【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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【艦これ】心を埋めるもの Part2「天才」

予定通りの時間、鎮守府から少し離れた海の上に夕立は立っていた。

 

ここは深海棲艦が出現したことの無い場所らしく、艦娘の訓練所として整備されている。

 

「明石さん!今日はよろしくっぽい!」

 

「はーい、よろしく!あまり無茶しすぎないでね?」

 

「わかったっぽい!」

 

夕立は明石に返事をした後、艤装を展開し、相手を待つ。

 

「夕立ちゃん、今のところ異常はない?」

 

明石の横に立っていた、夕張が艤装のチェックの紙を記入しながら、夕立に質問する。

 

「ないっぽい!」

 

「はーい、じゃあチェック入れとくねー」

 

 

 

その様子を提督と金剛は遠くから見ていた。夕立がもし、暴走してしまった場合、止められる人が必要だと判断した提督は、鎮守府のエース、高速戦艦の金剛に監視を頼んだ。

 

「金剛、今日は来てくれてありがとう」

 

「いいデスヨー!大好きな提督のためなら、私はいつでも力になりマース!」

 

「お前はいつも直球だな」

 

提督は苦笑いをしながら金剛の方を見る。

 

「愛を伝えるなら直球が1番デース!」

 

そう言うと、金剛は提督に抱きついた。

 

「おい離れろ、そろそろ始まるぞ」

 

提督は少し顔を赤らめながら金剛を引き剥がす。

 

「んもぅ……恥ずかしがり屋さんなんですカラ!」

 

金剛が残念そうな顔で言う。

 

「ったく……」

 

(戦闘時は頼りになる子だが、普段がこれではなぁ……)

 

「で、私はどうすればいいんデスか?」

 

ある程度提督とのスキンシップを楽しめた金剛が、首をかしげながら提督に尋ねる。

 

「お前は夕立が暴れそうになった時に、止める役だ」

 

「暴れる?あの子はそんなにdangerousな子なんデスか?」

 

提督の顔が曇る

 

「可能性があるってだけだ。俺もまだ詳しくは知らないが、本人曰く「夕立の中に何かがいる」らしい。夕立では無い何かが、物を壊したり、人を傷つけたりしていたと夕立は言っていた……」

 

「多重人格ってことデスか?」

 

「わからない。とりあえず今は、平常時の能力を見るために俺もここに来ている」

 

「そうデスか……でも、夕立は今日が初めての戦闘になるんじゃないデスカ?」

 

「あぁ、見るのは砲撃の火力などの艤装自体の能力だ。後は初戦闘でどれだけ体を動かせるか、だな」

 

「なるほど……私が着任したころには無かったテストデスからネ」

 

金剛が着任したのは4年前、初の戦艦として建造された。

 

このテストが始まったのは2年前。

 

明石と夕張の管轄の元、あまり大事にせずにやっていたために古参の艦娘は知らないことが多い。

 

「今回のテストは異例な事が多い。だから金剛、お前に来てもらったんだ」

 

「ナルホド……対戦相手は誰デスカ?」

 

その言葉を聞いて、提督は夕立から少し離れたところを指さす。

 

「対戦相手は時雨だ、あの子も同じ時期に着任だからな。経験は同じくらいのはずだ」

 

「そうデスカ……oh!そろそろ始まるみたいネー!」

 

「すぐに出れるように、艤装を展開しておけ」

 

「了解デース!」

 

夕立と時雨がお互いの場所に立ち、挨拶をする。

 

「こんにちは、今日はよろしくね?」

 

「よ、よろしくっぽい!」

 

夕立は緊張した様子で答える。

 

(この子、時雨とは何か同じものを感じるっぽい。姉妹艦だから? いや、五月雨には感じられなかったっぽい……)

 

黒い髪、青い瞳、何も自分と重なる部分は無いはずなのに、気になってしまう。

 

「夕立ちゃん!時雨ちゃん!そろそろいくよー!」

 

そんな夕立を他所に、夕張が開始の合図の空砲を構える。

 

すでに時雨は戦闘態勢に入っていた。姿勢は低く、冷酷な目で夕立を見ている。

 

時雨の目を見て一瞬夕立は怯んだが、負けじと戦闘態勢に入る。

 

気になることも多々あるが、今は目の前の事に集中しなくてはならない。

 

(……とりあえず今は、テストに集中するっぽい……初戦闘、頑張るっぽい!)

 

「艤装テスト、模擬戦初め!」

 

始まりの合図が鳴った。

 

瞬間、時雨が夕立の懐に入る。

 

「ふっ!」

 

時雨の砲塔から弾が撃たれる。

 

それを夕立は避けきれずに、被弾した。

 

「きゃあっ!!」

 

━━━━━━━━━━━━━━ 一瞬の出来事だった。

 

目が追いつかないほどの速さで接近され、視界が揺れる。

 

攻撃で怯んでいる夕立を無視し、時雨は攻撃を続ける。

 

放たれた2発目を夕立は間一髪で避けて反撃をする。それを避けた時雨が、余裕そうな表情で夕立を見た。

 

「今のを避ける……か、少しはやるみたいだね」

 

夕立は冷や汗をかきながら、魚雷を打つ姿勢になる。

 

(つ……強いっぽい! でも、負けてられないっぽい!)

 

夕立が魚雷を発射する。それを時雨は軽々と避け、間髪入れずに3発目、4発目と夕立に向かって砲撃をする。

 

3発目は紙一重で避けることができたが、4発目を脇腹に食らってしまう。

 

それを見ていた金剛が、驚きの声をあげる。

 

「まさか……今の攻撃、3発目は陽動で、4発目を一発目に当てたところに当てるために撃ったってことデスカ!?」

 

「あれは……初戦闘でいきなり使えるものとは思えないな」

 

「駆逐艦時雨……本当に初戦闘なんデスカ?」

 

「初戦闘のはずだ、俺が知る限りでは過去に戦闘したという記録は無い」

 

 

「……?」

 

 

 

提督の言葉を聞いて、金剛の頭に何かが引っかかった。

 

「……過去?テイトク、それはどういうことデスカ?あの子は夕立の同期、新人の艦娘のはずデス。建造されたのであれば最近のハズ……この鎮守府で建造された訳では無いんデスカ?」

 

「……。」

 

「テイトク、答えてくだサイ」

 

金剛が真剣な顔で提督を見つめる。

 

今まで見たことも無いくらい真剣な顔に、提督は気押される。

 

「……わかった、答えよう」

 

訓練所に不穏な風が吹く、時雨と夕立が戦っている最中だが、提督と金剛のいる空間は静かだった。

 

提督は風でズレた帽子を直しながら、時雨の方を見る。

 

「時雨は……生まれた時から艦娘の力を有している、夕立と同じだ」

 

「!?」

 

金剛が目を見開き、時雨の方を見る。

 

「ということは、時雨も暴走する可能性があるってことデスカ……?」

 

「いや、暴走する恐れがあるのは夕立だけだ。夕立の艤装は特殊で、通常時には見られない奥底のもう1つの力が膨大すぎる故に、暴走する事があるらしい」

 

「なるほど……今みる限り、夕立の艤装の能力は平均値デスガ、奥底にまだ力が眠っているということデスカ。それに対して時雨は特に変哲もない普通の能力、ということデスネ」

 

「……の、はずなんだがな」

 

(時雨の艤装自体の能力値は平均値より少し高いくらいだ……しかし、それに目がいかないほどの圧倒的な戦闘センス……一体どこで身につけた……?)

 

提督の目線の先の少女は、絶えることなく夕立に攻撃を続ける。夕立はそれを避けることに精一杯で、反撃をすることができない。

 

「反撃の隙が無いっぽい……!」

 

脇腹に食らったダメージが大きすぎたようだ。これが演習弾ではなく、実弾だったらと考えるとゾッとする。

 

「これで終わりかい?」

 

攻撃を続けながら時雨が夕立に問いかける。

 

その一瞬だけ攻撃が止み、時雨に隙ができた。

 

それを夕立は見逃さず、すぐさま反撃をする。

 

「くらえぇ!!」

 

夕立が全力の一撃を放つ。

 

時雨はそれを間一髪で避けた。

 

「なっ……!?」

 

「惜しかったね、頭ひとつ分右だったら当たっていたよ」

 

時雨は姿勢をすぐに建て直して夕立に蹴りを入れ、飛んでいった夕立に砲撃をする。

 

「かっ……はっ……」

 

夕立はその場に崩れ落ちた。

 

蹴りも砲撃も見事に脇腹に当たり、想像を絶する痛みが夕立を襲う。

 

体が動かず、口から血を吐き出す。

 

計算され尽くされた攻撃、圧倒的実力差の前に、夕立は絶望する。

 

 

(同期なのに……ここまで差があるなんて……)

 

 

遠のく意識の中水を進む音が聞こえ、夕立の近くに時雨が寄ってくる。

 

「これで、終わりだね」

 

時雨は砲塔を夕立に向け、夕張にテスト終了の合図を送る。

 

夕張がそれを見て、テスト終了の合図の空砲を打つ。

 

「終了!時雨、夕立をこっちまで運べる?」

 

「わかった、背負っていくね」

 

夕立は時雨に背負われ、明石の方に連れていかれた。

 

 

 

「テスト終了の音、だな……」

 

空砲が聞こえた瞬間、提督と金剛は胸を下ろした。

 

「……何も、なかったようだな」

 

提督がハンカチで汗を拭く。

 

「私の出番が無くて良かったデス……」

 

金剛が安心した表情で艤装をしまう。

 

「あぁ、そうだな……」

 

「Hey 提督……時雨と夕立の戦いを見て、提督はどう思いましたカ?」

 

安心した表情から、少し真面目な表情になった金剛が提督に問いかける。

 

「夕立は……通常時は並の駆逐艦レベルだ、特に問題もない、普通の実力だった」

 

「一方時雨は、完璧な戦い方だった……一言で言えば「天才」だ。少し訓練すれば、主力にも入れるほどの実力だ。」

 

提督は真っ直ぐ時雨の方を見ながら、双方に評価を下す。

 

「そうデスカ……ワタシは……」

 

「……ワタシは、時雨の戦い方、見たことある気がしまシタ」

 

「とりあえず今は夕立を医務室に連れていこう。後で夕張、明石を含めてまた話そう」

 

一瞬の間の後、提督は金剛の意見には何も言わずにそう答えた。

 

「わかりマシタ」

 

テストを見ていた明石と夕張も、何も起こらなかったので心底ほっとしていた。

 

「明石、艤装のチェック項目の方は?」

 

「2人とも今のところ問題はないかな。後は本人達が使いやすいか、使いづらいか、それだけだね」

 

「夕立ちゃん、暴走はしなかったみたいだね……良かった」

 

夕張が緩んだ顔でタオルで汗を拭きながら呟く、それを聞いた明石が、夕立を見ながら答える。

 

「そうね、でもまだ油断はできないよ?いつ暴走するかわからないし……」

 

明石の言葉で、夕張の顔が真剣な表情に戻る。

 

「そうだね……」

 

 

 

 

 

時雨が夕立を背負って帰ってくる。

 

夕立の最初の戦いは、夕立の大敗北で幕を閉じた。

 




Part2投稿しました!

これからゆっくり投稿していきます!
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