【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part24 「礼花の罪」

心を埋めるもの Part24

 

「ふぅ……」

 

夜の海の上で1人、礼花が安堵の息を吐く。

 

礼花の目の前には4人の艦娘が倒れており、全員意識を失っている状態だった。

 

一人は体が深海棲艦になりかけており、体はもう半分以上海に沈んでいる。

 

「あっちゃー……こりゃ悲惨だね」

 

目に写る散々たる光景にため息を吐きながら、夕立と時雨の方に近づいていく。

 

(大体何があったかは察せるね)

 

礼花は倒れている夕立と時雨の近くに座り込み、夕立の体に触れる。

 

「あっつ!!」

 

礼花が夕立の体に触れた瞬間、とてつもない高熱が礼花の手を襲った。

 

(やっぱり夕立ちゃんに暴走した痕跡がある、しかもこれは……かなり侵食が進行してるね)

 

礼花は手を一度海に突っ込んで冷やしたあと、夕立を仰向けにして時雨の方を見る。

 

時雨の艤装も元の形に戻っており、体中に殴られた跡がある。

 

 

「君も……とうとうここまで来ちゃったか……」

 

 

礼花はそう言って時雨の頬を撫でると、込み上げてくる感情を押し殺して時雨を観察する。

 

時雨の先程までの殺気は完全に消えており、年相応の顔で意識を失っている。

 

(……もう、姿を隠す理由はなくなっちゃったか)

 

礼花は時雨の頬から手を離し、辺りを見渡す。

 

 

「それにしても、みんな体の損傷が激しい……あたしが今応急処置しても、放置したらこのまま沈んじゃうよね」

 

礼花は一人一人の口の中に瓶に入った応急修復材を入れると、その場で腕を組んで悩む。

 

(うーん、手伝ってくれる人が都合よく来たら良いんだけど━━━━━━━━━━

 

 

 

 

礼花がそう思った瞬間、何かがものすごい速度で礼花の方に近づいてきているのを感知した。

 

 

礼花のメガネに搭載されているレーダーにものすごい速度で近づいてくる何かが映し出される。

 

 

 

(これって……艦娘……!?)

 

 

 

レーダーに写った情報を見て艦娘が近づいてきていると判断した礼花は、すぐさま後ろを振り向く。

 

 

すると、何者かの拳が礼花の目の前まで迫ってきていた。

 

 

「うわっ……!?」

 

礼花はそれを既のところで両手で防御する。

 

両腕から鈍い音が響き、全身に強い衝撃が走る。

 

 

 

 

拳を放ったのは白露だった。

 

白露は強烈な殺気を放ちながら拳を押し出し続ける。

 

「丁度いいところに来てくれたね……!」

 

礼花が白露に向けてそう言うと、白露は拳を引き、礼花の腹部に主砲を突き立てる。

 

「あなたのことが気になったから着いてきたけど……私の妹達に何したの!!」

 

「っ……!」

 

それを見た礼花は突き立てられた主砲を素手で掴む。

 

礼花が白露の主砲に触れた瞬間、白露の右腕の艤装が解除され、力がゆっくりと抜けていく。

 

「……!?」

 

驚いた様子の白露は一旦距離を取り、魚雷を礼花の方へと構えた。

 

 

「待った待った!タンマ!あたしは敵じゃないよ!」

 

 

それを見た礼花は慌てて静止の声を上げ、両手でタイムの形を作る。

 

「……どういうこと?」

 

それを聞いた白露は警戒しながらも魚雷を打つのを止め、礼花を睨みつける。

 

白露が止まったのを見た礼花は胸を撫で下ろし、倒れている夕立達の方へと戻ろうとする。

 

すると、白露の後ろから2人の艦娘が近づいてきているのが見えた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……白露さん、急に速度を上げてどうされたのですか……!?」

 

「不知火さんも白露さんも……速いです……」

 

近づいてきていたのは不知火と、過呼吸になりかけている春雨だった。

 

「「……!?」」

 

2人は近づいてくると目の前の惨状に息を飲み、すぐさま戦闘態勢に入る。

 

「白露さん、これは……?」

 

「私も正直あんまり理解はできてない、私が来た時には4人は倒れてたし、この人がその場にいた」

 

白露の言葉を聞いた不知火が礼花の方を睨むと、礼花は真剣な表情で3人を見た。

 

「あたしは君たちと同じ艦娘だよ、何も君たちには危害は加えない」

 

礼花がそう言うと、春雨はキョトンとした顔をする。

 

「あなたは味方なんですか?」

 

「少なくとも君たちに危害を加える存在じゃないよ、応急修復剤を飲ませてこの子達の出血を抑えたのはあたしだし」

 

春雨がそう聞くと、礼花は夕立を抱き上げながら答えた。

 

「それに、今は争ってる場合じゃない。出血は抑えたけど、みんな外傷が酷いからすぐに運んで処置しないと間に合わなくなるよ」

 

「……後で詳しく聞かせてもらうからね」

 

それを聞いた白露は直ぐに時雨を抱きかかえると、春雨と不知火もそれに続いて叢雲と村雨を介抱する。

 

春雨が叢雲を抱えようとすると、真っ白な肌が春雨の目に映った。

 

「なんでこんな姿に……」

 

不知火と春雨は、叢雲の体を見て驚嘆の声を漏らす。

 

体温は異様に冷たく、二人は叢雲が何になっているのかを容易に想像できてしまった。

 

「これって……深海棲艦ですよね」

 

「……とりあえず鎮守府に向かいながら全部説明するから、今は急ごう」

 

 

礼花がそう言いながら鎮守府の方に向かうと、白露達は困惑しながら礼花の後について行った。

 

 

 

 

「提督!大変です!」

 

執務室に慌てた様子で明石が入ってくる。

 

執務室の中では第一艦隊が整列しており、大淀と提督が何かを説明している。

 

「とにかく先程の砲撃音の原因の解明を白露不在の第三艦隊に変わって…………どうした、明石」

 

遠くから全力で走ってきたのか、明石は身体中から汗を流している。

 

明石は1度落ち着いて大きく息を吸ったあと、提督に状況を説明する。

 

「鎮守府正面玄関に大破状態の時雨、夕立、村雨、叢雲が運ばれてきました!」

 

「なんだと!?」

 

「運んできたのは白露、不知火、春雨と……」

 

 

 

「須藤礼花の4人です!」

 

 

礼花の名前を聞いた瞬間、提督は驚愕の顔で固まったが、直ぐに己を取り戻して執務室を出る。

 

「第一艦隊と明石はそこの担架を4つ持って俺と一緒に正面玄関へ、大淀は夕張に入渠ドッグの手配を頼む!」

 

提督がそう言うと第一艦隊と明石は提督と共に廊下を走り、正面玄関へと向かった。

 

「テートク?さっきの須藤レイ……ナントカさんは誰なんデスか?」

 

「俺もまだ詳しくは知らないから後で本人から聞く、今はとりあえず急ぐぞ!」

 

金剛の質問には答えず、提督は正面玄関へ足を早めた。

 

提督達が正面玄関へ着くと、負傷した夕立、時雨、村雨、叢雲の4人が寝かせられていた。

 

4人の体は至る所がボロボロになっており、叢雲の体はほぼ深海棲艦になりかけていた。

 

「……これは酷いな、敵襲か?」

 

提督が目の前に広がる惨状を見て険しい表情をしていると、正面玄関に1人の女性が入ってきた。

 

「敵襲だったら、問題としてはもっと軽く見れたんだけどね」

 

「君は……須藤礼花か」

 

提督が礼花の名前を呼ぶと、礼花は予想通り、と言った表情をする。

 

 

「ピンポーン、やっぱり明石ちゃんから聞いてるよね」

 

「……とりあえず4人を担架に乗せるぞ、話は4人を入渠ドッグに入れてからだ」

 

提督がそう言うと、第一艦隊のメンバーが担架に4人を乗せていく。

 

「待って」

 

夕立と叢雲を運ぼうとした瞬間、礼花が制止の声を上げた。

 

「夕立ちゃんと叢雲ちゃんはそれじゃダメだ」

 

礼花はそう言うと、村雨と時雨の2人を入渠ドッグに運ぶように第一艦隊の艦娘たちに指示をする。

 

「なぜだ?」

 

「この2人は特殊な事情があって、今入渠ドッグに入れてしまうと危険だ。だからあたしが一旦処置する」

 

「処置……何年も医療に携わっていなかった者が艦娘を治療できるのか?」

 

「不安になる気持ちもわかるけど、ずっと何もしてこなかったわけじゃないから安心して」

 

「そうか……」

 

提督はそれを聞いて少し考え、礼花に鎮守府の案内図を見せる。

 

「なら1階の集中治療室を使うといい、あの場所なら設備も整っている」

 

提督がそう言うと、礼花は笑顔で首を縦に降った。

 

「うん、任せて」

 

礼花はそう言うと、夕立と叢雲の担架を持っている不知火たちと第一艦隊のメンバーを連れ、集中治療室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

数時間後、処置を終えた礼花が部屋を片付けていると、治療室のドアがノックされた。

 

 

「礼花さん、明石です」

 

「あー、もう治療は終わったよ。起こさないようにゆっくり入ってきてね」

 

「失礼します」

 

明石が部屋に入ると、目に映ったのはかなり疲れた様子の礼花と、別々のベッドに寝かせられている夕立と叢雲の姿だった。

 

明石は礼花に資料を手渡すと、夕立のベッドの横に座った。

 

「言われた通りに最近の夕立ちゃんのデータを持ってきましたよ」

 

「ありがとう。正確なデータは掴めてなかったから助かるよ」

 

礼花はそう言って資料を食い入るように見る。

 

そんな礼花を明石はじっと見つめていた。

 

「……そんなに見なくても、ちゃんと色々と事情は説明するよ」

 

「ならいいんですけどね、言質をとっておかないとまたすぐに居なくなってしらばっくれられるので」

 

「あはは……本当にごめんね」

 

礼花は乾いた笑いの後、気まずそうにまた資料に目を落とす。

 

しばらく無言の時間が流れたあと、治療室のドアがもう一度ノックされた。

 

「俺だ、入っても大丈夫か?」

 

ノックの主は提督だった。

 

「おっ、しっかり時間通りに来たね……。どーぞ、ゆっくり入って来てね」

 

礼花がそう言うと、ドアがゆっくりと開かれて提督が中に入ってくる。

 

提督は明石がいるのも想定内といった態度であり、特に気にすることも無く明石の近くに椅子を寄せて座った。

 

「ここに来る予定だったんですか?」

 

「あたしが呼んだんだ、あたしの話をするなら彼もいた方が良いだろうし」

 

「2人の容態は?」

 

提督がそう聞くと、礼花はベッドの方を指さす。

 

「夕立ちゃんの傷はとりあえず治療完了、叢雲ちゃんの深海棲艦化も今は収まってるから安心して」

 

「叢雲は普通の艦娘に戻れるのか?」

 

「あたしは一応深海棲艦の研究者でもあったから知識はある、出来るだけ深海棲艦化を抑えられるように頑張ってみるよ」

 

「……そうか」

 

礼花がそう答えると、提督は胸をなで下ろして安心したような表情になる。

 

それを見た礼花は一瞬微笑んだあと、椅子に座り直して2人の方を真っ直ぐ見た。

 

「恐らくだけど、今回起こったのは敵襲じゃなくて同士討ちだね」

 

「なんだと?同士討ちの証拠はあるのか?」

 

提督がそう言うと、礼花は夕立のレントゲン写真と全体写真を二人に見せ、顔や腕の部分を指さす。

 

「ここにあるのは殴られた跡だね、深海棲艦のタックルを食らったりしていたならもっと損傷は広く浅いものになるから、体術を会得している何者かに殴られたことになる」

 

「夕立ちゃんに暴走した跡もあるし……暴走した状態の夕立ちゃんにここまでのダメージを与えられるのは4人の中で1人しかいないんじゃない?」

 

礼花の言葉を聞いた提督は唸り声を上げながら顎に手を置く。

 

そして、少し考えたあと絞ったような声を出す。

 

「時雨か……」

 

「うん、多分叢雲ちゃんの深海棲艦化が起きたことによって、何かが原因で夕立ちゃん達と時雨ちゃんが対立。そのまま戦闘に発展したって感じかな」

 

そこまで聞いた提督は頭を抑えながら大きなため息を吐いた。

 

「全員が起きた時に聞かなくてはいけないな」

 

「まぁそれは後で君達にやってもらうから……とりあえず目的の話をしようか」

 

礼花はそう言うと、提督と明石の顔を交互に見たあと、何かを決心したような表情になる。

 

 

「じゃあ話していこうか、まずは……」

 

 

 

 

「夕立ちゃんについてだね」

 

礼花がそう言うと、提督と明石は唾を飲み込む。

 

鎮守府が現在抱えている問題の中でトップクラスの問題である夕立の話は誰もが気になっていたことであり、工房で整備をする明石にとっては特に気になる話だった。

 

「これで、貴方があの夕立ちゃんに固執する理由がわかるんですね」

 

明石はメモの準備をしながら礼花の目を見つめる。

 

「まず、夕立ちゃんの体の中にある力について説明するよ」

 

礼花はそう言うと、明石が持ってきたデータを見ながら説明を始める。

 

「まず、彼女の中にある力は私が13年前に開発した艤装改造プログラムのプロトタイプ、「type-0」ってデータなんだ」

 

「艤装改造プログラム……艦娘の艤装に改や改二を実装するものだな、これは君が作ったものだったのか」

 

「そういうこと、このデータをあたしは13年前に駆逐艦夕立に埋め込んだ」

 

礼花がそこまで言うと、提督が首を傾げる。

 

「13年前……?夕立は今11歳だぞ」

 

「うん、そこが今回の話の重要なところなんだ」

 

礼花は胸元から写真を1枚取り出すと、2人の前に見せた。

 

それを見た提督はさらに不可解そうな顔をし、明石は懐かしそうな顔をする。

 

「この写真であたしの横に写ってるのが昔の夕立、今の夕立ちゃんとはだいぶ雰囲気が違うでしょ?」

 

写真の中の夕立は無邪気な笑顔を浮かべており、現在鎮守府にいる夕立よりも自信があるような表情をしている。

 

「あたしがtype-0のデータを埋め込んだのはこの夕立、だけど今現在この力を持っているのは今鎮守府にいる別の夕立……これがどういう意味だかわかるよね?」

 

「生まれ変わりということか?ただ、そんなこと……」

 

「私も確かに夕立ちゃんに面影を感じたことはありましたが……そんなことってあるんですか?」

 

明石は夕立の顔を見たあと、礼花の方を見ながら質問する。

 

「あたし自身も生まれ変わりの存在は信じられなかったけど……夕立ちゃんがtype‐0を持って生まれている以上、信じるしかない」

 

「……確かにな、その事実は揺るがない」

 

提督がそう言うと、礼花は首を縦に振る。

 

「……だけどtype‐0を引き継いだことによって、夕立ちゃんは今危機に直面してるんだ」

 

「……どういうことだ?」

 

提督が顔を顰めて礼花の方を見ると、礼花は一度言葉を止めたあと、ゆっくりと口を開ける。

 

「夕立ちゃんの中にある「type-0」は……とある深海棲艦のデータを組み替えて艦娘用に改良したものなんだ」

 

「なんだと……?その深海棲艦はどんな個体だ?」

 

「そのデータは……」

 

 

 

 

 

「深海棲艦「姫級」装甲空母姫……今この西方海域に住み着いている個体のデータだよ」

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

その名前を聞いた提督は驚愕の声を上げる。

 

「なんでそんなものを君が持っているんだ?」

 

「それがあたしの能力だからね、あたしは触れたものの艤装のデータを編集、記録する力を持ってる」

 

礼花はそう言うと、コピー機に付けていた機械を取り外して2人の目の前に出す。

 

「過去に手に入れたデータはあたしの脳内とここに全部保存される、これは本来明石型や1部の夕張型も使えるんだけど……」

 

礼花はそこまで言うと、明石の方に目線を向ける。

 

「……その力は私たちも持っていますが、あなたほど即座に編集することはできませんし、膨大なデータを保存することもできません……もはや貴方のそれは私たちのものとは別物ですよ」

 

「ってこと、これを使って過去に手に入れた姫級のデータを組み替えて作ったのが艤装改造プログラムtype-0だったんだ」

 

礼花はそう言うと、夕立の艤装の資料と報告書を交互に見比べたあと、自分の胸ポケットからメモ帳を取り出す。

 

メモ帳には数ページにわたって文字が並べられており、全てが夕立についての情報だった。

 

「……最近、夕立ちゃんの情報を並べていて何か気づいたことはない?」

 

礼花にそう言われると、明石は自分が覚えている夕立に情報を思い出す。

 

「異常な再生能力に海中での艤装展開、艤装とのリンクが強くて、体が再生すると共に艤装も直る……」

 

明石がそれを口に出した瞬間、何かを察したような表情になった後に俯く。

 

「夕立ちゃんの中にある深海棲艦データを元にしたtype‐0、そして報告書の内容とあたしのメモ……これらを組み合わせて出る答えは一つしかない」

 

礼花はメモ帳を起き、夕立の方を少し見つめたあと、2人へと交互に目線を送る。

 

 

 

 

 

「今の夕立ちゃんは……完全な深海棲艦になりかけている」

 

 

 

 

 

「「……。」」

 

礼花の言葉を聞き、2人は黙り込む。

 

前の報告書にあった海中での艤装展開、異様なまでの耐久力と回復力、力の暴走……夕立が深海棲艦になりかけていると決定づける証拠は考えれば考えるほど溢れてくる。

 

二人は以前からその考えに行き着いていたが認めるわけにはいかなかったため、考えないようにしていた。

 

「深海棲艦化している叢雲ちゃんも、夕立ちゃんもあのまま入渠させたらかえってダメージになってしまう……だから進行を抑える処置をしなくちゃいけなかったんだ」

 

「夕立ちゃん……」

 

明石は悲しそうな声で名前を呼び、夕立の顔を見る。

 

「このまま侵食が進めば、夕立は深海棲艦になるという認識で合っているか?」

 

「認識はそれであってるけど、想定よりは遥かに強大なものになっちゃうだろうね。なんせ姫級のデータだし」

 

「……なんで、そんなものを生み出した?」

 

「……」

 

提督が普段より低い声で礼花に質問する。

 

怒りの感情が溢れ出ており、質問されている礼花もそれを感じとれる程だった。

 

「想定外、としか言うことができないかな」

 

礼花は険しい表情でそう言うと、夕立の写真を見る。

 

「元々この研究はあたしの親友の夕立を強くするために私情で始めたものだったんだ。昔の夕立は体が弱くて、艤装を使って戦闘する度に体に負荷をかけてたからね」

 

「それで体を強くするために、深海棲艦の再生力とタフさに目をつけた……ということですね」

 

「そういうこと。その時ちょうど深海棲艦「姫級」と戦った艦隊が腕を持ち帰ってきてくれてね、そこから手に入れた艤装データを元に研究は始まったんだ」

 

「あの時、頑なに工廠に入れてくれなかったのはそういう事だったんですね……」

 

「うん……それであたしは何とか艤装改造プログラムのプロトタイプを完成させて、夕立の中に埋め込んだ」

 

 

「あたしの目論見通り、夕立は強靭な体と圧倒的な再生力を手に入れたし、今みたいに暴走することなく改二状態になれた……けど」

 

 

「けど?」

 

提督がそう聞き返すと、礼花は悲しそうな表情になる。

 

「12年前、駆逐艦夕立は再び西方海域に現れた深海棲艦姫級との戦闘中に容態が悪化。戦闘困難な状態に陥ってそのまま戦死したんだ」

 

「……。」

 

礼花がそう言った瞬間、張り詰めていた空気が更に重くなる。

 

礼花は気を取り直すかのように一度息を吐くと、説明を続ける。

 

「恐らく、急激な体質の変化に夕立の体が耐えきれなかったことが原因だと思う。ここからあたしは深海棲艦のデータを使うことはやめて今の艤装改造プログラムを完成させたんだ」

 

礼花はそう言うと、夕立の写真を見て悲しそうな表情になる。

 

「強く生きて欲しかった親友を自分の未熟な技術で殺して、挙句の果てにはその友人の生まれ変わりにも辛い思いをさせている……それがあたしの罪だよ」

 

「……。」

 

礼花の言葉を聞いて、明石と提督は重苦しい気持ちに押しつぶされそうになる。

 

「……それで、今の夕立はプロトタイプの方が受け継がれたということだな?」

 

提督が静寂を断ち切るようにそう言うと、礼花は首を縦に振る。

 

「うん、だけど今の夕立ちゃんはそれを使いこなせていないんだ」

 

「……ということは、昔の夕立は使いこなせていたということか?」

 

「昔の夕立ちゃんも完璧ではなかったけど、使えてはいたね」

 

「なら、何故今の夕立だと暴走するんだ……?」

 

「それはこれから説明するよ」

 

礼花はそう言うと、機械をもう一度コピー機に繋げ、1枚の紙を印刷して二人の前に出す。

 

「これがtype-0の構成プログラムと昔の夕立の艤装データだよ。これを見ればわかるけど、本来深海棲艦姫級のデータはほんの少ししか入ってないはずなんだ」

 

資料を見ると、確かに全体の1パーセントにも満たない数値のデータだった。

 

「でも、恐らく夕立ちゃんの中ではもう50%は超えている……要するに、侵食されてるってことだよ」

 

「ふむ……ということはあの暴走もこのデータの侵食が引き起こしているということですか?」

 

明石がそう言うと、礼花は首を横に振る。

 

「厳密にはこれとtype-0の中にある艤装改造プログラムがぶつかり合って起こる現象だね、昔の夕立はこれが発生せずにスムーズに改二状態になれたんだ」

 

「……なぜ昔の夕立では侵食が発生せずに改二状態に移行できたんだ?」

 

提督がそう質問すると、礼花はメモのページをめくって少し読み、口を開く。

 

「……これは仮定の話なんだけど、あたしは二人の心が関係してると考えている」

 

「「心……?」」

 

2人が首を傾げると、礼花はメモ帳を2人に見えるように裏返した。

 

「2人が明確に違うのはそこなんだ。昔の夕立は体は弱かったけど心だけは誰よりも強くてね」

 

「それが暴走しなかった理由なんですか?」

 

メモを見た明石が不思議そうな顔をしてそう言うと、礼花はメモをしまって立ち上がる。

 

「彼女には、自分の中にある深海棲艦の憎悪に飲み込まれないくらいの己の強さがあった。だから破壊衝動に飲み込まれることも無く、自分の力として使うことが出来ていたんだ」

 

礼花はそこまで言って夕立の隣に立つと、悲しそうな表情をする。

 

「でも、今の夕立ちゃんは絶望や怒りで己が飲み込まれてしまうほどに意志が弱い。それによって深海棲艦の力が増幅されて改二状態になるのを阻害しているんだ」

 

「もしかしたら、夕立ちゃんの育った環境もあってそうなっているのかもしれませんね」

 

「そうかもね……しかも、生まれた頃からtype‐0のデータを持ってるからか分からないけど体に完全に馴染んでしまっていて、もうあたしがデータに干渉することがほぼ出来なくなってる」

 

礼花はそう言うと、以前夕立から引き抜いたオーラが入った試験管を取りだして見つめる。

 

「前に一度だけデータの照らし合わせのために引き抜いたことはあったけど、これ以上やったら前の夕立のように容態が急変してしまうかもしれないね……」

 

「そんな……じゃあ私たちはもう夕立ちゃんに何も出来ないということですか?」

 

明石の言葉に、礼花は夕立の頬を撫でながら答える。

 

「うん、もうこれは他人がどうこうできる話じゃない。今あたし達にできることはせいぜい侵食を遅れさせることくらいかな……後は夕立ちゃん本人が乗り越えないといけない」

 

礼花はそこまで言うと、夕立の資料を読む。

 

「ただ、ここ最近暴走形態が限りなく人型に近くなっている……もしかしたら本人の中で何かが変わってきているのかもしれないね」

 

礼花がそう言うと、提督は1度立ち上がって夕立と叢雲の顔を交互に見た後に深く息を吐いた。

 

「とりあえず、鎮守府全体で最優先で解決しなければならないのは夕立だな……大切な仲間を深海棲艦にするわけにはいかない」

 

「そうですね、鎮守府のみんなで夕立ちゃんに寄り添うようにしましょう」

 

 

 

 

「━━━━━━いや、この鎮守府にはそれよりも早く解決しなくちゃいけない問題がある」

 

 

 

 

提督の言葉に明石が賛同した瞬間、礼花が口を開く。

 

提督と明石は礼花の言葉を理解することが出来ず、首を傾げながら礼花のほうを見る。

 

「……どういうことだ?」

 

提督が質問をすると、礼花はもう一度椅子に座り直し、2人の方を真っ直ぐ見た。

 

 

「実は、今日の話はここからが本題なんだ……こっちの方はもうタイムリミットが迫ってる」

 

礼花はそう言うと、机の上にあった資料を全てまとめると、再度数枚資料を印刷する。

 

 

 

「これからあたしが失踪していた12年間のことと━━━━━━━━」

 

 

 

 

 

「時雨ちゃんについて、話すよ」




お待たせ致しました、Part24です

正直に言うとココ最近のPartめちゃくちゃ考えるの大変です、今までの伏線回収と分かりやすい説明をしなくてはならないので、とんでもなくキツイです

現に今回のパートはほとんど説明になってしまったので、申し訳ない気持ちでいっぱいです

次の話でこの話の全てが見えてくるようになると思うので、次の話もよろしくお願いします
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