【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part21 「僕じゃない」

 

『思い出せ、僕がいる意味を』

 

またこの夢だ、ここ最近ずっとこの夢を見る。

 

真っ白な空間に立っていると急に目の前に自分が現れて、この言葉を永遠と繰り返してくる。

 

「君は一体なんなんだ?」

 

『思い出せ、僕がいる意味を』

 

「どういう意味なんだい?」

 

『思い出せ、僕がいる意味を』

 

どれだけ自分が質問しても、同じ言葉が帰ってくる。

 

よく見ると、今の自分とは少し違う。

 

身長は自分より少し低く、声も少し今の自分よりも低い。

 

髪についているリボンは少し汚れており、所々ほつれている。

 

「君は……『時間が無い』

 

目の前の自分は急に違う言葉を発した。

 

『思い出せ、僕がいる意味を』

 

 

 

 

『姉を失う前に』

 

もう一人の自分がそう発した瞬間、急な頭痛が走る。

 

脳が締め付けられるような感覚がとめどなく襲いかかってきて、立ってられなくなる。

 

真っ白だった世界がどんどん崩壊していき、遂には自分の下も崩壊し、暗闇に放り投げられる。

 

どれくらい落ちたか分からなくなるくらい下に落ち、落ちた先は水だった。

 

水の中に入った感覚だけが分かり、それ以外は真っ暗闇で何も見えない。

 

 

「僕……は……」

 

その時、真っ暗闇の中に光が見えた。

 

その光を目にした瞬間、頭の中に身に覚えのない記憶が溢れ出てくる。

 

全身に衝撃が走り、朦朧としていた意識がハッキリした。

 

 

 

 

「……全部思い出した、僕がいる意味」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「つっかれたぁー……」

 

想像以上に疲れた1日だった。

 

あの子に真実を話すことがこれだけ疲れることだなんて、思ってもみなかった。

 

 

くだらない話をしながらヘラヘラと笑っている人達を横目に見ながら足を進める。

 

客引きやティッシュ配りの店員を避けながら騒がしい街を抜け、路地裏の方へ入っていく。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

人の気配が無い路地裏の奥、そこにあるドアを開いて中に入る。

 

中に広がっているのはいつも通りの景色。

エナジードリンクの缶が至る所に無造作に置いてあり、いつ着たのかも分からない服が何枚も積み重なっている。

 

足元に広がっている不摂生の塊を蹴りながら自分の席に着き、隅に置いてある小さな冷凍庫から1本エナジードリンクを取り出す。

 

パソコンの電源ボタンを押し、パスワードを入れると、デスクトップには大量のファイルがきちんと整理されて置いてある。

 

「そろそろ部屋も片付けないとなぁ……パソコンのデスクトップみたいにワンクリックで動かせたらいいんだけどねぇ」

 

ブツブツと独り言を言いながらマウスを動かし、「nightmare 02」というファイルを開いてキーボードを動かす。

 

 

 

 

『身体状態、良好 精神状態、不良

 

暴走状態の改善 見通しなし

 

真実を告げた時に前の夕立の記憶が戻りかけている様な発言を確認。

 

彼女の中に記憶が残っていることは分かった、しかし、それを完全に復元することは不可能にちk━━━━━━━━━━』

 

そこまで入力した礼花は、1度手を止めて伸びをする。

 

「生まれ変わりの確信はできたんだけど……まだ彼女にキーが足りないのが大問題なんだよね」

 

礼花はそう呟いた後、ため息を吐きながらキーボードをまた叩き始める。

 

一通り打ち終わったら別のファイルに移動し、また文字を打ち━━━━━━━━━━

 

 

数時間画面を睨み続け、最後の方はもう半分意識は飛んでいた。

 

礼花は机に倒れ、力を限界まで抜く。

 

 

 

 

朦朧としていく意識の中、礼花の脳裏には夕立の顔と、もう一人の少女の顔が思い浮かんだ。

 

「彼女達は見つけられるのかなぁ……大事なものを」

 

 

 

 

 

 

「……心を埋めるものを」

 

 

 

 

 

そう呟いた後礼花の意識は途切れ、規則正しい寝息を立てながら深い眠りについた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

提督からの招集からしばらく経ち、夕立と摩耶は訓練場でいつものように訓練をしていた。

 

「ふっ!」

 

「おっ、いいじゃねぇか!」

 

夕立の正拳突きを摩耶は片手で止め、余裕の表情で夕立を褒める。

 

「まだまだっぽい!」

 

そのまま夕立は正拳突きを放った手で摩耶の手を掴んで引っ張り、引っ張った方に体重が行くように摩耶の足を蹴る。

 

「おっとと」

 

体が浮き上がった摩耶は、夕立の手を振り払って受け身で着水し、振り返りながら後ろ蹴りを夕立に食らわせた。

 

「ぐうっ……!」

 

蹴り飛ばされた夕立は手を海面に付けて勢いを殺し、すぐさま姿勢を戻して主砲を放つ。

 

それを華麗に避けた摩耶は、夕立が次弾を装填する一瞬の隙をついて懐へと潜り込む。

 

「オラァ!」

 

夕立の腹に摩耶の強烈な一撃が入る。

 

「が……かはっ……!」

 

殴られた衝撃が何度も腹から全身へと伝わってくる。

 

(何度も何度も摩耶さんには殴られてきてるけど……一向にこの痛みには慣れられないっぽい)

 

胃から上がってきた液体を飲み込み、摩耶の方を睨む。

 

摩耶は夕立が立ち向かってくるのを待っている様子だった。

 

それを見た夕立は足に力を込め、摩耶の方に突撃していく。

 

「はあっ!」

 

夕立は身体をひねり、全力の回し蹴りを摩耶目がけて放つ。

 

それを摩耶は真正面から受け止めるが、普段のような余裕のある表情ではなく、少し表情が歪んでいた。

 

蹴りを放った夕立はそのまま海面に着水し、勢いに任せて正拳突きをする。

 

摩耶はいつも通り受け止めるのではなく、突きを受け流して夕立の背中を小突いた。

 

「わわっ!」

 

夕立はそのまま重心に任せて倒れ、海面に頭を打つ。

 

そのままうつ伏せで動かなくなった夕立を見て、摩耶は笑った。

 

「ははっ!最後の最後でやっぱお前は詰めが甘いな!」

 

「ぐぅー……」

 

よほど悔しかったのか、倒れたままじたばたしている夕立を座らせようと、摩耶は引っ張りあげようとしたが、引っ張りあげる際に左の腕が痛む。

 

「いてっ!」

 

「……?」

 

「あぁ、心配すんな」

 

首を傾げている夕立にそう声をかけ、摩耶は歩き出した。

 

(……ただ、もうこいつは以前よりも遥かに成長してる)

 

 

 

摩耶は夕立の攻撃を受け止めた左腕をグルグル回す。

 

左腕の骨にはじんわりと痛みが残っており、摩耶はその部位をさすった後、ニヤリと笑った。

 

 

(いつか、こいつがアタシを超える時が来るのかもな)

 

摩耶は近くにうかべてあった標的の上にあるタオルを持ち、夕立の近くに寄る。

 

「日も沈んできたし、今日はこれで終わりな」

 

「ぽいぃぃぃ……」

 

そう言って摩耶は近くに浮いている的にかけてあったタオルを夕立の頭の上に乗せた。

 

 

 

「おい、夕立」

 

「ぽい?」

 

汗をタオルで拭いていた夕立を摩耶が呼び、手招きをする。

 

「お前に1つ言っておかなきゃいけないことがある。」

 

「?」

 

夕立が近づいていくと、摩耶は夕立に1枚の紙を見せた。

 

「これって?」

 

「ちょっと前に第一艦隊から第三艦隊の旗艦が集められて、深海棲艦の泊地を攻撃する作戦が立てられた、あたしはその任務に出なきゃ行けない」

 

「ということは……ちょっとの間訓練できないっぽい?」

 

「そういうこった、ちょっとの間……というかかなり長い期間だな、1人で訓練できるか?」

 

「うーん……」

 

摩耶の問いに夕立は言葉が詰まる。

 

俯いて返答をしない夕立を見た摩耶は、ニカッと笑って頭を乱暴に撫でた。

 

「ま、なんかあったら川内とかに頼みな!作戦が終わったらまた相手してやっからよ!」

 

「うぅ……」

 

「とりあえずあたしとの訓練は一旦一区切りってことで、今日はあたしの奢りで飯食うか!」

 

「わかったっぽい……」

 

寂しそうな顔をしながら返事する夕立を見て、摩耶はため息を吐く。

 

「作戦が終わったら見てやるって言ってんだろ?それまでの辛抱だ」

 

項垂れている夕立と肩を組み、摩耶は鎮守府へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

鎮守府の入渠ドックから出てすぐ隣、そこには軽空母「鳳翔」が営む飲食店がある。

 

夕方から深夜にかけて営業しており、穏やかで昔懐かしい雰囲気の店内は空母や戦艦たちが好んでおり、静かにお酒を飲む場となっている。

 

鎮守府にはここ以外にも間宮の店が存在するが、客はどっちにもほぼ均等に行っているらしい。

 

暖簾をくぐり、中に入ると店主の鳳翔がこちらに笑顔で会釈をする。

 

「いらっしゃいませ、好きなところに座って良いですよ」

 

「鳳翔さん、唐揚げ定食2つと烏龍茶1つと……オレンジジュース1つ」

 

「分かりました、少し待っててくださいね」

 

摩耶が注文すると、鳳翔は調理を始める。

 

心地よい包丁の音と、鶏肉を揚げる音が静寂に鳴り響く。

 

会話もなしにゆったりと時間が流れていき、鳳翔が料理の仕上げに入った頃、夕立は摩耶の名前を呼んだ。

 

「摩耶さん」

 

「ん?」

 

摩耶は夕立の方は見ずに、ゆっくりと水を飲みながら返事をする。

 

 

 

「どうして夕立を弟子にしてくれたの?」

 

 

 

夕立は弟子にしてもらった日からずっと聞きたかったことを摩耶に質問した。

 

よく良く考えれば、摩耶と夕立には何も接点がなかった。

 

出会った時もお互い初対面で、全く関係の無い赤の他人を摩耶はいきなり弟子にした。

 

どう考えてもおかしい状況に疑問をずっと抱いていたが、聞くことが出来なかった。

 

やっと意を決して質問ができた夕立は、摩耶の横顔を見ながら返事をじっと待つ。

 

摩耶はコップを口から離し、氷をカラカラと鳴らしながら少し黙る。

 

そして少し息を吐いたあと、口を開いた。

 

 

 

 

「お前がアタシに似てたからかな」

 

 

摩耶はそう言うとコップを机に置き、頬杖をついた。

 

「夕立が……摩耶さんに……?」

 

思っていた以上に予想外な理由に、夕立は驚いた。

 

呆然としている夕立を横目でチラッと見た後、摩耶は話を続ける。

 

 

 

「アタシさ、落ちこぼれだったんだ」

 

「……えっ?」

 

驚いている夕立の方を見ようともせず、摩耶はそのまま話を続ける。

 

「アタシは昔、この鎮守府で高尾型重巡三番艦の摩耶として「建造」された」

 

「姉貴や鳥海は難なく艤装テスト、戦闘テストをクリアしてった……でも、アタシは全然ダメだったんだ」

 

摩耶は寂しそうな顔をしながら昔の話を語る。

 

今の摩耶からは想像もできない昔の話を聞いた夕立は、ずっと固まったままだった。

 

 

 

「アタシさ、怖かったんだよ」

 

 

 

「怖かった……?」

 

「あぁ、姉貴たちに置いてかれるのがさ」

 

夕立はそれを聞いてドキッとした。

 

摩耶に弟子入りする前の自分の状況に似ていたからだ。

 

「どんどんアタシだけ置いてかれて、姉貴たちはもう戦場に行っているのに、アタシは何も出来ない……」

 

「……。」

 

「そんな時、姉貴の1人……「愛宕」が戦場で大破した、体の一部が欠損してて修復材を使ってもしばらく治らないくらいの重症だった」

 

「アタシはそれを知った時、初めて悔しくて泣いた」

 

摩耶はコップを強く握りしめる。

 

鳳翔はその事を知っているのか、昔を懐かしむような表情で摩耶の方を見ていた。

 

「「姉貴たちがこんなに頑張って戦ってんのに自分は何も出来ない、情けねぇ」って何度も自分を責めた、そっからアタシは強くなる決心をした」

 

「でもアタシには才能がない、どうやって強くなろうって考えてた時に……1人の艦娘に会ったんだ」

 

「1人の艦娘」と口にした時、摩耶の表情が少し柔らかくなった。

 

緊張感に支配されていた辺りの空気が少し緩和される。

 

「その人はアタシを見て、「お前は強くなれる」って言って修行をつけてくれた、才能も何も無いアタシを見捨てずに、何日も何日も一緒に修行をしてくれた」

 

「その人が摩耶さんにとっての師匠っぽい?」

 

「あぁ、あの人はアタシに戦いで大切なことを教えてくれた、今のアタシがあるのはあの人のおかげだ」

 

「……。」

 

今まで話されることのなかった摩耶の過去を聞き、夕立は何とも言えない気持ちになる。

 

「お前の事を初めて聞いて、様子を見に行った時、アタシはお前に昔の自分を重ねちまったんだよ」

 

「だから夕立を……」

 

「そういうこった」

 

摩耶の話を聞いて、夕立は今までの摩耶の行動を思い出す。

 

確かに励ます時や、アドバイスする時に経験則に反ったものが多かった。

 

それは昔の自分と夕立を重ねて言っていたものだったのだ。

 

「その師匠さんは今どうしてるっぽい?」

 

 

 

「ん?あぁ、あの人か?あの人なら━━━━━━━」

 

 

 

 

 

「もう、死んだよ」

 

 

 

 

「えっ……?」

 

突然の展開に夕立は言葉が詰まる。

 

「アタシがようやく強さを認められて、第三艦隊の旗艦だったあの人に随伴艦としてついて行った時、あの人は死んだ」

 

夕立は摩耶の惨い思い出を聞いて、心臓が締め付けられそうになっているが、摩耶は表情も変えずに淡々と話している。

 

「予想外の出来事だったんだ、任務を終えて鎮守府に帰ろうとした時、急に敵艦隊が複数現れて、アタシは完全に包囲されちまった」

 

「出来る限り戦ったが、連戦だったアタシ達には限度があった……その時、その場にいた全員が死を覚悟した」

 

夕立は唾を飲み込む。

 

語っている摩耶の瞳は未だに夕立を捉えることはなく、真っ直ぐと前を見つめている。

 

その目からは悲しみも怒りも感じられず、ただただ蒼く透き通っていた。

 

「あの時はな……」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

(もう限界だ……!)

 

海に血を吐きながら敵の方を睨む。

 

日はもう完全に沈み、四艦隊分ほどいた敵の数はゆっくりと減ってきているが、こちらの体力は限界に近くなっている。

 

「でもやるっきゃねぇよな……」

 

摩耶は拳を握りしめ、辺りを見渡す。

 

とりあえず目に付いた誰とも戦っていないル級に突っ込み、拳を食らわせる。

 

装甲に拳がめり込み、バキバキと音を立てながら敵装甲が割れていく。

 

「これでも喰らえ!!!」

 

装甲が脆くなっている所に主砲を撃ち込み、ル級の片腕から黒煙が上がる。

 

流石のル級でも今の一撃は効いたらしく、感情のない目を摩耶に向け、反撃と言わんばかりに主砲を放った。

 

「おわぁぁぁ!!!」

 

ル級の連撃を何とか避けきってリ級の方を睨むと、ル級は既に摩耶の方に主砲を構えていた。

 

「……っ!やべっ!」

 

摩耶が両腕で精一杯のガードをした瞬間、目の前のリ級の下から巨大な水柱が立った。

 

(これは……魚雷!?)

 

摩耶が唖然としていると、摩耶のすぐ後ろから声が聞こえる。

 

「はぁっ……はぁっ……あんた油断しすぎ……今のが最後の1発だよ」

 

摩耶が後ろを振り返ると、ボロボロの川内が立っていた。

 

摩耶の隣まで歩いてきた川内はその場所に膝をつく。

 

「あたし達がここの奴らを止めないと向こうにいる4人に負荷がかかる、殲滅しなきゃ行けないんだけど……まだ動ける?」

 

「正直結構体にガタがきてるけど……死ぬこと覚悟だ、やってやるぜ」

 

「……そう」

 

川内の返事の後、2人は立ち上がって背中合わせになる。

 

両者の目にはリ級が2匹ずつ敵が写っている。

 

ジリジリと距離を詰めてくる深海棲艦二匹から目を離さぬように、お互い攻撃するタイミングを測る。

 

 

 

「……死なないでね」

 

「テメェがな!」

 

 

 

2人は敵の方に突っ込んだ。

 

既にボロボロになっている体を無理やり動かし、正拳突きや蹴りを織り交ぜながら相手に攻撃する。

 

お互いの事はもう気にしなくなり、もう目の前の敵を殺すことしか考えていなかった。

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

摩耶の拳が最後のリ級の顔面にめり込み、後ろに吹き飛んでいく。

 

摩耶はすかさず吹き飛んだリ級に渾身の一撃を放ち、大きな水しぶきが上がった。

 

「はぁっ……はぁっ……これが最後の一撃だ……」

 

摩耶はガクッと膝から崩れ落ち、その場に倒れる。

 

川内もどうやら敵を倒したらしく、フラフラと摩耶の方に近づいてくる。

 

「死ななかったね……上出来だよ」

 

「あぁ……?チッ……るせぇよ……」

 

川内の言葉に摩耶がぶっきらぼうに返すと、川内は摩耶に肩を貸し、仲間が戦っている方へと2人は向かった。

 

「向こうは大丈夫かな?」

 

「全員生きてれば良いんだけどよ……」

 

2人は暗闇の中で揺れる探照灯の光を目印に進む。

 

少し進むと、4人の仲間の姿が見えてきた。

 

「……!生きてたんですね……!急に見えなくなったので……もう……」

 

陽炎型駆逐艦「親潮」が最初に摩耶の方に近寄り、摩耶の手を握って涙を流す。

 

「……親潮、まだ警戒は解いては行けません、まだ付近に敵がいるかもしれない」

 

「うっ……そうですね……」

 

浜風に注意されると、親潮は摩耶の手を離して電探を確認する。

 

「夜戦じゃ私の艦載機はほとんど役に立たないわね……そもそも昼でほとんど使い切ってるんだけど」

 

飛鷹はそう言うと自らの妖精に艦載機の数を数えるように伝える。

 

各々が戦闘終わりの余韻に浸っている時、旗艦「長門」が摩耶の方へ近づいてくる。

 

「とりあえずみんなご苦労だった、戦闘はとりあえず終了だ……」

 

「長門さんも無事で良かったぜ、とりあえず鎮守府に報告しないとだよな?」

 

「あぁ……摩耶、頼めるか?」

 

「おう!任せとけ!」

 

摩耶はそう言うと、通信機に口を近づけ、鎮守府の執務室に通信をする。

 

「おう、提督」

 

『……摩耶か!何があった、急に通信が途絶えたが……』

 

「すまねぇ、別の艦隊が奇襲してきやがったんだ……でももう大丈夫だぜ!もう敵はみんなぶっ倒して━━━━━━━━━━」

 

摩耶がそう言った瞬間、海面が不気味に揺れ、足元が不安定になる。

 

波が荒くなり、辺りの空気が急に重くなる。

 

「なんだこれ、敵襲か!?」

 

摩耶は直ぐに味方の傍に寄り、辺りを警戒する。

 

波はだんだん緩くなってきたが、空気は重いままだった。

 

「……っ!?」

 

一瞬の出来事で他の誰も姿を捉えられずにいる中、旗艦の長門が真っ先に敵の姿を捉える。

 

暗闇の中に赤い点が2つ蠢いている。

 

普段見る深海棲艦からは感じ取れない強烈な殺気が長門の全身を駆け巡った。

 

見るだけで心臓の動悸が早くなり、息が上がってくる。

 

「浜風っ!!!!」

 

長門が浜風の方を向くと探照灯を浜風は敵がいるであろう方向へ探照灯を向ける。

 

そこには今まで戦ってきた深海棲艦よりも圧倒的に巨大な装甲を身に纏い、こちらを見ている人型の深海棲艦が居た。

 

周囲には手下と思わしき球体の生命体が何匹か浮いている。

 

敵の姿を見た艦隊の全員の体が震え、足が一歩後ろに下がる。

 

「なんだあの化け物……あんなの見たことねぇ……」

 

摩耶は震えながら言葉を漏らす。

 

圧倒的な存在感と殺意に気圧され、摩耶の思考回路はグチャグチャになっていき、最後に摩耶の頭に残っていたのは、「逃げる」という考えだけだった。

 

摩耶は目だけを動かし、周りの仲間の状況を見る。

 

周りの仲間も同じようなことを考えているようだった。

 

敵が1歩、また1歩と摩耶たちの方へ進んでくる。

 

「お……おい、長門さん……どうすんだよ……」

 

摩耶が長門に聞くと、長門が手を摩耶たちの方に伸ばし、後ろを指さす。

 

「総員撤退!!」

 

「ッ…!わかった!」

 

長門の指示で全員が撤退する。

 

普段は好戦的な摩耶も、この時ばかりは直ぐに指示に従って敵に背を向けた。

 

しかし、敵がそれを許す訳がなく、砲撃が次々と第三艦隊に降りかかり、その中の1発が摩耶の胴体を確実に捉えた軌道で飛んでくる。

 

「……っ!やべっ……!」

 

摩耶の居た位置で爆発が起こり、全員が摩耶の方に振り返った。

 

一瞬の静寂の後、親潮が爆発の方に探照灯を向ける。

 

探照灯に照らされた黒煙の中には2人の影が見え、片方は砲撃を食らった筈の摩耶だった。

 

 

 

「……あぁ……あ」

 

 

 

摩耶の今にも消え入りそうな声が聞こえてくる。

 

 

 

「な……長門さん!!!」

 

 

 

砲撃に直撃したのは摩耶ではなく、長門だった。

 

戦艦に元々備わっている装甲はもう完全に砕け散っており、艤装は所々が欠損している。

 

片腕はもう無くなっており、全身のありとあらゆる所から血が流れている。

 

「無事か……摩耶……」

 

長門は血まみれになりながらも摩耶に優しい声で語りかける。

 

しかし、摩耶はそれどころではなかった。

 

「おい!誰か来てくれ!一緒に長門さんを運ばなくちゃいけね━━━━━━━「待て」

 

後ろの仲間に助けを求める摩耶に、長門が静止を入れる。

 

「私はもう……長くない、なら……私は私で最後の仕事をしなくちゃいけない……」

 

「そんな……アタシなんかを庇ったせいで……」

 

長門は摩耶の言葉を聞いた後、仲間たちの方に背を向け、敵の方を見て仁王立ちする。

 

 

 

「何があっても仲間を守るのが、旗艦である私の務めだ」

 

 

長門はそう言うと、ボロボロの体に限界まで力を入れ、大きく息を吸いこむ。

 

 

 

「総員ッッ!!今すぐにこの場から撤退せよ!!」

 

 

 

長門の後ろ姿を見ながら止まっている摩耶を川内が回収し、後ろにいる仲間たちの方へ連れていく。

 

 

 

 

 

「決して後ろを振り返るな!!進め!!」

 

 

 

段々と薄れていく意識の中で、摩耶の視界には長門の後ろ姿だけが暗闇にはっきり見えている。

 

そして、意識が途切れる瞬間━━━━━━

 

 

長門の姿は爆煙で見えなくなった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「それが、あの人の最期だった」

 

摩耶はそう言うと、話途中で出された料理を箸で1つまみする。

 

摩耶の過去の話を聞いた夕立は、何とも言えない表情で座っていた。

 

言葉が出るかと思えば引っ込んでいき、夕立は振り絞るように一言を発する。

 

「……ごめんなさいっぽい」

 

「ん?あぁ良いんだよ、もうかなり昔の話だからな」

 

夕立は精一杯の言葉を発したが、摩耶は気にしないと言った表情で料理を食べ続ける。

 

怒っている様子も悲しんでいる様子も一切なく、摩耶はただ淡々と料理を口に運んでいる。

 

そんな摩耶の様子に夕立が呆気に取られていると、摩耶は箸を置いて、思い出に浸るような表情をしながら頬杖をついた。

 

「あの人は最期、全てを背中でアタシに語ってくれた……あの瞬間、あの人の意志はアタシに受け継がれたんだ」

 

「意志……?」

 

「ははっ!まだわかんねぇか!」

 

摩耶はそう言うと、初めて夕立の方を向いて頭の上に手を乗せる。

 

 

 

「いつかお前もそれを理解して、誰かの意志を受け継ぐ時が来ると思うぜ」

 

摩耶はそう言って夕立の頭をぐしゃぐしゃに撫でると、また前を向いて料理を食べ始める。

 

(受け……継ぐ……)

 

夕立は撫でられた頭を直しながら、摩耶の方を見つめる。

 

そんな夕立の様子を見た摩耶は、夕立の料理を指さした。

 

「冷めちまうぞ?」

 

「ぽっ……ぽい!」

 

夕立は摩耶に言われるがまま箸を持ち、目の前に出された唐揚げを1つ口の中に入れた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

鳳翔の店で摩耶と夕飯を食べてから数週間経った、まだ日も出ていない早朝。

 

冬の寒さが体を刺し、夕立は震えながら起きる。

 

布団は自分の足元に落ちており、普段の比にならない寒さを感じた理由を察する。

 

布団を拾い上げてもう一度寝につこうとするが、脳が完全に目覚めてしまっていて寝ることが出来ない。

 

夕立は寝ることを諦め、制服を着て鎮守府を散歩することにした。

 

まだ小鳥も鳴いておらず、淡く白い空が頭上に広がっている。

 

夕立は気の向くまま歩き続け、気づいたら中庭まで歩いていた。

 

「……。」

 

ベンチに座り、まだ明るくなりきっていない空を見つめながら、夕立はため息を吐いた。

 

摩耶は任務でほとんど鎮守府にはいない、それに帰ってきていたとしても修行を頼める程図々しい性格にはなれない。

 

自分が居なくてもやって行けると言う摩耶の信頼に嬉しさを覚えつつも、やはり少し寂しさを感じながら日々過ごしている。

 

それに加えて時雨のここ最近の行動の謎も頭に抱えており、夕立は下を向いて顔を手で覆った。

 

その時、後ろから足音が聞こえる。

 

 

「……?」

 

中庭の時計を見ると今は朝六時前、ほとんどの艦娘はまだ自室にいる時間だ。

 

不思議がっている夕立を他所に足音はどんどん近くなってくる。

 

夕立のすぐ後ろで足音は止まり、肩をトントンと叩かれた。

 

 

 

 

「君も眠れないのかい?」

 

 

 

夕立が振り返ると、そこには時雨が立っていた。

 

「僕も同じさ、眠れなくなったから外の空気を吸いに来たんだ」

 

そう言うと時雨は夕立の座っているベンチの横にある照明の柱に寄りかかった。

 

「……。」

 

(き……気まずいっぽい)

 

特に会話もなく、ただ時間が過ぎていく。

 

いつもの夕立だったら自分から話しかけられるのだが、今の時雨は前以上に何を考えているのか分からず、話しかけられずにいた。

 

時雨は何も発さずに隣で空を見上げている。

 

5分は経っただろうか、流石に耐えきれなくなった夕立が横を向き、時雨に話しかけようとすると、時雨も夕立の方を向いていた。

 

「君が言いたいことはわかるよ」

 

時雨はそう言うと、寄りかかっていた照明から背中を離して夕立の横に座った。

 

「ここ最近の僕の行動について気になってるんでしょ?」

 

夕立はドキッとした、見事に図星だったからだ。

 

何も言葉を発せず、ただ首を縦に降ると時雨はため息を吐いた。

 

「そうだよね、多分他の第八艦隊のみんなも思ってると思う」

 

「どうして急にあんな行動が増えたの……?」

 

「……。」

 

夕立が質問すると、時雨は黙って下を向いた。

 

夕立が時雨の言葉を待っていると、時雨はゆっくりと口を開いた。

 

「力が欲しかったんだ」

 

「力……?」

 

「僕は姉さんに守られるだけの存在になりたくなくて、この鎮守府に来た」

 

時雨は夕立の方は向かずに、空を見上げながら話を続ける。

 

「姉さんはずっと僕を守ってくれていた、昔いじめっ子にいじめられていた時も、母に怒られて何も言えなくなっている時も、姉さんだけは僕の味方でいてくれた」

 

時雨は昔の話を夕立に話した。

 

しかし、その顔は摩耶の時とは違って悲しそうな表情だった。

 

「そんな姉さんにずっと守られているだけの自分が嫌だった、強くなりたかった」

 

「そうだったんだ……」

 

夕立は時雨の話を聞いて一瞬何とも言えない気持ちになったが、時雨が勝手な行動をする理由がようやく分かり、夕立は少し安心した。

 

(これで少しだけ時雨のことを分かったっぽい!)

 

顔が緩んでいる夕立の横で、時雨は変わらず険しい顔で口を開く。

 

 

 

 

「でも、それだけじゃなかったみたいだ」

 

 

 

下を向いて顔が見えないように安堵していた夕立だったが、時雨の言葉が聞こえた途端に表情を変えて時雨の方を向いた。

 

時雨は立ち上がり、夕立に背を向けたまま歩き出す。

 

立ち上がった時雨は何処か虚しそうな顔で、空を見上げていた。

 

そして、一度呼吸を整えて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「僕は……「今までの僕」の想いも背負っていたんだ」

 

 

 

 

 

時雨はそう言うと、中庭から去ろうとする。

 

訳が分からず、一瞬止まっていた夕立だったが、去ろうとする時雨の背中が目に入った瞬間、ハッとして時雨に呼びかける。

 

 

 

 

「……それってどういう意味っぽい?」

 

夕立が時雨に問いかけると、時雨は振り返った。

 

その顔は微笑んでいたが、その笑顔は乾いて見えた。

 

 

 

「今の僕は、僕の意志だけで動いてないみたいだ」

 

時雨はそう言うと、再び前を向いて歩き始める。

 

その場に取り残された夕立は、時雨が言った言葉を何も理解出来ず、ただ時雨が去ったところを見つめることしか出来なかった。




大変お待たせしました、Part21です。

最近2ヶ月投稿になってしまっているのが本当に申し訳ないです。

ストーリーが段々難しくなってきたのと、他の趣味やリアルとの兼ね合いで中々小説の時間が取れず、ここまで伸びてしまいました。

もしかしたらこれからも投稿まで少し長くなるかもしれませんが、首を長くして待っていただけたら幸いです。

さて、今回のパートは様々な人物の話中心のパートでした。

戦闘シーンが好きって人にとっては少し退屈なパートかもしれませんが、今回のパートは物凄く大事な話が何個もあるので、読み逃しのないようにお願いします。

徐々に明らかになっていく時雨の正体……そして、遂に敵の本拠地へと進軍しだした鎮守府側。

これからどんな展開になっていくのか、次回をご期待ください。

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