夕立が時雨と中庭で出会った日の夜、第八艦隊は提督に招集され、執務室にいた。
最後の川内が到着し、全員が整列をしたところで提督が話を切り出す。
「突然だが、お前たち第八艦隊に頼みたいことがある」
「本当に突然だね、こんな時間に呼び出すってことは夜戦ってこと?」
川内がワクワクした表情で提督に質問すると、提督は資料を川内に手渡した。
「残念ながら違う、今回頼みたいのは敵の本拠地近くの補給艦隊を補足し、撃破することだ」
「ちぇー……」
残念そうな顔をしている川内を横目に、提督は話を続ける。
「今、鎮守府は第一、二、三の艦隊総動員で敵泊地の破壊を目的とした作戦を行っている……だが、状況が少し厄介でな」
提督はそう言うと海図を取りだし、鎮守府から一番遠い位置に記してある赤い丸の部分をペンで指す。
「現在第三艦隊が破壊に向かっているこの第三泊地なのだが……何度出撃しても敵か弱る気配がない、恐らく航空母艦が多数いるため補給線が他の泊地に比べてしっかりしているのだろう」
提督がそこまで線を引きながら説明すると、横で聞いていた川内がペンを持ち、提督が引いた線に向けて矢印を書く。
「そこで、あたし達がそこを叩くって訳ね」
「そういう事だ、頼めるか?」
「任せてよ、作戦決行はいつ?」
「二日後の朝だ、それまでは自由にするから各自そこまでに体調などを整えておいてくれ」
「「了解!」」
全員が声を合わせてそう言った後、1人ずつ執務室から出ていく。
「川内」
最後の一人、川内が部屋を出ようとした時、提督が川内を呼び止めた。
「何?」
「……今回は普段の作戦とは違い、敵の本拠地の近くで戦うため予想外の事も起こるだろう」
提督は神妙な顔をして川内にそう言った。
普段はそのような事で呼び止めたりしないような人が急な事を言い出したため、川内は提督を軽く睨む。
「……どうしたの、急に」
川内が提督に問いかけると、提督は肩を落として大きな息を吐いた後、胸を手で抑えた。
「少し前から妙な胸騒ぎがする、俺がこんな状態では良くないのは分かっているのだが……何が良くないことが起こるような気がするんだ」
「何か……良くないことが……」
━━━━━━━━━━━━━
提督から作戦を言い渡された日の夜。
入渠を終えた夕立は、朝に時雨と出会った中庭のベンチに腰を下ろし、夜空の星を見つめていた。
吐く息は白く、微かに冬を感じるような寒さの中、真っ暗な空に点々と浮かぶ星をぼんやりと見つめていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
「ぽっ……ぽいっ!?」
「あら、驚いた?」
夕立が驚いて首を急いで後ろに回すと、そこには寝巻き姿の叢雲が立っていた。
手には暖かいコーヒーの缶を2本握っており、片方を夕立に渡す。
「本当は部屋でもう一本飲む予定だったんだけどね、あんたにあげるわ」
「ありがとっぽい!」
冷たくなっていた手にほんのり暖かい感覚が広がっていく。
夕立は早速缶の口を開けて半分ほど一気に飲みこみ、ほうっと息を吐く。
吐いた息は暖かく、白い息がハッキリと見えるほどだった。
そうしてコーヒーを楽しんだ後、叢雲の方を向くと、叢雲は険しい表情を浮かべながら大きな溜め息を吐いていた。
まだコーヒーの口も開けておらず、どこか虚しい雰囲気が漂っている。
「……どうしたの?」
恐る恐る夕立が叢雲に話しかけると、叢雲は少し前のめりな姿勢になり、もう一度ため息を吐く。
「ちょっと考え事をね」
「そっか……何か夕立に手伝えることとかってあるっぽい?」
夕立がそう言うと、叢雲は夕立をしばらく見つめたあと、また前を向いた。
そんな叢雲を見て夕立が不思議そうな顔をしていると、叢雲が口を開く。
「まぁ……そうね、隠してても意味ないわよね」
叢雲はそう言って夕立の目を真っ直ぐ見つめた。
「夕立、あんたは私達の事どう思ってる?」
叢雲は口を開くや否や、そんなことを言いだした。
「それってどういうことっぽい?」
「本当にそのまんまの意味よ」
質問の意図が理解出来なかった夕立はもう一度聞き返したが、叢雲からは納得のいく答えは返ってこなかった。
「そのまんまって……」
「……」
黙り込んだ夕立を見つめながら、叢雲も缶の口を開けた。
そして一気に中身を半分ほど飲み、白い息を吐き出す。
「最初はアンタは落ちこぼれだった……でも、今は時雨と並ぶくらいの強さを持って戦ってる」
「アタシたちはそれの後ろについて行くだけ……」
叢雲がそこまで言った瞬間、夕立は叢雲が言わんとしていることが理解出来てしまった。
夕立はすぐに否定しようとするが言葉が上手く出てこず、口元をもごもごさせる。
そんな夕立を見て叢雲は微かに微笑み、また大きなため息を吐いた。
「不安になるのよ、最近のあんたたちを見てると」
「不安?」
「私たちを置いてどんどん強くなっていってるあんた達を見て、私はあんた達の足でまといになってるかもしれないって考えちゃうのよね」
「そんなことは……ないっぽい」
「そう」
二人の間に微妙な空気が流れる。
夕立は続けて言葉を繋げたいが、思うように言葉が出てこない。
草木が軽く揺れる程度の風が通り過ぎ、下に垂れていた叢雲の髪が揺れる。
一瞬見えた叢雲の顔は、寂しそうな顔をしていた。
「……」
それを見た夕立は、叢雲と同じように前のめりの姿勢になる。
思えば、自分は仲間のことを何も知らなかった。
自分の中に眠る能力、礼花の事、自分の過去について……考えることが多すぎて、ここ半年は全く仲間達のことを考えている余裕はなかった。
「他のみんなはどうにか良い感じに過ごしているのだろう」「思い悩んでいるのは自分だけ」と心のどこかで決めつけ、ここ数ヶ月訓練漬けの毎日で仲間のことを考えることもなかった。
(……叢雲たちもいっぱい悩んでるんだ)
夕立が叢雲の方を見つめていると、叢雲は夕立の方を向いて不思議そうな顔をする。
「何?私の顔になにかついてる?」
「いや……夕立、全然みんなのこと考えられてなかったなって思ってたっぽい」
「何よそれ」
叢雲はそう言って笑うと、コーヒーの残りを飲み干した。
「悩んでいるのは夕立だけで、みんなは自分でしっかり出来てるんだろうなって思い込んでたっぽい」
「そんなの無理に決まってるじゃない」
夕立がそう言うと、叢雲はまた笑いながら言った。
「だから、足でまといって思ってはないっぽいけど……みんなのこと深くまで考えてなかったかもしれないっぽい」
「ふーん……」
「……じゃあ、叢雲は夕立の事どう思ってるっぽい?」
夕立がそう言うと、叢雲は少し考える。
手を顎に当て、ほんの少しだけ考え込んだ後、叢雲は口を開いた。
「そうねぇ……あんたの中にいる化け物の正体は分からないし、実際いつ現れるか分からないから怖いところはあるわ」
叢雲がそう言うと、夕立は体をビクッと震わせる。
(やっぱり怖がられてるっぽい……)
「でも」
「大切な仲間だと思ってるわよ」
叢雲はそう言い切ると、立ち上がって伸びをする。
「そっ……か」
夕立は恥じらいと嬉しさが篭った声で答えた。
叢雲は自分が手にしていた空き缶をゴミ箱の中に入れ、夕立の前に立つ。
「あんたが私達のことをどう思ってるかは知らないけど、私からあんたに対する気持ちはさっき言った通りよ……まぁ、足でまといって思われてなくて良かったわ」
「ぽい……」
「話聞いてくれてありがと、あんたもなんかあったら言いなさい」
叢雲はそう言うと、「じゃあね」と言ってその場から立ち去ろうとする。
「ま……待って!」
それを見た夕立は咄嗟に立ち上がり、駆逐艦寮の方に帰ろうとしている叢雲を呼び止めた。
叢雲は不思議そうな顔をして振り向く。
「何?」
「叢雲は……」
「叢雲は何のために戦ってるの?」
何度も何度も、自分に聞かれてきた質問だ。
夕立からの突然の質問に叢雲は驚いたような表情をしていたが、すぐに表情が柔らかくなった。
「仲間のためよ」
何も迷いなく叢雲はそう答えた。
「あんたは?」
叢雲は夕立に質問を返す。
それに対して夕立は、またいつもと同じように「戦うしか自分にはないため」と答えようとしたが、何故か言葉が出てこなかった。
「分からない……っぽい」
「……そう」
叢雲は一言そう言うと、また背を向けて駆逐艦寮の方へ歩き出した。
『仲間のためよ』
中庭に1人残された夕立は、頭の中で何度も叢雲の言葉を考え直す。
「仲間……」
夕立はそう一言呟き、ゴミ箱に自分のコーヒーの空き缶を捨てた。
━━━━━━━━━━━━━
二日後、冷たい風が窓の隙間から流れ込んでくる早朝。
それぞれ準備を終えた第八艦隊のメンバーが出撃ドッグに集合していた。
「みんな揃ってるね、じゃあ行こうか」
1番最後に川内がドッグに入ってくると、全員が海上に着水する。
海へと繋がっているゲートが徐々に開いていき、日光がドッグ内に差し込んでくる。
海上に立つ6人の姿を日光が足元から照らしていき、ゲートが開ききった。
「……。」
自分の横に並んでいる駆逐艦たちを見ながら、川内は二日前の提督の言葉を思い出す。
『妙な胸騒ぎがする』
提督がそう言った時の深刻な顔が頭から離れず、頭の中が不安な思いでいっぱいになる。
(提督は普段あんなことで私を呼び止めたりはしない、作戦前にあんなこと言われたら不安になっちゃうなぁ……)
自然と顔に心情が映し出され、目線が下を向いていく。
「胸騒ぎ……ねぇ」
川内が口を開いた瞬間、誰かの視線がこちらに向いたのを感じた。
川内はゆっくり横を向くと、不知火が不思議そうな表情で川内の方を見ていた。
「川内さん、どうかされましたか?」
ポツリと漏れた独り言に隣の不知火が反応し、声をかける。
「んーん?なんでもない」
川内はそう言うと、自分の両頬を叩いて気持ちを入れ直す。
(いや、私は旗艦だ……こんなことで揺らいでちゃ仕方ない)
姿勢を低くしていつでも出撃できる状態になっている自分の部下を確認し、川内は大きく息を吸った。
「第八艦隊!出撃!!」
川内の合図と共に、第八艦隊は海へと出撃していった。
今回の作戦は敵の補給艦を撃破し、敵の継続戦闘を困難にさせるのが目的であり、敵主力艦隊の近くでの戦いになるため、激戦が予想されている。
鎮守府から出撃してしばらく経ち、川内達第八艦隊は敵泊地の近くまで迫ってきていた。
先陣を切っていた川内が後ろに減速の合図を送り、それに合わせて全員が減速して海上で止まる。
「私たちの目的は泊地の破壊じゃない、ここで敵泊地の連中に補足されたら大変なことになるから、慎重に進むよ」
川内の言葉に駆逐艦達は頷く。
提督から言い渡された情報を頼りに海上を進み、補給艦隊が目撃された場所付近に予定より早く到達したため、作戦開始予定時刻まで近海で待機することになった。
各々が様々な方向に目を配り、レーダーを装備している春雨と叢雲は付近の索敵に集中している。
気配を察知する面においては他より長けている夕立は、神経を集中させて周りを警戒していた。
様々な方向に目をやっていると視界にチラチラと仲間達の姿が写り、もちろん時雨の姿も目に入る。
「……。」
『僕は……「今までの僕」の想いも背負っていたんだ』
夕立は前に時雨が言っていた言葉を思い出し、一瞬集中が途切れる。
(今までの僕……それって小さい時の時雨ってことっぽい?)
(……でも、それじゃちょっとおかしいっぽい……なんか、もっと別の━━━━━━━)
夕立そこまで考えた瞬間、全身が凍りつくような感覚が身体に走り、夕立は咄嗟に後ろを振り返る。
敵の気配だ━━━━━━━━━━━━
「後方に敵の気配がするっぽい!全員注意して!」
夕立の一声で全員が同時にスイッチが切り替わり、後方を全員で確認する。
すると、自分たちから少し離れた地点で黒い点が動いているのが見えた。
「敵確認、あれが補給艦隊か確認するね」
川内はそう言うと、双眼鏡を取り出して敵の方を見る。
敵の艦隊は補給艦が四匹と、護衛と思われる重巡洋艦が二匹見えた。
敵が補給艦隊のうちの一艦隊だと判断した川内は、双眼鏡を下ろした。
「よし、私たちの作戦対象だね、みんな出番だよ」
「全く……こっちがレーダーで感知したと同時に気づくなんて、どんなカンしてんのよあんた」
叢雲が夕立に向けて呆れた声でそう言うと、陣形内の自分のポジションへと戻っていく。
夕立はそんな叢雲の背中に愛想笑いを送ったあと、春雨の後ろに付いた。
「第八艦隊、戦闘開始!」
川内の一声で全員が敵艦隊の方向へと直進を始める。
「まずは分断!」
川内がスピードを上げ、ある程度接近した後に敵に向けて主砲を放つ。
川内が放った一撃は敵補給艦の1匹に直撃し、黒煙が上がる。
黒煙の中から傷だらけの補給艦が現れると、川内は舌打ちをした。
「やっぱりこの距離じゃ仕留めきれないか……叢雲!春雨!」
そう言って川内が手を上げると、叢雲と春雨は腰を下げて魚雷を構える。
「撃てっ!」
川内の号令で2人が魚雷を放ち、その間に川内は敵艦隊のすぐ側まで迫る。
突撃してきた川内の方に敵艦隊が気を取られているうちに、2人が放った魚雷が敵艦隊のすぐそばまで近づく。
魚雷が近づいてきているのを察知した数匹はすぐにその場を離れたが、傷を負っていた補給艦は避けるのが遅れてしまった。
補給艦がいた所に大きな水柱が立ち、それを確認した川内は続けて2匹の重巡がいる所に砲撃をする。
敵が砲撃で生じた水柱に気を取られているうちに、川内は艦隊に指示を出す。
「私と時雨は護衛の重巡を撃破するから、時雨以外は補給艦をお願い!」
「「「了解!」」」
川内が駆逐艦達に指示を送ると、全員が陣形を変えて指示通りのメンバーで敵に接近する。
「夕立と不知火が左側から砲撃するっぽい!二人は援護をして!」
夕立はそう言うと、不知火と共に敵から見て大きく左に回る。
それを追おうとする敵に叢雲と春雨が中距離から攻撃し、極力夕立達の方に敵の攻撃が向かないようにする。
それを振り切った3匹のうちの1匹が夕立に向けて砲撃をすると、夕立はそれを避けながら1番近い補給艦に照準を合わせて主砲を放つ。
夕立の一撃は見事に命中し、傷を負った敵補給艦が黒煙から現れた。
同時に突撃していた不知火が追加で主砲を放ち、傷ついた敵にさらに攻撃をする。
「あと一撃っぽい!」
続けて一撃を放ったが、もう一撃は敵の僅か左に逸れてしまった。
それを見た二匹の補給艦は夕立めがけて砲撃をする。
(一旦立て直さないとマズイっぽい!)
二人が叢雲の方に戻っていくと、春雨と叢雲はそれをカバーするように敵の方へ砲撃を放った。
「夕立姉さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫っぽい……でも、すぐに次の攻撃に行かないと敵が再生するっぽい」
夕立がそう言って敵の方を見ると、大破した敵艦が再生を始めた。
深海棲艦の大半がこの再生能力を持ち合わせており、時間はかかるが放置していると問題なく動ける程度まで回復されてしまう。
「回復している間にもう一度攻撃を行いましょう、今が好機です」
不知火が再生中は動きが鈍くなることを利用して攻撃することを提案すると、全員がそれに了承する。
一気に敵の方に近づき、駆逐艦が精密に攻撃できる範囲まで近づく。
しかし、近づくにつれて敵の攻撃も正確になっていき、夕立達はそれをギリギリで避けながら砲撃をする。
「チィッ……厄介ね!」
「ここは夕立が行くっぽい!みんなは後ろから援護して!」
夕立が速度を上げ、敵の目の前まで接近する。
敵補給艦は近づいてくる夕立を狙って砲撃を繰り返すが、摩耶との訓練で磨かれた身体能力で回避する。
そしてそのまま、相手が連続砲撃で崩れた体制を建て直している間に一気に近づき、1匹を蹴り飛ばした。
残りの2匹を後ろの味方に任せて、夕立は1匹を処理することに専念する。
「これで沈めっぽい!」
夕立が放った一撃は補給艦の胴体に直撃し、体の内側から爆発する。
上半身が吹き飛んだ補給艦の死体が海の中に沈んでいき、夕立は轟沈を確認してすぐに仲間の元へ向かった。
仲間の方は残りの1匹を三人で囲み、一斉射撃をしているところだった。
その光景を見た夕立が安堵の表情を浮かべた瞬間、全身に寒気が走る。
「━━━━━━━ 増援っぽい!」
夕立は腹から声を出し、さらに奥で戦っている川内たちにも聞こえるように叫ぶ。
奥から空母ヲ級を旗艦とした敵艦隊がもう一つ近づいてきている。
「やっぱり来たか、補給艦だけ倒しておしまいなんて都合のいいことは無いよね!」
川内はそう言うと、時雨と共に夕立達の方へと向かって合流する。
「川内さん、どうしますか?」
不知火が質問すると、川内は敵艦隊を睨む。
「既に制空権は取られてる、あれだけ近づかれてたら撤退は不可能だね……一応向こうは空母二体と重巡二体、駆逐艦が二体だね」
「ここで倒すしかないってことですよね……」
春雨はそう言って敵の方を見ると、注意深く敵の動きを観察し、いつでも戦えるように姿勢を整える。
「……っ!敵の艦載機が来る!対空戦闘用意!」
川内の号令で全員が空に砲塔を向ける。
空には無数の艦載機が飛んでおり、その中の攻撃機と思われるものが夕立達に飛んできていた。
全員が砲撃を開始し、艦載機を撃ち落とそうとする。
しかし、動きが素早い艦載機を捉えきれず、指で数えられる程度しか撃ち落とすことが出来なかった。
「避けて!!」
川内の叫び声に反応し、全員が回避行動をとる。
「きゃあっ!!」
叢雲以外が回避出来たが、叢雲は右足に数発食らってしまった。
「叢雲さん、大丈夫!?」
近くにいた春雨がすぐに叢雲の傍に寄る。
攻撃を食らった右足からは血が流れており、叢雲は右足を庇うように動いている。
「まだ行けるわ、大丈夫」
叢雲はそう言うと、川内の隣に並ぶ。
「不知火と春雨は空母と戦闘して、叢雲は二人の援護、時雨と夕立は私と一緒に護衛をやるよ!」
川内がそう言うと、川内の体が光に包まれる。
艤装の形が変わり、改ニ状態となった川内が敵陣に突っ込んでいく。
それを見た夕立と時雨は川内の少し後ろについて行った。
「まずは時雨と私で重巡級をやりきるよ、夕立は駆逐艦2匹倒せる?」
「分かったっぽい!」
「じゃあ僕は左のリ級を倒してきます、右は頼みました」
時雨はそう言うと、リ級の方へ突撃していく。
それを横目で見ていた夕立も、駆逐艦二匹が泳いでいるところへ速度を上げて近づく。
夕立が近づいてきていることに気づいた駆逐艦イ級二匹は、夕立の方へ目掛けて突撃を仕掛けてくる。
それを両方紙一重で躱し、片方のイ級に主砲を食らわせた。
爆発音が辺りに響き、黒煙の中からイ級が唸り声を上げながらまた突進をしてくる。
「やばっ……!」
イ級の突進に当たり、夕立は後ろに吹き飛ばされる。
ただ、前とは違って体の痛みはそこまで酷くはなかった。
体制を立て直し、足にもう一度力を入れてイ級の方に突っ込んでいく。
「まずは1匹!」
イ級は突撃してくる夕立を砲撃するが、夕立はギリギリのところで回避を続け、至近距離まで近づく。
そしてイ級の口の中目掛けて主砲を放ち、イ級が内部から爆発する。
破裂したイ級の残骸が飛び散る中、もう1匹のイ級が夕立めがけて砲撃を放つ。
対応が少し遅れた夕立は、そのまま艤装に砲撃を食らう。
「げほっごほっ!」
砲撃を食らった艤装はミシミシと悲鳴を上げており、体の中に消えようとしていた。
自我を保って何とか艤装を保ち、もう一度艤装を具現化させる。
そして体に力を入れ直し、敵に向かおうとしたところ、イ級の横から砲撃が飛んでくる。
体に何発も砲弾を撃ち込まれたイ級の装甲は粉々になり、最後は装甲が剥がれた所に撃ち込まれた一撃で大きな爆発音と共に沈んでいった。
容赦のない一撃が放たれた方向を見ると、時雨が主砲の先から煙を上げながら立っていた。
「叢雲のところが戦況が良くない、すぐに向かおう」
そう言って時雨は叢雲達が戦っている方向へ進んでいく。
それを聞いた夕立は、イ級が沈んだのを目視で確認したあと、時雨の後ろをついて行った。
━━━━━━━━━━━━━━━
川内達が重巡たちと戦闘を始めた同時刻、叢雲たちも空母ヲ級との戦闘を開始していた。
第八艦隊として初の空母との戦いであり、3人は固まって空に飛んでいる艦載機を撃墜していた。
「鎮守府の正規空母達と訓練したことはあったけど、やっぱり実戦は違うわね!」
叢雲が空を飛ぶ艦載機を撃ち落としながらそう叫ぶ。
「くっ……向こうは私たちを殺しに来てますからね、そこが訓練と明確に違う点です」
「数が多すぎて落としきれませんー!!」
次から次へと襲いかかってくる艦載機の攻撃を避けながら撃墜をしなければならない状況で、3人は悪戦苦闘していた。
「きゃあっ!」
敵艦載機から放たれたうちの数発が春雨に当たり、艤装から軽く煙が上がる。
「春雨、大丈夫!?」
「はい……軽傷で済みました」
叢雲がすぐに近づくと、春雨はすぐに立ち上がって敵の方を見る。
「あの真ん中にいるヲ級からずっと艦載機が出ています、まずはあれを止めないと……」
「ですが、あれを攻撃するためには艦載機を片付けなくてはいけません」
不知火が続けてそう言うと、叢雲は舌打ちをしてヲ級を睨んだ。
「そうね……何か策があるといいけど」
次から次へと飛んでくる艦載機を1機ずつ落としているため、段々撃墜が追いつかなくなってきた。
「では、2人と比べて損傷が少ない私がヲ級の方に突撃します、それを二人は援護してください」
「アンタ1人で行くつもり?危険よ!」
叢雲が不知火を静止するが、不知火は構わずにヲ級の方へ近づいていく。
(攻撃を艦載機に任せているということは、本体の機動力はあまりないはず……そこを叩けば!)
艦載機からの攻撃を避けながらヲ級まで一気に近づいた不知火は、至近距離で顔面へ主砲を放った。
ヲ級の顔面は爆発し、頭部から黒煙が上がる。
(感触はあった、ダメージは入ったはず!)
攻撃を終えた不知火がヲ級の元から距離をとる。
すると、黒煙の中から杖らしきものが不知火に向けて振られた。
杖が示した方向へ艦載機が一気に集結し、不知火は完全に周りを包囲される。
「なっ……!」
黒煙が晴れ、そこには軽い傷だけ負ったヲ級が立っていた。
(あれだけ至近距離で当ててかすり傷……!?)
不知火が驚いていると、頭上の艦載機が一斉に襲いかかってきた。
「不知火!!」
叢雲と春雨が必死に艦載機を撃墜しようと主砲を何度も放つ。
しかし、2人の装備は対空に特化しているわけではないため、なかなか撃墜が出来ない。
そんな中でなんとか回避を繰り返し、ボロボロの状態で不知火が戻ってくる。
「すみません……助かりました」
「本当に死ぬところだったわよ!?今川内さん達がこっちに合流してるから、それまで耐えるわよ」
「ただ、艦載機の数が多すぎてそれまで耐えられるか……」
春雨はそう言いながら空に飛んでいる艦載機をしっかり狙い、確実に撃墜を狙う。
そして狙ったところに数発を放ったが、落とせたのは1機だけだった。
「これじゃあ間に合わないです……!」
春雨はそう言いながら艦載機を落とすのに力を入れる。
そんな中、敵の艦載機の中に魚雷を搭載した雷撃機が現れるようになった。
「きゃっ!」
春雨が紙一重で魚雷を回避する。
空からの爆撃、魚雷の雷撃が共に襲ってくる状況が続き、ヲ級本体には近づけずにいた。
「不知火!上!」
叢雲が不知火の方へ叫ぶ。
不知火が頭上を見ると、自分に向けて機銃を向けている艦載機が近づいてきていた。
「っ……!?まずっ……」
不知火は急いで主砲を構えたが、目の前まで迫った敵艦載機は木っ端微塵に砕けた。
「あっぶな……不知火大丈夫!?」
西側から声が聞こえ、不知火は声がした方向へ目を動かした。
そこには川内達三人が立っていた。
「叢雲ー!合流したっぽいー!」
「……どうにか耐えきれたわね」
遠くから手を振る夕立を見て、叢雲は安堵する。
すると、手を振っていた夕立の顔が青ざめ、自分の方へ主砲を構える。
叢雲は首を傾げた後、自らの後ろを見た。
敵雷撃機が魚雷を抱えて叢雲のすぐ後ろまで迫る。
夕立を見て安堵して発生した一瞬の油断。
それが叢雲の隙となった。
「……え?」
脳がすぐに状況を理解し、自らの足に力を入れる。
すると、右足に激痛が走った。
思ったように足が動かない、どうにも体が動いてくれない。
迫り来る数本の魚雷をただ眺めることしか出来ない。
「叢雲!!!」
海上に大きな爆発音が響き、水柱が立つ。
大量に空に舞い上がった水が、雨のように降ってくる。
「叢……雲……?」
ポツリと夕立が呟く。
水柱が立ったその場所には、もう叢雲の姿はなかった。
小説投稿遅刻常習犯になりつつあります、さめやんです。
本当に申し訳ないです。
これから書きたい展開のために、なんとか今回の話で色々と書きたかったのですが、それのせいでかなり手間取ってしまいました。
さて、今回の話でようやく完全な戦闘シーンへと移りました。
今まで自分のことしか考えていなかった夕立、しかし、仲間も自分と同じくらいの思いを背負って過ごしていたことが分かった。
そんな中始まった補給艦隊殲滅作戦、序盤は上手くいっていた第八艦隊だったが、たった一瞬の油断で崩壊していく……
次回 「衝突」
次の話は私が書きたくて仕方なかった話なので、楽しみに待っていてください。