【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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【艦これ】心を埋めるもの Part15 「突然の乱入者」

広い海に砲撃音が鳴り響き、第八艦隊の周りに何本も水柱が立つ。

 

一撃一撃が今まで戦ってきた相手とは比にならないほどの衝撃で、腹の奥底に砲撃の音が響いてくる程だった。

 

「敵の援軍だ!みんな撤退出来そう!?」

 

川内が振り向いて叫ぶ。

 

「川内さん……春雨が……!」

 

夕立が春雨の肩を支えながら、川内に訴えかける。

 

先程の敵の砲撃に一撃被弾してしまい、春雨は片腕が吹き飛んでしまっていた。

 

(くっ……!これは本格的にまずいかもね……!)

 

ぐったりした様子の春雨、吹き飛んだ片腕からは血が止めどなく流れている。

 

敵艦隊の中には、重巡級より一回り大きい個体が三体ほど含まれていた。

 

「戦艦級……」

 

時雨が敵の姿を見ながら小さな声で呟いた。

 

戦艦級、危険度は姫級に次ぐトップクラスの敵艦であり、火力も装甲も他の敵とは頭一つ抜けている個体だ。

 

メンバーが1人戦闘不能になっている状態の夕立達にとって、戦艦級の襲来は絶望でしかなかった。

 

「叢雲、不知火は春雨を連れて鎮守府まで戻れる?」

 

「川内さん達はどうするのですか?」

 

不知火が心配そうな声で川内に問いかける。

 

「あたし達ができるだけアイツらを足止めするから、鎮守府まで春雨を連れて帰ってあげて」

 

「無茶よ!幾ら三人が強いからって……戦艦級3匹を相手に戦うなんて!」

 

叢雲が強めの口調で川内に言う。

 

「でも、これ以外に選択肢はないよ。早めに戻らないと春雨の命が危ないし、かと言って足止め無しで全員で帰投するのは危険すぎる」

 

川内は淡々とそれ以外の選択肢のリスクについて話す。

 

「救援はさっき夕立が呼んだよ、僕らはアレを倒すのを目的とする訳じゃなくて、足止めをするのが目的だから大丈夫」

 

時雨が叢雲の肩を掴み、真剣な表情で見つめる。

 

 

 

 

「大丈夫だよ、僕達は沈まないから」

 

「……信じるわよ」

 

 

 

 

叢雲はそう言うと、春雨を夕立の肩から自分の背中に移動させ、不知火と共に鎮守府の方向へ戻っていった。

 

その背中をある程度まで見守った後、川内たちは振り返って敵艦隊の方を見る。

 

川内は主砲を敵の方に向けながら、時雨と夕立を交互に見つめる。

 

「……さて、2人共まだ戦えそう?」

 

夕立と時雨は小さく頷き、2人も主砲を構えて戦闘態勢に入る。

 

「戦艦級の攻撃は食らっちゃダメだよ、春雨は片腕で済んだけど、直撃したら致命傷になると思った方がいい」

 

川内の言葉に夕立と時雨は唾を飲み込む。

 

今までも死と隣り合わせの戦場で戦ってきたが、ここまで緊迫した戦場で戦うのは初任務ぶりだった。

 

夕立は、ここで死ぬことになるかもしれない、と覚悟を決める。

 

「私たちの目標は足止め、倒すことより生き残ることを意識して立ち回ろう」

 

「「了解!」」

 

「行くよ!」

 

川内の指示で、3人は敵の艦隊の方に突っ込んで行った。

 

 

 

 

鎮守府の司令室に、夕立からの救援依頼が届いた。

 

「大淀、直ちに救援艦隊の準備だ!鎮守府に残っているのは第三艦隊だ!第三艦隊を派遣する!」

 

「了解しました!」

 

大淀が提督の指示を聞いて、鎮守府内にアナウンスをする。

 

『緊急、緊急!鎮守府内の第三艦隊の皆さん!至急、執務室まで!繰り返します……』

 

大淀がアナウンスをする横で、提督は海域図を広げる。

 

夕立から信号を受け取った座標から位置を特定し、辿り着くまでの距離と時間を計算する。

 

(辿り着くまでに第三艦隊だと早くても約30分、間に合うか……!?)

 

 

 

「おい!何の呼び出しだ!?」

 

第三艦隊の旗艦、摩耶が勢いよく執務室に入ってくる。

 

その後ろから、第三艦隊のメンバーがぞろぞろと執務室に入ってきた。

 

「提督、第三艦隊揃いました」

 

鳥海がメンバーの顔を確認し、提督に報告する。

 

提督は自分が手に持っていた海面図を机の上に乗せ、第三艦隊の全員に見えるようにする。

 

「呼んだ理由は第八艦隊の救援を頼みたいからだ、今すぐに出撃の準備をしろ」

 

(第八艦隊……!?)

 

艦隊の名前を聞いた途端、摩耶の顔が豹変し、提督の方に歩み寄る。

 

「夕立達に何かあったのか!?」

 

摩耶が机の上に両手を叩きつけ、提督に問い詰める。

 

「現在、春雨が致命傷を負って戦闘不能、それを帰還させる為に旗艦の川内と夕立、時雨が足止めをしている状況だ」

 

提督が海面図の夕立達が戦っているところを指さし、摩耶に説明する。

 

「相手は戦艦級だ、しかも三体も確認されている……このままでは川内達が危うい、艤装の準備は明石たちに既に頼んであるから、直ぐに出撃ドッグへ行ってくれ!」

 

説明を聞いて、既に執務室から出ようとしていた摩耶に、提督がそう伝える。

 

「あぁ……分かった!」

 

摩耶は荒々しく返事をすると、執務室のドアを蹴り飛ばす。

 

「てめぇら!急いで向かうぞ!あいつらを死なせるわけにはいかねぇ!」

 

「「「了解!!!!」」」

 

旗艦の摩耶の指示で第三艦隊の全員がすぐに執務室を出ていき、出撃ドッグまで走っていく。

 

(頼む……アタシ達が到着するまで耐えてくれ……!)

 

摩耶は夕立達の無事を祈りながら、鎮守府の廊下を走る。

 

そんな摩耶の後ろでもう1人、不安そうな表情をしている少女が一緒に走っていた。

 

 

(お願い、生きててね……!)

 

 

 

 

(時雨……!)

 

 

 

 

 

※※※

 

 

「ぽいっ!!!」

 

夕立の主砲から砲撃が放たれ、敵の駆逐艦イ級の頭を撃ち抜いた。

 

イ級の頭にヒビが入り、青い血が吹き出す。

 

すかさず夕立はイ級に急接近し、もう一度砲撃を食らわせる。

 

「グォォォォォォォ!!!」

 

イ級は暴れながら夕立の方に突っ込んできたが、夕立はそれを軽く避けて、魚雷を発射する。

 

放たれた魚雷はイ級の少し横を通り過ぎていき、離れたところに水柱が立つ。

 

「外したっぽい!?」

 

魚雷を外したことにより、ダメージが入らなかったイ級は、夕立の方に口の中の主砲を構える。

 

夕立はそれを見て、ゆっくりとイ級から距離を置き、放たれるまでじっと見つめ続ける。

 

瞬間、イ級の主砲から砲弾が放たれた。

 

放たれた砲撃は弧線を描きながら夕立の方に飛んでくる。

 

飛んできた砲撃を紙一重で避けた夕立は、ぐっと海面を踏みしめて、イ級に突っ込んで行く。

 

「ぽぉい!!!」

 

最高速度まで到達し、イ級のヒビの部分に蹴りを入れようとすると、夕立の蹴りは空中で止まった。

 

(戦艦級……!)

 

夕立の蹴りは、援護に来た戦艦級の腕の装甲に阻まれ、少し凹みを入れる程度で終わってしまった。

 

「くっ……!」

 

攻撃に失敗した夕立は、すぐに戦艦級から距離を取って体勢を立て直す。

 

 

 

 

「夕立!伏せて!」

 

 

急に川内が夕立に向けて叫ぶ。

 

川内の声に反応し、咄嗟に体を伏せたその瞬間、頭の上を川内が相手をしていた戦艦級の砲撃が掠めていき、すぐ近くに着弾する。

 

爆発の衝撃で夕立は吹っ飛ばされたが、空中で姿勢を建て直し、時雨のすぐ隣に着水した。

 

「っふぅー……川内さんの言葉がなかったら、今頃大変なことになってたっぽい……!」

 

「今は常に人数不利になっているから戦いにくいね、離れすぎないように3人で着実に敵陣を崩していこう」

 

「分かったっぽい!」

 

時雨の言葉で、夕立は時雨と背中合わせになって周りを見る。

 

夕立と時雨の周りには戦艦ル級が1匹、重巡級が2匹、ボロボロの駆逐艦イ級が1匹と、計4匹の深海棲艦がいる。

 

夕立がイ級の方に主砲を向け、放とうとした瞬間、別方向から川内が吹っ飛んでくる。

 

川内は体制を建て直しながら着水し、夕立と時雨の方に近づく。

 

「これは、倒さないと帰してもらえなそうだね」

 

「救援はいつごろくるっぽい?」

 

「分からない、要請を出してから結構経ったから……そろそろ来てくれると思うんだけど」

 

川内は遠い海の彼方を見つめ、そう言った。

 

そんな話をしていると、敵の砲撃が連続で3人に降り注いできた。

 

それを三人はギリギリで避け、川内がイ級へ主砲を放つ。

 

放った砲弾はル級たちの間をくぐり抜けて、イ級へ直撃した。

 

もう既にボロボロだったイ級は、川内の一撃がトドメとなり、爆発と共に轟沈していった。

 

(敵は残り5匹……残りの2匹を落とさないと、3人でル級を相手するのは厳しいかな)

 

川内は下唇を噛み、苦渋の表情をする。

 

「夕立と時雨は左から展開して、お互いをカバーし合いながら、ル級1匹とそれ以外の奴の気を引いて欲しい」

 

川内は敵の方を指さしながら夕立達に指示をする。

 

「私は右から展開してル級2匹の相手をするから、そっちは頼んだよ」

 

 

川内はそう言うと、右側に展開していった。

 

 

 

 

「まず、ル級の周りの2匹をおびき寄せなきゃいけない、ゆっくりと引き剥がしていくよ」

 

時雨はそう言って、三角形のような形で固まっている3匹の真ん中に、魚雷を数本発射させた。

 

魚雷が爆発した瞬間、夕立と時雨は水柱の中を突っ切って突撃していき、それぞれ重巡リ級と軽巡ホ級に全力の蹴りを入れる。

 

蹴り飛ばされた2匹は体勢を立て直し、ル級の方に戻ろうとするが、すかさず夕立が主砲でリ級の方を攻撃し、戻れないように抑えた。

 

「引き剥がせたっぽい!時雨、行ける!?」

 

「大丈夫、行くよ!」

 

2人で一気にホ級に近づき、至近距離からの主砲を放とうとした瞬間、ル級から支援射撃が飛んでくる。

 

「くっ……!」

 

流石の2人も攻撃を続けることが出来ず、一旦距離をとる事にした。

 

「やっぱり人数不利が響いてくるね……」

 

「2人で相手をするのは大変っぽい……」

 

明らかな人数不利を肌で感じとり、2人は詰めるに詰めれない状況だった。

 

「でも、やるしかない……もう1回行くよ!」

 

「っぽい!」

 

時雨と夕立は、先程と同じような動きで2人で距離を詰めていく。

 

すると、ル級が先程より積極的に動き出し、突っ込んできた2人に主砲を構えた。

 

「……っ!?マズい!」

 

ル級から砲撃が放たれたが、時雨と夕立は別々の方向に回避し、なんとか避けることが出来た。

 

(……!直ぐに合流を!)

 

時雨はすぐに夕立の方に合流しようとする。

 

(……!この音って……!)

 

夕立もすぐに体制を立て直したが、耳でとある音を聞き取った。

 

水中を何かが進んでいく音、それを聞いた夕立は、時雨の方を振り返った。

 

「来ちゃダメっぽい!」

 

全力の声で、夕立は時雨を静止する。

 

その声を聞いた時雨は、立ち止まってすぐにバックした。

 

時雨が少し後ろに下がった瞬間、二人の間に大きな水柱が立つ。

 

(これって……僕たちがさっきしてた……!?)

 

敵に自分たちの戦法が利用され、2人は引き剥がされてしまった。

 

瞬間、水柱の中からホ級とリ級が飛び出し、2人に向かって主砲を放つ。

 

2人は砲撃に直撃してしまい、後方に吹っ飛ばされてしまった。

 

「げほっ……ごほっ……!」

 

腹に食らってしまった夕立はダメージが大きく、よろよろと立ち上がる。

 

 

(……マズい!)

 

夕立の状態を見た時雨は、すぐに夕立の方に向かって行く。

 

すると、道中をホ級とリ級に阻まれた。

 

「っ……!邪魔だよ!!」

 

時雨はホ級の頭の装甲を蹴りあげ、顔面に主砲を放つ。

 

リ級が後ろから時雨に主砲を放ったが、時雨はそれを間一髪で避け、軽巡級に当てて同士討ちをさせた。

 

時雨の攻撃とリ級の攻撃をまともに食らったホ級は、爆発と共に轟沈していった。

 

時雨はその一瞬の隙を突き、夕立の方へ向かう。

 

「大丈夫かい?」

 

「う……うん」

 

夕立はまだフラフラしている様子だった。

 

夕立の息遣いがどんどん荒くなっていき、口から血を吐き出す。

 

目がゆっくりと濁っていき、瞳の光が失われていく。

 

時雨は、目の前の夕立の変化を感じ取っていた。

 

(これって……!)

 

「夕立、もしかして君……!」

 

「大丈夫……大丈夫っぽい」

 

夕立がそう言って立ち上がった瞬間、今まで戦線から姿を消していたル級が、目の前に現れた。

 

「……っ!?」

 

時雨はすぐに主砲を構えてル級に放ったが、駆逐艦の火力では、装甲に少し傷をつけるだけで終わってしまった。

 

ル級は自身の大きな艤装を振りかざし、夕立に叩きつける。

 

夕立の体全体に重い振動が伝わっていき、夕立は海面に叩きつけられた。

 

 

 

夕立は頭から血を流し、ぐったりとした様子で倒れている。

 

「……!夕立!?」

 

時雨はすぐに飛ばされた夕立のそばに駆け寄るが、時雨が近寄った瞬間、夕立はゆらりと立ち上がった。

 

どこか虚ろげな顔をしていて、全身に力が入っていないように見える。

 

不気味な夕立な様子を、ル級と時雨が見つめていると━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

瞬間、夕立が甲高い悲鳴を上げた。

 

 

 

(……!?)

 

遠くでル級2匹の相手をしていた川内は、その声を聞いて、すぐに振り返る。

 

(あっちで一体何が……!?)

 

川内は夕立たちの心配をする。

 

すぐに向かおうとするが、2匹のル級に阻まれて動けない状態になってしまった。

 

(くっ……やっぱりこっちを終わらせないと行けないかっ……!)

 

 

 

夕立の周りを黒いオーラが包み込んでいき、夕立は頭を抱えながら悶える。

 

(これって……!?)

 

全身の毛が逆立つ感覚、心を強く握り掴まれたような不気味な感覚。

 

時雨は、夕立のこの変化に見覚えがあった。

 

(これは本当にマズいっ……!)

 

時雨はすぐに夕立から距離をとり、敵と夕立の両方を警戒する。

 

どんどん夕立の傷が直っていき、瀕死寸前から普通に動ける位まで回復した。

 

完全に夕立の周りを黒のオーラが覆い込み、黒い球体になる。

 

 

 

やがて、その球体にヒビが入り、中から獣の声のようなものが聞こえてくる。

 

「このタイミングで暴走するとはね……夕立」

 

時雨が夕立の方を見ながら、そう呟く。

 

 

完全に球体が割れ、中の黒いオーラが外に溢れ出した瞬間━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

何故か、中から普通の夕立が出てきた。

 

 

 

 

 

溢れ出ていた黒いオーラは全てどこかに消滅していき、夕立はその場に倒れ込んだ。

 

(……えっ?)

 

あまりに予想外な出来事に、時雨は目を離せなくなっていた。

 

(夕立は完全に暴走状態に移行しそうになっていた……実際、球体が現れた時に中から獣のような声も聞こえた)

 

敵のリ級とル級も、無表情ながら、どこか拍子抜けな雰囲気を醸し出していた。

 

(明らかに能力の暴走が途中で『中断』されたようだった……何故……?)

 

時雨が考え込んでいると、リ級が夕立に主砲を構える。

 

主砲を構えられても、避ける様子がない夕立を見て、時雨はすぐにリ級の方に主砲を撃ち、隙をついて夕立の元へ駆け寄った。

 

「夕立、起きれるかい?」

 

時雨の呼び声に、夕立が返事をすることは無かった。

 

(完全に気を失ってしまっているね……)

 

そう判断した時雨は、夕立を海面に置いた後に、リ級とル級の方を見る。

 

「ここからは、僕が相手だ」

 

時雨はそう言うと、ル級の方に突っ込む。

 

魚雷をリ級の方に撃ち、ある程度牽制しながらル級の懐まで近づいた。

 

「恐らく君の弱点は、装甲以外の部分……つまり、何もついていない胴体の部分だね」

 

時雨は主砲を構え、ル級の胴体に一撃を叩き込んだ。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━ しかし、時雨の攻撃は見えない何かに軽減され、ル級にはかすり傷程度しか入らなかった。

 

「……っ!どうしてっ!?」

 

主砲を撃った後の、少しの時間を突いて、ル級は腕の装甲で時雨を殴り飛ばした。

 

戦艦級の重い一撃が時雨の体を襲い、体のどこかが折れる音がはっきりと聞こえてくる。

 

「げぼっ……!がはっ……!」

 

時雨はその場に血を吐き、よろよろと立ち上がる。

 

なんとか体制を立て直して主砲を構えるが、強いめまいと痛みでその場に倒れ込む。

 

(こん……な……ところで……僕は……)

 

時雨は血で滲む目をル級に向け、強い憎しみの籠った目で睨みつける。

 

(僕は……僕は、死ぬ訳には……いかないのに……)

 

目の前に倒れ込む時雨を見て、無情にもル級は主砲を構える。

 

主砲の装填が完了し、ル級から砲撃が放たれた。

 

 

 

━━━━━━━━━瞬間、時雨は体が宙に浮いたような感覚になる。

 

 

 

 

 

 

「いやー、危なかった」

 

川内が時雨を抱えて爆発から救い、夕立の横に座らせる。

 

川内は相手をしていたル級2匹の間を抜いて、時雨たちの救出に来ていた。

 

 

「これ、応急用の修復液だから、飲んでおいて」

 

川内はそう言って、時雨に小瓶を渡す。

 

時雨はそれを受け取って飲み干すと、体の痛みが少し和らいだ。

 

全身傷だらけの時雨を見て、時雨の頭を撫でる。

 

「よく頑張ったね、時雨、夕立」

 

川内はそう言うと、振り返って敵の方を見る。

 

普段からは絶対に感じとれない、川内の鋭い殺意。

 

時雨はそれを、川内の背中からひしひしと感じとっていた。

 

 

 

 

 

 

「っふぅー…………やっと本気が出せそうだ」

 

 

 

 

 

 

川内がそう言うと、川内の体が光に包まれた。

 

 

 

 

川内の艤装の形がゆっくりと変わっていき、服装もどんどん変わっていく。

 

(な、何……?一体何が起こって……!?)

 

川内の体が完全に光に包まれ、周りに強い衝撃波を放つ。

 

光が消え、完全に姿が変わった川内が現れる。

 

「ふぅ、久々だからアップに少し時間がかかっちゃったけど……もう加減はしないよ」

 

川内は静かにそう呟くと、敵の方へゆっくりと歩き出す。

 

時雨はその背中を見つめていたが、明らかに普段とは違う雰囲気を醸し出していた。

 

(川内さんの体に一体何が……!?)

 

川内が元々相手をしていたル級2匹も合流したが、川内は相変わらずゆっくりと歩いて近づいている。

 

そんな川内に痺れを切らしたリ級が、川内の方に突進してくる。

 

リ級が川内の目の前まで来て、川内の頭に主砲を放とうとすると━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

川内はそれを紙一重で避け、リ級の顔面に膝蹴りを入れた。

 

 

 

 

あまりに一瞬の出来事に、誰も状況を把握できなかった。

 

顔面がグチャグチャになったリ級は、前が見えずに、その場で暴れ回る。

 

そんなリ級を見つめながら、川内はリ級の顔に主砲が触れるように構え、至近距離で砲撃をした。

 

頭を吹き飛ばされたリ級は、力なくその場に突っ伏し、静かに海の底に沈んで行く。

 

それを見たル級の3匹は、川内に主砲の集中砲火を浴びせる。

 

川内はそれを軽々と避け、時雨の方まで下がっていく。

 

ル級の中の1匹がそれを追いかけようと詰めてくるが、少し前に進んだところで体の下から爆発する。

 

集中砲火を食らっていた時、川内は密かに数本魚雷を放っていた。

 

ル級は轟沈しなかったが、かなりのダメージを食らい、ふらふらと後ろに下がっていく。

 

 

 

 

 

 

「これが、改二実装だよ」

 

一瞬で敵の部隊を半壊させた川内は、時雨の方を振り向いてそう言った。

 

時雨は一瞬の出来事を脳内で処理することが出来ず、ただ頷くことだけしかできなかった。

 

(次元が違う、これが旗艦を任された人の力……!)

 

川内の力に驚嘆している時雨の横で、川内は周りを見張っていた。

 

「でも、この状態の私でも、ル級三体を1人で相手するのは骨が折れるね……」

 

川内はそう言うと、自分の電探を確認する。

 

(近くに味方の艦隊が来てる、そろそろ着きそうだけど……どうだろう)

 

考え込んでいる川内の付近に、ル級からの砲撃が飛んでくる。

 

(……考え込んでいる時間はないね!)

 

ル級3匹が縦に列を生して近づいてくるのを見て、川内はそれの応戦に向かった。

 

「……んぅ」

 

急に、時雨の横で気絶していた夕立が起き上がる。

 

「……っ!?」

 

起き上がった瞬間、目に映った時雨の状態を見て、夕立は絶句する。

 

そして、自分の体を一通り見た後に立ち上がり、自らの艤装を展開させた。

 

「時雨、大丈夫っぽい!?」

 

「恐らく僕はもう戦えない、君は川内さんのカバーに行ってあげて」

 

夕立は時雨の心配をするが、時雨は冷静な指示を夕立に伝える。

 

 

 

「……分かった、流れ弾に気をつけてね」

 

時雨の指示を聞き入れ、夕立は川内のカバーに入る。

 

 

 

 

 

「……」

 

時雨は夕立の背中を見つめ、ため息を吐く。

 

「少し前だったら、逆だったのかもね」

 

時雨は今の己の状況と、昔の夕立の実力を見てそう呟く。

 

呟いた瞬間に、自分に対しての嫌悪感が襲ってくる。

 

 

 

(……僕は、何をしているんだ)

 

(また誰かに守られてる、昔みたいに)

 

 

 

時雨は下を向き、拳を握りしめる。

 

拳を握りしめただけで全身に激痛が走り、口の中を血の味が駆け巡る。

 

(痛みで、体が動かない……)

 

 

 

(……でも)

 

時雨は膝に手を置き、メキメキと悲鳴を上げる骨を無視しながら、何とか立ち上がろうとする。

 

 

(僕は……なりたいんだ)

 

 

 

 

 

(姉さんを守れる存在に!!)

 

時雨は全身に力を入れ、痛みで頭がどうにかなりそうになりながらも立ち上がった。

 

「ぐっ……!食らえぇ!!!」

 

時雨が放った一撃は、ル級の顔面に命中し、爆発が起こる。

 

「……時雨っ!?」

 

急な時雨の攻撃に、夕立は振り返りって時雨の方を見るが、主砲を放った後の時雨は、もう既に膝を着いてしまっていた。

 

時雨の砲撃を食らったル級は平気な顔をして、時雨の方を向く。

 

そして、膝を着いている時雨の近くまで近づいていき、時雨の頭に主砲を構える。

 

「っ……!?時雨!」

 

別の個体を相手していた川内が、時雨の方を向いて主砲を放つ。

 

夕立も主砲を撃とうとするが、相手をしていたル級に阻まれ、失敗してしまった。

 

ル級は川内の砲撃を食らってもなお、時雨から標準を外さなかった。

 

 

 

(あぁ……ここで、僕は終わりか)

 

膝を着いて下を向いている状態の時雨でも、今の自分の状況は理解出来た。

 

(姉さん……)

 

時雨は目を瞑り、自分の死を待つ。

 

 

 

(ダメっ……!間に合わないっぽい!)

 

夕立はなんとか時雨の方に向かおうとするが、自分が相手をしているル級に邪魔をされてしまい、向かえずにいた。

 

「っ……!邪魔っぽい!!!!」

 

夕立は無理やりル級の主砲に自分の魚雷を突き刺し、爆発させる。

 

夕立は少し吹き飛ばされたが、ル級が少しよろめいた隙をつき、時雨の方に向かおうと海面に着地した足に力を入れた。

 

 

 

 

 

瞬間、時雨の周りで爆発が起こる。

 

 

 

 

「間に……合わなかった……」

 

夕立はその場に立ちどまり、絶望の表情で、時雨がいた所を見つめる。

 

その場にいた誰もが、時雨はもう沈められたと考えていた。

 

 

 

「……あれ?」

 

 

しかし、時雨はまだ生きていた。

 

 

 

黒煙の中、時雨は自分がまだ生きていることを確認する。

 

(僕は……ル級の砲撃に直撃して……)

 

何が起こっているのか理解出来ず、自分の前にいたル級を確認するために顔を上げる。

 

黒煙がどんどん晴れていき、視界がはっきり見えやすくなっていく。

 

すると、時雨の目には、想定外の光景が見えた。

 

茶色の髪の毛の艦娘と、腕の装甲が剥がされ、よろめくル級の姿。

 

艦娘の腕の主砲からは、煙が出ていた。

 

恐らく、ル級が砲撃をする前に主砲を放ち、時雨を救ったのだろう。

 

 

「ふぅー……何とか間に合った!」

 

 

 

その艦娘は後ろに振り向き、手で時雨の頬を撫でる。

 

 

「……よく頑張ったね、時雨」

 

状況があまり理解出来ていない時雨の耳に、優しくて柔らかい声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんが、助けに来たよ」




お待たせしました、Part15です

今回の話は何と約9000字、自分でもびっくりです。

中々ここの展開が思いつかず、すごく時間がかかってしまいました。

最近は色々な趣味やリアルの事情が絡み、なかなか進めずらい状況が続いておりますが、できるだけ早く仕上げられるように努力していきたいと思っていますので、これからもどうぞよろしくお願いします。
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