【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの part28 「託す者、託される者」

いつもより戦場は静かだった。

 

砲撃の音は一切鳴っておらず、敵艦載機が空を切って進む音だけが響き渡っている。

 

夕立はその中で、目の前の出来事をじっと見ていることしか出来なかった。

 

火薬の香りの中から、覚えのある匂いが鼻に入ってくる。

 

目の前には赤い雨が降り、ギシギシと艤装が軋む音が耳に入ってきた。

 

目の前に落ちてきた帽子に一滴、また一滴と血が落ち、赤く染っていく。

 

「あっ……ああ……」

 

━━━━━━━摩耶が救ってくれた。

 

状況を理解した夕立は、震える手で摩耶の方に手を伸ばす。

 

摩耶は滴る血を拭う事もせず、その場から一切動かない。

 

「摩耶さ━━━━」

 

夕立は摩耶を介抱しようとするが、摩耶は手を上げてそれを制止する。

 

夕立はされるがままにその場で止まり、摩耶の方を見た。

 

「摩耶……さん……?」

 

 

摩耶は立ち上がり、口を開く。

 

 

 

「逃げろ、夕立」

 

 

 

摩耶は夕立の方を向かずに、そう告げる。

 

「そんな……そうしたら摩耶さんは……!」

 

「今の戦力じゃコイツは無理だ……それに、アタシはどっちにしろ長くねぇ……だから川内を連れて逃げろ」

 

 

摩耶はそう言って軋む艤装を何とか動かし、装甲空母姫の方に向けて歩き出した。

 

夕立はその光景をただ見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

徐々に消えそうになる意識を何とか繋ぎ止め、摩耶は歩く。

 

(とは言ったが、今のアタシでコイツをぶっ殺すのは……)

 

摩耶は目の前に佇む強大な敵を睨む。

 

装甲空母姫から発される、今にも自らの身を滅ぼさんとする殺気と威圧感に気圧されながらも、摩耶は2人を庇うように前に立った。

 

(もう、最終手段を使うしかねぇ)

 

摩耶は自らの震える手を握りしめ、全身に力を入れる。

 

(長門さん……アタシは……)

 

そんな摩耶の頭の中に浮かんできたのは、かつての師の姿だった。

 

様々な記憶が駆け巡り、その中の1つの記憶がより鮮明に、パズルの最後のピースがハマったかのようにくっきりと思い出される。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

いつかの海の上

 

轟音が鳴り響き、摩耶はものすごい速度で後ろに飛ばされ、海上に落ちていった。

 

「っかぁー!!強ぇ!なんだよ今の!?」

 

摩耶は海面に仰向けに倒れながらそう叫ぶ。

 

長門は自らの艤装を解除し一息ついた後、摩耶に手を伸ばし、立ち上がらせる。

 

「今のは艤装妖精の中にある艤装エネルギーを一時的に上限以上に引き出し、艤装内に循環させるものだ」

 

「そんなこと出来んのかよ!?」

 

「あぁ、これをすることによって、自らの艤装が出せる質力、そして身体能力を向上させることが出来る」

 

長門はそこまで言ったあと、険しい表情になる。

 

「だが、代わりに身体や艤装、それに艤装妖精への負担が大きい……一瞬なら軽く済むが、継続させた場合はその後は全く動けなくなると言ってもいいほどだ」

 

「へぇー……」

 

「この私にそこまでさせたのだ、お前は誇って良い」

 

「へへっ!」

 

摩耶が自慢げに笑うと、長門は嬉しそうに微笑む。

 

「じゃあさ、それを改二状態で使ったらどうなんだ?」

 

摩耶がそう聞くと、長門は難解な表情をした。

 

「うむ……私も使ったことがないが、恐らく体を巡るエネルギーに体が耐えきれず、最悪死ぬだろうな」

 

「うげっ……」

 

「特に、お前のように安全装置がまだ開発されてないような艦娘がそれをした場合、どうなるか想像もつかない……これの習得はあまりオススメはしないな」

 

摩耶はそれを聞いて複雑な表情をする。

 

そして、立ち上がって長門の方に近づくと、摩耶は長門の目をチラチラと見ながら口を開いた。

 

「な、なぁ長門さん……」

 

長門は何か言いたそうな摩耶の様子を見て、少し頬を緩ませながらため息を吐いた。

 

「そう忠告したってお前は覚えたいんだろう?」

 

「あぁ!」

 

「やれやれ……まぁ、教えてやろう」

 

摩耶はその言葉を聞くなり嬉しそうな表情でガッツポーズをした。

 

そんな摩耶を見て、長門は厳しい顔で摩耶に静止するように手を前に出した。

 

「ただ、これを多用するのは本当に危険だ。特に改二状態での併用は命に関わるだろう……だから、絶対に無茶な使い方をするな」

 

「あぁ!約束するぜ!」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

師との約束を思い出し、摩耶は何かを決意した表情で歩き出した。

 

踏みしめる1歩が強くなっていき、周囲の空気が震える。

 

摩耶は装甲空母姫の方へと目線を戻すと、強く睨みつける。

 

そして、摩耶は自らの艤装妖精を呼び出し、掌の上に乗せた。

 

摩耶の艤装妖精は心配そうな目で摩耶を見つめる。

 

摩耶は優しい表情で妖精を見ると、頭を指で撫でた。

 

「約束、今ならもう破っていいよな」

 

摩耶がそう呟くと、妖精は覚悟を決めたような表情で敬礼し、白い光の粒となった。

 

白い光は摩耶の体内に取り込まれ、艤装が輝き出す。

 

 

瞬間、大きく心臓が鼓動した。

 

 

強烈な波動と目の前の敵の急激な変化を目の当たりにし、その場にいる全員が震え上がる。

 

「ナニヲスルツモリ……?」

 

あの装甲空母姫ですらも、一瞬後ろに下がってしまうほどの威圧感だった。

 

(そうだ……今やんなきゃ、いつやるんだよ)

 

(私が守りたいものを守るため、そして……)

 

 

 

(長門さんの意志を絶やさないため)

 

摩耶の周りに電流が走り、辺りに衝撃波が飛ぶ。

 

強烈な光が晴れ、中から艤装だけ完全回復した摩耶が光の中から現れた。

 

 

「行くぞ姫級!!この命に替えてでも、てめーをぶっ飛ばしてやるよ!!」

 

 

急激な変化を見せた摩耶を見て、装甲空母姫は一瞬怯んだが、すぐに元の不気味な笑みを浮かべた。

 

「マダ隠シテタモノガアッタノネ……デモ、ソレデモ私ハ倒セナイワヨ?」

 

装甲空母姫がそう言った瞬間、摩耶はすぐさま拳を握りしめ、装甲空母姫に一瞬で近づく。

 

そのまま大きく右手を振りかぶると、摩耶は装甲空母姫に向かって正拳突きを放った。

 

摩耶の拳は装甲空母姫の周りを囲んでいた装甲バリアに阻まれ、鈍い音が鳴り響く。

 

摩耶は続けて2発、3発と突きを繰り返した。

瞬間、装甲空母姫のバリアがガラスのように砕け散った。

 

装甲空母姫はそれを見るなりすぐに摩耶から距離を取り、余裕な態度から一変、戦闘態勢に入った。

 

「マサカ正面カラ割ラレルトハ思ワナカッタワ」

 

装甲空母姫は冷や汗を流しながら摩耶の方を見る。

 

 

「……ケド」

 

 

「1発デソンナニナッテルッテコトハ、ソウ長クハ続カナイワネ?」

 

装甲空母姫の先には、片腕を抑えながら息切れを起こしている摩耶が居た。

 

摩耶はすぐに息を整え、主砲を向ける。

 

「まだまだぁ!」

 

摩耶が砲撃すると、装甲空母姫を庇うように艤装生物が前に立ち、砲弾に直撃する。

 

艤装生物は大きな爆発に包み込まれながら摩耶の方へと突っ込んでいき、巨大な口を開けて摩耶を飲み込もうとする。

 

「吹きとべぇ!!」

 

摩耶はすぐさま主砲を向け、口の中に砲弾を放つ。

 

瞬間、大きな爆発とともに艤装生物はその場に倒れ込んだ。

 

遠くで見ていた夕立はその光景を見て唖然とする。

 

「摩耶さんがまだ力を隠してたなんて……」

 

夕立がそう呟くと、フラフラと川内が夕立の横に近づいてくる。

 

「隠してた……というか、使えなかったんだよ」

 

「どうして……?」

 

「アレは私たち艦娘が艤装を動かす為に必須な妖精さんの力を全て質力した状態、それを使ってる間は身体から艤装に入るパワーや伝達速度は最速になるんだけど……」

 

 

「その分、身体や精神に大きな負荷がかかっちゃうんだよね」

 

川内は遠くで戦っている摩耶を見て、小さく口を開いた。

 

「ただでさえあれだけのダメージを受けてたのに、アレまで解放しちゃったら……摩耶の体は……」

 

夕立はその言葉を聞いて、摩耶の姿を見つめる。

 

摩耶の身体のキレは時間が経つにつれて悪くなっており、息切れも激しくなっている。

 

とっくに摩耶の身体には限界が来ていた。

 

「ちっ……これでも……まだ届かねぇのか……!」

 

そう言って摩耶は装甲空母姫を睨む。

 

装甲空母姫は横たわっている自らの艤装生物を見つめながらため息を吐いた。

 

「マサカタッタ一人ノ艦娘ニココマデヤラレルトハネェ……デモ、モウ終ワリミタイネ?」

 

装甲空母姫は自らの配下を上空へと放った。

 

摩耶は装甲空母姫を睨みながら、自らの拳を握りしめる。

 

(もう……身体が言うことを聞かなくなって来てやがる……次が最後の1発だな……)

 

摩耶は艤装の中にあるエネルギーのありったけを拳に込める。

 

瞬間、全身に襲ってくる激痛と疲労感に押しつぶされそうになる。

 

(長門さん……アタシは……)

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

鎮守府近くの堤防の上で、長門と摩耶は共に海を眺めていた。

 

『なぁ、長門さん。どうやったらアタシは強くなれるんだ?』

 

『ん?もうお前は他の姉妹にも引けを取らないほどの強さを得ただろう?まだ満足しないのか?』

 

長門は苦笑しながら摩耶にそう言った。

 

『まだ全然満足しねーよ!アタシは長門さんみたいに強くなって、いつか艦隊の旗艦になれるくらいになりてーんだ!』

 

『ふむ……艦隊旗艦か、それは大きく出たな?』

 

『おう!もっと実力をつけて、今よりも強くなりてぇ!』

 

『ふふ……そうか、なら今のままじゃダメだな』

 

長門は先程とは違った笑みを見せると、摩耶の頭の上に手を乗せた。

 

『お前は強さとは何だと思う?』

 

『……え?』

 

長門の予想外な質問に、摩耶は素っ頓狂な声を上げた。

 

『うーん……とにかく修行をして艦娘の中で最強になる!とかか?』

 

『ふふ……私が求める回答としては30点だな』

 

長門はそう言って微笑んだ。

 

摩耶が不思議そうに長門を見つめていると、長門は水平線に落ちる日の方を見た。

 

『私は、私に付いてきてくれているお前達の存在こそ、私の強さに関わっていると思っている』

 

『え……?』

 

摩耶は長門の言葉を聞いて、素っ頓狂な声を上げた。

 

『私だっていつまでも生きている訳では無い、それにどれだけ強くても個人の力には限界がある……そんな状況の中で己だけ強くなっても、何も意味が無いだろう?』

 

『確かに……』

 

『だから、私は守りたいもののために強くなり続ける。守りたいものがある時こそ、人は強くなれる』

 

長門がそう言うと、摩耶は納得したような表情で頷いた。

 

それを見た長門は、摩耶の頭に手を乗せる。

 

『そして私が死んでも、私は意志となってその者達の中で生き続けられる。』

 

 

 

『そうして築き上げられた全てが、私の強さの全てだ』

 

 

 

 

長門がそう言うと、雲に隠れていた夕日の光が堤防に指した。

 

夕日に照らされた長門の顔は凛々しく、摩耶はその姿から目が離せなかった。

 

 

『アタシに……できるかな……』

 

『……お前はまだ「託される側」だ、まだこの強さを見つけられるまでは、かなりの時間を要するかもしれない』

 

 

 

『その時が……「託す側」になる時が来たら、お前もその時はきっと強くなっている。そう私は信じている』

 

長門は摩耶の頭の上に乗せていた手を動かし、摩耶の肩を叩いた。

 

 

 

 

『お前は自分を信じて進め、摩耶』

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

摩耶はニヤリと笑った。

 

全身を襲う激痛や疲労感も気にならない程の力が心の奥底から湧き上がってくるのを感じる。

 

(あの時とは違う、今度はアタシが「託す」者)

 

摩耶は夕立の方を見る。

 

(アタシが死んでも、あいつの中で私は意志となって生き続ける……これがアタシの強さ……!!)

 

摩耶は夕立の顔を見て大きく息を吐くと、貯めていた力を一気に放出した。

 

 

「だからアタシは!!!死んでもアイツを守りきんなきゃいけねぇんだ!!!」

 

 

「それがアタシの意志だ!!!長門さんの意志だ!!!」

 

摩耶は親指で自らの胸を指すと、姿勢を下げて戦闘姿勢に入る。

 

 

「これがアタシの最後の一撃だ!!あたしはここでお前をぶっ潰す!」

 

 

言葉の後、摩耶は力強く海面を蹴った。

 

 

 

摩耶は大きく拳を振りかぶると、全力疾走で装甲空母姫に近づいていく。

 

 

 

「……ッ!マズイッ!」

 

装甲空母鬼はすぐさま自らの配下を摩耶の前に配置し、防御の姿勢をとった。

 

しかし、摩耶はそれをものともせずに、ただ前に突き進む。

 

「そんなもん関係ねぇ!!!どけぇ!!!!!」

 

摩耶がそのまま突進しようとした瞬間、摩耶の行く手を阻んでいた装甲空母姫の配下が大きな爆発と共に撃墜された。

 

摩耶が一瞬目線を後ろにやると、川内の主砲から黒い煙が上がっていた。

 

川内は砲撃の反動で倒れながら、摩耶に向けて大声で叫ぶ。

 

「行け!!!摩耶!!!」

 

川内の声を背中に受け、摩耶は装甲空母姫の目の前まで到達し、拳を前に突き出した。

 

装甲空母姫は咄嗟に右手でガードをしたが、摩耶の拳はそのまま装甲空母姫の右腕を潰しながら突き進む。

 

 

「うおおぉぉぉらあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

摩耶の声が海上に鳴り響く。

 

摩耶の右腕は装甲空母の肩まで到達し、轟音と共に装甲空母の右腕を消し飛ばした。

 

装甲空母姫は声にならない悲鳴と共に海面へと叩き落とされ、大きな水しぶきが上がる。

 

突き抜けたエネルギーは海面を大きく揺らし、辺りに大きな波を起こした。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━瞬間、摩耶の拳が完全に振り抜かれ、目的を失った体は宙に浮いた。

 

拳が空を切り、摩耶の体の力が一気に抜けていく。

 

 

 

 

摩耶が意識を取り戻した時には、もう体は海中へと沈んでいた。

 

耳や鼻に容赦なく海水が入り込んでくるが、それを拒む力もない。

 

 

 

(あぁ……アタシの物語もようやく、終わっちまったな…………)

 

 

 

ゆっくりと、確かに沈んでいく体はもう動くことはなく、取り戻した意識も薄くなっていく。

 

 

 

(悔いはねぇ…………心からそう思える人生だった……)

 

 

 

そんな中、頭に浮かんだのは愛弟子の姿だった。

 

危なっかしくて、どこまでも自分によく似た弟子の姿を思い出しながら、ゆっくりと流れに身を任せる。

 

 

 

(……夕立)

 

 

 

(アタシが託したいもんは全部……お前に渡した…………後は……お前が勝手に進めばいい)

 

 

 

 

徐々に離れていく海面を薄目で見ながら、摩耶は微笑んだ。

 

 

(ゆっくりでいい……直ぐにこっちに来なくていい………………)

 

 

 

大きな泡が口から出て、視界がゆっくりと黒く染っていく。

 

 

(泣いたっていい…………負けたっていい…………そん中で……お前が「守りたいもの」を見つけろ…………)

 

 

 

 

(お前なら……きっと……できる…………)

 

 

 

 

 

 

(だってお前は……アタシが信じ………た……………………)

 

 

大きな泡が上がった。

 

 

 

摩耶の意識はそこで切れ、意識から解放された体は流れに抵抗せずに沈んでいく。

 

摩耶の体はそのまま静かに、ゆっくりと深い海の底に消えていった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「グウゥッ……!?」

 

装甲空母鬼は腕が無くなった右肩を抑えながらその場に片膝を着く。

 

(コノ傷ハ、癒スノニ時間ガカカルワネ……)

 

そのまま周囲を見渡し、夕立と川内を見ながらゆっくりと立ち上がった。

 

ボロボロになった装甲生物を呼び出し、その上に這いずるように乗って夕立の方へ近づいていく。

 

(ダイブ艦載機モヤラレテシマッタワネ……デモ……)

 

海の中から次々と自分の配下の深海棲艦を呼び出し、周囲を囲んだ。

 

空は装甲空母姫の艦載機と、呼び出されたヲ級の艦載機が飛び回っており、制空権も取られてしまっている。

 

「……コレデ……ヨウヤク…………ユックリ私ノ右腕ヲ取リ返セルワネ」

 

夕立は目の前で起こった出来事を整理しきれず、その場から動くことが出来なかった。

 

1歩、また1歩と近づいてくる装甲空母姫をただ呆然と見ていることしか出来ない。

 

 

「ぐっ……夕立……っ!!!」

 

(摩耶が命をかけて守ったもの……!!失う訳には……っ!)

 

川内が体を動かして夕立に手を伸ばすが、口から吐血してその場に倒れ込む。

 

装甲生物が大きく口を開け、夕立が目を瞑った瞬間、両頬を長細い何かが掠めていった。

 

 

 

それは二本の矢だった。

 

 

その矢は光に包まれ、複数の艦載機へと姿を変えた。

 

突如現れた艦載機はあっという間に空の艦載機を撃墜し、即座に制空権を互角にまで戻した。

 

 

 

「全砲門、ファイヤァァァァァァ!!!」

 

 

大きな声とともに、辺りに轟音が鳴り響く。

 

次の瞬間、周りを囲っていた深海棲艦の1部から大きな爆発が起こった。

 

「な……何事っぽい!?」

 

目を開けた夕立が驚いていると、後ろから水を進む音が聞こえてくる。

 

「まさかこっちが本命だったなんてねー」

 

「とりあえず今は敵を撤退させることが重要ですね、北上さん」

 

夕立のすぐ横を黒髪の三つ編みの艦娘と、長い茶髪の艦娘が通り抜けていく。

 

2人は辺りに大量の魚雷を発射し、何本もの大きな水柱が敵を包み込み、次々と敵が撃破されていく。

 

夕立がその様を眺めていると、体が急に宙に浮き、何者かによって抱えられた。

 

「やっと着いた!ごめんねー遅くなって!」

 

夕立を抱えた女性がニコッと笑うと、後ろから2人の艦娘が近づいてくる。

 

二人は夕立達を庇うように前に立つと、弓を構える。

 

「衣笠さん、夕立さんは任せます……赤城さん、構えを」

 

「行きますよ加賀さん、第2次航空隊!発艦!!」

 

2人が同時に矢を放つと、その矢は先程のように艦載機に姿を変えた。

 

戦況が一瞬にして互角の状態にまで持ち直され、装甲空母姫は不服そうに顔を顰めた。

 

「グゥ……ッ!?後少シトイウ時ニ……!!!!」

 

そう言って睨んでいる装甲空母姫の前に、1人の艦娘が仁王立ちをする。

 

それは高速戦艦「金剛」の姿だった。

 

「第一艦隊!ここに参上デース!!」

 

金剛は声高らかにそう言うと、夕立の方を向いた。

 

「よくここまで耐えましたネ、もう私たちが来たから安心デス!」

 

そう言ってグッドサインを夕立に見せると、金剛は装甲空母姫の方を睨んだ。

 

金剛が睨んだ瞬間、周囲の深海棲艦が後ろに少し下がる。

 

「さぁ、ここからもう1戦……今度は私たちが相手デース!!」

 

それを見た装甲空母姫は自らの右肩を抑えながら、自らの配下に下がるように命令する。

 

「マサカ貴方達マデ出張ッテクルトハネ……」

 

装甲空母姫は手を下ろし、その場にいる全ての深海棲艦に退却するように命令した。

 

 

「アノ時ノ決着ヲツケタイケド……右腕ガコンナンジャ貴方達トハ戦エナイワ、潔ク引キマショウ」

 

「デモ……スグニマタ、戦ウ時ガクルワ。ソノ右腕ヲ奪ウタメニネ」

 

装甲空母姫はそう言って不敵に笑うと、海の中に沈んでいく。

 

「あっ!!!コラ!!逃げちゃダメデス!!」

 

金剛がすぐさま主砲を構えて放つが、砲弾は海面で爆発するだけで、装甲空母姫を捉えることは出来なかった。

 

周囲の深海棲艦も装甲空母姫が沈むと同時にゆっくりと潜水し艦載機は次々に撤退していく。

 

最後の1匹が水中へと去っていき、辺りの重苦しい空気は徐々に軽くなっていった。

 

 

完全に敵の気配が消えた海上で、第一艦隊のメンバーは集まって夕立達の介抱へと回る。

 

金剛は不服そうに装甲空母姫が行った方向を睨んでいたが、すぐに夕立の方へと駆け寄った。

 

「夕立!大丈夫ですか!?」

 

夕立はようやく状況を飲み込み、慌てて周囲を見渡す。

 

「……摩耶さん……摩耶さんはどうなったっぽい!?」

 

夕立の言葉を聞き、慌てて金剛が辺りを見渡すが、辺りには川内しか居なかった。

 

加賀や赤城が捜索を行っているが、辺りに摩耶が浮かんでいるのも確認できない。

 

「摩耶もここに居たってことデスか!?それなら……」

 

金剛はそこまで言った後、夕立が帽子を握っているのに気づいた。

 

摩耶の帽子だ。

 

表面には血がついており、被っていた摩耶がどんな状態だったのかを嫌でも想像できた。

 

そんな時、金剛の艤装妖精が顔を出し、金剛の肩へと乗っかり、近づけるように金剛に訴えた。

 

その帽子に金剛が自らの艤装妖精を近づけたが、妖精は悲しそうな表情で首を横に振る。

 

 

それだけで、摩耶がどうなったのか金剛は理解出来た。

 

 

そこに北上に支えられた川内が近づいてくる。

 

「川内……」

 

金剛が川内に声をかけようとした瞬間、通信に声が入る。

 

『……こえ……か……!?私だ!!ようやく通信を繋ぐことが出来た!!全員無事か!?』

 

「て……テートク……」

 

通信から提督の安心と心配が混じった声が聞こえてくる。

 

『通信が妨害されていないということは、辺りに敵は居ないな……金剛達も間に合ったようだな……』

 

提督がそう言うと、金剛達第一艦隊は複雑な表情になる。

 

金剛が状況を伝えようと口を開けた瞬間、川内が通信に声を入れた。

 

「……第三艦隊臨時随伴艦川内、旗艦の代わりに報告します』

 

「第三艦隊摩耶、川内、夕立は敵地にて姫級、装甲空母姫と戦闘……夕立無傷、川内大破━━━━━━━━━」

 

 

 

 

「第三艦隊旗艦、重巡洋艦「摩耶」………………轟沈」

 

 

川内が放った一言は、通信室と艦娘の頭の中に静かに、そして重く響き渡った。




短めですがpart28です

摩耶さん好きな方ごめんなさい、登場した時からずっとこの展開になることは決まっていたので、許してください。

イラストの方がどんどんやることが増えていく中、こっちもできる限り継続投稿していけるように努力していきますので、今後ともよろしくお願いします。
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