【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part25 「闇の本質」

「時雨ちゃんについて、話すよ」

 

そう言った礼花はため息を吐き、憂鬱そうな表情になる。

 

時雨の名前が出たのが予想外だったのか、提督が神妙な面持ちで口を開く。

 

「時雨?なぜ時雨が問題なんだ?」

 

提督が礼花にそう聞くと礼花は真剣な表情に表情を切り替え、提督の目を真っ直ぐ見つめた。

 

 

「恐らくだけど、あたしは━━━━━━」

 

 

 

 

 

「━━━━━時雨ちゃんも生まれ変わりをしている、と考えてる」

 

 

 

 

礼花の一言で部屋の空気が一変する。

 

提督と明石が同時に唾を飲み込み、礼花に視線を集めた。

 

 

「……そんなことが有り得るのか?」

 

「うん、なんなら生まれ変わりをしているのはほぼ確実……と言い切ってしまっても良いだろうね」

 

「……なぜそれが分かる?」

 

提督が礼花に質問する。

 

「アタシは失踪してた12年間、「艤装の権限が工廠にない艦娘について」の研究を独自に行っていたんだ」

 

「……どういうことだ?」

 

 

「つまり、アタシや明石ちゃんでは対応できない艤装を体に有している艦娘についての研究を行ってたんだ」

 

礼花はそう言って立ち上がると、印刷機に機械を差し込み、機械からデータを読み込んで紙に印刷を始める。

 

「……本当にそれだけの理由で私たちの前から姿を消したんですか?」

 

礼花の言葉を聞いた明石は、鋭く礼花の事を睨む。

 

「……まぁ、他にちゃんと理由はあるんだけど、それはまた今度の機会に話すよ。今はこっちの話が最優先だ」

 

礼花はバツの悪そうな顔をしながらそう言い、印刷機から印刷が終わった紙を取り出して座り直す。

 

 

 

「じゃあ話を戻そうか」

 

礼花は真剣な表情に戻って話を元に戻すと、二人を真っ直ぐ見つめた。

 

「なんでアタシがこんな研究を始めたのか……それは昔、この特性を持つ艤装を所持しているとある艦娘に出会ったからなんだ」

 

「……それは誰だ?」

 

提督がそう聞き返す。

 

 

「それが……かつての時雨ちゃんだよ」

 

 

 

礼花がそう言うと、明石と提督が驚愕の表情で固まる。

 

「これを見てほしい」

 

礼花はそう言うと1枚のデータを2人の前に出した。

 

「これはアタシがここで艦娘をしてた頃、同時期に作戦を行ってた別鎮守府の艦娘のデータだよ」

 

礼花が差し出したデータには多数の艦娘のデータが記されており、そこには駆逐艦時雨の名前も記されていた。

 

「この鎮守府にいた時雨が今の時雨に生まれ変わってるということか?」

 

「アタシはそう考えてる」

 

「どういった根拠があるんだ?」

 

提督がそう言うと、礼花は明石の方に目線を動かす。

 

「明石ちゃん、夕立ちゃんと時雨ちゃんの艤装をメンテナンスしてる時におかしな所がなかった?」

 

礼花に質問された明石は自分が持っているデータから二人の情報を探し出し、思い当たる点がないか探し出す。

 

「……あ!あります!二人の艤装は何故か他の方たちと違って私達工廠組が管轄してる艤装じゃなくて、あの子たち本人に直接リンクしてる艤装なんです。だからメンテナンスが上手く出来なくて……」

 

そこまで聞いた礼花は望んだ答えが貰えたのか、深く頷いたあと再び話し始めた。

 

「そう、彼女達は生まれた時から艦娘の力を有しているイレギュラーな存在。そして、ここにいる別鎮守府の時雨ちゃんも同じ艤装を持ってたんだ」

 

「ふむ……なるほど」

 

「これに気づけたのは過去のデータを鮮明に分析できるアタシの能力と研究成果があってこそ。だからこれを知ってる人はアタシしか存在しない」

 

礼花はそこまで言うと、過去の時雨の艤装データを印刷して2人に渡す。

 

「明石ちゃん、このデータを見て何かピンと来ない?」

 

時雨の艤装の管理者のところには「管理者なし」と記されており、メンテナンス以外の項目には全てロックがかかっている状態だった。

 

その資料を見た明石は冷や汗を垂らす。

「全て……今の時雨ちゃんの艤装データと一致してます」

 

「そう、これが時雨ちゃんの生まれ変わりの証拠だよ」

 

礼花の話をそこまで聞いた提督と明石は深く息を吐くと、もう一度時雨の資料に目を落とす。

 

その横に礼花は夕立の資料も並べると、夕立の資料の管理者の部分を指さした。

 

「ちなみに夕立ちゃんの艤装の編集権限はアタシが保持したまま今に引き継がれてる。なら時雨ちゃんの艤装の権限は誰が持ってるのか……」

 

「答えは簡単。「管理者なし」ってなってるけど……恐らく、生まれ変わる前の時雨ちゃんが持ってるだろうね」

 

礼花がそこまで話すと、明石と提督はなんとも言えない、といった表情で唸り声を上げる。

 

すると、提督が疑問を持った表情で小さく手を挙げた。

 

「時雨が生まれ変わっている可能性があるのは分かった。だがなぜ君はそれに気づいたんだ?話を聞く限り今の時雨とは知り合いでは無いみたいだが」

 

提督にそう聞かれた礼花はあぁ、と一言言ったあと、思い出すような素振りしたあと、ゆっくり口を開く。

 

「アタシが疑問を持ったのは、夕立ちゃんと時雨ちゃんをレ級から助けるために、体に触れた時かな」

 

礼花は自らの右手を見つめながら話を続ける。

 

「体と艤装が完全に繋がってる存在なんて、夕立ちゃんと昔会った時雨ちゃん以外に見た事なかったからね」

 

礼花が自分の右の手のひらを見つめながらそう言うと、提督は理解したような表情になった。

 

すると、明石が何かが引っかかったような様子で疑問の声を上げた。

 

「時雨ちゃんが生まれ変わりをしている可能性があるってことは理解しました。でも夕立ちゃんみたいに危険な能力を受け継いでる訳では無いんですよね?」

 

「なら問題はない……って訳にはいかないんだよねぇ、これが」

 

明石の質問に礼花はそう答えると、深くため息を吐く。

 

「彼女の艤装データを見た時、とあるものを見つけたんだ」

 

礼花はそう言うと、自分のメモを2人の前に差し出した。

 

そこには小さく文字が書かれている。

 

「「思い出せ、僕がいる意味を」……?これってどういうことですか?」

 

明石が顔を顰めながらそう言う。

 

「あたしにもこれの詳しい意味はわかってない。だけどこれは前の彼女が艤装内に残した文章だってことは分かってる」

 

「なるほど……これにどういった危険性があるんですか?」

 

「この文章が艤装データ内に出てきた瞬間、時雨ちゃんの艤装が急に高出力の力を出せるようになってるってことが分かったんだ」

 

礼花は腕に巻き直していた機械を二人の前に差し出すと、そこに艤装データが映し出される。

 

「これはさっきの戦いでの時雨ちゃんの艤装データの履歴なんだけど……これが出てきた途端に急に熱量が上がって高エネルギー反応が出てるでしょ?」

 

礼花の言う通り、とある点を過ぎた瞬間に高エネルギーを検知した履歴が残っている。

 

「これは……かなり高出力な力ですね。改二に匹敵するくらい艤装が強化されてます」

 

明石がそう言うと、礼花は深くため息を吐いた。

 

「問題は、こんな高エネルギーな力をあの子の体が耐え切れるかって話なんだ」

 

礼花は少し険しい表情をしながらそう言う。

 

「元々艦娘はみんな改二になり得るほどの力に覚醒する可能性を秘めてる。中にはそのまま自分の力にしちゃう子もいるけど……多くの場合はその負荷に耐えられなくて体がボロボロになる」

 

礼花は時雨のデータを見ながら話を続ける。

 

「時雨ちゃんはまだ幼い子供だ、艤装の力が人間の体の中にあるってだけで負荷が凄いはずなのに、こんな力まで持ってたら体がいつまで持つか検討もつかない……」

 

礼花がそこまで言うと、明石が時雨の艤装データを見ながら唸り声をあげる。

 

「アタシが開発した「艤装改造プログラム」は、厳密に言うと改ニになれるようになる訳じゃなくて、その覚醒をできるだけ抑えてその子の力の範疇に留まるようにするっていうものなんだけど……今の時雨ちゃんにはそれを搭載することは出来ない」

 

「時雨ちゃんのデータの編集権限は私たちにはありませんからね。もしこのまま戦い続けたら……」

 

「最悪、もう一生動けない体になるかもしれない」

 

明石の言葉に礼花がそう続くと、提督は険しい顔をする。

 

「時雨はここ最近、出撃の際に無茶な行動が目に見えて増えていた。それにこの事情があると考えると、今後の出撃は全て取り止めにする方針にするのも視野に入れないとだな……」

 

提督は辛そうな声でそう言う。

 

「……まぁ、過去の時雨ちゃんがかけたロックを今の時雨ちゃんが自分で解除して、アタシに編集権限をくれれば、アタシが何とかしてあげれるんだけどね」

 

礼花はそう言うと、全ての資料を一纏めにして立ち上がる。

 

提督と明石も立ち上がると、3人で夕立の寝ている方を見る。

 

「とにかくこの2人のこれからの対応については要観察だ、2人が目覚めない事には何も決めることは出来ない」

 

提督が険しい表情でそう言うと、隣の明石が時計を見る。

 

「……そうですね、そろそろ提督も仕事の時間ではないですか?」

 

「あぁ……須藤礼花、君の話はこの鎮守府に少なくとも有益に働くものだろう。礼を言う」

 

提督がそう言って頭を下げると、礼花は腕を組んで乾いた笑顔になる。

 

「いやー……礼を言われるほどのことじゃないんだけどね」

 

 

 

 

「……アタシにはこんな事しか出来ないからさ」

 

 

 

礼花は笑顔の中にどこか辛そうな表情も混ざったような顔でポツリとそう呟くと、夕立のベッドの横に座り直す。

 

「アタシは夕立ちゃんが起きるまでここを見てるから、二人は仕事に戻っていいよ」

 

「あぁ、頼んだ」

 

「あぁ、それと。明石ちゃん」

 

礼花が去ろうとしている明石を呼ぶ。

 

「あの日曖昧に返した答えは、いつかしっかり君にも話す……でも、あたしにはまだその心の準備が出来てない。もう少し待ってくれるかな?」

 

「……言わないでいなくなったら、今度こそ地の果てまで追いますから」

 

「はは……相変わらず怖いね」

 

礼花は明石の言葉に苦笑いする。

 

その後、提督と明石は礼花に一礼をすると、部屋のドアをゆっくりと開けて部屋から出ていく。

 

部屋の中に静寂が訪れた。

 

礼花はベッドで規則正しい寝息を立てながら、泥のように眠っている夕立を見つめる。

 

(アタシが12年間考えていたことは、「君自身」には本当に残酷な事だ)

 

礼花は胸ポケットから写真を取り出すと、そこに写っている夕立を見つめる。

 

(それでも、アタシは一縷の望みにかけてでも……君に会いたかった)

 

 

(でも、今の夕立ちゃんに会っているうちに……もうその希望はほぼ消滅した)

 

「……。」

 

礼花は寝ている夕立の頭に手を乗せ、涙が滲んだ目で見つめる。

 

(それでも、アタシは見てることしか出来ない、アタシは……)

 

 

 

 

 

 

(アタシは「君」に、何もしてあげられない)

 

 

夕立や叢雲が眠る集中治療室の中は、どこか虚しさがある静寂に支配されている。

 

そんな静けさの中、1粒の涙が床に落ちていった。

 

 

 

その日の翌日、辺りの騒がしい声で夕立は目覚める。

 

太陽が高く昇っており、太陽の光が夕立を照らすように部屋の中に差し込んでいる。

 

夕立は倦怠感と激痛に耐えながら体を起こし、朦朧とする意識をハッキリさせるために何度も瞬きをした。

 

すると周りの声がはっきりと聞こえてくる。

 

声の元は外からだった。

 

窓の外からは摩耶の声が聞こえる。

 

「おし!今日は助っ人の川内込みで出撃だ!浜風は療養に務めていてくれ!」

 

摩耶の聞き取りやすい力強い声が響いてくる。

 

夕立は窓の外を覗こうと体を動かそうとするが、体が思うように動いてくれない。

 

(そっか……夕立は時雨と戦って……暴走して……)

 

そこまで思い出した瞬間、脳裏に叢雲の顔が浮かんでくる。

 

「っ……!叢雲!!」

 

叢雲のことを思い出した夕立は焦って体を動かそうとするが、激痛が襲ってその場から動けない。

 

すると、隣から声が聞こえてくる。

 

「夕立……起きたの?」

 

声の主は村雨だった。

 

隣のベッドに座っていた村雨は眠そうに瞬きをした後、急に目を見開いて夕立に近づいてくる。

 

「夕立!目が覚めたのね!良かった……良かった……」

 

村雨は目に涙を浮かべながら夕立の手を握る。

 

すると、医務室のドアが開いて中に人が入ってくる。

 

「あぁ、おはよう夕立ちゃん」

 

入ってきたのは礼花だった。

 

礼花は嬉しそうな顔で夕立の方に近づくと、夕立の額に手を当てて目を閉じる。

 

そして礼花は安心したように一息吐くと、夕立に微笑みかけた。

 

「とりあえずは異常なし!君が無事に目覚めてくれてよかったよ」

 

「ら……礼花さん……ここは……?」

 

「ここは集中治療室横のベッドルームだよ、治療が終わったから君をここで寝かせてたんだ」

 

夕立が落ち着かない様子で周りを見ているのを見て、礼花は軽く笑った後に口を開く。

 

「あぁ、君が聞きたいことは分かってるよ。叢雲ちゃんのことでしょ?」

 

夕立は首をゆっくり縦に振ると、礼花は指を右に向けて見るように促す。

 

夕立がゆっくり視点を移動させると、右隣のベッドには叢雲が眠っていた。

 

「損傷は酷かったけど、ある程度は治した。深海棲艦に侵食された部分は全身の87%、そのうちの53%は何とか取り除けたけど……まだ治るには時間がかかりそうだね」

 

礼花は叢雲の姿を見て涙目になっている夕立に対して微笑みかける。

 

「命の方はもう心配ない、後はアタシに任せて」

 

「良かった……良かったっぽい……」

 

礼花の言葉を聞いた夕立は涙を流しながら安堵の表情を浮かべる。

 

礼花はそんな夕立を見て満足そうに息を吐くと、立ち上がって部屋のドアの方へと歩く。

 

そこで夕立はとある疑問を抱く。

 

「……あれ?そういえば礼花さん、なんで鎮守府の中にいるっぽい?」

 

夕立に質問された礼花は思い出したかのような表情になった。

 

「あぁ、確かにアタシがここにいるのって夕立ちゃんからしたらおかしいよね」

 

礼花はそう言ってゆっくり夕立の方に近づくと、優しい目で夕立のことを見つめる。

 

「君が寝てる間に色々とあってね……まぁ、今までみたいに影で応援!って感じじゃなくて、表立って君を支援できるようになったって感じだよ」

 

「なんで今までは外でしか会ってくれなかったの……?」

 

「こう見えてアタシは色々と不自由な身だからね、やっと色んなところに動けるようになったって感じかな」

 

「……?」

 

「……まぁ、今度話すよ」

 

理解できない、といった表情をしている夕立を礼花は苦笑いをしながら頭を撫でる。

 

礼花は再びドアの方に近づくと、ドアノブを持って振り向く。

 

「体の方がしっかり動くようになったら司令官のところに行って報告しといてね、彼も君を心配してたから」

 

「ぽ……ぽい!」

 

夕立の返事を聞いた礼花は微笑んだあと、手を軽く振って部屋の外に出ていった。

 

鎮守府の中で礼花を見るという新鮮な体験をした夕立は、礼花が出ていったドアをじっと見つめる。

 

(……礼花さん、なんで急に出てこれるようになっだんだろう)

 

「あっ、そういえば」

 

夕立が心の中で疑問を抱いていると、横の村雨が何かを思い出したかのような声を出した。

 

「時雨、まだ目覚めてないらしいわ」

 

「そうなの……?」

 

「あれだけの戦いだったから、回復に時間がかかってるみたい……」

 

「そっか……」

 

夕立が残念そうな顔をすると、村雨が気まずそうにしている。

 

「どうしたっぽい?」

 

「あの……ね?」

 

村雨は目を泳がせながら恐る恐る口を開く。

 

 

「……時雨の事、どう思う?」

 

 

 

その言葉を聞いた途端、夕立はドキッとした。

 

実際、夕立本人もあの時の時雨に対しては思うことは多々あり、これからの任務のことなどを考えると頭が痛くなってくる。

 

「……夕立は、何か時雨にも考えがある気がするって思ってるっぽい」

 

「そうなのかしらね……」

 

「やっぱり、あの時に時雨が言ってたことがどうしても引っかかるっぽい」

 

夕立は戦闘中に時雨が話していた数々の言葉を思い出す。

 

どれも10年生きただけの少女から発されるような言葉ではなく、戦闘中は全く理解できなかったが、今考えたら何か意味があるような言葉にも思えてくる。

 

「夕立はまだ全然時雨のことを理解できてないけど、最近の時雨は何か……」

 

 

 

 

 

 

「何か……急いでる気がするっぽい」

 

 

夕立はそうぽつりと呟くと、時雨の顔を思い出す。

 

最近の時雨は常に冷たい表情をしており、どこか切羽詰まっているような表情をすることも多かった。

 

夕立の言葉を聞いた村雨は何とも言えない、と言った表情をしている。

 

「……とりあえず、夕立はもう少し寝るっぽい!元気になったら会いに行くから、待っててほしいっぽい!」

 

気まずい雰囲気を変えるように、夕立は村雨に向けて明るくそう言う。

 

それを聞いた村雨は微笑んだ後立ち上がると、出口のドアの方へと向かう。

 

「じゃあ、私は部屋出るわね。また何かあったら顔出すから」

 

「ぽーい」

 

夕立の返事を聞いた村雨はドアを開け、部屋を後にする。

 

村雨が完全に離れていったことを確認した夕立は布団に包まると、目を瞑った。

 

夕立は前の戦いで、時雨のこと以外にも考えることがあった。

 

(……夕立、叢雲を守りきれなかったっぽい)

 

同じくらいの実力だと思っていた時雨に圧倒され、叢雲を守りきれなかった自分に対する嫌悪感が胸の奥から這い上がってくる。

 

摩耶直伝の怪力も姿が変わった時雨には全く通用しておらず、夕立は己の無力さを体感した。

 

(もっと……もっと強くならなきゃだめっぽい)

 

 

 

 

(じゃなきゃ……自分以外の誰かを守れないっぽい)

 

ゆっくりと薄れていく意識の中、夕立はもっと強くなることを決意し、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━ 雫が落ちる音がした。

 

目が覚めた時雨は、真っ暗な空間の中に立っている。

 

意識はハッキリとしており、感覚もしっかりある状態だった。

 

真っ暗闇の中で呆然としていると、突然目の前が明るくなって海の真ん中に放り出される。

 

(……これは)

 

時雨が前を見ると、戦艦ル級と戦っている白露がいた。

 

戦況は押され気味であり、「今」の白露と比べると動きは鈍く、徐々に攻撃を体に食らう回数が増えている。

 

時雨は助けに入ろうと足に力を入れるが、激しい激痛と出血で体が全く動かなかった。

 

自分の体をよく見ると、艤装はもうボロボロになっており、体には至る所に深い傷があった。

 

全く動くことの出来ない自分の無力さに苛まれていると、白露が自分の横に吹き飛ばされてくる。

 

「ぐっ……!」

 

白露がル級を睨む。

 

ル級はゆっくり白露の方に近づき、片手を大きく振り上げる。

 

「……あっ……!やめっ……!」

 

それを見た時雨が激痛に耐えながらも白露の方に手を伸ばし、白露を自分の方に引き寄せようとする。

 

だが、あと少しで届くといったところでル級の腕が振り下ろされた。

 

辺りに鈍い音が響き、白露は力なくその場に倒れた。

 

辺りの水は血で赤く染まり、その光景を見た時雨は絶望で体が震える。

 

そして、時雨が何とか白露の体に触れた瞬間目の前が真っ暗になり、また別の海の上で目覚める。

 

そこでは戦艦レ級と白露が戦っており、時雨はまだかろうじて体が動く程度だった。

 

時雨はすぐさま戦闘に参加し、レ級と白兵戦をするが、すぐに押し切られて蹴り飛ばされる。

 

レ級はすかさず飛んで行った時雨に近づき、手刀を時雨の頭目掛けて突き刺してくる。

 

その瞬間、時雨の目の前を何者かが覆った。

 

 

「かっ……はっ……」

 

庇ったのは白露だった。

 

レ級の腕は白露の心臓部分を貫き、心臓部分と白露の口から飛び散った血が時雨の顔に降り注ぐ。

 

レ級が腕を引き抜くと、白露は力なく時雨の肩に倒れる。

 

白露の艤装は解除され、時雨の肩をなぞるように白露は海に落ちると、そのまま浮くことも無く海中に沈んでいく。

 

時雨が震えながら白露の沈んだ部分を見ようとした瞬間、また目の前が真っ暗になり、また別の海に飛ばされ━━━━━━━

 

 

 

何度も何度も白露が死ぬ光景を目の前で繰り返され、最後に辿り着いたのは前に夢で見た浜辺だった。

 

体は小さくなっており、全身に返り血と思われるものが付いている。

 

目の前には深海棲艦であっただろう肉塊が転がっており、少し離れたところに小さな白露が頭から血を流しながら倒れている。

 

時雨がそれを抱き抱えると、白露は薄ら目を開けて口を開けた。

 

「艦娘……さん?助けてくれ……て、あり……がと……う」

 

 

意識が朦朧としているのか、白露は時雨でなく、誰か知らない艦娘へとお礼を言っている様だった。

 

時雨はそんな白露を力強く抱きしめると、抱きしめていた白露が消えていき、また真っ暗な空間に景色が変わった。

 

次々と掘り返される絶望が徐々に体を蝕んでいくが、奥歯をかみ締めながらそれを耐える。

 

歯茎から血が流れ、口の中を血の味が支配する。

 

それでもひたすら耐え抜き、記憶が掘り返されるのが終わるのを待つ。

 

そして、行き着いた記憶の果てには、艦娘になる前の「今」の白露が立っていた。

 

 

 

「あたしはあの時、助けてくれた名前も知らない艦娘のようになりたい。だから、艦娘を目指す!」

 

白露は笑顔で時雨の方を向いてそう言うと、暗闇の中に走り去っていく。

 

時雨は白露が消えていった方向に手を伸ばしたが、すぐに姿が見えなくなる。

 

行き場をなくした手を強く握り、時雨は涙を流す。

 

(僕が生まれ変わって、全ての記憶を思い出した瞬間、姉さんは僕の目の前で深海棲艦に殺される)

 

 

(今回は姉さんも僕も人間として生まれてくれた……でも、僕が姉さんを守れなかったばっかりに、姉さんを艦娘にしてしまった)

 

 

(やっぱり、これは運命で定められてる)

 

時雨は自らの艤装を展開し、暗闇に向けて主砲を構える。

 

 

 

(なら……)

 

 

 

「僕が運命を乗り越えられるくらい強くなって、姉さんを守り切れればこの地獄は終わる」

 

 

時雨は暗闇の中、独りでそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

静かなベッドの上で時雨は目覚めた。

 

空は黒く染まっており、点々と光り輝く星と月の光が窓の外から流れてくる。

 

全身に重く響く痛みに抗いながら、時雨はゆっくりと上半身を起こした。

 

(ここは……医務室?)

 

意識がはっきりしたと同時に体が再生を始め、所々の痛みが徐々に薄れていく。

 

何とか体が動くようになり、ベッドから動こうとすると、強烈な痛みが顎と右腕を襲う。

 

「ぐっ……!?この傷は……?」

 

時雨が自らの右腕を見ると包帯が巻かれており、動かそうとすると骨が軋むような痛みが襲ってくる。

 

(これは……骨折してる……のかな?)

 

時雨が不思議そうに包帯を見つめていると、今度は強烈な目眩と頭痛で視界が揺れる。

 

瞬間、脳内に右腕と顎の痛みの理由となった夕立の一撃を思い出した。

 

時雨の周りには僅かながら電流が走っており、時雨は目を見開く。

 

(そうだ……思い出した、僕は夕立に叢雲の抹殺を阻止されて……)

 

即座に右腕と顎の再生を早め、体を動かすのに何も異常がないレベルまで回復する。

 

『時雨の気持ちも分かるっぽい!』

 

戦闘の中で夕立に言われた言葉を思い出し、時雨は強く拳を握る。

 

夕立からは軽く放たれたであろう言葉だったが、時雨にとっては琴線に触れるたった一つの言葉だった。

 

(誰も、僕を理解することなんてできない)

 

時雨は握りしめた拳を見つめる。

 

 

 

 

(僕は繰り返されるこの生まれ変わりの地獄から抜け出さなくちゃいけない……じゃないと━━━━━━━━━━━━━━━)

 

 

 

 

 

 

 

(今回も、姉さんを失うことになる)

 

 

 

 

 

時雨は手を数回握ると、ベッドから離れて医務室のドアノブに手をかける。

 

(もう僕の記憶がここまで戻ったなら、姉さんに残された時間も少ないはず……なら、早めに周りから危険を駆除しないとだね)

 

 

時雨はそこまで思考を巡らせたあと、ドアノブを下げて部屋から出ようとする。

 

 

 

「ちょーっと待った」

 

 

ドアが開かず、外側から声が聞こえてくる。

 

時雨はもう一度ドアを開けようとするが、外側から押さえつけられていて開かないようだった。

 

「君はまだ怪我人だよ?なんでもう体が動いてるのかな?」

 

「……誰だい?」

 

「アタシ?そういえば名乗ってなかったね。アタシは須藤礼花、そこら辺の一般研究員さ」

 

時雨は名前を聞いた途端、ため息を吐いた。

 

「手を離してくれるかな?」

 

時雨が圧をかけるように言う。

 

「そういうわけにはいかないんだよねぇー……まだ質問に答えてもらってないし」

 

礼花はおどけたようにそう言うと、背中をドアに預ける。

 

「なんで、体が動くのかな?」

 

「君も知ってるはずだよ、僕達は艤装を内部に宿してる。だから艦娘の体を補強して再生するという艤装の力を任意に発動できるというだけさ」

 

その言葉を聞いた礼花は、いかにもおかしなことを言われたかのような表情で首を傾げる。

 

「んん〜おかしいな?なんで君がアタシの能力を知ってるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシと今の君は初対面なはずなのに」

 

 

 

 

礼花の言葉を聞いた瞬間、時雨の体に心臓の鼓動が響く。

 

礼花はドア越しの時雨の表情を読み取ったかのようにニヤリと笑うと、ため息を吐いた。

 

 

「どーもおかしいと思ってたんだ。夕立ちゃんの記憶データを見た時、夕立ちゃんが初めの方に見てた君は普通の性格をしてた」

 

「……。」

 

「一体、君は誰なんだ?」

 

礼花は威圧するような声で時雨に質問する。

 

それを聞いた時雨はドアの先を睨みつけた。

 

「……僕は誰でもない、誰に助けを求めることもない、ただ独りでいたいだけなんだ」

 

「……そっか、まぁそんな感じだよね」

 

「叢雲と夕立はどうなったんだい?」

 

「叢雲ちゃんは君が思っているような状態にはなってない、むしろ良好な状態だよ」

 

「……。」

 

礼花はそこまで言うと、ドアに預けていた背中を離した。

 

「夕立ちゃんの方は良好とは言えないけど……少なくとも、君の敵にはならないよ」

 

「……君はどこまで僕のことを分かっているんだい?」

 

時雨が礼花に対して呆れたような声でそう聞くと、礼花は首を傾げて考える。

 

「そんなのアタシ自身もわかってないよ。これ以上に知ってる事と言ったら、君は姉に対して何かしらの未練があって生まれ変わってることくらいかな?」

 

その言葉を聞いて時雨は一瞬艤装を展開しようとするが、礼花は話を続ける。

 

「ただ、これだけは覚えていて欲しい」

 

礼花の言葉を聞いて、時雨は艤装の展開を中断すると、全身から力を抜いて礼花の話の続きを待つ。

 

 

 

「アタシは君に対して危害は加えない、むしろいくらでも協力したいと思ってる」

 

「……。」

 

「困ったらいつでもアタシのところに来て、できる範囲で手伝いはするから」

 

礼花はそう言うと、ドアの先の時雨を見つめるように視線を動かすと、ドアに顔を近づける。

 

 

「今の言葉が君に聞こえてることを願ってるよ、時雨ちゃん」

 

 

礼花は時雨に聞こえるようにハッキリとそう言い残し、その場から去っていく。

 

 

時雨はゆっくりとドアを開け、周囲にもう誰もいないことを確認する。

 

(……須藤礼花)

 

 

時雨は先程の声の主の名前を再度頭の中で思い返したあと、礼花の足音が消えていった方とは逆の廊下を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました、Part25投稿です。

ココ最近忙しかったり、ポケモンが楽しかったりで投稿できずにいましたが、やっと投稿することが出来ました。

前にツイートでも言ったのですが、この小説は時雨と夕立の立ち位置を比較しながら見て欲しい作品になっています。

遂に明かされた時雨の生まれ変わりと、礼花の本格始動。

誰にも助けを乞わない少女はこのまま独りの道を進んでいってしまうのか。

ここからもう少しだけ物語は続きます、次の話で話をグッと進めたいと考えていますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。
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