夕立が目を覚ましてから数日後、夕立はほとんど体が問題なく動くようになったため、演習場で一人訓練をしていた。
日差しは弱く、肌寒い風が頬を伝っていく。
摩耶と二人で演習をしていた頃と同じように的を並べ、的の中心を目掛けて主砲を放つ。
「ぽい!!!」
放った砲弾は真ん中からは少しだけズレており、夕立はもう一度照準を合わせて二発目の砲弾を放つ。
2発目は1発目より中心に近かったが、狙い通りの場所に撃てているわけではなかった。
夕立は深いため息を吐いたあと、的を立て直す。
(時雨は完璧に狙ってきてたのに……)
夕立は時雨との初戦闘を思い出す。
初撃と寸分違わぬ所へと2発目を放つ精密な射撃と、冷静な分析。
今の自分はそれらを持ち合わせていないと感じ、夕立は一抹の不安が頭をよぎった。
「……頑張らないと」
夕立がそう呟き再び主砲を構えると、後ろから誰かが近づいてくる。
夕立が後ろを振り返ると、そこには不知火が立っていた。
「夕立さん、体の調子はどうですか?」
不知火が夕立に対してそう言うと、夕立は軽く微笑みながら手を握った。
「ある程度力も出せるようになってきたし、結構大丈夫っぽい!」
「そうですか、なら良かったです」
夕立の返答を聞いて、不知火は安心したような表情になる。
「私も少々時間があるので、少しだけご一緒してもよろしいですか?」
不知火の言葉に夕立が頷くと、不知火は艤装を展開して的を撃ち始める。
夕立達第八艦隊はしばらく出撃は休みとなっており、川内を除いた駆逐艦5人は全員自主練の日々に明け暮れていた。
駆逐艦達は休暇の理由は詳しくは伝えられなかったが、お互いに何が原因となっているかは察している状態だった。
「……夕立さん」
不知火が神妙な顔で夕立を呼ぶ。
「夕立さんは、時雨さんのことをどう思ってますか?」
「……夕立は、まだ仲間だと思ってるっぽい。多分、時雨は何か理由があってあんなことをしてるんだと思うっぽい」
「……そうですか」
夕立の答えが自分の中の意見とは違かったのか、不知火は低い声で返答する。
「私は、時雨さんのことが理解できません」
「……。」
不知火は重くそう言い放つと、夕立の顔を見る。
「先程村雨さんから事の顛末を聞きましたが……正直、叢雲さんへの対応に関しては、あの場ではどちらが正しいとは言いきれません」
不知火は下を向きながら話を続ける。
「ですが……話し合いで解決せず、それを守ろうとする夕立さんや村雨さんまで攻撃する必要は無いと思うんです」
夕立は不知火の言葉を聞いて、複雑な心情になる。
あの時の時雨はまるで感情のない殺人兵器のような目をしており、話を聞く耳など全く持たなかった。
まるで、時雨では無いものに取りつかれているかのように。
「……不知火の言ってることも分かるっぽい。でも、ここで時雨を信じなかったら夕立たちはバラバラになっちゃうっぽい……」
「それは重々承知しています。ただ、この蟠りが取れない限り、私たちの艦隊は真に仲間と言えないのでは無いのですか?」
「……。」
夕立は不知火の言葉にそれ以上言い返すことは止め、静かに的へと照準を構える。
夕立が射撃をしようと力を込めた瞬間、後ろから声が聞こえてきた。
「夕立!もう少し左だ!」
夕立は聞こえてきた声に流されるままに照準を少しズラし、砲撃を放った。
砲撃は見事に真ん中に命中し、夕立はゆっくりと後ろを振り返る。
「よっ!久しぶりだな!」
声の主は摩耶だった。
「摩耶さん!」
「アタシがいない間もしっかり訓練してるな!腕はなまってねぇか?」
「ちゃんと練習してるっぽい!強くなってるっぽい!」
夕立が元気にそう答えると、隣に立っていた不知火が軽く頭を下げる。
「貴方は重巡洋艦の摩耶さんですね。不知火型二番艦の不知火です、夕立さんと同じ艦隊に所属しています」
「お、夕立の仲間か!よろしくな!今は2人で訓練してたのか?」
「いや……その……」
不知火が言いずらそうに口を噤むと、それを見た摩耶が不思議そうな顔をしながら夕立に目線を向ける。
目線を向けられた夕立は気まずそうに口を開き、事情を細かく説明した。
話を聞き終えた摩耶はしばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「なるほどな……つまり、時雨の事がイマイチ信用しきれなくて困ってるってこったな」
「まぁ……そういう事っぽい」
「なるほどな……そりゃあ難しい話だ」
摩耶は唸り声を上げながら少し考えたあと、夕立と不知火の方を交互に見た。
「じゃあさ、お前らにとって「仲間」ってどんな存在なんだ?」
「仲間……」
夕立が上手く伝えられずに考え込んでいると、横の不知火がすぐに口を開く。
「戦闘中に安心して背中を任せられるような、そんな存在……ですかね」
「ほう、じゃあ夕立はどうだ?」
「こんな夕立を捨てないでいてくれる人達……っぽい」
それを聞いた摩耶は微笑み、2人の頭の上に手を置いた。
「そう、だけどそれだけじゃねぇ」
摩耶はそう言って2人を真っ直ぐ見ると、話を続ける。
「仲間ってのはな、自分の意志を共有できるやつのことなんだよ」
「意志……」
夕立がぽつりとそう呟く。
「自分の意志ってやつはな、そんじょそこらの他人に共有できるもんじゃねぇ。仲間だからこそ一緒に共有してぇもんなんだよ」
摩耶の言葉を聞いた夕立と不知火は下を向き、自らの意志について考える。
しかし2人とも上手くまとまらず、複雑な表情をしていると、摩耶はそれを見透かしていたかのように笑った。
「お前らにはまだ明確な意志は無いかもしれねぇ、でも大丈夫だ。きっといつかそれに気づく時が来る」
「まずは自分の中が守り抜きたい意志を見つけ出せ、そこから時雨を信用するかどうかを確かめるんだな」
摩耶の言葉を聞き、夕立と不知火は真面目な顔で摩耶の顔を見つめた。
「摩耶さん、ありがとうございます」
「ありがとうっぽい!」
不知火に続いて夕立が返事をすると、摩耶は満面の笑みで親指を立てた。
「おう!気にすんな!」
そう言って摩耶は振り向き、訓練所から離れようとする。
それを見た夕立は摩耶を呼び止めた。
「摩耶さん!一緒に訓練しないっぽい?」
摩耶は振り返って夕立の顔を見ると、首を横に振った。
「あたしは午後から敵拠点への攻撃任務があるんだよ、行く前にちょろっと顔を出そうかなって思ってただけだ」
「そっかぁ……」
それを聞いた夕立は分かりやすく項垂れると、摩耶はそれを見て微笑む。
「わぁかったって!帰ったら見てやるよ!」
「ほんと!?じゃあ待ってるっぽい!」
摩耶のその言葉を聞いて夕立は嬉しそうに返事をすると、離れていく摩耶に大きく手を振った。
摩耶はそれに軽く手を振り返すと、訓練所から離れていく。
夕立と不知火は離れていく摩耶の背中を見ながら、先程摩耶に言われた言葉を思い返す。
『仲間ってのは、自分の意思を共有できるやつのことなんだよ』
その言葉を思い出した瞬間、前の夜に叢雲と中庭で会った時の言葉を思い出した。
『仲間のためよ』
すぐに、それでいて強くその言葉を発した時の叢雲の顔を思い出し、夕立は鎮守府の方向を見つめる。
(叢雲は……もう見つけてたのかな)
そう考えていると、横にいた不知火も同じような表情をしていた。
波の音だけが辺りに響き、二人の間には静寂が訪れる。
摩耶からの言葉を二人は深く受け止め、しばらくの静寂の後、二人は練習へと戻っていった。
夕立との会話から数時間後、鎮守府から少し離れた海域の上で、摩耶は艦隊を引き連れて進んでいた。
摩耶達の今回の作戦は、敵が拠点を構えている三つ場所のうちの一つを攻撃し、その海域を制圧することである。
後続には浜風を除いて川内を入れた第三艦隊が着いてきている。
「ねぇ、摩耶」
摩耶の後ろに続いていた川内が摩耶に話しかける。
「ん?」
「夕立に会ってきたんでしょ、さっき」
「あぁ、会ってきた」
「どうだった?」
摩耶は先程会った夕立の様子を思い出し、表情が緩む。
「相変わらず射撃の精度は低かったよ。ったく……あたしがずっと教えてんのに、これじゃ先が思いやられるぜ」
「ふーん……」
摩耶の表情の変化を読み取った川内はニヤニヤしながらそう言う。
それに気づいた摩耶は川内を睨みつけると、再び前を向いた。
「そんなこと言ってるけど、実は結構思い入れあるでしょ、あの子に」
「……。」
摩耶は川内の言葉には返事をしなかったが、川内はその無言を肯定と受け取った。
「私が見てない間に夕立ちゃんはすごく強くなってた、しかもあんた譲りのパワーを持ってね。相当時間削って見てるんじゃない?」
「まぁ……な」
「なんであの子にそんな入れ込んでるの?」
摩耶は川内の質問を聞いて少し黙ったあと、ため息を吐いた。
「アタシに、似すぎてるからかな」
摩耶はそう言うと、川内の方を向いて笑った。
一切の曇りもないその表情は、戦場に向かう艦娘の表情とは言えなかった。
「どうにもみんなに追いつけなくて、でも仲間を守りたいって気持ちだけはいっちょ前」
「負けず嫌いで、後先考えないで突っ込む事とか何もかも全部、アタシみたいだった」
摩耶はそこまで言うと、また前を向いた。
「そして、どんどん強くなってくアイツを見て、アタシは……」
「アタシは……アイツにならアタシの意志を託せるって信じたくなったんだよ」
「摩耶……」
川内は摩耶の後ろ姿を見つめる。
表情は見えなかったが、その背中を見て摩耶がどんな表情をしているかは容易に想像できた。
「ただ、アイツには足りないもんがある!」
摩耶はしんみりした空気を変えるかのように力強くそう言って指を立てる。
「それはだな……」
摩耶が言葉を発しようとした瞬間、響のレーダーから敵の存在が知らされる。
摩耶は真剣な表情に切り替え、反応があった方向に目を向ける。
「敵艦隊確認だ!全員戦闘準備!」
摩耶が目をこらすと、そこには少数の敵深海棲艦が海上を進んでいた。
目に映る全ての個体が鎮守府の近海では見られない種類であり、敵の本拠点が近い事が推測できる。
「どれも強ぇ個体ばっかだ、気引き締めろよ」
摩耶がそう言うと、後続の飛鷹が飛ばしていた艦載機から情報を受け取る。
「前方の敵艦隊は戦艦タ級2体、重巡リ級1体、軽巡ツ級2体の少数艦隊よ」
それを聞いた鳥海は頷くと、前方の摩耶の方を見る。
「摩耶!戦闘合図を!」
「あぁ!おめぇら!全員ぶちのめすぞ!」
摩耶は拳を合わせてニヤリと笑うと、敵艦隊を指さす。
「第三艦隊、攻撃開始!」
摩耶の言葉に合わせて鳥海と川内が砲撃を放ち、飛鷹が艦載機を飛ばす。
「制空権は私たちのものよ!安心して突っ込んできなさい!」
飛鷹がそう言うと、駆逐艦の響と白露が急接近する。
駆逐艦が射程圏内に入った瞬間、敵艦隊に鳥海達の砲撃が降り注ぐ。
数発は空振りに終わったが、それ以外は敵戦艦組に見事に命中した。
戦艦級の周りに装甲が映し出され、装甲に軽いヒビが入る。
その瞬間に白露と響はできる限りまで接近し、ヒビを狙って集中砲火を始める。
「おし!チビ共が撃ってる間にあたし達も近づくぞ!」
摩耶はそう言って急速にスピードを早め、川内と共に敵陣へと突っ込んでいく。
「足元注意だよ!みんな!」
川内がそう叫んだ瞬間、敵艦隊の目の前に魚雷による水柱が発生し、水しぶきにより敵の視界が一瞬遮られる。
摩耶はその隙に懐まで潜り込み、装甲めがけて全力の正拳突きを放つ。
「っしゃあ!ドンピシャだ!」
摩耶の拳が直撃したタ級の装甲は粉々に砕け散り、タ級は体制を崩す。
摩耶はそのまま主砲をタ級に構えて放ち、タ級は爆発とともに海に沈んで行った。
「もう1匹は私の艦載機が引きつけるわ!川内、鳥海、頼んだわよ!」
飛鷹はそう言って艦載機に指示を送ると、飛鷹の艦載機がタ級の頭上を飛び回り、爆撃を行いながらタ級を引きつける。
その隙に川内はタ級に魚雷を発射し、タ級の周りを覆っていた装甲が砕け散る。
タ級は一瞬怯んだが、すかさず主砲で反撃し、川内が居たところに大きな水柱が出来る。
「危ないことしてくれるね!」
水柱から川内が飛び出してくる。
タ級は川内にもう一度照準を合わせ、砲撃を放とうとするが、その瞬間に頭上から爆撃される。
その隙に鳥海が一気に距離を縮め、タ級の頭に主砲を構えると、至近距離で砲撃を放った。
タ級はそのまま力なく倒れると、浮力を失って海中へと沈んでいく。
「これで戦艦組は轟沈したかな、あとは……」
川内がタ級が沈んだ事を確認し、残りの敵を掃討しようと後ろを向く。
すると、そこには笑顔でこちらに向けてピースをする白露と、無表情で服の埃を払っている響の姿が見えた。
「こっちは全部片付けたよ!戦闘終了!」
白露がそう言いながら近づいてくる。
川内がそれを見て微笑んでいると、隣に立っていた摩耶が神妙な顔で周囲を見渡していた。
「まだ敵の気配がするの?」
「いや、おかしいんだ」
鳥海が不思議そうに摩耶に質問すると、摩耶は作戦の内容が記されている小さな紙を艤装妖精から受け取る。
「本来ここは航空母艦が多い拠点のはずだろ?なのに偵察機の1つも飛んでねぇ、いくら何でも警備がザルすぎんだろ」
「確かに、ここまでの道中で対空装備もほとんど使ってないし、飛鷹の艦載機も壊されない……こんなことあるのかな」
摩耶の言葉を聞いて川内が違和感を感じていると、白露が摩耶の前に進んでくる。
「とりあえず鎮守府に連絡だけ送って、最大限注意しながら近づいていこう」
摩耶はそれを聞いて頷いたあと、自分に着いてくるようにとハンドサインを出した。
川内含む第三艦隊はゆっくりと敵の本拠地に近づいていき、遂に敵の本拠地とされている海域へと足を踏み入れた。
「ここら辺が敵の本拠地だ。あたし達の今回の役目はここの敵を掃討する事なんだが……」
摩耶はそう言いながら周囲を見渡す。
「なんだか凄い静かだね」
同じく周囲を見渡していた響がそう言った。
周囲は重苦しい雰囲気に包まれており、波の音だけが耳に伝わってくる。
「飛鷹、偵察機からは何も来てないか?」
「それが……この海域に入ってから通信が不安定になってるの。もしかしたら通信を妨害されてるのかもしれないわ」
「響、お前のレーダーはどうだ?」
「うん、こちらも敵を探知できてない」
響はそう言って自分のレーダーの反応を皆に見せるが、確かに敵の反応は無かった。
「普通なら敵影なしってことで良いんだけど、敵本拠地で敵がいないなんてことは有り得ないからね」
川内がそう言って唸り声を上げていると、摩耶が何かに気づいたような表情でとある一点を見つめる。
それに気づいた川内が声をかけようとするが、摩耶は手で黙るように指示をした。
そのまま摩耶は目を瞑り、神経を最大まで集中させて周囲を警戒する。
そして、急に目を見開くとその場から大きくジャンプし、大きく口を開けた。
「下だ!全員戦闘態勢!」
摩耶がそう叫んだ瞬間、摩耶が元いたところから大きな水しぶきと共に何かが水中から飛び出してくる。
「バレタカ、カナリミミガイイミタイダナ」
飛び出してきたのは、戦艦レ級だった。
「アイツは……あの時の!?」
川内がレ級の姿を見て驚いていると、海中から次々と敵が浮上してくる。
中には航空母艦も複数含まれており、浮上と同時に艦載機が空に放たれる。
「っ……!クソが!アイツらもあたし達を潰す気だ!」
「相手は二艦隊分の戦力だね……どうする?」
川内が摩耶にそう問いかけると、摩耶は大きく口を開けた。
「第三艦隊戦闘開始!飛鷹は響、鳥海と一緒に一定距離を保ちながら制空権をとれ!白露と川内はレ級以外の敵の撃破!」
指示を出し終わった摩耶は拳を胸の前で合わせると、正面に立っているレ級を睨みつける。
「あたしは向こうのボスと戦う!」
摩耶がそう言った瞬間、艦隊全員が頷く。
「白露、直ぐに周りを全滅させよう!あの戦艦レ級って奴は本当にヤバい奴だから!」
「分かった!」
白露がそう返事した後、2人の体が光に包まれる。
「改二兵装、起動!」
2人が光に包まれたのを目で確認した摩耶は、目線をレ級の方に向ける。
レ級は不敵な笑みを浮かべながら、摩耶のことを見つめていた。
「テメェの事は須藤礼花から聞いたぜ、戦艦レ級」
「……。」
「艦隊一つ分を纏めて相手出来るって言われるその戦闘力、確かめさせてもらうぜ!」
摩耶はそう言って戦艦レ級に主砲を構え、砲撃をする。
レ級は避ける素振りも見せず、摩耶の砲弾はそのままレ級がいる所へと着弾し、大きな爆発音を上げた。
爆発した箇所からは黒煙が上がり、一瞬レ級を視認出来なくなる。
摩耶がそのまま黒煙が上がっているところを見つめていると、黒くレ級のシルエットが写った。
「……まぁ、そんなヤワじゃねぇよな」
黒煙の中に見えたのは無傷のレ級だった。
(……こいつも一応戦艦の部類、しっかり装甲は着いてやがるな……なら!)
装甲があると判断した摩耶は拳を握りしめると、距離を縮めて接近戦へと持ち込む。
それを見たレ級は尻尾の主砲を構え、摩耶めがけて連続で砲撃する。
摩耶はそれを紙一重で回避しながら近づいていたが、後数メートルのところでレ級の艦載機に阻まれる。
「チィ……ッ!聞いてはいたが、実際に見るとムチャクチャだな!こいつ!」
摩耶はすぐさま対空砲を構え、レ級の艦載機を迎撃する。
摩耶の視線が艦載機に向かったその一瞬、レ級は即座に摩耶との距離を縮め、摩耶の腹に強烈な蹴りを入れる。
「ごふっ……!?」
摩耶はそのまま後ろに数メートルほど吹き飛ばされ、海面に片膝をつく。
全身に響き渡る強烈な痛みと、内臓から込み上げてくる胃液を耐えながら立ち上がり、レ級の方を睨む。
「チィ……パワーもアタシと同じくらいか……やっぱり腐っても戦艦だな」
レ級は摩耶を見て不敵な笑みを浮かべたあと、尻尾から大量の魚雷を摩耶に向かって放出する。
「オイオイ!多すぎんだろ!」
レ級の前方に扇状に拡がっていく魚雷を見て、摩耶は慌てて空中へとジャンプする。
その瞬間、空からレ級の艦載機が摩耶に向かって爆撃の雨を降らす。
「……っ!まずっ……」
体の自由が効かない空中に追い込まれていたため、爆撃を避けられずに摩耶の体が爆発する。
そのまま摩耶は水中に叩きつけられ、海面に浮かぶ。
摩耶の目に映ったのは黒く淀んだ空と、自分に向けて飛び込んできているレ級の姿だった。
「……っ!?」
摩耶はすぐさま体を転がして横に回避し、自らの体1つ分隣にレ級が飛び降りてくる。
レ級はそのまま主砲を摩耶の方に構え、数発発射する。
摩耶は何とかそれを回避し、なんとか両の足で海面に立った。
それを見たレ級は摩耶の方へと距離を縮め、摩耶の横腹目掛けて蹴りの姿勢に入る。
摩耶はそれを見切って右手でガードをしたが、レ級はそのまま連続で手足での攻撃を続けてくる。
(チィ……!一撃が重すぎる!)
摩耶は何とか一つ一つガードしているが、徐々に受けきれない攻撃が増えてくる。
それを感じとった摩耶は、レ級の攻撃をガードせずに外側へと流し背中に向けて全力の正拳突きを放った。
摩耶の正拳突きはレ級の装甲を突き破りながらレ級の背中へと突き進み、レ級に直撃する。
「ガッ……!?」
摩耶の凄まじいパワーで殴られたレ級は、数メートル先まで吹き飛ばされる。
レ級はそのまま海面に体を打ちつけたが、すぐさま体制を建て直して摩耶を睨む。
(……強ぇ、これが「戦艦レ級」か)
圧倒的な身体能力と多彩な攻撃。
摩耶は今までの深海棲艦とは1つ格が違う存在だということを改めて自覚する。
(一瞬の隙も許されねぇ……チッ……正直相当きついぞ……)
摩耶は息を切らしながらもレ級の姿をじっと見つめ、何とかレ級の動きを捉えようとする。
それに勘づいたレ級は不敵な笑みを摩耶に向けると、手を前に向ける。
その瞬間、空に飛んでいるレ級の艦載機が一斉に摩耶へと攻撃を始める。
「クソっ!邪魔な奴らだな!」
摩耶はそう言って一瞬レ級から目を離し、空に対空砲を構える。
摩耶が艦載機に一瞬気を取られた瞬間、レ級は摩耶へと急接近し、尻尾の生物を摩耶の方へと伸ばす。
「っ……!?危ねぇ!」
摩耶が直ぐに後ろに回避すると、レ級の尻尾の生物は、数秒前まで摩耶の首があったところを噛み付いた。
その光景を見た摩耶は首元を摩り、冷や汗を垂らす。
摩耶はレ級の方を睨みつけると、小さく息を漏らす。
「こりゃあ……アタシも「このまま」じゃ勝てねぇかもな……」
一方、新たな艤装を纏った2人は敵陣に向かって突撃していた。
「白露は目の前の二級2匹を!私はその後ろのル級とト級を仕留めてくる!」
白露はそれを聞いて頷くと、スピードを高めて敵の二級に急接近し、目の部分を目掛けて主砲を放つ。
砲撃は見事に命中し、二級の悲鳴が辺りに響き、一瞬敵の動きが止まった。
白露はその一瞬の隙を逃さず、主砲が命中した二級に蹴りを食らわせる。
白露の蹴りを食らった二級はもう片方の二級の方に吹き飛んでいく。
「これで終わり!」
白露の声と共に魚雷が発射され、二級は2匹とも水柱に包まれた。
「川内さんの方は……!?」
敵が沈んだのを目視で確認した白露が後ろを振り向くと、川内の方も戦闘に勝利していた。
白露がそれを見て安心した瞬間、川内の後ろから敵艦載機が飛んでくる。
「……っ!川内さん後ろから敵艦載機!」
すると、白露の掛け声がしたとほぼ同時に敵艦載機が爆発する。
敵艦載機を撃破したのは飛鷹の艦載機だった。
「空は私達に任せて!もう少しで取り切れる!」
飛鷹が遠くから大声でそう叫ぶ。
それを聞いた白露は川内と合流し、周りを見渡した。
「残り敵総数はレ級含めて10体……増援が来る前に片付けないと」
「そうだね、まだ止まってらんないよ!このまま他の奴らも倒そう!」
「うん!」
川内の言葉に白露がそう返事した瞬間、二人の間に何かが飛んでくる。
飛んできたのは摩耶だった。
摩耶は空中で姿勢を何とか立て直し、海面に両足で着地する。
「摩耶、大丈夫!?」
「あぁ、問題ねぇ。2人は殲滅に専念しててくれ」
「本当に平気なの?アイツは私でも勝てなかった相手だよ!?」
「……アタシには「アレ」がある」
摩耶がそう口にした瞬間、川内の表情がより危機迫った表情になる。
「……本気で言ってんの?それじゃあアンタ自身が……!」
「分かってる、でもアイツを殺るにはこれしかねぇんだよ……」
摩耶はそう言って川内の方をじっと見つめる。
川内は一瞬何か言いたげな表情をしたが、摩耶の言葉を飲み込んで一息吐くと、摩耶の目を真っ直ぐ見つめる。
「……死なないでよ」
川内は小さくそう言うと、白露を連れて別の敵の方へと向かっていく。
「それも分かってんだよ……バカが」
摩耶はそう言って口から垂れてくる血を拭うと、前方のレ級の方を見つめる。
(空からは航空機、下からは魚雷……本体の性能もとてつもなく良い。コイツでこれなら姫級はどんだけ強ぇんだよ……)
摩耶が動かずに様子を見ていると、レ級は尻尾の生物の口の中から航空機を取り出すと、摩耶の方に投げつけてくる。
摩耶はそれを対空装備で何とか迎撃するが、仕留めきれずに何発かダメージを食らってしまう。
(飛鷹の艦載機はこっちに来る余裕はねぇな……)
全身を襲う痛みと、目の前を飛び回る敵艦載機を見て、摩耶は今の状態に限界を感じる。
「チッ……ならもうやるしかねぇな」
摩耶はそう言うと、息を吐いて全身の力を抜く。
すると、艤装の中から妖精が現れ、摩耶の顔色を伺う。
摩耶はそれを見ると、申し訳なさと悲しさが混じったような表情になる。
「……ごめんな、ちょっと無理してくれるか?」
摩耶は微笑みながらそう言うと、艤装妖精は頷いて艤装の中に入っていく。
それを見た摩耶が全身に力を入れると、摩耶の周りに電流が走り出す。
「……!」
遠目で摩耶の様子の変化に気づいた川内は、真剣な表情で摩耶を見つめる。
摩耶の体は光に包まれていき、水面に波紋が拡がっていく。
「川内、摩耶さんが纏ってる光って……もしかして……?」
それを見ていた川内の後ろに白露が近づいてきた。
川内は一瞬険しい表情になるが、一息をおいて口を開く。
「……摩耶が改二兵装を解放したね」
「あたし自身も見るのは数年ぶりだよ」
川内がそう言って摩耶の方を睨むと、大きな衝撃波と共に摩耶が光の中から現れる。
その姿は元の姿から大きく変わっており、艤装の形も大幅に変更されていた。
「っしゃあ!行くぞ、戦艦レ級!」
摩耶はレ級に向かってそう叫ぶと、レ級の方へと近づいていった。
摩耶達がレ級達と交戦したと同時刻、訓練を終えた夕立は自室にいた。
ベッドの上に寝転がり、ぼうっと天井を見つめる。
『仲間ってのはな、自分の意志を共有できるやつのことなんだよ』
何も考えずにただ時間を過ごしていたその時、訓練場で摩耶に言われた言葉が脳を過った。
その言葉の意味について考えようにも、上手く言葉が纏まらずにまた頭を真っ白にして考え直す。
「仲間……」
夕立は静かな部屋で1人、ポツリとそう呟く。
(意志……夕立の意志……って、なんだろう……)
摩耶の言葉について1人で考えれば考えるほど、次から次へと疑問が吹き出してくる。
気づけば外から差し込んでくる光は少なくなっていた。
結局何も考えがまとまらず、外に出ようと夕立がドアノブに手をかけた瞬間、放送のスピーカーから電源を入れたような音が聞こえてくる。
『只今より、緊急の呼び出しをする。呼ばれたものは直ぐに司令室へ。戦艦榛名、駆逐艦夕立……』
聞こえてきたのは提督の声だった。
明らかに普段より緊迫したような声色、夕立は直ぐに只事ではないと判断し、執務室へと走り出す。
執務室の前に着くと、第八艦隊のメンバーと、榛名が立っていた。
その中には復帰した時雨も立っており、夕立は一瞬だけ視線を送ったが、時雨は何か考え事をしている表情で、夕立の方は一切見なかった。
「夕立さんも来ましたね、では……」
榛名は夕立の方を見ると、司令室の扉をノックする。
「榛名です、他のメンバーも全員揃っています」
「入っていいぞ」
中から提督の声がすると、榛名がドアを開けて全員が司令室の中に入っていく。
1番最後の不知火がドアを閉めると、6人は提督の前に横になって並んだ。
提督は普段のように椅子に座りながらではなく、資料を横目に見ながら全員を見渡した。
「突然ですまない、君たちに頼みたい任務があってここに呼び出したんだ」
提督の言葉に榛名が反応する。
「任務……一体どのようなものですか?」
榛名の言葉を聞いた提督は、作戦資料を全員に見えるような位置で見せる。
「現在、第三艦隊が敵の拠点を制圧する任務を行っているのだが……敵拠点がある位置に入った途端、通信が途絶えてしまった」
「第三艦隊……それって……!」
「第三艦隊」という単語を聞いた夕立が反応する。
「あぁ、摩耶達だ」
「そんな……」
驚いている夕立を横目に、提督は周辺海域の地図を取り出す。
「ここは航空母艦が多い場所だ、だが摩耶達の最後の報告を聞く限り、全く敵の艦載機が見えなかったらしい」
提督は摩耶から送られてきたデータが記入されている紙を見ながら話を続ける。
「そして、摩耶達が1度拠点から離れて通信が妨害されている報告をしてこないということは……摩耶達は敵本拠点から離れられない状況下にあるという事だ」
提督がそこまで言うと、それまで黙って話を聞いていた時雨が口を開く。
「……つまり、姉さんたちは敵拠点におびき寄せられて、奇襲を食らって撤退できない状況って事だよね」
「そういう事だ、だから君たちに援護を頼みたい。突然の申し出だが……大丈夫そうか?」
提督はそう言うと、夕立と時雨に目を向ける。
「本来はもう少し第八艦隊の駆逐艦達には休暇が与えられるはずだったが、現在出撃可能であり、その海域まで最速で向かうことが出来るのが君たちしかいない……体の調子が大丈夫なら、頼みたいのだが」
「行けるっぽい!」
夕立は提督の言葉を聞いてすぐに頷く。
時雨も夕立に続いて首を縦に振り、了承の意を表すと、提督は安心したような表情になる。
「ありがとう。他のメンバーも大丈夫そうか?」
榛名達はお互いの顔を見合ったあと、頷いて出撃の意志を表した。
「助かる。ではこれより正式に君たちに出撃の要請を行う!各自出撃ドッグにて出撃の準備を行ってくれ!」
「「「了解!!」」」
提督が強くそう言い放つと、榛名達は駆け足で出撃ドッグへと向かった。
(摩耶さん……待ってて欲しいっぽい!!)
超絶ウルトラスーパーお待たせしました、Part26です。
本来はもっと早く出す予定だったのですが、大幅な内容変更があったためここまで長くなってしまいました。大変申し訳ないです。
この話と次の話は、時雨と夕立の戦いと同じくらい、もしくはそれ以上に大切にしたい話となっています。
本来は次の話も合わせて出そうと考えていたのですが、もう少し考えを練りたいのと、この話だけで11000文字あるので、1パートにしては長くなってしまうという点を踏まえて、2分割することになりました。
さて、今回の話で遂に敵艦隊の拠点へと攻撃を開始しました。突如襲ってくる戦艦レ級、そして明かされる摩耶の改二兵装。一体ここから戦いはどちらに傾くのか。そして、仲間のあり方について考える夕立たち、戦いに明け暮れ、巡り巡る日々の中で、果たして夕立達は仲間とは何かを見つけることは出来るのか?次の話に続きます。
出来るだけ早く次の話を投稿できるように努力致しますので、これからも「心を埋めるもの」をよろしくお願いします。