【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part17 「波乱の幕開け」

仕事帰りのサラリーマンや、買い物途中の主婦など、人々が行き交う商店街の路地裏。

 

野良猫が鳴き、店の換気扇の音が響いている暗く細い道の真ん中に、二人の女性が立っていた。

 

1人は余裕ある表情でもう片方を見つめ、もう1人は酷く息を切らしている。

 

「やっと見つけましたよ、礼花さん」

 

息を切らしているピンク髪の女性、明石は目の前の女性に向けてそう言うと、唾を飲み込んだ。

 

「やぁ明石ちゃん、久しぶりだね」

 

息を切らしている明石に、もう片方の黒髪の女性、礼花が親しみのある声で話しかける。

 

明石は礼花に話しかけられると、静かに目を細くし、礼花を睨みつけた。

 

「あなたをずっと探していました、礼花さん」

 

「いやー、あたしは今忙しくてね……今度会った時にゆっくりお茶でも飲みながら話そう」

 

礼花は明石にそう告げると、後ろを向いて路地裏を抜けていこうとする。

 

「逃がしませんよ」

 

明石は礼花を追い抜き、礼花の行先を阻む。

 

「貴方には聞きたいことが山ほどありますが……二つに絞り込んで話します」

 

「質問に答えるとは言ってないけどね」

 

礼花はそう言うと、呆れたような表情で明石を見つめる。

 

「貴方が最近夕立ちゃんと接触している件について、そして……」

 

 

 

「12年前の、あの戦いについてです」

 

 

「12年前」と聞いた途端、礼花の余裕ある表情が少し崩れた。

 

明石はそれを見逃さず、畳み掛けるように質問をする。

 

「最近、貴方と夕立ちゃんが接触しているのは知っていました」

 

「ずっとストーカーしてたってこと?それは感心しないなぁ」

 

「……夕立ちゃんと何を話していたのですか?」

 

礼花の嫌味には耳を傾けず、明石は礼花に質問をする。

 

「特に何もしていないよ?夕立ちゃんとはたまたま話があって、ちょくちょく会っているだけさ」

 

礼花は淡々と明石の質問に答える。

 

明石はそんな礼花の様子をじっくり観察しながら、質問を続ける。

 

「貴方は12年前に突如失踪し、私たちの前から消えました……何故今更夕立ちゃんと接触をしているのですか」

 

「ある日にたまたま浜辺で会ってね、そこで気があったから話してるだけで、それ以上は何も無いよ」

 

「っ……そうですか」

 

「もう質問は終わりかな?じゃああたしはこの辺で……」

 

礼花はそう言うと後ろを振り返り、元々行こうとしていた方向とは真逆の方に歩いていく。

 

帰ろうとしている、と言うよりは、とにかくその場から去ろうと急いでいるように見えた明石は礼花を呼び止める。

 

 

「待ってください!」

 

明石の声に耳を傾けようともせず、礼花は歩いていってしまう。

 

明石はそんな礼花を見て1つの質問を投げかけた。

 

 

「夕立ちゃんと12年前のあの事件が……何か関係しているのですか?」

 

礼花はその言葉を聞くと、ピクっと身体を震わせ、歩く足を止めた。

 

「貴方は12年前、私に言いましたよね?「あたしはあたしを思ってくれてる人のために、絶対に逃げたりしない」って」

 

明石は単純な質問ではなく、己の感情に任せて言葉を発する。

 

「私はそんな貴方に憧れて、私は必死に頑張ってたんです!でも、貴方はある日突然姿を消した!」

 

「あれほど仲間の事を考えていた貴方がなんの理由もなく消えるとは思えません!」

 

明石の悲痛な叫びが路地裏に響き渡る。

 

礼花はそれでも振り返ることも無く、明石の言葉を聞いていた。

 

「答えてください!礼花さん!」

 

一向に明石の方を向く気配がない礼花に、明石は怒りと悲しみがグチャグチャになった声をぶつける。

 

それを聞いた礼花は、いきなり後ろに振り返り、明石の方に近づいていく。

 

その表情は異様に優しく、不気味に思った明石は少し後退りをする。

 

ある程度まで明石の近くに寄ったあと、礼花は立ち止まった。

 

 

 

「明石ちゃん、君はこんな話を聞いたことがある?」

 

 

 

「一人の少女が唯一の親友を失い、生きる希望を失う話さ」

 

礼花は急に物語のようなものを語り出す。

 

急に始まった礼花の語りに、明石は驚いて固まってしまっていた。

 

「そして、その少女は思い出すんだ……その親友と交わした約束を」

 

固まってしまっている明石の事を完全に無視し、礼花は物語のようなものを語り続ける。

 

「まだ、その少女は約束を果たすためにこの世を彷徨っている、過去に囚われながら」

 

 

礼花はそこまで話すと、悲しさ混じりの笑顔を明石に見せた。

 

その表情はどこか儚げで、今にも消えてしまいそうな表情だった。

 

 

 

「人は、過去の鎖に縛られ続ける奴隷だ。誰も人は過去を捨て切ることは出来ない」

 

 

 

 

 

「そして……あたしもその中の1人だった、という事だよ」

 

 

礼花はそう言うと、また後ろを振り返り、路地裏から去っていく。

 

その背中はどこか哀愁が漂っており、酷く気力が失われている様子だった。

 

礼花が本通りに出て、路地裏から見えなくなった瞬間、明石はハッと意識を取り戻す。

 

そして、急いで礼花が向かった方に走ったが、そこにはもう礼花の姿は見えず、商店街を行き交う人々だけが目に映っていた。

 

 

 

━━━━━━━━━ 逃がした

 

明石は体から空気が抜けたかのようにフラフラと歩き、路地裏を抜けた直ぐ横にある電柱にもたれかかって空を見上げる。

 

 

 

「何……それ」

 

酷く力が抜けた明石の呟き声が、静かな夕焼けの空に向かって吐き出された。

 

 

 

 

太陽が真上から睨みつける昼下がり。

 

秋の香りが辺りに漂い、コオロギが草むらの中で輪唱している鎮守府の中庭に夕立達は集まっていた。

 

ベンチには不知火と叢雲が座っており、春雨はベンチの横に立っていた。

 

見慣れた第八艦隊のメンバーだったが、そこには時雨の姿がいなかった。

 

「お待たせっぽい!」

 

「夕立さん、何をしていたのですか?」

 

「午後に訓練場を使いたかったから予約をしてきたっぽい!」

 

夕立はそう言って不知火の横に座った。

 

「では、みなさん……今回集まってもらった理由なのですが……」

 

不知火が話を切り出す。

 

その場にいる全員、不知火が話そうとしている内容を薄々予測していた。

 

 

 

━━━━━━━ 最近時雨の様子が変だ

 

 

 

第八艦隊が結成されてから約半年、全員の練度も上がり、連携も滞りなく取れるようになっていた。

 

しかし、物事はそのまま順調に進んではくれなかった。

 

時雨が最近先行気味な行動をするようになったのだ。

 

「前は私たちの実力が時雨に全くついていけてなかったから置いていかれていたけど、今は何か違う感じがするのよね」

 

叢雲が悩み混じりの声で言う。

 

「敵を見つけたら直ぐに突っ込んでいってしまいますからね」

 

不知火が顎に手を置いて考えながらそう言った。

 

時雨の最近の行動は危なっかしい場面が多く、メンバーも頭を抱えていた。

 

旗艦の川内にも幾度か注意を受けていたが中々治りきらず、そのままズルズルと流れてしまっている。

 

「夕立、あんた何か心当たりない?」

 

「えっ?」

 

叢雲が夕立に問いかける。

 

夕立は急に自分に焦点が来たので、焦って記憶の中から心当たりを探す。

 

「うーん……あっ」

 

しばらく考えたあと、夕立が何か思いついたかのように手を叩く。

 

「何か分かったのですか?」

 

春雨が夕立に問いかけると、夕立はベンチから立ち上がって全員の方を見る。

 

「そういえば、前のあの大きな戦いの後……」

 

「大きな戦いって、私が大怪我を負って途中離脱したあの戦いですか?」

 

春雨が少し後ろめたそうに問いかけると、夕立はそれに頷く。

 

「実はあの時……」

 

夕立は、あの大戦の後の入渠ドッグでの時雨の様子を全員に説明した。

 

何か思い詰めているような表情、そして、普段より素っ気ない返事。

 

そんな時雨の態度に違和感を感じていた夕立は、その事を全員に説明する。

 

「……あの時は気のせいって思ってたけど、あの後にこうなっているところを見ると気のせいには見えないっぽい」

 

「なるほど、では時雨さんの不調の原因にはあの戦いが関係している可能性があるということですね」

 

夕立が自分の心の中で思っていたことを話すと、不知火がそれを綺麗にまとめた。

 

しかし、あの戦いが原因とわかっても問題は解決せず一同はベンチに項垂れる。

 

「とりあえず、しばらく時雨姉さんの様子を見てましょう。それで何かが見えてくるかもしれません」

 

春雨がそう提案すると、その場にいる全員が頷く。

 

「じゃあ、何かわかったことがあったら情報を共有し合いましょ」

 

叢雲はそう言うと立ち上がり、曲がっていた背筋を伸ばした。

 

叢雲が立ち上がったのを見ると、不知火も同じく立ち上がり、肩をくるくると回す。

 

「では、今日は一旦解散しましょう。明日の任務の準備もしなければなりません」

 

「分かりました。では、また明日の任務もよろしくお願いします!」

 

春雨はそう言うと、全員に一礼をして駆逐艦寮の方へ歩いていく。

 

「じゃあ私と不知火は工廠に用事があるから行くわね?」

 

叢雲と不知火も夕立に手を振った後、工廠の方へ歩いていった。

 

1人中庭にポツンと残された夕立は、ベンチに座りながら空をぼーっと眺める。

 

(時雨、大丈夫かな……ちょっと心配っぽい)

 

時雨のことを心配しながら、夕立は立ち上がって駆逐艦寮へ歩き出す。

 

 

 

 

 

『━━━━本当に、僕じゃ届かないくらい……』

 

 

 

 

ゆっくりと歩く夕立の脳裏には、あの時に時雨が悲しそうに呟いた一言が焼き付いていた。

 

 

 

※※※※

 

「何だろう……ここ」

 

時雨は何も無い真っ白な空間に佇んでいた。

 

目を凝らして遠くまで見てみても、真っ白な景色が続いていて、意識がハッキリしない。

 

(……れ……ぐれ……)

 

遠くから声が聞こえる、何を言っているのか分からないが、どこか聞き覚えのある声だった。

 

(ぐれ……しぐれ……)

 

ふわふわとした意識の中声を聞いていると、時雨の名前を呼んでいたことに気づく。

 

時雨がその声の方を向くと、そこには幼き日の白露が立っていた。

 

まだ髪の毛はショートカットで、無邪気に笑ってこちらに手を振っている。

 

(姉……さん……?)

 

「時雨!次は何して遊ぼっか!」

 

白露のその声を聞いた途端、時雨の心の中は幼い頃の純粋な心に戻り、心の底が温かい気持ちになる。

 

「今日は……海で遊びたい」

 

白露にそう告げた時雨の体は、白露と同等に幼くなっていた。

 

 

 

「えー……もうそろそろ夕方だし、海は危ないから別のところにしようよー。公園とか!」

 

「海がいい!!」

 

 

 

時雨がそう白露に告げると、真っ白だった景色が砂浜に変化する。

 

「もー、しょうがないなぁ」

 

「ありがとう!お姉ちゃん!」

 

意識がハッキリとしていなかった時雨は、急に変わった景色に違和感を抱くこともせずに、白露と波打ち際まで走り出す。

 

あっという間に日が沈み、辺りが段々と暗くなってきた。

 

「時雨!暗くなってきたしそろそろ帰ろうか!」

 

白露はそう言うと時雨に手を伸ばし、時雨はその腕を掴もうとする。

 

すると、時雨の後ろから何かが水から上がってきた音が聞こえる。

 

ギシギシと軋む装甲の音、殺意の籠った目。

 

血まみれの人型の深海棲艦が陸に上がってきた。

 

深海棲艦は2人を見るや否や、巨大な装甲を大きく振りかざす。

 

「……っ!時雨!危ない!!」

 

白露が時雨の服をつかみ、自分の方に引っ張る。

 

引っ張られた時雨は何とか避けられたが、白露には当たってしまい、後ろに吹き飛んで行った。

 

何とか助かった時雨が吹っ飛んで行った白露の方を見ると、白露は頭から血を流して倒れていた。

 

「あ……あぁ………」

 

急に時雨は我に戻り、現在の艦娘の姿に戻る。

 

頭の中にその時の記憶が一気に流れ込み、時雨は頭を抱え込んでその場で蹲る。

 

 

 

 

そうだ、思い出した

 

 

 

僕は、ここで

 

 

 

 

 

「あ゛あぁあ゛あぁあああぁあぁぁぁ!!

!!!!!!」

 

 

 

 

「━━━━━━━━━……はっ…………!」

 

勢いよく飛び起きる、部屋の中には日光が差し込んでいる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息は荒く、涙が頬を伝っている。

 

頭にはガンガンと金槌で叩かれているような激痛が走っており、起き上がって暫くベットの上で座り込んでいた。

 

(最近、悪夢をよく見る気がする)

 

時雨は涙を拭った後、ベットから離れ、洗面所で顔を洗う。

 

鏡に映った自分の顔は曇っている。

 

時雨はため息の後、気持ちを切り替えて準備を始めた。

 

今日は出撃の日、最近不穏な動きをする深海棲艦の群れが発見された海域の調査だ。

 

寝癖だらけの髪を綺麗に整え、制服に着替えて靴を履く。

 

そして、ゆっくりとドアを開け、重い足取りで執務室へ歩いていった。

 

 

 

 

今日の第八艦隊の任務は、西方海域で不審な動きをしている深海棲艦の群れの調査、可能なら討伐という内容だった。

 

目撃者によると、明らかに普段よりも多い数の深海棲艦が一つの群れとなり、何かを取り囲むように進んでいたという。

 

漁船に護衛でついていた艦娘数名も、数的不利を感じた為、鎮守府に正式に依頼として申請したらしい。

 

今回の調査では第八艦隊だけでなく、第四艦隊のメンバーも任務に同行していた。

 

旗艦の金剛型戦艦の三番艦、「榛名」を中心に、同じく金剛型戦艦の「霧島」、航空巡洋艦「最上」、軽巡洋艦の「球磨」、駆逐艦の陽炎と長波が編成されている。

 

後ろの方で長波と共に周りを警戒していた陽炎が、隣まで進んできたあとに榛名に話しかける。

 

「あのー、普段より多いってどのくらいなんですか?」

 

「分かりません。具体的な個体数は教えられていないので……」

 

榛名が申し訳なさそうに陽炎に言うと、陽炎は「分かりました」と言って自分の定位置についた。

 

その会話を後ろで聞いていた霧島が、顎に手を当てながら考え事をする。

 

「今の問題は数じゃなくて、その群れが取り囲んでいたものが何なのか、よね……」

 

「ですね、もしかしたら敵の中核を担う者を護衛するためにそのような行動をしていた可能性があります。今回の任務は気を引き締めて行きましょう」

 

榛名はそう言うと、より一層周りを警戒する。

 

「……なにか聞こえるっぽい!」

 

夕立がいち早く耳で敵の存在に気づく。

 

「「総員!戦闘態勢!!」」

 

その様子を見た川内と榛名は、自分のそれぞれの艦隊に同時に指示を出した。

 

両旗艦からの命令で、両艦隊全員が戦闘態勢に入る。

 

夕立が敵の気配を感じた方向には、10数匹の深海棲艦が群れを成して泳いでいた。

 

「うげっ!なんだぁあの数は!」

 

「近年稀に見る多さの群れだクマ……」

 

海の上を進む敵の数を見て、球磨と長波が声を上げる。

 

「とりあえず僕は艦載機を飛ばしておくよ。でもあの数じゃあ直ぐに近接戦闘に持ち込むのは危ないかもね……霧島、どうするの?」

 

最上はそう言うと、艦載機を敵の方に向けて発艦させる。

 

最上に戦闘の方針を尋ねられた霧島は、眉間に皺を寄せ、少し考え事をする。

 

「大量の深海棲艦の真ん中に戦艦ル級がいるわね。でも周りが多すぎてこれじゃあまともに近づけない……なら」

 

霧島はそう言うと、榛名にアイコンタクトを取った。

 

榛名は霧島の目を見たあとすぐに頷き、顔を後ろに向ける。

 

「皆さん、私と霧島の砲撃で敵艦隊を半壊、その後戦闘に入ります!第八艦隊の方々は先行、第四艦隊駆逐艦の2人はそれに同行してください!」

 

榛名はそう言うと、主砲を敵の方に向けて構える。

 

「敵に空母がいないからこそ取れる戦法だね、じゃあみんな行くよ」

 

川内は榛名がその指示を出した瞬間に、自分の艦隊と第四艦隊の駆逐艦を連れて前に進んで行った。

 

(まだこんなに離れているのに攻撃準備っぽい?)

 

敵はまだ夕立や川内の射程範囲からは程遠い位置で、夕立の主砲なら榛名と霧島の立っている位置からは絶対に当てられないほどだった。

 

疑問を頭に浮かべながら前に進んでいると、第四艦隊の長波が夕立に話しかけてくる。

 

「ん?どうした?変な顔して」

 

「あの二人はあの距離から砲撃するっぽい?」

 

「あぁ?当たり前だろ?」

 

「あの距離から届くのかなぁ……って思ったっぽい」

 

夕立の言葉を聞いた長波は、「あぁ、そうか」と言いながら手を叩き、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「まぁ見てなって」

 

長波はそう言うと、榛名と霧島の方に目を向けて、夕立にも見るようにちょいちょいと催促する。

 

夕立がチラッと後ろに目をやると、榛名は祈るようなポーズで目を閉じていおり、霧島はメガネを片手で上げながら、敵の方を真っ直ぐと見ていた。

 

そして、榛名はゆっくりと手を上げて敵がいる方向に真っ直ぐ手を伸ばし、目を開く。

 

「この砲撃は開戦の合図……戦艦榛名!参ります!」

 

榛名の声と共に、艤装の全主砲が起動し敵の方に向く。

 

「さぁ!蹴散らすわよ!」

 

榛名の声の後に、霧島も全主砲を敵の方へ向け、砲撃体制に入った。

 

 

「「全主砲、砲撃開始!!」」

 

 

両戦艦の主砲が轟音を響かせる。

 

2人が放った弾は綺麗な弧線を描き、夕立たちの頭上を飛んでいく。

 

その弧線の終着点は、見事に敵艦隊の上だった。

 

深海棲艦達は迫ってくる弾に気づき、すぐさま防御体制を取ったが、あまりの火力に体が耐えきれず、体が装甲ごと粉砕されていく。

 

ただ、完全に沈め切れたのは駆逐艦級と1部の軽巡級のみで、それ以外の艦種は残っていた。

 

しかし、それにしても圧倒的な火力と射程範囲。

 

初めて味方の戦艦級の攻撃を見た夕立は、榛名の方を見ながら驚きの表情で固まっていた。

 

(す……すごいっぽい……!)

 

開いた口を塞ごうともせず、呆然としている夕立の背中を長波が小突く。

 

「おいこら、戦闘は始まってんだから油断すんなよな、すげぇものを見て固まる気持ちのは分かるけどさ」

 

「ぽっ……ぽい!」

 

夕立が自分の前の方を見ると、既に川内と時雨が2人で突っ込んでいる。

 

それを見た夕立は慌てて前線に突入していき、2人の支援に回った。

 

「今の2人の砲撃で敵部隊は4匹撃沈!残りは11体!後ろの僕達も戦闘に参加するから、流れ弾に注意してね!」

 

航空巡洋艦の最上が艦載機から得た情報を元に状況を分析し、通信を通じて艦隊に伝える。

 

「夕立!春雨と叢雲のカバーをお願い!」

 

「は、はいっぽい!」

 

旗艦の川内からの指示で、夕立は叢雲と春雨の方に向かい、2人の戦いのカバーに入る。

 

叢雲と春雨は重巡リ級と軽巡ホ級をそれぞれ1匹ずつ相手していた。

 

叢雲がリ級に主砲を放ち、怯ませようとするが、腕の装甲でガードされてしまった。

 

「くっ……!まだまだ!!」

 

叢雲は負けじと主砲を放つが、全て装甲にに弾かれてしまい、どんどん距離を詰められる。

 

叢雲が一旦距離を取るために後ろに下がろうとすると、リ級が叢雲に向かって主砲を構える。

 

「まずっ━━━━━━「叢雲!チェンジ!」

 

叢雲の体を夕立が掴み、後ろに引っ張る。

 

リ級の砲撃は叢雲の顔のすぐ隣を抜けていき、後ろで大きな水柱が立った。

 

夕立は引っ張っていた叢雲の服を離し、自分の足に力を入れてリ級の眼前まで距離を詰める。

 

夕立は大きく後ろ周りに回転し、リ級の頬目掛けて後ろ回し蹴りを放つが、リ級はそれを既の所で回避する。

 

夕立はすかさず体制を直し、体のひねりを全力で加えた正拳突きを顔面に打つが、リ級はそれを腕の装甲でガードした。

 

そして、夕立の首を装甲が剥がれて自由になった片腕で掴み、夕立は持ち上げられる。

 

「ぐっ……がっ……!」

 

リ級は掴んだ夕立の顔面に主砲を突きつけ、砲撃しようとする。

 

それを見た夕立は掴んでいるリ級の腕を主砲で吹き飛ばし、何とか脱出した。

 

「はぁっ……はぁっ……なんかこいつ強いっぽい!」

 

「妙なオーラを纏っているのよね……全身が赤く光っているというか……」

 

夕立と叢雲が敵と睨み合っていると、後方から春雨がやってきた。

 

「夕立姉さん、この敵……強いです」

 

「うん、今までのとは何かが違うっぽい」

 

夕立はそう言うと、体制を低くして突撃姿勢になる。

 

「とりあえず数ではこっちが有利っぽい、夕立が魚雷を撃って敵の進む方向を絞り込むから、そこを突いて攻撃してほしいっぽい!」

 

「「了解!」」

 

夕立は指示の後に、相手の両脇に魚雷を放ち、それに主砲を撃って爆発させる。

 

両隣での爆発に気を取られた敵二匹は、一瞬夕立たちから目を離した。

 

その隙に叢雲と春雨は懐まで突撃し、敵の腹部目掛けて主砲を放つ。

 

2人が放った主砲は敵の腹部に直撃し、多大なダメージを与えることに成功した。

 

「夕立っ!」

 

叢雲の声と同時に夕立が足で海面を蹴り上げ、ホ級の顔面を掴んで海面に打ち付けた後、後頭部に主砲を構える。

 

夕立が主砲を放とうとした瞬間、海の中から手が現れ、夕立の体が吹き飛ぶ。

 

「がっ……!?」

 

夕立を吹っ飛ばしたのは、またさらに別個体のリ級だった。

 

そのまま夕立は海面に倒れ込み、顔面にリ級の主砲を突きつけられる。

 

「そんなっ……!夕立姉さん!」

 

「助けに行くわよ!」

 

叢雲と春雨が夕立の助けに入ろうとするが、今まで戦っていた2匹に邪魔をされてしまった。

 

リ級に首を抑えられた夕立は、何とか逃れようとするが深海棲艦の力を前に動くことが出来ず、息が吸えない苦しさからだんだんと力が抜けていく。

 

(このままじゃ……死ぬっぽい……!)

 

必死に押さえつけられている手をどかそうとするが、力がどんどん抜けていっているためにどうすることが出来ず。

 

とうとう手が海面に落ちてしまう。

 

(もう……だめ……)

 

 

 

夕立が抵抗を諦めて瞳を閉じた瞬間、体の奥底に眠る力の奔流が全身を巡る。

 

(また……暴走……?)

 

しかし、夕立の体に流れていたのは、暴走する前にいつも感じていた強大な力ではなく、もっと別の力だった。

 

 

 

いつものように意識が途絶えることも無く、正気を保ち続けている。

 

 

 

その力は、普段のどうすることも出来ないような膨大な力ではなく、どこか抑えられているような、普段より小さな━━━━━━━

 

 

 

 

夕立でも、扱えきれそうな力だった。

 

 

 

 

「……っ!!」

 

夕立は目を急に開き、リ級の腕を握って持ち上げ、リ級の押さえ込みから脱出する。

 

そして、そのままリ級の腹部に全力のボディブローを放った。

 

鈍い音が辺りに響き、深海棲艦の青い血が辺りに飛び散る。

 

夕立の拳はそのままリ級の体にめり込み、リ級の腹部を抉りとった。

 

「夕立……?」

 

何とかリ級とホ級を倒し、夕立の方に向かった叢雲と春雨は、普段とは雰囲気が違う夕立の背中を見つけ、恐る恐る夕立の名前を呼ぶ。

 

名前を呼ばれた夕立は一呼吸おいてから肩を大きく回して振り向いた。

 

「2人とも!無事だったっぽい?」

 

普段と変わらない様子だったが、一つだけ普段の彼女とは違う点があった。

 

 

 

「夕立……あんた……目が……」

 

 

 

 

なんの事だかさっぱり分からなかった夕立は、近くにある深海棲艦の装甲を拾って自分の目を確認する。

 

 

 

反射した夕立の目は赤く光っていた。

 

 

 

自分の涙袋の辺りを指で伝い、瞼を二本指で広げる。

 

自分の意思に合わせてキョロキョロと動く赤い目、これは間違いなく自分の目だ。

 

「なに……これ……」

 

夕立は自分の目を確認したあと、自分の体の至る所を確認する。

 

目以外、特に変わった部分は無い。

 

何が起こったのか分からずに首を傾げていると、叢雲と春雨が夕立の前まで近づいてきた。

 

「夕立……よね?大丈夫だった?」

 

「うん!大丈夫だったっぽい!」

 

「あんた……その目、何があったの?」

 

叢雲が夕立の目をジロジロと見ながら言う。

 

「分からないっぽい……でも、なんか体が軽いっぽい!」

 

「な……何か変なものでも食べちゃったんですか?夕立姉さん」

 

「食べてないっぽい!」

 

春雨がジト目で夕立に質問すると、夕立は首を振って必死に否定した。

 

「とりあえず、一旦川内さんたちと合流するわよ」

 

叢雲はそう言うと、川内達が戦っている方向へと進んでいく。

 

それを見た夕立は倒れている敵の方に戻り、頭に3発主砲を打ち込んだ後に、叢雲達と共にその場を後にした。

 

 

 

 

夕立たちが戦っている場所から少し離れた海上で、川内達は戦っていた。

 

夕立たちが相手していた数よりも更に多い数だった為、殲滅に時間がかかっている。

 

特に敵陣の真ん中にいるル級を倒すことができず、戦況は硬直していた。

 

「川内さん、この状況どうします!?」

 

第四艦隊の陽炎が主砲を打ちながら川内に問いかける。

 

その隣では長波が陽炎と同じように敵陣に向けて主砲を放っている。

 

「真ん中のル級が倒せればもう少し戦況が進むんだけどね、周りを囲んでいる敵の数が多すぎて近づけない━━━━━━━━━」

 

川内がそこまで行った瞬間、川内の横を誰かが通り過ぎ、敵陣まで突っ込んでいく。

 

突っ込んでいったのは時雨だった。

 

「時雨!一人で行っちゃダメ!!」

 

川内の呼び掛けにも応じず、時雨はそのまま最高速度で敵陣に突っ込んでいき、主砲で敵2匹を撃つ。

 

1人で突っ込んできた時雨を目の前にして好機と感じたのか、敵は一瞬で時雨の前を塞いで主砲を放った。

 

時雨はそれを避けながら敵に主砲を放ち続ける。

 

ようやく1匹目が爆発して沈んだが、まだ多数の深海棲艦が時雨の周りを囲っており、時雨はその場でたじろぐ。

 

「くっ……!」

 

その場から動けなくなった時雨が敵艦隊を睨んでいると、後ろにいたホ級とロ級が吹き飛ぶ。

 

立て続けに長波と陽炎が突っ込み、時雨の手を掴んで自分たちの近くに寄せた。

 

「結果的に相手の陣形が崩れることにはなったけど、無謀すぎるよ」

 

川内が改二艤装を身体に纏った状態で歩いてくる。

 

その声は普段聞く明るい声ではなく、重く鋭く刺すような声だった。

 

「すみま……せん」

 

時雨は川内の威圧に気圧され、下を向いて謝罪する。

 

「さて、もう相手の陣形は崩れてるから……後は真ん中を貫くだけだね」

 

川内がちょいちょいと周りの駆逐艦に手招きをする。

 

「全員戦闘態勢に入って、今から敵艦隊の穴をついて確実に真ん中を倒しに行くよ!」

 

「「了解!」」

 

川内の指示と共に全員が突っ込んでいく。

 

第四艦隊駆逐艦の殲滅力は伊達ではなく、相手の陣形に穴が空いた瞬間に的確に急所を突いて攻撃している。

 

一方第八艦隊の方は時雨がやや先行気味に動いていたが、不知火がカバーに行っていたので川内は気にしないでいた。

 

「時雨さん!右です!」

 

「分かってるよ!」

 

右にいたリ級に不知火と時雨が同時に一撃を浴びせる、同時攻撃を食らったリ級の艤装は半壊し各所から血が流れていた。

 

「アレを食らわせても倒れませんか……流石重巡級の装甲ですね」

 

「とりあえずトドメを━━━━━━━━━」

 

時雨がトドメの主砲を放とうとした瞬間、横から大きな水しぶきを上げて駆逐艦イ級が飛び出してきた。

 

完全に油断していた2人は回避が間に合わず、イ級との接触を覚悟する。

 

 

 

 

「ぽぉぉぉぉぉぉい!!!!」

 

 

 

 

その瞬間、どこからか叫び声と共に艦娘が突っ込んでくる。

 

「夕立……?」

 

その艦娘は夕立だった。

 

夕立は勢いそのままにイ級を殴り飛ばし、イ級が飛んでいく方向を無理やりねじ曲げる。

 

その後水面に着地した夕立は、時雨の方に振り返る。

 

夕立の顔で動く赤い双眼を目にした時雨は、後退りをして夕立を睨む。

 

「君のその目……まさかまた暴走しているのかい?」

 

「いやいやいやいや!してないっぽい!」

 

時雨が夕立に問いかけると、夕立は必死に首を振りながら否定する。

 

時雨はそんな夕立の様子を見て、肩を下ろした。

 

「そうかい……向こうで何かあったの?」

 

「夕立も体に何が起こったかは分からないっぽい……でも、なんか全身から力が湧いて来るっぽい!」

 

夕立はそう言うと、笑顔で拳を前に出す。

 

「ともかく、今は目の前の敵の殲滅に集中しましょう」

 

「分かったっぽい!」

 

不知火の合図で第八艦隊駆逐艦が敵陣へと突っ込む。

 

「夕立!後ろ!」

 

叢雲の声を聞き、夕立は瞬時に振り返って後ろにいたイ級に回し蹴りを食らわせる。

 

蹴りは見事にイ級の側面に直撃し、重い装甲ごと吹き飛ばされて行った。

 

その瞬間、夕立の背後からリ級が主砲を放つ。

 

それを夕立は既のところで躱し、リ級の方を振り向いた。

 

「危ないっぽい……!」

 

夕立がリ級とも戦おうと主砲を向けると、後ろから数発砲撃が飛んでくる。

 

「あんた達がここに居るってことは、お互いどうにか倒しきったみたいね」

 

陽炎が朗らかな笑みを浮かべながら夕立達に言う。

 

陽炎が立っている奥では長波が体制を低くし、魚雷発射の準備をしていた。

 

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

叫び声とともに長波が複数魚雷を放ち、川内の眼前の敵が爆発四散していく。

 

「ナイス長波!これで終わらせるよ!」

 

炎上している敵の上を川内が大ジャンプで飛び越える。

 

黒煙が晴れた先にはル級が立っており、川内は自らの主砲をル級の喉元に突き刺した。

 

 

「周りの深海棲艦に囲まれてお姫様気分って感じだったのかな?残念、もう終わりだよ」

 

 

 

その言葉と共に川内が主砲を放ち、ル級の首から上が吹き飛んで体が崩れ落ちる。

 

 

 

 

━━━━その瞬間、川内の目にはとあるものが映った。

 

崩れ落ちたル級の死体の後ろに、誰かが立っている。

 

 

 

 

少女だ。

 

 

 

その少女はフードを深く被っており、海面にしっかりと立っている。

 

海面に立っているということは、艦娘か深海棲艦かのどちらかだ。

 

その少女は顔を上げ、フードを外す。

 

 

 

白い髪の毛がフードの奥から垂れてきた。

 

その少女は子供のような無邪気な顔で、川内たちを見渡す。

 

そして、息を吐いた後に小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マダ、オワリジャネェヨ」

 

 

 

 

 

 

 




本当に、本当に、本当に大変長らくお待たせいたしました。

まさかコピーとペーストを間違えるという初歩的なミスでデータを全削除してしまうとは思わなかったので……()

やはり歳をとると色々と鈍りますね……悲しい

今回の話は如何だったでしょうか。

ラストに現れた謎の少女(カンの良い方は気づいているかもしれませんが……笑)は、今後どのようにストーリーに影響を及ぼして来るのか……突如夕立の力が制御できるようになった理由とは……?そして、時雨の過去に何があったのか……次回につづく!



追記

最近少し話が硬直気味だったので、このパートで一気に話を進めました。

これから戦闘も物語もスピードアップする予定です。

今後もよろしくお願い致します。
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