【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part32 「太陽」

心を埋めるもの32

 

「ふぅ……危なかった!」

 

「後もうちょっと下に踏み込んでたら、私でも介入できなかったかも」

 

夕立はそう話す少女の姿を見て、唖然とする。

 

目の前に写る姿は紛れもなく自分だった。

 

「えっ……と……?」

 

困惑している様子の夕立を見て、少女は笑った。

 

「そうだよね、急に出てきたらビックリしちゃうよね」

 

 

「私は貴方の艤装の中にある「夕立」の意識、まぁ分かりやすく言うと貴方の艤装の前任者だね」

 

 

夕立はその説明を聞いてもなお、困惑した表情をうかべる。

 

「え……?でも夕立の前の人って13年前に……」

 

夕立がそう言うと、目の前の少女の笑顔に濁りが混ざった。

 

「そうだね、私は13年前に戦死したんだよ」

 

「じゃあ何で……?」

 

「ここは貴方の深層心理、本来なら可視化して見ることの出来ない世界」

 

少女はゆっくりと夕立の方に近づいてくると、夕立の胸に手を置いた。

 

「本来の貴方の年齢なら到底到達できないんだけど……艤装の影響か、もしくはまた別の何かか……貴方の精神の年齢を跳ね上げてるみたいだね」

 

「ぽい……?」

 

夕立はようやく状況を飲み込めてくる。

 

ここは現実の世界ではなく、自分の心の中の世界。

 

目の前に立っている少女は確かに自分では無く、13年前に戦死した駆逐艦「夕立」の意識。

 

つまり、礼花の親友だった「夕立」だ。

 

夕立の顔を見て、少女は何かを察したような表情をする。

 

「……多分私のことは礼花から聞いてるよね」

 

夕立がゆっくり頷くと、少女はため息を吐いた。

 

 

 

「約束、ちゃんと覚えてたんだ」

 

 

 

少女は小さな声で呟く。

 

「ぽい?」

 

「んーん、こっちの話……ちょっとこっちに着いてきて」

 

少女はすぐに表情を切り替えて、夕立に着いてくるように促した。

 

しばらく歩くと、周りの景色が黒く澱んでいく。

 

不安な気持ちを押し殺しながら少女の後ろについて行くと、恐ろしい光景が目に入った。

 

「こ……これは……!?」

 

「これがこの艤装の本体だよ」

 

 

 

そこにはドロドロに溶けた黒い「何か」が悲鳴を上げながら、光り輝く結晶の周りを取り巻いていた。

 

 

夕立は喉まで上がった悲鳴を既のところで止め、唾を飲み込んだ。

 

「あの中心にあるのが艦娘の艤装を構築する妖精の力の結晶、それを装甲空母姫の力が取り込もうとしてる」

 

「じゃあ外の世界では夕立は……」

 

「うん、君の想像通りだよ」

 

瞬間、夕立は自らがここに落ちてくるまでの過程を思い出した。

 

血で赤く染まる海上、倒れた仲間たち、戦艦レ級の再来。

 

夕立は全身を襲う吐き気に負け、その場に倒れ込んだ。

 

少女はそんな夕立を介護することはなく、ただ夕立を見つめていた。

 

「……この艤装は君の心の強さが直接影響する、君が折れちゃったら簡単に装甲空母姫は君を取り込んじゃうだろうね」

 

「で……でもこんなのが夕立の中にあるって分かったら……!冷静じゃいられないっぽい!」

 

「うん、そうだろうね」

 

少女はそう言うと結晶に近づき、辺りを漂う黒いオーラを跳ね除け結晶を掴む。

 

行きどころを失った黒いオーラは少女が掴んでいる結晶を取り込もうと、少女にゆっくりと近づいてくる。

 

「確かに君の中にある力は強大で、下手すれば全てを崩壊させてしまう力になる」

 

 

「でも逆を返せば、この力があれば全てをひっくり返せる程の可能性も持てるってことだよ」

 

「……。」

 

夕立は少女から結晶を受け取った。

 

結晶は夕立が握った瞬間、さらに光度を増して光り出した。

 

その光は黒いオーラを近づけさせないように、2人の少女の周りを照らした。

 

「で……でもあなたはこの力に耐えられなくって死んじゃったっぽい!」

 

「確かに私は13年前に戦死した、でもそれはこの力のせいじゃない」

 

少女は自らの胸に手を置いて、話し始める。

 

「礼花はそれを自分のせいって思ってるかもしれないけど、そんなことは無いの」

 

「本来この力は装甲空母姫の力……外付けだった私の艤装だと、オリジナルに会ったら簡単に力が抜かれてしまうの」

 

「……!?」

 

少女から発された言葉は衝撃的なものだった。

 

今回のレ級や装甲空母姫と初めて出会った時も、似たような感覚はあった。

 

体から力を抜き取られるような、そんな感覚だ。

 

「深海棲艦は人間や艦娘の悪感情が深海に溜まり、恨みが形を生して動いているようなもの」

 

「人類みんなの感情が入ってる分力は強大になってるから、向こうも敵に自分たちの力が奪われるのは大きな損失になるんだよね」

 

 

少女は結晶を見つめながら口を開く。

 

「そして、艦娘にとって艤装データを引き抜かれることは……死に直結する」

 

 

その言葉を聞いて、夕立は青ざめた。

 

 

「じゃ……じゃあ夕立も……」

 

 

 

「いや、そんな心配は要らないよ」

 

少女は夕立の方をじっと見つめた。

 

「本来、艦娘の艤装は妖精が作り出した擬似的人体、または本物の人体の中にある魂と工廠管轄の艤装データを結び付けて動くんだ」

 

「でも、今回のあなたは外付けの艤装じゃなく、魂と直接結びついた艤装になっててるから、普通より強く結びついてるの。だから向こうも力を引き抜けなくて焦ってる」

 

夕立はその言葉を聞き、自らの薄い記憶の中からレ級の表情を思い出した。

 

自らは暴走してるため上手く言葉は聞こえないが、確かに焦っている表情だった。

 

「向こうがなんで焦ってるか、それはレ級も装甲空母姫もこの力の危険度が分かってるから。この力が敵に回ったら不利になるって分かってるからなの」

 

少女は目の前の結晶の光を眼に写しながら、夕立を真っ直ぐ見つめた。

 

「でも、君本体が装甲空母姫に食べられちゃったら、丸々データが向こうに戻っちゃうんだ」

 

「じゃあ夕立はどうすればいいっぽい……?これからずっと狙われ続けるってことっぽい?」

 

「うん、そうなるだろうね……だから、君はもっともっと強くなきゃいけないんだ」

 

少女からの無責任にも聞こえるような言葉を聞き、夕立はさらに絶望の表情を浮かべる。

 

「そんなの……夕立には……」

 

 

 

「できる」

 

 

 

少女はそう言い切ると夕立の頬に手を置き、優しく微笑んだ。

 

 

 

少女はなんの疑いもなく、夕立を真っ直ぐ見つめた。

 

その笑顔は全てを焼き焦がすようで、結晶の光よりもさらに輝いて見えた。

 

「私は君にならできるって信じてる」

 

「なんで……そんな……」

 

 

 

「ずっと……君を見てきたから」

 

 

 

少女は夕立の額に自らの額を当てると、夕立の頭に膨大な記憶が流れ込んできた。

 

親からの育児放棄、鎮守府への着任、時雨との出会い、仲間たちとの出会い、離別、恩師の死

 

夕立が紡いできた全ての記憶が、第三者から見たような風景で映し出された。

 

何度も何度も、折れても仲間と共に立ち上がってきた夕立を、優しい表情で見つめる少女の姿が最後に映し出される。

 

 

 

やがて、全ての記憶はやがて1本の柱となり、手の中にある結晶を包み込んだ。

 

少女はそれを見て嬉しそうな表情をすると、額を離した。

 

 

「この力はね、意志の強さが関係してるの」

 

「意志……?」

 

「そう、装甲空母姫の闇に負けないような「意志」が大事なの」

 

少女は夕立から手を離すと、少し歩いてから振り返った。

 

 

 

 

「ねぇ、君は何のために……戦ってるの?」

 

 

 

少女が夕立に質問をする。

 

何度も何度も、色んな人から聞かれてきた質問だった。

 

夕立はその質問を聞き、恩師の言葉を思い出す。

 

『お前らにはまだ明確な意志は無いかもしれねぇ、でも大丈夫だ。きっといつかそれに気づく時が来る』

 

 

『まずは自分の中が守り抜きたい意志を見つけ出せ、そこから時雨を信用するかどうかを確かめるんだな』

 

 

1滴、頬から雫が落ちた。

 

 

「夕立は……」

 

そして……鎮守府の━━━━━━━━━

「仲間」の言葉を思い出す。

 

 

 

『私たちは仲間です』

 

『私たちは第八艦隊の仲間ですから!』

 

『仲間を守るためよ』

 

 

 

『ならあたしたちが、あんたの心を埋める「者」になってやる!』

 

 

また1滴、雫が落ちた。

 

「夕立は……!」

 

夕立は全てを思い出し、落ちる雫の速度が上がっていく。

 

全身から振り絞られた意志は夕立と呼応し、それが声となって形成される。

 

「夕立は……!!」

 

 

 

 

「仲間を……守りたい!!!!!」

 

 

 

 

夕立の叫びが辺りに響き渡った。

 

 

「もう誰も……失いたくないっぽい!」

 

 

無風だった辺りに風が起きたような感覚が走った。

 

「……!」

 

少女はかつての記憶の中にある言葉と、夕立の言葉が重なっていることに気づいた。

 

 

「まだちっぽけかもしれないし、みんなを照らす光には程遠いかもしれないけど……!!でも!夕立が夕立であるために支えてきてくれたみんなと……!!」

 

『まだちっぽけかもしれないし、みんなを照らす光には程遠いかもしれないけど。私が私であるために支えてきてくれたみんなと……私は━━━━━━━━━』

 

 

 

 

「『生きていきたい!』」

 

 

 

 

「……。」

 

夕立はその言葉を聞いて、優しく微笑んだ。

 

「やっぱり私だ、君は!」

 

少女は夕立の頭の上に手を置くと、夕立の体が僅かに輝く。

 

「君に私がロックしてた艤装の管理権限を全部渡したよ」

 

「……!」

 

「本来、礼花なら編集できる部分も干渉できなかったのは私がロックをかけてたから」

 

 

 

「君が闇に負けず、この力を使いこなせるって確信ができるまで止めてたんだ」

 

 

 

少女は夕立の手を取ると、結晶を強く握りしめた。

 

結晶は大きな音を立てて割れ、辺りを強く照らし、全ての黒いオーラを吹き飛ばした。

 

澄み切った白が広がる空間の中、裂け目のようなものが夕立の前に現れる。

 

「さて……私は全権限を渡したから、しばらく艤装の中で眠ることになるかな」

 

「じゃあ……お別れっぽい?」

 

「誰かが私に接続しない限り、もう会うことは無いだろうね」

 

「……。」

 

夕立が寂しそうな表情をする。

 

少女はそれを見て強く瞼を閉じると、大きく見開いた。

 

「大丈夫、君は太陽になれる」

 

少女は夕立の手を強く握りしめて、そう言った。

 

 

「君がさっき私に言った言葉は、これからの君が生きていくための意志になる」

 

「だから君は終着に向かうまで、止まらないで進めばいいよ!」

 

 

 

 

「最後に太陽が照らす道は、きっと……ハッピーエンドに繋がってるから!」

 

 

 

 

 

「さぁ、行っておいで!!!」

 

「ぽいっ!?!?」

 

少女は夕立の手を強く握りしめると、裂け目の方へと投げ飛ばした。

 

体が覚醒した感覚が襲い、視界が揺らぐ。

 

先程までいた空間はもう遥か彼方に消えてしまっていた。

 

 

「君なら絶対できるから!!!全力で戦っておいで!!!」

 

覚醒する手前に、少女の声が響き渡る。

 

段々と遠くなる少女の声に、夕立は答えるようにグッドサインを出した。

 

 

 

 

同刻、静かな海上。

 

圧倒的な力を誇るレ級に、第八艦隊は壊滅状態へと陥っていた。

 

辛うじて立ち上がっている村雨が何とかレ級に食らいつく。

 

しかし、抵抗虚しくあっさりと制圧されてしまった。

 

レ級は村雨の首を軽く踏みつけると、踏む力を強くしていく。

 

「がっ……はっ……っ!?」

 

「テメェ等ノセイデ目標ヲミウシナッタジャネェカ……オイ」

 

レ級が怒りの籠った声でそう言うと、村雨はニヤリと笑った。

 

「仲間……だもの…………貴方には渡さ……ない……わ!」

 

「……ッ!」

 

レ級の怒りは頂点に達し、首から足を離して村雨を蹴り飛ばした。

 

レ級は村雨の頭の上に足を振り上げる。

 

村雨はその光景を見て、諦めるかのように目を閉じた。

 

 

 

瞬間━━━━━━━━海の底から巨大な光の柱が立った。

 

 

 

「……ッ!?」

 

レ級は攻撃を止め、光の柱が立った方向へと目線を向ける。

 

 

そこには1人の艦娘が立っていた。

 

風になびく髪の毛の先端は赤く、首には長いマフラーを巻いている。

 

「アイツ……ハ……!?」

 

開眼した瞳は真紅に染まり、レ級を眼力だけで怯ませた。

 

 

霞む視界の中、村雨はその艦娘を見て歓喜の声を上げる。

 

「夕……立……!」

 

夕立は村雨の方を見て微笑むと、再びレ級へ目線を動かした。

 

獣のような鋭い眼光はレ級の全身を突き刺し、レ級の呼吸が早くなる。

 

レ級は艦載機を空に放ち、今までにない臨戦態勢で夕立を迎え撃った。

 

「テメェ……ソノ姿ハ……!?」

 

夕立はレ級の質問には答えず、海面を蹴り上げて猛スピードで突っ込んでくる。

 

「チィッ……!」

 

レ級が手を動かすと、尻尾の生物が咆哮を上げ、それと共に艦載機が攻撃を行いながら夕立の元に突撃する。

 

夕立はそれを道草を刈り取るように容易く破壊しながら突き進むと、レ級の眼前まで迫った。

 

 

 

瞬間、レ級の視界が真っ黒に染まる。

 

 

鈍い音と共にレ級の足は海面から突き放され、風と共に後方へと飛ばされた。

 

顔から全体へと蝕むような痛みがレ級を襲う。

 

(ア……アリエナイ!今ノ私ハ装甲ヲ纏ッテタンダゾ……!?)

 

砕けた自らの装甲を見ながら、レ級は夕立の拳の威力に戦慄する。

 

瞬間、レ級の頬に冷たい感覚が走る。

 

 

突きつけられていたのは主砲。

 

 

近づかれていた━━━━━そして、それに気づくことも無く、感情に支配されていた事実にレ級の思考は停止する。

 

「グッ……!」

 

レ級は己を取り戻し、体術を駆使して立ち向かうが、圧倒的なパワーの差によって容易に防御が剥がされる。

 

一撃、一撃と体に衝撃が走った。

 

最後の一撃を夕立が繰り出そうとした瞬間、レ級はすぐに距離を離した。

 

レ級はそのまま尻尾を海上に出し、夕立に狙いを定める。

 

夕立はそれを目視すると、自らの手に纏っている赤いオーラを集約させ、右手に爪のようなものを作り出した。

 

瞬間、夕立の爪が振り下ろされる。

 

砲撃のために開かれた口は無惨にも切り刻まれ、尻尾の生物は目の光を無くした。

 

「これでも……食らうっぽい!」

 

夕立は自らの主砲を構え、レ級目掛けて砲撃する。

 

レ級は辛うじて装甲を構えたが、着弾地点から徐々に形が崩壊していき、装甲に完全な穴が空く。

 

その穴に夕立の拳を通す事は容易だった。

 

レ級はそれを認識し、直ぐに夕立の方を向いた。

 

向かってくる夕立の攻撃を既の所で交わし、脇腹に全力のカウンターを放った。

 

「ぐっ……!?」

 

徐々にめり込んでいくレ級の拳に、夕立は一瞬怯む。

 

(……ッ!今ダ!)

 

レ級が手応えを感じ、怯む夕立に追撃を繰り出そうとした瞬間━━━━━━━━━━

 

 

 

 

夕立の双眼がレ級を真ん中に捉えた。

 

 

 

 

気づいた瞬間、レ級の体は既に宙を舞っていた。

 

顔面に押し付けられた拳は頭蓋骨を破壊しながら突き進み、レ級の頭の感覚が無くなった頃には、レ級は海面に突っ伏していた。

 

「ガッ……アッ……」

 

もう体は半分以上沈んでおり、沈むのも時間の問題だろう。

 

夕立はトドメと言わんばかりに主砲を放つと、大きな爆発が起こった。

 

 

「……ふぅ、終わったっぽい」

 

 

爆発を確認した夕立は仲間の方に視線を動かす。

 

春雨と不知火が村雨の近くで座り込んでいるのを確認した夕立は、すぐに近寄って状況を確認する。

 

「大丈夫っぽい!?」

 

「私と春雨さんは辛うじて動けるまで回復しましたが……最後まで戦っていた村雨さんが……!」

 

不知火がそう言いながら村雨に視線を動かすと、村雨は腹部から血を流しながら気を失っていた。

 

「これ以上の出血は命に関わります!もう簡易修復材の予備も……」

 

不知火がそこまで言うと、夕立は村雨の腹部に触れた。

 

夕立が触れた途端に村雨の腹部の出血は止まり、ゆっくりと体が再生していく。

 

「ど……どうして……!?これって……!?」

 

春雨が驚愕しながら夕立を見る。

 

「戦闘中の再生能力……貴方の艤装の特性ですよね」

 

不知火の言葉に夕立は頷き、3人の前に立った。

 

「川内さんと響さんは?」

 

「川内さんは先程意識を取り戻して、響さんを庇いながら敵の増援と戦闘しているはずです!」

 

「分かったっぽい!とりあえず2人とも着いてきて!」

 

夕立はそれを聞くと、村雨を抱えながら2人を誘導する。

 

しばらく進むと、響を庇いながら戦闘する川内の姿が見えた。

 

辺りを漂う大量の深海棲艦を捌きながら、何とか活路を見出そうとしている。

 

「このままじゃマズイね……響」

 

「もう一度私が改二兵装になるよ、そうしたら4分の1程度なら私が引き寄せられる」

 

「どれだけ艤装が維持できるか分からない状態でそれを行うのは危険だよ、これだけの数いるなら指揮する者がいるはず、まずは向こうの指揮系統を……」

 

川内が視線を動かすと、敵の軽巡級数匹が纏めて砲撃を行おうとしている光景が目に入る。

 

「……っと、それも厳しそうだね」

 

川内と響は防御姿勢を取ると、被弾のダメージをなるべく抑えられるように体を低くする。

 

「……っ!来る!」

 

 

2人が目を瞑ろうとすると、揺らいだ視界の端に赤い軌道が映った。

 

軌道は弧を描きながら敵艦隊の前に走っていくと、敵軽巡が大きな爆発と共に海に沈んでいった。

 

 

川内は攻撃の主を直ぐに判別し、近くに寄っていく。

 

「危なかった……助かったよ、夕立」

 

夕立は爆発を背に振り向くと、川内に向けて笑う。

 

「ギリギリ間に合ったっぽい!!」

 

 

 

それを聞いた川内は夕立の表情と姿を見て、嬉しそうに息を吐いた。

 

 

 

 

「迷い、無くなったみたいだね」

 

「っぽい!」

 

 

 

川内はその言葉を聞いて満面の笑みを浮かべると、敵の方へと視線を動かす。

 

夕立はそんな川内の背中に手をかざすと、川内の体もゆっくりと再生を始めた。

 

 

「……まさかこんな事も出来るようになるなんて、いい部下に育ったものだよ」

 

「止められるのは出血だけだから、あんまり激しく動いちゃダメっぽい」

 

「はいはい、じゃあ一緒に行こうか!」

 

 

川内の言葉に呼応し、夕立は川内と共に敵艦隊へと突っ込んでいく。

 

「敵の魚雷が変わってる!直撃しなくても爆発を起こして、下からの衝撃波でダメージを与えるものがあるから上に避けるのはダメだよ!」

 

「分かったっぽい!」

 

夕立は返事と共に敵艦隊に接近すると、大きく振りかぶった足で戦闘の軽巡を蹴り飛ばした。

 

蹴られた軽巡は辺りの敵を巻き込みながら後方へと吹き飛んでいき、最後は大きな爆発と共に海の底へと沈んでいった。

 

川内はその光景を見て微笑む。

 

(全く……本当に似たような戦い方になったね……摩耶)

 

川内が旧友と夕立の姿を重ねていると、それを察した響に背中を叩かれた。

 

「……ふふっ、ごめんごめん」

 

川内はすぐに表情を切り替え、辺りの敵の殲滅へと動いた。

 

夕立は戦場を縦横無尽に駆け巡り、圧倒的な腕力で敵を薙ぎ倒していく。

 

「っぽい!!」

 

夕立は掛け声と共に主砲にオーラを集約させると、巨大な砲撃音と共に赤黒い砲弾が敵を襲う。

 

着弾の瞬間、凄まじい爆発が敵を襲う。

 

(夕立……!強くなってるっぽい!)

 

夕立は自らの力に高揚感を覚えると、更にスピードを増して敵を殲滅していく。

 

「まだまだ行くっぽい!二人とも!」

 

「「うん!」」

 

夕立の声に2人が答えると、最後の艦隊へと足並みを揃えて突撃していく。

 

3人は瞬く間に敵を撃沈させ、最後の1匹に夕立がとどめの一撃を入れた後、戦場にようやく静寂が訪れた。

 

最後の1匹が海に沈んでいく様子を見ている夕立の背中を見て、川内は息を吐く。

 

「まさか、夕立がここまで強くなるなんてね……」

 

川内が感心した様子でそう言うと、夕立は振り向いて飛び切りの笑顔を見せた。

 

「川内達のおかげっぽい、みんなが居なかったら……多分夕立は今もここに居れてないと思うっぽい」

 

「そっか」

 

川内が嬉しさを滲ませた声でそう言った瞬間、辺りの波が不気味に唸る。

 

 

 

夕立はすぐさま戦闘態勢に入り、辺りを見渡す。

 

すると、海の上に先程吹き飛ばした筈のレ級が立っていた。

 

「私ハ……装甲空母姫ニ選バレタンダヨ……」

 

 

「姫ニ……使命ヲ託サレタンダ……」

 

 

 

 

「テメェ等如キニ!!負ケルワケネェダロ!!!」

 

既に装甲は完全に剥がれ、身体は爛れているが、自らの状況に反発するように、レ級は掠れた声で精一杯の叫び声を上げる。

 

「ツイサッキマデ「姫」ノ意識ニ飲ミ込マレテタクソ雑魚如キニ!!!」

 

夕立はその声を聞きながら、砲撃を避けて進んでいく。

 

(……確かに、さっきまでの夕立は弱かったっぽい)

 

勢いを変えずに罵声を浴びせ続けるレ級に対し、夕立は冷静に進んでいく。

 

(でも、夕立は気づいた)

 

(夕立を守ってくれる存在、今まで守ってくれていた存在、着いてきてくれてる存在に)

 

自らが放った砲撃が1発も当たらず、レ級の勢いは収まっていく。

 

辺りに響いていた罵声は止み、レ級の目の前まで夕立は到達した。

 

夕立は拳を握りしめ、全身のオーラを1点に集中する。

 

 

 

 

「その全てを守るために、夕立は強くなり続ける」

 

 

 

 

「……ッ!ヤメッ……!」

 

か細いレ級の声が途切れ、鈍い衝撃音と共に辺りに衝撃波が飛んだ。

 

粉々に砕け散った装甲と共にレ級は宙を舞い、海面に何度も体を叩きつけられる。

 

そして、最後の衝撃によって艤装内の弾薬に衝撃が加わり、大爆発を起こした。

 

海水の雨が降り、それを一身に浴びながら夕立は元の姿に戻っていく。

 

滴る水を跳ね除け、夕立は振り返る。

 

 

 

「敵艦隊壊滅、任務終了っぽい!」

 

 

その声を聞いた春雨は、嬉しそうな声で夕立に抱きついた。

 

突如近海で発生した「戦艦レ級」を含めた艦隊との大規模な戦闘は、夕立達第八艦隊の完全勝利となり、幕を閉じた。

 

 

 

 

 

鎮守府に帰投後、川内は報告をするために提督室に顔を出していた。

 

部屋の中では大淀と提督が物凄い剣幕で仕事を進めている。

 

仕事がある程度一段落着いたのを確認し、川内は出撃内容を報告する。

 

「鎮守府近海哨戒中にレ級含めた敵艦隊と遭遇、戦闘途中に村雨が大破、私と不知火、響と春雨が中破、夕立はほぼ無傷で敵艦隊を制圧したよ」

 

「……本当によくやってくれた、レ級を倒した功績はこれからの戦いで大きく影響を及ぼすだろう」

 

川内の報告を聞き、提督は安心した顔でそう答えた。

 

隣で聞いていた大淀は同じく安堵していたが、すぐに表情を切り替えて唸り声を上げる。

 

「鎮守府近海でレ級が現れるとは……敵は思ったより戦線を上げてきているみたいですね」

 

「ふむ……敵艦隊に戦艦級が居ないところを見るに、まだ向こうは戦力を温存しているだろう」

 

「レ級が前に出てきたのも本来は威圧のためだったんだろうけど、こっちの戦力がこんな上がってるなんて思わなかったんだろうね」

 

提督は川内の言葉を聞いて、深く考え込む。

 

「戦力の向上……恐らくその要因となったのは夕立だろう?」

 

「そうだね、急に姿が変わったと思ったら急激に強くなったんだ」

 

「艦娘の改二兵装によく似た事象だな……」

 

提督はそこまで言うと、礼花の言葉を思い出す。

 

『今の夕立ちゃんは己の意思がない。昔の夕立みたいに、深海棲艦の憎悪の感情と戦えないんだ』

 

その言葉と共に、今までの夕立の顔と帰投直後の夕立の表情を比較する。

 

帰投してきた夕立の顔はどこか吹っ切れたような表情で、明るい雰囲気が目で見てわかる程に変化していた。

 

提督はそれを思い出し、嬉しさが滲んだ顔で息を吐いた。

 

(見つけたんだな……自分を)

 

提督の嬉しそうな顔を見て、大淀と川内は顔を合わせて微笑む。

 

提督はハッと顔を上げると、自分を振り払うように顔を振り、いつものように凛々しい顔つきに戻る。

 

「報告ご苦労、続いてもう一つ伝えておかなければならないことがある」

 

執務室に再び張り詰めた空気が漂う。

 

「本部より、装甲空母姫掃討作戦の概要が出された」

 

「……遂に来たんだね」

 

川内は覚悟を決めたような表情で提督を見ると、姿勢を正す。

 

「我が鎮守府はここ1年で敵戦力を削ってきた……あとは敵の大将の首を獲るだけだ」

 

「編成はどのメンバーで行くの?」

 

川内が質問をすると、提督は大淀に目配せをする。

 

大淀はそれを見ると、川内に1枚の紙を渡した。

 

その紙には編成情報が記載されており、第一艦隊、第二艦隊のメンバーの名前が乗っていた。

 

しばらくしてから、川内はとある文字を見つける。

 

「第三艦隊……?」

 

今は解体されているはずの第三艦隊の文字だった。

 

旗艦の摩耶が戦死し、浜風、響、飛鷹が別艦隊へ一時異動、白露が療養期間に入ったことにより機能が停止しているため、一時的に解散となった艦隊だった。

 

「第三艦隊……川内、鳥海、響、飛鷹、浜風……白露」

 

名簿の中にある「白露」の文字を見て、川内は息を吐く。

 

「白露を出して大丈夫なの?」

 

「俺は上に白露は出せないと説得していたが……本人が後に志願をしてきたんだ」

 

提督はそう言うとため息を吐き、白露との会話を思い出す。

━━━━━━━━━━━━━━━

 

『ダメだ、お前はこの作戦のメンバーには入れることは出来ない』

 

『お願い、出させて』

 

『お前が出撃したら……っ!』

 

提督は次の言葉が喉まで出かけるが、既のところで静止する。

 

『ダメだ、許可をすることは出来ない』

 

『ここ最近、敵の動きが活発になってきてる……ここで叩けないと、敵戦力に対抗するために私の妹も戦場に出ることになるでしょ』

 

『だが……』

 

まだ渋る提督を前に、白露は自らの艤装を展開した。

 

『……っ!?』

 

本来であれば鎮守府内での艤装展開は禁止されており、出来ないように制限されているはずだった。

 

驚く提督を横目に、白露は自らの拳を握りしめる。

 

『……実はね、あたしはもうこの鎮守府管轄の艤装じゃなくなってる』

 

『!?』

 

『理由は分からないけど、明石さんでも直せないんだって』

 

提督は焦った表情で白露を見つめると、白露はそれに合わせて提督を真っ直ぐ見つめた。

 

『この作戦から外れたら、私は一人で出撃するよ。提督に反対されようが、私は戦場に出る』

 

『……っそんなこと!』

 

『できる、もう鎮守府管轄じゃないってことは私は自由に艤装を使えるの』

 

白露は威圧にも近い形で提督を見つめ続けた。

 

『どうしてそこまで……』

 

提督が白露に問いかけると、白露は依然変わらない表情で口を開いた。

 

 

 

『私一人の命で大切なものを守れるならそれでいい、妹の存在が私の生きる意味なの』

 

 

 

『私はただ……妹が笑って過ごせるための世界を作りたいだけ』

 

白露はそう言うと、今にも消えてしまいそうな笑顔を浮かべた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

提督は白露の顔を思い出すと、横から川内に肩を叩かれる。

 

「大丈夫?急に黙っちゃって」

 

「ん……?あぁ、すまない」

 

「白露は大丈夫なの?」

 

「……この作戦に配置しない方が安全じゃないことが発覚した、だから急遽第三艦隊として配置することになったんだ」

 

川内は微妙に納得のいっていないような表情をしながら再び提督の前に戻る。

 

「じゃあとりあえず、第三艦隊は私が引っ張っていけばいいって事ね?」

 

「あぁ、お前なら摩耶の意志を引き継いで戦うことが出来る。そう判断した」

 

川内は提督の言葉を聞いて笑顔を浮かべると、了解の意志を伝えるためのグッドサインを出した。

 

川内はそのまま執務室から退室しようとしたが、ふと1つの疑問が思い浮かび、足を止めた。

 

「そう言えば、夕立が来てからだいぶ敵が活性化しだしたけど……装甲空母姫の目的ってなんなんだろうね」

 

川内の疑問を聞くと、提督は立ち上がって複数のファイルを棚から取りだした。

 

「……これは推測だが、夕立の中にある自分の力を取り戻そうとしているのでは無いのかと考えている」

 

提督は今までのデータと、礼花から受け取ったデータを自らの前に並べて考え出す。

 

「深海棲艦の中にあるのは憎悪のみだ、多くの深海棲艦が知性を失い、ただ目の前の敵を倒すだけの化け物になっている」

 

「しかし、姫級は非常に頭が良い……何か別の目的の為に、自分の力を1部でも持っている夕立は邪魔な存在になるだろう」

 

提督は唸り声を上げた。

 

「本願はまだ分からないが、確実に夕立に対して狙いを絞っているのは確かだ……レ級を倒した戦績から、本来なら夕立もメンバーに入れたいが……」

 

「それが目に見えてる以上、夕立は入れられないね」

 

「あぁ、この戦いは海を守るための戦いではあるが、それと同時に夕立を守る戦いでもあるだろう」

 

提督はファイルを置くと、部屋を去ろうとしている川内に近づき、手を伸ばした。

 

「この鎮守府の明暗はお前たちにかかってる、他艦隊と協力して何とか勝利を収めてくれ」

 

「もちろん、期待に応えるよ」

 

川内は提督の腕を掴むと、爽やかな笑顔を提督に向けた。

 

 

 

 

 

同刻、夕立は戦場から帰還すると、自分に起きた様々なことを整理するために夕日が沈む砂浜を歩いていた。

 

とっくに門限は過ぎている。

 

それでも夕立は歩いた。

 

自分の心が焦げ付くほどの温かさが夕立を常に包んでくれるような感覚がずっと離れない。

 

『私は君にならできるって信じてる』

 

『いつかお前もそれを理解して、誰かの意志を受け継ぐ時が来ると思うぜ』

 

夕立は二人の言葉を思い出し、強く拳を握りしめる。

 

(生き方は教えてもらった、後は……前に立ってくれた皆に応えるために、強くなるだけっぽい)

 

夕立は自らの意志を見つけ出し、これから進むべき道を1本に結んだ。

 

全ての決心がつき、清々しい気持ちで砂浜を歩き続けていると、人影が見えた。

 

(……?誰かいるっぽい……)

 

気になった夕立は人影へと進む足を早めた。

 

徐々に影が鮮明になっていき、見覚えのある横顔が見える。

 

黒く染った髪は海風に揺れ、等間隔で押し寄せる波に合わせて視線を動かしている。

 

 

 

「時……雨……」

 

 

 

時雨がそこに立っていた。

 




お待たせしました、Part32です

やっっっっとの快勝!!!正直このためにここまで書いてきた感もありますね

今まで溜まりに溜まったカタルシスを完全に解放できたのではないでしょうか。

さて、夕立は覚醒の一途を辿りましたが、時雨はどうなるのでしょうか。

未だ明かされない時雨の現状、もう1人の人格との運命、白露とのすれ違い

歯車は既に狂っている、あとは運命のままに流されるだけ。

そろそろ終盤に差し掛かってきた本作ですが、これからもよろしくお願いします。
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