【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part16 「鍵を握る人物」

「お姉ちゃんが、助けに来たよ」

 

茶色の長髪が風に揺れる。

 

ル級と時雨の間に、白露型一番艦の白露が立っていた。

 

微かに漂う火薬の匂い、白露の主砲の先から立っている煙を見て、時雨は全ての状況を理解する。

 

自分は、姉に助けられたのだ。と

 

 

 

「だ……大丈夫だったっぽい?」

 

少し離れたところで様子を見守っていた夕立は、安心して肩を下ろす。

 

夕立はそのまま時雨の方に近づいていこうとするが、元々夕立が相手をしていたル級が、夕立の背後に立つ。

 

「……!?」

 

完全に油断していた夕立は、慌てて回避行動を取ろうとするが、既にル級は大きく腕の装甲を振り上げていた。

 

(また殴られるっぽい!?)

 

夕立の目の前までル級の装甲が落ちてくる。

 

避けきれないと判断した夕立が防御体制に入り、ル級の攻撃の衝撃に備えようとした瞬間━━━━━━━━

 

 

「オラァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

1人の艦娘が、ハイキックでル級を蹴り飛ばした。

 

強烈な一撃で装甲に穴を空けられたル級は、攻撃の主に鋭い眼光を浴びせる。

 

ル級に睨まれた艦娘は、仁王立ちをしながらル級を睨み返した。

 

 

 

「あたしの弟子に手を出すとはなぁ……覚悟は出来てんだろうなぁ!?」

 

 

 

夕立の師、高雄型重巡洋艦3番艦の摩耶が威勢のある声でそう言った。

 

「摩耶……さん……?」

 

夕立はよろよろと体制を建て直しながら、師の名前を呼ぶ。

 

名前を呼ばれた摩耶は、振り返って夕立の頭に手を乗せた。

 

「よく頑張ったな、後はあたし達に任せとけ」

 

摩耶はそう行ってニカッと笑うと、敵の方に向かって行った。

 

 

 

「摩耶!?まさかあんた達が来るとはね……」

 

ル級と対峙していた川内が、摩耶の姿を見て驚く。

 

「たまたま鎮守府に居たからな、百戦錬磨の川内様でも仲間2人抱えながらの戦闘はキツいか?」

 

摩耶は川内に向けて、からかうように言った。

 

それを聞いた川内は、ニヤッと笑う。

 

「言ってくれるじゃん……」

 

「へっ!まぁあたし達が来たからにはもう終いだ!こっから形勢逆転するぞ!」

 

摩耶はそう言うと、目の前のル級に向かって突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

一方、白露に助けられた時雨は、力なく白露の後ろ姿を見つめ続けていた。

 

白露の茶色の髪が静かに揺れている。

 

辺りは戦闘の喧騒が響いていたが、2人の空間には静かな空気が流れていた。

 

「姉……さん……」

 

時雨が白露を呼ぶと、白露は振り返って時雨を抱きしめる。

 

抱きしめられた時雨は、抱きしめ返す力もなく、ただ白露に抱かれるだけだった。

 

 

 

 

「よく頑張ったね、時雨。後はお姉ちゃん達に任せて」

 

 

 

白露は時雨の耳元でそう囁くと、立ち上がってル級を殺気の篭った表情で見つめた。

 

そして、ゆっくりとル級に近づきながら、主砲を構える。

 

それを見たル級は、破損していない方の主砲で白露を捉え、警戒態勢に入った。

 

ル級の主砲に照準を定められてもなお、白露は冷静な表情のまま歩いていく。

 

 

 

「時雨をいじめた分、きっちりお返ししてあげる」

 

 

 

 

 

摩耶達第三艦隊が到着した頃、鎮守府の司令室では様々な情報が飛び交っていた。

 

「提督!西方海域で哨戒中の第五艦隊から、深海棲艦の群れを数艦隊確認したとの報告です!」

 

大淀が慌てた様子で提督に報告をする。

 

「またか……ここ数日深海棲艦の動きがやけに活発だな」

 

提督はそう言って疲労が籠ったため息を吐き、目を手で覆った。

 

机の下にはエナジードリンクの空き缶が何本も転がっており、提督の目の下には大きな隈ができていた。

 

「その海域には第二艦隊と第四艦隊を派遣する、第五艦隊は一時帰還をさせてくれ、最近第五艦隊は出撃多めだったからな……戦闘は控えたい」

 

提督はそう言うと、また新しくエナジードリンクの缶の蓋を明け、口に一気に流し込む。

 

「了解しました」

 

大淀はそう言うとすぐさま通信席へと座り、第五艦隊へと通信をする。

 

第五艦隊との通信が終わった大淀は、立ち上がって提督の方へ駆け寄った。

 

「提督、第五艦隊との通信の後、第三艦隊からの報告がありました」

 

「なんと行っていた?」

 

提督はそれを聞くと、少し食い気味に大淀に質問をする。

 

「《無事第八艦隊と合流、これより戦闘に入り、敵を殲滅する》との報告でした」

 

「そうか……アイツらが合流したならもう大丈夫だろう」

 

提督はその報告内容を聞くと、非常に安心した表情で椅子にもたれかかった。

 

「提督、ここ数日に職務を詰め込みすぎです、そろそろ倒れてしまいますよ?」

 

大淀はそう言うと、ぱたぱたと水道の方へと走っていく。

 

「そうは言っても、今こんなに戦闘が多発していて、艦娘たちが戦っているというのに俺だけ寝るのはおかしいだろう?」

 

提督は水道に向かう大淀に、茶化すように言う。

 

大淀はそれを聞くと、少し機嫌が悪そうな表情をしながら振り向いた。

 

「それで貴方が倒れてしまったら、誰が鎮守府全体の統率を執るのですか?」

 

大淀からの苦言に、提督は少しばつの悪そうな顔をした。

 

「とりあえず、今日の戦いが終わったら少しだけ休みを摂るようにするよ」

 

提督はそういうと、目の前に広がる書類の山に手を伸ばし、作業を再開する。

 

大淀はそんな提督を不安の表情で見つめていたが、また自分の椅子に戻っていった。

 

「そういえば、第八艦隊の春雨さんはどうなったのですか?」

 

「あぁ、それなら近海を懲戒中だった第九艦隊の子達が先程保護したそうだ」

 

大淀は提督の言葉を聞くと、安心したような表情になる。

 

「現在戦闘中の第八艦隊の方々も、第三艦隊が援護に行ったのなら、安心ですね」

 

「あぁ、そうだな……なんせ━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

「第三艦隊は、鎮守府屈指の攻撃部隊だからな」

 

 

 

 

 

 

西方海域の沖合、普段は落ち着いていて穏やかな海だが、現在は戦場の雰囲気が海上を支配していた。

 

深海棲艦と艦娘、両者の砲撃音がひたすらに鳴り響く。

 

そんな戦場の真ん中で、夕立は呆然と立ち尽くしていた。

 

「お前ら、相手はル級三体だ!跡形もなく沈めてやれ!」

 

摩耶の言葉で、第三艦隊のメンバーが一斉に射撃を開始した。

 

 

 

第三艦隊の一斉射撃によって体制を崩されたル級に、第三艦隊の駆逐艦、響と浜風が突っ込んで行き、さらに追い打ちをかける。

 

 

並外れた統率力に加え、重巡洋艦の圧倒的火力によって、自分たちがあれだけ苦戦していたル級三体が、為す術もなくただ攻撃を受けるだけになってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元が違う ━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

目の前の光景を見た夕立の脳裏には、その言葉しか思い浮かばなかった。

 

(正直、あの戦闘に混ざれるほどの実力はないっぽい……)

 

そう思った夕立はとりあえず時雨の介抱をするために、時雨の傍に近寄る。

 

海面で座り込みながら戦闘を眺めている時雨に手を差し出し、自分の肩を貸す。

 

よろめきながら立ち上がった時雨は、夕立の支えを借りながらなんとか体制を整えた。

 

立ち上がってもなお、時雨はとある一点を見つめ続けている。

 

それが気になった夕立が時雨の目線の先に目をやると、そこには白露の姿があった。

 

味方の砲撃が上を通っているのにもかかわらず、気にせず敵陣へと突っ込んでいく。

 

そして、敵三体が密集している中心に立ったと思うと、白露は大きく上に飛び跳ねた。

 

瞬間、ル級三体の下から巨大な水柱が立つ。

 

(あの一瞬で魚雷を食らわせに行ったっぽい!?)

 

「ありえない強さだよね、僕の姉さん」

 

急に時雨が口を開き、夕立に話しかける。

 

「鎮守府が誇る精鋭部隊、第三艦隊……それに所属している艦娘はかなりのエリートだと言われているみたいだよ」

 

時雨は姉の戦闘を見て、淡々と夕立に語りかける。

 

 

 

 

「……本当に、僕じゃ届かないくらいの」

 

 

 

時雨は哀愁漂う顔で、ポツリと呟く。

 

先程一緒に戦っていた時とは正反対で、嬉しさの中に虚しさを込めたような表情をしていた。

 

 

その表情はまるで、何かを諦めているような、そんな表情だった。

 

 

夕立はそんな時雨にかける言葉が見つからず、ただ黙って戦闘を見ている。

 

そんな2人の元に、戦線から引いてきた川内がゆっくりと近づいてきた。

 

 

「2人とも大丈夫そう?」

 

「な、何とか大丈夫っぽい」

 

夕立は既に疲労困憊で、今すぐにでもその場に倒れたくなるほどだったが、ギリギリ残っていた元気で精一杯大丈夫だとアピールする。

 

「向こうの戦闘はどうなっ━━━━━━━

 

夕立が川内に問いかけようとした瞬間、二人の間を何かが飛んでいく。

 

飛んで行った方向を見ると、装甲の至る所がボコボコになったル級が海面に浮かんでいた。

 

夕立がそれを見ていると、夕立達の上を摩耶が飛んでいき、ル級の体の上に乗っかった。

 

「これで終いだ」

 

摩耶はそう言うと、ル級の頭に照準を合わせて3発主砲を放った。

 

首から上が吹き飛んだル級の体は、ゆっくりと海底に沈んでいく。

 

「あれがラストの個体かな?」

 

川内が辺りを見渡し、状況を確認する。

 

他の戦場で戦っていた第三艦隊のメンバーが集まってきているのが見えた。

 

最後の敵が沈んでいくのを最後まで見守っていた摩耶は、振り返って夕立の方に近づいてくる。

 

「ま……摩耶さ……痛たっ!」

 

夕立が摩耶の名前を呼ぼうとすると、額にデコピンを食らう。

 

デコピンを食らった夕立は、へなへなとその場に座り込んだ。

 

「おめーは見栄を張りすぎだ、どう考えたって大丈夫じゃねぇだろ」

 

摩耶は夕立に一喝すると、夕立を背中に抱えた。

 

それを見ていた川内は、時雨を背中に抱え、改二状態を解除する。

 

「ふぅ……摩耶、本当に助かったよ」

 

川内が摩耶に感謝の言葉を言うと、摩耶は不機嫌そうな顔で川内の方に振り向く。

 

「はっ!その気になればお前一人でも片付けられただろ?」

 

「流石に2人を守って、私の攻撃にも巻き込まないようにしながらル級三体を相手するのは、私でも無理だね」

 

「チッ……お前、ちょっと弱くなったんじゃねぇか?」

 

「何を!?」

 

摩耶のセリフに、川内は拳を握りしめて突っかかる。

 

そんな二人の元に、第三艦隊のその他のメンバーが近づいてきた。

 

その中の白露が、川内から時雨を受け取り、自分の背中に乗せる。

 

「これで任務は完了ですか?」

 

第三艦隊の鳥海が、摩耶に問いかける。

 

「飛鷹、周りはどうだ?」

 

「飛鷹」と呼ばれた艦娘が、目を瞑って集中する。

 

そして、急に何かが届いたかのような表情をし、目を開いた。

 

「周囲索敵中の艦載機から連絡、もう敵はいないみたい」

 

「お、そうか、ありがとな」

 

飛鷹が安心した表情で摩耶にそう告げると、摩耶は笑顔で礼を言った。

 

「おし!これであたしらの任務は完了だ!鎮守府に帰るぞ!」

 

摩耶がそう言うと、第三艦隊は第八艦隊を囲むように陣形を組んだ。

 

出撃時には頭上にあった太陽は、もう西に沈み始めている。

 

初めての長時間に及ぶ戦闘で、身体の疲労が限界を迎えていた夕立は、少しづつ落ちてくる瞼に抗うことが出来なかった。

 

そして、完全に瞼が落ち、夕立は摩耶の背中で眠りについた。

 

同じく、白露におぶられていた時雨も目を閉じ、白露の背中で眠っている。

 

そんな夕立と時雨を見て、その場にいる艦娘達は微笑み、ゆっくりと鎮守府の方向へと進み始めた。

 

 

 

第三艦隊の援護もあり、無事に第八艦隊は鎮守府に帰還し、夕立と時雨は入渠ドッグにて疲れを癒していた。

 

隣の治療室では、春雨の治療が行われており、命に別状は無いようだった。

 

「鎮守府に着いたと思ったら、いきなり叢雲に抱きつかれてびっくりしたっぽい」

 

夕立は叢雲の方をジト目で見ながら軽口を叩く。

 

それを聞いた叢雲は、頬を赤らめながら、湯船の中に鼻の下まで浸かった。

 

「叢雲さんはずっと心配してましたからね、しっかり帰ってきたのが嬉しかったんでしょう」

 

そこに不知火が悪気なく追い打ちをかけ、叢雲はそっぽを向いてしまった。

 

「あはは……そういえば、春雨の腕はどうなるっぽい?」

 

夕立が心配そうに不知火に問いかける。

 

「春雨さんの腕は、今明石さんが修復中です。数日も経てば、何とか腕は治るらしいですよ」

 

「良かったっぽい……」

 

それを聞いた夕立は、胸を撫で下ろす。

 

戦闘中にずっと春雨のことが気がかりになってしまっていた為、尚更安心感が増していた。

 

そんな会話の最中、時雨が立ち上がって入渠ドッグから上がろうとする。

 

「あれ?もう上がるっぽい?」

 

「うん、もう傷は治ったからね」

 

「そっか」

 

時雨は普段よりも素っ気なく、端的な会話で終了した。

 

表情は何処か思い詰めている様子で、背中には哀愁が漂っている。

 

そんな時雨を見て驚いている夕立の事は全く気にせず、時雨は入渠ドッグから足早に去っていく。

 

 

(せっかくライバルに認められたのに、なんか距離が開いてるっぽい……?)

 

 

 

 

時雨との会話に夕立は一抹の不安を覚えたが、「気にし過ぎだ」と自分に言い聞かせる。

 

「じゃあ、夕立も上がるっぽい」

 

ある程度自分の傷も修復し、とにかく今はベッドで休みたかった夕立は、他のメンバーより少し先に上がることにした。

 

「分かりました、第八艦隊はしばらくの自宅休養が命じられています、部屋でゆっくりしていてくださいね」

 

「分かったっぽい!」

 

不知火からの言葉に返事をした後、夕立はゆっくりと入渠ドッグから出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らの生死をかけた決死の戦闘から数日後、夕立はしばらくの自室休養を経て、買い物のために夕方の鎮守府外の街中を歩いていた。

 

カフェから漂う珈琲の香り、カラオケ店の店先で流れている今流行りの音楽、街中を早足で歩いていく仕事終わりの人々。

 

そして、人々の会話や笑い声。

 

そんな街の喧騒が、夕立を少しだけ上機嫌にする。

 

歩いてきた道を右に周り、目的の店を発見する。

 

 

「やぁ、夕立ちゃん」

 

 

店に入っていこうとすると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

夕立が声の方向へ振り向くと、そこには黒くて長い髪を後ろに結んでいる、夕立にとっては謎多き人物、礼花がそこに立っていた。

 

「いつも唐突に現れるっぽい……」

 

「そりゃあ、あたしは神出鬼没だからね」

 

驚いた様子の夕立に、礼花は悪戯な笑みを浮かべる。

 

「ちょっとだけ話があるんだけど、いいかな?」

 

礼花はそう言うと、後ろのカフェを指さす。

 

夕立は自分の買い物を後にし、礼花に言われるがままに着いて行った。

 

 

 

 

 

珈琲の香りが充満する店内、客はほとんど居なく、店内には夕立と礼花しか座っていなかった。

 

礼花は夕立の前に座り、メモを机に出した。

 

店員が水を机の上に置く。

 

礼花はそれを横目で見ながら、ポケットの中からペンを出した。

 

「それで、話っていうのはね」

 

礼花が話を切り出すと、周りの空気が張り詰める。

 

夕立は唾を飲み込んで、礼花の目をしっかりと見つめる。

 

「……最近、君の体に何か変わったことが起きなかった?」

 

礼花は夕立にそう質問すると、夕立は心当たりを必死に探す。

 

「本当に些細なことでもいいんだよ」

 

礼花はいつになく真剣な表情で夕立を見つめ続ける。

 

いつもふわふわとしていて、目的が全く掴めない人物の始めて見る一面を見て、夕立は何か只事じゃないことが起きていると考え、必死に考える。

 

(変わったこと……変わったこと……あっ)

 

必死に探し出した結果、頭の中に一つだけ思い浮かんだ事があった。

 

少し前の戦闘の際、意識を失った後、自分の傷が完全に治っていたことについてだ。

 

近くにいた時雨曰く、「暴走したと思ったら中断されて、暗闇の中から君が出てきた」らしい。

 

夕立はそれを思い出した瞬間、礼花にそれをしっかり伝える。

 

「……夕立は倒れてたから分からないっぽいけど、時雨が言うにはそんなことが起こってたらしいっぽい」

 

礼花は夕立の言葉をしっかり最後まで聞き、メモに書きとっていく。

 

夕立がそれを不思議そうに眺めていると、礼花はペンを止め、メモ用紙の横に置いた。

 

「今ので何かが分かったっぽい?」

 

「うん、十分聞きたかったことは聞けたよ」

 

礼花はそう言うと、頼んでいたコーヒーを口の中に流し込む。

 

そして、窓の外を歩く人達を見て、優しく息を吐いた。

 

「君は……さ、今の自分の中にある力について、どう思ってる?」

 

「え……?」

 

礼花からの急な質問に、夕立は驚いた。

 

質問した礼花は何処か悲しそうな、申し訳なさそうな顔をしている。

 

どう返答すれば良いか夕立が戸惑っていると、その様子を見ていた礼花は微笑んだ。

 

 

 

 

「やっぱり憎い?」

 

 

 

夕立は少しドキッとした。

 

過去の忌み嫌われていた自分を作り出した元凶、今ですらもこの力のせいで、周囲の仲間から距離を置かれている。

 

そんな状況を作り出したこの力を、少なからず憎いと思ってしまっている自分がいたからだ。

 

「そう思うのも無理はないよ、君はその力のせいで人生そのものを変えられているからね」

 

夕立は思わず黙り込んでしまった。

 

何も言うことが出来ず、下を向いてしまう。

 

「君のその力は、君の中の絶望や怒りが増幅して、耐えられなくなった時に発動する、一種の呪いなんだ」

 

「えっ……?」

 

初めて聞いた自分の能力の詳細に、夕立は思わず声を漏らす。

 

「礼花さんは、夕立のこの能力について何か知ってるっぽい?」

 

夕立からの質問を聞き、礼花はまた少し悲しみが混じった表情になる。

 

そして、何かを言うか言わないか迷った後、礼花は意を決した様な表情で夕立を見た。

 

 

 

 

 

 

「うん、この世で誰よりも知ってると思うよ」

 

 

 

 

 

 

礼花のその言葉を聞き、夕立は思わず前のめりになった。

 

「じゃあ!この力を制御する方法も!?」

 

「知ってるよ」

 

「なら教えて欲し━━━━━━━━「でも」

 

夕立の質問を礼花が遮った。

 

夕立はそこで黙り、礼花の次の言葉を待つ。

 

「その力を扱うためには、必要なものが一つだけあるんだ」

 

礼花は急に険しい表情になり、夕立を真っ直ぐに見つめる。

 

今まで見た事のない表情に、夕立は少し怖気づいた。

 

 

 

 

「君はさ、今どうして戦っているの?」

 

 

 

必要なもの、については触れずに急に別の質問をされ、夕立は戸惑った。

 

だが、前にも聞かれたことがある質問だった為、すぐに答えがまとまる。

 

「夕立は……戦うことしか生きる道がないから……」

 

「こんな化け物みたいな能力を持って生まれてきたってことは、夕立は戦うために生まれてきたんだって思うようになったっぽい」

 

「……そっか」

 

礼花は夕立の答えを聞いて、微笑みながらそう返した。

 

「ごめんね、急にそんなことを聞いて」

 

最初に置かれた水の中に入っている氷をストローでかき混ぜながら、礼花は申し訳なさそうに言う。

 

「今の君の返答を聞く限り、さっきの「必要なもの」を教えることは出来ない」

 

礼花はそう言うと、ゆっくりと立ち上がって出口へと歩いていく。

 

「ごめんね、時間取らせちゃって……ありがとう、夕立ちゃん」

 

礼花はそう言うと、会計を済ませて店を出て行ってしまった。

 

店の中にポツリと残された夕立は、礼花の言葉を必死に頭で整理する。

 

 

 

「必要な……もの……」

 

 

夕立はそう呟き、用意された水を飲み干す。

 

考えに考えたが、唯一わかったことは、礼花が自分の能力についての鍵を握っているということだけだった。

 

「……あっ!買い物!」

 

必死に頭の中を掘り下げていると、本来街に来た目的であった買い物のことを思い出す。

 

「必要なもの」については何もわからなかったが、とにかく用事を優先することを選んだ夕立は、店を後にする。

 

カフェを出て、目的の店へと向かおうとした瞬間、誰かが夕立の前を走り過ぎていく。

 

 

 

 

(あれ……?今の人どこかで……?)

 

 

 

 

 

帽子を深く被っていて、ハッキリとは分からなかったが、見覚えのある人が走っていったような気がした。

 

しかし、もうその人は見えなくなってしまった為、夕立は気にせずに店の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「…………やっと、見つけましたよ」

 

夕立と別れ、路地裏を一人で歩いていた礼花は、後ろから何者かに話しかけられる。

 

その声の主は、走って追いかけて来たせいか酷く息を切らしており、両膝に手をつけている。

 

「貴方が夕立ちゃんと接触していることは、ずっと前から知っていました……」

 

「あぁー……バレちゃったか」

 

礼花は声の主の方は向かず、前を向いたまま言う。

 

「須藤礼花、12年前に失踪した貴方が何故……」

 

「それを探るために、あたしをずっと追いかけて来たってことかな?」

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━━━明石ちゃん」

 

そう言って礼花は振り返り、笑みを浮かべた。




大変お待たせ致しました、Part16です

最近色々な事が立て込んでいて、眼精疲労も身体疲労も蓄積に蓄積を重ねて昨日は大変なことになっていました、さめやんです

さて、今のところPart16まで来ていますが、今回の話は物語をかなり前に進める形となりました

この調子でどんどん投稿していくつもりなので、これからもよろしくお願いします
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