気づいたら竜種に転生していた件   作:シュトレンベルク

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本日は二話連続投稿となっておりますので、まだの方は是非前話を読んでから今回の話を読んでください。


別離と新たな魔王

 ヴェルダナーヴァたちとの突然の別れから数年。ヴェルディアスは修行の傍らにヴェルダナーヴァの忘れ形見、ミリム・ナーヴァと共に暮らす生活を送っていた。その際、セリオンの近くにある拠点ではなくヴェルダナーヴァたちが暮らしていた生家にて生活していた。

 

「叔父上!修行は終わったのか!?」

 

「ああ、ミリム。まぁ、終わってはいないが大丈夫だ。何かあったのか?」

 

「アイツとかくれんぼをしているのだ!叔父上は見ていないか?」

 

「遊びの最中か。あの精霊竜(エレメンタルドラゴン)だったら……いや、見ていないな。視界の端を横切ったような気はするが」

 

「分かった!ありがとうなのだ、叔父上!」

 

「あんまり遠くに行きすぎないようにな」

 

「分かったのだ~!」

 

 元気に庭を駆けていくミリムの後姿を眺めながら、足元で転がっているアリーシャに視線を向ける。完全に息を切らしており、汗に濡れる髪に赤く染まる頬。人間であれば見ただけで魅了する美貌を前に、ヴェルディアスは呆れていた。

 

「お前はいつまで寝てるんだ?アリーシャ」

 

「……………………師匠、いきなり強くなりすぎです」

 

「まぁ、確かに俺の新しい能力の実験には付き合ってもらったが。そこまで急激な変化はしてないだろ」

 

「何言ってるんですか!?まるでヴェルダナーヴァ様が如き、能力の幅広さ!竜種としての出力をごり押しして使っているせいで、こっちは対応するのだって死ぬ気ですよ!」

 

「まぁ、俺の相手なんてお前ぐらいにしか頼めないからな。存在値的にはもうそろそろ『聖人』を超えて、『神人』にたどり着くぐらいだろう?」

 

「その辺りはまだ分かりませんけど……この身体になって長いですから。あんまりイメージできないですね」

 

「懐かしいな。この世界に流れたばかりの頃か。俺の顔を見ていきなり斬りかかってきた、かなりとんがってた頃の話だな」

 

「うっ……その話は忘れてください」

 

「ふっ。弟子との出会いの話だぞ?そうそう忘れる物か」

 

 ヴェルディアスが楽しそうにそう言うと、ヴェルディアスの肩にミリムが探していた相手――――精霊竜が留まった。実はミリムと喋っていた時からいたのは知っていたが、遊びの最中ということで黙っていることにしたというのが真相だった。

 

「う~ん?もう遊びはいいのか?」

 

「キュゥッ」

 

「ははは、飽きたか。そうか。まぁ、隠れている方は見つけてもらわないと退屈だわな。それじゃあ、アリーシャの体力が戻るか、ミリムがまたここに来るかするまで、お喋りに興ずるとしよう」

 

 はてさて、どっちが先になるやらと思いながら目の前にいるアリーシャ(弟子)を見ながら、ミリムがどこにいるのかを把握しておく。そして、目の前に広がる青空を眺めながら、どうしても亡き兄に問うてしまう。自分はこれで良いのかと、そう思わざるを得ないのだった。

 確かに、ミリムを守るために共にあるという選択をした。しかし、それはミリムから選択肢を奪うという選択なのかもしれない。ヴェルディアスは本質的にヴェルダナーヴァとは違う。ミリムの両親とは決定的に違うのだ。あの子の求める物を、果たして自分は与えきれているのか?そう思わざるを得なかった。

 

「……俺は兄上ではない。俺は俺なりに愛を注いでいるつもりだが、本当にこれで良いのか?どうしてもそう思ってしまう自分がいるんだ。どうしようもないというのにな」

 

「キュゥ?」

 

「なんでもないよ。なんてことはない、迷う者であれば誰もが抱える悩みだ。答えの出ない正誤を問う、愚か者がしがちな事さ。どうせ答えなどどこにもないのだから、ただがむしゃらに進んでいくしかない。そういう問いだ」

 

 そう、答えを出せる存在はいない。たとえ、亡きヴェルダナーヴァやルシアであろうとも、答えなど出せないのだろう。分かっていてもそういう疑問が浮かぶ辺り、ヴェルディアスも不安なのだ。ミリムを一人ぼっちにさせてしまった遠因が自分にあると、思っているがゆえに。

 

「あっ、見つけたのだ!」

 

「キュゥッ!」

 

「叔父上、聞きたい事があるのだ!」

 

「うん?どうかしたのか?」

 

「使用人のみんなが言っていたのだ!明日、麓にある街でお祭りをやると!それに行ってみたいのだ!」

 

「人間たちの祭りに?それは……」

 

 祭りに参加する。それ自体には別に何の問題もない。いくらかのお小遣いをあげて、なんだったら一緒に歩き回ればいい。別に戦場に行くわけではないのだから、許可しても何ら問題ない。問題ない、筈なのに、何故かヴェルディアスの第六感はアラートを鳴らしていた。

 

(何故だ?少なくとも、ミリムの命を脅かすような存在がこの辺りにいる気配はない。俺はいったい何に対して警鐘を鳴らしているんだ?)

 

「叔父上?やっぱり駄目だったか?」

 

「あ、いや、そんな事はない。お祭り、だったな?小遣いは用意しておくから、存分に楽しんでくると良い」

 

「――――本当か!?ありがとうなのだ、叔父上!」

 

「……いや、気にすることはない。それより、したい事があったらもっと言っていいんだぞ?俺に配慮しているのだったら、それは無用な心配だ。やりたい事はやりたい、と言っていいんだ」

 

「大丈夫なのだ!」

 

「そうか?だが……」

 

「大丈夫なのだ!だって、ここには友達がいて、姉替わりのアリーシャがいて、叔父上がいるのだ!何も寂しいことなどないのだ!」

 

「……そうか。だったら、いいんだ」

 

 ミリムの言葉にヴェルディアスは笑みを浮かべる。ミリムは優しい子供に育った。自分がやってきたことは決して無駄ではなかった。そう思えたのと同時に、自分の抱えていた不安を見抜いている辺り、ミリムの観察眼はすさまじいなと思っていた。

 先ほどの警戒心は何かの間違い、或いは自分の不安を感じていた心が盛大に反応していただけだろうと結論付けた。幼少の頃ならばいざ知らず、今のミリムはヴェルディアスやアリーシャによって育てられた。そんじょそこらの兵士に殺されるほど弱くはない。

 

 だが、それでも一応念のためと精霊召喚を行った。その精霊をそっとミリムの傍に就かせた。ヴェルディアスの隠蔽が入っているので一見しただけでは分からないが、上位精霊ならばミリムの身を守るにはあまりあると言えるだろう。

 本当はヴェルディアス自身が行きたかったのだが、ヴェルディアスは大地の化身たる竜。そんな存在が街中に何の隠蔽もなく出向けば、それこそミリムの身を守るどころではなくなってしまう。祭りを楽しみにしていたミリムを前にすると、どうしてもその行為が邪魔のように感じられた。

 

「ミリム様、楽しめていらっしゃいますでしょうか?」

 

「さぁな。まぁ、ミリムの身を守るという点でいえば問題ないだろう。まぁ、精霊竜(エレメンタルドラゴン)が問題かもしれんが、あやつも竜の端くれ。生中な相手に負けるほど弱くはない」

 

「そうだと良いのですが……」

 

「なにか気になる事でもあるのか?」

 

「……これは竜種の方々に通ずるものですが。ヴェルダナーヴァ様や師匠以外の竜種の方々は、基本的に相手を侮っています。まぁ、大半の場合、相手の方が弱いから当然なのですが。しかし、その価値観が相手からの不意の一撃を許してしまうと思うのです」

 

「……それは否定できないな。自分よりも下の相手に負けるとは思わない。それが竜種という存在だ」

 

「はい。私がヴェルドラ様と初見であった場合、究極能力(アルティメットスキル)抜きでも一撃を当てられる自信があります。そして、その一撃が致死に至らしめる物であれば……相手を殺せます」

 

「……それが可能だと?あの精霊竜(エレメンタルドラゴン)は力の大半を失っていたとはいえ、兄上が創造した竜だぞ?」

 

「本当に一回限りです。それ以上は、相手も警戒しますから。ですが、一回だけで良いのなら……私でなくても出来る者はいるでしょう」

 

「……アリーシャ。今すぐに、街へ迎ってくれ。これ以上の喪失を迎えれば、俺は我慢できるか怪しい」

 

「かしこまりました」

 

 そう言い放つと、アリーシャは街へ向かった。護衛につけた精霊からはまだ何の反応もない。だからこそ、アリーシャの心配を杞憂と思いたい。しかし、ミリムに話を振られた時のあの第六感の反応に、ヴェルディアス自身が杞憂とは思えなかった。

 

「どうか、無事であってくれ……ミリム」

 

 だが、その言葉を嘲笑うように嫌な予感が的中した。そう、世界はいつだって弱い者から奪い去っていく。力を持つ者は不条理に、理不尽に、守りたい大切なものをその手から零れ落ちさせていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ、ああああああああああああああああああああっ!」

 

 精霊竜(エレメンタルドラゴン)は死んだ。その死に反応して、ミリムは悲嘆と憤怒の感情が限界を突破する。その振り切れた感情に反応するように、ミリム・ナーヴァという少女をさらに上の段階――――覚醒魔王と呼ばれる存在達の位まで進化させる。

 

「ミリム様……」

 

「アリーシャ……起きない。起きないのだ。まだ、生きているはずなのに……起きてくれないのだ」

 

「………………」

 

 なんと嘆かわしく、呪わしいのか。この子が一体何をしたというのか?ただ特別な存在から生まれただけだ。ただ特別な存在から愛を注がれただけだ。それだけなのだ。何かを壊したわけでもなければ、何かを奪ったわけでもない。

 なのに。それなのに。世界は彼女から理不尽に奪い去っていく。愛を注いでいた両親を。共にあり続けた友達と呼ぶに相応しい竜を。彼女の許から奪っていった。どうして、彼女はここまでの目に遭わなければならないのか?

 

「貴様……『時空の支配者』か。丁度いい。貴様も我らの軍門に……」

 

 何やら鬱陶しい雑多が喚いている。あまりにも聞き苦しいので首を刎ね飛ばした。ミリムが泣いているのだ。悲嘆に暮れているのだ。見れば分かるソレを、恥知らずな輩が我が物顔でのたまう。まったく、本当に許しがたく呪わしい存在だ。

 そうして、ミリムの頭をなでていると、空中に膨大な量の魔素が渦巻いているのを感じた。その魔素には覚えがあり、ミリムも涙を流しながら空を見上げる。そこには普段の微笑ましい顔が嘘であったかのように厳しい顔つきをしているヴェルディアスの存在があった。

 

「……叔父上。叔父上、こいつを助けてください。叔父上なら、助けられるでしょう?」

 

 どうか、そうであって欲しい。ヴェルディアスはミリムが知っている限り、そして現実として世界でも最高峰の存在だ。ヴェルディアスであれば、この竜を助けることが出来るかもしれない。一縷の願いにすがるように、ヴェルディアスを見つめるミリム。

 対し、ヴェルディアスはじっと竜を見つめていた。助けられるのであれば、ヴェルディアスとてその竜を救いたいと思っているのだ。しかし、現実は非情だった。蘇生を行う上で、最も必要なもの――――魂の器たる星幽体(アストラル・ボディ)がないのだ。これではさしものヴェルディアスでもどうしようもない。

 

「……無理だ。ミリム、この子はもう蘇る事はない」

 

「では、どうすれば……」

 

「ミリム。俺はこれから今回の事をなした国へ向かう。ケジメをつけさせるために。お前も来るか?」

 

「師匠……」

 

 ヴェルディアスとアリーシャによって鍛え上げられ、一時的な感情で覚醒魔王となった。だが、今の状態では本当の意味で覚醒魔王と呼べるほどの存在ではない。だからこそ、今のミリムには魂が必要なのだ。名実ともに真の魔王へ至るために。

 だが、ヴェルディアスは姪には甘いと言ってもいい。これから、一般的には大国と呼ばれている相手の国を滅ぼしに行くが、その際に得た魂は総てミリムに渡そうと思っている。だからこそ、この呼びかけは手を汚すか汚さないかの意味しかない。ミリムは確実に魔王の域へと至るのだから。

 

「……行く。行くのだ」

 

「……ミリム、これは俺の意志だ。お前がしなくちゃいけない訳じゃない。お前が負うべき責任など、どこにもないんだ」

 

「それでも、行くのだ。私は、これから逃げちゃいけないと思うのだ!」

 

 自分の手を汚さなくてもどうにかなる。だから、行かなくてもいい――――そんな理屈はミリムには通じない。確かに、ヴェルディアスに任せればどうにかなるのだろう。しかし、代わりにこの心優しい叔父はどうしようもない存在になってしまうかもしれない。幼いながらも、ミリムはそれを理解していた。

 事実、ヴェルディアスをこのまま放置しておけば、大国に生きる人間総てを根絶やしにしようと考えていた。俺たちから奪うことしかしないのなら、そんな世界は不要だと。ヴェルダナーヴァ亡き後、天地を支配する竜は己の役割たる『庇護者』という立ち位置を放棄しようと考えていた。

 

 だからこそ、ミリムにこの提案をしたのはヴェルディアスにとって最後の良心だった。ミリムが拒否したなら良し、己は世界に対する災禍として機能しようと。だがしかし、もし、もしも、ミリムがこの提案に頷いたのなら――――その時は、もう少しこの世界を見守ろうと。

 

「……そうか。ならば、行こう。先に言っておくが、ミリム。これからお前は、意思のある災禍として生きることになる。だが、それでも、俺はお前の事を愛している。お前の事をいつだって想っている。だから、後悔することのないように生きるんだ。分かったな?」

 

「……うん。うん、分かったのだ!」

 

「良い子だ。……さて、俺も少しは鬱憤を晴らしたいのでな。八つ当たりに付き合えよ、人間」

 

 ヴェルディアスがそう言った瞬間、街より遥か彼方にいた軍隊が一瞬で絶滅した。空中より突然現れた雷霆はその場にいた人間たちを焼き尽くした。その雷火は肉体のみならず、その魂すら焼き尽くし、最早エネルギーとして使うことすら難しいほどに粉微塵に消し潰されたのだった。

 

 その後の話。ミリムは魔法大国と名乗る国家を滅ぼし、それによって十数万もの魂を手に入れた事で真なる魔王として覚醒した。それを見守ったヴェルディアスはミリムを連れて、アリーシャの許へ戻った。そこにあった光景は――――魂を失ったはずの精霊竜(エレメンタルドラゴン)混沌竜(カオスドラゴン)として覚醒していたという物でした。

 

 ミリムはそれを喜んだ。死したはずの友が自分の覚醒に応えて蘇ったのだと。

 しかし、ヴェルディアスは知っていた。目の前にいるあの竜は、決して同じ存在ではないのだと。

 

 事実、その竜は生前の優しい魂を持っていた竜はなく、ただひたすらに周りを破壊しつくしていた。それは、ミリムのあったかもしれない姿だった。だが、だからこそ、その姿を見続けるというのは忍びなかった。だからこそ、ミリムはその竜を封印する道を選んだ。

 ヴェルディアスと共に混沌竜(カオスドラゴン)を封印したミリム。しかし、彼女にはかつてと同じ生活をしようという気はなかったのだった。

 

「別で暮らすか?、ミリム」

 

「うむ、そうなのだ。叔父上は竜種だから、死ぬことも滅びることもない。でも、アリーシャやこの家にいる使用人はそうじゃないのだ。でも、私は大事な人を失うことに耐えられそうにないのだ」

 

「だから、一人で生きていくか……」

 

「やっぱり叔父上は反対か?」

 

「賛成か反対か、で言えば、そりゃ反対だ。俺からすれば、まだまだミリムは幼い。一人にすることに不安がないと言えば、それは嘘になる。でも……俺は、ミリムの進む道を阻むようなことはしたくないんだ」

 

「叔父上……」

 

「好きに生きろ、ミリム。言っただろう?俺はお前の事をいつだって想っていると。そして、後悔しないように生きろと。だから、お前が自分の道を決めたのなら。俺はそれを応援するだけだ」

 

「……!分かったのだ!ありがとうなのだ、叔父上!」

 

 ミリムは笑顔を浮かべながら、家を出ていった。ヴェルディアスとアリーシャはその後ろ姿を窓越しに見送る。自分の手から子供が巣立っていく。喜ばしい事であると分かってはいるが、やはり寂寥感が襲ってくるのはどうも慣れない。

 

「師匠、本当に良いんですか?」

 

「……結局、俺がそばにいても、ミリムが大切なものを失うのを阻むことはできなかった。何の力にもなれなかったんだ。だったら、ミリムの自主性に任せてみるというのも一つの手だろうさ」

 

「……かしこまりました。師匠が決めた事でしたら、私はそのように」

 

「世話をかけるな」

 

「お気になさらず。私がやりたくてやっている事ですし、師匠のお世話をすることは苦ではありませんから」

 

「言うじゃないか。では、俺たちも旅に出るとしよう。これよりしばらくは、ぶらりと物見遊山と行こうじゃないか」

 

「仰せのままに、我らが王。世界を統べる天頂神。混沌を呑み込む大地の竜よ。この身は世界の果てまで、御身と共に」

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