ラブレター(ガチ)
side四宮かぐや
「ラブレター!?」
「ええ。とても情熱的な内容で一度食事でもどうかと」
ラブレター。
差出人への興味は虫ケラにも値しませんが、ここは話題提供に使わせていただきましょう。その流れで所場さんの恋話が聞ければ上々。
「ええ!?つまりデートのお誘いという事ですか!
……デート、するつもりなんですか?」
色恋の話題には必ず食い付く藤原さんが居てくれるのも好都合。
「もちろんです。
勇気を振り絞ってこんな情熱的な恋文をくれる方です。きっと好きになってしまうに違いありません」
それに、会長なら私の思惑にも気付くはずですし。
「かぐやさん、ほんとに行っちゃうんですか?」
「ええ。とても楽しみですわ」
行くわけないでしょう、藤原さん。
この娘脳に花湧いてるのかしら。この私をデートに誘いたいなら国の一つでも差し出して初めて検討に値するのよ。誰が好き好んで慈善活動なんてするもんですか。
「四宮。生徒会長として不純異性交遊は推奨できないぞ」
乗ってきた!ここから自然な形で所場さんへ話題を移行しなくてはいけない。
まずは会長との数回のラリーを経て、恋話への流れを掴む!!
「大げさな。
食事に行くだけですよ」
「判断するのは教師だ。
停学処分ということも十分ありうる」
…?私の思惑としては恋の経験の有無について話を膨らませ、藤原さんを巻き込んだ話題転換をしていくつもりでしたが、会長はどんな意図でそのような事を?
「どうしても行くというのなら、そうだな…。
俺から教師に話を通しておいてやろう」
「ええ!!?」
なるほどそういう事ですか。そうですね、会長の策に乗って差し上げます。手順を間違えたら許しませんよ?
「構いません。それが真実の恋ならば私は退学だろうと受け入れるつもりです」
「た、退学……」
「真実の恋ならば身も心も捧げる覚悟はあります」
「(身も心も!?)馬鹿な事を!?」
何故ちょっと本気で答えているのですか。あくまで演技ですよ。私が有象無象の雑草に気を許すはず無いではありませんか。
「馬鹿じゃありません!熱烈な愛を伝えてきている人です。退学も覚悟で応えなくては、不義理ではないですか!」
ここまでくれば話題をずらせる。さあ、会長!今です!
「……だが、当事者の心の内がどうであれ生徒会たるもの常に周囲からどう見られるかを考えなければならない。
現副会長である四宮の行動はそのまま我々生徒会の評価にも直結する。それとも四宮は己の都合でその他を蔑ろにするほどの愛があると。
それほどの覚悟がある!そう言うのだな!!」
きた!これでラブレター云々ではなく、愛という話題にすり替わる。蔑ろにするというのは少し言い過ぎですが、この際いいでしょう!
「でしたら会長は体裁の前には真実の愛など崩れ去ってしまうと言うのですか!!多勢に屈してしまうような会長であると!!」
「そういう事ではない!
時に愛よりも優先すべきものがあると言っているだけだ!」
「でしたら聞いてみましょう。
藤原さんと所場さんはどう思われますか?」
議論が高まった際、周りの意見を求めるのはよくある流れ。そして、藤原さんの名を先にあげることで所場さんへの話題の振りを少しばかり和らげてくれる。
それにこの空気なら、拒否しづらいはず!
「わ、私は愛に勝るものはないと思います!けどぉ、かぐやさんにデートに行って欲しくありません。ぅぅうぇーんかぐやさん行かないでくださいぃ!!退学なんて嫌だあ!!うわぁーーん!!やだやだ!!居なくなっちゃわないでぇ!!」
ちょ、ちょっと藤原さん!?デートに行く行かないの話題に戻したら折角ここまで進めた流れが台無しではありませんか!
また、この娘は私の邪魔をして……!!
気持ちは嬉しいですけど、今はどうか黙っていてください!
「えっと、んんッ。
あ~、所場はどう思う?」
流石です、会長!!
藤原さんも所場さんの話なら無視できないはず!
タイピングの手を止めてこちらを向く所場さん。その所作の全てに気品が溢れている。幼き頃から仕込まれている事は想像に難く無い。
所場十八の素性は四宮家の力を使っても不明。
けれど、それはおかしい。この学園に入学が認められている時点で何かしら表だった情報があって然るべき。
それがほとんどない。
つまり四宮家以上の力を持った存在がその隠蔽に関わっているのは必然。
そのような家、一つしかない。
薄々分かってはいた事ですが───。
「……白銀さんは我々生徒会を想ってのお考えでしょうし、四宮さんもお相手を想ってのこと。
どちらも愛に溢れた素晴らしいものです。どちらに優劣もつけられません。
愛とはそういうものですから」
所場十八は無表情である。けれど決して感情が表に出ないわけではない。
現に今その頬を僅かに赤く染めている。
と、いうか……その言葉で頬を染めるって、つまり彼─────。
「……え、あ、もしかして所場は慕っている相手がいるのか?」
「エエェ!!?そうなんですか、十八さんッ!?」
「そうなの!?」
へ?あ、あああの一部生徒に大天使所場様と呼ばれるあの所場さんにす、好きな人が…………そんな、まさか!?
「いえ、お慕いしている方はおりません。これまで何度か恋文をいただいたこともありますが、丁重にお断りしております」
ですよねー。
「え、なんで……?」
「どうせ叶わぬ恋。終わりが確定している想いなら最初から応えない方が良いでしょう?
私と共にあれば不幸になる。私はそれを望みません」
その言葉の意味を私は理解できない。
当然の事。
私は彼の事を何も知らないのだから。
「……仕事も今日分は終わりましたので、私はこれで失礼します。
では、また明日」
その表情は諦め、それと落胆。私達の視線を切るように身を翻して所場さんは生徒会室を出て行った。
「…………十八さん、すごく悲しそうでした。それに、不幸にしてしまうって……どういう意味でしょう?」
藤原さんの疑問はもっとも。
叶わぬ恋……終わりが確定している……不幸になる。
彼の事です。きっとそれも誰かを想ってのこと。ならばそれはただならぬ事情。
想いが終わる、確定、相手が不幸。それはつまり……何かしらの事情で相手の前からいなくなるということ?
それって…………。
「……四宮」
「はい、何でしょう?」
分かっています、会長。
「どうやら俺たちに何かを躊躇う余裕などなかったようだ」
「そのようです」
「ここからは本気で取り掛かるぞ。恥も外聞も関係ない。あいつが何を抱えているのか、今の俺たちでは聞いても答えてはくれないだろう。
それ故に、早急に仲を深める必要がある。俺はあいつの力になりたい。
協力してくれるか?」
「ええ、もちろん」
「私も協力します!」
彼には借りがある。
彼はそんな事気にも止めていないのでしょう。見返りを求めない彼の優しさは誰も彼もを救ってしまう。
そうして色々と背負いこむ彼を私は知っている。
私はそんな彼を見て───────。
私にはできなくとも、会長なら……。彼と同じ優しさを持つ貴方ならきっと所場さんに手を差し伸べる事ができる。
私には助力が限界。
きっとこんな私の手なんて、彼は握り返してはくれない。
────3年前─────
「お早う御座います。四宮さん」
今よりも少しばかり声音が明るい所場さん。
あの日初めて彼から声をかけられた。
「…………」
「今日も良いお天気ですね。先日は疲労で倒れていた所を起こしていただきありがとうございました。
四宮さんは近頃はどうですか?」
「……」
「お昼を一緒にどうでしょう?今日は私も昼食を持ってきましたので」
「…………」
思い返すとあの頃の彼は今よりも口数が多かった。
私がどんなに酷い扱いをしようとも何も変わらずに話しかけてきた。
彼の最初の印象は軽薄な男。何か裏があるのか。普段から誰彼構わず優しさを振りまく彼が、私はどうしようもなく気持ち悪かった。
理解できず恐ろしく、怖かった。
それでも拒めずにいたのは心の片隅で彼への興味があったからなのか。
きっかけは何だったのでしょう。
彼が私に話しかけなくなったのは。
私は優しい彼すら嫌気がさしてしまうような人間だったのでしょうか。