【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part20 「交差する思惑」

「君のその能力は━━━━━━━━━━━」

 

 

 

「あたしの親友が元々持っていた能力なんだ」

 

「…………え?」

 

瞬間、夕立の思考が止まる。

 

この数分間で伝えられた事実の情報量が脳の許容量を超えてしまい、夕立は礼花を見つめたまま茫然と立ち尽くしていた。

 

そんな夕立の様子を見た礼花は、もう一度ベンチに座り直した。

 

「少し整理する時間が必要かな?」

 

礼花の言葉で夕立は我に返り、言われたことを必死に頭の中で整理する。

 

「えっと、礼花さんは元々は夕張さんで……夕立の中にある能力は礼花さんが作った物で、元々夕立のものじゃなくて……」

 

言っているうちにまた頭がおかしくなってくるが、何とか言葉にまとめることは出来た。

 

「そうそう、そんな感じそんな感じ」

 

礼花はそう言うと微笑みながら頷く。

 

ある程度頭の中で整理が終わると、一つ引っかかる部分があった。

 

 

『記憶が戻った……?』

 

『12年前、君と同じ艦隊だった夕張だよ』

 

それは、さっきの礼花の言葉だった。

 

(まるで……夕立にもっと昔に会っていたような反応だったっぽい……)

 

「ねぇ、礼花さん」

 

「ん?」

 

「礼花さん、さっき夕立にもっと昔に会ったことがあるようなことを言ってたっぽい……それって……」

 

「あー、うん……実はそれが3つ目の話なんだけど、ちょっとこの話は難しいんだよね」

 

「……?」

 

礼花はそう言うと、顔を顰めて唸りながら考え事をする。

 

「さっきあたしが言った、「自分のものじゃない記憶」には心当たりがあるみたいだね」

 

礼花の言葉に夕立は深く頷いた。

 

確かに自分の感覚はあるが、自分のものでは無い記憶が時折夕立の頭の中に流れることがあるのだ。

 

記憶だけでなく、感覚も含めたらさらにそれを実感する場面が多い。

 

礼花に初めて会った時に感じたどこかで会ったことがあるかのような感覚も、それに近いものだろう。

 

「その記憶は君のものであって、君のものじゃない」

 

「じゃあこの記憶も、夕立のじゃなくて……」

 

「そ、あたしの親友の物」

 

一見聞くと矛盾しているような言葉を礼花は言ったが、夕立は妙に納得してしまった。

 

「じゃ……じゃあ!この記憶も能力もその……いつか礼花さんの親友に返すことって出来るっぽい?」

 

「……。」

 

夕立がそう言うと、礼花は礼花は一瞬悲しそうな顔をした後、空を見上げた。

 

 

 

 

 

「無理だよ、もうあたしの親友はこの世に居ないからね」

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

その言葉を聞いた瞬間、夕立は自分が言ってしまった言葉の無責任さを悔いた。

 

「ごめっ……ごめんなさ……」

 

 

「あぁ、謝ることじゃないよ? そんな事言ってなかったし、まだ幼い君が言葉に責任を負う必要は無い……むしろ君に謝らなきゃいけないのはあたしの方だ」

 

「……?」

 

礼花はそう言うと、夕立の手を両手で取り、自らの胸の前で握る。

 

「これから話す内容は、君には少し重い話かもしれない……でも、君に伝えなくちゃいけないことなんだ」

 

夕立の手を握っている礼花の手は震えていた。

 

今まで何を考えているのかわからなかった礼花だったが、今だけはわかるような気がした。

 

 

 

「聞いて……くれるかな?」

 

礼花の唇から小さくその言葉が放たれる。

 

夕立は礼花の言葉を聞いた瞬間、唾を飲み込んだ。

 

話を聞くために相応の覚悟を決め、首を縦に振る。

 

すると、礼花は「ありがとう」と言ったあと、一枚の写真を取り出した。

 

礼花はその写真を一瞬懐かしむような目で見たあと、裏面のまま夕立に向けて渡す。

 

写真を受け取った夕立は恐る恐る表返すと、そこには夕張時代の礼花と━━━━━━━━

 

 

 

 

 

駆逐艦「夕立」が写っていた。

 

 

 

 

 

「…………えっ……?」

 

写真を見た瞬間、夕立は固まった。

 

目の前にある写真に写っていたのは、明らかに今よりもずっと若い礼花と……駆逐艦「夕立」だった。

 

写真を見て混乱している夕立の顔を見て、礼花は小さく息を吐く。

 

そして、意を決したような表情の後、小さく口を開いた。

 

 

「この写真は、さっき言ってたアタシの親友……「夕立」との写真だよ」

 

 

礼花の親友の名前が口に出された瞬間、夕立は混乱したままの頭で何とか質問を捻り出す。

 

「なんでここに……夕立が……?」

 

「正確には君なんだけど、君じゃないんだ………その写真は13年前の写真、アタシがまだ14歳位の時の写真かな」

 

礼花は懐かしそうにそう言った後、顔が段々と悲しそうな表情になる。

 

 

 

 

 

「12年前……つまり、君が生まれる1年前に、アタシの親友だった「夕立」は戦死した」

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

礼花のその言葉を聞いた途端、夕立の全身に鳥肌が立つ。

 

礼花の今までの話しぶりから分かりきっていた言葉だったが、いざ聞くとやはり重い言葉だった。

 

「当時のあたし達は、この海域に現れた姫級を討伐するために日々戦っていた……今こんな状況の中、君がここに居るのも運命なのかもしれないね」

 

それを聞いた夕立は、何かを察する。

 

「ということは、礼花さん達が戦った姫級と、今この海域に現れた姫級は……」

 

「……そういうこと、あたし達が12年前に死闘を繰り広げて撃退させた姫級と同じ個体だと思う」

 

「それで、夕立はその戦いで……?」

 

「……」

 

礼花は夕立の問いには答えなかったが、雰囲気で礼花の言わんとすることが夕立には伝わってきた。

 

じんわりと頭の中に1つの答えが浮かんでくる。

 

だが、あまりに信じ難い事だったため、夕立は頭の中で必死にその答えを否定する。

 

 

 

「……それで、この写真の夕立と夕立には何の関わりがあるっぽい?」

 

頭に浮かんだ「答え」を否定するために、夕立は恐る恐る礼花に質問をする。

 

「……夕立ちゃん、本当はもうあたしが言いたいことは分かってるんじゃないかな?」

 

「……」

 

「そういう事だよ、夕立ちゃん」

 

 

 

 

 

「君は、その写真の夕立の生まれ変わりなんだ」

 

「……っ!」

 

 

頭の中で出ていた「答え」

 

否定していた物が現実となり、夕立に突き刺さる。

 

生まれ変わり、今まで自分に起こった不可解な出来事が全て繋がる一言を放たれた夕立は、俯いたまま何も言えなかった。

 

「正確に言うと、体だけは彼女の物って感じかな……なんでそんなことが起きたのかは分からないけど」

 

礼花はそう言うと、先程ポケットに閉まった赤黒いオーラが入った試験管を取り出す。

 

礼花がその試験管についている蓋を開けると、中のオーラが夕立を求めるように夕立の方へと進み始める。

 

それを見た礼花はすぐに蓋を閉じ、悲しみが浮かんだ表情で試験管の中のオーラを見つめる。

 

「これは初めて君にあった日、暴走した君から抽出したオーラの一部だよ」

 

「抽出……?」

 

「初めて君に会った日からちょっと前の戦闘まで君は暴走しなかったでしょ?」

 

そういえば、あの日から暴走することは無かった。

 

夕立の中でもう1人の自分が目覚めそうになった瞬間、何かに邪魔されるような感覚が襲ってくることが何度もあった。

 

暴走する前の戦闘の時も、力が目覚めそうになった時、普段より溢れてくる力が夕立でも抑えられる程まで弱くなっていた。

 

それらは全て礼花のおかげだった。

 

「初めて会った時、君の艤装から暴走の原因になっている改造プログラムを少しだけ抽出したんだ」

 

初めて会った時、浜辺で礼花と話している時にリ級に襲われたあの日。

 

確かに夕立の暴走は不自然な所で止まっており、夕立はそれをはっきり覚えていた。

 

「礼花さん、そんなことが出来るっぽい?」

 

「作ったのはあたしだからね。それで、君のこのオーラと昔の夕立が使ってたオーラが酷似しているんだ」

 

「それが生まれ変わりの証拠っぽい?」

 

「そういうこと、現にあたしはあの子以外にこのプログラムを渡してない」

 

「……」

 

「あたしは艦娘の生まれ変わりについて調べたけど、過去の事例はデータとして残って無かった……」

 

「だからあたしは君をずっと観察していたんだ」

 

礼花の今までの行動が段々と明らかになり、

不可解だった礼花の言葉も辻褄が合うようになってきた。

 

礼花が自分の暴走に詳しい理由や、自分が艦娘だとすぐ分かったこと、何故か懐かしい感覚がしたこと……

 

それら全ては、この写真に写っている夕立が関わっていたことだった。

 

(……そういえば)

 

ここで夕立の頭の中に、1つの疑問が生まれる。

 

「前の夕立は……能力を扱いきれてたっぽい?」

 

夕立がそう言うと、礼花は渋い顔をする。

 

 

 

「そう、そこなんだよ」

 

 

 

「え?」

 

「君とあの子が決定的に違うところはそこなんだ、彼女も完全に扱いきることはなかったけど、少なくとも初めから自らの力にして戦うことは出来ていたんだ」

 

礼花は手を顎に当て、唸り声を出す。

 

 

 

「そこが、君とあの子の明確な違いなんだよね」

 

 

 

礼花がそう言うと、夕立は過去に礼花に言われた言葉を思い出した。

 

 

『その力を扱うためには、必要なものが一つだけあるんだ』

 

 

(前の夕立がこの力を使いこなせてたってことは、必要なものをしっかり揃えてたって事っぽい……?)

 

 

 

 

「礼花さん」

 

「ん?」

 

「力が制御できてたってことは……前の夕立は、礼花さんが前に言ってた「必要なもの」を持っていたってこと?」

 

夕立がそう質問すると、礼花は少しだけ嬉しそうな顔をした。

 

 

 

「うん、持っていたよ……それも沢山ね」

 

「沢山!?」

 

「手に抱えきれないほど持っていたよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……今の夕立じゃ見つけられない?」

 

「……」

 

夕立の問いに、礼花は黙り込む。

 

しばらく経った後、礼花は夕立の目を真っ直ぐ見つめた。

 

「……うん、まだ君じゃ見つけられない……もう一度自分のことを見つめ直して、己の中の力と向き合うんだ」

 

「……」

 

予想出来ていた礼花の答えに、夕立は下を向いた。

 

現に自分はその必要なものが何なのかを何一つ理解していない。

 

今の自分にはどうしようも出来ないと言う事実だけが夕立に突きつけられ、夕立はどこか虚しい気分になった。

 

「そっ……か」

 

「でも、君ならきっと見つけられる……あたしは信じてる」

 

「……」

 

礼花が夕立を励ますように言うが、夕立は下を向いたままだった。

 

そんな夕立の様子を見た礼花は、微笑を浮かべながら夕立の頭に手を乗せる。

 

「君は今、運命の渦中にいる。 その中をどう進んで行くかは君次第だ……あたしはそれをできるだけサポートできるようにこれから動いていくよ」

 

「ぽい……」

 

「じゃあ、あたしはここで」

 

そう言うと、礼花は夕立にくるりと背を向けてその場を立ち去っていく。

 

夕立は、次々と礼花の口から告げられた真実が今ひとつ頭の中で纏まっておらず、歩いていく礼花の後ろ姿を呆然と見つめていた。

 

礼花が曲がり角を曲がって姿が見えなくなった瞬間、とりあえず頭の中を整理したいという考えが脳裏に浮かんだ。

 

「とりあえず、部屋に戻るっぽい……」

 

ただ会話しただけなのに、体には尋常ではない疲労感が溜まっている。

 

とにかく自室に戻りたかった夕立は、鎮守府の方角へと歩き始めた。

 

 

 

 

夕立と別れ、曲がり角を曲がった礼花は淡い橙色に染まった空を見上げてため息を吐く。

 

文句の付けようのない綺麗な夕焼け空とは真逆に、礼花の表情は曇っていた。

 

 

 

『夕立、君はさ……なんで戦ってるの?』

 

古い記憶の中の自分の言葉が蘇ってくる。

 

『戦う理由……?そんなの━━━━━━━』

 

記憶の中で少女は笑いながら礼花に何かを言うが、その言葉の途中で、少女は喫茶店で会った時のもう1人の方の姿にぐにゃりと体を変化させていく。

 

 

 

『夕立は……戦うことしか出来ないからっぽい』

 

 

少女は悲しそうにそう言うと、礼花の方を見てくしゃっと笑った。

 

その笑顔は何処か寂しそうで、消えてしまいそうで━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「……。」

 

冷たい風が礼花の頬を通り過ぎていき、体が震え上がる。

 

ポケットに手を入れて礼花は歩いて行くが、前から吹いてくる冷風は、何処か礼花を拒んでいるようだった。

 

そこで足を止め、もう一度曇りのない夕焼け空を見上げる。

 

 

 

(君は確かに彼女の生まれ変わりだ……でも)

 

 

 

 

(君は彼女とは違う)

 

 

 

 

礼花は目尻に涙を浮かべながら、自分の横にあった壁によりかかり、自分の両方の手のひらを見つめる。

 

(でも、あたしはそれでも君を全力でサポートするよ)

 

 

 

 

 

 

「それが、あたしが犯した罪への……せめてもの償いだから」

 

 

 

口から言葉が出た途端、礼花の右手にぽつりと涙が落ちた。

 

 

 

 

 

礼花と夕立の話から数日後、ほとんど体調が回復した時雨は、川内の呼び出しで訓練所を訪れていた。

 

訓練場に来てみると、普段聞こえてくる他の艦娘の練習の音も、談笑している艦娘の声も聞こえず、とても静かだった。

 

(来てみたけど……的も退けてあるし、何か変だ)

 

時雨は妙な雰囲気を感じ取る。

 

川内の後ろ姿が見え、時雨が警戒しながら川内に近づいていくと、川内がこちらに気づいて近づいてくる。

 

「ごめんね時雨、急に呼び出しちゃって」

 

近づいてきた川内は、普段と変わらない表情で時雨に話しかけた。

 

「いえ、大丈夫ですよ……それより、僕になにか用ですか?」

 

時雨がそう言うと、川内は時雨から距離を取って、時雨から10メートル程先まで到達すると川内は振り返った。

 

「今日呼んだのはね、時雨と演習するためだよ」

 

川内はそう言うと、自らの艤装を展開する。

 

「演習?」

 

「そう、私とやるの久々でしょ?」

 

「そ、そうですけど……」

 

時雨は戸惑いながらも艤装を展開し、手足を動かして艤装に悪い部分がないか確かめる。

 

その様子を遠くから満足気に眺めていた川内は、軽く屈伸をした後、いつものような明るい顔で時雨の方を見た。

 

「準備はいい?」

 

「は、はい……でもどうして急に僕一人に演習を……?」

 

「ん?まぁ、強くなった部下の力も見てみたいし……」

 

 

 

 

 

 

 

「……なにより」

 

 

 

 

川内がそこまで言った瞬間、川内の表情が一転し、一瞬で張り詰めた空気になる。

 

「……っ!」

 

その表情を見た時雨は身震いをした。

 

時雨の目に写っているのは、普段味方のはずの第八艦隊旗艦『川内』。

 

だが、このたった一瞬だけ時雨は━━━━━

 

 

 

 

 

 

川内から殺気を感じ取った。

 

 

 

 

 

 

「戦場の厳しさを、可愛い部下に教えないといけないからね」

 

川内の主砲の音が鳴り響く。

 

川内から放たれた一撃は時雨の頭を確実に捉えていた。

 

「……っ!」

 

間一髪で回避した時雨だったが、直ぐに次弾が放たれて直撃してしまう。

 

演習弾のため威力はかなり控えめになっているが、時雨の肩には軽傷が出来ていた。

 

驚きと困惑が入り交じった感情のまま、時雨は川内の方に目をやる。

 

川内は静かに時雨の方を睨んでいた。

 

普段の川内からは感じられない圧が、周囲の空気からひしひしと伝わってくる。

 

「くっ……!」

 

ようやく戦闘態勢に入った時雨は自らの主砲を数発放ち、川内の右側へと距離を縮めていく。

 

川内の立っていた場所に弾が着弾し、小さな爆発が何度も発生する。

 

時雨が爆発したところを見つめながら次弾の準備をしていると、横から水に着水する音が聞こえる。

 

時雨がその方向に目を向けると、視界いっぱいの川内の足が見えた。

 

時雨の脳が目の前に映る光景を理解しようとした刹那、時雨の顔に耐え難い衝撃が響く。

 

「ぐはっ……!?」

 

時雨が気づいた時にはもう体の後ろ半分は水面に着いてしまっていた。

 

川内が倒れている時雨に近づこうとすると、川内と時雨の間に数本の水柱が立つ。

 

 

 

「……蹴り飛ばされた瞬間に魚雷を放ってたか、さすが時雨だね」

 

「……。」

 

 

 

時雨は自らが反射的に魚雷を放ったことにすら気づいていなかった、それほど一瞬の出来事だったのだ。

 

「川内さん、どうしてこんな……」

 

立ち上がった時雨がそう言うと、川内は時雨に主砲を構えながら口を開く。

 

「さっきも言ったでしょ?戦場の厳しさを教えるんだよ……一人で無茶な行動をしないように」

 

「……っ!」

 

先程時雨が川内から感じ取ったものは怒りだった。

 

川内の怒りは、ここ最近の時雨の自分勝手で無茶な行動に対してだった。

 

「ここ最近の君の行動は目に余るんだよね……だから、ここらで少し自分の今の実力を知ってもらわないといけないんだ」

 

川内はそこまで言うと、時雨の方に魚雷を数本放った。

 

時雨は自らの目の前に主砲を数発放ち、迫ってくる魚雷を全て爆発させ、水柱を立たせる。

 

瞬間、川内が水柱の中から飛び出してきた。

 

時雨は腹部に放たれた正拳突きを右の手で防ぎ、返しの回し蹴りを川内に食らわせる。

 

時雨の回し蹴りは川内の脇腹を捉えていたが、どうやら当たりが浅かったらしく、川内は余裕の表情で着水した後ピンピンしている。

 

(強い、普段の訓練とは明らかに違う動きだ)

 

時雨は川内の動きから本気の戦意を感じ取った。

 

「でも、負けてばっかじゃいられない……!」

 

時雨は川内の懐まで急接近し、全力の突きを放ったが、川内に流されてしまう。

 

時雨は流された方向に体の重心を動かしながら、後ろ回し蹴りを放ち、そのまま川内に何度も突きと蹴りを食らわせる。

 

「今だっ!」

 

川内の両手のガードが少し上に向き、がら空きになった胴体に蹴りを入れようとした瞬間、川内の体が一瞬輝く。

 

「……っ!」

 

時雨の渾身の蹴りは川内の体の奥まで響くことはなく、川内の体は少し後ろに押されただけだった。

 

川内の服装は変わっており、艤装は改二モードへと移行している。

 

時雨の蹴りを体で受け止めた川内は、直ぐに体制を安定させ、時雨に反撃の蹴りを食らわす。

 

(まずいっ……!)

 

咄嗟に両手でガードの姿勢をとったが、腕ごと蹴りを押し込まれる。

 

時雨の体全体に響いた鈍い音、改二の圧倒的な身体能力から放たれる蹴りは時雨を数メートル程吹き飛ばした。

 

「ぐっ……がっ……」

 

立ち上がろうとしても立ち上がることが出来ない時雨の元へ、川内がゆっくりと近づいてくる。

 

「はぁーっ……はぁーっ……」

 

もう過呼吸になっている時雨は、まだ目眩でハッキリしていない視界の中に川内を捉える。

 

「ぐっ……!」

 

川内が自分の目の前まで近づいてきた瞬間に、時雨は立ち上がって主砲を構えて砲撃をしようとする。

 

しかし、川内に手を弾かれて弾は明後日の方向へ飛んでいってしまった。

 

 

 

 

 

飛んでいった弾を見届けた川内は時雨の方を向き直し、右足で回し蹴りの姿勢をとる。

 

(蹴られるっ……!)

 

時雨の目の前まで足が迫り、時雨が目を瞑った瞬間━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

時雨と川内の間に白い光が現れ、同時に何かと何かがぶつかり合った音がする。

 

 

 

 

「「……!?」」

 

周囲にパチパチと電流が走っており、時雨を蹴るはずだった川内の右足は何かに阻まれて止まっていた。

 

 

 

 

「ねぇ、あたしの妹に何しようとしてんの」

 

 

 

静かな怒りが籠った声が聞こえてくる。

 

「姉……さん!?」

 

川内の蹴りを止めたのは白露だった。

 

白露は蹴りを止めている片手を払い、川内に主砲を構える。

 

白露に主砲を向けられた川内は、艤装をしまい、両手を上げて何も危害を加えないといった表情で白露の方を見た。

 

「はぁーっ……あの蹴りは寸前で止める予定だったんだけど、まぁいいか」

 

「何をしていたの?川内さん」

 

「君の妹ちゃんを鍛えていたんだよ」

 

川内がそう言うと、白露は時雨の方を一瞬見て、また川内の方に向き直る。

 

「どう考えても訓練にしては行き過ぎな気がするけど」

 

「白露、時雨のここ最近の行動のことは知ってるでしょ?」

 

川内の言葉に、白露はなんとも言えない表情をする。

 

「だから、一回自分の実力を見つめ直して欲しくて戦ったんだよ」

 

「……なるほどね」

 

川内の言葉を聞いた白露は主砲を下げ、時雨の方を振り返って手をさし伸ばす。

 

「時雨、立てる?」

 

差し出された手に右手を乗せたが、力が上手く入らずにするりと抜けていく。

 

それを見た白露は時雨に肩を貸し、そのまま立ち上がる。

 

そんな二人のもとへ、川内がゆっくりと近づいてくる。

 

「私の改二状態の実力と、自分の今の実力を見られたでしょ?」

 

川内がそう言うと、時雨はゆっくりと頷く。

 

「私が改二状態になれば、はっきり言って時雨よりも数倍強くなれる……でもね」

 

 

 

 

 

「この力があっても、君たち全員を単独で守りきることは難しいんだよ……時雨」

 

 

 

 

「……。」

 

「これがどういう意味か分かる?」

 

時雨は川内の言葉の意味を十分理解していた。

 

自分よりも明らかに強い川内ですら仲間を守りきるのが難しいということは、自分では到底無理な事、ということだ。

 

時雨の中に微かに残っていた自分の実力への自信は無くなり、時雨はゆっくりと下を向く。

 

「……ちょっと荒々しい伝え方になってしまったのは申し訳なかったけどね」

 

川内はそう言うと、時雨の頭に手を乗せる。

 

 

 

「でも、君には死んで欲しくないからさ」

 

 

川内はその言葉を時雨に残し、訓練場を去っていく。

 

「時雨、大丈夫?」

 

白露と時雨だけが残された訓練場で、白露が時雨に話しかける。

 

「また守ってもらっちゃったね、姉さん」

 

時雨がそう言うと、白露は微笑を浮かべながら時雨を抱き寄せる。

 

「そりゃそうでしょ、時雨がピンチな時はいつだって守るよ」

 

優しい声でそう言いながら、白露は時雨の頭を撫でる。

 

 

 

 

「だって、あたしは時雨のお姉ちゃんなんだから」

 

 

 

白露の香りに包まれ、安心したからか時雨の意識は段々と薄れていった。

 

だんだん白露の方へよりかかっていく時雨を見て、白露は時雨を横抱きにして鎮守府の方へ進んでいく。

 

 

 

「……。」

 

ぼやけて行く姉の顔を見ながら、時雨は一粒の涙を零す。

 

 

 

(でも、それじゃダメなんだよ……姉さん)

 

 

 

 

薄れていく意識の中で、時雨は一言心の中で呟くと、意識に身を委ねて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時雨と川内の演習から1週間後、摩耶と白露は執務室に呼び出されていた。

 

2人以外にも第一艦隊旗艦の金剛、第二艦隊旗艦の飛龍が集められている。

 

2人が飛龍の隣に立つと、提督が口を開く。

 

「急な招集になってすまない、今日は鎮守府主力のメンバーの君たちに伝えなくちゃいけないことがあるんだ」

 

提督はそう言うと立ち上がり、自分の目の前にあった数枚の写真をホワイトボードに貼り付けて4人に見えるようにする。

 

「これは、潜水艦部隊が見つけた各地の深海棲艦の泊地だ」

 

「深海棲艦の泊地……?そんなものが存在するんデスカ?」

 

「長い間戦ってきたけど、そんなの見た事なかったなぁ……最近急に現れたの?」

 

金剛が写真をじっと見つめながらそう言うと、横にいた飛龍も首を傾げながら提督に問う。

 

「恐らくな、少なくとも俺は今まで見たことがなかった……最近目撃情報が相次ぐ姫級の影響だと考えているが……」

 

「かなり昔にワタシ達が戦った姫級も大量に手下をいっぱい従えてマシタガ……泊地は見たこと無かったデス」

 

「じゃあ今回の敵は思った以上にとんでもねぇ敵になるかもしれないってことか?」

 

摩耶が提督に言うと、提督は渋い顔をしながら頷く。

 

「今回君たちを集めたのは、この泊地を破壊する作戦を立てるためだ」

 

提督はそう言うと、鎮守府沖の海図を数枚取りだし、赤ペンでバツ印を幾つか書いた。

 

「今のところ確認できている泊地は三箇所、新しく発見したら随時報告するが、とりあえず今はこの三つを破壊しなくちゃいけない」

 

「なるほどな、それであたし達が一艦隊ずつそこを潰しに行けばいいって訳だな?」

 

摩耶が拳を合わせてそう言うと、提督はゆっくりと頷き、潜水艦隊から送られてきた各泊地の情報をバツ印の上に書いていく。

 

「鎮守府から1番遠くに位置するこの泊地には航空母艦がやや多めに配置されている、ここには摩耶達第三艦隊を派遣したい」

 

「おうっ!任せとけ!」

 

「了解!」

 

提督の指示を聞いた摩耶と白露は元気よく返事をする。

 

「じゃあ鎮守府にそこそこ近いこの2つはあたし達第二艦隊と第一艦隊で攻めればいいのね?」

 

「あぁ、任せた」

 

「了解デース!」

 

「了解!」

 

「作戦を決行する日時が決まったら随時伝える、急な招集ですまなかった」

 

「No problemネ!愛しの提督のためなら、いつでも駆けつけマース!」

 

「ったく……じゃあ、とりあえず解散だ」

 

ある程度の話が終わり、金剛や飛龍、摩耶は執務室から去っていったが、白露は執務室に残されていた。

 

説明が何も無かったため、自分が呼ばれた理由が分からずに困惑している白露の前に1枚の紙が差し出される。

 

「白露、お前にはもう一つ言っておかなくてはいけないことがある」

 

白露がその紙を取って見てみると、「駆逐艦時雨」と1番上に書いてあり、下の表には細かい文字で色々と書かれていた。

 

「これはここ最近の第八艦隊の報告書を参照して作った時雨の戦闘データなんだが……」

 

提督の言葉をそこまで聞いた白露は、提督が言おうとしていることを察する。

 

「……単独行動が多いってことだよね」

 

「知ってたか」

 

「うん、陽炎から聞いたんだ」

 

白露がそう言うと、提督は深いため息をつく。

 

「このまま単独行動が目立つようなら、時雨を艦隊から外すことも視野に入れなくてはならない」

 

「そっ……そんな…!」

 

提督の言葉を聞いて、白露は声を漏らす。

 

「まぁ、このまま直らなかったらそれも考えなくてはならない、ということだ……仲間に危険があった後では遅いからな」

 

「……どうしてあたしにそれを伝えたの?」

 

「お前に伝えたのは、もし時雨にその処分が下った時にメンタルのケアを頼みたいからだ……お前なら、時雨の事を分かってやれるだろう?」

 

提督はそう言うと、執務机に戻って作業を始める。

 

「……分かった、話は終わり?」

 

「あぁ」

 

「じゃあ行くね」

 

「……すまないな、作戦も控えているというのに」

 

「んーん、全然大丈夫!」

 

白露はそう言って笑顔を提督に向けた後、執務室を去っていく。

 

自室に戻るまでの廊下を歩いている最中、提督に言われた一言が頭の中で何度も繰り返される。

 

『お前なら、時雨をわかってやれるだろう?』

 

「……。」

 

最近耳に入ってくる時雨のここ最近の行動や、前の川内との演習の際に見せた時雨の暗い顔。

 

 

 

そして、演習後に自分が時雨を運んでいる時に見た時雨の涙。

 

 

 

 

自分でも時雨の事が分からなくなってきた白露は、拳に力を込める。

 

 

 

 

「分からないよ、私だって」

 

 

 

 

(……でも、あたしは時雨のお姉ちゃんだから……あたしがしっかり守ってあげないと)

 

 

 

 

 

白露はそう心の中で決意すると、足早に自室へと帰って行った。




大変長らくお待たせ致しました、Part20投稿です。

遂にPart20到達しましたね、本来この作品はPart10くらいで終わる予定だったのですが……気づいたらこんなに長く続けていました。

この小説を書き始めて早1年半、初めこそこの小説を読んでいたのは2,3人だったのですが、今では毎話100人もの方々に見ていただけて……

毎話感想も送ってくれる方もいて、小説を書くものとしてこれ以上の幸せはありません。

Part20というキリのいい数字なので、ここで感謝の言葉を

いつも私の拙い小説を見ていただき、ありがとうございます。

この物語を完結させるまで精一杯努力しますので、今後ともよろしくお願い致します。

さて、ここからは作品のお話です。

遂に明かされた礼花の過去と夕立の能力の秘密。

礼花の話を聞いて、夕立はどう思ったのか。

そして、夕立と時雨、そして礼花と白露それぞれが互いを思うことによって、より複雑になっていく心の内。

絡み合って歪んでいき、それはいつか嵐を起こす芽となる……

ゆっくりと動き出した物語、刻一刻と運命の時は近づいてくる。

次回をお楽しみに!
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