「またあの子よ……」
「あの子、鬼のように暴れることがあるらしいわ……」
『やめて……やめて……』
「呪われてるのよ……うちの子には近づかないで欲しいわね……」
「前の傷害事件もあの子が犯人なんじゃないかしら……」
『違う……夕立はそんなのじゃ……』
「「「……化け物」」」
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
勢いよく飛び起きる、部屋の中には日光が差し込んでいる。
「はぁ……はぁ……」
息は荒く、涙が頬を伝っていた。
……悪夢だ 最近よく見る気がする。
過去の記憶は消せないらしい。
涙を拭った後、ベットから離れ、洗面所で顔を洗う。
鏡に映った自分の顔は曇っている。
「……準備しよう」
気持ちを切り替え、準備を始める。
今日は鎮守府に着任する日だ。
髪にリボンを付け、制服に着替えて靴を履く。
バックを覗いて何度も忘れ物が無いか確認し、部屋を出発する。
足取りは軽く、空は快晴だった。
※※※※
夕立は、この世に生まれた時から艦娘の力を有していた。
人間でありながら、艦娘の力を有している状態になっているために力を抑えきれず、周囲の人間、さらには親からも「化け物」と呼ばれ、家から追い出された。
行く当ての無い彼女は、数日間街を歩いた。
既に彼女はもう体力が無かったが、体の中にある艤装の力で本人の体力が尽きてもしばらくは歩けた。
だがそれにも限界が訪れ、脱力感が体全体を一瞬で覆い尽くす。
電柱にもたれ掛かって空を見上げ、光っている星の数を数えながら死を待ち続ける。
夕立は幼かったが、この瞬間、「自らの死」を感じとることは容易だった。
そして、諦めて目を閉じようとする。
その時、一人の男が現れた。
その男は、夕立を見るなり慌てだし、ポケットから取り出した何かを夕立の口に入れた。
それを飲み込んだ瞬間、夕立の体は光りだし、空腹感と疲労感が少し軽減される。
夕立は何が起こったのか理解できなかったが、目の前のこの男が助けてくれたということだけは理解できた。
男に何があったと聞かれ、夕立はぽつりぽつりと事情を話し始めた。
男は悲しそうな顔で夕立の話に相槌を打ちながら、ひたすら聞いている。
事情を話し終わった夕立は立ち上がって礼を言い、立ち去ろうとした。
すると、男から引き止められる。
「行く宛てがないのだろう、どこに行くんだ?」
「とりあえず、拾って貰えそうな場所をさがすっぽい」
夕立のその言葉に、男は顎に手を置いて考え出す。
「君、艦娘だろう? どうだ、うちの鎮守府に来ないか?」
「艦娘……?」
夕立は理解できず、男に聞き返す。
「俺は鎮守府の提督をやっている者だ、君が艦娘かどうかは俺の肩に乗っているこの妖精が判断してくれる」
よく見ると、男の方に小さな女の子が乗っていた。
「これが見えるんだろう? なら間違いは無いはずだ。君の事情を聞いたら放っておけなくなってな……俺の鎮守府に来れば、色々と面倒を見てやれる」
その言葉を聞き、夕立は少し考えた。
この男について行って、自分がどうされてしまうかは分からない。鎮守府、艦娘、妖精など、理解できない単語がさっきから何個も聞こえてくる。
しかしこれはチャンスだ、これを逃したら自分はもう死んでしまうかもしれない。
これ以上歩いたところで、拾ってもらえる場所があるとは限らない。
なら、ついて行った方が良い。
そう判断し、夕立は男について行くことを決めた。
※※※※
「今日新しい艦娘が来るんですよね?」
青色の長髪を揺らし、小柄な少女が笑いながら問いかける。
彼女の名前は「五月雨」鎮守府の初期艦であり、秘書艦である。
それを椅子に座って書類をまとめている男性が答える。
「あぁ、そうだ」
五月雨は話を続ける。
「確か、提督が以前から生活支援をされていた人ですよね?」
「そう、白露型の4番艦の「夕立」だ。お前も分かっているだろうが、姉に当たる人物だぞ」
「今まで何故着任してなかったんですか?」
「かなり弱っていたからある程度健康になるまで、着任はやめといた方がいい、と判断したからだ」
そう言うと、提督は伸びをした。
「それに、生まれた時から艦娘の力を持っている子なんて、あの子ともう1人しか知らないからな……少し、日常生活の観察をしようと思ってな」
「そうだったんですか……あっ、お茶ですっ!」
五月雨は提督の前にお茶を置く。
お茶からは湯気が立っておらず、提督は飲む前からお茶の温度を察した。
「あぁ、ありがとう」
提督は微妙に冷たいお茶を飲む。
「着任した頃から変わらないな」
提督がそう呟くと五月雨は首を傾げ、不思議そうに提督を見つめる。
そんな穏やかな雰囲気の部屋にノックの音が響いた。
「あっ!来ましたか?」
五月雨はたちまち笑顔になり、上機嫌でドアに近づく。
「あぁ、笑顔で迎えてやれ……入っていいぞ」
提督が返事をした後、ドアがゆっくりと開き、肌色の髪を揺らし一人の少女が執務室に入ってきた。
「こんにちは!白露型4番艦、夕立です!これからよろしくお願いします!」
元気よく夕立が挨拶をする。
「あぁ、よろしく」
━━ と、ここで五月雨があることに気づく。
「……? あの、提督……」
「どうした?」
「夕立姉さん、思ったより小さいというか。私の方がお姉さんみたいで……」
五月雨は、夕立が自分より身長が低いことを不思議に思っていた。
「それはだな……夕立、歳を言ってみてくれ」
「今は11歳っぽい!」
五月雨が驚きの顔を見せる。
「あれ!?そんなに若かったんですか!?」
「なんだ?五月雨には夕立の事は伝えたはずなんだが」
「年齢の事は聞いてませんでした……」
「夕立、これからどうすればいいっぽい?」
夕立が提督に問いかける。
それを聞き、提督が話し始める。
「そうか、まだ何も言ってないもんな……夕立、君は今日からこの鎮守府の艦娘になる。国のために深海棲艦と戦い、国民を守るのが俺たちの仕事だ」
「だが、まだ君は経験が浅いため、実戦をさせるには早すぎる。だから君には、数ヶ月の間鎮守府内の学校に通ってもらう」
「学校……?」
夕立は首を傾げる、学校も通えなかった夕立は、学校の存在を知らなかった。
「そうだ、そこでは様々な知識、経験を得ることができる。他にも艦娘がそこに通っているので、友好関係も築けるだろう」
「夕立、友達作れるかわからないっぽい……」
「大丈夫、ここには君と同じような子がたくさんいるから安心して話しかけてみるといい」
「わかったっぽい」
夕立は下を向いたまま返事をする。
「後はそこにいる五月雨が鎮守府の案内、説明をしてくれる。五月雨、頼んだぞ?」
「はいっ!わかりました!任せてください!」
五月雨は満面の笑みで提督に返事をし、夕立を連れて鎮守府を出た。
「……不安だな」
五月雨が行った後、提督は心配そうに閉まったドアを見つめていた。
夕立と五月雨は、広い廊下を歩いていた。
五月雨が道を間違えたり、転んだり、艦娘とぶつかったり、色々とドジをして時間は凄くかかったが、何とか最後の紹介場所まで来ることができた。
「ここで最後ですね、ここは工廠です!」
「正直疲れたっぽい……」
夕立が疲労困憊の顔で五月雨の後ろについて歩く。
「あはは……ごめんなさい、次から気をつけます!」
そう言いながら五月雨が工廠のドアをノックする。
「五月雨です!失礼します!」
中に入ると、緑色の髪の艦娘が艤装の修理をしていた。
顔には煤がついており、服は所々黒ずんでいる
「夕張さん!こんにちは!」
名前を呼ばれた艦娘が、笑顔で五月雨に問いかける。
「あっ!五月雨ちゃん、どうしたの?」
「新しく着任した夕立姉さんのことで……」
「あー!例の子ね!こんにちは!私は夕張、普段は艤装の修理とか装備開発をしているの、これからよろしくね!」
そう言って夕立の頭を撫でる。
「夕立っぽい!これからよろしくお願いしますっぽい!」
『例の子』と呼ばれたのが気になったが、特に深い意味は無いだろう、と考え気にしないことにした。
「あっ、夕張さん、明石さんいますか?」
「今は艦娘建造の作業をしてるかな?呼んであげようか?」
「いえ、自分で行ってきます!」
「そっか、この辺は機材が下に転がってたりするから気をつけてね?」
「はい、ありがとうございます!」
五月雨は元気に返事をして、走り出した。
だが、走り出した数秒後、床にあったトンカチを踏んで五月雨は転んだ。
「五月雨ちゃん……」
夕張は呆れた顔で五月雨を見る。
「ううぅ……」
「注意不足すぎるっぽい……」
夕立が五月雨に近づこうとしたその時、工廠の奥の方から声が聞こえる。
「今、なんか変な音がしなかった?夕張、大丈夫?」
奥からピンクの髪の艦娘が現れる、夕張に比べると服は汚れておらず、目の下に隈がある。
「大丈夫だよ、五月雨ちゃんが派手にすっ転んだだけ」
夕張は涙目の五月雨を指さす。
「あらら……気をつけてね?」
明石は苦笑を浮かべた。
「ううぅ……気をつけます…… 」
「明石、新入りが来たって」
「新入り?まだいたの?」
明石は不思議そうな顔をして問いかける。
「うん、昨日の子に続いて2人目」
「こんにちは!白露型4番艦!夕立っぽい!」
夕立はお辞儀をしながら明石に挨拶をする。
それを見て明石は笑顔で言葉を返す。
「こんにちは、私は明石。この鎮守府の工廠での作業を任されているの、よろしくね」
「よろしくっぽい!」
夕立の返事を聞いた後、明石はある事を夕立に問いかける。
「そういえば、艤装のテストの事は聞いた?新入りはまず、艤装に異常がないか確認するために同じ時期に着任した人と模擬試合をするんだけど……」
「まだしてないっぽい」
「じゃあそのうちあるかもね、それが終わって艤装になにか不具合があったら教えてね?」
「わかったっぽい!」
「……で、五月雨ちゃんはなんで私を探してたの?」
五月雨は服に着いた埃を払いながら答える。
「あ……いえ、「夕立姉さんの事について色々と教えておかなければいけないことがあるので、後で資料室に来て欲しい」と提督から言伝をいただいたので……」
「了解、ありがとね!」
「では私たちはこれで……夕立姉さん、部屋に行きましょう!」
「わかったっぽい!」
「失礼しました!」
工廠にドアが閉まった音が鳴り響く。
「ねぇ明石……どう思う?」
夕張が重い口調で問いかける。
「どうって?」
「夕立ちゃん、私は普通の子にしか見えなかったけど」
「私も、普通の子にしか見えなかったよ」
「……。」
「……。」
夕張と明石は黙り込んだ。
工廠には妖精の歩く音と作業音が響き渡り、重い空気に2人は押しつぶされそうになる。
「……あの子が、これからどうなっていくんだろうね」
夕張が口を開いた。
「……嫌な方に行かなければいいけど」
明石は夕張を見ずに返す。
2人はしばらくの間、口を開かずに閉まったドアを見つめていた。
五月雨と夕立は駆逐艦寮の廊下を歩いていた。
窓からは穏やかな海が見え、窓が開いている所からは波の音が聞こえる。
「いいところですよね、ここ」
「うん、景色も綺麗っぽい!」
「海も、戦いの真っ最中だなんて思えないくらい穏やかで……」
「……。」
「……あっ!ごめんなさい、しんみりしちゃいましたね!」
五月雨は慌てて振り返り、謝罪をする。
だが、夕立は聞いておらず、海の方を見つめている。
「……どうかしましたか?」
「あそこに誰かいるっぽい」
その言葉を聞いて、五月雨が夕立と同じ方を見る。
そこには、黒い髪の夕立と同じ制服を着た女の子が立っていた。
「あれは……時雨姉さんですね……」
「あの子も私の姉妹艦っぽい?」
「そうですよ、2番艦です。夕立姉さんの同期ですよ! でも、あの人は少し特別で……あっ!今のは聞かなかったことにしてください!」
勝手に五月雨が自爆したが、夕立は何も聞かなかった。
それよりも気になることがあったからだ。
(何故か、気になる)
(まだ会ったことも話したことも無いのに)
夕立は何故か時雨から目が離せなかった、理由は分からなかったが、時雨がその場から居なくなるまで、夕立は時雨を見つめていた。
数日後
朝から執務室に呼び出された夕立は、真剣な顔をした提督の前に立っていた。
「お呼びっぽい?なんですか?」
「夕立、今日は艤装のテストをする」
そう言った後、提督が椅子から立ち上がって本棚からファイルを取り出す。
「あっ、明石さんが言ってた……」
「そうだ、模擬試合を行って艤装に不具合がないか確認するテストだ」
そう言うと提督はファイルから1枚の紙を取り出し、夕立に渡す。
「これは、今日のテストの注意事項だ。目を通しておいてくれ」
「わかったっぽい」
夕立は貰った紙を一通り見る。
「よし、テストは12:30から始めるから、遅れないようにな?」
「了解っぽい!ところで提督さん?」
夕立が紙を不思議そうに見ながら言う。
「相手の欄、なんで空欄っぽい?」
提督に見えるように紙をテーブルに置き、自分の名前の隣の空欄になっているところを指さす。
「まだ決まってないからな、恐らく同時期に着任した艦娘が選ばれる」
「そうなんだ……」
「大丈夫だ、同じ時期に着任してるから、実力は同じくらいだ」
「うん、わかった、頑張ってみるっぽい!」
夕立は年相応の笑顔を浮かべ、執務室の扉の方へと向かっていく。
「じゃあ、時間に遅れないようにな」
「はーい!」
そう元気に返事した後、夕立は執務室を去っていった。
「……。」
「何が起こるかわからない、一応戦艦クラスも呼んでおこう」
「対戦相手は……あいつだな」
提督は椅子に座って、不安な表情を浮かべる。
「何も、起こらなければいいがな……」
pixivに投稿している、「心を埋めるもの」をこちらにも投稿することになりました!
自分はまだまだ未熟で、拙い文章もありますが、暖かい目で見守っていただけたら嬉しいです……!
なるべく投稿できるように頑張るので、よろしくお願いします!
追記
ここからはPart20を書き終えた私です。
現在発展途上のこの物語ですが、これから物語の長さ、文脈、表現などがどんどん進化していきます。(自分で言うのも少し恥ずかしいですが)
これを読んでいるということは、心を埋めるもの Part1を最後まで読んで頂き、後書きまで見ていただいたということなので、本当に感謝の気持ちしかありません。
もし、この1話を読んで先の展開に興味を持ちましたら、続きも読んでいただけるととても作者が喜びます。
よろしくお願いします。