鎮守府は静かだった。
第一艦隊を除いた鎮守府の中で、最高峰の攻撃部隊である第三艦隊の旗艦の轟沈、そして、摩耶本人を慕っていたものも多かったため、鎮守府には悲壮感が漂っていた。
摩耶への弔いは海へ献花を行うことになった。
任務がある艦娘もいる中、個人のための献花が儀式として行われるのは稀であり、鎮守府に貢献し続けた摩耶に対し、最大の敬意を持って決行することとなった。
あの出来事の後、合流した第三艦隊のメンバーは驚愕する者や悲しむ者など、反応は様々だった。
特に摩耶の姉妹艦である「鳥海」は、その言葉を聞いて膝から崩れ落ちる程だった。
小雨が降る中、提督が花を持ちながら前に立つ。
参加は任意だったが、任務外の艦娘のほとんどが献花に参加し、花を持つ提督の後ろには多くの艦娘が立っていた。
提督は多くの艦娘の視線を背に受けながら、堤防の先に立つ。
「……重巡洋艦摩耶、貴艦の鎮守府への貢献、そして強大な敵に対し1歩も引かず立ち向かった勇気に対し、敬意を評する」
「安らかに眠れ」
提督が花束から手を離し、花束はゆっくりと海面に着水した。
そのまま波の流れに添いながら、花束はゆっくりと沖の方へと流れていく。
提督はそれをしばらく見守ったあと、後ろの艦娘たちに献花が終了したことを合図した。
献花が終了し、全員が去っていく中、提督と鳥海はその場で海を眺め続ける。
「……摩耶を失ったことは、この鎮守府にとってとても大きな損失だ。団体的にも……個人的にもな」
提督は表情こそ真顔だったが、海を真っ直ぐ見つめる目には、何処か哀愁があった。
鳥海は流れていく花を見ながら、摩耶のことを思い返す。
「摩耶は、装甲空母姫と遭遇しながらも、何とか最後まで戦い抜き、夕立さんと川内さんを守り抜きました」
「最後まで仲間のために尽くし、戦い抜けたので……本人的には悔いは無い人生だったのでしょう」
「ただ出来るのならば、隣でこれからも一緒に歩んでいきたかった……」
鳥海が小さくそう言うと、提督は頷く。
「……あいつが守り抜き、育てたものは次の世代に大きく影響しただろう。俺は摩耶の生き様を生涯忘れることは無い」
「……ただ」
提督はそこまで言うと、目が見えないように帽子を深く被った。
「少し、執務室が静かになると考えると……寂しいな」
提督が震えた声でそう言うと、鳥海も溜まっていたものが溢れるかのように、涙を流した。
2人はしばらくそこに立っていた。
徐々に雨が強くなっていき、鳥海の声が少しずつ雨に消されるようになっていく。
「……そろそろ戻ろう、体が冷えてしまう」
提督がそう言うと、鳥海は言葉は発さずにただ提督の後ろを着いて行った。
「……朝っぽい」
目が覚め、重い体を起こして辺りを見渡す。
普段なら鳴り響いているアラームは、ただ時計の針の小さな音だけ部屋に響かせていた。
言葉にできない倦怠感に苛まれながらも、制服に着替え、ドアを開けて外に出る。
━━━━━━━ 摩耶が死んだ。
夕立ははっきりとその現実を突きつけられていたが、涙は出なかった。
献花にも参加し、他のメンバーも涙を流す中、夕立はただ流れる花を見ていた。
献花から数日経ち、戦艦レ級、装甲空母姫と接敵した第三、八艦隊は数日間の休暇が与えられていた。
悲しみもない、ただ心に穴が空いたかのように無気力な日々を過ごし、今日も意味もなく鎮守府を歩く。
すると、前から不知火が歩いてきた。
「あっ……夕立さん」
「おはようっぽい」
「その……大丈夫ですか?」
不知火は心配そうな声で夕立に話しかける。
「暫くは休暇なので、ゆっくり体とを休めましょう。特に夕立さんは装甲空母姫と対峙した張本人なので」
夕立はそれに愛想笑いを返すと、手を振ってその場から離れようとする。
「……。」
不知火はそんな夕立の腕を掴んだ。
「夕立さん、何かあったら言ってくださいね」
「私たちは仲間です」
不知火はそう告げると、それ以上深堀りはせずにその場から離れていった。
夕立はその言葉の意味を特に考えることも無く、その場を後にする。
少し歩くと、今度は春雨が中庭のベンチに座っていた。
「あっ、夕立姉さん」
「おはようっぽい」
春雨は夕立に微笑むと、夕立に自分が飲もうとしていた飲み物を手渡す。
「叢雲さん、かなり良い方向へと向かってるみたいですよ」
「良かったっぽい」
「……またいつか、叢雲さんとも戦える日が来ます。その時までに、みんな元気にならないとですね!」
春雨は張り切った様子で夕立を見た。
「夕立さんも今は辛いかもしれないですが……そんな時は私たちを頼ってくださいね」
春雨はそこまで言うと、夕立を見て精一杯の笑顔を見せた。
「私たち……第八艦隊の仲間ですから」
「……うん」
夕立は春雨の言葉を聞いて、軽く微笑むと、手を振ってその場を後にする。
(仲間……仲間……)
夕立は2人に言われた言葉を何度も思い返しながら、フラフラと歩く。
気づいたら、夕立は摩耶と初めて出会った場所に向かっていた。
『おい、そこのお前』
その場所に立つと、摩耶の声が聞こえてくる。
その度に夕立は後ろを振り返るが、そこには摩耶はいなかった。
夕立はそんな中でも何も思うことも無く、ただベンチに座って空を眺めながら時間を過ごす。
気づいたら夕方近くまで時間が過ぎていた。
「夕立」
自分を呼ぶ声がした。
夕立が視線を下にすると、川内の姿が見えた。
川内は夕立の隣に座ると、先程の夕立と同じように空を見た。
「ずっとここに来てるみたいだから、つい私も来ちゃった」
「……そっか」
夕立は素っ気なくそう返す。
「摩耶について、あたしも考えてたんだよ」
川内はそう言うと、空に向けて手を伸ばした。
「あいつはずっとあたしの隣に立ってた……でもいなくなった今、大きな穴が空いたみたいでさ」
「……。」
夕立は川内の方は見ずに、ただ川内の話を聞く。
「あいつ、かなりアンタの事を心配してたみたいだよ。修行をつけれない時はあたしに監視を頼むほど、師匠として気にかけてたみたい」
川内のその話を聞いて、夕立は少し前に訓練場で見た影のことを思い出す。
ただ、それが判明したとしても夕立はあまり感情が動かなかった。
川内はそんな夕立の様子を見ると、ため息を吐いた。
「長門さんが死んだ時も、こうやってアイツとここで話して、2人で泣いてたなぁ……」
川内はそう言うと、夕立の頭を自らの肩に寄せた。
「だから、あんたがそうやってぼーっとしてる理由も、何となくだけど理解出来る」
そして、優しい顔で夕立を見る。
「いいんだよ、もう」
今まで聞いたことも無いような優しい声で、川内はそう言った。
「強がらなくていいんだよ、帰ってきな、夕立」
川内がその言葉を発した瞬間、心に空いていた穴から一気に感情が溢れ出す。
「あっ……」
1つ、大きな雫が膝に落ちた。
夕立は何も感じられなかったのではなく、感情を感じることを体が拒否していた。
最も信頼を寄せていた人物の死はそれほどに重いものだった。
いつしか乖離した感情は行き場を無くし、夕立の心に大きな穴を開けていた。
大きな雫が次々に夕立の膝に落ち、それが引き金となって次々に感情が溢れ出す。
自らの大切なものを失った少女は川内にしがみつき、慟哭が2人の思い出の場所に響き渡った。
しばらく経って、夕立が落ち着いたのを見て、川内は立ち上がった。
「落ち着いた?」
「うん……」
夕立は腫れた目を擦りながら、力無く答える。
川内はそんな夕立を見て微笑むと、膝をついて夕立の手を握った。
「じゃあ、これからはあんたの物語だ」
「夕立……の……?」
川内は握る力を少し強め、夕立の顔を真っ直ぐ見た。
「摩耶は自らの命を賭してでも、アンタを守った。それは多分、摩耶がそれを決断できるほど、アンタに賭けてるってことだよ」
「でも……夕立……摩耶さんがいないと何も……」
「なら、今度はあんたが前に立って道を作ればいい」
「そんな……!夕立一人じゃそんなのとても……!」
夕立がそう言うと、川内は呆れたようにため息を吐いた。
「1人じゃないでしょ」
川内はそう言うと、夕立の瞳をまっすぐ見た。
「あんたの中に生まれた穴は、私たちが埋める」
「あんたが挫けそうになった時、何時でも支えてやる。それが仲間ってもんでしょ」
「今は摩耶が死んで、心に大きな穴が空いてるかもしれない」
川内はそう言って夕立の肩を両手で掴むと、喝を入れるように夕立を揺らした。
「なら、あたし達があんたの心を埋めるものになってやる!」
川内の顔に夕日の光が差し込む。
川内の力強い一言は、夕立の体を芯から揺らした。
『仲間』、その言葉が夕立の心に強く刻み込まれる。
周りが見えず、摩耶と自分と時雨のことばかり考えていた夕立は、今やっと周りの仲間のことを考えた。
(そうだ……今までも、夕立はみんなに支えられてた)
春雨、不知火、村雨、叢雲、川内、時雨……一人一人との何気ない日常が記憶から溢れだしてくる。
目からはまた一粒、雫が落ちていた。
記憶が次々と溢れ、うち1つの記憶が鮮明に頭に映し出される。
『夕立……君は何のために戦ってるんだい?』
頭の中に礼花の言葉が聞こえてくる。
記憶の中で夕立は、その言葉を聞いて少し笑った。
『私……?私はね……』
瞬間、夕立の心の中で何かがピッタリと重なった感触がした。
蟠りが取れ、縛り付けていた鎖が外れたかのように心が軽くなった。
記憶が次々と溢れだし、記憶の中の仲間たちが自分のことを呼ぶ度に、夕立の心の穴が埋まっていく。
不思議な感触の後、夕立は何かを決意したかのような表情で川内を瞳を見つめ返した。
「……!」
川内はその顔を見て、自らの親友の顔が思い浮かんだ。
(……そういう事だったんだね、摩耶)
(あんたが命をかけて守りきった意志は、やっぱり長門さんの……)
川内は潤んだ瞳を瞼で隠すように、飛び切りの笑顔を見せると、夕立を引き寄せて立たせた。
「よし!明日から私が特訓するよ!摩耶が守りきった意志、ちゃんと見せてね!」
「っぽい!」
淡く光る夕日の下、1人の少女の決意が心の中で強く燃え上がった。
少女が「仲間」に向けて放った笑顔には悲しみも憂いもなく、年相応の純粋なものだった。
それと同刻、礼花は自らの研究室でひたすらパソコンの画面を見つめながら、データを纏めていた。
夕立のデータと時雨のデータを参照しながら、これからの対応策を考える。
(夕立ちゃんは……心の持ちようで何とかなるけど、今の状態じゃ……)
礼花は摩耶が死んだという情報は聞いていた。
それが夕立の精神に良い影響を与えるか、悪い影響を与えるかは分からず、とにかく良い方向に動くことを祈るしか無かった。
礼花は自らの髪留めを外し、じっと見つめる。
「……。」
髪留めを見つめていると、親友の声が脳内に響き渡った。
『あなたがいたから、私はここまで強くなれたんだよ?』
記憶の中の夕立はそう言うと、礼花の方を見てとびきりの笑顔を見せる。
『私は絶対にあなたの元を離れないから!もし、何かがあって私たちが離れちゃった時は……礼花、貴方が私を━━━━━』
夕立の声はそこで途切れ、礼花は一気に現実に戻され、親友が差し伸べた手は髪留めの姿に戻った。
(君との約束は……私が生きている間には果たせないかもしれないよ……夕立)
礼花は髪留めを握りしめると、ため息を吐いて自分の前に置いた。
(時雨ちゃんもどんどん悪い方向に向かっていってる……明らかに人格にも変化が現れてるね)
ここ最近の時雨の様子を陰ながら観察していた礼花は、時雨の状態を見て頭を抱える。
(軍のデータを見る限り、艦娘が何度も同じ子に生まれ変わることは有り得ないことじゃないみたいだけど……時雨ちゃんは恐らく記憶や管理権限まで引き継がれてる)
礼花は時雨と医務室のドアで話した時のことを思い出す。
あの時の時雨は会ったことがないにも関わらず、礼花の能力を分かっているかのような話し方だった。
(生まれ変わることは有り得ないことじゃない、でも彼女の様子を見る限り、白露ちゃんに何か重大な事が隠されてるかもしれない)
礼花は深く息を吐きながら、時雨のデータを一度閉じ、様々な鎮守府で起きた事象が纏められているデータを見る。
すると、ある文書が礼花の目に留まった。
『深海棲艦から艦娘に生まれ変わる可能性について』
礼花はそれを見て大きく衝撃を受ける。
(逆の事象なら知ってるけど、こっちは聞いたこと無いな……?)
更新日を見ると、つい最近更新されたデータだった。
礼花はその見出しを見て吸い寄せられるかのようにその文書のリンクを開き、食いつくように画面の文章を読んだ。
『先日、我が鎮守府に航空母艦「瑞鶴」が配属された。瑞鶴は海上で漂っているところを発見され、数日間のリハビリの後、正式に配属された。瑞鶴は「自分は暗い海の底にいた」「私は海の中で艦娘に会っていた」といった内容の発言をしており、我々は深海棲艦が艦娘に生まれ変わる可能性について━━━━━━━━━』
(へぇ……そんなことが)
礼花が読み進めていくと、最後の方の文章でマウスが止まった。
『数週間後、瑞鶴は突如発狂した。深海棲艦だった頃の記憶が急激に溢れ出し、本人では抑えきれない憎悪の感情が溢れ出てきたのだろう。その数日後、瑞鶴は行方不明となり……』
礼花はそこまで読むと、そのデータを自らのデータ管理ベースに保存し、知識として纏める。
(……ん?待てよ?)
(もし、行方不明になったその艦娘が深海棲艦に戻っていたとしたら、また同じように艦娘に戻るっていうループにハマる可能性もゼロではない……?)
礼花は自らの膨大なデータファイルを展開し、深海棲艦に関する様々なデータを開く。
(時雨ちゃんは元々艤装を生まれ持った人間……志願型でも建造型でもないはず……)
(人間に艦娘の魂が宿ることは極稀にある……もし、夕立ちゃんのように魂に何かしらの問題を抱えていた場合……それも引き継がれることもわかった)
そこまで考えた礼花の頭の中に、1つの仮説が浮かんだ。
(もし、時雨ちゃんと白露ちゃんの中に入った魂が、さっきの仮説の様に「ループ」を繰り返した後の魂だった場合は?)
(これまでの全てに合点が行く。常に2人が姉妹として生まれるのは天文学的確率ではあるけど……運命と言ってしまえば片付けられる)
礼花はこれまでの時雨の性格の変化、艤装の急激な覚醒、初戦闘での高いステータス、そして言動など全ての時雨についての要素を考えたが、この仮説が正しい場合全てが線で繋がる。
(もしそれが正しければ、記憶が引き出された瞬間に膨大な記憶の奔流が頭に溢れてくるはず……そうしたら確実に身体も精神も持たない)
(まさか時雨ちゃんは白露ちゃんにそれが起こるのを何度も何度も阻止しようとしてる……?)
「いやでも、その場合は時雨ちゃんも同じ条件だから……それを先読みすることは出来ない……」
そこまで考えた瞬間、礼花は一つの言葉を思い出した。
『思い出せ、僕がいる意味を』
時雨の艤装の記憶データに残っていた、明らかに第三者が絡んだような言葉だ。
この言葉によって、時雨の艤装は段階的に力が向上している。
その瞬間、頭の中で考えていた全ての事象が1つの答えに辿り着く。
(まさか、艤装の権限が解放されてない理由は……!?)
数日後、第八艦隊の休暇最終日の夜、時雨は1人で砂浜に立っていた。
打ち付ける波の音が耳を叩き、冷たい潮風が耳の裏を通り抜けていく。
真っ黒に染まった水平線の先を見つめながら、時雨は1つ息を吐いた。
(僕……どうしちゃったんだろう……)
最近の自らの行動を思い返すが、時雨は何も心当たりがない。
どれも後から思い出して、自分で思い返した時に驚いていた。
(ずっと意識が飛んでいるような、眠っているかのような感覚だ……)
(まるで、“もう1人の僕”に乗っ取られるみたいに……)
時雨がそう考えた瞬間、頭に電撃が走る。
少しの痛みの後、朦朧としていた意識は再びハッキリしだした。
時雨は頭を抱えながら、海を真っ直ぐ見つめる。
(僕の記憶がここまで戻ってるってことは、姉さんも……)
時雨は自らの記憶を何度も何度も見続けた。
何度も何度も敵によって殺される姉を見続けた。
それを目の当たりにした時雨は、どの時間でも自死を選んだ。
しかし、姉は深海棲艦だった頃から常に殺されている。
時雨は段階的に記憶を取り戻せるように、記憶データに「改竄」を行ったため、何とか精神は崩壊しないように繋ぎとめている。
しかし、姉の白露はそれを行えないため、恐怖と憎しみだけが体内に蓄積していく。
生まれ変わって記憶が蘇る度に、白露の発狂の具合は凄惨になっていた。
前の生まれ変わりでは、ついに深海棲艦だったころの記憶も蘇るようになってきた。
(これ以上姉さんを深海棲艦に近づけたら、もう戻れなくなる。)
(やっと人間に生まれ変わったんだ、今回でこれが終われば、ようやく僕達は「普通」を手に入れられる)
(ならやっぱり、僕がもっと強くなって、この世から敵を……)
(全部殺すしか━━━━━━━━━━━)
「時雨?」
後ろから声が聞こえた。
声の主は白露だった。
「体冷えるよ、一緒に鎮守府に行こう」
白露は優しい声でそう言うと、時雨に手を伸ばした。
時雨は振り返らずに、ただ海を眺めている。
「姉さん……今は1人にして欲しいんだ」
「時雨……」
白露は心配そうな顔で時雨に近づいていく。
徐々に近づいてくる足音が聞こえるが、時雨は一切姉の方を見なかった。
(いや━━━━━━もっと手っ取り早い方法があった)
ある考えが時雨の頭に浮かぶ。
時雨は1つ息を吐くと、口を開いた。
「姉さん」
「ん?」
「僕は姉さんを守りたいんだ」
時雨は海の方を向いたまま立ち上がった。
明らかに様子がおかしい妹を見て、白露は少し身構える。
「出来れば僕は、姉さんにはこれ以上海に出て欲しくない」
「……どういうこと?」
白露は時雨にそう聞き返したが、時雨には全く届いていなかった。
「だから僕は、決めたんだ」
その言葉と共に、時雨は振り向く。
その目には感情は無く、青い瞳は黒く澱んで見えた。
「僕が全部管理できればいい」
時雨は急に艤装を解放し、白露に急接近する。
急加速と共に出された拳を受け止めながら、白露は時雨を睨む。
「時雨、あんた正気?」
「僕が全て守ってあげれば、姉さんは何もしなくて済むからね。だから━━━━」
「姉さんをここで再起不能にして、海に出れなくすればいい」
黒く淀んだ瞳は夜の闇と同化し、鼓動の音は急かすように早く打ち付ける。
夜の闇を蠢く少女は、未だに戦闘態勢に入れていない自らの姉を見つめながら不気味に微笑んだ。
お待たせ致しました、Part29です。
今回は割と話が固まっていたので、早めの投稿になります。
実は11月の間、さめやん本人は色んな体の部位から不調が現れてほぼ倒れていました。
それによってイラスト業があまり進まなかったため、小説に使う時間が多かったのも1つの要因となります。
これを読んでいる方はなるべく体調には気をつけましょう、ホントに夜更かしダメですよ、1ヶ月動けなくなります。
さぁ、話は変わりましてついに明かされました時雨ちゃんの目的。
この物語、実は夕立だけじゃなく時雨も物語の中心に立っています。
同じ体でも見ている景色は違う、歩む人生も違う、完全に狂いきってしまった歯車の中で、2人はどう生きていくのか!!
次回をお楽しみに