気づいたら竜種に転生していた件   作:シュトレンベルク

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使者よりの伝言

 竜種とは世界そのものである。というのは、ヴェルディアスの持論である。各々がそれぞれに固有の性質を持っていて、それ故に違うように見えるだけで本質的には変わらない。この世界に存在する現存の竜種で違うのはヴェルドラだけだ。ヴェルディアスはそう考えている。

 

 例えば、ヴェルディアスが司る物は大地であり生命そのものだ。大地、すなわち流転を司っている。どれだけの変容を遂げようとも、世界は世界として存在し続ける。どれだけその表面が堅固なものに見えても、何かが変わり続けている。どれだけ不動に見えるものがあるとしても、実際にはどこか変化しているものだ。唯一、変わらない核としての部分以外は移り行くものなのだ。

 そして、それは生命もまた同じこと。命の形がどれだけ変わったとしても、その根底にある物は変わらない。そう、どこまでも果てしなく生き続けていたい(・・・・・・・・)という欲求だ。限界がある事を知っているからこそ、命はその限界を棄却したいと願う。手段さえあれば、己の願いのために世界を歪めることも厭わないだろう。

 

 逆に言えば、その限界を持たない命は世界を歪めることなどどうでもいいのだ。何故なら、そんな力は力を求め続ければ、その過程で勝手に手に入っているからだ。そもそも、いわゆる不死の生命にとって、他者という存在は突き詰めればどうでもいい存在でしかないのだ。

 変化を希求し続ける者。はたまた主から命じられた平穏を求め続ける者。様々な存在がこの世界には存在していた。その多くをヴェルディアスは見てきた。ただ何かを求め続けているだけの、不死性の有無を問わず変わらない命。その頂点に立つ者こそが、ヴェルディアスなのだ。

 

 だからこそ、この世界に生まれた命はヴェルディアスに勝利することはできない。何故なら、ヴェルディアスこそが何かを希求し続ける存在の極地に立つ存在である以上、その変化にどんな存在も追いつけないのだから。誰もがそれを本能的に察しているからこそ、ヴェルディアスと戦うという道を選ばないのだ。

 

「それで、そんな怖いお兄さんがここに来ると?」

 

 八星魔王が一柱《新星(ニュービー)》リムル・テンペストは目の前に立つ女性にそう言った。彼女こそ人魔統合国家セリオンが誇る『十二星神(オリュンポス)』が一柱、《伝令之星神(ヘルメス)》ユリア・イーリアスだ。ヴェルディアスやアリーシャといった例外を除き、『十二星神(オリュンポス)』しか顔を知らない彼女が顔を晒しているのは敬意の意味があった。

 

「お言葉ですが、リムル王。ヴェルディアス様はあなた方に敵意を示しておられる訳ではないのです。寧ろ、弟御であらせられるヴェルドラ様を保護していただいた恩に報いたいとすら仰っていました。今回の参加の件は、その一歩でしょう」

 

「……どういう意味だよ?」

 

「我らが主たる大地竜の名は途轍もなく強大なものです。いえ、そもそも竜種と呼ばれる存在はこの世界に生きる生物の中では規格外な存在であると呼称せざるを得ません。それはあなたも重々、ご承知のはず」

 

「……それで?」

 

「我が国――――セリオンもその強大な御力の恩恵を賜っている国です。あの国は強大なる加護を与えられた土地であり、それを害しようとすることはヴェルディアス様に対する宣戦布告に等しい。無論、我らに挑むような愚か者は我ら自身の手で根絶やしにしていますが。ともあれ、分かるでしょう?かの御方と仲を深める意義が」

 

「いいたいことは分かるよ。でも、それをしてもらえるほど、俺は大したことなんてしてないよ」

 

「あなたにとってはそうでも、ヴェルディアス様にとっては弟御の命を救ってもらった。あまつさえ、暴走させずに一定の安全を保っていらっしゃる。そんな事はこれまで一度として出来なかったことなのです」

 

「ああ~……ヴェルドラのことは何とも言えないな」

 

「……まぁ、そういう事です。ヴェルディアス様としては、ヴェルドラ様と友好的な仲であるリムル王と面識を深めておきたいという事になります」

 

「そうか……そのヴェルディアスさん?が俺たちに敵対しない保証はあるのか?」

 

 リムルのその言葉にユリアは苦笑を浮かべる。リムルの言葉があまりにも見当違いだったためだ。しかし、そのリムルを嘲っているかのような笑みはリムルの癪に障った。文句を言おうとした瞬間、リムルの有する究極(アルティメット)スキル『智慧之王(ラファエル)』が待ったをかけた。

 

「リムル王、敵対するという行為はある程度実力或いは戦力の匹敵する間柄で使う言葉です。ヴェルディアス様単体ですら、この国を蹂躙するだけの御力があるのです。それに加えて六星竜王やその下に仕える臣下たち、場合によっては我らセリオンの戦力――――戦いにすらならないでしょう」

 

 それだけ戦力が集まれば、魔王ごと帝国とも争えるだろう戦力。字面にしているだけで酷いとしか言いようのない総戦力図だ。もちろん、ヴェルディアス自身が参陣を許すことはないだろうが、言葉にしておくだけでも十分な圧力になる。そもそも、争いにはならないのだが。

 

「そんなに言うのかよ?」

 

「それはそうでしょうとも。考えてみていただきたい。あなたがこの町の王、そうですね……ジュラの大森林の盟主になった頃のあなたとヴェルドラ様が争った場合、勝てると思いますか?搦手抜きの純粋な力量勝負で、ですよ?」

 

「そりゃあ、無理だろ」

 

「でしょう?これはそういうお話です。ヴェルディアス様もそういう戦いの話は一切考えておられないでしょう。先ほどもお伝えした通り、ヴェルディアス様と戦いになる存在などこの世界には存在しないのですから」

 

「だったら、あいつにも勝てるのか?あの、ギィ・クリムゾンに」

 

「ギィに?ふふっ……それはギィが最も望んでいる事でしょう。帝国の勇者ルドラ・ウル・ナスカに勝つこと以上に、あの魔王はヴェルディアス様に勝利することを願っているのですよ」

 

 ユリアは話でしか聞いた事のない、何千何万年も前に行われた最強の魔王ギィ・クリムゾンと最強の竜種ヴェルディアスの戦い。それは遠目にしか見る事の出来なかったミュリアをして、神話の戦いとしか表現することのできない代物だったそうだ。

 この世に生きる総ての生物の頂点に立つ存在でありながらも、仲のいい隣人のようにふるまうその姿からは一切想像できない。圧倒的で、絶望的な光景だった。事実として、ミュリアの家つまりセリオン家の古参である面子はその恐怖でヴェルディアスを信仰しているとも言えるそうだ。

 

「ですから、リムル王は心配なさらず。ヴェルディアス様はあくまでも、感謝の意を込めて会いたいと考えておられるだけなのですから――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、言ってたんだけどなぁ……」

 

 そう言いながら、リムルの見上げた先には巨大な建造物が浮かんでいた。それはヴェルディアスの有する天空都市アトランティスだった。それが何であるのか分からない者たちが大多数を占める中、偶然訪れていたとある人物からそれがヴェルディアスの住居であることを知った。

 

「ヴェルディアス様の住居を外側から見たのはこれが初めてですが、やはり荘厳ですね。よくあれだけの物体を飛ばすことが出来る物です」

 

「いや、すいませんね。歓談の途中だったのに切り上げてしまって」

 

「気にする必要はありませんよ、リムル王。自国の難事が起こりうるかもしれない現状で、他人に配慮する方がおかしい。国に、そして民に真摯に向かっておられるその有り様は、まさしく王として正しいのですから」

 

「そう言ってもらえるとこっちも気が楽ですよ。ミュリア殿」

 

 リムルは隣に立つ女性に目を向ける。その人物こそ、人魔統合国家セリオンの代表である『智慧之星神(アテナ)』ミュリア・アル・ネリ・セリオンだった。ちなみに、偶然顔を合わせたドワーフ王は途轍もなく驚いていた。

 

「ちなみに、リムル王。アレがどうやって浮かんでいるのか、分かりますか?」

 

「アレがどうやって浮かんでいるのか?それは……」

 

『アトランティスは自身から発せられている膨大な魔素を不可視化させながら、それを超高速で循環させることで浮力を獲得しています。マスターが空中を浮遊する際に体内で行っている物をあの規模で行っています』

 

「(ハァッ!?そんな事出来るのか?物理的に!)」

 

『不可能ではありません。しかし、それを行うには精緻なまでの魔素の制御技術と重力などの様々な物理現象を適度に維持する必要があります。ここまで移動してきたことも考えれば、それ以上に様々な要素が考えられます』

 

「……リムル王?」

 

「あ、えっと……ヴェルディアスさんの膨大な魔素を使って、ですかね?」

 

「おおよそ、正解です。アレはヴェルディアス様の有する魔素を『循環』させる事で成り立っているのですよ……来ましたね」

 

『前方に微細な魔力反応を検知しました。何者かが転移してくるものと推測します』

 

 そして、目の前に転移してきたのは二人だった。青を基調とした中華服を身にまとった女性と赤を基調とした中華服を身にまとった男性が現れた。リムルの保有しているソレと比較しても遜色ないであろう魔素量を誇る二人に、リムルは戦闘態勢を取ろうとする。しかし、ミュリアが先に声をかけた。

 

「お久しぶりですね、ミズリ殿」

 

「あら、これはこれはセリオン公。顔を合わせるのは一体どのくらいぶりかしら?相変わらずそうで何より、と言ったところかしら?」

 

「あなたの方こそ、お変わりないようですね。それで、彼が最後の一人、いえ一柱かしら?」

 

「そういえば、あなたにはまだ紹介してなかったわね。挨拶なさいな、ホムラ。目の前に立っているのがセリオンの宗主であり、時刻の勇者と遜色ないほど長きにわたってヴェルディアス様に仕えているミュリア・アル・ネリ・セリオン公よ」

 

「あなたがセリオン公ですか。我が名はホムラ・ローグ。ヴェルディアス様より栄えある『炎星竜王』の位を戴いた者です。以後、お見知りおきを」

 

「初めまして、ローグ殿。私がミュリア・アル・ネリ・セリオン。セリオンで十二星神の一柱、『智慧之星神(アテナ)』の位を戴く者です。いずれ、我らが国を訪れてくださいな。その時は歓待させていただくわ。それより、本題は私ではないでしょう?」

 

「ああ、そうだったわね。あまりにも懐かしい顔を見たものだから、そっちを優先してしまったわ」

 

「相変わらず雑というか、適当というか……その気になるものがあった時にそちらを優先する癖は治らないのですか?」

 

「治らないわねぇ。治そうとも思わないけれど……それで、そちらが噂の最新の魔王さんかしら?」

 

 視線がリムルに集まる。魔王クラスと遜色ないほどの魔素(エネルギー)量を持つ竜王。その姿は以前に見たクロムと同じように感じられた。つまり、彼らは本来の魔素をヴェルディアスの手によって縛られている。縛られてコレなのか、縛りを自分で解いたのかは分からないが、前者の場合は問題だ。

 なにせ、縛られて尚、覚醒魔王であるリムルと同じくらいの魔素を感じさせているのだから。もし、縛りが解けてしまったらどれほどの力となるのか分からない。更に仮定の話だが、その力がこちらに向く可能性も決してゼロではないのだ。

 

「もしかしたら、名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれないけれど。私はミズリ、ミズリ・エル。かつては『水災(ウォーター・ディザスター)竜妃(ドラゴン・エンプレス)』。今はヴェルディアス様にお仕えする『水星(ウォーター・エレメンタル)竜妃(ドラゴン・エンプレス)』。以後、お見知りおきをリムル王」

 

「同じく、ヴェルディアス様にお仕えする『六星竜王』が一体、『炎星(フレイム・エレメンタル)竜王(ドラゴン・ロード)』ホムラ・ローグと申します。拝謁の名誉を賜り、感謝いたしますリムル王」

 

「あ、ああ、どうも。リムル・テンペストです。えっと、それでお二方はどういったご用件で?」

 

 思っていたよりは丁寧な自己紹介にリムルは驚かざるを得なかった。なにせ、かつてクロムが自己紹介をしたときはもっと高圧的なものだったからだ。それに比べれば、二人の自己紹介は多少の差こそあれ、ある程度はリムルに対する敬意が混ざっていた。

 

「はっ、今回は我らが王――――『大地竜』ヴェルディアス様からのお言葉を届けるために参りました」

 

「……聞こう」

 

「『上空の建造物に驚いている事だろう。こちらの来訪は聞いていただろうが、移動方法を伝えるのを忘れていてな。まずはその謝罪を。心配をせずとも、この建造物は俺自身とつながっているから離れたとしても落ちる事はないので安心してほしい。俺が死んだりすれば話は別だがな。

 さて、次の話だが、ヴェルドラの身柄を預かってもらって感謝している。あの暴れん坊が何度も転生を繰り返しても出来なかったことをなした。そのことに敬意を示そう。そのまま、ヴェルドラと仲良くしてやってくれ。分かっているかもしれんが、我が儘が多いからな。友達らしい友達などいないんだ。

 

 ようやく本題に入るが、確か夜になったら招いた主賓達をもてなす宴……パーティーと言った方が良いか?そのパーティーに俺も出席しようと思う。理由としては俺が君と仲がいいというのを対外に示すためだ。俺と仲がいいと分かれば、余計な手間をかける者も減るだろうしな。

 その場で、まだ知らないだろう残り二人の『六星竜王』を紹介しよう。これは俺の個人的な意思も入っているから、君の意見はあまり関係ないがな。ともかく、伝えたかったのはこちらの同行者だ。俺と俺の一番弟子、そして六星竜王。この八名で行かせてもらうから、そのつもりでいてくれ』――――伝言は以上です」

 

「そ、そうか……」

 

 急に先ほどまでとは全然違う話し方をするホムラにリムルはビビっていた。その話し方が本当にヴェルディアスからの物であったかは分からないが、似ていなければ横にいるミズリにどつかれていたように思った。それぐらいの視線をミズリはホムラに向けていた。

 

「今のはあんたの言葉じゃないでしょ?誰の真似よ、それ」

 

「姐さん、今のは確かにヴェルディアス様のお言葉ですよ……今、俺の体を仲介することで発せられた物ですけどね」

 

「……私たちとヴェルディアス様の間にあるラインを利用した、という事?でも、あれはただのエネルギーの通行路じゃないの?」

 

「俺にも詳しい事は分かりませんが、さっきのヴェルディアス様の伝言の部分だけ俺の表層意識を上書きした……みたいですね。なんで、伝言の内容は俺も分からないです」

 

「は?覚えてないの、あんた」

 

「覚えてないです。てっきり念話で伝言内容を伝えてこられるのかと思っていたので、驚きました」

 

 それは途轍もない高等技術だった。意識の上塗りを本人の意識がない間に行う。しかも、無意識状態である就寝状態とは違い、意識が覚醒している起床状態では難易度がはるかに違う。それを極々自然に行ってしまう。更に言えば、本人はこの場にいない状態で。

 やってる事が無茶苦茶だ。本来であれば念話で伝えればいいのに、態々意識の乗っ取りを行うなど無駄でしかない。しかし、リムルはヴェルディアスがどうしてこんなことをしたのかを理解していた。それは――――不安がるリムルに彼我の力量差を理解させるためだった。

 

 ヴェルディアスに敵対の意志はない。これは散々説明されたことだ。リムルもそう思おうとしているし、友好的な使者を立てている事からもそれは納得できる。しかし、戦いにならないかどうかまでは分かっていなかった。だからこそ、それを簡単に理解させる方法――――彼我の戦力差を形として見せたのだ。

 自分とつながるパスを経由して、自分の意志を他人の体で表出させる。それは世界中の誰にもできない技術だ。自我がない状態で意識を表出させるのは、リムルと『智慧之王(ラファエル)』の関係でもできる。だが、それはあくまでもリムルがスキルで繋がっているからだ。配下のパス繋がりだけでは使うことはできない。

 

 ヴェルディアスはそれを可能にした。それはつまり、ヴェルディアスの技能と理解の幅がリムルとは桁違いの領域にあるという意味である。総ての生物にとってのエネルギーである魔素。それに対する理解と、活用する術の保持。それは確かにこの世界における最強の呼び名に相応しい代物だった。

 

「ところでリムル王、質問があるのだけれどよろしいかしら?」

 

「あ、はい。なんでしょう?」

 

「リムル王の配下には蜥蜴人族(リザードマン)がいると記憶しているのだけど、今もいるのかしら?」

 

「確かにいますけど……どうするつもりなんですか?」

 

「どうするつもりって、それを訊いてどうすると言うの?私と敵対でもしてみる?」

 

「望んではいないけど、配下を害するっていうんならそうせざるを得ないよな」

 

 リムルの魔王覇気とミズリの竜妃覇気が衝突する。強大な魔素同士の衝突にリムルの幹部勢やミュリアの護衛役に連れていた戦士たちがどよめいていた。かたや新入りとはいえど存在していた魔王を滅ぼした魔王。かたや世界に大きな被害を齎した災厄の水竜。そんな強者同士がぶつかればどうなるか、想像に難くないだろう。

 

「ミズリ殿。そうやって揶揄うものではありませんよ」

 

「……つまらないわね、智慧之星神(アテナ)殿は。心配いらないわよ、リムル王。あくまでも様子を見に行くだけ。水辺に住まう竜の眷属は多くが私に端を発する者なの。この森の近辺に住まう者らは元々、私が加護を与えた者たちだしね」

 

「姐さん、加護なんて与えてたんですね……」

 

「あんた、私を何だと思ってるの?乞われれば私だって加護ぐらいあげるわよ。まぁ、今でも私を祀る祭壇なんかもあるみたいだしね。求められるのなら、それぐらいはね」

 

「……本当に害するつもりはないんだな?」

 

「害するつもりなら、あなたに許可を取ったりするわけないでしょう?黙って水を氾濫させて沈めるわよ。許可を取るなんて無駄の極みでしかないじゃない?」

 

「まぁ、様子を見に行くだけっていうんなら構わないけど。でも、彼らを害されれば俺だって黙っていられないからな。そこだけは覚えていてもらいたい」

 

「はいはい、心の隅に留めておくわ。それじゃあ、後で戻るから先に戻ってなさいなホムラ」

 

「了解しました。では、また後ほど。リムル王、失礼しました」

 

「お、おう……ヴェルディアス殿によろしく伝えてくれ」

 

「かしこまりました。それでは失礼いたします」

 

 その言葉と共にホムラは空間転移で姿を消し、ミズリはふらふらと街中に消えていった。その対極的なあり方にリムルは思わずポカンとしていた。そんなリムルの姿に、ミュリアは微笑を浮かべる。それを誰にも気づかれない内に消し、いつの間にか手に持っていた扇を配下に預けた。

 

「リムル王、会談の続きはまた後日としましょう。事情が変わった以上、あなた方が取られる対応が変わりましょう。特にヴェルディアス様、いえ竜種の方々には繊細な対応が必要ですからその対応に専念されるとよいでしょう」

 

「気を遣っていただき、ありがとうございます。会談の日程はまたこちらからご連絡させていただきます」

 

「お気になさらず。ヴェルディアス様は我らにとって神にも等しい御方。その歓待はできうる限り最大限の物にして戴きたい。パーティーを期待させていただきますよ、リムル王」

 

「……その期待に応えられるよう、全力を尽くさせてもらいますよ」

 

「期待していますね。それとリムル王。これは忠告にもならない事ですが」

 

「はい?」

 

 

「思考系スキルを使われるのなら、思考加速を忘れない方が良いですよ。傍目にはただ考えているようにしか見えませんが、同じようなスキルを持っている相手にはバレますから」

 

 

「っ!?」

 

「それと、その素直な表情も少し抑え気味の方が良いかと。政治に関わる者にはポーカーフェイスは必要ですからね。まぁ、その素直さが慕われる理由ならば、無理に抑える必要もないでしょうが」

 

 では、失礼。そう言いながら、ミュリアは待たせている馬車に乗り込んだ。リムルはその背を見ながら、人間ではないのに冷や汗を感じずにはいられなかった。ミュリアが何故、政治に関する事柄を一手に任されていて、尚且つその事に誰も文句を言わないのか。

 おそらく、リムルの『智慧之王(ラファエル)』と同系統の思考系究極(アルティメット)スキルを持っている。しかし、それだけではない。リムルのように露骨に相手を調べるのではなく、相手に悟らせずに相手のスキル攻勢を調べ上げる。それだけではないのだろうが、その一点だけで恐ろしい力量と言わざるを得ない。

 

「人魔統合国家セリオンの主柱か……恐ろしいな、本当に」

 

 リムルは空に存在するアトランティスを見上げながらそうぼやき、仕事に戻ったのだった。

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