【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part19 「激動」

静かな波音が聞こえる西海域の海上、先程まで至る所で響いていた戦場の喧騒はピタリと鳴りやんでいた。

 

夕立の元へ突然現れた黒髪の女性。

 

少女は目の前に立っている女性に対し、未だ警戒を続けている。

 

少女の目の前の女性、須藤礼花は抱えていた夕立を自分の後ろに横たわらせ、少女の方を見つめた。

 

 

 

「オマエ……ハ……!!!」

 

「残念だけど戦いは終わりだよ、ここで夕立ちゃんに死なれる訳にはいかないからね」

 

「グゥッ……!」

 

 

 

敵が目の前に立っているというにも関わらず、礼花は普段通りの表情で突っ立っている。

 

 

 

「本来ならここであたしが相手しても良いけど……これだけ守るべき対象がいると、私でもちょっとキツいかな」

 

 

礼花はそう言うと、威嚇している少女を横目に、海面に突っ伏していた時雨も自分の近くに運ぶ。

 

そして、完全に意識を失っている時雨の頬を撫で、優しい眼差しで見つめた。

 

 

 

「キミも、まだ死ねないよね」

 

 

 

 

礼花はそう時雨に言った後、立ち上がって少女を睨む。

 

 

 

「さて……と、もし君がその気なら仕方ないから頑張って相手するけど……戦艦レ級?」

 

 

穏やかだった礼花の双眼から、真っ直ぐな殺意が少女に向けられる。

 

黒かった礼花の髪の毛が毛先からゆっくりと緑がかった明るい色になり、体の周りに艤装を纏う。

 

明らかに雰囲気が変わった様子の礼花を見て、深海棲艦の少女「戦艦レ級」は後退りした。

 

 

 

「できればお互い穏便に済ませたいんだけど、どうしたい?」

 

 

礼花が自らの主砲を向けながらレ級に問いかけると、レ級は自らの尻尾に付いている生物の頭をポンポンと叩いた。

 

瞬間、生物に付いている主砲から無数の砲弾が放たれた。

 

「……っ!」

 

それを察知した礼花はすぐさま夕立と時雨の体を掴んで自らの後方に投げ飛ばし、自分も同じ方向に飛び込んで回避した。

 

礼花は直ぐにレ級に砲撃をしようと主砲を構えたが、先程までレ級が立っていたところにはもうレ級の姿はなかった。

 

礼花は自らの主砲を下げ、辺りを見渡す。

 

「逃げた……かな……」

 

礼花は眼鏡に着いている自らの電探を確認し、高速で自分の元から離れていく敵の姿を確認すると、ほっと一息を吐き全身の力を抜く。

 

自らの周りに展開されていた大きな艤装は消え、髪の毛はゆっくりと黒髪に戻り、少し経ったらいつも見る礼花の姿に戻っていた。

 

その後、礼花は夕立と時雨の体を触り、脈の確認と傷の状態を調べる。

 

「脈はある、傷はちょっと深いのが何ヶ所かあるね……止血すれば命に別状はないかな?」

 

礼花はそう言うと、夕立と時雨の傷の箇所に瓶に入った液体を少しだけ垂らす。

 

(ふぅ……とりあえずこれで応急処置は終わりかな)

 

「……はぁ」

 

応急処置を終えた礼花は立ち上がり、夕立と時雨の顔を交互に見た後、小さくため息を吐く。

 

礼花が夕立たちに微笑みかけ、その場から去ろうとした瞬間 ━━━━━━━━

 

 

 

 

「貴方は誰ですか……?そこで何をしてるのですか?」

 

 

 

 

後ろから礼花を呼ぶ声が聞こえた。

 

そこには第四艦隊の旗艦、戦艦榛名とその仲間たちが立っていた。

 

全員が警戒しているような表情、突き刺すような視線が礼花に刺さる。

 

「榛名、私が出ようか?」

 

川内が榛名に小さな声で話しかける。

 

「いえ、川内さんは激しい戦闘の後で消耗してるでしょうし……私が出ます」

 

榛名はそう言うと、少し前に出て礼花の方に近づいて行く。

 

そして、倒れている夕立と時雨の方に目線を向けた後、礼花の方を見た。

 

「夕立ちゃんと時雨ちゃんに何を?」

 

「いやぁ怪しいことは何も、殺されちゃいそうだったから助けただけだよ」

 

礼花は嘘偽りなく答えたが、未だに疑いの目線は逸らされることはなかった。

 

「そうですか……貴方は一体?」

 

榛名は神妙そうな顔をして言葉を考えたあと、警戒の目を緩めずに礼花に話しかける。

 

礼花はしばらく言葉を悩んだあと、榛名の方を真っ直ぐ見て口を開いた。

 

「あたしは現役を引退した艦娘さ、久々に海を散歩したくなっちゃってね……」

 

礼花はそう答えたが、榛名は警戒を解くことはできなかった。

 

 

(いくら元艦娘とはいえ、こんな沖まで散歩で出てくるものなのでしょうか……?)

 

 

(ですが、報告にあった謎の少女は消えて……戦っていたはずの夕立ちゃんと時雨ちゃんの傷には応急処置が施されている……)

 

榛名は周りの状況を判断し、とりあえず礼花を敵では無い人物として判断した。

 

「報告にあった謎の少女は何処へ?」

 

「あたしが来た時にはもうどこかに行っちゃってたよ」

 

「2人を応急処置した時に使用した物はなんですか?」

 

「あたしは元々医務もやってたからね、非常用に持ってた応急修復剤を使ったんだ。血は止まってるけど、傷が治った訳じゃないから気をつけて運んであげて」

 

「なるほど……わかりました」

 

榛名と礼花が話している間に、叢雲と不知火が夕立たち2人の元へ近づく。

 

「2人ともボロボロじゃない、これ下手したら死んでたかもしれないわよ……」

 

2人の傷を見た叢雲が声を上げながら時雨を背負い、それを聞いた不知火も夕立を背負って2人でゆっくりと榛名達の方へ戻っていく。

 

それを確認した榛名は、礼花に軽く礼をする。

 

「貴方が応急処置を施さなければ2人は今より危険な状況になっていたかもしれないです、ありがとうございました」

 

榛名は礼花にそう言うと、再度礼をした。

 

「いやいやいや、当然のことをしたまでだから大丈夫、鎮守府に戻って早くその子達を治療してあげて」

 

「はい、最後に一つお聞きしたいのですが……」

 

「ん?」

 

「貴方の名前を教えていただけませんか?」

 

榛名からの質問に、礼花は少しだけ言葉に詰まる。

 

「あー……まだ名前思い出してないんだ、艦娘辞めたばっかだからさ」

 

「そ……そうなのですか?では、艦娘だった頃の名前でも大丈夫です」

 

中々引き下がらない榛名を見て、礼花は少し困惑した表情を見せる。

 

「……そのうち分かるよ」

 

礼花は榛名にそう言うと、足早にその場から離れていく。

 

 

 

「あっ……!待っ……!」

 

榛名は礼花を引き留めようとしたが、礼花はそれを無視してその場から居なくなってしまった。

 

「何だったんだ?あの人」

 

礼花が行った方向を見つめながら止まっている榛名の元に、長波が後ろから近づいていく。

 

「榛名さん、あの人が気になるのは分かりますが……とりあえず今は鎮守府に戻って夕立と時雨の処置、そして新たな敵の報告をしましょう」

 

夕立を背負っていた不知火が榛名にそう言うと、榛名は振り返って咳払いをする。

 

 

 

「そうですね、では鎮守府に戻りましょう」

 

 

 

榛名がそう言うと、艦隊の全員が鎮守府の方向へと進んでいく。

 

新たな敵の出現や夕立と時雨を助けていた謎の女性。

 

様々な不安が艦隊全員の頭を駆け巡る。

 

夕日が照らした艦隊全員の顔は、どれも浮かない表情だった。

 

※※※

 

「ご苦労だった」

 

鎮守府の執務室に集まっている榛名たち第四艦隊に、提督が労いの言葉をかける。

 

作戦完了後、榛名達は提督に報告書を提出しに来ていた。

 

「今回も皆さんご無事で帰還できたようで……安心しました」

 

秘書艦の五月雨がほっと胸を撫で下ろす。

 

「これが報告書です」

 

榛名が提督に数枚の報告書を手渡す。

 

榛名から受け取った報告書を1枚1枚確認した後、提督は渋い顔をする。

 

「榛名、ここにある謎の少女とは一体なんだ?」

 

「あっ、それについてはあたしが説明するよ」

 

提督が報告書の文章の1部を指さしながら榛名に問いかけると、長波が手を挙げて提督の前に出てくる。

 

「そいつはフードを被っていて、艦載機も魚雷も装備した小さな少女みたいな奴だったよ」

 

「……そんな深海棲艦が存在するのか?多彩な動きができる深海棲艦は知っているが、大体そういう深海棲艦は図体がでかいはずなんだが」

 

「ほ……本当だって!艦載機飛ばしてきたと思ったら大量の魚雷も飛ばしてきて、さらに尻尾に化け物がくっついてたんだよ」

 

「……そんな個体は聞いたことがないな、五月雨、そこにあるファイルをとってくれ」

 

長波の話を聞いた提督は半分疑ったような表情で深海棲艦のリストを確認する。

 

全てのページを見終わったが、似たような容姿の個体は確認できず、提督は息を吐きながらリストを閉じる。

 

「複数の個体が1つに重なって見えてただけではないんだな?」

 

「うん」

 

「なら、新種の可能性があるな……少し調査が必要になってくるかもしれないな」

 

提督はそう言うと、大淀にアイコンタクトをとる。

 

提督からアイコンタクトを受け取った大淀はゆっくり扉の方に向かい、執務室から去っていった。

 

そして、提督の目線は報告書の文末の方に戻る。

 

すると、ある一文が目に映った。

 

「この「黒髪の女性」とはなんだ?艦娘に出会ったのか?」

 

「あっ……いえ、元艦娘の方だそうです」

 

「元艦娘?どの鎮守府所属だ?」

 

「いえ……それが……」

 

 

 

提督に質問された榛名は、黒髪の女性についての話を事細かに提督に伝える。

 

 

 

「なるほどな……それで、その女性が夕立と時雨の治療を行っていたと」

 

「はい、元艦娘という点しか分からなかったですが……敵ではなさそうな雰囲気でした」

 

榛名がそこまで喋った瞬間、執務室のドアが開く。

 

「すみません、失礼します」

 

入ってきたのは明石だった。

 

「少しだけ話を聞かせていただきました、榛名さん……その人の見た目を覚えてますか?」

 

「えっと……黒髪長髪で後ろで髪を結んでいて、眼鏡をかけていて……前髪に黄色の髪留めが着いていました」

 

最後の特徴を聞いた途端に、明石の表情が一変して険しい表情になる。

 

「その髪飾りはどんな形でしたか!?」

 

「えーっと……分かりやすく言うと、金の棒が3本くっついているような形状で……」

 

そこまで聞いた明石は、何かを察したような表情の後、いつもの笑顔に戻る。

 

「ありがとうございます」

 

「は……はぁ……」

 

急な質問をされて困惑している榛名を横目に見ながら、提督は明石の方を見る。

 

「で、明石は何故ここへ?」

 

「あ、そうでした!夕立ちゃんと時雨ちゃんの意識が回復しましたよ」

 

「そうか、2人には後で俺の方から顔を出そう……ありがとう、明石」

 

提督は明石にそう言うと、机の上にある報告書をファイルの中にしまった。

 

「じゃあ、明石以外のみんなは下がっていいぞ、過酷な任務だっただろう……部屋で少し休養をとるといい」

 

「了解しました、失礼します」

 

旗艦の榛名がそう言って礼をすると、それ以外の艦娘も礼をして執務室から去っていく。

 

最後の一人の陽炎がドアを閉めたのを見届けたあと、明石は執務室のソファーに座り込む。

 

「……はぁー、疲れた」

 

明石は気だるそうな表情の後、大きな欠伸をする。

 

「お茶をお出ししましょうか?」

 

「あー、ありがとう五月雨ちゃん、頂こうかな」

 

明石にそう言われた五月雨は元気の良い返事の後に、給湯室へと歩いていった。

 

「お前は最近働き詰めだったからな、お前も少し休んでいいぞ」

 

「そうは言ってられないですよ……色々と状況が一転しましたし」

 

「……。」

 

明石がそう言った瞬間、執務室に不穏な空気が流れる。

 

「夕立は今大丈夫なのか?」

 

提督がそう言うと、明石は少し黙った後に真面目な顔をして提督の方を向いた。

 

「夕立ちゃんの体の至る所に火傷のようなものが見つかりました、恐らくですが……今回の作戦中に暴走したものと考えられます」

 

明石の言葉を聞いて、提督が神妙な顔をする。

 

「今回の作戦中に暴走したのか?報告書には書いてなかったが……」

 

「はい、問題はいつ暴走したのかという点ですが……」

 

「ふむ……時雨と夕立が2人で謎の少女と戦ったと報告書には書いてあった、もしかしたらそのタイミングで暴走した可能性がある」

 

提督は榛名から貰った報告書が入ったファイルを再び開き、中から今回の報告書を取り出す。

 

そして、取り出した報告書の中の、夕立と時雨の戦闘について書かれている部分に赤い線を引いた。

 

「そしてもう一つ……謎の女性について、ですね」

 

「明石……お前、その女性について何か知ってるだろう?」

 

提督にそう言われた明石は、ビクッと体を震わせて、提督の方を見た。

 

「……バレちゃいました?」

 

「そりゃああれだけ必死に榛名に質問してるところ見たらなぁ」

 

「あはは……」

 

明石が困ったような表情をしていると、横から五月雨がお茶を明石の前に置く。

 

明石はそれを少し啜って息をつくと、ぽつりぽつりと話を始めた。

 

 

 

 

 

 

「恐らく、夕立ちゃん達を助けた女性は「須藤礼花」……あの人の正体は━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

明石と提督が執務室で話している同刻、目が覚めた時雨はベットの上でぼんやりしていた。

 

瞬きを数回した後に、体を上へと伸ばす。

 

横を向くとくしゃくしゃになった空のベットがある、恐らく自分と共に戦っていた夕立のものだろう。

 

ようやく意識がハッキリしてきて、脳内に気絶する前の戦闘の記憶が込み上げてくる。

 

「……っ!」

 

何もすることが出来ず、あっさりと尻尾に捕まってしまい、夕立に負荷をかけてしまった。

 

圧倒的強者を前に自分の力のなさを実感し、時雨は布団を握りしめる。

 

(こんなんじゃダメだ……僕はこんなんじゃ……)

 

時雨が激しい自己嫌悪の念に苛まれていると、数回のノックの後に医務室のドアが開く。

 

時雨がその方向を見ると、そこには白露が心配そうな顔で立っていた。

 

「時雨、大丈夫?」

 

「う……うん、僕は平気だよ」

 

突然現れた姉に苦しい顔は見せまいと、時雨は取り繕った笑顔で返事をする。

 

それを見た白露は更に心配そうな顔になり、時雨の隣のベットに腰掛けた。

 

「本当に……?」

 

「大丈……っ……!?」

 

時雨の手を握って真意を聞いてくる白露に、尚も時雨は空元気を見せようとするが、一瞬傷口の痛みに襲われる。

 

「ほら!大丈夫じゃないじゃん!」

 

白露はそう言うと時雨をゆっくり寝かせ、再度手を握る。

 

姉の暖かい手の温もりを感じながら、時雨は申し訳なさを心の中に募らせていた。

 

「ごめんね姉さん……僕がしっかりしてないから、姉さんに心配かけちゃった」

 

喋るにつれて、時雨の声がだんだん小さくなっていく。

 

そんな時雨を見た白露は、手を握る力を強めて時雨に顔を近づける。

 

「私は時雨が無事に帰ってきてくれたらそれだけでいいよ」

 

そう言って白露は屈託のない笑みを時雨に向ける。

 

「約束、忘れてないよね?」

 

「……姉より先に死なない」

 

「……うん、覚えてるみたいだね、良かった」

 

そう言うと白露は立ち上がり、医務室の扉へと歩いていく。

 

そしてそこで振り返り、時雨の方を見た。

 

「じゃあちゃんと安静にしててね」

 

白露は時雨にそう言い残し、医務室を後にする。

 

部屋にただ一人残された時雨は布団の中に顔を埋める。

 

布団を握っている手の力は自然と強くなっていき、周りに大きなシワができる。

 

そしてその少し後━━━━━━━━━

 

 

 

 

ベットを強く殴ったような大きな音が医務室に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬前のひんやりした潮風が吹く鎮守府外の展望台。

 

静かな波の音が耳を触り、潮風が髪の毛をベタベタにしていく。

 

医務室のベッドで寝ていたはずの夕立は、釣り餌におびき寄せられる魚のようにフラフラと何かに引き寄せられ、気づいたらそこに立っていた。

 

何をする訳でもなく、夕立はボーッと海を眺める。

 

「やぁ、夕立ちゃん」

 

後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「……礼花さん?」

 

そこには須藤礼花が朗らかな笑みを浮かべながら立っていた。

 

夕立が手を振ると、礼花はゆっくりと夕立の横へと近づいてくる。

 

「だんだん肌寒くなってきたねー、夕立ちゃん」

 

礼花は両手を擦り合わせながら夕立の隣に立つ。

 

「今日はどうしたの?」

 

夕立が礼花に問いかけると、礼花は溜息をつきながらポケットに手を入れた。

 

「本当ならここでゆっくり世間話でも……って思ってたけど、そうもいかないんだよね」

 

 

 

 

 

 

「今日は君に言わなければいけないことがあって来たんだ」

 

 

礼花がそう言った瞬間、少し強めの風が吹いた。

 

 

 

礼花は展望台の手すりに腰をかけ、いつになく真面目な顔になる。

 

ただならぬ気配を感じ取った夕立は唾を飲み込んだ。

 

 

 

「君があそこまであの力を解放してしまったなら、もう隠してても記憶を覗き見されちゃうからね」

 

「……?」

 

 

意味不明なことを喋っている礼花を見て、夕立は首を傾げるも、礼花は気にせず話を続ける。

 

「この世には不思議な物がいっぱいある、UFOだったり、UMAだったり、艦娘だったり……普通の人が理解できないものが多いんだ」

 

「な、何を言っているか全く分からないっぽい!」

 

いよいよ本当に理解が出来なくなってきた夕立は、礼花の話を遮る。

 

そんな様子の夕立を見て礼花は少し微笑み、夕立の前に立つ。

 

「ごめんごめん、じゃあ前置きはこの辺にして……」

 

夕立の肩を掴み、礼花は真っ直ぐ夕立の目を見る。

 

 

 

 

 

 

「君は、自分のものじゃない記憶を見たことがあるかい?」

 

 

 

 

 

急な礼花の言葉に、夕立はドキッとした。

 

普通なら理解できない言葉だが、妙に心当たりがある。

 

夕立は必死に自分の記憶の引き出しを探し回った。

 

 

 

 

瞬間、夕立の目の前が真っ暗になり、情景が変わった。

 

 

 

 

『は……!夕立はどうなったの……!?』

 

見覚えのあるようで、見覚えの無い天井。

 

荒々しくドアが開き、一人の女性が夕立の元へ駆け寄ってくる。

 

『大丈夫だった……?』

 

そうだ、前の夢の時は喋れなかったんだ。

 

夕立は今度こそと思いながら喉を動かす。

 

「大丈夫だったよ……心配させてごめんね」

 

夕立の口から出た言葉は、自分の口調とはまるで違う落ち着いた雰囲気の言葉だった。

 

『良かった……本当に良かったよ……』

 

女性は肩を震わせながら、夕立を抱きしめる。

 

『ねぇ、君のあの姿は一体なんだったの?』

 

女性がその質問をした瞬間、女性の顔にかかっていたモヤが晴れ、はっきりと顔が見えるようになる。

 

白い髪の毛を後ろにまとめ、緑の瞳を真っ直ぐに夕立の顔へ向けている。

 

そこにいたのは━━━━━━━━━

 

 

 

 

軽巡洋艦『夕張』だった。

 

 

 

 

 

「ぐっ……あぁあぁぁぁぁ……!!」

 

その時、激しい頭痛が夕立を襲った。

 

今まで見えていた景色が吹き飛び、夕立の意識は展望台の上へと戻された。

 

「っ……はぁ……はぁ……!」

 

息が荒い。

 

まるで先程まで全力疾走していたかのように息が荒く、呼吸が整わない。

 

「おかえり、夕立ちゃん」

 

「……?」

 

「やっぱりそうだったみたいだね、君は」

 

朦朧とする意識の中、礼花が夕立の方に手を伸ばしている。

 

それに掴まった瞬間少し目眩が治り、フラフラしながら展望台のベンチへと座る。

 

礼花は夕立が座ったところの横に座り、足を組んで顔だけを夕立の方に向けた状態になる。

 

 

 

 

「君には3つ教えなくてはいけないことがある」

 

 

 

礼花はそう言うと、ポーチの中から試験管のようなものを取り出す。

 

試験官の中には黒ずんだ血のようなものが入っていた。

 

……見覚えがある。

 

夕立はそう感じ、心当たりを必死に探した。

 

頭の中を探しに探し回った結果、1つの答えが出る。

 

 

 

━━━━ 自分が暴走した時に見える赤黒いオーラだ。

 

夕立が試験管の中身を見ていると、礼花はそれを持ってクルクルと回し始める。

 

 

 

「1つ目は、あたしの正体について……だね」

 

 

 

 

 

礼花がそう言った瞬間、礼花の髪の毛が毛先からゆっくりと白くなっていく。

 

先程まで真っ黒だった髪の毛はものの数秒で豹変し、緑がかった明るい色へと変わっていった。

 

そして、メガネを外して夕立の方を向く。

 

「その姿……!?」

 

徐々に変化していく礼花の様子を見た夕立が驚いていると、夕立の頭の中に1つの考えが浮かぶ。

 

 

━━━━━━━誰かに似ている。

 

 

何処か哀愁のある緑色の目に、緑がかった明るい色をした髪、長い髪の毛は後ろで縛られている。

 

その姿はまるで……

 

 

 

 

 

軽巡洋艦「夕張」のようだった。

 

 

 

 

 

 

それに、あの夢のようなもので見た夕張と雰囲気が似ている。

 

何かを察した夕立が、驚きながら礼花の方を見ていると礼花の口元がニヤリと笑う。

 

 

 

 

「あたしの名前は須藤礼花……軽巡洋艦『夕張』の名を背負っていた元艦娘だよ」

 

 

 

瞬間、夕立は礼花に初めてあった夜のことを思い出す。

 

どこかで見たことがある顔だとずっと思っていた。

 

(そうだ……なんで見た事あるような気がするだろうって思ってたっぽい……でも、今ならわかる)

 

完全に同じでは無いが、鎮守府の夕張と似たような顔立ちをしているのだ。

 

正体を明かした礼花は夕立の顔に手を近づけると、左の頬を撫でる。

 

その行為に何か意味があったのかは分からなかったが、礼花の手が触れた時、夕立は何故か懐かしいような気がした。

 

 

 

 

 

 

━━━━瞬間、夕立の目から涙が零れてくる。

 

「あれ……え……?」

 

自分で泣こうと思った訳ではなく、悲しいと思った訳でもない。

 

特に理由もないのに礼花の本当の姿を見た途端に涙が溢れて止まらなかった。

 

「なんで……?」

 

訳もわからないまま涙を流し続ける夕立を見た礼花は、夕立の肩を掴んだ。

 

 

「っ……!?記憶が戻った……?」

 

礼花は真剣な顔をして夕立の目を見る。

 

「つかぬ事を聞くけど、あたしの事は分かるかな?12年前、君と同じ艦隊所属だった夕張だよ」

 

 

 

「12……年前……?」

 

夕立の涙が止まり、礼花の言葉を思い返す。

 

礼花と夕立が初めて会ったのは3週間前であり、夕立の年齢は11歳。

 

12年前に礼花に会っているのはおかしい事なのだ。

 

「礼花さん、何を言ってるっぽい?」

 

「……やっぱりだめか、いや、変な事聞いちゃったね……忘れて」

 

理解できない、と言った様な表情の夕立を見て、礼花は少し寂しそうな顔をした後、夕立の肩から手を離してゆっくり立ち上がる。

 

そして、先程取りだした試験管を夕立の目の前に差し出した。

 

 

 

「2つ目は君の能力についてだ」

 

 

 

その言葉を聞いた夕立は少し身構えた。

 

今まで自分を苦しめてきた存在━━━━━━得体の知れない物に支配される恐怖。

 

それの正体がわかるということは、夕立にとって喜びでもあり、恐怖でもあった。

 

腕には鳥肌が立っている。

 

寒さのせいか、それとも別の理由か。

 

理由は分からないが、とにかく体が緊張していることは確かだった。

 

 

 

「君のその能力の正体は……「type‐0」、改や改二を艤装に取り入れる技術を開発する際に……あたしが作った艤装改造データだ」

 

 

 

 

「…………っ!?」

 

自分が作った、と礼花は確かにそう言った。

 

夕立が礼花の顔を見ると、普段の落ち着いた雰囲気は崩れかけており、どこか不安げな表情をしていた。

 

「どういう事っぽい……?じゃあ礼花さんが夕立にこの力を埋め込んだってことっぽい?」

 

「いや、正確には君に埋め込んだんじゃない」

 

礼花はそう言った後、しばらく言葉を喉に詰まらせていた。

 

そして、意を決した様な表情をした後、礼花は真っ直ぐ夕立の顔を見る。

 

 

 

 

「君のその力は━━━━━━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

「私の親友が元々持っていた能力なんだ」

 

 

 

 




お待たせしました、Part19です。

小説の方は今まで謎だった部分が段々と明るみになり、遂には礼花さんの正体さえ分かってしまいました。

ここからどんどん展開を進めていく予定なので、これからの展開にどうぞご期待ください。

小説もそうですが、実は私の実生活もココ最近すごく忙しいものになっていました。

一日じっくり休める日が欲しいです(切実)

では、また次回お会いしましょう。
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