言い訳じゃないんですが、リアルがバタバタしていて執筆が遅れてしまい申し訳ございません。
これからは他作品も含め、もっと頻繁に更新していきたいと思っていますので、何卒よろしくお願いします!
大地竜とその眷属たち、そして大地竜の直弟子たる勇者。この世界に大きな影響を与えうる者たちの出現に、その場にいた者たちは否応なく混乱を免れなかった。特にエルメシアの側近たちはその混乱が大きかっただろう。
自分たちの報じる王が大地竜と知己の仲であり、嫌がっていたセリオンの女帝と義姉妹関係にあったなど誰も知らなかった。本人としては特に話すタイミングもなかったので話さなかっただけなのだが。義姉の事は単純に話したくなかっただけだ。
「『
「いつ何時でもおいでください。我らの全力でもって歓待させていただく所存にございますれば」
「そこまで力を籠めずとも構わないさ。お前たちに迷惑をかけてしまう話だからな」
「ヴェルディアス様からのお話を迷惑だなどと感じる者はおりませんよ。我々はもとより、セリオンに住まう者たちは貴方様の御力になることを何よりも望んでいるのですから」
「ありがたいことだがな。お前たちの生き方を縛るようなことはしたくない、というのが俺の本音なんだ。お前たちの時間はお前たちのものだ。それをどう扱うのはお前たちの自由だが……俺のために浪費するなんてことはしてほしくはないんだ」
「ヴェルディアス様のために時間を使うほど有意義なことはございませんとも。恩義だけではなく、純粋に我らがお力になりたいと、そう思っているだけなのですから」
『
「これは我が国でもほんのわずかしか取れない魚だ。これを捌けるか?」
「これは……またなんとも見事な」
「出来るか出来ないかだけ答えろ。偉大なる竜へと捧げられる供物だ。分不相応な者に任せることはできないからな」
「ほう……儂では不足ですかな?」
「実力は認めよう。先ほどのスピアトロの寿司は見事な腕前だった。だが、貴き御方へ捧げられるほどかと言われれば首を傾げる他ない。だから貴様に問うているのだ。貴様は――――どちらだ?」
素直に腕前が足りぬと認められる賢者か。はたまた、それでもと挑むことのできる愚者か。『
「俺はこれでも神の名を冠す二つ名を持つ者だ。故、これは俺からの試練。受けるも受けないも好きにすればいい。その上で、どうする?」
「……受けさせていただきましょう。この身は一介の剣士なれど、リムル様から料理人としての役を任ぜられた身。ご期待に応えて見せましょう」
「そうか。ならば、一つ忠告をしよう。この魚はとある場所に毒袋があってな。その毒袋はとてつもなく繊細。刃の腹が触れるだけでも割れてしまう。この毒袋が割れれば、食える場所は一切なくなる。だが、割れていたとしても見た目は一切変わらない。お前にその急所が見切れるかな?」
からかうように言っているが、鬼人――――ハクロウは冷や汗をかいていた。彼にかかる緊張感を想えば、至極当然というべきだろう。しかし、『時刻の勇者』たるアリーシャがいる。毒化してしまったとしても、アリーシャが戻せば問題ない。
試練という名を呈しているだけで、実際はそんなに難題ではない。しかし、そのことを知りえないハクロウはとてつもない難題を押し付けられたことになる。ハクロウは目を閉じ、魚と向き合った。
最近会ったばかりの娘の視線、そして他の者たちから向けられる様々な感情。それら総てを双肩に背負いながらも、心を無にする。目を見開いた瞬間、握られていた包丁を振るう。
その速度は一般人からすれば目にも止まらぬほど早く、ヴェルディアスのような一部の者からすれば視認できる程度の速度だった。しかし、その包丁捌きは流麗。刀剣の扱いにおいては並ぶ者なきヴェルディアスをして、感嘆の息を漏らすほどだった。
大河を切り裂く一閃のようなそれは、確かに毒袋を傷つけずに解体することに成功した。そのことに安堵するのではなく、残心として息を吐いた。その美麗さに誰しもが言葉をなくす中、ヴェルディアスと獅童は最初に拍手を送った。
「――――素晴らしい。見事な腕前、感服した。同時に謝罪しよう。お前の持つ技をこのような見世物にしてしまったことをな」
「そうだな。確かに素晴らしい腕前だった。が、まぁ、それはそれとして寿司だったか。俺にも握ってもらえるかな?」
「はっ、喜んで」
「……うん、実に美味いな。先ほどの刃物の捌き具合にしても、料理人としての腕前にしても、実に素晴らしいな」
「大地竜様にそう言っていただけるとは、感激の至りでございます」
「名は?」
「はっ?」
「名は何と言う?と言ったんだ。お前は俺が名前を覚えるに足ると、そう思って聞いたんだが」
「…………………ハクロウと申します」
ハクロウは思考がフリーズしていた。栄えある竜種の中でも、いや、この世界に生きる総ての者たちの中でも最も強い存在、それこそがヴェルディアスだ。純粋な実力だけではなく、ヴェルディアスは世界の管理者でもある。
それ故に、ヴェルディアスには仕事が多い。その権能の及ぶ範囲で生きる者たちを守り、時に災禍をもたらす。それほどまでに圧倒的な存在なのだ。そんな存在から興味を示されることはおろか、名を聞かれるなど早々あることではない。
「ハクロウか。リムル王は良い臣下を持っているようだ。種族としての先はなけれども、その剣の冴えにはまだ先があるようだ。ゆめ、鍛錬を怠ることのなきようにな」
「ありがとうございます。リムル様に恥をかかせぬよう尽力させていただきます」
「うむ、頑張れ」
ハクロウ個人の潜在値はそこまで高くはない。ヴェルディアスの配下たちの中でも中堅にも届かない程度。しかし、そこから興味を抱かせるに至ったのは、これまで鍛錬によって積み上げられてきた剣の腕前だ。それほどまでに、先の一閃は美しかった。
あの剣戟だけで、中堅上位層に匹敵する腕前だった。しかも、まだ成長する可能性があることを考えれば、上位とぶつかり合えば更に力量を高められる可能性がある。ヴェルディアスは最高峰の剣士でもある以上、後進の剣士の成長を願うのは至極当然の事だった。
そうでなくとも、ヴェルディアスは星の守護者にして見守る者。この世界に住まう者たちの成長を心から祝う。たとえそれが世界に名を刻む者ではなくとも関係なく。だからこそ、そんなヴェルディアスに名前を覚えられることは大変な栄誉に当たる。
「他の者たちも是非、相伴に与ってくれ。素晴らしき腕前に敬意を表してな」
「そうですね。ハクロウ、俺にも握ってもらえるか?」
「はっ、リムル様。喜んで」
「リムル王。あなたは素晴らしい臣下をお持ちのようだな。見事、俺の試練もクリアしてのけた」
「これはどうも。まぁ、ハクロウは俺……私の剣の師ですし。これぐらいであればできるでしょうとも」
「ほう……?なるほど。流石はヴェルディアス様に目を掛けられるだけはある、ということか」
「……何か?」
「いえ、お気になさらず。どうせ大した問題でもない」
「『
「そう言うな、『
自国の防衛、そして貿易業の管理運営。海に携わる仕事こそが『
しかし、獅童の考えはそうではない。
「俺がこの席に着いて何年経ったと思ってる?目に着く奴に気を使って何が悪い?」
「そうだな……俺が加護を与えて今の領域に至ったのは二千年は前か?」
「二千……!?」
リムルはヴェルディアスの言葉に驚愕を隠せなかった。どう見ても、獅童の外見年齢は二十歳前後。二千年も生きていると感じさせるほどの気配はなかった。しかし、それは獅童がオーラも含めて威圧感に類するものを総て制御しているからだ。
【神々の名を賜りし者。其は長き時を生きる賢者にして、世界を守る守護者なり】
これは、人間の間に広まる昔話に綴られた一説。魔物による大暴走や、一定周期に発生する天使の大量発生による人民へ被害が及ぶ時。そのタイミングのみ、『
それだけ窮屈な想いをさせる代わりに、様々な特権が与えられていると言われればそれまでだが、そうして縛りつけなければならないほどには外界との戦力差が大きいのだ。それ故に、ヴェルディアスによって外界に影響を与える行為を禁じられた者たちでもある。
「俺が縛りつけなければ、お前たちももっと自由に生きられるとは思うが……俺はお前たちを討ちたいとは思わない。窮屈だとは思うし、すまないとも思っているがな」
「いえ、いいえ。ヴェルディアス様はお気になさらないでください。あなたに命を救われた。あなたに力を戴いた。あなたに居場所を戴いた。ならば、あなたのお言葉に従うのは当然の事です。そうでなくとも、我らは貴方の従者。主の言葉に従うのは当然です」
「……ありがとう。お前たちの献身にはいつも感謝が絶えないな。っと、リムル王。別に気にしないでくれ。俺もミュリアたちもこの国に生きる者を害しようとは思わん。対等な立場にある限り、俺たちは常に対等なのだからな」
「ありがとうございます。俺……いえ、私も、私の配下たちも、これから頑張っていこうと思います」
「ああ、それがいいな。君も君の配下たちも、実に才能にあふれている。君の中にあるソレが、君と共にあり続ける限り――――この国も安泰だろう」
「っ!?……あんた、一体どこまで知ってるんだ?」
「それは己の相方に聞いてみればいい。ただ、言えることがあるとするならば。俺と君はそう大した差があるわけではない、という事だな。それ以上は今は語るべきではない」
リムルの相方である
「まぁ、こんな話はこのような場には不要なものだ。気にせずに盛り上げてくれたまえ、リムル王。魔物と人の共存を謳う前代未聞の魔王よ。君のその在り様には、俺も興味を抱いているからな」
そう告げながら、ヴェルディアスはリムルたちの前から離れ、用意された席に向かった。リムルは息を吞みながら、その背をじっと見つめていた。そんなリムルを見ながら、『
ヴェルディアスからの興味と期待。それはセリオンに住まう者の多くが欲してやまないもの。それが得られるのなら、どれほどの歓喜だろうかと思ってしまうほどに。しかし、ミュリア自身も分かっている。ヴェルディアスは自分たちにもその感情を抱いてくれている事を。
ただ、言葉にすることがなくなっただけで。大いなる大地の王にして、天空を統べる竜種の頂点は今も尚、それらの感情を持ち続けていてくれる。己の加護を与えた者たちや名前を覚えた者たち。それら総てに興味を持ち、期待しているのだ。
それは分かっている。分かっているが、それでもその言葉を心待ちにしている。言わずとも真意を理解できても、やはり言葉にしてほしいと願う心理は拭えない。言えば言葉にしてくれるだろうが、そうさせてしまうことも心苦しいと思ってしまう。
だからこそ、その感情を心の中に仕舞い込む。誰にも悟らせず、誰にも察せさせない。ただ己だけの感情であり、晒してしまえばただの恥でしかないのだと思い込む――――誰もそうは言わないだろうに。己がそう思うからという理由で。
「はぁ……相変わらず、面倒くさい人よねぇ~……」
そんな義理の姉の姿に嘆息しつつも、エルメシアは手元のワインを呷る。そのまま宴は進み、同時に夜も更けていくのだった。