気づいたら竜種に転生していた件   作:シュトレンベルク

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閑話:人魔統合国家セリオン

 とあるスライムがジュラの森大同盟の盟主となり、『テンペスト』という国家を作り上げてから暫く経った後の話。偶々、耳にした単語で気になるものがあったため、同じ国にいるドワーフに話を聞きに行った。

 

「人魔統合国家セリオン?っていうのはどういう国なんだ?」

 

「えっ、リムルの旦那、セリオンを知らないのか?」

 

「そうなんだよ。俺も一国の王になった訳だろ?だったら、いざって時に知りませんじゃ通じないと思ってな」

 

「はぁ……いい心意気だな。つっても、俺の知ってる事なんて誰でも知ってる事だが、それでも良いのか?」

 

「とりあえず、そういう情報で良いよ。細かい事はこれから知っていけば良いしな」

 

 そう言うと、ジュラの大森林の盟主――――リムル・テンペストは置いてあったジョッキを呷る。そして、実におっさん臭い仕草を取っていく。何分、外見が『爆炎の支配者』シズエ・イザワそっくりであるため、残念さがぬぐえない部分が見受けられた。

 しかし、対面にいるドワーフ――――カイジンは慣れたもので同じようにジョッキを呷る。この時代にはあり得ないキンキンに冷えたエールに満足しながら、おつまみとして置かれたポテチ(うすしお味)をつまむ。

 

「人魔統合国家セリオンってのは、旦那が聞いた通り人間と魔物が共存してる国だ。でも、この場合の共存ってのは仲良しこよしで生活してる、って意味じゃねぇんだよ。その理由は、旦那もなんとなくわかるだろ?」

 

 魔物の基本原則は弱肉強食。魔人などの知恵が回る生き物は別として、基本的に魔物と呼ばれる種は強い存在に恭順する生き物だ。だからこそ、根の力が基本的に強いとは言い難い人間とそんな人間よりも基本的に強い者が多い魔物では争いが頻発しやすい。

 無論、共存できない理由はそれだけではない。ないが、簡単に挙げられるこの問題ですら、解決するのは中々至難の業だ。誰かが強いだけでは、決してこの問題は解決されないからだ。そして無用な強要は、それこそ無用な軋轢を生む。

 

「まぁな。俺だって人間たちと仲良くしたいけど、ことはそう簡単じゃないもんな」

 

「そうなんだよ。んで、だ。あの国家がそれをどう解決してるか、って言うとだな……なんもしてねぇんだよな」

 

「……?なんで、何もしてないのに問題が解決するんだ?」

 

「そりゃあ、あの国の成り立ちが特別だからさ。あの国は、『大地竜』ヴェルディアス様に保護されたエルフが興したってのが始まりだからな」

 

「『大地竜』っていうのは……」

 

「この森を支配していた『暴風竜』ヴェルドラ様の兄貴さ。曰く『世界の庇護者』。曰く『最強の災害』。曰く『絶対王者』……まぁ、呼び名なんて幾らでもあるがよ。つまりは、そういう存在ってことさ」

 

 この世界で、最も強い存在。それこそが『大地竜』ヴェルディアスであり、そのヴェルディアスに保護された国などこの世で最も安全な場所であると言わざるを得ないだろう。だからこそ、その土地は様々な存在を受け止める土壌となっているのだ。

 

「まぁ、ヴェルディアス様の話はいいだろ。あの国は今、『十二星神(オリュンポス)』っていう……王家みたいなもんかね?とにかく、そういう連中が支配しているんだ」

 

「どういう集団なんだ?それ」

 

「それは……」

 

 

「『十二星神(オリュンポス)』というのは、セリオンの各部門を支配している家柄の事だよ。各々が役割を持ち、それに従事している者たちさ」

 

 

「おっ?」

 

 カイジンと話していた筈なのに、聞き覚えのない声が聞こえてきた。ふと少し隣に視線を向けてみると、一人で酒を呷っている金髪の男が座っていた。リムルたちより後から来たのだろうが、まったく気配を感じなかった。その事実にリムルは少し警戒するが、男は警戒を解くように両手を上げる。

 

「ああ、申し訳ない。実は自分、つい最近までセリオンにいた行商人でして。武装国家ドワルゴンとまで同盟を結んだというこの国の話を聞いて、商売チャンスだと思ってきたんです。そしたら懐かしい単語が聞こえてきたので、つい口を……大変申し訳ない」

 

「ああ、いや、別にそういう事なら……」

 

(おい、大賢者。こいつ、本当は魔人とかそういうんじゃないよな?)

 

《解。存在値・魔力共に一般的な人間との差異は感じられません。人間と認識して相違ないかと》

 

「じゃあ、丁度いい。一杯奢るからセリオンの話を聞かせてくれよ」

 

「えっ、良いんですか?へへっ、何でも聞いてくださいよ旦那」

 

「それじゃあ、まずはさっき言ってた『十二星神(オリュンポス)』っていうのに関して教えてくれよ」

 

「はいはい、かしこまりました。『十二星神』っていうのは軍事や政治、裁判に治安維持などを始めとした様々な事柄を統括してる連中なんです。それぞれの家がヴェルディアス様から何かしらの能力を与えられてる、とかいう話ですけど詳しい話はなんとも分かんないですね」

 

「ふ~ん……その中でも有名な人って誰なんだ?」

 

「そりゃあ、政治関連を担当している『智略之星神(アテナ)』の称号を賜っているミュリア・アル・ネリ・セリオン様がまず筆頭でしょうね。この方はヴェルディアス様が保護されたエルフの一族の出で、対外関係や国内の政治を一手に担っておられるんですよ!」

 

「智略之星神?また、壮大な二つ名がついてるんだな」

 

「確かに最初にそう聞くと誰もがそう思うんですがね。でも、その手腕を見れば誰もが納得するんですよ。事実、あの国が人魔統合国家として成立しているのは、あの方の尽力が大きいのは事実ですから!」

 

「お、おう……随分、入れこんでるんだな」

 

「ああ、こりゃまた失敬を。いえ、私みたいなよそ者があの国で商売しやすいようにあの方は尽力して下さったんですよ。そりゃあ、力も入るってもんでしょ?」

 

 そう語る男の目に嘘はなかった。目の前にいる男はミュリア・アル・ネリ・セリオンを尊敬しているし、その尽力に感謝している。もしかしたら、別の感情もあるかもしれないがそれはご愛嬌という物だろう。ともかく、信頼に値する人物かもしれないと頭の片隅に刻んでおくことにしたリムルだった。

 

「っと、他の方の話ですね?といっても、他の方はあまり公式に名前をさらしていらっしゃらないので……そうですな。後は『生死之星神(ペルセポネ)』様と『冥府之星神(ハデス)』様ぐらいですかね」

 

「その二人はどういう人物なんだ?」

 

「このお二人は裁判関係を仕切っている方なんです。『生死之星神(ペルセポネ)』様――――クラリス・ジェーン様と『冥府之星神(ハデス)』様――――オルヴァン・ギース様が司法、っていうんですかね?そこの最高責任者なんです」

 

「司法のトップが二人もいるのか?それ、混乱しない?」

 

「さぁ……?そこは私にはなんとも。ただ、お互いが互いの出した判決に対して口出しする権利があって、過去にそれで判決の覆った裁判もあったとかいう話ですよ?冤罪を負わされかけた側からすればありがたい話ですね」

 

「確かに、謂れのない罪を背負わされるってのは辛いもんだろうな」

 

「カイジン……」

 

 カイジンは過去、部下であったとある男が起こした実験の失敗を擦り付けられ失脚したことがある。カイジン自身は最早割り切っているとはいえ、それでも何も思わない訳ではないのだ。そんなカイジンの心を知らない男は、アルコールが回ってきたのかペラペラと喋り始めた。

 

「そうでしょう?まぁ、最高責任者というだけあって、お二人が裁判する事なんて滅多にないんですけどね。お二人が裁判するとしたら、それは最早生死がかかっているような裁判になりますし」

 

「そんな重要な局面の裁判官なのか?」

 

「『お二人の出した判決こそが、この国にとっての真実』そう評されるほど、お二人の裁判は厳格なものだと言われていましたね。国民全員にお二人の裁判を受ける権利はありますが、それは生死を賭けたものだそうです。お二人が『死』だと判決されたら、問答無用で殺されるそうですよ?」

 

 まぁ、私は何年かあの国にいましたがそんな場面は見た事ありませんけど。そう口にしながら、酒を呷っていく。そして、出されたつまみを口にしながら、度々美味いと口にしていた。若干、理性がなくなっている辺り、相当酔っぱらってきているのだと思われた。

 

「そんな極端な判決が許されるのか?」

 

「いやだなぁ、旦那。さっき言ったじゃないですか。お二人の出した判決こそが、この国の真実だって住民は思ってるって。許す許さないじゃないんですよ。ただ受け入れる。それだけが住民がするべき事なんですから」

 

「それはそうかもしれないが……その、ヴェルディアス様は、何も言わないのか?」

 

「う~ん……私の知る限り、ヴェルディアス様が国の在り方に口を出されたことはないと思いますよ?そもそも、ヴェルディアス様は国の成り立ちに関して、一切関与されてませんから」

 

「え?その人が保護したエルフがその国を興したんだろ?」

 

「ええ、それはその通りです。ただ、ヴェルディアス様は場所を提供しただけですし、その他の方々はヴェルディアス様から加護を受けた存在の中でも一際秀でた存在なのだとか。つまり、ヴェルディアス様は国の在り方ややり方に関しては、一切文句を言わないと思いますよ」

 

「でも、『世界の庇護者』なんだろ?」

 

「やだなぁ、旦那。……庇護者だったら、誰でも守らなきゃいけないんですか?」

 

「え?」

 

 男の気配が変わった。リムルはなんとなくそう感じられた。男はただジョッキの端を撫でながら、残り少なくなっていたエールを残念そうに見つめていた。話が進まないと思ったリムルはエールをもう一杯頼んで男に渡した。すると、先ほどまでの嬉しそうな気配が戻ってきた。

 

「別に誰にでも優しい人が怒っちゃいけない訳じゃないでしょ?それと同じことですよ。あの方は、庇護者――――己が定めた弱者の味方であって、誰でも守るわけじゃない。大体、それを願う権利なんて誰にもないんですよ」

 

「どういう意味だよ?」

 

「知らないんですか、旦那?ヴェルディアス様から兄であるヴェルダナーヴァ様を奪ったのは人間なんですよ?だから、人はヴェルディアス様に頼るなんて許されない。同時に、魔物はヴェルディアス様に何もして差し上げられなかった。だから、あの人から手を差し伸べられるなど畏れ多い――――と」

 

「……それはお前の意見か?」

 

「いやいや、そんな訳ないでしょう?私が向こうにいた時に同じような話題になったことがありましてね。その時、仲良くしていた人間と魔物の意見ですよ、これは。まぁ、私どもが何を言ったところで無駄だとは思いますがね」

 

「どういう意味だよ」

 

「旦那、相手は竜種ですよ?誰よりも自由気ままを旨にしている方々だ。そんな方々が何をしようが、私たちには止められる訳もない。だから、ヴェルディアス様が守ると、救うと決めたのなら、守るでしょうし救われるのでしょう。それは、誰にも止められないのですよ」

 

 竜種は基本的に自分本位だ。ヴェルディアスにしても、ヴェルドラにしても、基本的な在り方に変わりはない。己の振る舞いたいように振る舞う。その上で、それを阻もうとするのが何人であろうとも蹴散らしてのけるのがヴェルディアスなのだ。

 

「ヴェルディアス様の決められたことに異論を述べようなんて、愚か者のすることですよ。ヴェルディアス様も聞いては下さるでしょうけど、それで意見を曲げるかどうかなんて誰にも分からないでしょう?」

 

「だから、無駄なことはするべきじゃない、ってか?」

 

「まぁ、そこまでは言いませんが。ただ、行動したからって叶う訳じゃない。私たちのようなか弱い生物はただ振り回されるしかない、って事ですよ。……っと、私は明日の準備があるんで、これにて失礼させてもらいますね」

 

「そっか。色々と教えてくれてありがとうな」

 

「美味い酒を奢ってもらいましたからね。それに見合う情報ならご用意しますとも。私は中央通り辺りに出店を出しているんで、よろしければ覘いていってくださいね」

 

 そう言うと、男は椅子の近くに置いてあった帽子と杖を手に取った。それを被った男はまるで旅人のような姿をしており、リムルとカイジンは唖然としていた。そんな二人の表情に男は笑みを浮かべ、店を出ていった。暫く大通りを歩いていたと思えば、裏通りに入り――――姿を消していた。

 

「……お待たせしました。ヴェルディアス様」

 

「いや、そんなに待ってはいないよ。それで、あの国の王はどうだった?『伝令之星神(ヘルメス)』」

 

 テンペストの総てを見下ろせる丘に立っていたヴェルディアスに、男は膝をつく。『伝令之星神(ヘルメス)』と呼ばれた男は久方ぶりにヴェルディアスと面会できた栄誉に、肩を震わせていた。

 

「……ヴェルディアス様が何か危惧されるほどの存在ではないかと。オークロードの討伐をこなし、魔王種として至ってはいるようですが、だからと言って何かを起こす気概を持っているようにも見受けられませんでした」

 

「そうか。まぁ、それはそうだろうな」

 

「ただ、少し人間くさいところのある魔物でした。あそこの社会も人間社会を規範としているように感じられましたし」

 

「なるほど。悪いな、『伝令之星神(ヘルメス)』。いや、ユリア」

 

「――――何を仰います。この身はヴェルディアス様によって拾われた者です。あの時、ヴェルディアス様が救って下さったからこそ、今の私はあるのです。そんな私に礼など不要です」

 

 『伝令之星神(ヘルメス)』はヴェルディアスからユリアと呼ばれた瞬間、まるでこれまでが幻であったかのように姿が変わった。髪が肩元まで伸び、硬かった表情が柔らかい物に変わっていた。その姿を見ながら、ヴェルディアスは苦笑を浮かべる。

 

「相変わらず、お前たちは俺への忠誠心とでも呼ぶ物が過ぎる。一体、何百年前の話をしているんだ。いい加減、俺への義理など忘れて好きなように生きればよかろうに」

 

「それこそあり得ません。命を救っていただいた上に、生きるために必要なものを与えていただき、こうしてヴェルディアス様のお役に立てる力まで与えていただいた。これだけ貰いっぱなしなのに、義理を忘れることなどできません。それに――――これでも私は自由に生きていますよ」

 

「……そうか。ならば、これ以上は言うまい」

 

「はい。して、ヴェルディアス様。奥方は壮健でしょうか?」

 

「それがアリーシャの事を指しているのなら、元気だよ。今は冒険者として身分を隠しながら活動してもらっているところだ」

 

「情報収集でしたら、私を頼って下さればよろしいのに。奥方はそういう点でいえば、あまり向いているとは言い難いですし。あの方は良くも悪くも実直ですから」

 

「確かにな。根が真面目だ、あれは。それと、お前たちにはあまり頼りたくなかったんだ。俺は確かに、お前たちに力を与えた。だが、それはお前たちが自分らしく生きるための物であって、俺の力として利用するためではない。必要な物は自分の手で集めたいしな」

 

「それでは、何故今回は頼ることにされたのですか?」

 

 それがユリアにとって謎だった。無論、頼りにしてくれたのは嬉しいし、全力で力になりたいと思う。けれど、ヴェルディアスが言った通り、ヴェルディアスは基本的に『十二星神(オリュンポス)』に頼ろうとしない。なのに、今回はそうではなかった。その理由がユリアには分からなかったのだ。

 いや、正確に言えば、予測はたてられたがそれが正しいと納得できなかったのだ。もし、その予測が正しいのだとしたら、何故そこまで配慮するのかが見当つかなかったからだ。そして、その予測が外れていなかったことを、ヴェルディアスの口から聞いたのだった。

 

「あの魔物たちの主に無用な警戒を埋めこまないためだ。トレイニーを始め、あそこにいる多くの魔物が俺の事を知っている。そうなれば、良くも悪くもあの主は何かを思うはずだ。それは俺の望むところではないし、俺があの国に赴けば周辺の人間国家が警戒するのは必定だ。

 その結果、あの国の未来が危ぶまれたりするのは望むところではない。庇護する対象ではないが、迷惑を被らせる訳にもいかないだろう?だから、今回は頼らせてもらった」

 

「なるほどなるほど。まぁ、人間との共存を願う魔物たちの国、そしてその主の調査と言えば、『智略之星神(アテナ)』も文句は言わないでしょう。いつかはやったのなら、早くするに越したことはない。私は私の職務に準じさせていただきます」

 

「構わないさ。国同士の駆け引きにも、口を出す気はないからな。ともかく、今回は助かったよユリア。こればかりは、俺もアリーシャも向かないからな」

 

「いえいえ、お気になさらず。気にされるぐらいならもっと頼って下さい。あなたこそが、我らが主。主の力になれることが、私たちにとって至上の幸福なのですから」

 

 そう口にしながら、ヴェルディアスに頭を垂れる。無論、今までもこうしたやり取りをしてきて、ヴェルディアスがその度にその気はないというのがパターンだった。しかし、彼女は何度拒絶されようともこの考えを曲げる気はなかった。だが、だからこそ、ヴェルディアスの次の言葉に思わず頭を上げてしまった。

 

「本当に変わらないな、お前たちは。だが、まぁ……頼るべき場面では頼らせてもらうよ。どうも、俺だけの力ではなしえない事もあるようだからな」

 

 その時、ユリアの胸中を満たした感情が一体何だったのか?歓喜?興奮?そのどちらでもあり、どちらでもなかったような気もする。ともかく、ユリアがその瞬間、他の『十二星神(オリュンポス)』のメンツの誰よりも幸福を噛みしめていたのは確実だった。

 

「はい!我らが王、偉大なる大地竜様。どれほどの難事が待ち受けようとも、私ユリア・クリスティは御身の力です!どうかこの身、ご存分に!」

 

「ああ、頼りにしているよユリア。他の子供たちもいずれ頼る日が来るかもしれないとだけ、伝えておいてくれ」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 歓喜のあまり、肩を震わせながら頭を垂れたままの状態になっているユリアを尻目に、ヴェルディアスは空を見上げる。そこには先ほどまであった満月を雲が覆い隠している姿があり、どことなく嫌な予感をヴェルディアスは感じるのだった。

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