夕立が摩耶に弟子入りしてから1ヶ月後、摩耶が任務に向かったため、夕立は1人で訓練場にいた。
間に何回か任務はあったが、目撃情報があった海域に到着しても敵艦が見えず、鎮守府に撤退する日々が続いた。
この不穏な状況が鎮守府に影響を与え、鎮守府内では普段と少し違った空気が流れていた。
その空気に耐えきれなかった夕立は、ほぼ一日1人で訓練場に籠っていた。
「ふっ!」
夕立の主砲から弾が飛んでいく、その弾は見事に的を吹き飛ばした。
何回も何回も繰り返し練習することで、夕立の砲撃の命中度は上がった。
夕立は額に伝う汗を手で拭い、その場で膝に手をつけて下を向く。
(これで、みんなに追いつくことが出来たかな......)
胸の中に期待と不安が込み上げる。
この2週間、川内と摩耶の訓練を両方こなしてきた夕立は、ある程度自分に力がついていることを実感できた。
夕立はまた的を設置し、次々と砲撃で倒していく。
ただただ訓練場には夕立の砲撃音だけが響く。
夕立が用意していた最後と弾丸を放った時には、もう既に日が暮れていた。
「あっ......もうこんな時間っぽい」
夕立は拾い集め、籠に入れて持ち帰る。
訓練場の入り口まで帰ってきたその時、隣のアスファルトの土台にぼんやり人影が見えた。
「......?」
夕立がじっくり目を凝らすと、その人影は消えて居なくなってしまった。
(何だったんだろう)
目の前の不思議な現象を必死に脳で理解しようとしたが、夕立の頭では到底理解することが出来ず、とりあえず鎮守府に戻ることにした。
翌日
朝、午後から久々の掃討任務がある夕立は、午前中に摩耶との訓練をしていた。
摩耶の攻撃を避ける回数も増え、夕立の動きにキレが生まれ始めていた。
「だいぶ動くようになったじゃねーか」
摩耶が夕立に蹴りを入れながら、夕立の動きを褒める。
「これだけ訓練してたらっ……避けられるようになるっぽいっ!!」
その攻撃を避けながら、夕立は摩耶の言葉に答えた。
1発、2発と打ち込まれる砲撃を機敏に避けながら、摩耶の懐に潜り込んで反撃をする。
それを摩耶は軽く流した後に、夕立に向かってタオルを投げつける。
「おしっ!今日はここまでだな」
夕立が時計を見ると、任務開始2時間前になっていた。
任務内容の確認やメンバーとの会議があるため、夕立は鎮守府に戻らないといけない時間になっていた。
「だいぶ良くなってきたぞ、お前の動き」
「ほんと?」
「マジだよ、あたしの攻撃を避けられるようになった時点で成長だ」
摩耶からの真っ直ぐな褒め言葉を聞かされた夕立は、顔をニヤケさせながらタオルに擦り付ける。
その様子を見た摩耶は、少し微笑んだ。
「これで時雨にも追いつけるかな!?」
夕立はニコニコしながら摩耶を見つめる。
「あぁ!あたしが教えてんだ!絶対に勝てるようになると思うぜ!」
摩耶はニカッと笑うと、夕立の頭に手を乗せて乱暴に撫でる。
「なぁ、夕立」
「ぽい?」
夕立の頭を撫でながら、摩耶が夕立に問いかける。
「お前って、時雨の話を良くするよな……ライバルかなんかなのか?」
夕立は摩耶からの質問について少し頭で考える。
しばらく考えた後、答えが整理出来た夕立は口を開く。
「うん……夕立にとって時雨は、ライバルっぽい」
「違った環境で育ってきたけど、同じ能力同士……それなのに、圧倒的な差があるっぽい」
夕立は拳を握りしめ、時雨に惨敗したあの日のことを思い出す。
「でも、夕立は負けたままじゃいられないっぽい!絶対に超えてみせるっぽい!」
夕立は天に拳を掲げ、大声で宣言をする。
その様子を見ていた摩耶は、笑いながら夕立の肩を掴んだ。
「目標があるなら絶対におめーは強くなる!あの天才に目にもの見せてやろーぜ!夕立!」
「ぽいっ!」
「……じゃあ、そろそろ行かないとだろ?」
摩耶の言葉で夕立は任務の事を思い出す。
夕立はハッとして帰りの支度を始めた。
「つい熱くなって、もう戻らなくちゃいけないことを忘れてたっぽい!」
「何やってんだよ……早く行ってこい!」
焦って帰り支度をする夕立を見て、摩耶は苦笑いをしながら言う。
「はーい!」
摩耶の言葉に元気に返事をし、夕立は鎮守府の方に帰っていく。
摩耶はその後ろ姿をしばらく見守った後、使った的や目印などを片付け始めた。
正午を過ぎた頃、出撃前の艤装点検をする為に工房に集まる。
第八艦隊のメンバーは自分の艤装を展開し、不備がないか一つ一つ確認していた。
「夕立ちゃん、今日の調子はどう?」
「元気っぽい!」
「おっけー、一応艤装見せてね?」
艤装と体とのリンクが特に強い時雨と夕立は、その日の体調にも左右されてしまうため、健康チェックも含めて明石と夕張が確認していた。
「……大丈夫かな、動き辛いとかない?」
「ないっぽい!」
夕立は元気よく返事をすると、グッドサインを明石の顔の前に出す。
明石はそれを見て微笑んだ後、夕張とチェック表を確認し合う為に少し離れる。
確認が終わった後に夕立の方を見ると、楽しそうに第八艦隊のメンバーと話す様子が見えた。
「最近の夕立ちゃん、調子良さそうね」
夕張が明石に話しかける。
「うん、笑顔も増えたと思うよ」
明石は夕立の方を見ながら、そう答える。
「最近は暴走の報告もないし、摩耶さんの協力もあってかなり力がついてきたみたい」
「摩耶さんに夕立ちゃんを頼んだのって明石だったの?」
夕張が明石の顔を覗き込みながら問いかける。
「いーや?摩耶さんが言ったのよ、「あたしが強くしてやるんだ!」ってね」
「そっか......あっ、このチェック表持ってっとくね」
そう言うと夕張は、自分と明石のチェック表を持って工房の奥に向かった。
「じゃあそろそろ出撃ドッグに行こうか!」
旗艦の川内が第八艦隊のメンバー全員にそう呼びかけると、全員が立ち上がる。
「じゃあ、気を付けて行ってきてください!」
明石の言葉に各々返事をしながら、第八艦隊は出撃ドッグの方向へ歩いていった。
出撃ドッグにて、第八艦隊はそれぞれ海面に立ち、出発の時間を待っていた。
微妙に暗い出撃ドッグの中で、それぞれが出撃前の最終チェックをしている。
「……あの」
頭のリボンを直していた夕立に、横から不知火が話しかける。
「夕立さん、最近任務に参加していませんでしたが、体の方は鈍ってないのですか?」
不知火が夕立を鋭い目線で見ながらそう言った。
「そうね、私たちとの訓練以外にしっかり体動かした?」
不知火の言葉に叢雲も反応し、夕立に問いかける。
「多分大丈夫っぽい!足引っ張らないように頑張るから心配しないで欲しいっぽい!」
夕立は心配そうに夕立の方を見る2人に元気よく返事をし、両手を上げて元気そうなポーズをした。
「私たち、だいぶ強くなったわよ?春雨だって魚雷をしっかり当てれるようになってきたし、ね?」
「ふぇっ!?はっ、はい!頑張りました!」
急に叢雲に話を振られた春雨が驚きながら返事をする。
春雨はモジモジしながらも前を向き、自分の帽子を深く被り直す。
「私だって……頑張りましたから!」
春雨の前とは違った表情を見て、夕立は少し驚きながらも安心する。
前までの春雨は、頼りなく、虫1匹も殺せないような艦娘だった。
しかし、今の春雨の目の奥には何処か自信があり、少し前とは違う雰囲気を漂わせていた。
「足引っ張ったりしないでよね!」
叢雲が腕組みをしながら夕立に言う。
(大丈夫……大丈夫、夕立もいっぱい特訓したっぽい!今日こそ活躍してみせるっぽい!)
夕立はそう決意し、頭のリボンを固く結んだ。
「そろそろ出撃の時間だね、みんなそろそろ出る準備をしないと」
話を隅で聞いていた時雨が全員にそう呼びかけ、全員が前のゲートをじっと見つめた。
ゲートがゆっくりと上がっていき、外の光が差し込んでくる。
全員が前を見ている中、時雨は夕立の方を横目で見ていた。
(摩耶さんとの訓練、だいぶ厳しい訓練だったみたいだね)
(君がどれくらい強くなったか、見せてもらうよ)
「じゃあ行くよ!」
川内の言葉で時雨も前を向き、第八艦隊の全員が海を見つめている状態になる。
潮風に全員の髪が揺れ、それぞれの真剣な表情が太陽に照らされる。
それを見た川内は大きく息を吸い、出撃宣言をする。
「第八艦隊!出撃します!!」
川内の言葉で全員が海に向かって発進し、各々が自分の位置について進んでいく。
久々に全員揃っての第八艦隊の任務が始まった。
鎮守府がだんだんと遠くなっていき、ほとんど見えなくなってきた頃、夕立達は敵の目撃情報があった海域の近くまで進んでいた。
夕立は久々の任務に少し緊張しながらも、陣形を崩さずに真剣に取り組む。
「ねぇ夕立、摩耶さんとの訓練ってどれぐらい大変だったの?」
あまりにも夕立が気を張りつめている様子だったので、叢雲が緊張を解すために後ろから話しかける。
「すっごく辛かったっぽい……大体が対面の訓練だったから、全身アザだらけで毎日任務終わりにドッグに向かう日々っぽい……」
脳裏に摩耶との訓練の記憶が浮かび上がり、夕立は途端にゲッソリとした顔になる。
「うわっ、それはキツいわね」
「でも、そのおかげで色々な感覚が体に染み付いたっぽい!」
「それが対面の訓練のメリットだものね、強くなったアンタの力、期待してるわよ」
「ぽ、ぽい!」
叢雲の期待に満ち溢れた表情に、夕立は思わず元気に返事をしてしまった。
(うぅ……期待されるとちょっと怖くなるっぽい)
夕立は叢雲に顔が見えないように前を向いて、後悔の表情をした。
その時、夕立の耳にとある音が入った。
水を進む音、艦娘が海の上を進むのとは少し違う、水の「中」を何か大きなものが進む音。
夕立は音が聞こえた方向を向いて、主砲を構える。
しかし、そこには何もいなかった。
「どうしましたか?夕立さん」
不自然な動きをする夕立を見て、不知火が問いかける。
「何も……いないですね、どうしましたか?」
夕立の動きを見て、反射的に同じ方向に主砲を向けていた春雨も、夕立に問いかけた。
「何か聞こえたっぽい、水の中を進むような音が……」
夕立の言葉を聞いた川内が耳を澄ませた。
微かにだが、確かに何かが水の中を進む音が聞こえる。
(……これは!?)
「総員!その場から離れて!!」
川内が声を荒らげ、全員に命令を出す。
川内の命令を聞いた駆逐艦達は、すぐにその場から離れた。
すると、駆逐艦達が元々立っていたところから水柱が立つ。
「これって……!?」
叢雲が青ざめた顔で周りを見る。
「これは潜水艦の攻撃だ……どうやら、もう既に囲まれていたみたいだね」
時雨が手に爆雷を持ちながら戦闘態勢をとった。
全員が背中合わせになり、全方位を部隊全員で見る状態になる。
すると、ほぼ全ての方位から敵の潜水艦が現れた。
「全員戦う準備はいい?」
川内がそう聞きながら全員の顔を見る。
駆逐艦達は全員小さく頷き、主砲を敵に構えた。
「行くよ!みんな!」
「「了解!!!」」
川内の言葉で全員が敵の方に突っ込んでいき、それぞれの場所で戦闘が始まった。
「春雨!真下に爆雷!」
時雨が敵の動きを予測し、春雨に指示を出す。
春雨は時雨の指示通りに下に爆雷を投げ、その場所から避難した。
水中で爆発が起き、敵の艤装の破片が浮かび上がってくる。
「どうやら沈められたみたいだね、一応ソナーも確認しよう」
時雨がソナーを確認すると、既に反応は消えており、敵が轟沈したのを確認できた。
「時雨姉さん、他のところの援護に行きますか?」
「うん、とりあえず不知火の方に行こう」
時雨と春雨が話し合っていると、後ろから川内が近づいてくる。
「時雨、もしかしたら近くにもう一艦隊いるかもしれない」
「見えたんですか?」
時雨の問いに、川内は夕立の方を指さす。
「さっきから夕立が変な方向を意識しているんだ、だから……恐らくいる」
川内の言葉に、時雨は少し複雑な顔をする。
「何故それが敵がいる根拠になるんですか?」
「多分だけど……あの子は摩耶との訓練で様々な感覚が研ぎ澄まされてるんだと思う、さっきの潜水艦に一番最初に気づいたのは夕立だったからね」
川内は夕立を見て、ニヤリと笑いながらそう答えた。
「相当強くなってると思うよ、夕立」
川内の言葉に時雨が唾を飲み込む、春雨はキラキラした目で夕立を見ていたが、時雨だけは怪訝な表情で夕立を見つめていた。
「とりあえず、不知火が一人で2匹を相手してる状態になってるから、春雨と私はそっちに行こう」
「じゃあ僕は叢雲の方に向かうよ」
「ん、頼んだよ」
川内と春雨が不知火の方に向かっていくのを見て、時雨は叢雲の方に向かう。
しかし、目線は夕立から離れずにいた。
叢雲が主砲を構え、敵めがけて発射する。
敵はすぐに水の中に潜り、叢雲の主砲を回避した。
「あーもう!ちょこまかと!」
叢雲は四方を警戒し、敵が浮上してきていないことを確認し、自分の真下に爆雷を投下する。
爆雷の爆発に巻き込まれないようにすぐに避難し、遠巻きに爆発を眺める。
(……やったの?)
敵を撃破できたのか確認するために、叢雲は自分のソナーを確認しようとすると、水中から青白い手が伸びてくる。
完全にソナーに気が行ってしまっていた叢雲は体を掴まれてしまった。
「まずっ……!」
(確か深海棲艦は、死に際に敵を深海へと引きずり込んで沈めようとする習性があったはず……!)
腕まで抱えられている状態になってしまっているため、主砲が使えない叢雲は、何とか引き剥がそうと体をよじらせる。
(くっ……何とかあれを対処したいけど、僕の方にも潜水艦がいる……!)
その状況を遠くから確認していた時雨は、遠くから叢雲を掴んでいる潜水艦を撃ち抜こうとするが、別個体から時雨に向かって放たれた魚雷を対処するのに精一杯な状況になっていた。
叢雲の体がどんどん沈んでいき、腰あたりまで海に入ってしまっていた。
(このままじゃ……!)
叢雲は水中に行くことを覚悟し、大きく息を吸った。
時雨は何とか敵を排除し、叢雲の方に主砲を向ける。
すると、別方向から砲撃音が聞こえた。
とてつもなく精密な射撃、弾はそのまま叢雲を掴んでいた潜水艦の頭を綺麗に撃ち抜く。
砲撃の主は夕立であった。
夕立はそのまま物凄いスピードで叢雲の方に近づき、潜水艦に強烈な回し蹴りを食らわせる。
蹴り飛ばされた潜水艦は5mほど吹き飛ばされ、海面に叩きつけられた。
「大丈夫っぽい?」
「え、えぇ……」
夕立が叢雲に手を差し伸べ、それを掴んだ叢雲は海面へと這い上がった。
何とか水面に立った叢雲は、敵が飛んでいった方向を見る。
そこには、完全に頭の形が変形してしまっている潜水艦の死体が浮かび上がっていた。
(たった1発の蹴りでこんなに……夕立、あんたどんだけ強くなってんのよ!?)
叢雲は驚異の表情で夕立を見る。
そんなことは全く知らない夕立は、敵の死体に近づいて頭に3発砲撃をした。
「うん、多分これで大丈夫っぽい!次に行くっぽい!」
そう言うと夕立は、また別の敵の方へ突っ込んで行った。
それを唖然とした表情で見つめる叢雲のそばに、時雨が近づいてくる。
「大丈夫だったかい?」
「い、一応大丈夫よ」
「夕立、僕らが思ったよりも強くなってるみたいだね」
時雨が夕立の背中を見ながら言う、叢雲はその言葉に頷いた。
「僕らは夕立の援護に行こうか」
「そうね……」
時雨の言葉に叢雲が賛同し、2人は夕立の援護に回ることにした。
「西方向!新たな敵艦隊が来るっぽい!!」
夕立は元々居た潜水艦に爆雷を食らわせながらそう叫ぶ。
時雨がその方向を見ると、確かに敵艦隊が一部隊近づいてきていた。
「私も……くぅっ……!」
叢雲はすぐさま応戦しようとするが、深海棲艦に掴まれた箇所を激痛が襲う。
潜水艦とはいえ、相手は深海棲艦。
普通の人間より頑丈な艦娘の体を、簡単にへし折ることが出来るほどのパワーを持っている生物だ。
死にかけの最後の力だったとはいえ、叢雲の骨にヒビを入れるのは簡単だった。
「叢雲、君は川内さん達を呼んできてほしい、その体で戦うのは無茶だよ」
「うぅ……分かったわ……」
時雨の言葉で、叢雲は川内達が戦っている方向へ向かっていく。
その後ろ姿をある程度見守った後、時雨は敵艦隊の方へ進んでいく。
(ハ級が2匹にヘ級が1匹、重巡が1匹か……1人じゃ厳しいかもね……)
敵艦隊を冷静に分析し、どう倒すか考えている時雨の横に、夕立が現れる。
「夕立も行くっぽい!」
「前の君だったら、僕は止めてたけど……今の君なら多少は信頼できるかな」
時雨はそう言うと、夕立に着いてこいとハンドサインをする。
夕立はそれに従い、時雨の横にピッタリとついて一緒に進む。
「君は右の2体を頼んだよ、僕は左の2体をやる」
「分かった!!任せて欲しいっぽい!」
夕立はそう言うと、勢いよく敵艦隊の方へ突っ込む。
ハ級が1匹、夕立の腹を抉るために噛みついてくる。
夕立が避けようと体を動かしたその瞬間、夕立の目には摩耶の拳が飛んできているように見えた。
(……!これって……!)
普段の練習通り、ギリギリ紙一重で避けられるように体を横に動かす。
すると、大きな風を切る音と共に、駆逐艦級が夕立の横を通り過ぎて行った。
続けて敵の重巡級が主砲を夕立に向けて放つ。
夕立はそれを自らの感覚で紙一重で回避し、重巡級に急接近する。
急に近づかれた重巡級は、咄嗟に手を前に出して夕立の頭を潰そうとするが、重巡級の手は空を切り、握りしめたのは虚無だけだった。
重巡級の攻撃を回避した夕立は、重巡級の頭を掴んで膝蹴りを食らわせる。
青い血が辺り一体に飛び散り、重巡級は頭を抱えながら悶えた。
「流石に重巡級は一撃じゃすまないっぽい……」
夕立は反撃を警戒してすぐに重巡級の傍を離れ、ハ級の方を見る。
ハ級は方向を変え、夕立の方に突進してきている最中だった。
「……!」
夕立はそれ見ると、避けるのではなく、逆にハ級に接近していった。
そして、突進してくるハ級の目に主砲を突き刺し、勢いよく砲撃をした。
ハ級は内部から爆発し、破片と肉片を飛び散らせながら沈んでいく。
夕立も衝撃で後ろに吹き飛んで行ったが、すぐさま体制を立て直して水面に着地する。
「あと……あの重巡だけっぽい!」
夕立は全速力で重巡級に近づき、1発、2発と砲撃をする。
重巡級はそれを自らの装甲で弾き返し、夕立に反撃をした。
重巡級の反撃は夕立の腹に直撃し、夕立はすぐさま後ろに退避する。
「げほっ!ごほっ!!」
夕立は血を吐きながら重巡級を睨む。
(こんなの……摩耶さんのパンチに比べたら……!)
夕立はすぐに自らの魚雷を発射し、飛び散ったハ級の装甲の破片を握りしめる。
「これでも食らうっぽい!!」
夕立はその破片を重巡級に向けて全力で投げた。
予想外の方向から放たれた破片は重巡級の喉に直撃し、重巡級が仰け反る。
その瞬間、先程夕立が放った魚雷が重巡級の真下に到達し、大きな水柱が立った。
重巡級の体は吹き飛び、破片とともに海底へ沈んでいく。
「ふぅ……」
重巡級が沈んだ場所をしっかりと確認し、轟沈したのを確認した夕立は、時雨の方を見る。
ちょうど時雨もハ級とヘ級を倒しきったタイミングで、こっちの方を見ていた。
「本当に強くなったみたいだね、夕立」
時雨が額の汗を拭いながら夕立に話しかける。
「ほ……本当っぽい!?」
「うん、少し前の君とは全然違うよ」
「そっか……!」
自分の成長を実感し、夕立は思わずガッツポーズをする。
喜んでいる夕立の背後から川内達がやってきて、辺りを見渡す。
「あんた達……2人で終わらせちゃったの!?」
川内達を呼びに行った叢雲が、驚いた表情をする。
「……夕立さん、本当に強くなったんですね」
不知火が夕立に話しかける。
その表情は、任務に行く前に夕立に質問をしていたとは違う、柔らかい表情だった。
「正直、久しぶりの任務で腕がなまっているものだと思っていました。疑ってしまい、申し訳ございません」
そう言って、不知火が頭を下げる。
夕立は顔を上げて欲しいと頼んだが、不知火は頭を下げたままだった。
「これで、任務は完了ですか?」
春雨が川内に話しかける。
「多分完了だね、報告されていた潜水艦達は駆除できたし、追加の艦隊も沈められたからね」
川内は辺りの海の状況を見て、自分の任務表を確認しながら言った。
「じゃあ戻るよ、みんな」
川内の言葉で全員が鎮守府の方面へ進み始める。
「ねぇ、夕立」
一人浮ついた表情で帰路に着く夕立に、時雨が後ろから話しかける。
「ぽい?」
「正直、ちょっと前までは君は僕よりも全然弱くて……眼中に無い、ただ同じ体の構造をしている人だと思ってた」
(そうだったの!?)
時雨の急なカミングアウトに驚きながらも、夕立は少し悲しい表情をした。
「でも、今は違う」
時雨は前とは違う表情で、夕立のことを真っ直ぐ見つめる。
今まで目が合っているのか合っていないのか分からなかった時雨の目が、夕立の目を真っ直ぐと見つめていた。
「君の強さは充分この目で見せてもらったよ、正直、追いつかれたくないって思ってしまうくらいに」
「だから、これからの君は……
━━━━━━━━━━━━━━━ 僕のライバルだ」
時雨からの突然のライバル宣言に、夕立は少し思考が停止する。
「……!!」
夕立の脳が段々と発言を理解しだした瞬間、体の奥から熱いものが湧き上がってきた。
ライバル宣言、自分が追いかけてきた存在からの最上級の褒め言葉。
湧き上がる興奮を抑え、夕立は時雨の方を見る。
「君にだけは、負けないよ」
「望むところっぽい!!!」
夕立は大きな声で叫ぶ、その表情は前とは違う、自信と強さに溢れた表情だった。
夕日が時雨の顔を照らす。
時雨も夕立と同じく、自信に満ち溢れた表情をしていた。
夕立はこの日のことを忘れないように、瞼の裏にその表情を焼き付ける。
同じ体、違う境遇の2人が今、共にライバル宣言をする。
熱く、強く、そして美しい2人の信念の契りは━━━━━━━━━━━━━━━
一つの轟音でかき消された。
お待たせしました、Part14です。
最近イラストにも小説にもゲームにも色々と力を入れ始めたので、中々に忙しく楽しい日々を送っております、作者のさめやんです。
こういうのってなんかいいですよね、趣味で忙しい時が1番生を実感するというか、何と言うか。
さて、不穏な終わり方となったパート14ですが、いかがだったでしょうか。
個人的にはこういうライバル関係ってすごい好きなんですよね、お互いに高めあって、最後の最後までお互いの技を極めあって……
ん……ライバル……?高め合う……実力のぶつかり合い……スポーツ……走る……レース……?
その時、ふと閃いた! このアイディアはライスシャワーとのトレーニングに活かせるかもしれない!!▼