【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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【艦これ】心を埋めるもの Part10 「戦いの余韻」

第八艦隊初の戦闘任務を終え、鎮守府に帰ってきた時雨と叢雲は鎮守府の大浴場にいた。

 

周りには任務終わりの艦娘が体を洗ったり、楽しく会話をしていたりしていて、時雨と叢雲は大きな風呂の端っこの方で疲れを癒していた。

 

この大浴場の隣には入渠ドッグがあり、不知火は今そこで治療をしている。

 

 

 

「みなさん、お疲れ様です」

 

隣の不知火の様子を見に行っていた春雨も合流し、湯船の中に入ってくる。

 

「あの後どうなったんですか……? 一応全員帰ってこれたようですが……」

 

髪の毛を湯船につけないように髪を結びながら、春雨が時雨に問いかける。

 

「色々とあった、位しか言えないかな」

 

「私達も何が起こったかまだ理解しきってないし……正直、色々ありすぎて考えることがめんどくさくなってきたわよ」

 

叢雲が後ろの壁にもたれ掛かり、タイル張りの天井を見ながら言う。

 

「結局、夕立のあの姿は何だったんでしょうね」

 

「あの姿?」

 

「あー……そう言えば、春雨は知らないのよね」

 

「あの姿って一体……?」

 

春雨が首を傾げながら叢雲に問いかける。

 

「それはね ━━━━」

 

叢雲は春雨に夕立のおぞましい姿について、ゆっくりと話し始めた。

 

 

※※※※

 

 

「そ……そんな事が……」

 

春雨は肩を震わせながら叢雲を見つめる。

 

「中から夕立が出てきた時は驚いたわよ。まさか、あれだけの力が夕立にあるとは思わなかったわ」

 

「…………」

 

春雨は顎に手を当てて考え込む。

 

「実は、夕立姉さんのその力について、ちょっと心当たりがあるかもしれません」

 

「どういうこと?」

 

「前に猫の捜索依頼をみなさんで行った時があったじゃないですか?」

 

「あぁ、私たちの初任務の時ね」

 

「その任務中、夕立姉さんは腕を猫に引っかかれていたんです……ですが、帰る時にはすっかり傷が治っていて……」

 

「見間違いとかじゃないの?」

 

「たっ……確かに傷があったんです!」

 

「どうしてそう言いきれるんだい?」

 

最初の会話以来、ずっと隅で会話を聞いていた時雨が春雨に歩み寄る。

 

「ポケットの中に血がついたハンカチがしっかりと入ってましたから……」

 

「なるほどね、確かに夕立を引っこ抜いた時、噛みちぎられた腕が再生してたね。それも夕立の力なのかな?」

 

「とてつもないパワーとスピード、それに並外れた再生力……夕立の中に眠っている力はかなり強大みたいだね」

 

時雨の言葉に春雨と叢雲が押し黙る。他の艦娘の楽しそうな声の中、3人の所だけは暗く、重い空気が場を支配していた。

 

「僕らに全く危害がないとも考えにくい、少し気をつけないとね」

 

そう言って、時雨は湯船から上がっていった。

 

※※※※

 

 

夕立が目を開けると、見覚えのある天井が見えた。

 

ベッドから起き上がり、周りをキョロキョロと見渡す。

 

そこは、鎮守府の病室だった。

 

「あれ?夕立は確か……」

 

(確か夕立は海の底に引っ張られて、それで……)

 

夕立の頭の中に残っている、意識を失う寸前に見えた光景は、確かに暗い海の底だった。

 

夕立は何故ここにいるのかと考えた、シンプルに考えれば、「味方が救出してくれた」のだろうが、どう考えても回収できるような深さではなかったはずだ。

 

鎮守府の潜水艦に救出してもらったのだろうか、と夕立は考える。

 

(なら、お礼を言いに行かないと……)

 

夕立がベッドから動こうとすると、激しい目眩と頭痛に襲われた。

 

「んっ……動けないっぽい……」

 

夕立はしばらく目をパチパチさせながら目眩と頭痛が引くのを待つ。やっと落ち着いてきて、動き出そうとした時、横からドアを開ける音が聞こえてきた。

 

「あっ、目ぇ覚めた?」

 

白衣を着た明石がファイルを持ちながら病室に入ってきた。

 

「明石さん、夕立は……」

 

「大丈夫大丈夫、何があったかはしっかり説明するからゆっくりしてて」

 

明石はそう言って、何枚か書類を持ちながら夕立のベッドの近くまで歩み寄ってくる。

 

「じゃあ何があったか話すね」

 

明石は任務の成功や仲間の安否、夕立の力について話し始めた。

 

※※※※

 

「とまぁこんな感じで、化け物になった夕立が深海棲艦達を退けたって感じだね」

 

「え……?夕立が敵艦隊一つを退けた……?」

 

「化け物になっている時の記憶は無いの?」

 

「全く無いっぽい……」

 

夕立の言葉の後、明石は書類のところに「記憶はなしか……」と言いながらメモを取る。

 

明石がメモを取り終わった後に夕立の方を見ると、夕立は涙を流していた。

 

「どうしたの?」

 

「また……また、みんな夕立を捨てちゃうのかな……せっかく見つけた居場所なのに、また失っちゃうのかな……夕立、まだ捨てられたくないっぽい……」

 

「…………」

 

明石は泣いている夕立を撫で、そっと自分の方へ抱き寄せる。

 

「大丈夫……大丈夫だから、安心して」

 

明石の胸の中で泣き続ける夕立、明石はかける言葉が見つからず、ただただ抱きしめることしか出来なかった。

 

※※※※

 

「ごめんなさいっぽい……」

 

「いいのいいの、私の胸で良かったらいくらでも貸すわよ」

 

「それに、夕立の気持ちも少し分かるしね……」

 

明石が夕立を撫でながら答える。

 

「じゃあ、私はちょっと提督のところに行かないといけないから、しばらく安静にしててね」

 

「わかったっぽい」

 

明石はそう言って病室を後にする、廊下を歩いている間、ずっと泣いている夕立の顔が思い浮かぶ。

 

(そうだよね、どんな力を持っていても中身はただの小さな女の子だもんね……)

 

手に持っている書類に少しシワが入る、遠い過去の回想が明石の手に力を込めさせた。

 

(これからあの子には過酷な日々が待っているかもしれない、だから私だけでもあの子を癒してあげたいな)

 

「よーし!頑張るぞ!」

 

明石は小さな女の子の支えになれるように、少しでも助けられるように、これから努力しようと心に決めた。

 

※※※※

 

 

夜の執務室、秘書艦の五月雨と提督はようやく執務を終え、ゆっくりと2人でお茶を飲んでいた。

 

「んっ……相変わらず、温いな」

 

提督が苦笑いをしながらお茶を飲む。

 

「あれっ……今日はしっかり温めた筈なんですけど……私が猫舌だから、味見の時にちょっと冷ましたりしてるのですが、もしかしたらそれですかね?」

 

「ははっ、そうかもな」

 

提督はそう言うと、五月雨が座っている執務机の前のソファーに腰をかける。

 

2人のお茶を啜る音と、時計の針の音が執務室に響く、居づらくならない程度の無言の空間が、一日の終わりを表現していた。

 

「夕立姉さん、どうなるんでしょう……」

 

唐突に五月雨が執務室の天井を見上げながら呟く。

 

「あの力の根源が分からない以上、作戦に出したくはない……だが」

 

提督が立ち上がり、本棚から鎮守府の艦娘のデータが入っているファイルを取り出す。

 

「大淀が言っていた通り、今は鎮守府の人員が足りない状況だ、今ある九の艦隊全てを動かさないと任務が溜まっていく一方だ」

 

それを聞いた五月雨が、立ち上がって窓から海を眺める。

 

「今は深海棲艦の動きが活発で、近海にも強い種類が出現してきてますからね……」

 

「第三艦隊の報告だと沖の方に戦艦級が現れたらしい、更に忙しくなるぞ」

 

提督の話が終わった後も、五月雨は夜の海を眺め続ける。

 

波の音は静かで、海から吹いてくる風は優しく心地良い。

 

この感覚に浸っていると、既に世界は平和なのではないかと錯覚してしまう。

 

「さて、そろそろ上がろうか」

 

提督がそう言ってソファーから立ち上がる。

 

「そうですね、今日もお疲れ様でした!」

 

提督の言葉を聞いて、五月雨も立ち上がる。

 

2人が自分の部屋に戻ろうと部屋を出ようとした時、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「入っていいぞ」

 

「失礼します」

 

入って来たのは明石だった。

 

書類を数枚腕に抱え、普段着ている作業用の制服ではなく、白衣を身に纏っていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「夕立ちゃんの事で色々と報告がありまして……」

 

明石はそう言うと、目の前の机に書類を並べる。

 

「まず、記憶の有無についてですが、本人の記憶には全く残っていない様です」

 

「やはりか……本人の意思で動いているわけではないようだな……」

 

「夕立ちゃんが幼い頃から苦しめられている破壊衝動とは、この暴走状態と同じもので間違いないかと思われます」

 

「川内さんから受け取った報告書の中に『抜き出す瞬間の夕立の体は物凄い高体温で、抜き出した瞬間に体温が戻った』と記載されていました」

 

明石はそう言って夕立の体の全体図が描かれている書類を指さした。

 

「度合いは違いますが、この体温が上昇するという特徴は私たち艦娘が改二状態へ移行した時に見られるものです。触るのが辛いほど熱くなるという事は無いですが……」

 

提督が明石の話を聞いて、書類を見ながら答える。

 

「夕立の暴走状態は、改二状態……またはそれに似たような状態になっている、という可能性が高いというわけだな?」

 

「そういう事です、ですが夕立ちゃんの場合色々とイレギュラーな部分があるので……確定だとは言いきれません」

 

「そうか……報告ありがとう、また何か分かったことがあったら俺に伝えてくれ」

 

「分かりました!では、私はこれで失礼します」

 

「お疲れ様でした」と言った後、明石は執務室を出ていった。

 

「夕立姉さん……大丈夫かな……」

 

五月雨が不安そうに呟く。

 

「まだ謎も多いし、これからどうなるかわからん……とりあえず明石や夕張に研究を進めてもらって、暴走の原因を突き止めていく事が大事だな」

 

「ですね……」

 

「もう今日の仕事は終わりだ、部屋に戻っても良いぞ」

 

「分かりました、では失礼します!」

 

五月雨が執務室から出る。ドアが完全に閉まるまで見送り、彼女が去ったと音で判断した後、執務室の椅子にもたれかかった。

 

(夕立の暴走化、突如活発化した深海棲艦……考えることが多すぎてパンクしそうになるな……)

 

提督は窓の方を見て、静かな波の音に耳を傾けながら目を閉じる。

 

(とりあえず、今日は帰って寝よう……明日から本腰を入れて頑張らないとな)

 

目を開けて椅子から立ち上がり、帰りの支度をする。

 

一通り忘れ物などを確認した後、提督は執務室を後にした。

 

 

※※※※

 

数ヶ月後

 

「いよーし!今日から全員で任務再開!あの戦いで私たちの班にも戦闘任務が与えられるようになったよー!」

 

川内が嬉しそうに夕立たちに話しかける。

 

夕立の絶対安静期間が終わり、初戦にして敵駆逐艦のイ級を討伐できた面も考慮して、提督は第八艦隊に再び戦闘任務を言い渡した。

 

任務自体は前の任務よりも達成が容易で、イ級が2体ほど確認された海域に調査に行くという任務だった。

 

(提督は戦闘任務を通じて夕立の力の本質を見極めたいんだろうけど……)

 

(正直、中々厳しいよね)

 

川内はゆっくり溜息をつき、夕立の方を見つめる。

 

「川内さん、夕立の顔になにかついてるっぽい?」

 

「いーや、ちょっと考え事してただけ、気にしないで」

 

(まぁ私も部下のことは気になるし、経過観察って感じかな?)

 

そうして川内は海面に着地し、出撃体制をとる。

 

そんな川内に続いて第八艦隊の駆逐艦たちもそれぞれ出撃体制に入った。

 

「ふぅー……じゃあ、行くよ!!」

 

「第八艦隊、出撃!!」

 

川内の掛け声と共に、全員が一斉に海へと出撃した。

 




Part10投稿しました、さめやんです

気づいたらもうPart10ですね……本当は短編にしたかったのですが、思った以上に描きたいものが多くて、こんな長くなってしまいました()

これからも私の作品を読んでいただけたら嬉しいです
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