我輩はスキマである。固有名詞はまだない。

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我輩はスキマである

 

 

 我輩はスキマである。固有名詞はまだない。八雲紫が能力を使った際に開く異次元空間、それである。生物ではないが、生まれた瞬間は鮮明に覚えている。恐らく八雲紫が初めて能力を使ったその時である。いきなり目玉だらけの空間を開いてしまった八雲紫も驚いていただろうが、気がついたら自らが目玉だらけの空間だった我輩も相当驚いたものだ。しかし残念ながら、我輩に驚きを表す機能は備わっていない。意識に近しいものはあろうが、それを外部に伝えることは叶わない。持っている力といえば、瞬きを少し激しくする程度の能力だけである。

 

 

 我輩というものは生まれてこの方、薄紫の空間を見通してばかりである訳だが、稀に八雲紫が通過していくと言葉にし難い不思議な気持ちになる。胸がくすぐったくなるような、身体がむずがゆくなるような。しかしこれは、恋だとかそんな甘ったるい感情ではない。スキマであり、スキマでしかない我輩において、そういったむつかしいアレコレは存在しないのだ。ただ、目玉と目に悪い配色だけの空間において、彼女の金髪は少し眩しすぎるのである。

 

 

 ある時から彼女は、我輩の中に色々なものを突っ込むようになった。不要なものからよくわからない人間、買い溜めしたものや必要なものまで。最近は生物(ナマモノ)すら入れられるようになってきており、恐らく我輩のことを倉庫か何かと勘違いしていると思われる。文句を言う口があったら、とっくの昔にそうしているかもしれない。目は口ほどにものをいう、なんて諺もあるが、あれは嘘である。先日食べかけの袋菓子を我輩の中に突っ込まれた際、瞬きを少し激しくする程度の能力を使用してみたが、八雲紫は怪訝な顔をするばかりであった。

 

 

 ただまあ、彼女あってこその我輩であることは薄々承知しているので、多少の蛮行は見逃す。文字通りに目を瞑る。醜い己ではない何かを見つめられるというのも、我輩にとっては救いとなるのだから。

 

 

 時折八雲紫は、我輩越しに幻想の地を眺める。角度の都合上、我輩も同じ風景を眺めることとなる。ソレは何でもない山であり、里であり、館であり、湖であり、地底であり、神社である。だというのにソレを見る度、彼女は胡散臭く笑いながらも、何処か満たされたような、安らかな顔をするのだ。そして我輩はそれを見て、不思議そうに目をぱちくりとして、ただまあ、それもこれも素敵な話なのだろう、とゆっくり瞬きをするのである。そんな幻想の一幕なのだった。

 


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