【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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【艦これ】心を埋めるものPart11 「君にずっと会いたかった」

第八艦隊が今回与えられた任務は、イ級が2体ほど確認された海域への調査、可能であれば討伐という任務だった。

 

前回戦闘を行なった場所よりは少し沖側であり、イ級以外何もいないと判断できた場合のみ戦闘を行うという作戦で、川内を先頭に単縦陣を組みながら進んでいた。

 

「ちょっと夕立、あんたもう大丈夫なの?」

 

1番後ろの叢雲が前の夕立に問いかける。

 

「うん、体は大丈夫になったっぽい」

 

「そう、ならいいんだけど」

 

「夕立が休んでる間みんな何してたっぽい?」

 

「戦闘以外の任務だったり、川内さん直々に第八艦隊のみんなを扱いてもらったりしてたわね、正直、あんたにもやらせてやりたいくらい過酷な訓練だったわよ……」

 

叢雲が肩を震わせながらそう言った。

 

1番先頭の川内にも聞こえていたのか、川内が後ろを向いてニヤリと笑う。

 

「今度夕立も含めてみんなでやるから、覚悟しておいてね?」

 

「ぽ……ぽいぃ……」

 

「みんな、そろそろ雑談はやめにした方がいいみたいだよ」

 

時雨が真正面を見ながら厳しめの口調で言った。

 

「前を見て、イ級が三体いる」

 

そう言って時雨は前方を指さす。確かにそこには駆逐艦イ級が三体並んで泳いでいた。

 

「報告よりも少し多い数だね、川内さんの判断で戦うか戦わないか決めるけど、どうする?」

 

「1匹くらい増えたって変わらないよ、今回はしっかりお互いをカバーし合いながら団体戦で行こう」

 

川内はそう言って主砲を構える。

 

「第八艦隊、戦闘開始!」

 

「「「了解!」」」

 

川内の合図で駆逐艦達が一斉に主砲を構えた。そして、川内が指でサインを送ると、夕立以外の全員が敵の方に進んで行った。

 

迷いの無い突撃に少し夕立は驚いたが、直ぐに後ろに着いていく。

 

「時雨、不知火は私と一緒に主砲での近距離戦闘!春雨と叢雲は隙をついて魚雷で狙って!」

 

川内の指示に4人が頷いた後、時雨と不知火が川内に続いて突っ込んでいく。

 

「夕立は後方支援!横から回り込んでダメージを与えて!」

 

「ぽ、ぽい!」

 

川内からの指示を受け、夕立は横に回り込んで主砲で攻撃を開始する。

 

「不知火!目!」

 

「了解!」

 

時雨の指示の後、不知火がイ級の片目に突き刺すように主砲を構えた後、弾を放つ。

 

「今だっ……撃てっ!」

 

不知火は衝撃で少し後ろに飛んだが、一回転して体制を整えた後に海面に着地する。

 

不知火が放った弾は見事にイ級の目を捉え、イ級の片目から青い血が流れ始める。

 

「今だ!叢雲!」

 

時雨が振り返って叢雲に支持をする。

 

「分かってるわよっ!当たれぇっ!」

 

片目を破壊されて悶絶しているイ級に、叢雲が魚雷を放つ。

 

叢雲が放った魚雷は一直線に進み、イ級の体の下から水柱を上げた。

 

周囲にイ級の体に付いている装甲が飛び散り、血飛沫が空中に舞う。

 

「よし!当たったわ!春雨と夕立はそのイ級を仕留めきれてなかった時の為にそこで監視、時雨と不知火は私と一緒に次のイ級にいくわよ!」

 

叢雲は魚雷が当たった事を周りに報告をすると、時雨と不知火を連れて次のイ級を討伐しに行った。

 

(みんな凄いっぽい……!夕立がいない間にこんなに強く……)

 

数ヶ月で予想以上の成長をしている仲間たちに、夕立は驚きの感情を抱く。

 

「みなさん、本当に頑張ったんですよ」

 

春雨がゆっくりと夕立の方へ近づいてくる。

 

「川内さんに自分達から頼み込んで特別訓練をしてもらったり、夜遅くまでみんなで特訓をしたり……夕立姉さんがいない間、とにかく強くなろうと頑張っていたんです」

 

そう言うと春雨は朗らかに笑う。

 

「そっか……」

 

 

 

「今では駆逐艦級なら倒せる実力まで来て……中々の成長っぷりだよ」

 

後ろで戦いを見ていた川内が夕立と春雨に近づいてくる。

 

 

「でも、そろそろあたしの出番かな?」

 

残りのイ級は2匹で固まって動いているらしく、少し時雨達は苦戦していた。

 

「私も早く持ち場に戻らないと……!」

 

「ゆ、夕立も加勢するっぽい!」

 

仲間の成長に気を取られていた夕立と春雨は、慌てて持ち場に戻った。

 

 

 

 

「あぁもう!2匹でちょこまかと動かないでよ!魚雷が狙いにくいじゃない!」

 

叢雲が苛立ちの声を上げながら、魚雷をしまって主砲で攻撃をする。

 

片方のイ級を落とそうとするともう片方が襲いかかってくる状態、この乱戦中に攻撃する隙を見つけられる実力は時雨たちにはまだ無かった。

 

「……っ!叢雲、後ろ!」

 

時雨が叢雲に向かって叫ぶ。

 

「きゃあっ!」

 

叢雲は気づいてから回避をしたがギリギリ避けきれず、突進が足に当たって吹き飛ばされる。

 

それを不知火がキャッチし、叢雲を水面に立たせようとするが、叢雲はその場で崩れ落ちてしまった。

 

「ちょっと掠っただけなのに足が折れちゃったみたいね……」

 

「わ、私が連れていきます!」

 

動けなくなった叢雲を春雨が回収しようとするが、1匹のイ級がそこに突っ込んできた。

 

「……っ!まずい!」

 

時雨がそれを対処しようとするが、少し反応が遅れてしまい、イ級が春雨の目の前まで来る。

 

 

 

そして、イ級が春雨を噛み潰そうと口を開けた途端 ━━━━━

 

 

イ級の口に魚雷が打ち込まれ、イ級が内部から爆散した。

 

 

 

「あ……え……?」

 

何が起こったのか理解できていない春雨の前に、上から川内が着水する。

 

「うーん、まだまだ練度不足だね、帰ったらもっと訓練しないとかな?」

 

「せ……川内さん……」

 

「後は私が終わらせておくから、皆は叢雲をどうにかしておいて!」

 

川内はそう言うと、飛び上がってイ級に向かって主砲を構え、イ級の頭部に何発も弾を打ち込んだ後に魚雷を投げつける。

 

魚雷が触れ、イ級の頭部で大爆発が起きた。煙の中から周イ級の頭の破片や血が飛び散ってくる。

 

爆煙が晴れた後、そこには全身がヒビだらけになったイ級がいた。

 

 

 

爆風で上に舞い上がっていた川内はイ級の上に着地し、主砲を突き立てる。

 

「これで任務完了だよ」

 

川内はそう言って主砲を放つ。

 

至近距離で軽巡級の主砲を受けたイ級は頭部の半分を失って絶命した。

 

「いつ見ても……凄いっぽい」

 

轟沈確認をする川内の後ろ姿を見て、夕立は感嘆の声を漏らす。

 

「いつまでもすごいなんて言ってらんないよ、夕立は数ヶ月の間何もしてなかったんだからみんなよりもっと訓練しないと」

 

そんな夕立に川内が少し強めの口調でそう言った。

 

確かにそうも言ってられない、夕立は他の仲間に比べて数ヶ月のブランクがあるため、明らかに実力差が出来てしまっていた。

 

「帰ったら夕立も混ぜて特訓しないとだね!」

 

「ぽ、ぽいぃ」

 

夕立はこれから待ち受ける訓練を想像して、少し弱気な声を出した。

 

 

 

「じゃあ、とりあえず帰ろうか」

 

旗艦の川内のその言葉で、第八艦隊は鎮守府の方向へと進み始めた。

 

※※※※

 

鎮守府に帰る最中、時雨は来る時と同じように中央に位置していた。

 

敵がいつ出てきても問題がないように、周囲を警戒しながら進む。

 

すると、遠くに人影が見えた。

 

(あれは……艦娘……?)

 

遠くに見えたのは時雨達の鎮守府の別艦隊だった。川内達と同じように単縦陣を組みながら沖の方へ進んでいる。

 

(……っ!?)

 

時雨の視線は、その艦隊の2番目に並んでいる艦娘に集中していた。

 

何処かで見たことがあるような姿、懐かしいような後ろ姿を見つけ、時雨は目を離せずにいた。

 

━━━ もしかして

 

 

 

 

「時雨、どうしたっぽい?」

 

 

 

考え事をしている最中に突然後ろの夕立に話しかけられ、時雨がビクッと肩を震わせる。

 

「あ……あぁ、特に何も無いよ」

 

慌てて後ろを振り向いて夕立の呼び掛けに答えた。

 

その反応に夕立は微妙な顔をしながらさらに問いかける。

 

「そうなの?遠くをボーッと見つめていたように見えたっぽい」

 

「敵が居ないか警戒していただけだよ」

 

「ふーん」

 

そう言うと夕立は時雨を見習うように周りを警戒し始める。

 

何とか誤魔化しきれたと安心した時雨は、顎に手を当てて考え事をする。

 

まだ後ろから視線を感じるが、時雨はもう気にしないことにした。

 

(もし……もし、あれがあの人だったら、すぐに会いにいかなくちゃいけない)

 

 

 

 

 

 

(それが、僕が艦娘になった理由だから)

 

 

 

 

 

 

 

戦闘の余韻かそれとも別の何かか、理由は分からないが、第八艦隊の中ではただただ静かな時間が流れていた。

 

その静寂の中、時雨は自分の中で生まれた僅かな疑問と希望を胸に抱きながら、仲間と共に鎮守府へと帰っていった。

 

※※※※

 

任務終了後、夕立は1人で海岸を歩いていた。

 

心地よい夜風と波の音が全身を包み、幻想の中の世界に居るような感覚を夕立に味合わせる。

 

しばらく歩いた後、浜辺に漂流したであろう丸太を発見し、そこに腰を下ろす。

 

(暴走……か)

 

夕立は、自分の中に眠る恐ろしい力について考え始める。

 

海の底に沈んだ時、体の奥から溢れ出てきたあのドス黒い感覚が胸から離れずに、心のモヤとなって夕立を苦しめていた。

 

(夕立、これからどうなっちゃうんだろう)

 

これからの自分の事を考えて、夕立は頭を抱えた。

 

途方もなく続く水平線を見つめながらため息を漏らす。

 

完全に一人の世界に入り込み、油断していたその時。

 

 

 

「そこの君、どうしたんだい?」

 

 

 

 

急に後ろから話しかけられ、夕立は飛び上がる。

 

聞き覚えの無い声、恐る恐る後ろを振り返ると、そこには眼鏡をかけていて、黒髪を後ろに結んだ少し身長の高い女の人が立っていた。

 

「風邪、引いちゃうよ?」

 

「あっ、えっと」

 

「あぁごめんごめん、たまたまこの辺を歩いてたら寂しげな背中が見えたもんだから、ちょっと話しかけちゃった」

 

初対面で物凄くフランクな言葉使い、夕立が『もしかしたら一度会ったことがあるのでは無いか』と一瞬感じてしまうほど、親しみがある声で話しかけられ、少し困惑する。

 

「あっ、話しかけちゃいけない感じだった?」

 

その女性は申し訳なさそうにそう言って、その場から立ち去ろうとする。

 

「だ、大丈夫っぽい」

 

「そっか、なら良かった。こんな所で何をしていたの?」

 

夕立が引き止めるようにそう言うと、その女性は安心したような表情を浮かべた後、夕立に質問をする。

 

夕立は少し考えた後、

 

「ちょっと色々と考え事をしてたっぽい」

 

と答えた。

 

「……そっか、ちょっとお姉さんもそこに座ってもいいかな?」

 

女性の問いかけに夕立は縦に首を振り、それを見た女性はゆっくりと夕立の方に近づき、夕立の隣に座った。

 

2人で何分か少し海を眺めた後、女性は夕立の方を向いて話しかけてきた。

 

「ねね、君の名前はなんて言うの?」

 

「夕立っぽい」

 

「夕立……か、いい名前だね」

 

女性は夕立の名前を聞くと、海の方を向き、月を真っ直ぐに見つめた。

 

「お姉さんはなんて名前っぽい?」

 

「あたしの名前は礼花、ライカって呼んで」

 

夕立が名前を聞くと、女性は月を見つめたまま名前を言った。

 

月を見つめる彼女はどこか儚げで、メガネの下の緑色の目が月明かりに照らされて、寂しげに輝いている。

 

どこかで見たことがあるような目だ。

 

夕立は必死にその目の持ち主を思い出そうとするが、思い出せなかった。

 

「ねね、夕立ちゃん……だっけ?」

 

顎に手を当てて必死に思い出そうとしている夕立に、急に礼花が話しかける。

 

「ぽ、ぽいっ!」

 

不意をつかれた夕立は少し驚いたが、すぐに平常心を取り戻し、返事をした。

 

「君、艦娘でしょ」

 

「……!なんで分かったっぽい?」

 

「あ、やっぱり?何となくそんな気がしたんだよね」

 

急に自分の正体について質問され、しかも当てられてしまった夕立は驚愕の表情を浮かべる。

 

今は艤装も出していない、気づく要素は無いはずなのだが、礼花は夕立が艦娘だと言い当てた。

 

「ね、ねぇ……礼花さ━━━━━━━」

 

なぜ自分の正体に気づいたのかを礼花に訪ねようとした時、自分の後ろの方から何かが聞こえてきた。

 

 

 

水から上がる音、何かが水中から出てきた音だ。

 

 

 

夕立は後ろを振り返った。

 

そこには、軽巡級より少し大きめの装甲を身にまとった、人型の深海棲艦。

 

重巡級のリ級が海から出てきていた。

 

「……っ!なんでこんな所に!?」

 

夕立はすぐさま艤装を展開して戦闘態勢に入ったが、完全に不意をつかれていた夕立は対応するのが遅れてしまい、腹部に一撃を食らってしまった。

 

「あがっ……!?」

 

吹っ飛ばされた夕立は、すぐに立ち上がり、礼花の前に立つ。

 

「礼花さんを……守らないと……」

 

人間である礼花を戦闘に巻き込むわけはいけない。

 

重巡級の一撃を食らってしまったため、体が激痛でほぼ動けない状態になっている。

 

何とか姿勢を立て直して、リ級の攻撃の盾になろうとするが、リ級の攻撃は今までの駆逐艦の攻撃力とは段違いで、夕立は数発で体がボロボロになる。

 

「逃げて……礼花さん!死んじゃうっぽい……!」

 

夕立はボロボロになりながら必死に礼花に呼びかけるが、礼花はその場から動こうとしない。

 

(なんで……!?)

 

余裕がだんだんと無くなってくる。

 

(もう……限界っぽい……)

 

心臓の動機が緊張と絶望でどんどん早くなっていく、一瞬の戦闘だったが、完全に相手にペースを取られてしまっていたため、夕立は一瞬で押し負けてしまった。

 

身体が限界を迎え、両膝が地面に着く。

 

疲れと共に湧き上がってくる絶望感と礼花を守りきれなかった罪悪感の重量から逃れることが出来ず、夕立の体は前に倒れていく。

 

(……!)

 

体が地面に倒れていく最中、体の奥からあの黒い感覚が溢れだしてくる。

 

つま先からゆっくりと感覚が消えていき、考える力がゆっくりと無くなっていくのが実感出来た。

 

前に夕立が暴走した時と同じ感覚だ、ゆっくりと自分の体が侵食されていき、視界がぼやけていく。

 

(あぁ……また夕立は暴走しちゃうっぽい)

 

夕立は自分がこれからどうなってしまうのか理解出来てしまった、抗うことの出来ない感覚に心を押し込まれながら、礼花の方を一瞬見る。

 

(でも、礼花さんを守れるなら……それでいいっぽい)

 

 

 

夕立はその感覚に体を任せることにした。

 

黒く染まっていく視界を受け入れ、勝手に動く体に身を委ねる。

 

夕立の意識はそこで止まってしまった。

 

 

 

「ッ━━━━━━━━━━━━━━━!!!!」

 

 

 

夜の砂浜に化け物の咆哮が響く。

 

リ級は目の前の敵の急激な変化に驚いたのか、攻撃の手を緩めて防御体制をとる。

 

そんな事をお構い無しに、黒い化け物と化した夕立は目の前の重巡級を引き裂こうと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━ だが、何者かに腕を掴まれ、夕立の手はそこで止まってしまった。

 

 

 

 

「おっとと……」

 

夕立の横には、後ろで見ていたはずの礼花が立っていた。

 

先程夕立と喋っていた時と同じように、柔らかい表情で立っている。

 

その様子はどことなく余裕がある様で、それと同時に嬉しそうな表情をしている。

 

礼花は掴んでいた夕立の腕を離し、そのままリ級の方へ歩き出す。

 

「ごめんね、本当はこんなことしたくないんだけど……」

 

心底悲しそうな声でそう言った後に、礼花はリ級の艤装に手を伸ばす。

 

リ級は抵抗したが、礼花はそれをものともせずに歩いていく。リ級の艤装に礼花の手が付いた瞬間、リ級の動きは止まってしまった。

 

リ級の艤装は礼花に触れられた部分から徐々に崩れていき、リ級は浮力を失って海に沈んでいく。

 

「それと……君もだよ、夕立ちゃん」

 

リ級が沈んでいくのを見届けた後、攻撃対象を失って立ちすくんでいた夕立の方にも手をかざす。

 

足の方から黒いオーラが消えていき、一瞬で夕立は元の姿に戻されてしまった。

 

「あ……れ……?」

 

何が起こったのか理解できかった夕立は、その場で礼花をしばらく見つめた。

 

暴走の反動で、倦怠感が体を一気に襲ってくる。

 

視界が霞み、その場に倒れ込んだ夕立を礼花は拾い上げる。

 

「さっきのを見て確信したよ、夕立ちゃん」

 

ゆっくりと消えゆく意識の中で、礼花の口元が微かに動く。

 

 

 

 

「君にずっと会いたかった」

 

 

 

 

意識が消える最後の瞬間、礼花がそう言った様な気がした。




お待たせしました……Part11です

変わらずゆっくりペースで進めていくので、よろしくお願いします
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