【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part27 「深海の主」

激しい砲撃の音と爆発音が飛び交う海上。

 

辺りの轟音など一切気にせず、戦艦レ級と摩耶は、動かずにお互いの動きをただ待っていた。

 

レ級は目の前の艦娘の異様な変化を目の当たりにし、訝しんだ。

 

「スガタ、カワッタ……オマエモツヨクナッテルッテコトカ?」

 

「さぁな……試してみろよ、アタシがさっきより強くなったかどうか」

 

摩耶がそう言って不敵な笑みを浮かべると、レ級は目を大きく見開く。

 

先程までの膠着状態を壊すように、レ級は摩耶に急接近する。

 

レ級は自らの足を摩耶の腹目掛けて突き刺そうとする。

 

 

━━━━━━瞬間、レ級の足に向かって摩耶が拳を振り下ろす。

 

 

振り下ろした拳は腹に届く前にレ級の足を叩き落とし、レ級は勢いのまま海面に叩きつけられた。

 

「グッ……!?」

 

レ級はすぐさま体を起こし、前を向く。

 

すると、視界いっぱいに拳が写った。

 

「オラァァァァァ!」

 

摩耶の拳はそのままレ級の顔面に直撃し、レ級の顔を粉砕しながら突き進んでいく。

 

摩耶がその勢いのまま拳を振り切ると、レ級は血を撒き散らしながら勢いのまま吹き飛んでいった。

 

摩耶の拳が直撃した足と顔面の骨は粉砕されており、レ級はすぐさま再生を開始してその場にうずくまった。

 

「させるかぁ!」

 

摩耶はすぐさま自らの主砲をレ級に向け、砲撃を放つ。

 

しかし、摩耶の砲撃はすんでのところで尻尾に弾かれてしまった。

 

「チィッ……アイツの尻尾はまた別に動けるのかよ……」

 

摩耶がそれを見て狼狽えていると、レ級は片目だけ再生を完了させ、摩耶の方を睨む。

 

そのまま手を尻尾の中に入れると、大量の航空機を摩耶の方目掛けて投げつけた。

 

投げられた艦載機は次々に活性化し、摩耶の上空を飛び回る。

 

それを見た摩耶はすぐさま対空砲を取り出すと、対空の姿勢をとった。

 

「さっきまでのアタシと同じだと思うなよ……!」

 

摩耶はそう言うと、艤装に装備されている高角砲と対空機銃を空に向けた。

 

「全部纏めて叩き落としてやるよ!」

 

摩耶の言葉と共に、高角砲と対空機銃から大量の砲弾が放たれ、頭上の艦載機が次々と撃墜されていく。

 

「オラオラオラァ!!まだまだ行くぜ!」

 

鳴り止むことの無い砲撃音と、砲弾の嵐に、敵艦載機は為す術なく撃墜されていき、空から大量の破片が海へと沈んでいく。

 

摩耶が1度射撃を止めた頃には、敵艦載機は一機残らず全て撃墜されていた。

 

撃墜された艦載機の破片が雨のように降り注ぎ、その中で摩耶は不敵に笑う。

 

 

 

 

「これがアタシの改二兵装だ!」

 

 

 

摩耶がそう言い放つと、再生を終えたレ級が摩耶の方を見て笑った。

 

「ソウジャナキャ、ツマンネェヨナァ!?」

 

レ級の言葉と共に尻尾の生物が力強く咆哮をあげる。

 

先程までの明らかに手を抜いていたレ級とは異なり、隙のない構えで摩耶を鋭く睨みつける。

 

摩耶はその姿を見てニヤリと笑うと、レ級の方へと突っ込んで行った。

 

 

 

同時刻、同海域で戦っている川内達は、次々と襲いかかってくる深海棲艦の群れの対処に追われていた。

 

絶え間ない強襲に耐えながらも、2人は確実に疲弊していっていた。

 

「ハァ……ハァ……白露、大丈夫?」

 

「体の方はまだ全然、でも弾数がそろそろ……」

 

白露は自らの艤装を見ながらそう言うと、自らの頭上を見上げる。

 

「だんだん艦載機が少なくなってきてる、飛鷹さん達が押してるみたいだね」

 

「そうだね……とりあえず弾は節約しながら戦おうか。幸い私たちは肉弾戦が得意な2人でもあるから、できる限りそっちで戦おう」

 

川内の言葉に白露が頷くと、飛鷹の艦載機が2人の頭上を旋回し始める。

 

しばらくすると、2人の無線から声が聞こえてきた。

 

『2人とも、聞こえる?』

 

無線から聞こえたのは飛鷹の声だった。

 

2人は顔を見合って頷くと、川内が口を開く。

 

「聞こえるよ、そっちの戦況は?」

 

『辺りの制空権は取ったわ、後は海上の奴らを倒すだけ。そっちはどう?』

 

「こっちは次から次へと敵が浮かんできてる、しばらくここら一帯からは離れられないかな」

 

『摩耶の方はどうなったの?』

 

「摩耶は改二兵装を起動してレ級と戦闘継続中、早く行かないとそろそろアイツの体力が持たない。援護に向かいたいから、鳥海をこっちの方に向かわせて!」

 

『分かったわ!』

 

無線が切れ、川内は周りを見渡して敵の数を確認する。

 

(海上の敵はまだ全然残ってる。でもそろそろ摩耶の方が……)

 

考えている川内の横に白露が並んでくる。

 

「川内さん、摩耶さんの改二ってそんなに体力を使うものなの?」

 

白露がそう聞くと、川内は深刻な表情で口を開いた。

 

「アイツの改二兵装は艦種が変わるほどの大きな改装になるんだけど、それに対応する安全装置がまだ世間では完成してないんだよね」

 

川内の言葉を聞いて、白露はそれがどういった意味なのかを十分理解しているため、青ざめた表情になる。

 

「それじゃあ摩耶さんの体は……!?」

 

「うん、今も艤装内から溢れ出るエネルギーを無理やり押し込んでるから……相当な負担がかかってる」

 

「そんな……」

 

「だからアイツの体が持たなくなる前に、私が行ってあげたいんだけど……こんな数じゃね……」

 

 

川内が悩みながらその場での戦闘を継続していると、摩耶が戦っている方向から多数の砲撃音が響いてくる。

 

川内はそっちの方向に軽く目を動かしたあと歯を食いしばりながら目の前の敵を殲滅に向かう。

 

すると後ろから砲撃音が響き、川内が主砲を向けた相手が爆発し、海へと沈んでいった。

 

「鳥海、到着しました。この場は任せて援護に向かってください!」

 

その砲撃は鳥海のものだった。

 

川内は鳥海の顔を見て安堵すると、体を摩耶が戦っている方向へと向ける。

 

「ありがとう、任せたよ!」

 

川内は鳥海にその場を任せると、急いで摩耶の方へと向かう。

 

少し進むと、摩耶の姿が鮮明に見えるようになってきた。

 

「摩耶っ……!」

 

川内はその場に立ち止まり、戦況を見る。

 

川内の目に映ったのは酷く息を切らしている摩耶の姿と、ボロボロになったレ級の姿だった。

 

川内は状況を見て一瞬安堵したあと、すぐに摩耶の傍に近づく。

 

「摩耶、大丈夫?」

 

「あぁ……正直しんどかったけどな」

 

「相手はもうボロボロだね、後は私がやるから摩耶はすぐに改二を解いて━━━」

 

川内がそう言った瞬間、レ級がゆらりと立ち上がった。

 

 

 

 

「マダ……オワッテネェヨ……」

 

 

 

レ級が小さな声で呟く。

 

瞬間、レ級の体は赤いオーラを纏い、先程まで負っていた傷口も徐々に塞がっていく。

 

「おいおい……マジかよ……」

 

摩耶は明らかに変化してきているレ級を見て、改二の解除を止める。

 

レ級は2人を鋭く睨むと、尻尾の生物とともに大きな咆哮を上げた。

 

今にも押しつぶされそうな気迫と、レ級から伝わってくる憎悪の感情を感じ取り、2人は全身に力を入れ直す。

 

川内は未だ息が整っていない摩耶を見て、庇うように前に立って戦闘態勢に入った。

 

「私が時間を稼ぐから、摩耶は回復に専念して」

 

川内がそう言うと、摩耶はフラフラと立ち上がって川内の隣に立ち、両の拳を合わせる。

 

「バカ言うんじゃねぇよ。あんな化け物1人で抑えられるわけねぇ、あたしも行く」

 

意地を張るように摩耶はそう言うと、川内はそう言われると分かっていたかのようにニヤリと笑うと、レ級の方を向いた。

 

「全く……」

 

2人はそのままゆっくりとレ級の方に歩き出し、歩幅を合わせてタイミングを図る。

 

轟音鳴り響く戦場の中、その場だけは極めて静かな空間が広がっていた。

 

互いが全神経を集中させ、最大限攻撃を通せる瞬間を見極める。

 

 

 

「久方ぶりの共闘だね、摩耶」

 

「あぁ……」

 

互いが何処か嬉しそうな表情をしているのを察知し、2人は共に並びたってレ級の方を鋭く睨んだ。

 

 

「あたし達の力……教えてやろうぜ!川内!」

 

「うん!」

 

 

 

川内の返事と同時に2人は一瞬でレ級の方へと距離を縮め、同時に正拳突きを放つ。

 

レ級はそれを片腕と尻尾で抑えると、両方を弾いて川内を蹴り飛ばした。

 

その隙に摩耶は続けて攻撃を繰り返し、肉弾戦に持ち込む。

 

飛ばされていた川内はすぐさま体制を建て直し、摩耶と2人で交互に攻撃を繰り返す。

 

息の合ったコンビネーションでレ級を徐々に追い詰めていき、徐々に2人の手数が増えていく。

 

「おらぁぁ!!!」

 

レ級が攻撃を弾ききれなくなった瞬間、摩耶は腰を入れた強烈な正拳突きを放った。

 

レ級は何とか手を伸ばしてガードするも、腕ごと後方に押し込まれて吹き飛ばされる。

 

「まだまだぁ!」

 

吹き飛んだ先には川内が回り込んでおり、

飛んでいた方向とは真反対に蹴り返される。

 

川内はそのまま追い打ちをかけるように主砲を構え、レ級の方へと放つ。

 

レ級は爆煙と共に飛ばされると、なんとか着地をし直して2人の方へと尻尾を構えた。

 

「チョウシニノルナァ!!」

 

レ級は尻尾から大量の魚雷を2人に目掛けて発射し、それに続けて大量の航空機を投げ飛ばすように2人へと飛ばした。

 

摩耶と川内はそれぞれに対応した装備へと切りかえ、互いの顔を見て頷いた。

 

「あたしが居る限り、空は絶対に取らせねぇ!!!」

 

「うん、任せたよ!」

 

摩耶は空に向けて大量の弾幕を放ち、川内は進んでくる魚雷に合わせて爆雷を投げた。

 

辺りには大量の水柱と爆発が発生し、その一帯の視界が悪くなる。

 

大量の破片が空から崩れ落ちてくる中、レ級はすぐさま耳を立て、2人が来るであろう方向を予測するために集中する。

 

「……ッ!?」

 

レ級が危険を察知し、気づいた頃には川内がレ級の目前まで迫っていた。

 

川内はレ級の顔面に主砲を放ち、追撃の回し蹴りを顔面目掛けて放つ。

 

しかし、主砲の直撃を紙一重で回避したレ級に、川内の回し蹴りはギリギリのところで掴まれて止められてしまった。

 

レ級はすぐさま川内の腹に手を突き刺し、首を掴んで川内を抑える。

 

「がっ……!?」

 

「オシカッタナァ?」

 

そのまま海面に勢いよく叩きつけられると、レ級から追撃の蹴りを食らう。

 

川内はそのまま後方に飛ばされ、そのまま海面へと力なく倒れる。

 

「マズハテメェカラダ!」

 

レ級が叫びながら近づいてくる。

 

「……ふふっ」

 

それを薄目で見ていた川内は、倒れ込んだままニヤリと笑った

 

川内が笑った瞬間、レ級の足元から轟音が鳴り響き、大きな水柱が上がった。

 

レ級はすぐさま防御体制をとるが、水飛沫によって視界が悪くなる。

 

「今だよ!!摩耶!!」

 

川内の声と共に、水柱を体で切り裂きながら摩耶が飛び出してくる。

 

レ級は摩耶に対応しようとしたが、爆発に怯んだ影響で判断が遅れてしまっていた。

 

その一瞬を狙って摩耶が懐へと潜り込み、強烈なアッパーをレ級の顔面目掛けて放つ。

 

 

「これで終わりだぁぁぁぁ!!!」

 

辺りに鈍い音が鳴り響き、レ級の体は力なく空中を舞い、辺りに血飛沫が舞い散る。

 

レ級の体はそのまま海面に叩きつけられ、辺りに血の混じった水しぶきが飛んだ。

 

海面に倒れるレ級の顔面は原型を留めておらず、体はピクリとも動かない。

 

尻尾の生物はレ級が倒れた瞬間に大きな咆哮を上げたが、ボロボロと表面の艤装が崩れ落としながら、レ級の上に倒れた。

 

鈍い音が鳴り響き、尻尾の生物の下から青い血が滲み出してくる。

 

2人はそれを見て力を抜いた。

 

「ふぅ……何とか終わった━━━━━」

 

 

 

川内がそう言った瞬間、摩耶が心臓を抑えてその場に崩れ落ちる。

 

「っ……!?がぁっ……!!」

 

摩耶は全身に走る痛みに抗いきれず、改二艤装を解除してその場で苦しむ。

 

「……っ!?摩耶!?」

 

川内がすぐに摩耶の方へと駆け寄ると、摩耶は何とか息を整えてその場に倒れ込んだ。

 

「すまねぇ……ちょっと無理した」

 

「やっぱり無茶してたんじゃん!」

 

川内はそう言って摩耶の近くにしゃがむと、辺りを見回して敵が居ないか確認する。

 

ひとしきり確認したあと、川内は摩耶の隣に座り込むと、大きく息を吐いた。

 

「辺りに援軍の気配は無いね、一息ついたらみんなと合流しよう」

 

「あぁ……そうだな」

 

摩耶は力なくそう答えると、川内に向けて拳を差し出す。

 

川内は呆れるように息を吐くと、自分の拳を差し出し、互いの拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

その頃、鎮守府から援軍に向かっている榛名率いる第八艦隊は、第三艦隊が交戦している海域のすぐ近くまで到達していた。

 

報告の通り深海棲艦は周りにほとんど存在しておらず、偵察機も飛んでいない。

 

摩耶達が先程感じていたであろう違和感を抱きながら、夕立達は海の上を進んでいた。

 

ただ、夕立が抱えている違和感はそれだけでは無かった。

 

(時雨……あれだけの事があったのに、平然としてるっぽい)

 

つい先日に仲間内での衝突があったにも関わらず、時雨は何事も無かったかのように艦隊行動をしている。

 

複雑な表情で夕立が時雨の方向を見ていると、後ろにいた不知火が小突いてくる。

 

「夕立さん……気持ちはわかりますが、今は任務中です。周囲の警戒に徹底してください」

 

不知火が小声で注意する。

 

「わ、分かってるっぽい……でも……」

 

夕立がそう言って周囲を見渡すと、周りのメンバーも時雨の方に目線を動かしていた。

 

夕立は周りの意図を何となく感じとり、自分もなるべく気にしないように気持ちを入れ直した。

 

「ぜ……前方に艦娘発見!」

 

榛名の横に着いていた春雨がそう叫んだ。

 

「あれは……飛鷹さん達ですね、まだ戦闘中のようです」

 

未だ飛鷹達の周りには深海棲艦が動き回っている。

 

白露と鳥海が何とか周りを抑えている状態であり、響と飛鷹は膝をついていた。

 

榛名は早急な援護が必要だと判断し、すぐさま自らの主砲を構える。

 

「榛名、砲撃を開始します!私の砲撃に続いて突撃してください!」

 

榛名が大声でそう言うと、駆逐艦5人で突撃体制に入る。

 

「主砲、攻撃開始!」

 

榛名が砲撃を放ち、敵深海棲艦が爆煙を上げながら次々と轟沈していく。

 

砲撃音を聞いた駆逐艦のメンバーはすぐさま戦場に入っていくと、周りの深海棲艦の掃討を開始する。

 

時雨と夕立は白露と鳥海の方へと向かうと、全身がボロボロになっている白露と、それを守っている鳥海が見えた。

 

時雨は青ざめた顔で白露の方へと急接近すると、辺りを囲っている深海棲艦を艤装をフル活用して次々と沈めていく。

 

夕立がそれに続いて戦闘を開始すると、それに気づいた時雨はすぐに白露の方へ向かい、白露に肩を貸す。

 

「時雨……」

 

「姉さん、大丈夫?」

 

「うん……ありがとう、時雨」

 

白露は時雨の顔を見て一瞬安堵した後、疲れきった顔でそう答えた。

 

「……助かりました、まさかあなた達が来てくれるなんて」

 

鳥海が時雨と夕立に向けて礼を言う。

 

「摩耶さんはどこにいるっぽい?」

 

「摩耶は今戦艦レ級と継続戦闘中です、出来れば増援に行きたいのですが……」

 

鳥海がそこまで言うと、深海棲艦が数匹海から顔を出してくる。

 

「この状況では……まだ向かえないですね」

 

鳥海は3人の前に立つと、白露に小さな瓶のようなものを差し出す。

 

「少量ですが応急修復材です、止血程度なら出来るはずなので飲んでください。傷が落ち着くまでは私達が守ります」

 

「ありがとう……出来るだけ早く戦闘復帰するから、少しもちこたえてて……」

 

白露はそれを直ぐに飲み干すと、その場に膝を着いて体を休める。

 

「この場には僕が残る、君は摩耶さんの方に向かった方が良い」

 

「わ、分かったっぽい!」

 

時雨の言葉で夕立はその場を離れ、すぐに摩耶が戦っている方向へと向かう。

 

すると、遠くに人影が見えた。

 

夕立が目を凝らすと、そこには川内と摩耶が座り込んでいるのが見えた。

 

「摩耶さん!」

 

夕立が摩耶の名前を呼ぶと、摩耶は驚いた表情で夕立の方を見る。

 

「お前……なんでここに!?」

 

「鎮守府で出られるのが夕立達だけだったから、援軍として榛名さんと一緒に来たっぽい!」

 

夕立がそう説明すると、横で座っていた川内が笑った。

 

「まさか自分の部下に助けられる時が来るなんてね……でも、もう安心して、私たちでこっちは何とか片付けたから」

 

川内はそう言って指を指す。

 

夕立が川内の指の先を見ると、そこには倒れているレ級の姿があった。

 

全身に深い傷を負っており、顔面には尻尾の生物がのしかかっている。

 

「なら良かったっぽい……」

 

夕立は肩の力を抜くと、2人の方を見る。

 

「2人とも怪我とかは大丈夫っぽい?」

 

「安心しろ、さっきまでは危ねぇ所だったが、今は何とか体が動くようになってる」

 

「私も怪我は無くはないけど大丈夫かな、後はアイツを……」

 

川内はそう言ってレ級の方を見る。

 

「沈んでないってことは、まだ完全に絶命はしてないってこと。トドメを刺さないとだね」

 

「あれだけボロボロなのに死んでないっぽい!?」

 

「従来の深海棲艦ならあそこまでダメージを負えばもう致命傷なんだけどね、とりあえず夕立は離れてて」

 

「ぽ……ぽい……」

 

夕立は川内の言葉を聞いて返事をし、川内は立ち上がってゆっくりとレ級の方に向けて歩き出す。

 

しかし、ここに着いてから妙な胸騒ぎが夕立を常に襲っていた。

 

(何か……海の中から変な感じがするっぽい、何だか……凄く気分が悪いような、真っ黒な気配がずっと近くにあるっぽい……)

 

海の底から何かが見ているような、心の奥底を掴まれているような感覚が夕立を襲い、吐き気すらも感じるような気味悪い空気が辺りを支配している。

 

この空気を異常だと感じた夕立が摩耶の方を向くと、摩耶は安心したような面持ちで川内の方を見ている。

 

(この感覚……夕立だけっぽい……?なんだか重苦しくて、おかしくなるっぽい……)

 

夕立の呼吸がどんどん荒々しくなってくる。

 

「……?」

 

摩耶はその異変に気づいたのか、立ち上がって夕立の肩を掴んだ。

 

「おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」

 

摩耶が夕立に問いかけるが、夕立の耳には摩耶の声は届いていなかった。

 

徐々に動悸が激しくなっていき、身体中が飲み込まれるような感覚が絶え間なく襲ってくる。

 

(この……感覚……覚えがあるっぽい……これって……!!)

 

川内がレ級の傍に近づいていく度に、夕立の中の違和感はどんどん大きくなっていき、川内がレ級に主砲を構えた瞬間、その違和感は急速に危機感へと切り替わった。

 

 

 

「川内さん!!!!!離れて!!!!」

 

 

 

瞬間、川内の足元から巨大な化け物が大きく口を開きながら現れる。

 

川内はすぐにその場から離れようとしたが、その化け物はレ級ごと川内の片腕を噛み潰した。

 

片腕を失った川内は体制を立て直せず、その場に倒れる。

 

「川内!!!」

 

摩耶はすぐに川内の元に近づき、化け物から離すために川内を後方へと投げ飛ばした。

 

夕立は投げられた川内に近づき、体を起こして応急修復剤を口に入れる。

 

「んぐっ……!!」

 

「川内さん!!しっかりするっぽい!」

 

夕立は川内の肩を支えながら立ち上がろうとする。

 

しかし、急激な痛みと片腕を失ったことによるバランス力低下から、川内は上手く立ち上がれなかった。

 

夕立はそれを何とか立ち上がらせようと体を動かしている。

 

「ちっ……これはやべぇな……」

 

それを見た摩耶は直ぐに艤装を展開し直し、夕立と川内を庇うように前に立つ。

 

「こいつ……まさかこっちの拠点にいたとはな……」

 

 

 

「「姫級」装甲空母姫!」

 

 

 

摩耶はそう言って化け物の方を睨んだ。

 

名前を呼ばれた女性は不敵に笑う。

 

他の深海棲艦とは明らかに違う禍々しい赤いオーラを纏い、本体の体躯に見合わぬ巨大な装甲生物を従えて、海上に佇んでいる。

 

周囲には彼女が従えている夥しい量の飛行生物が飛び回っており、息もできないような威圧感が夕立達を襲う。

 

(こ……これが、姫級……!?)

 

夕立は小動物のように震えながら姫級の方を見る。

 

すると、装甲空母姫は夕立を見てニヤリと笑った。

 

 

 

 

「アァ……ヨウヤクミツケタ、ワタシノ右腕……」

 

 

そう小さく呟き、夕立を真っ直ぐ見つめる。

 

 

本来、深海棲艦の言葉からは感情は感じ取れない。

 

しかし、レ級や姫級の言葉からは何故か感情が伝わってくる。

 

そして、今の姫級の声色から感じ取れる感情は喜びだった。

 

 

 

装甲空母姫はそう言うと、従えている生物の口の中で倒れている戦艦レ級を見て残念そうな顔をする。

 

「セッカク作ッタコノ子ガコンナ鉄クズニサレチャッタノハ予想外ダッタケドネェ……」

 

装甲空母姫は装甲生物の頭をトントンと叩く。

 

すると装甲生物は口を閉じ、レ級の体を自らの胃袋へと入れた。

 

言葉、行動、装甲空母姫の一挙手一投足の全てが攻撃のように、重くその場にいる全員にのしかかって来る。

 

「サァテ……」

 

装甲空母姫は夕立達の方を睨むと、自らの艤装を展開し、右腕を夕立の方へと伸ばす。

 

瞬間、夕立を激しい頭痛が襲う。

 

「あっ……あ゛ぁぁぁっ……!?」

 

夕立はその場に倒れ込み、頭を抑えてのたうち回った。

 

「おい、夕立!しっかりしろ!」

 

摩耶が必死に夕立に問いかけるが、夕立には一切届かない。

 

(頭の中が……おかしくなるっぽい……!!)

 

まるで暴走する直前の様に、体の奥底から様々な悪感情が込み上げてくる。

 

「フフ……」

 

装甲空母姫は倒れ込んでいる夕立に照準を合わせると、主砲を放った。

 

摩耶はすぐに夕立の肩を掴み、間一髪で砲撃を回避する。

 

 

 

「おい!夕立、しっかりしろ!!」

 

摩耶は夕立の両肩を掴み、喝を入れるかのように大声で呼びかける。

 

 

 

摩耶の一言で夕立は何とか体の主導権を取り戻し、立ち上がって戦闘態勢に入る。

 

「夕立の体にっ……何したっぽい……!?」

 

夕立がそう聞くと、装甲空母姫は不敵に笑った。

 

「ナニヲシタッテ……タダ私ノモトニ帰ッテクルヨウニ指示シタダケヨ?」

 

「帰ってくるように……?」

 

「ソウ、元々”ソレ”ハ私ノモノ。貴方ガモッテイテイイ代物ジャナイ」

 

装甲空母姫は再び夕立の方へ右手を向けると、黒いオーラが夕立に向けて放たれる。

 

そのオーラが夕立に触れた瞬間、再び夕立の全身を激痛と悪寒が襲ってきた。

 

「ぐっ……ああっ……!!」

 

夕立はその場でうずくまると、頭を抱えて激しくその場で苦しむ。

 

「……マダ抗エルナンテ……貴方意外トタフナノネ?少シ大人シクサセナイトカシラ」

 

装甲空母姫がそう言って主砲を放とうとした瞬間、横から砲撃音が鳴り響き、装甲空母姫の装甲へと直撃する。

 

砲撃の主は摩耶だった。

 

摩耶は装甲空母姫を睨みつけると、夕立を庇うように前に立った。

 

「……邪魔ヨ、ソコヲドキナサイ?」

 

「どかねぇよ」

 

「アナタハ部外者、ワタシタチノ感動ノ再会ヲ邪魔シナイデクレルカシラ?」

 

装甲空母姫がそう言うと、摩耶は夕立の方を見ながら口を開く。

 

 

「……こいつがてめぇのなんなのか知ったこっちゃねぇが」

 

 

 

「てめぇがあたしの弟子を痛めつけてんのを、黙って見てるわけにはいかねぇだろうがよ」

 

摩耶はそう言うと、自らの兵装を改二兵装へと進化させる。

 

「ヘェ……?」

 

それを見た装甲空母姫は不敵に笑うと、自らの配下を周囲に集める。

 

「ナラ、貴方ニハ沈ンデモラオウカシラ」

 

それまでの表情とは1点、装甲空母姫は冷酷な顔でそう呟く。

 

摩耶は額に流れる汗を拭い、夕立の方を振り向く。

 

「アタシがお前を守ってやる、お前は早くその状態から回復しろ」

 

「で……でも摩耶さんの身体はもうっ……!」

 

「大丈夫だって、アタシは摩耶様だぜ?」

 

摩耶はそう言って装甲空母姫の方に突っ込むと、全力の正拳突きを放った。

 

摩耶の一撃が装甲空母姫の装甲へと当たり、鈍い音が辺りに鳴り響く。

 

摩耶が放った突きは一切届いておらず、装甲はヒビすら入らなかった。

 

(こいつっ……!今までのヤツの装甲より明らかに硬ぇ……!!)

 

摩耶が動揺していると、横から大口を開けた装甲空母姫の艤装生物が突っ込んでくる。

 

「……っ!」

 

摩耶はすぐさま体制を立て直し、大きく飛び上がって化け物の頭頂部にかかと落としを食らわせた。

 

生物の装甲はメキメキと音を上げ、その場に叩きつけられる。

 

摩耶は直ぐに装甲空母姫の方に目線を動かしたが、既に目線の先に装甲空母姫は居なかった。

 

「コッチヨ」

 

(……っ!まずっ……!)

 

装甲空母姫の声が聞こえた瞬間、摩耶は首を掴まれる。

 

徐々に掴む力が強くなっていき、摩耶の視界が揺れる。

 

「がっ……!はっ……!」

 

装甲空母姫が摩耶の首を潰そうとした瞬間、摩耶は体を大きく揺らして主砲を装甲空母姫の手に向ける。

 

直ぐに摩耶の意図に気づき、装甲空母は手を離そうとするが、摩耶はそれより先に主砲を放った。

 

爆音が辺りに響きわたり、大きな黒煙が上がる。

 

摩耶はすぐに装甲空母姫から距離をとると、息を荒らげてその場に膝をつく。

 

(さっきあいつはアタシを掴むためにバリアの中に入れた……ならダメージも直接入ってるはず……!)

 

摩耶の視線の先には、多少のダメージを負った装甲空母姫がいた。

 

装甲空母姫はすぐに再生を開始し、食らった傷を元に戻す。

 

「チョットハヤルジャナイ、ビックリシチャッタワ?」

 

「ちっ……やっぱりそんなダメージは入らねぇか……」

 

そう言っている間に、装甲空母姫の体は元の形を取り戻していく。

 

 

 

━━━━━━━━━しかし、傷が完全に治りきり、再び動きだした装甲空母姫を見て、摩耶は1つの疑問を覚えた。

 

 

 

(……右指が……再生しきってねぇぞ?)

 

装甲空母姫の右指は未だ欠けたままであり、再生されていなかった。

 

 

 

摩耶はそれについて考えようとするが、装甲空母姫は間髪入れずに次の攻撃を仕掛けてくる。

 

「フフフ……ナラコレハドウカシラ?」

 

装甲空母姫は自らが周りに漂わせている配下と、航空機を摩耶の方へと飛ばしてくる。

 

それを見た摩耶はすぐに対空装備を展開すると、空に向けて放った。

 

「今のあたしは防空巡洋艦だ!空は絶対に取らせねぇよ!」

 

摩耶の砲撃音が空に鳴り響く。

 

摩耶は圧倒的な対空能力で空に飛んでいた敵艦載機を次々と撃墜し、鉄塊となった敵艦載機が雨のようにその場に落ちてくる。

 

装甲空母姫はそれを見越していたかのように間髪入れずに砲撃を放った。

 

「……っ!あぶねっ!」

 

間一髪で避けた摩耶だったが、砲撃に気を取られた一瞬、摩耶の攻撃を避けきっていた敵艦載機が爆撃を仕掛けてきた。

 

摩耶はそれを避け、敵艦載機を握りしめて装甲空母姫の方を向き、サッカーボールのように蹴り飛ばす。

 

艦載機は大きな爆発音とともに装甲に衝突し、大きなヒビを入れた。

 

摩耶は隙を入れずに懐へと潜り込み、ヒビの入った箇所に全力の蹴りを入れる。

 

蹴りの入った場所からはヒビがどんどんと広がっていき、遂には装甲空母姫の前方の装甲は砕け散った。

 

「……っ!?」

 

「オラァァァァ!!」

 

摩耶はそのまま主砲を突き出し、装甲空母姫目掛けて連続で放つ。

 

何度も体から爆発が発生し、装甲空母姫の皮膚は焼け爛れていた。

 

摩耶はすぐさま次の砲撃を放とうとしたが、横から装甲空母の艤装生物によるタックルを食らい、後方に吹き飛ばされる。

 

それを見た装甲空母姫は手を伸ばし、自らの配下を摩耶の方へと飛ばした。

 

(━━━━━やべぇ……っ!?)

 

体勢を立て直しきれていなかった摩耶は回避に失敗し、敵の配下が放った爆弾が摩耶の体に直撃した。

 

瞬間、摩耶の体の周りから大きな爆発が何度も発生し、黒煙が天高く昇る。

 

「摩耶さん!!」

 

夕立の悲痛な声が辺りに響く。

 

黒煙が晴れると、全身に傷を負った状態でなお立ち上がっている摩耶の姿が見えてきた。

 

摩耶は何とか体に力を入れ、倒れそうな体を持ち上げて再び戦闘態勢に入る。

 

しかし、大きな咳とともに吐血し、フラフラとその場に膝をついた。

 

「ゲホッ!ゴホッ……!」

 

「ヨウヤク落チ着イタワネ?中々テコズラセテクレタジャナイ」

 

「ちっ……!」

 

「モウ終リヨ、死ニナサイ」

 

装甲空母姫が主砲を構え、摩耶にトドメを刺そうとした瞬間、辺りに大きな水柱が上がる。

 

水柱の中から艤装を展開した川内が現れ、装甲空母姫の後部装甲に蹴りを入れた。

 

装甲空母姫の装甲はメキメキと音を立て、攻撃した箇所に穴が空く。

 

「アラ、アナタモ動ケルノネ……本当ニシツコイヤツラダワ……」

 

「ぐっ……!」

 

装甲空母姫はそう言って川内に向けて自らの配下を送り込み、爆撃や雷撃を仕掛けさせた。

 

川内は何とか回避行動をとっていたが、途中でバランスを崩し、避けきれずに爆撃が直撃する。

 

爆撃を食らった川内は何とか立ち上がろうとするが、片腕だけでは力が入らず、その場に倒れる。

 

「そん……な……」

 

頼れる2人が同時に倒れ、戦場で意識がはっきり残っているのは夕立たった1人になった。

 

装甲空母姫は動けなくなった二人から視線を外すと、夕立の方へと1歩、また1歩と近づいてくる。

 

夕立は何とか戦闘態勢に入ろうとするが、全身に力が入らなかった。

 

(動けないっぽい……)

 

全身が震え、足に力が入らない。

 

自分より圧倒的に強いと推測できる存在に対する恐怖心と、自らの実力に対する不信が夕立の体を上から押さえつけていた。

 

(夕立じゃ勝てない、絶対に勝てないっぽい。あの二人で勝てないなら絶対に……勝てないっぽい……!)

 

「……っ!」

 

夕立が上を向くと、装甲空母姫の大きな主砲が自分に向いているのが見えた。

 

「私ノチカラダケ返シテモラエレバイイカラ……体ガ残ッテレバソレデイイワネ?」

 

装甲空母姫はそう言ってニヤリと笑った。

 

(よ……避けなきゃ……死ぬっぽい……)

 

夕立は心では避けなければならないことは理解していたが、震えと重圧がそれを許さなかった。

 

 

 

装甲空母姫が主砲を放つ。

 

 

 

━━━━━━━━━━その刹那、夕立の前にひとつの影が降りてきた。

 

 

 

大きな爆発音が響き、黒煙が昇る。

 

激しく波打つ海上で、夕立は両の足で海に足をつけて立っていた。

 

下を向いていた夕立は、上から滴り落ちる赤い水滴に気づき、ゆっくりと顔を上げた。

 

自らを覆う大きな影、物が焦げた匂いの中にある、記憶に覚えのある匂い。

 

その影が、自分に向けられた主砲を代わりに受けてくれたのだと、夕立は直ぐに察した。

 

夕立の頭上に帽子が落ちてくる。

 

「無事か……?夕立……」

 

「あ……あぁあ……」

 

夕立は震えながら、か細い声で名前を呼ぶ。

 

 

 

「摩耶……さん……」

 

 

 

夕立を庇って攻撃を受けたのは

 

 

━━━━━━━摩耶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大変長らくおまたせ致しました、Part27です。

前回のあとがきで「早く出す」と言っときながら早4ヶ月、気づいたら桜は散り、寒さも消え、夏本番を目前とした季節になっていました。

いや、本当になんというか……

申し訳ないです

原因としては、イラスト活動の方に全力を注いでいるためです。

小説はあくまでサブで、向こうがメインなので……どうしても比率がイラストに寄ってしまい、ここまで時間がかかってしまいました。

次のPart28もできるだけ早く書くように尽力はしますが、今回みたいに待たせてしまうかもしれません。もしそうなった場合、Twitterの方で情報は発信してまいりますので、これからもこの作品をどうかよろしくお願いします。
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