが、それは現代日本における最高裁判と同等の価値を持っている。

 

 残るは『農耕之星神(デメテル)』アリスタリア・ブリュン。国内の農耕・牧畜を管理している存在であり、地殻変動によって島国となってしまったセリオンの領域拡大作業を行っている。セリオンの食糧事情諸々を支えているのは彼女であると言っても相違ない。

 

 この面子に『伝令之星神(ヘルメス)』であるユリア・スターシアを加えた面子が、人魔統合国家セリオンを支える十二名――――通称『十二星神(オリュンポス)』である。各々が究極能力(アルティメットスキル)を持ち、同時にヴェルディアスから星の加護を受けている。

 星の加護自体は、セリオンに住まう者であれば誰でも持っている。住民の八割がたはこの加護を持っていることで、病気とは無縁の身体になっている。しかし、戦闘でも使えるほどの領域で使える者は数少なく、それが何であるかを理解しているのはミュリア以外には存在しない。

 

「はい、静かにしてください。それでは定例議会を開始します。各々、手元にある資料を確認してください」

 

「ふぅん……裏組織の被害が拡大傾向、か。あいつら、俺に黙って勝手してんなぁ。ひっ捕らえさせた方がいいかい?月輪之星神(アルテミス)

 

「正直、そうしていただいた方が助かりますね。酩酊之星神(ディオニュソス)直属の組織は分を弁えていますが、そうではない者の増長具合が酷い。ここで一つ、締めた方がいいかもしれませんね」

 

「了解。そいつらともう一つ二つ、潰してもいい奴らを見繕っておこう。お前さんも何かしら見繕った方がいいんじゃないかい?愛欲之星神(アプロディーテ)

 

「馬鹿言わないで。私のところはあなたのところみたいに、制御できてない訳じゃないの。私の指示には従う良い子たちばかりよ?うちは」

 

「うるせぇな。こっちは構成メンバー多いんだよ。いちいち管理なんてしてられるか。こういう機会でもなきゃ引き締めなんかしないんだからな」

 

「あなたが餌と鞭の使い方が下手なだけでしょう?まぁ、被害に遭った子の中で希望した子はこっちで引き取ってあげる。残りは任せるわよ?陽光之星神(アポロン)

 

「了解、了解です。こっちでも出来る限り支援してみるさ。って言っても、市井の子が多いみたいだし、農耕之星神(デメテル)任せになるんじゃないかな。これは」

 

「それだったら幾分かはこっちで引き取るよ。養殖部門の人手がもうちょっと欲しかったところなんだ。ついでに餌になってもいい奴がいるなら、こっちにくれよ。最近は海賊どもが鳴りを潜めたせいで、うちのペットたちが腹すかしてるからさ」

 

海洋之星神(ポセイドン)、お前のところのペットには悪いが中々そういう話にはならんぜ?俺たちはあくまでも治安維持と犯罪者の更生が目的なんであって、殺していい訳じゃないんだぜ?」

 

「死んだって構わない連中なんだろ?だったら、その命でもってこの国を守る者の力になってもらった方がいいと……俺は思うんだけどな」

 

 あくまでも人の厚生を目的とするのが警備隊だ。それを率いる月輪之星神(アルテミス)陽光之星神(アポロン)としては、たとえ犯罪者相手だとしても命を順守する必要がある。しかし、海洋之星神(ポセイドン)としては犯罪者など海の藻屑にする相手でしかない。

 その立ち位置が故に、このペアと海洋之星神(ポセイドン)はよく対立する。海洋之星神(ポセイドン)のペットである海竜王(シー・サーペント)の餌となる程度しか価値のない犯罪者など、生かしておく価値を見出せないのだ。

 

「まぁ、事実として海洋之星神(ポセイドン)のペットたちの力は馬鹿にできたものではないな。そちらの獲物はこちらの重犯罪者をあてがおう。確か、終身刑を受けた犯罪者がいた筈だ。今回はそれで納得してくれ」

 

「こっちはどんな形でもいいさ。あいつらの腹を満たせるものならな。ただ、どうせ反省もしない犯罪者どもを態々生かしておく意味も分かんねぇけどな」

 

「そう言うな。犯罪者とはいえ、労働力には使える。使える者は使うべき、という理屈はお前でも分かるだろう」

 

「そりゃあ、分かるけどさぁ……」

 

「まぁまぁ、その辺りで。これ、うちの料理長が作った新作のクッキーなんですけど、海洋之星神(ポセイドン)も如何?」

 

「……なんか、子ども扱いしてないか?貰うけどさ」

 

 生死之星神(ペルセポネ)が差し出した皿に載せられたクッキーを口にしながら、外を見つめていた。言外にこれ以上は口を出さないという意思表示であり、この会議での定例パターンだった。その、この中で最も年若い星神の姿に全員が微笑を浮かべていた。

 

「さて、この件はここまで。次の議題は――――」

 

 そこから様々な議題を話し合い、決定していく。そんな中で最後に話された議題が、テンペストとの国交の話だった。テンペストという国家の名前を始めて聞いた星神達の多くはその名前に首を傾げていた。そんな星神達の中で、唯一の例外が海洋之星神(ポセイドン)だった。

 

「聞いたことあるな。確か、魔物が作った人との共存を目的にしている国だとか。うちに来てる商人も何人かは店を開こうと思ってるとか言ってたな」

 

「へぇ?態々、人と共存しようなんて魔物がいるのか?それは珍しい事だな」

 

 弱肉強食こそ魔物たちのルール。殺されないために魔王の庇護に入ろうと考える者はいても、弱者である人間と積極的に仲良くしようと考える者は少ない。中にはいるかもしれないが、それをなすための力を持つほどの魔物などそうざらにはいない。彼らの知る限り、魔王ルミナスぐらいだろう。

 

「それで?なんで、我らが智慧之星神(アテナ)はこの国との国交を願うんだ?確かに、この文を読む限りは利益があるんだろうさ。でも、無理に国交を作りたいと願うほどの利益がこの国にあるのかね?」

 

 セリオンは西側諸国だけでなく、東側の帝国とも貿易を行っている。数多の究極能力(アルティメットスキル)保持者を抱える帝国であっても、戦う事を良しとしないぐらいにはセリオンの戦力は極まっている。それほどまでの実力者を抱える国でありながら、その領域はさらに拡張されている。

 彼らこそ、広大なる天空の宙から星々の権能を賜った者たち。その領域は、まさしく神々の手の及ぶ規模であり、多くの者たちが追随する事の叶わない場所。天空の王者によって据えられた、人類種における絶対王者なのだ。

 

「ええ。彼らの台頭で今まで停滞を続けていたと言ってもいい西側は大きく流れを変えるでしょう。その流れはまさしく世界を変えると言っても相違ないでしょう」

 

「だから?世界が変わろうが何しようが、俺たちには結局どうでも良い話だ。別にこの国で完結している訳じゃないが、西側諸国や帝国がどうなろうがどうでも良い。ルドラとギィのゲームをやるから侵攻などはしないようにというヴェルディアス様の言葉に従っているだけだ。そうだろう?」

 

「確かに。私としては西側諸国も帝国も呑み込んでしまいたいところですね。くだらない争いの多い事、この上ない。しかし、ヴェルディアス様の言葉がある以上は従う他ない。関わり合いを持っても意味がないでしょうに」

 

「それを言ってもしょうがないだろう。まぁ、俺としては投げられる奴に投げるだけだから、どうでもいいけどな」

 

「そうかしら?私としては興味あるけどね。魔物と人の価値観の違いに悩まされている人たちを私は愛してあげたいけど」

 

「どうでもいい。どうせ俺のやる事は変わらないし」

 

「俺もそうだな。欠片も気にならんよ」

 

「俺はちょっとだけ興味あるけどな。その魔物の強さだけだけどな」

 

「我としてもどちらでも構わん。魔物の国には興味あるが、関わり合いを持つほどではない」

 

「私も智慧之星神(アテナ)にお任せします。私と冥府之星神(ハデス)は法を統べる両翼。国外の事に関しましては智慧之星神(アテナ)にお任せした方が良策でしょう」

 

 ほぼ全員が無関心。興味があると言っている二人も国交に関しては興味がない。当然だろう。彼らは国家の中核にある者でありながら、国家を大きくすることに関しては関心がない。どれだけ多くの国土、繁栄を受けていようと、彼らからすれば一瞬で一掃できるものでしかない。

 一人いるだけで国家群など容易に崩壊させられるだけの力を持っているのが、この場に集まる面子だ。魔物が作った国という珍しさはあっても、それだけで関心を引けるほど容易くはない。

 

「かの地には既に伝令之星神(ヘルメス)を向かわせています。彼女の報告ですが、彼の国の王は覚醒魔王へと至ったそうです」

 

「へぇ……珍しいな。覚醒級というとレオン以来かな?フレイもカリオンもクレイマンも、魔王種に至っているだけだからな」

 

「新たな魔王の確立。そして、これは伝令之星神(ヘルメス)の推測でしかありませんが、その魔王はおそらく転生者だろう、とのことです」

 

「転生者?転移者ではなくて?」

 

「ええ。魔物、しかもスライムの身の上で人間らしい生き方を追求しつつ、この世界とは全く異なる世界を構築しようとしている。これがどういう意味か、あなたは分かるでしょう?愛欲之星神(アプロディーテ)

 

「……なるほど。言いたい事は分かったよ。でも、なんでそこまでその国にこだわるんだ?確かに、その経歴となしてきた功績は認めるさ。だけど、そこまであんたがこだわる意味が分からないんだが」

 

伝令之星神(ヘルメス)は言いました。この国との国交を結んだ方がいいと。この国、そして件の転生者はヴェルドラ様を従え、尚且つヴェルディアス様が注目している存在なのだと」

 

「ヴェルディアス様が注目されている、というのは初耳ですが……その理屈で国交を結ぶことはヴェルディアス様から忠告されていた筈では?」

 

十二星神(オリュンポス)の一人が直々に申し出てきたのなら、忠告には触れないでしょう。それより、多くの情報に触れる伝令之星神(ヘルメス)が直感で国交が結んだ方がいいと判断した。ならば、その直感を信じるべきだと私は考えます」

 

伝令之星神(ヘルメス)が……」

 

 情報を一括で管理するのが伝令之星神(ヘルメス)の役割。扱っているその情報量は智慧之星神(アテナ)を凌駕しうるほどに膨大だ。だからこそ、その情報の総てを取り扱っている伝令之星神(ヘルメス)の直感は大いに信頼できる。

 

「さらに言えば、アリーシャ殿と連絡を取ったところ、彼らも我らと同じく加護を受けたそうです。我ら、十二星神(オリュンポス)に連なる加護を」

 

「それは……!」

 

 長きに渡り、今この場に集う十二星神(オリュンポス)以外には与えられなかった宙の加護。遥か彼方にて輝く星々の力を掴みうる可能性を受けた者。それはまさしく、この場に集う者たちに準ずる者たちであることの証明に他ならない。

 

「――――まったく、智慧之星神(アテナ)も人が悪い。そのような重要な情報を、今までずっと黙っていたのだから」

 

「確かに。そういう事であれば、その提案に乗る事に否やはない」

 

「そうですね。それならば、私もその提案に賛同しましょう」

 

「まっ、元々拒否はしてなかったし構わないぜ」

 

 他にも賛同の声が上がっていく。ヴェルディアスの加護を受けた、自分たちの同胞となりうる存在を彼らは歓迎する。神の座位に至る者だからこそ、それに続かんとする者たちの存在を歓迎する。そこに至るという事は、即ちヴェルディアスの願いにそぐう存在であるからだ。

 ヴェルディアスの願いを知らずとも。願われているのならば、それに応えたい。それはヴェルディアスに命を救われ、加護を授かった瞬間から思い続けている事だった。総ては尊き我らが天帝のために。この国はそのために存在しているのだから。

 

「――――では、テンペストとの国交を樹立する方向で動きます。問題ありませんね?」

 

『異議なし』

 

「それでは、これにて定例議会を終了します。各々方、今回決定した件を基に行動してください。それでは、解散」

 

 その言葉と共に、全員が動き始める。それは智慧之星神(アテナ)も同じであり、移動しながら燦燦と輝く太陽と広がり続ける青空を見上げる。その空のはるか先にいるであろう彼女が仰ぐ主のことを想う。

 

「ヴェルディアス様……いずれ、あなたの戦場に馳せ参じましょう。あなたのお役に立つことこそ、拾っていただいたあの時から変わらぬ私の願いなのですから」

 

 その言葉と共に歩を進める。彼女の、そして同じく十二星神(オリュンポス)に集う者たちのため、止まっている暇などないのだから。

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