気づいたら竜種に転生していた件   作:シュトレンベルク

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智慧神の嘆願と片腕の心配

 開国祭当日、ヴェルディアスはアリーシャとミュリアと共に闘技場を訪れていた。そこでは二日目の武闘大会の本戦に参加するための予選が行われていた。その大半がヴェルディアスが観戦するまでもない程度の実力しかない。そんな物を見るぐらいなら、音楽鑑賞をしに行った方がマシだろうと思っていた。

 

「まぁ、そう言うな。今回は英雄戦士団から参加者がいるんだろう?見に行くのも悪くなかろう」

 

「ヴェルディアス様にご照覧いただけるのであれば、あの子も気合が入るというものでしょうが……どうせ明日の本戦には出てくるのですから、そこでもよろしかったと思いますが」

 

「お前も期待を寄せている子供なのだろう?だったら、俺も見ておくべきだろうさ。それだけの価値があると俺が判断したんだ。それに、目当てはその子供だけではないからな」

 

「はっ……ヴェルディアス様のお眼鏡にかなうような者があの場にいるという事ですか?」

 

「お眼鏡、という程じゃないさ。ただ一時期面倒を見ていた子でな。自分探しの旅に出るというので暫く別れていたんだが……こんな場所で会う事になるとはな」

 

 ヴェルディアスは懐かし気に眼下で繰り広げられる戦闘を見ていた。傍で控えているアリーシャとしては、目を引くのは三者。

 

 一人は槍を振るう青年。こちらはセリオンの英雄戦士団から派遣された戦士であり、未だ見習いの身の上でありながらも、才覚は戦士団の上位勢に匹敵しうると判断された期待の新人。その教育にはアリーシャも携わっており、アレクには及ばずともヴェルディアスに推薦できる戦士だ。

 

 もう一人は目元を覆う仮面をつけた少女。片手剣と小型盾を身に着けており、その戦いぶりは堅実の一言。危ない賭けには出ず、目の前の問題を一つずつ片付けている。あの娘も間違いなく本戦に出られるだろうと断言出来た。

 

 そして残る一人は――――

 

「【閃光の勇者】マサユキ……ですか」

 

「なんだ、アリーシャ。あの子供の事が気になるのか?」

 

「気にならないと言えば嘘になるでしょうとも。あの顔はまさしく」

 

「そうさな。だが、それ以上は公言するな。その先を口にするのは時期尚早というものだからな。彼に関しては接触せず、監視にとどめておけ」

 

「監視の必要はある、と?」

 

「監視は言い方が悪かったな。護衛、と言うべきだろう。来たるその日まで彼の護衛を用意しておくべきだろうな」

 

「具体的な期限はあるのですか?」

 

「ない。だが、必ずその時は来る。少なくとも彼が生きている間には間違いなく、な」

 

「……かしこまりました。こちらからも人員を派遣した方がよろしいですか?」

 

「……ミュリア。何度も言っているだろう?お前たちは俺の部下じゃない。加護や恩寵こそ与えたが、それは俺が勝手にやった事だ。お前たちが俺の方針に乗っかる必要はないんだぞ?」

 

「何を仰います。ヴェルディアス様のなしたる事。それ即ち、世界にとって必要な事なのでしょう。御身と同じく世界を守護する事を私たちは了承しています。それに関する事ならば、幾らでも力を尽くす。それが我らの役目でございます」

 

 我らは貴方の宙に集う星故に。ミュリアは告げる。『十二星神』はヴェルディアスの望みたる事をなすために集まった集団だ。救えというならば救うし、滅ぼせというなら滅ぼす。口にせずともその意思があるならば応える。世界の守護でさえもヴェルディアスの手を煩わせないためにやっているに過ぎないのだから。

 

「変わらんな、お前たちは。まぁ、いい。近いうちにセリオンを訪れる。『十二星神』(お前たち)に話しておきたい用向きがある故、日程の調整を頼めるか?」

 

「ヴェルディアス様の頼みとあらばいつでも動きはしますが……いえ、かしこまりました。いつなりと都合の良い日程をお知らせください。久方ぶりの御身のご帰還、全力で歓待させていただきます」

 

「要らんよ、そういうのは。厄介な頼みをするんだ。こちらがお前たちの願いを叶えてやるのも吝かではないぞ?ただし、俺の自由を縛るようなものは止めてくれよ?」

 

 口ではそう言うも、大抵の願いはかなえてやるつもりだった。王として据えようとするなら拒否していたが、ヴェルディアスにその意思がない以上はそれに逆らうようなことをしないことは分かっている。目の前のミュリアを始めとした『十二星神』の多くが善良である事を知っているが故に。

 

「では、ヴェルディアス様。一つ、願いたき儀がございます」

 

「ほう、珍しいな。なんだ?」

 

「では……私共に遠慮をするのは止めてください。私たちは決して恩義だけで御身の力になりたい、と思っている訳ではないのです。御身にこそ、私たちは……少なくとも私は忠を捧げたいと思っています。それは御身に恩寵を授かったからでは、決してないのです。

 王ではないと仰るなら、それでも良いのです。王であるかどうかというのは重要ではない。御身が御身であるというだけで、私には十二分。それ以上はどうでも良い事なのです。どうか御身の願うままに私をお使いください」

 

 ヴェルディアスにそのつもりがなくとも。ミュリアにとって頼られないというのは、頼りないと思われているに等しい。ヴェルディアスの力となるために生きてきた彼女にとって、それは耐えようもない拷問と等しい。それでも耐えてきたのだ。いつか、いつの日か、自分の力が必要になる時が来ると信じて待ち続けてきたのだ。

 

「……別に遠慮ではないよ。何事にも領分というものがある。かつて、お前の父が虐げられた同族たちを引き連れ、俺の庇護を求めた。俺はそれに応え、その代わりに続くお前や同族たちは俺が救い上げた者たちの庇護を約束してくれた。それを今日に至るまで続けてくれた。

 その時点で、お前たちは俺に対する義理を払ってくれているんだ。だから、俺に忠節を払う必要はない。俺のために何かをする必要はないんだ。だから、お前たちの事を俺の戦力ではないといったんだ。遠慮云々というのも同じことだ。頼るような間柄ではないから、頼ってこなかっただけなんだよ」

 

「では、『伝令之星神(ヘルメス)』の事はどう説明なさるのですか?」

 

「あの子にこの街の情報を集めてもらっていた事か?始まりはヴェルドラの消滅疑惑、次いで樹妖精(ドライアド)のトレイニーからの嘆願。その時点でこの街、というか魔王リムルの存在は知っていた。だが、俺の直属ではこの街に紛れ込むには合わなかった。理由は、分かるだろう?」

 

「『六星竜王』の方々を参考とするならば……実力に開きがありすぎるから、ですか?」

 

「その通り。今の俺の直属は魔物しかいない。人化形態で紛れ込むのは不可能ではない……が、諜報専門で育てているのは悪魔と天使のみ。どう足掻いても疑われる可能性が高い。特に、魔王リムルは軽々と名付けをするからな。竜種でもあるまいに。

 となれば、だ。気付かれた可能性は多分にあった。だが、こと諜報や変装能力において『伝令之星神(ヘルメス)』以上の存在を俺は知らない。だからこそ、力を貸してくれないかと頼んだんだ。お前たちの能力と俺の用向きの差だ。無論、断られていた場合はこちらで何とかしていたさ」

 

 タイミングと能力の方向性がかみ合わなかったが故のすれ違い。ヴェルディアス自身の考え方や矜持を聞かされ、ミュリアは一先ず納得した。無論、不満はある。ヴェルディアス様から依頼された、と言っていた時の『伝令之星神(ヘルメス)』の小憎たらしい顔を忘れた訳ではない。

 

「セリオンを訪れるのも、俺にとっては業腹な話をしなければならないからだ。本当はお前たちを巻き込みたくはない。ないのだが……知っているのといないのとでは対応に幅が生まれる。その上で場合には寄るだろうが、力を借りる場面も出てくるかもしれん。その時は手伝ってくれるか?」

 

「……!はい!我ら総力を結集し、ヴェルディアス様の御力となりましょう!」

 

「ああ。期待しているよ」

 

 ヴェルディアスはそう口にすると、立ち上がった。行われていた予選がほぼ終了し、他に見物していた者たちも去り始めていた。立ち上がったヴェルディアスはふと入口とは別方向に視線を向けた。そこには燕尾服にその身を包んだ男――――ディアブロがヴェルディアスの方を見ていた。

 視線に気付かれた事を察したディアブロは一礼した後にその場を立ち去った。更に視線を移すと、金の悪魔――――エレボスが跪いていた。その視線を受け、エレボスは口を開いた。

 

「釘を刺しておきましょうか?ヴェルディアス様」

 

「必要ないよ、エレボス。黒の目的は閃光の勇者を始めとした参加者の実力の確認だろう。マサユキ()自身は幾らか理知的なようだが、周りの人間は騒ぎ立てるだろう。彼はそういうユニークスキルの持ち主のようだからな」

 

「かしこまりました。では、そのように。この国に関する情報はこちらにまとめてあります故、後程ご確認ください」

 

「ふむ、バレなかったのか?」

 

「中枢の情報にまでは探りを入れておりません。組織の分布図や勢力図などをまとめてあります。他にも最新の情報をまとめております。最近で言いますとつい先日、迷宮妖精(ラビリンス)一行がこの国を訪れているそうです」

 

「ラミリスが?ふむ……ああ、あるな。ダンジョンが。しかし、この魔素量は……なるほど。道理で」

 

「追加で調査を執り行っていきます故、情報の詳細は少々お待ちください」

 

「構わん。急ぎはしないからな。それはそれとして、後程時間を作れ。お前の事を魔王リムルに紹介しておくからな」

 

「そのような必要がありましょうか?」

 

「誰であっても痛くもない腹を探られるというのは不快だろうさ。革新の中心地となりうるこの街の情報は集めておくに越した事はない。だが、それで不審に思われても面倒というものだろう?ところで、情報収集の命令はラーマが出したのか?」

 

「はっ、総代より賜った命令です。一度目を通された上でヴェルディアス様へ報告するように、との旨を受けております」

 

 ラーマはこの国がいつの日か、自分たちの脅威になりうると判断したのだ。原初がいるからではない。災厄級の魔物を多数保有しているからでもない。はたまた暴風竜がいるからでもない。魔王リムルが存在するからこそ、この国はいずれ自分たちを脅かしうる存在になりうると判断したのだ。

 ヴェルディアスにも比肩しうる未来予知。何も持たず、何も持てないが故に捨てられた幼子でしかなかったラーマがその領域にまで至ったことは純粋に喜ばしい。だが、一言ぐらいは欲しかったなと思いながら書類を確認していく。

 

「ふむ、魔王リムルの勢いを削ごうとする勢力アリ、か。グランベルは生きていたと見える。それ自体は喜ばしいが……恩を売っておくにはうってつけとラーマは思ったのかな?」

 

「いかがなさいましょう。宝物庫には必要となるであろうドワーフ王国産の金貨を出せば、十分に賄える範囲かと思われますが」

 

「不要だ。俺が手を出さずとも、エルメシアが手を出すだろう。それでも足りなければ出してやるのは吝かでもないが、どうにでもなる道があるのなら俺の協力は不要だろう」

 

 ラーマはリムルを脅威に思った。時間さえあればどんな脅威が立ち塞がろうとも、かの魔王は打破してのける。それは竜種とて例外ではないと思ったからこそ、リムルを警戒している。しかし、ヴェルディアスが友誼を望んでいる以上は排除する訳にはいかない。だからこそ、恩を売っておくことで敵対の可能性を減らそうとしている。

 しかし、その心配こそ無用の物だとヴェルディアスは断じる。確かに魔王リムルは強くなるだろう。この地上において、友たるギィやルドラを凌駕する存在にも成りうるだろう。だが、その程度でかの魔王がヴェルディアスに勝利しうるのか?――――否だ。その程度で凌駕されるほど、ヴェルディアスは甘くはない。

 

 純粋な竜種としての力であれば、確かに上回られる可能性はある。しかし、ヴェルディアスの力で特筆すべき力はソレではない。前世で鍛え上げた誰にも破られた事のない技量と回帰しつつある己の星の力。この世界に最適化されたソレではない原初の力を取り戻しつつある自分が、どれだけ成長しようともこの世界の理を凌駕できない存在に負ける道理はないのだ。

 

「余計な心配だ。あの魔王は自身の手でこの問題を解決するだろう。そもそも、頼みこまれた訳でもないのに恩を売るような行為は俺の主義に反する。いつかの脅威は今の警戒対象ではない。ラーマの心配を悪く言う訳ではないが、無用の心配だ」

 

「失礼いたしました。ヴェルディアス様であれば無用の心配であろうと私も思ったのですが、どうにも総代は私にも見えていない物が見えているようでしたので」

 

「いい。心配自体はありがたい事だ。しかし、そんな些細な事に気を配るぐらいなら、もっと他の事柄に目を向けてほしいと俺は思うんだよ。エレボス、エルピスと共にロッゾ一族を探れ。グランベルを始めとした五大老の連中が下手な事をしないように牽制しておくように。場合によっては俺の名を出しても構わん」

 

「はっ、かしこまりました。ですが、あの女を使う必要はないかと存じますが……」

 

「お前たちの仲が悪い事は理解しているが、相手はグランベルだ。いくら年老いたとはいえあのルドラの直弟子。相手にすれば、片方だけでは分が悪い可能性もある。俺はお前たちに必勝を誓わせたが、それは勝てばいいという意味ではない。やるならば徹底的にやる。それが俺の主義だ」

 

 反旗を翻すという行為を潰すなら、足掻く余地すらない程に徹底的にやる。自由を標榜するからこそ、それを阻みかねない存在の台頭は許さない。勝利とは敗北の可能性を完全に潰しきってから宣言する物であると考えているが故に。

 

「直接相対するというのなら何も言う事はないが、弟の親友を食い物にしようというのなら、それ相応の対応を取らなければならん。お前たちという両翼は俺の自慢の一つだ。汚れる事はまかりならん。それを心に刻んでおけ」

 

「総て御身の意思のままに――――我ら『金』の眷属、御身の願いに応えて見せましょう」

 

「よく言った。では、行け。祭りの間は魔王リムルたちも忙しいだろうし、その後に時間を作っておくように。先も言った通り、お前たちの事を紹介するからな」

 

「かしこまりましてございます。それでは、失礼いたします」

 

 エレボスが立ち去ると、傍に控えていたアリーシャが近づいてきた。その顔にはあからさまに「良いのか?」という表情を浮かべていた。ヴェルディアスが率先して下界の事情に首を突っ込まない事を信条にしている事を知っているが故の表情だった。

 

「必要な事だ。これから世界は大きく変わっていく。その変革には多くの者が巻き込まれるだろう。魔物人間を問わず、魔王や勇者も同じように。下界の情勢に首を突っ込まない事と、流れを読むために情報を集める事は決して反しない。情報がないと動きようがないからな」

 

「それは分かっていますが……ラーマ殿の動きは性急に過ぎるのでは?」

 

「アレはラーマの善意だ。いちいち罰しはしないさ。それにラーマの心配もあながち間違いじゃないと思っている。あのスライムはいずれヴェルグリンドやヴェルザードをも落とす可能性がある。未だ可能性の話でしかないが、俺はあり得ると思っているよ」

 

「……竜種が敗れると?」

 

「勝利する可能性はある。消滅させる事は出来んだろうがな。虚数空間に放り込まれようが、時間さえあれば復活できる。理不尽の権化こそが竜種の代名詞なのだからな」

 

「師匠でも敗れる可能性があると言うのですか?」

 

「なんだ、心配してくれるのか?」

 

「いえ、純粋な興味です。私の予想では師匠に勝てるような人外は現れないと思っていましたので」

 

「はははっ、言うじゃないか。まぁ、実際その通りだろうな。ヴェルグリンドやヴェルザードを相性によって潰すことが出来ても、俺を潰すというのは無理だろう。俺を潰したければ、純粋なパワーが必要になるからな」

 

 だからこそ、その純粋な力を持っていたヴェルダナーヴァという存在はヴェルディアスにとって貴重だった。戦えば消滅を覚悟しなければならない相手、というのは唯一ヴェルダナーヴァだけであったが故に。逆に言えば、それほどの間での力をリムルが身に着けられればあり得る話ではある。

 しかし、そのためには途方もない力と前提となる成長限界を破却する必要がある。今のままではそんな能力を得る必要はないだろうし、そんな状態になったとして易々と敗れるつもりはなかった。そもそも、それほどまでの力を得る前に滅ぼされる可能性の方が高いのだから。

 

「さぁ、こんな景気の悪い話をするより祭を楽しもうじゃないか。目新しい物が多いし、俺もいろんなものを見ておきたいしな」

 

「……かしこまりました。では、ご同行させていただきます」

 

「ミュリアはどうする?俺としては一緒でも構わんが、この後エルメシアと話すとか言っていなかったか?」

 

「はい。誠に申し訳ございません、ヴェルディアス様。あの子との話が終わりましたら合流させていただいても宜しいでしょうか?」

 

「構わんが、おそらく夜も更けてくる頃合いだろう。それよりは食事を共にしよう。昨日では積もる話を消化するには足りなかっただろうしな」

 

「ありがとうございます。では、また夕刻に」

 

 ミュリアが一礼をしてその場を離れると、ヴェルディアスはアリーシャを連れ立って祭を楽しんだ。その道中でヒナタが連れた子供たちに軽い加護を授けたり、【ギメイのたこ焼き屋】で買ったたこ焼きを堪能したりとそれなりに祭を楽しむのだった――――たこ焼き屋の店主は何か言われないか冷や汗を掻いていたが、余分な話なため割愛。

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