気づいたら竜種に転生していた件   作:シュトレンベルク

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闘技大会本戦Ⅱ

 闘技大会本戦第三試合アキレスVSゴブタ。第一試合と同じく人間対魔物という構図だったが、魔物側はゴブリンという事で第一試合ほど激しい戦いにはならないだろう、というのが一般人の考えだった。

 

「あの小僧は新米かしら?随分と緊張しているようだけれど」

 

「アキレスは英雄戦士団の中では後ろから数えた方が早いくらいには新人ですが、その戦闘力に関しては中堅くらいはありますよ。あの緊張も多くの衆人に見られている事ではなく、ヴェルディアス様に見て戴いているのが理由でしょう」

 

「ほう、俺にはまだ14,15の子供に見えるが、それでも中堅レベルはあるのか?それは将来有望だな」

 

「はい。今いる若手の中では有望株でしょう。少なくとも同レベルの相手ではほぼ敵なしです」

 

「ほぼ、という事は……」

 

「はい。アレク氏に挑んでは何度も叩き潰されています。ですが、その度に奮起しておりますので、他の団員たちからの評価はかなり高いです」

 

「何度も?その口ぶりだと、別にアレクのスキルが分かっていない訳ではないんだろう。それでも何度も挑戦しているというのか?」

 

「……そうです。戦火之星神(アレス)は面白がっていますが、個人的には有望株には潰れないでほしいので調整してほしいところなのですが……」

 

「それはそれは……確かに将来有望というべきだろうな。しかし、そうか。アレクには俺の武のほとんどを教えこんだ。人間という枠組みに絞ればほぼ上澄みであり、ギィと切磋琢磨していた頃のルドラとそう変わらん領域にあると思っているが……実に面白いな」

 

 ヴェルディアスはとても面白い物を見たと言わんばかりに笑っていた。ヴェルディアスのその様子にアリーシャは師の愉快そうな表情を久しぶりに見たと思った。これまでにも笑う事はあったが、これほど愉快な感情を露わにするほどではなかったのでその思いは一入だった。

 

「弟子として取られるのですか?」

 

「いや、その必要はないだろう。見たところ、俺に育てられるよりも周りの者たちと切磋琢磨した方が伸びそうだからな。俺が教えこんだとしても、方向性が違うアレクになるだけだろう。それもどう足掻いてもお前には勝てないタイプのな。それなら俺が手を出す意味もあるまい」

 

「それは残念ですね。しかし、アキレスにはヴェルディアス様の御言葉を伝えておきます。あの者もより鍛錬に励む事でしょうから」

 

「俺の言葉くらいで奮起するのならば良いだろう。まぁ、実際にどうなるかは分からんがな」

 

「……ヴェルディアス様はあのゴブリンにアキレスが負けるとお思いでいらっしゃるのですか?」

 

「さぁて、どうかな?強者が常に勝つとは限らないのが戦場だ。弱者のジャイアントキリングも往々にしてある物だ。どういう結果となるのかはこれからの戦いで教えてくれるだろうさ」

 

『それではこれより第三試合を開始します!両選手、前へどうぞ!』

 

 ヴェルディアスの言に納得がいかないミュリアではあったが、試合開始の合図に視線をフィールドへ向ける。そこには先ほどまで感じさせた強張った筋肉をほぐしており、急速に戦闘準備を整えていた。ある程度の準備を済ませると、手に持つ槍を掲げる。

 

「我らが神々よ、我が戦いを御照覧あれ!英雄戦士団の一員として恥じぬ戦いをここに誓おう!故に、ゴブタ!俺はお前を雑魚とは思わん!隠し札があるのならさっさと出す事をオススメするぞ!なにせ――――」

 

 アキレスとゴブタの間にあった距離が一瞬して埋まる。そして槍が振り下ろされ、回避行動をとったゴブタの薄皮一枚を削ぎ落す。回避までしたというのに薄皮一枚程度とはいえ攻撃された。その事実はリムルたちを驚かせた。

 

「俺は上位陣のごく一部を除いた戦士たちの中で俺が最速だ。隠し札を晒す前に倒れないでくれよ!」

 

 アキレスの姿が消え、風が巻き起こる。その様は【疾風】というよりも【暴風】という表現の方が正確といえた。その風に包み込まれたゴブタはなす術もなく攻撃を叩き込まれていく。何とか回避や反撃を行おうとするも、一切意味をなさずアキレスの強さを観客に見せつけていた。

 しかし、ヴェルディアスたちからすればアキレスの猛攻を紙一重で回避し続けるゴブタを評価していた。アキレスは決して手など抜いていない。発言通り、自身の本領を発揮している。目にも止まらぬ速度で動き続けるアキレスを捕捉するのはA級の冒険者にも難しい。しかし、それを捉えきれぬまでも倒されていないのはそれだけゴブタの力量が優れている事を証明していた。

 

「くっ、このままじゃやられちまうっす……来るッス!……へ?」

 

「っ!」

 

 ゴブタのかけ声と共にゴブタの足元の影からランガと呼ばれる黒嵐星狼(テンペスト・スターウルフ)が召喚された。A+ランクに相当する魔族の出現に距離を取るアキレスに対し、ゴブリンが召喚術を使った事にどよめく観衆。新たに現れた脅威に対し、アキレスは脱力し瞬時に最高速度で駆けだす。

 

 文字通り捕捉する事も難しい一撃をランガは気配で察知し、歯で受け止める。その威力に嚙んだだけでは止めきれず、最終的に喉にはぎりぎり届かない場所で止められた。それが出来なければ死んでいたのはこちらだったとランガは理解した。

 それに対し、アキレスも驚かずにはいられなかった。今の一撃はこれまで英雄戦士団の面々に凌がれた事はあれど、一歩も動かすことが出来ないなどという事は一度もなかった。それこそ、筆頭戦士長であるあの男(アレク)以外には――――

 

「舐めるなぁ!」

 

 槍から手を離し、剛拳というべき一撃が放たれる。流石にソレは拙いと思ったのか、ランガは風の防壁を展開しつつ距離を取る。(その際には槍を場外に投げ捨てる事も忘れていない)嵐と呼称しても遜色ないほどの防壁を突破する事は出来ず、同じく距離を取るアキレス。

 

「……まさか、あの一撃を無傷で凌がれるとはな。これほどの強者が外にいるとは中々どうして侮れないものだ。しかし、この俺も星神の恩寵賜りし英雄戦士団の一員!この程度の苦難、何するものぞ!」

 

「……えっ~、ランガさん何してるんすか?」

 

「気を抜くな、ゴブタ。目の前の御仁、中々の強者だ。気を抜けば即座に負けるぞ」

 

「人語を介する……貴様、黒狼族(ブラック・ファング)ではないな?いや、仔細などどうでもいい。得難き強敵の出会いを我が神々に感謝しよう。流石は四天王候補の一人、魔王リムル殿も鼻高々であられる事だろう。だが、この身もこの時ばかりは英雄戦士団の名を預かる戦士故に――――」

 

 アキレスの総身から膨大な魔素が溢れ出てくる。その背に人々は神々の姿を幻視し、その姿にリムルはヒナタにも負けず劣らずの力を感じた。その力が発露しようとした瞬間、何かに邪魔されて無理矢理アキレスの中に戻された。

 解放しようとしたソレを無理矢理戻される。そんな芸当が出来るのは、本当に一握りのみ。アキレスの視線がその方向に向けられる。何故、このような無体な事をされるのかと。主神たる方に勝利を献上したいと願うのは愚かな事なのかと、そう思いながら。

 

 しかし、アキレスのソレを抑え込んだのは思っていた相手ではなかった。どころか、その方よりも上位に立つ存在であった。勝利を捧げようとした方に勝利の術を奪われたアキレスは愕然とせざるを得なかった。その方――――ヴェルディアスは視線で告げていた。

 

――――ソレを用いる事は許さない、と。

 

 その意思に対して、思うところはある。しかし、ソレに反対の意を示すという事は英雄戦士団にとって最大の禁忌。それ故に黙らざるを得ず、アキレスは万感の思いを吐き出すように重い重い息を吐き出す。その上で両手を上げて降伏の意を示す。アレを封じられては、目の前の強者を打破する術がアキレスにはないからだ。

 

「降参だ。これ以上は続けても不毛なだけだろう」

 

『……け、決着~!この勝負、ゴブタ選手の勝利~!』

 

 審判の言葉に勝敗が決された。しかし、先ほどの力を使えば勝負は分からなかったのではないか、と誰もが思わずにはおれず、それ故に誰もが声を挙げる事がかなわなかった。そんな中、ヴェルディアスは立ち上がり両者の戦いを褒め称える。

 

「この一戦、見事なり!両者共に存分に武を振るった事だろう。まずはその健闘を称えよう!

ゴブタ、魔王リムルの幹部に名を連ねんとする汝、まずはその勝利を寿ごう。その召喚獣も含めて、見事なり。以後も研鑽を怠ることなく、魔王リムルのために力を尽くすがいい」

 

「はっ……はいッス!」

 

「うむ。次にアキレス」

 

「はっ!大変申し訳ございません、主上!御身に勝利を捧げる事が私には敵いませんでした」

 

「何を言う。この場における勝敗にたいした意味はない。お前にとって重要なのは、これからの課題を得ることが出来た事だろう。その上で、貴様の武威確かに見届けた。その上で告げる――――見事なり、と。貴様もまた俺が恩恵を授けし眷属の槍の一つである事実を、俺は誇りに思おう。これからもその忠道を損なう事なく研鑽に励め」

 

「――――ッ!はっ、寛大なるお言葉に感謝を!」

 

「さぁ、忠義厚き二人の戦士に喝采を送ろう!」

 

 ヴェルディアスの言葉にミュリアと他の英雄戦士団の戦士たち、そしてアリーシャと六星竜王の面々を皮切りに他の観客たちが拍手を送る。その姿を見ると満足そうにヴェルディアスは席に着く。そんなヴェルディアスに対し、ミュリアは頭を下げる。

 

「ありがとうございます、ヴェルディアス様。アキレスの心情を汲んで戴き感謝の念が堪えません」

 

「不要な感謝だ。俺の意思によって、あの力を封じたのだ。であれば、その者に気遣いをするのは至極当然な事だ。だが、あの力を使う事は許すわけにはいかない。それは、卑怯という物だからな」

 

「卑怯、ですか?」

 

「星神の加護、つまり俺が与えた恩恵は俺にしか与えられず万民が得られないものだ。誰もが得ることの出来る可能性を持つスキルとは違う。俺と近しき者しか得られず与えられない。そんな物で圧倒する事を俺が許す訳もないだろう」

 

「頭が固いというか何というか……まぁ、それが師匠のご意向であると言うのなら、それ以上言うべきことは私にはないですが」

 

「そうねぇ……でも、私は見てみたかったわね。人間のみが宿すことが出来る遥か高き大いなる宙、そこから齎される加護の断片を。私たちが賜った恩寵の原型であるソレ、私は気になるわ」

 

 そう呟くように言うミズリは唇を湿らせるように舌で撫でる。戦意を露わにするミズリに対し、その場にいる戦士たちは武器に手をかける。一触即発の空気が流れるその場を二つの気が塗りつぶす。ミュリアとラーマである。ヴェルディアス配下の中でも上澄みに位置する両者の気はぶつかり合うことなく、同調し空間を支配する。

 その事実にミュリアは眼を見開き、ラーマはミズリを睨む。さしものミズリもラーマに睨まれたとあってはどうしようもない。肩をすくめた。ミズリの反応に戦士たちも戦意を解く。そんな戦士たちとミュリアに頭を下げるラーマ。

 

「ミズリはどうも辛抱が効かない性格をしておりまして、皆さまには多大なご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ございません」

 

「いえ、謝らないでくださいラーマ殿。ミズリ殿の気まぐれな性格は重々承知しております。それに、気になる物は気になると率直に言ってくださる分、こちらとしても対応しやすい。出来る事と出来ぬ事はございますが、その時々で対応させていただきますよ」

 

「……誠に申し訳ございません。せめて何かしらの損害が発生した際にはお知らせください。金銭はもとより何かしらの形で還元させていただきたく存じ上げます」

 

「お気になさらずともいいのですが……いえ、何かありましたらその際はご連絡させていただきます。ラーマ殿も何か物外利用の際はお声がけください。こちらでも力を尽くして対応させていただきますので」

 

「ありがとうございます。寛大なるご配慮に感謝いたします」

 

 ラーマとミュリアの関係が良好な物になる一方で、ミズリは不貞腐れていた。気になる物を気になるといっただけでこのような対応をされる事に、実に不満げな表情を浮かべていた。

 

「……この対応はひどくないかしら?」

 

「自業自得だろ」

 

 そんなミズリに対して、フウガの口から放たれた痛烈な一言に尚の事不満そうな表情を浮かべるミズリであった。




恩恵→大本
加護→人間種に与えられる物
恩寵→魔物に与えられる物
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