【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

32 / 38
心を埋めるもの Part31 「再来」

「僕……これからどうなっちゃうんだろう……」

 

時雨は弱々しくそう呟くと、夕立の肩にしがみつく。

 

その姿は少し前の時雨からは全く想像もできない、まるで年相応の少女のようなものだった。

 

夕立は呆気に取られて、ただ泣いている時雨を見つめる。

 

しばらく経つと、落ち着いたのか時雨は肩から手を離した。

 

腫れている目を擦りながら、時雨は何とか声を出す。

 

「ごめん、急に」

 

「……大丈夫っぽい」

 

「今回の件は提督にも情報は行ってる……多分しばらく僕は出撃できないから、また代替の艦娘を探さないとだね」

 

夕立は何とか言葉を返そうとするが、何も返せなかった。

 

明らかな違反行為、今までの行動、時雨の艤装の現状を考えれば考えるほど、今後の活動が規制されることは免れない。

 

何も言えない夕立を見て、時雨は立ち上がった。

 

「しばらくしたら、質力を下げた状態で艤装を出す訓練も始まるから、その時まではゆっくりしてるよ」

 

「じゃあ……また」

 

時雨は軽く微笑むと、手を振ってその場を後にする。

 

何処か哀愁漂う背中に、夕立は声をかけようとしたが、喉に声が引っかかる。

 

(そんな……)

 

(そんな無理してる笑顔を見せられたら……声かけられないっぽい……)

 

伸びた手が空を切り、夕立は歩いていく時雨をただ見つめることしか出来なかった。

 

 

 

それからしばらく日にちが経った昼下がり、提督は駆逐艦寮の前で立っていた。

 

時雨には提督として、謹慎処分を3日ほど出したが、3日を過ぎても時雨は部屋から出てこなかった。

 

自らにかかっている重圧と、自らの姉を守るという意思が混在し、何かを考えられる状況では無いと考え、提督は時雨を無期限の活動停止として判断し、上層部には報告した。

 

時雨の部屋を遠くから見ながら、提督は深いため息をつき、煙草に火をつける。

 

提督も時雨の状況は把握していた。

 

礼花から情報を貰った時、提督は自らの無力と不甲斐なさを恥じた。

 

しばらく座っていると、後ろから足音が聞こえてくる。

 

「提督、こんな所にいたんだね」

 

足音の主は白露だった。

 

「おぉ白露、怪我の具合はどうだ?」

 

「この通り、何も問題ないよ」

 

「そうか……ならよかった」

 

「提督は何してんの?」

 

白露は提督に質問したが、提督の目線が伸びている先にある部屋を見て全てを察する。

 

白露はため息を吐くと、提督の横に立った。

 

「……ありがとね、提督」

 

「何がだ?」

 

「時雨のこと、本当ならもっと重い処罰になる所を何とか誤魔化して上に報告したんでしょ?」

 

「……バレてたか」

 

本来時雨が犯していたのは最も重い罪である「同士討ち」、所謂裏切り行為になる。

 

提督はそれを訓練の延長として、実戦の道具を訓練に持ち込んだだけだと主張し、何とか厳重注意だけで済ませていた。

 

「あたしは姉だけど、あの子には何もしてあげられなかったから」

 

「……」

 

「あの子が何を考えてるのかも分からなかったし、今も分からないまま」

 

白露はそう言って深いため息をついた。

 

 

「あの子にとって、私は重りになってるのかな」

 

 

 

「……それは」

 

提督は言葉を出そうとしたが、そこで止めた。

 

白露が時雨の本当の目的を知ってしまった場合、記憶が呼び起こされる危険性がある。

 

それを未然に防ぐためには、情報を白露には一切伝える事は出来なかった。

 

そのため、白露には「時雨には2つの人格がある」とだけしか伝わっていない。

 

本当の時雨の目的を知らずに、己を責めている白露をただ見ることしか出来なかった。

 

「それは俺もだ、白露」

 

「摩耶を失い、敗戦が多くなってきた現状において、鎮守府のメンタルケアが必要な時期だと言うのに、俺は何もすることが出来ない」

 

「……。」

 

「思い悩む駆逐艦一人すら……俺には救えないんだよ」

 

提督は口から魂が抜けたかのように、白い煙を出した。

 

「時雨のことはあたしが何とかしてみせるから、提督は提督にできることをやってほしい」

 

「白露……」

 

「あの子をどうにかするのは姉であるあたしだし、責任を持つのもあたし、何とか元気だして見せるから……悩まないで、提督」

 

 

 

 

 

「提督が止まっちゃったら、あたし達は動けないからさ」

 

 

 

白露はそう言って提督に微笑むと、手を振ってその場から離れる。

 

提督は去っていく姿を見て、礼花から言われた言葉を思い出した。

 

 

『今の白露ちゃんが真実を知ってしまったら、深海棲艦だった頃の膨大な記憶が一気に脳に流れてしまう』

 

『アタシの仮説が正しければ、白露ちゃんは間違いなく精神が崩壊して……魂の形がねじ曲がる』

 

『そうなった艦娘が辿る運命はたった一つ……』

 

 

『海の底に、囚われてしまう』

 

提督はその言葉を思い出し、奥歯を強くかみ締めた。

 

口から煙草を離し、勢いよく靴の裏で踏みつける。

 

『装甲空母鬼掃討作戦、編成情報』

 

提督の脳裏に、1枚の指令書が過ぎった。

 

 

「俺は……」

 

提督はさらなる無力感に苛まれながら、燃え尽きた煙草の葉を見つめていた。

 

 

 

 

 

数日後、夕立達第八艦隊は近海の哨戒任務に当てられていた。

 

出撃が出来ない時雨の代替には、元第三艦隊の響が入った。

 

響は駆逐艦の中では最古参であり、摩耶率いる第三艦隊でも数多くの戦果を挙げている艦娘である。

 

そんな響を最後列に、夕立達は海の上を進んでいた。

 

会話は少なく、夕立はただ前を見ながらボーッとしていた。

 

「夕立、どうしたの?」

 

川内が夕立に声をかける。

 

「なんかボーッとしてるみたいだけど……もしかして訓練が大変だったりする?」

 

「んーん、そこは大丈夫っぽい」

 

「そう?ならいいんだけど、哨戒任務だからって警戒を解くのはダメだよ」

 

「……うん」

 

夕立はあまり気の入っていない返事を返す。

 

「……まぁ大体検討はついてるけどね、心配しすぎも良くないよ」

 

川内は前を向きながら、夕立にそう告げた。

 

「……時雨があんなに辛い状態だったなんて、知らなかったっぽい」

 

「……まぁね、でも夕立が考えすぎても時雨が変わるわけじゃないよ。今は任務に集中しよう」

 

「ぽい……」

 

川内はそう声をかけるが、夕立は弱々しく声を出す。

 

(あの時……)

 

声をかけようと空を切った手を再び見る。

 

あの時、時雨の背中を追うことが出来ていたらまた違った結果になったのだろうか。

 

夕立が何度も自分に問いかけていると、後ろから不知火が近づいてくる。

 

「夕立さん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫っぽい」

 

「なら良いのですが」

 

不知火はそう言うと、夕立の顔を覗き込む。

 

「気持ちはわかります、時雨さんの状態を私達も初めて知りましたから」

 

不知火はそう言って前を向くと、夕立が自分の後ろになるように陣形の前に立つ。

 

「私の言葉が励ましになるかは分かりませんが、貴方は十分に時雨さんに向き合っていると思いますよ」

 

「……そうっぽい?」

 

「えぇ、今までも時雨さんの違和感にいち早く気づいていたのは貴方でしたから」

 

「……っぽい」

 

夕立がなんとも言えない表情で返事をすると、不知火はまた前を向いた。

 

そのまま何も無い時間が過ぎていき、哨戒任務も終わりが近づいてきた。

 

川内は時計を確認し、後ろの艦娘に指示を出そうとすると、とある物が目に入る。

 

黒い塊だ。

 

その黒い塊は不規則に動き、沈んだり顔を出したりしている。

 

「みんな、後方注意だよ」

 

川内は進む足を止め、陣形を回転させる。

 

黒い塊は徐々に鮮明になっていき、ゆっくりとこちらに近づいてきている。

 

「後方、深海棲艦捕捉!」

 

川内の一言で空気が張りつめた。

 

後方に見えるのは深海棲艦の水雷戦隊、恐らく向こうの哨戒部隊だと考えられる。

 

「ここで掃討するよ!準備はいい?」

 

川内の言葉に全員が頷くと、深海棲艦の群れに接近を始めた。

 

「一気に仕留めるよ!」

 

その言葉と同時に、川内と響が同時に魚雷を発射する。

 

発射された魚雷は見事に敵艦隊に着弾し、大きな水柱と共に深海棲艦の絶叫が響き渡る。

 

川内はそれを確認すると、すぐさま距離を縮めて先手の主砲を相手の旗艦に叩き込んだ。

 

駆逐艦達もそれに続き、次々と主砲を放つ。

 

夕立は奥にいた駆逐艦ロ級に突っ込んでいき、強烈な蹴りを食らわせた。

 

鈍い音を立てながら装甲が崩壊していき、ロ級は近くにいたもう1匹を巻き込みながら大きな爆発を起こした。

 

その光景を見た川内が夕立の近くに寄る。

 

「今の、敵の砲撃タイミングに合わせたね。完璧だったよ」

 

夕立は川内に褒められて上機嫌になりながらも、自らの成長を実感する。

 

(全部の動きが早くなってるっぽい……!これが川内さんとの修行の成果……!)

 

夕立は拳を握りしめ、他の駆逐艦の援護に向かう。

 

近くでは春雨と村雨が戦っていた。

 

大きく口を開けたイ級の口に村雨が鎖を巻き付け、その隙に春雨が魚雷を放ち、確実に仕留める。

 

着実に強くなっている仲間を見て、夕立は笑みを浮かべる。

 

「みんな強くなってるっぽい!」

 

「特訓は毎日してるもの、成果が出てよかったわ」

 

夕立と村雨が互いにグッドサインを送っていると、真ん中を魚雷がすり抜けていき、近くで大きな水柱が上がった。

 

「みんな、増援だよ」

 

響がそう言って指を指すと、更に敵の増援が駆けつけているのが見えた。

 

響はそのまま敵陣に突っ込んでいくと、装備をフル活用して瞬く間に1匹を艦隊から孤立させた。

 

「まずは1匹だね」

 

洗練され尽くした動きと判断力。

 

夕立と村雨はその様子を眺めることしか出来なかった。

 

「す……すごいっぽい……」

 

「流石は第三艦隊の精鋭ね……」

 

2人が響の動きに感嘆していると、川内が後ろからやってくる。

 

「ほらほら、ボサっとしてないで」

 

川内が後ろから背中を叩いた。

 

2人はもう一度自分に気合を入れ、増援部隊の方へと突っ込んで行った。

 

戦闘がしばらく続き、増援部隊も半分撃破した段階で、川内は戦況を大きく見る。

 

(どうもおかしい、向こうの動きが明らかに鈍い……)

 

(追い詰めてるつもりだけど、気づいたらこっちが沖の方に出てる)

 

川内は自分が攻撃司令を出した地点を確認し、さらに疑問を深めた。

 

全体を見れば明らかな誘導、しかし、増援部隊の中には補給艦も含まれていたため、倒さない選択肢もなかった。

 

「みんな、気をつけて」

 

川内が全員を1箇所に集め、注意喚起する。

 

「敵はもうあと一体だけど、何かおかしい」

 

「うん、明らかに私達が誘導されてるね」

 

響も同じ違和感を感じていたのか、川内の言葉に同調する。

 

「とりあえず、村雨は戦況の一時報告を鎮守府に、それ以外は辺りの警戒をしよう」

 

川内の指示で止まっていると、最後の1匹が艦隊の方へと突進してくる。

 

「突っ込んできたっぽい!」

 

夕立はそれを正拳突きで押し返すと、トドメの一撃を入れようと艦隊から離れる。

 

「これで終わりっぽい!」

 

「夕立!止まって!」

 

川内の制止の声が響く中、夕立がトドメの主砲を放った。

 

大きな黒煙と共に駆逐艦が沈んでいく。

 

 

 

瞬間、水の音が聞こえた。

 

 

 

黒煙から大きな生物が現れ、夕立に強烈なタックルを仕掛ける。

 

「がっ……はっ……!」

 

夕立は大きく後方に飛ばされると、川内に受け止められる。

 

黒煙は徐々に晴れていき、敵の輪郭がくっきりと映し出される。

 

 

 

「ヒサシブリダナァ……?」

 

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 

「戦艦……レ級……!?」

 

そこには摩耶と川内で討伐したはずの戦艦レ級が立っていた。

 

レ級は前よりも威圧感を放っており、全身は黄色いオーラに包まれている。

 

まるで、「装甲空母鬼」のような圧倒的な存在感を有していた。

 

川内と響は全員を庇うように前に出ると、レ級を観察する。

 

(こいつ……前より強くなってる……!)

 

瞬間、しっぽに付いている生物が大きな咆哮を上げると、海の中から次々と深海棲艦が浮上してきた。

 

「やっぱり誘導してたか……!村雨、報告は!?」

 

「さっきから繋がらないの!おそらく妨害されてるわ!」

 

川内は奥歯を噛み締め、レ級を睨む。

 

「ここまで計算された誘導ってことは、なにか目的があるって事だよね……一体何が目的?」

 

レ級は川内の質問に対し、不敵な笑みを浮かべる。

 

「サァ……ナンナンダロウナ?」

 

レ級はそう答えると、尻尾の生物を上に振り上げる。

 

「━━━━━━━来るっ!」

 

尻尾の生物は艦載機を繰り出し、あっという間に制空権を許してしまった。

 

「村雨と春雨は対空準備!装備してる機銃を展開して!響と不知火は周囲の掃討をお願い!」

 

川内が声を張り上げ、全員に指示を出す。

 

「夕立は私と一緒に……アイツを止めるよ」

 

「ぽ……ぽい!」

 

その言葉と同時に、川内の艤装が改二艤装へと変化する。

 

(川内さん……最初から本気っぽい)

 

夕立は隣に立つ川内の横顔を見て、気合いを入れ直した。

 

レ級はそれを見てニヤリと笑うと、こちらに向けて大量の魚雷を発射した。

 

夕立と川内は距離を取りながら、魚雷の間をすり抜けていく。

 

「前戦った時より魚雷の精度が良い……気をつけて避けて!夕立!」

 

川内と夕立は何とか魚雷の群れを抜け切ると、レ級に急接近して近距離戦を仕掛ける。

 

夕立は大きく振りかぶり、正拳突きを突き出す。

 

レ級はそれをいとも簡単に受け止め、そのまま掴んで夕立を投げた。

 

夕立の体が宙に浮き、そこに追い討ちの回し蹴りが入った。

 

「かっは……っ!」

 

夕立はそのまま吹き飛んでいき、海面に叩きつけられる。

 

レ級はそれに追い打ちを仕掛けるように主砲を構えたが、横から川内が主砲を放ち、艤装を爆発させる。

 

「私もいるんだから、忘れないでよね!」

 

川内は一瞬で距離を縮め、白兵戦に持ち込んだ。

 

川内の高精度な攻撃をレ級は受け切り、隙を着いた一瞬に強烈な蹴りを食らわせる。

 

「ぐっ……!?」

 

川内は既のところで手を入れたが、そのまま押し込まれて飛ばされた。

 

レ級はその様子を一瞥すると、夕立へと攻撃を仕掛ける。

 

夕立はなんとか体を動かしたが、レ級の突き刺した手刀が夕立の肩に刺さった。

 

左肩からは血が流れており、夕立は膝を着く。

 

「夕立!!!」

 

川内が夕立の援護に向かおうとした瞬間、尻尾の生物から放たれた航空機に目の前を塞がれる。

 

「オメェハソコデミトケ」

 

レ級は川内に冷たくそう言い放つと、夕立の首を掴んで持ち上げた。

 

 

 

 

瞬間、レ級の手が赤く光る。

 

 

「がああぁぁああ━━━━━━━━っ……!!!!?」

 

夕立の体の奥から何かを吸収されているような、そんな感覚が全身を襲った。

 

悪寒と激痛が全身を襲い、力がどんどん抜けていく。

 

「女王ノ命令ダカラナ、生ケ捕リハメンドクセェ」

 

レ級がそのまま夕立を掴んでいると、足元から大きな水柱が上がった。

 

レ級は夕立の体を放り投げ、尻尾でガードを行う。

 

放り投げられた夕立の体は何者かによってキャッチされた。

 

「良かった、間に合ったみたいだ」

 

攻撃の主は響だった。

 

「遠目で見て明らかに状況が不利だったから来てみたんだ、大丈夫かな?」

 

響は優しく夕立に問いかけるが、夕立は返事ができるほど余裕がなかった。

 

視界を目眩が襲い、脱力感と激痛の余韻が全身に響いている。

 

夕立は何とか立ち上がろうとするが、その場に倒れ込んでしまった。

 

「っ……!夕立!」

 

響が声を上げて名前を呼んだが、夕立は返事ができない。

 

響はそれを見て夕立を庇うように立ち、レ級を睨んだ。

 

すると、横に川内が現れる。

 

「多分あいつの目的は夕立だ、さっきから事あるごとに夕立に接近を試みてる」

 

「……そうだね、確証は無いけど何か嫌な予感がする」

 

響はそう言うと拳に力を入れ、大きく息を吸った。

 

 

 

「全力で夕立を守ろう、信頼の名は伊達じゃない」

 

 

 

響がそう呟いた瞬間、艤装が白く光り輝いた。

 

光が収まり、白い兵装に身を包んだ響が現れる。

 

「改二兵装「Верный」、行くよ」

 

その言葉と共に、響と川内は同時にレ級に近づく。

 

一糸乱れぬ攻防を繰り広げ、レ級はゆっくりと遅れを取っていく。

 

一瞬隙が生まれ、その隙を川内が突いた。

 

川内が放った回し蹴りはレ級の脇腹を捉え、大きく体をしならせる。

 

しかひ、レ級は青い血を吐きながらも体制を建て直し、尻尾の生物で2人を薙ぎ払った。

 

2人は何とか着水したが、海中から大きな衝撃が響く。

 

衝撃は海面を押し上げ、大きな水柱を形成する。

 

水の衝撃は川内の体を容易に飛ばしてしまう威力であり、川内の体には巨大なハンマーで叩かれたかのような鈍痛が響いていた。

 

(魚雷……!?でも仕組みが違う!)

 

何とか体制を整えた川内を横目に、響が白兵戦を仕掛けた。

 

しかし、何度攻撃しても押し返され、崩れた体制に追い討ちの前蹴りを入れられる。

 

「ぐっ……!?」

 

響は後方に大きく吹き飛ばされ、川内の隣まで距離を離された。

 

「これは……厳しいね」

 

響がレ級を睨みながらそう言うと、レ級の顔面に拳がめり込んだ。

 

2人が目線を動かすと、そこには眼を赤く染めた夕立が拳を突き出していた。

 

「まだ……まだやれるっぽい!」

 

夕立はそのまま拳を振り抜こうとするが、レ級はそれを掴み返し、夕立の腹部に横蹴りを入れる。

 

深く内蔵までめり込んだ蹴りはメキメキと音を立て、夕立は吐血した。

 

夕立は倒れずに攻撃を続けるが、難無くレ級に躱される。

 

「夕立!」

 

すかさず川内が援護に入り、夕立を何とか自らの近くまで引き寄せる。

 

「多分敵の目的は夕立だ、できる限り私たちの後ろに隠れてて」

 

「でっ……でも!」

 

「恐らくだけど……ここでアンタの力を失うのが1番良くない結果になる気がする。お願いだから言うことを聞いて」

 

川内は夕立に強く念を押すと、庇うように前に立った。

 

「大丈夫、摩耶が守り抜いた意思は絶対に絶やさないよ」

 

川内は夕立に向けて微笑むと、鋭い眼光でレ級を威圧する。

 

レ級はそれを見て、川内の方へと突っ込んできた。

 

激しい攻撃を何とか防ぎながら、川内は夕立からレ級を離していく。

 

圧倒的な身体能力と、尻尾の生物とのコンビネーションに体が悲鳴を上げる。

 

(ぐっ……!!このままじゃ押し切られるっ……!)

 

身体中がメキメキと音を立て、腕の骨はもう限界まで到達していた。

 

響も何とか食らいつき、レ級に攻撃を仕掛けるが、尽く流されてしまう。

 

「ジャマナンダヨ!」

 

響が体の制御を失ったほんの一瞬を突き、強烈な膝蹴りが響の脇腹に直撃した。

 

「響っ!!」

 

海面に倒れ込んだ響の艤装は解除され、海の上に力なく漂った。

 

それを見た川内は直ぐに突っ込み、レ級の意識を響から自分に移した。

 

「これでもっ……喰らえ!」

 

川内はレ級の腹に主砲を突き刺し、体の内部から爆発させた。

 

腹に風穴を開けられたレ級は少し離れ、体をの再生を始める。

 

「アァー……クッソ、メンドクセェナァ!」

 

レ級は尻尾の生物を大きく揺らすと、生物の口の中から大量の魚雷が発射された。

 

「オメェラハ殺シテモ問題ネェンダヨ!」

 

海中を進む無数の魚雷を何とか対処しながら、川内は距離を詰める。

 

しかし、後数メートルといったところで、足元の魚雷が爆発した。

 

「くっ……そ!!」

 

川内は爛れた左足を見て少し距離を離すと、主砲を構えて何度も砲撃を放つ。

 

しかし、川内の主砲は尻尾に阻まれ、本体を仕留めるには至らなかった。

 

瞬間、再生を終えたレ級が猛スピードで川内に近づく。

 

白兵戦を仕掛けてくるレ級を見て、川内は違和感を感じとる。

 

(この動き……!まさか……摩耶の……!)

 

レ級の動きの端々から、川内は摩耶の動きを感じとった。

 

力に任せているようで、精密に敵の弱点を割り出し、的確な一撃を入れ込む戦闘スタイル。

 

レ級は摩耶との戦闘でそれを完璧にラーニングし、実践してきたのだ。

 

「こいつ……っ!」

 

川内はレ級の攻撃を逆方向に流すと、自爆覚悟で魚雷を下に落とした。

 

魚雷は直ぐにレ級の体に接触し、大きな爆発を起こす。

 

しかし、レ級はそれにも動じずに川内の懐に入り込むと、尻尾で川内の腕のガードを突き上げた。

 

 

「しまっ……!」

 

 

 

鈍い音が響いた。

 

川内の腹部にレ級の腕が突き刺さり、血の雫が海上へと落ちていく。

 

 

レ級はニヤリと笑うと、そこに追撃の蹴りを入れ、川内に向けて主砲を放った。

 

 

 

 

「川内さん!!」

 

夕立の悲鳴が海上に響く。

 

煙が晴れると、そこには艤装が解除され、海上を力なく漂う川内の姿が見えた。

 

「あっ……あぁ……」

 

 

 

 

「夕立の……せいで……」

 

仲間が次々と倒され、目の前の景色は残酷に赤く染っていく。

 

夕立の脳裏には、今まで見てきた悲劇が映し出されていた。

 

フラッシュバックした景色は夕立の脳を蝕み、視界がゆっくりと赤くなっていく。

 

 

 

 

━━━━━━━ 瞬間、夕立の心臓が大きく鼓動した。

 

全身の血が沸騰するかのような熱が、夕立の意識ごと体を飲み込んでいく。

 

海上が震え、海の底より暗い赫がその場にいた全員の目を覆った。

 

 

海の上に1匹の獣が生まれ落ちる。

 

既に意識は完全に飛んでおり、体は完全に黒いオーラに包まれている。

 

喉が張り裂けんばかりの咆哮と共に、大きな衝撃波が周囲を襲った。

 

「チッ……メンドクセェコト二ナッタ……!」

 

レ級はそれを見て舌打ちすると、直ぐに距離を縮めて拳を突き出した。

 

夕立はそれを容易く抑えると、レ級の手をそのまま握り潰し、肩ごと腕を引っこ抜いた。

 

レ級は怯まずに夕立の首元にもう片方の手を伸ばし、再び赤いオーラを吸収する。

 

しかし途中で吸収が止まり、レ級は目を見開いてすぐにその場から離れる。

 

(吸収ガ……止マッタ……?)

 

 

(シカモコノ感ジ……コイツハアノ時ノ借リ物ノ器ジャネェ……!?)

 

「チッ……テメェマサカ……」

 

 

 

「最初(ハナ)カラ混ジッテヤガルナ……!?」

 

レ級は尻尾の生物を振り回し、周囲に魚雷と艦載機を無差別に放り出す。

 

「ダカラ「生ケ捕リ」ッテコトカヨ……!」

 

夕立は放たれた魚雷に直撃しながらもレ級の方に突っ込み、手に生えた巨大な爪でレ級の腹を切り裂く。

 

「グッ……!?」

 

レ級は直ぐに傷の部分に意識を集中させ、回復を急ぐ。

 

しかし、夕立は再びレ級へと突撃してきた。

 

夕立の爪がレ級の目に届く既のところで、尻尾が夕立を跳ね飛ばす。

 

そのまま追い打ちをかけるように砲撃を放つと、夕立のいた地点から大きな爆発が起こった。

 

再生を終え、レ級は爆発地点に突っ込み、煙の中で唸っている夕立の頭に膝蹴りを入れる。

 

完全に不意をつかれた夕立が体を仰け反らせると、レ級が拳を握りしめる。

 

レ級はそのまま正拳を夕立の喉に向けて放った。

 

大きな衝撃が夕立の体に響き、後方に数メートル程ぶっ飛ばされる。

 

「グ……オオォォ……」

 

夕立は呻き声を上げながらその場でフラフラとよろけている。

 

「チッ……ヨウヤク大人シクナッタナ……オ前ミタイナ知能ノネェヤツハ、戦ッテモ面白クネェンダヨ」

 

レ級は手を鋭い手刀にすると、黒いオーラを手に纏わせる。

 

「終ワリダ」

 

レ級が夕立に手を振り下ろそうとすると、何者かによって手が鎖で縛られる。

 

レ級が鎖の元の方へ目を動かすと、そこには村雨と不知火、春雨の姿があった。

 

「させないっ……!」

 

レ級は3人を視界に映すと、舌打ちをする。

 

「邪魔スンジャネェヨ……砂利ドモガ!」

 

レ級は鎖を引きちぎると、村雨たちの方へと突っ込んで行った。

 

 

 

 

(ここ……は……)

 

夕立は海中を漂っていた。

 

上に光はなく、どこまでも暗い深海を漂っているような、そんな感覚だった。

 

全身に水が入り込んでおり、既に体は海に馴染んでいる。

 

自分が生きているのかも曖昧なまま、夕立は流れに身を任せていた。

 

 

 

 

すると、深い海の中から白い手が現れた。

 

白い手は夕立の体を掴み、引き寄せていく。

 

引き寄せた先には、1匹の深海棲艦が立っていた。

 

「ヤット……ココマデキタワネ」

 

その深海棲艦は嬉しそうにそう言うと、夕立の頬を手で撫でた。

 

「私ノ右腕」

 

声の主は装甲空母鬼だった。

 

主に気づいても夕立の体は抵抗することなく、されるがままに抱き寄せられる。

 

「サァ……私ノ意思二同化シ……黒ク染マリナサイ……」

 

 

 

「ソシテ……海ノ呼ビ声ト共鳴シ、使命ヲ果タスノヨ……綺麗ナ海ヲ……取リ戻ス為二……」

 

 

装甲空母鬼は甘い声で夕立に語りかけると、抱き締める力を強める。

 

夕立は目を閉じ、黒い海の中に意識を捨てる。

 

それを見た装甲空母鬼は笑みを浮かべ、夕立の胸へと手を伸ばした。

 

 

 

 

━━━━━━━ 瞬間、夕立の体が白く輝く。

 

「……ッ!?」

 

装甲空母鬼が手を離すと、夕立の体を何者かの手が掴んだ。

 

「ナッ……!?アナタハ……!?」

 

装甲空母鬼が夕立の体を取り戻そうと手を伸ばしたが、手は夕立の体をすり抜けた。

 

夕立がゆっくり瞼を開けると、人影が海面へと自分を引っ張って上げている。

 

登るにつれて光が海中に差し込み、夕立の意識はそこで完全に覚醒した。

 

 

 

「……っ!!!」

 

目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。

 

状況を読み込めず、夕立が辺りを見渡していると、後ろから声が聞こえる。

 

 

「ふぅ……危なかった!」

 

夕立はその声に聞き覚えがあった。

 

「後もうちょっと下に踏み込んでたら、私でも介入できなかったかも」

 

続けてその声を聞いたが、聞き覚えがある、というレベルでは無い。

 

この声は━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

自分と全く同じ声だ。

 

 

 

 

 

それに気づいた夕立が、驚きと共に後ろを振り向く。

 

そこには真っ白な空間に━━━━━━━━━━━━━━

 

 

もう1人の自分が立っていた。




お待たせしました、Part31です

最近指との距離感が分からなくなってきてるんですよね。

今日どう?って聞いたら気分じゃないとかいう癖に、こっちが気分じゃない時にめちゃくちゃ小説のメモのところ開こうとしてくるんですよ。

これって倦怠期でしょうか?恋愛マスターの方、教えてください

さて、物語はゆっくりと終盤に差し掛かってきてます。

今まで爽快な勝ち方が全くなかった本作ですが、そろそろカタルシスを解放したいなぁと思ってます。

次回もよろしくお願いします〜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。